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【発明の名称】 吸入麻酔装置、吸気ガスの流量変更方法及び吸気ガスの麻酔薬濃度変更方法
【発明者】 【氏名】井上 政昭

【要約】 【課題】麻酔薬を含有した麻酔ガスや空気などの吸気ガスを必要に応じて大量に送気して、麻酔の導入や麻酔からの覚醒をすばやく行うことができるとともに、吸気ガスの流量や麻酔薬濃度の変更をスムーズに行うことができる吸入麻酔装置を提供する。

【解決手段】気管接続部2に、吸気経路3と呼気経路4とが設けられ、吸気経路3には、ガスを供給するポンプ5と、ガス流量を調整するマスフローコントローラ6と、ガスに麻酔薬を供給する麻酔薬供給手段7とが設けられ、呼気経路4には、気管接続部2での吸気動作と呼気動作とを切り替える呼気弁10が設けられ、吸気経路3には、マスフローコントローラ6を通過せずに前記ガスを供給できるバイパス回路13が設けられるとともに、麻酔薬供給手段7の下流側に切替弁9を介して分岐路16が形成され、分岐路16に、大量のガスを供給できる大量ガス供給手段17が備えられていることを特徴とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気管に接続される気管接続部を有し、該気管接続部に吸気ガスを供給する吸気経路と、前記気管接続部から排出される呼気ガスが流通される呼気経路とが設けられ、
前記吸気経路には、ガスを供給するポンプと、前記ガスの流量を調整するマスフローコントローラと、前記ガスに麻酔薬を供給する麻酔薬供給手段とが設けられ、前記呼気経路には、気管接続部での吸気動作と呼気動作とを切り替える呼気弁が設けられた人工呼吸機能を備えており、
前記吸気経路には、前記マスフローコントローラを通過せずに前記ガスを供給できるバイパス回路が設けられるとともに、前記麻酔薬供給手段の下流側に切替弁を介して分岐路が形成され、該分岐路に、大量のガスを供給できる大量ガス供給手段が備えられていることを特徴とする吸入麻酔装置。
【請求項2】
前記麻酔薬供給手段は、揮発性麻酔液を気化させる気化室と、該気化室に接続された送薬管と、前記揮発性麻酔液を供給する注入ポンプとで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の吸入麻酔装置。
【請求項3】
前記注入ポンプが、シリンジポンプであることを特徴とする請求項2に記載の吸入麻酔装置。
【請求項4】
前記気化室に接続された前記送薬管に、液体の有無を確認する液体検出手段が配置されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の吸入麻酔装置。
【請求項5】
前記呼気弁から排出される前記呼気ガスを前記分岐路へ導入する導入経路が形成され、該導入経路と前記分岐路との接続部分の下流側に、ガス中の麻酔薬濃度を測定するガス濃度センサが配置されたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の吸入麻酔装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の吸入麻酔装置を用いて、前記吸気ガスの設定流量を減少させる吸気ガスの流量変更方法であって、
変更前流量と変更後流量との流量差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択し、
前記バイパス回路を用いて設定濃度よりも低い麻酔薬濃度のガスを、前記バイパス使用時間流通した後に、変更後流量に合わせた麻酔薬供給量に変更することを特徴とする吸気ガスの流量変更方法。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の吸入麻酔装置を用いて、前記吸気ガスの設定流量を増加させる吸気ガスの流量変更方法であって、
変更前流量と変更後流量との流量差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択し、
前記バイパス回路を用いて設定濃度よりも高い麻酔薬濃度のガスを、前記バイパス使用時間流通した後に、変更後流量に合わせた麻酔薬供給量に変更することを特徴とする吸気ガスの流量変更方法。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の吸入麻酔装置を用いて、前記吸気ガス中の麻酔薬濃度を低下させる吸気ガスの麻酔薬濃度変更方法であって、
