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【発明の名称】 有床義歯
【発明者】 【氏名】本間 久雄

【氏名】本間 美雪

【要約】 【課題】人工歯の安定性を確保しながらも装着感の優れる有床義歯及びその製造方法を提供する。

【解決手段】歯肉Gの粘膜面Mg又は歯肉Gと口蓋Pの粘膜面M(Mg,Np)を被覆する第1の義歯床A1と、人工歯1が配列された第2の義歯床A2との少なくとも二つの義歯床A1,A2を有し、第1の義歯床A1と第2の義歯床A2とが重ね合わされて使用されることを特徴とする。製造に際しては、歯肉G又は歯肉G及び口蓋Pの粘膜面Mを被覆可能な形状で第1の義歯床A1を製作した後に、第1の義歯床A1に重ね合わせ可能な形状で第2の義歯床A2を製作する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯肉の粘膜面又は歯肉と口蓋の粘膜面を被覆する第1の義歯床と、人工歯が配列された第2の義歯床との少なくとも二つの義歯床を有し、第1の義歯床と第2の義歯床は、これらの間に弾性力を有する弾性体が接着剤を介して配されて、重ね合わせられることを特徴とする有床義歯。
【請求項2】
前記弾性体は、シート状のシリコン樹脂であるか、又は、弾性緩圧アタッチメントであることを特徴とする請求項1記載の有床義歯。
【請求項3】
前記第1の義歯床及び第2の義歯床は略U字形状を呈する上顎用の義歯床であることを特徴とする請求項1記載の有床義歯。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は、義歯床を有する有床義歯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な有床義歯、すなわち歯肉と同色のアクリル樹脂などの床材で形成された義歯床にセラミック製などの人工歯を設けた有床義歯には、総入れ歯と称される総義歯(全部床義歯)、部分入れ歯と称される部分義歯(局部床義歯)とがある。たとえば、下記特許文献1に総義歯である有床義歯が開示されている。
【特許文献1】特開2004−016417
【0003】
図10及び図11に示す従来例の有床義歯Dは、上顎における天然歯の全欠損を補う上顎用の総義歯であり、義歯床用レジンやスルフォン等の樹脂で形成された略半楕円形状の義歯床Aに複数の人工歯1が配列されている。義歯床Aは、歯肉Gや口蓋Pの粘膜面Mを被覆する形状であり、歯肉Gに対応する部分は口蓋Pに対応する部分よりも厚く、その頂部に複数の人工歯1が一部埋設されて固定されている。かかる有床義歯Dは、義歯床Aを歯肉Gや口蓋Pの粘膜面Mに被覆させて口腔内部に装着される。すなわち有床義歯Dの義歯床Aは、人工歯1を安定して保持する役割と、歯肉Gや口蓋Pの粘膜面Mを被覆して有床義歯Dを口腔内部に安定させる役割とを果たしている。
【0004】
この有床義歯Dの製造方法を概説すると、義歯床Aの材料としてレンジやスルフォン等の加熱により重合硬化するタイプの歯科用合成樹脂を用いて製造する場合は、まずガム状物質を口腔内に圧接して採取した凹型へ石膏を流し込んで患者の口腔内(上顎の状態)を再現した石膏模型、つまり印象模型を形成する。次に、この石膏模型から起こした蝋型に蝋を流し込んで蝋堤を形成し、この蝋堤に人工歯1を配列して仮義歯床(蝋堤歯)作成する。そして、仮義歯床の蝋部分をロストワックス法によりレジンやスルフォン等の歯科用合成樹脂に置き換えることにより、人工歯1が配列された有床義歯Dが製造される。
【0005】