変更前濃度と変更後濃度との濃度差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択し、
前記バイパス回路を用いて前記変更後濃度よりも低い麻酔薬濃度のガスを、前記バイパス使用時間流通した後に、変更後濃度に合わせた麻酔薬供給量に変更することを特徴とする吸気ガスの麻酔薬濃度変更方法
【請求項9】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の吸入麻酔装置を用いて、前記吸気ガス中の麻酔薬濃度を上昇させる吸気ガスの麻酔薬濃度変更方法であって、
変更前濃度と変更後濃度との濃度差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択し、
前記バイパス回路を用いて前記変更後濃度よりも高い麻酔薬濃度のガスを、前記バイパス使用時間流通した後に、変更後濃度に合わせた麻酔薬供給量に変更することを特徴とする吸気ガスの麻酔薬濃度変更方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、人または動物に麻酔薬を含む吸気ガスを吸入させて麻酔を施行するための吸入麻酔装置と、この吸入麻酔装置を使用した場合の吸気ガスの流量変更方法及び吸気ガスの麻酔薬濃度変更方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、主に人間に対して麻酔を施行する際に使用される吸入麻酔装置として、酸素ガスや笑気ガス及び空気などのキャリアガスに揮発性麻酔薬を混合して麻酔ガスを供給する麻酔器本体と、該麻酔器本体から供給される麻酔ガスを、患者の呼気から炭酸ガスを吸収除去した後の循環気に混入し吸気ガスとして患者に送る麻酔循環回路とを備えたものが知られている。
【0003】
一方、マウス等の小動物に対して麻酔を施行する場合には、人間に比べて呼吸時に吸入するガス量が小さく、かつ、呼吸回数が多いため、上記の人間用の吸入麻酔装置をそのまま適用することは困難であった。そのため、従来は、密閉されたボックス内にマウス等を収容しておき、このボックス内に麻酔ガスを供給して麻酔を導入した後、マウス等をボックスの外に出して手術等の処置を行い、麻酔が覚めてきた場合には、麻酔薬をガーゼに浸して鼻の近くにあてがうか、あるいは、マスクにより麻酔ガスを鼻の近くに供給して麻酔を維持していた。また、人工呼吸が必要な場合には、マウス等の吸入ガス量に合わせた人工呼吸器に接続することが行われていた。
【0004】
マウス等の小動物用の人工呼吸器としては、一定容量の吸気ガスを送気する容量規定式のものや気管内圧力を測定して、この圧力が予め設定された圧力に維持されるようにした圧力規制式のものがあるが、これら従来の人工呼吸器は、吸入麻酔を施行しながら使用できるものではなかった。
そこで、特許文献1では、吸入麻酔を施行しながら人工呼吸を行うことができるものとして、小動物の気管に接続される気管接続部と、この気管接続部に吸気ガスを供給する吸気経路と、気管接続部から排出される呼気ガスが通過する呼気経路とを備えた小動物用人工呼吸器に、揮発性麻酔液の気化ユニットを設けたものが提案されている。
【特許文献1】特開2005−230509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載された人工呼吸装置では、吸気経路に、気管接続部に接続された動物等の呼吸に合わせてガス流量を精度良く調整するためのマスフローコントローラが配置されており、低流量における精度を確保するためには、吸気経路に大量の麻酔ガスを流通させることができず、麻酔を導入するまでに多くの時間を有していた。
また、麻酔を施行した状態から覚醒させる際に、麻酔薬の供給を中止しても吸気ガス中の麻酔薬濃度はすぐには低下せず、覚醒までに時間が掛かってしまうといった問題があった。
【0006】
また、吸気ガスの流量を変更する場合には、麻酔薬の供給量を合わせて変更する必要があるが、通常、流量調整に比べて麻酔薬の供給量の調整には時間が掛かるため、麻酔量の供給量を調整しても直ちに吸気ガス中の麻酔薬濃度を変更することができない。このため、吸気ガスの流量を減少させた場合には、一時的に吸気ガス中の麻酔薬濃度が過度に高くなってしまい、逆に、吸気ガスの流量を増加させた場合には、一時的に吸気ガス中の麻酔薬濃度が過度に低くなってしまうといった問題があった。
【0007】
また、吸気ガス中の麻酔薬濃度を変更する場合には、麻酔薬の供給量を調整しても、吸気経路等の内部に変更前の麻酔薬濃度である吸気ガスが貯留されているため、直ちに麻酔薬濃度は変化せず、変更後の麻酔薬濃度になるまでに相当の時間を要してしまうといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、麻酔薬を含有した麻酔ガスや空気などの吸気ガスを必要に応じて大量に送気して、麻酔の導入や麻酔からの覚醒をすばやく行うことができるとともに、吸気ガスの流量や麻酔薬濃度の変更をスムーズに行うことができる吸入麻酔装置と、この吸入麻酔装置を用いた吸気ガスの流量変更方法及び吸気ガスの麻酔薬濃度変更方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明に係る吸入麻酔装置は、気管に接続される気管接続部を有し、該気管接続部に吸気ガスを供給する吸気経路と、前記気管接続部から排出される呼気ガスが流通される呼気経路とが設けられ、前記吸気経路には、ガスを供給するポンプと、前記ガスの流量を調整するマスフローコントローラと、前記ガスに麻酔薬を供給する麻酔薬供給手段とが設けられ、前記呼気経路には、気管接続部での吸気動作と呼気動作とを切り替える呼気弁が設けられた人工呼吸機能を備えており、前記吸気経路には、前記マスフローコントローラを通過せずに前記ガスを供給できるバイパス回路が設けられるとともに、前記麻酔薬供給手段の下流側に切替弁を介して分岐路が形成され、該分岐路に、大量のガスを供給できる大量ガス供給手段が備えられていることを特徴としている。
【0010】
この構成の吸入麻酔装置では、マスフローコントローラを通過せずにガスを供給できるバイパス回路が設けられているので、マスフローコントローラの最大流量を越えた大流量のガスを送気することができる。また、大流量のガスがマスフローコントローラを通過しないので、マスフローコントローラを、気管接続部に接続された動物が呼吸する際に吸入するガス量に合わせた範囲で使用することができ、吸気ガス流量を精度良く調整することができる。
【0011】
また、麻酔薬供給手段の下流側に切替弁を介して分岐路が形成され、該分岐路に、大量のガスを供給できる大量ガス供給手段が備えられているので、バイパス回路を経由したガスをこの大量ガス供給手段から動物等に供給することができる。例えば、この大量ガス供給手段として麻酔室を設けた場合には、この麻酔室内にマウス等の小動物を収容して麻酔ガスを大量に供給することですばやく麻酔を導入させることができる。
一方、気管接続部に配置された動物等を麻酔から覚醒させる際には、前記バイパス回路を使用して大量の空気等を吸気経路内に流通させることで、吸気経路等の内部に残存している麻酔薬が混入したガスを空気等にすばやく置換して、空気等を麻酔室に送気することができるので、再び麻酔室に収容した動物等を麻酔から短時間で覚醒させることができる。
【0012】
また、麻酔薬供給手段を、揮発性麻酔液を気化させる気化室と、該気化室に接続された送薬管と、前記揮発性麻酔液を供給する注入ポンプとで構成したものとすることにより、気化室への麻酔液の注入量を注入ポンプで調整することで、吸気ガス中の麻酔薬濃度を調整可能である。
【0013】
ここで、前記注入ポンプとして、シリンジポンプを採用することが好ましい。揮発性麻酔液には腐食性を有するものがあり、麻酔液と直接接触する部分の耐久性が問題となるが、シリンジポンプであれば、麻酔液が貯留されたシリンジ部分を使い捨てすることができるので、長時間の耐久性を考慮する必要がない。また、品質管理されているシリンジポンプを使用できるため、精度良く麻酔液を注入することができる。
【0014】
また、前記気化室に接続された前記送薬管に、液体の有無を確認する液体検出手段を配置することにより、この麻酔薬供給手段を稼動させる前に、液体検出手段によって麻酔液が検知されるまで麻薬液を気化室側に短時間で送液して、送薬管内を麻酔液で充填しておくことが可能となる。したがって、麻酔薬供給手段を稼動させた際に、すぐに麻酔液が気化室内に供給され、吸気ガス中にすばやく麻酔薬を供給することができる。