なお、下額における天然歯の全欠損を填補する下額用の有床義歯は、歯肉Gの粘膜面のみを被覆するため全体として略U字形状を呈しているが、その他の点は製造方法も含め前記上顎用の有床義歯Dと同様である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この有床義歯Dの安定した装着状態は、口蓋Pや歯肉Gの粘膜面Mと義歯床Aとの密着性により確保される。すなわち、義歯床Aが粘膜面Mに隙間無く密着することにより有床義歯Dが粘膜面Mに吸着し、安定した装着状態が確保される。しかしながら、歯肉Gや口蓋Pの粘膜面Mのうち歯肉Gの粘膜面Mgは、咬合圧により歯肉Gが移動したり、歯肉Gに覆われる歯槽骨Bが吸収される等により変形するものであり、一方で、有床義歯Dの義歯床Aは人工歯1を保持して固定する必要があることから、ある程度の厚みと硬さを有する変形し難いものとなっている。このため、歯肉Gの粘膜面Mgが変形すると、ある程度の硬さと厚みを有する義歯床Aと歯肉Gの粘膜面Mgとの間に隙間が生じて吸着が弱まり、有床義歯Dの動揺(位置ズレやガタつき)が生じていた。この有床義歯Dの動揺は、咀嚼や会話を阻害したり、歯肉Gや口蓋Pに痛みを生じさせたり、口腔内部に地震が発生しているようなガタつき感を生じさせ、装着感を劣悪なものとする原因の一つとなっていた。また、前記理由により義歯床Aと歯肉Gの粘膜面Mgとの間に隙間が生じると、咬合圧により有床義歯Dが撓んだり、有床義歯Dの動揺による衝撃により、義歯床Aや人工歯1に破損(破折)が生じて、長期使用が困難となっていた。
【0007】
また、従来の有床義歯Dは、硬質な義歯床Aが歯肉Gや口蓋Pの粘膜面Mに直接触れることとなるため、有床義歯Dの動揺がないときにも有床義歯Dを装着するだけで違和感や痛み等の不快感が生じるだけでなく、硬質な義歯床Aにより歯槽骨Bが圧迫されて吸収され易くなり、前述した有床義歯Dの動揺や破損が発生しやすくなっていた。
【0008】
一方、有床義歯Dの義歯床Aを軟質に形成して歯肉Gの粘膜面Mgに合わせて変形可能なものとすることにより、動揺の発生を抑えたり不快感を防止して、装着感を高めることも考えられる。しかし、動揺の発生を抑えたり不快感が生じない程度に義歯床Aを軟質に形成すると、義歯床Aに一部埋め込まれて保持されている人工歯1が揺れ動いたり義歯床Aから外れたりして不安定になり、実用性に欠けることとなってしまう。
【0009】
さらに、有床義歯Dは使用により口腔内部に慣れ親しみ、口腔内部での違和感が緩和・解消されて、使用開始時よりも装着感が向上する傾向にある。しかしながら、従来の有床義歯Dでは、人工歯1が欠ける等のように一部のみが破損した場合にも、慣れ親しんだ部分も含めた有床義歯D全体を新たに製造し直して交換する必要があり、破損前の慣れ親しんだ装着感が極端に損なわれることとなっていた。また、義歯床Aが半楕円形状であると、口蓋Pの粘膜面Mpのほぼ全体を塞ぐこととなり、多くの唾液が粘膜面Mpと義歯床Aとの間に溜まった状態となって口腔内部に供給されにくくなり、口腔内部が乾燥してしまうという問題も生じていた。
【0010】
そこで本発明の目的は、咬合力の分散を図り、人工歯の安定性を確保しながらも装着感の優れる有床義歯を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の有床義歯は、歯肉の粘膜面又は歯肉と口蓋の粘膜面を被覆する第1の義歯床と、人工歯が配列された第2の義歯床との少なくとも二つの義歯床を有し、第1の義歯床と第2の義歯床は、これらの間に弾性力を有する弾性体が接着剤を介して配されて、重ね合わせられることを特徴とする。第1の義歯床は歯肉の粘膜面のみを被覆するものでも良く、歯肉と口蓋の粘膜面を被覆するものでも良い。
【0012】
この発明によれば、歯肉の粘膜面又は歯肉と口蓋の粘膜面を被覆する第1の義歯床と、人工歯が配列された第2の義歯床との少なくとも二つの義歯床を有しているため、各義歯床ごとにその役割に応じた好適な厚みや硬さとすることができる。すなわち、第2の義歯床を人工歯の固定に適する厚みや硬さとすることにより人工歯の安定性を確保するとともに咬合力の分散を図りながらも、第1の義歯床を粘膜面の被覆に適する厚みや硬さとすることにより装着感の優れる有床義歯とすることができる。また、第1の義歯床と第2の義歯床のいずれかが破損した場合には、必要に応じて一方の義歯床のみを交換することも可能であり、破損前の装着感が極端に損なわれることもない。更に、第1の義歯床が変形すると第1の義歯床と第2の義歯床との重ね合わせ状態に不整合が発生する場合があるが、この発明によれば、前記第1の義歯床と第2の義歯床との間には弾性力を有する弾性体が配されていることから、弾性体によりこの不整合が吸収され、両義歯床の間のガタつきが防止される。弾性体としては、弾性圧アタッチメントが好適である。