【0015】
また、前記呼気弁から排出される前記呼気ガスを前記分岐路へと導入するための導入経路を形成し、該導入経路と前記分岐路との接続部分の下流側に、ガス中の麻酔薬濃度を測定するガス濃度センサを配置することにより、分岐路を介して大量ガス供給手段から大量のガスを供給する場合には、このガス濃度センサによってガス中の麻酔薬濃度を測定することができるとともに、気管接続部を介して人工呼吸を行いながら麻酔を施行する際には、気管接続部からの呼気ガス中の麻酔薬濃度をこのガス濃度センサによって測定することができる。
【0016】
このように呼気ガスの麻酔薬濃度を測定することにより、気管接続部に接続された動物等の状態を確認することができ、麻酔状態を確認するために必要な情報を得ることができる。さらに、上記ガス濃度センサとして赤外線吸収型のものを使用した場合には、炭酸ガス濃度の測定を行うことができるので、呼気ガス中の炭酸ガス濃度をモニタリングして人工呼吸器による換気状態を確認することができる。
【0017】
上述した構成の吸入麻酔装置を用いて吸気ガスの設定流量を減少させる場合には、変更前流量と変更後流量との流量差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択し、前記バイパス回路を用いて設定濃度よりも低い麻酔薬濃度のガスを、前記バイパス使用時間流通した後に、変更後流量に合わせた麻酔薬供給量に変更することが好ましい。このようにして設定流量を減少させることにより、ガス流量を減少した際に麻酔薬濃度が一時的に設定濃度よりも過度に高くなってしまうことを防止できる。
【0018】
一方、上記の吸入麻酔装置を用いて吸気ガスの設定流量を増加させる場合には、変更前流量と変更後流量との流量差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択し、前記バイパス回路を用いて設定濃度よりも高い麻酔薬濃度のガスを、前記バイパス使用時間流通した後に、変更後流量に合わせた麻酔薬供給量に変更することが好ましい。このようにして設定流量を増加させることにより、ガス流量を増加した際に麻酔薬濃度が一時的に設定濃度よりも過度に低くなってしまうことを防止できる
【0019】
また、上記の吸入麻酔装置を用いて吸気ガス中の麻酔薬濃度を低下させる場合には、変更前濃度と変更後濃度との濃度差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択し、前記バイパス回路を用いて前記変更後濃度よりも低い麻酔薬濃度のガスを、前記バイパス使用時間流通した後に、変更後濃度に合わせた麻酔薬供給量に変更することが好ましい。このようにして麻酔薬濃度を変更することにより、吸気経路等の内部に貯留されたガスを置換した上でガス中の麻酔薬濃度を調整できるので、麻酔薬濃度の低下を短時間に行うことができる。
【0020】
一方、上記の吸入麻酔装置を用いて吸気ガス中の麻酔薬濃度を上昇させる場合には、変更前濃度と変更後濃度との濃度差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択し、 前記バイパス回路を用いて前記変更後濃度よりも高い麻酔薬濃度のガスを、前記バイパス使用時間流通した後に、変更後濃度に合わせた麻酔薬供給量に変更することが好ましい。このようにして麻酔薬濃度を変更することにより、吸気経路等の内部に貯留されたガスを置換した上でガス中の麻酔薬濃度を調整できるので、麻酔薬濃度の上昇を短時間に行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、麻酔薬を含有した麻酔ガスや空気などの吸気ガスを必要に応じて大量に送気して、麻酔の導入や麻酔からの覚醒をすばやく行うことができるとともに、吸気ガスの流量や麻酔薬濃度の変更をスムーズに行うことができる吸入麻酔装置と、この吸入麻酔装置を用いた吸気ガスの流量変更方法及び吸気ガスの麻酔薬濃度変更方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。図1に本発明の実施形態である吸入麻酔装置の回路構成図を示す。
この吸入麻酔装置1は、マウス等の小動物に麻酔を施行するために最適なものであり、小動物の気管に接続される気管接続部2と、この気管接続部2に吸気ガスを供給する吸気経路3と、気管接続部2から排出される呼気ガスを流通する呼気経路4とを有している。
【0023】
吸気経路3の一端には、空気を吸気経路3内へ送気するポンプ部5が配置され、このポンプ部5よりも気管接続部2側(下流側)に、ポンプ部5から送気される空気の流量を調整するサーマルマスフローコントローラ6が配置されており、吸気経路3内に一定の流量の空気を供給できるように構成されている。
このサーマルマスフローコントローラ6よりも気管接続部2側(下流側)には、送気された空気に麻酔薬を混入するための麻酔薬供給手段7と、吸気経路3内の過剰圧力を逃がすための逃し弁8と、切替弁9とが順次配置されており、吸気経路3の他端側が気管接続部2に接続されている。
【0024】
一方、呼気経路4は、その一端が気管接続部2に接続され、他端側に呼気弁10が設けられている。また、呼気経路4には、呼気経路4内の圧力を測定するための圧力計11が配置されており、この圧力計11には、圧力計11のゼロ校正を行う際に使用するための閉止弁12が備えられている。
【0025】
そして、前記吸気経路3には、サーマルマスフローコントローラ6を通過せずに空気を流通するためのバイパス回路13が具備されている。このバイパス回路13は、ポンプ部5とサーマルマスフローコントローラ6との間に配置された流路切替弁14と、一端がこの流路切替弁14に接続され、他端がサーマルマスフローコントローラ6と麻酔薬供給手段7との間に接続されたバイパス経路15とから構成されている。
【0026】
また、麻酔薬供給手段7よりも気管接続部2側(下流側)に配置された切替弁9には、分岐路16を介して、マウス等の小動物を収容可能な麻酔室17が設けられており、この麻酔室17の排気部には、排気された麻酔ガスを吸着するための活性炭を備えた吸着カラム18が配置されている。なお、この麻酔室17は、内部に収容されたマウス等の様子が目視できるように透明な樹脂で構成されていることが好ましい。
【0027】
さらに、呼気弁10の排気側には、導入経路19が接続され、この導入経路19の一端が前記分岐路16に接続されている。この導入経路19及び分岐路16の接続部分と前記麻酔室17との間には、ガス中の麻酔薬濃度を測定するためのガス濃度センサ20が配置されている。このガス濃度センサ20は赤外線吸収型のものであり、麻酔ガスの他に炭酸ガス濃度の測定も可能なものである。
【0028】
次に、麻酔薬供給手段7について説明する。本実施形態における麻酔薬供給手段7は、セボフルラン等の揮発性麻酔液を気化させて空気に混入させるものであり、ポンプ部5から送気された空気が流通される気化室21と、この気化室21に麻酔液を供給するための送薬管22と、麻酔液を注入するための注入ポンプ23とで構成されている。ここで本実施形態では、注入ポンプ23としてシリンジポンプを採用しており、シリンジ内に貯留された麻酔液を、パルスモータの回転運動を直線運動に変換して押すことにより注入し、貯留された麻酔液がなくなった時点で他のシリンジに変更するものとした。また、送薬管22には、液体の有無を検出するために超音波センサ24が配置されている。
【0029】
図2及び図3に気化室21の一例を示す。この気化室21は、概略円柱状をなす容器であり、上部に蓋部21aが形成され、この蓋部21aに、空気の取り込み口21b及び排気口21cと、麻酔液供給口21dが形成されている。麻酔液供給口21dには、針状の吐出部21eが備えられており、吐出部21eの先端がこの気化室21の底面に略接触するように配置されている。
【0030】
次に、この構成の吸入麻酔装置1の作用について説明する。ポンプ部5によって空気を吸気経路3内に送気する。ここで流路切替弁14によって空気をバイパス経路15へ導入し、サーマルマスフローコントローラ6を通過させずに麻酔薬供給手段7の気化室21内に空気を取りこむ。気化室21内には揮発性麻酔液としてセボフルランがシリンジポンプから注入され、気化して、空気に麻酔薬が混合された麻酔ガスが下流側へ送気される。この麻酔ガスは切替弁9によって分岐路16へと導入され、麻酔室17内に供給される。この麻酔室17内にマウスを収容しておき、マウスに対する麻酔の導入を行う。
【0031】