【0013】
本発明の有床義歯としては、前記第1の義歯床は、歯肉の粘膜面の変形に合わせて変形可能な厚みであることが好ましい。また、本発明の有床義歯としては、前記第1の義歯床は、歯肉の粘膜面の変形に合わせて変形可能な材料で形成されていることが好ましい。
【0014】
有床義歯は歯肉又は歯肉と口蓋の粘膜面に義歯床が密着することにより吸着して安定した装着状態が得られるが、この発明によれば、咬合による歯肉の移動や歯槽骨の吸収等により歯肉の粘膜面が変形しても、粘膜面の変形に合わせて第1の義歯床が変形することで粘膜面と第1の義歯床との吸着状態が保たれ、有床義歯の動揺や破損が防止される。
【0015】
本発明の請求項2記載の有床義歯は、前記弾性体は、シート状のシリコン樹脂であるか、又は、弾性緩圧アタッチメントであることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項3記載の有床義歯は、前記第1の義歯床及び第2の義歯床は略U字形状を呈する上顎用の義歯床であることを特徴とする。また、前記第1の義歯床及び第2の義歯床は略U字形状を呈する上顎用の義歯床であり、第1の義歯床又は第2の義歯床には略U字形状の左右両側を連結して補強する補強手段が設けられていることが好ましい。
【0017】
この発明によれば、第1の義歯床及び第2の義歯床は略U字形状であるため、口蓋の粘膜面を広い範囲で覆い隠す略半楕円形状のものと比較して変形しやすくなる。略U字形状の第1の義歯床は略半楕円形状のものと比較して粘膜面に吸着する面積が小さくなるが、変形により吸着状態が保たれるため動揺したり外れることはない。また、略U字形状とすることにより、口蓋の粘膜面全体が塞がれることがないため、唾液が粘膜面と義歯床との間に溜まらずに口腔内部に供給されやすくなる。両義歯床は幅狭の略U字形状となるが、第1の義歯床又は第2の義歯床は左右両側が補強手段により連結されて補強されているため、捩れや歪みによる折れ等の破損が生じ難くなる。
【0018】
なお、 本発明の有床義歯の製造方法は、有床義歯は、歯肉の粘膜面又は歯肉と口蓋の粘膜面を被覆する第1の義歯床と、人工歯が配列された第2の義歯床との少なくとも二つの義歯床を有し、第1の義歯床と第2の義歯床とが重ね合わされて使用される前記請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の有床義歯であり、その製造に際しては、前記粘膜面を被覆可能な形状で第1の義歯床を製作した後に、第1の義歯床に重ね合わせ可能な形状で第2の義歯床を製作することが好ましい。
【0019】
この発明によれば、第1の義歯床の作製は、歯肉や口蓋の粘膜面の凹型を採取してこれに石膏を流し込む等により製作する。第1の義歯床は第2の義歯床とは別に製作することができるため、人工歯の安定を考慮することなく歯肉や口蓋の粘膜面を被覆するに適した材料や厚みでの製作が可能となる。その次に、第1の義歯床の凹型を採取してこれに石膏を流し込む等により第2の義歯床を製作する。第2の義歯床は第1の義歯床とは別に製作することができ、装着感を考慮することなく人工歯の安定に適した材質や厚さでの製作が可能になる。そして、かかる方法で製造されると、第1の義歯床と第2の義歯床との重ね合わせが可能となり、上記作用・効果を有する有床義歯としての使用が可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有床義歯によれば、第1の義歯床と第2の義歯床とから義歯床が構成されているため、各義歯床ごとにその役割に応じた好適な厚みや硬さとすることにより、人工歯の安定性を確保しつつも、装着感の優れる有床義歯とすることができる。