このように麻酔室17内で麻酔を導入した後、麻酔室17の外に出して、マスクにより麻酔ガスを鼻近くに供給して麻酔を維持するか、あるいはマウスの気管に気管接続部2を接続して、人工呼吸を行うととともに麻酔ガスを継続して吸入させる。この場合には、流路切替弁14によって、ポンプ部5から送気された空気をサーマルマスフローコントローラ6側へ導入し、サーマルマスフローコントローラ6によって空気の流量を、マウスの呼吸時の吸入ガス量に調整した後に麻酔薬供給手段7の気化室21へと送気する。気化室21内で麻酔薬が混合された麻酔ガスは、切替弁9によって気管接続部2側及び呼気経路4側へと送気される。
【0032】
ここで、呼気経路4の他端側に具備された呼気弁10を閉止することにより、呼気経路4、吸気経路3及び気管接続部2内の圧力が高くなり、気管接続部2を介してマウスへと麻酔ガスが送気されることになる。一方、この呼気弁10を開放すると、マウスの肺が弾性復帰することで、気管接続部2を介して呼気が排気されることになる。このように、呼気弁10を開閉することでマウスの人工呼吸を行うことができるのである。
【0033】
呼気弁10の開閉動作は、設定された呼吸回数と吸気時間対呼気時間比に基いて行われ、吸気量をサーマルマスフローコントローラ6による流量によって規定(容量規定方式)するか、あるいは、圧力計11による呼気経路4内の圧力によって規定(圧力規定方式)することになる。容量規定方式のものでは、1回換気量が保証されるものの、不均等換気が起き易い。また、圧力規定方式のものでは、逆に、不均等換気が少ないものの、1回換気量が安定しない。本実施形態では、サーマルマスフローコントローラ6と圧力計11とを備えているため、容量規定式と圧力規定式のどちらでも対応できる構成とされており、使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0034】
マウスを麻酔から覚醒させる場合には、麻酔薬が混入していない新鮮な空気をマウスに供給すればよい。まず、注入ポンプ23を停止して気化室21への麻酔液の注入を停止する。そして、流路切替弁14によって空気をバイパス経路15へ導入し、サーマルマスフローコントローラ6を通過させずに吸気経路3に大量の空気を送気して、気化室21や吸気経路3等の内部に残存している麻酔ガスを空気で一気に置換する。このように空気で置換した後に、麻酔室17に空気を送気することができるので、再び麻酔室17に収容したマウスを麻酔から短時間で覚醒させることができる。
【0035】
次に、本実施形態の吸入麻酔装置1において吸気経路3へ送気する麻酔ガスの流量変更方法及び麻酔薬濃度の変更方法について説明する。
まず、吸気経路3へ送気する麻酔ガス流量を減少させる場合には、変更前流量と変更後流量との流量差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択する。ここで、バイパス使用時間は、気化室21及び吸気経路3内のガスの麻酔薬濃度が変更後流量において設定濃度となるように算出しておく。バイパス回路13を介して大量の空気を気化室21内に取り込み、設定濃度よりも低い麻酔薬濃度の麻酔ガスを吸気経路3へと流通し、吸気経路3内に貯留されているガスの置換を行った後に、流路切替弁14をサーマルマスフローコントローラ6側に切り替えて、空気流量を減少させるとともに注入ポンプ23からの麻酔薬の注入量を調整する。
【0036】
一方、吸気経路3へ送気する麻酔ガス流量を増加させる場合には、変更前流量と変更後流量との流量差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択し、バイパス回路13を介して大量の空気を気化室21内に取り込み、設定濃度よりも高い麻酔薬濃度の麻酔ガスを吸気経路3へと流通し、吸気経路3内に貯留されているガスの置換を行った後に、流路切替弁14をサーマルマスフローコントローラ6側に切り替えて、空気流量を増加させるとともに注入ポンプ23からの麻酔薬の注入量を調整する。
【0037】
また、吸気経路3へ送気する麻酔ガスの麻酔薬濃度を低下させる場合には、変更前濃度と変更後濃度との濃度差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択する。ここで、バイパス使用時間は、気化室21及び吸気経路3内のガスの麻酔薬濃度が変更後濃度になるように算出しておく。バイパス回路13を介して大量の空気を気化室21内に取り込み、変更後濃度よりも低い麻酔薬濃度の麻酔ガスを吸気経路3へと流通した後に、変更後濃度に合わせた麻酔液の注入量になるように注入ポンプ23の調整を行う。
【0038】
一方、吸気経路3へ送気する麻酔ガスの麻酔薬濃度を上昇させる場合には、変更前濃度と変更後濃度との濃度差に応じて、予め準備されたバイパス使用時間を選択し、バイパス回路13を介して大量の空気を気化室21内に取り込み、変更後濃度よりも高い麻酔薬濃度の麻酔ガスを吸気経路3へと流通した後に、変更後濃度に合わせた麻酔液の注入量になるように注入ポンプ23の調整を行う。
【0039】
本実施形態である吸入麻酔装置1では、サーマルマスフローコントローラ6を通過せずに空気を供給できるバイパス回路13が設けられているので、サーマルマスフローコントローラ6の最大流量を越えた大流量の空気を気化室21に取りこむことができる。また、麻酔薬供給手段7の下流側に切替弁9を介して分岐路16が形成され、この分岐路16に、マウスを収容できる麻酔室17が設けられているので、バイパス回路13を経由して供給された空気に麻酔薬が混合された麻酔ガスを、この麻酔室17に大量に供給して、マウスに対する麻酔の導入をすばやく行うことができる。
【0040】
また、マウスを麻酔から覚醒させる際には、バイパス回路13を通じて大量の空気を吸気経路3内に導入して、吸気経路3や気化室21内に残留した麻酔ガスを一気に空気で置換することができるので、短時間で麻酔室17へ新鮮な空気を送り込むことができ、麻酔室17に再び収容されたマウスを麻酔から短時間で覚醒させることができる。
【0041】
また、麻酔薬供給手段7を、揮発性麻酔液を気化させる気化室21と、この気化室21に接続された送薬管22と、揮発性麻酔液を供給する注入ポンプ23とで構成しており、この注入ポンプ23としてシリンジポンプを採用しているので、シリンジポンプのピストンの移動速度を調整することで、麻酔液の注入量を調整できる。また、シリンジポンプは、シリンジ内に貯留された麻酔液を使用した後にシリンジを使い捨てできるので、麻酔液に対する長時間の耐久性を考慮する必要がない。また、製品として品質管理されたシリンジポンプを使用するので、精度良く麻酔液を注入することができる。
なお、この気化室21には、麻酔液の気化熱による温度低下を防止するために、ヒータを備えることが好ましい。
【0042】
また、気化室21に接続された送薬管22に、液体の有無を確認する液体検出手段として超音波センサ24が配置されているので、この麻酔薬供給手段7を稼動させる前に、注入ポンプ23を使用して超音波センサ24が麻酔液を検知するまで麻酔液を短時間で注入しておくことができる。したがって、この麻酔薬供給手段7を稼動させた際に、すぐに麻酔液が気化室21内に供給され、空気中にすばやく麻酔薬を供給することができる。
【0043】
また、呼気弁10から排出される呼気ガスを分岐路16へ導入する導入経路19が形成され、導入経路19と分岐路16との接続部分の下流側に、赤外線吸収型のガス濃度センサ20が配置されているので、分岐路16を介して麻酔室17内に大量の麻酔ガスを供給する場合には、このガス濃度センサ20によってガス中の麻酔薬濃度を測定することができるとともに、気管接続部2を介して人工呼吸を行いながら麻酔を施行する場合には、気管接続部2からの呼気ガス中の麻酔薬濃度をこのガス濃度センサ20によって測定することができる。
【0044】
このように呼気ガスの麻酔薬濃度を測定することにより、気管接続部2に接続されたマウスの体内状態を確認することができ、麻酔状態を確認するために必要な情報を得ることができる。さらに、ガス濃度センサ20として赤外線吸収型のものを使用しているので、炭酸ガス濃度の測定を行うことができ、呼気ガス中の炭酸ガス濃度をモニタリングして人工呼吸器による換気状態を確認することもできる。
【0045】
また、この吸入麻酔装置1を用いて麻酔ガスの設定流量を減少させる場合には、設定濃度よりも低い麻酔薬濃度の麻酔ガスで吸気経路3内を置換した後に、流路切替弁14をサーマルマスフローコントローラ6側に切り替えて、空気流量を減少させるとともに注入ポンプ23からの麻酔薬の注入量を調整するので、麻酔ガス中の麻酔薬濃度が一時的に設定濃度よりも過度に高くなることを防止できる。