とくに、第1の義歯床を歯肉の粘膜面の変形に合わせて変形可能な厚みや材料とすることにより、咬合による歯肉の移動や歯槽骨の吸収等により歯肉の粘膜面が変形しても、それに合わせて第1の義歯床が変形して粘膜面との密着状態が保たれるため、有床義歯の動揺が発生し難くなり、装着感が良好になるとともに動揺による衝撃で破損されることも防止されて長期使用が可能となる。そして、第1の義歯床と第2の義歯床のいずれかが損傷した場合には、必要に応じて一方の義歯床のみを交換することも可能であり、破損前の装着感を極端に損なうこともない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本考案の一実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
本実施の形態の義歯床は、図1に示すように、上顎側の天然歯の全欠損を補綴するために使用される上顎用の有床義歯(総義歯)D1と下顎用の有床義歯(総義歯)DDであり、いずれも全体としてU字状を呈する。これら両有床義歯(総義歯)D1と有床義歯(総義歯)DDとはほぼ同じ構成である。なお、総義歯は全部床義歯とも呼ばれる。以下、上顎用の有床義歯(総義歯)D1で説明するが、下顎用の有床義歯(総義歯)DDについても、製造方法を含め同じように適用可能である。
【0023】
有床義歯D1は、図2及び図3に示すように、歯肉Gの粘膜面Mgを被覆する第1の義歯床A1と、複数の人工歯1が配列された第2の義歯床A2との二つの義歯床A1,A2を有し、第1の義歯床A1と第2の義歯床A2とは重ね合わされて使用される。本実施の形態の有床義歯Dは、少なくとも二つの義歯床を有しているため、各義歯床ごとにその役割に応じた好適な厚みや硬さとすることができる。各義歯床A1,A2は厚みを好適なものとしても良いし、使用される材料の選択により硬さを好適なものとしても良いし、厚みと硬さの両方を好適なものとしても良い。本実施の形態では、材料は同じで厚みを好適なものとした場合を例に説明する。
【0024】
第1の義歯床A1は、義歯床用の樹脂であるポリスルフォンを材料として形成されている。その形状は歯肉Gの粘膜面Mgを被覆する大きさの略U字形状であり、歯肉Gを跨ぐために断面凹状を呈する。第1の義歯床A1の厚みは均一であり、歯肉Gの粘膜面Mgの変形に合わせて変形可能なように薄型となっている。第1の義歯床A1の変形可能な厚みはその大きさや材料によって異なるが、略0.5mmが望ましい。
【0025】
第2の義歯床A2は、同じくポリスルフォンを材料として形成され、その形状は第1の義歯床A1よりも全体的に一回り小さな略U字状であり、第1の義歯床A1を跨ぐように重ね合わされるため断面凹状を呈する。第2の義歯床A2の厚みは外側から内側に向かって除々に厚くなっており、人工歯1が埋め込まれる箇所は人工歯1の安定性を考慮して特に厚くなっている。この第2の義歯床A2が第1の義歯床A1の上に乗るように重ね合わされると、第1の義歯床A1の辺縁部が第2の義歯床A2から外側に一部はみ出した状態となる。
【0026】
第2の義歯床A2には、U字状の略対称となる中心線Lを挟んで左右両側の後方を連結して補強する補強部材2が取り付けられている。この補強部材2は、パラパルバーとも呼ばれ、金銀パラジウム合金製の帯状ものであり、口腔内部の上顎壁面(口蓋)Pに沿うように円弧形状に湾曲している。従来の上顎側の有床総義歯は、口蓋Pを覆う部分が設けられているが(図10参照)、本実施の形態では、口蓋部分を全部被覆せずに、細型のU字形状にして第1の義歯床A1を変形し易くするとともに、有床義歯D1の口腔内部との接触面積を少なくして装着感を高めている。両義歯床A1,A2は細型のU字形状となるが、有床義歯D1を口腔内部に装着したときに第2の義歯床の左右両側となる部分を補強部材2で連結して補強することで捩れや歪みによる折れ等の破損を防止したり、補強部材2を口蓋Pに沿う円弧形状に湾曲させることにより第2の義歯床A2の位置ズレを防止している。なお、補強部材2は、第2の義歯床に取り付ける。