【0046】
同様に、麻酔ガスの設定流量を増加させる場合には、設定濃度よりも高い麻酔薬濃度の麻酔ガスで吸気経路3内を置換した後に、流路切替弁14をサーマルマスフローコントローラ6側に切り替えて、空気流量を増加させるとともに注入ポンプ23からの麻酔薬の注入量を調整するので、麻酔ガス中の麻酔薬濃度が一時的に設定濃度よりも過度に低くなることを防止できる。
【0047】
さらに、この吸入麻酔装置1を用いて麻酔ガス中の麻酔薬濃度を低下させる場合には、変更後濃度の麻酔ガスで吸気経路3及び気化室21内を置換した後に、麻酔薬の注入量を調整できるので、麻酔薬濃度の低下を短時間で行うことができる。
同様に、麻酔ガス中の麻酔薬濃度を上昇させる場合には、変更後濃度の麻酔ガスで吸気経路3及び気化室21内を置換した後に、麻酔薬の注入量を調整できるので、麻酔薬濃度の上昇を短時間で行うことができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、マウスを対象とした吸入麻酔装置として説明したが、これに限定されることはなく、他の動物や人間を対象としたものであってもよい。人間や大きな動物を対象とする場合には、大量ガス供給手段として麻酔室の代わりにマスクを設けて、このマスクから麻酔ガスを大量に供給できる構成とすることが好ましい。
【0049】
また、麻酔液を注入する注入ポンプとしてシリンジポンプを採用したもので説明したが、これに限定されることはなく、ローラポンプやプランジャポンプなどの他の構成のポンプを使用してもよい。
また、赤外線吸収型のガス濃度センサを備えたものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば水晶発振式などの他の方式のガス濃度センサであってもよいし、必ずしもガス濃度センサを備える必要はない。
【0050】
また、吸気ガスの流量を調整するものとしてサーマルマスフローコントローラを使用したもので説明したが、これに限定されることはなく、他のマスフローコントローラであってもよい。
さらに、液体検出手段として超音波センサを用いたもので説明したが、例えば光学式や静電容量式などの他のセンサを使用してもよいし、必ずしも液体検出手段を備える必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態である吸入麻酔装置の回路構成図である。
【図2】図1に備えられた気化室の上面図である。
【図3】図2の側面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 吸入麻酔装置
2 気管接続部
3 吸気経路
4 呼気経路
5 ポンプ部(ポンプ)
6 サーマルマスフローコントローラ(マスフローコントローラ)
7 麻酔薬供給手段
9 切替弁
10 呼気弁
11 圧力計
13 バイパス回路
16 分岐路
17 麻酔室(大量ガス供給手段)
19 導入経路
20 ガス濃度センサ
21 気化室
22 送薬管
23 注入ポンプ
24 超音波センサ(液体検出手段)
【出願人】 【識別番号】000200677
【氏名又は名称】泉工医科工業株式会社
【識別番号】594170990
【氏名又は名称】株式会社スカイネット
【出願日】 平成17年10月6日(2005.10.6)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男

【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和

【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義

【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉

【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦


【公開番号】 特開2007−97931(P2007−97931A)
【公開日】 平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願番号】 特願2005−293428(P2005−293428)