【0027】
第1の義歯床A1と第2の義歯床A2とは、第2の義歯床A2の裏面に塗布された接着剤等の接着手段3により接着されている。これにより、二つの義歯床A1,A2を有していても一体的な有床義歯D1として使用可能となっている。両義歯床A1,A2の連結に際しては、例えば、図2に示すように、第2の義歯床A2の裏側(第1の義歯床A1と接する側)の全体を接着するのではなく数箇所のみに接着剤3を塗布して部分的に接着したり、第2の義歯床A2のU字形状に沿って中央部分のみを接着して外縁部分は接着することなく連結することもできる。第1の義歯床A1のうち第2の義歯床と接着された部分は変形しにくくなるが、接着部分を少なくすることにより、第1の義歯床A1が変形する際の自由度が高まるからである。接着手段3としては、接着テープを使用したり、弾性圧アタッチメントで連結させても良い。さらに、第1の義歯床A1が第2の義歯床A2に抑え付けられることによって変形が阻害されないように、第1の義歯床A1と第2の義歯床A2との間には連結個所以外の部分に若干の空隙が設けられている。
【0028】
図4は、本実施の形態の有床義歯D1が装着者の口腔内部に装着された状態を示す図である。有床義歯D1は、両義歯床A1,A2が重ね合わされて接着された状態で、第1の義歯床A1が上顎側の歯肉Gの粘膜面Mgを被覆するように口腔内部に配置されて装着される。有床義歯D1の装着に際しては、有床義歯D1を口腔内部に配置するとともに歯肉Gに向かって押し付けると、第1の義歯床A1が歯肉Gの粘膜面Mgに隙間無く密着して吸着し、有床義歯D1が固定される。
【0029】
口腔内部は咬合運動による歯肉Gの移動や歯槽骨Bの吸収により歯肉Gの粘膜面Mgが変形するが、有床義歯D1が口腔内部に装着されて使用されると、粘膜面Mgの変形に合わせて第1の義歯床A1が変形するため、粘膜面Mgとの密着状態が保たれ、有床義歯D1の動揺(位置ズレやガタつき)が防止される。とくに、第1の義歯床A1を薄型にすることにより、横方向の動揺を吸収しやすくなっている。したがって、咀嚼や会話の最中に有床義歯D1の動揺による違和感や痛み、口腔内部に地震が発生しているようなガタつき感も生じることがなく、優れた装着感が得られる。第1の義歯床A1は変形可能な厚みであるため、第1の義歯床が歯肉Gの変形に合わせて撓んでも破損(破折)することが少なく、動揺による衝撃により破損することもより防止されて長期使用が可能となる。粘膜面Mgに直接触れる第1の義歯床A1は、厚みの薄い変形可能なものであるため、義歯床が直接触れることにより有床義歯の動揺がない場合にも発生していた違和感や痛みも軽減される。また、従来の有床義歯Dでは、歯肉Gの粘膜面Mgの変形により隙間が生じると、歯肉Gの粘膜面Mgと義歯床Aとの間に義歯安定剤を配することにより有床義歯Dを安定させる必要があったが、本実施の形態の有床義歯D1によれば第1の義歯床A1が変形して吸着状態が維持されるため、かかる義歯安定剤を使用する必要がない。第1の義歯床A1は略U字形状であるため、半楕円形状に形成した場合(図5参照)と比較して変形しやすくなっている。また、略半楕円形状のもの(図5参照)と比較して粘膜面Mに吸着する面積が小さくなるが、変形により吸着状態が保たれるため動揺したり外れることがない。さらに、略U字形状とすることにより、口蓋Pの粘膜面Mp全体が塞がれることがないため、唾液が粘膜面Mと第1の義歯床A1との間に溜まらずに口腔内部に供給される。
【0030】
一方、第2の義歯床A2は人工歯1を固定するに適したある程度の厚みと硬さを有するものとなっているため、従来通りに人工歯1が十分な深さで埋設されて固定されており、人工歯1の安定が確保されるとともに、咬合力の分散が図られている。本実施の形態の有床義歯D1を装着した装着者(患者)の感想は、有床義歯D1の動揺もなく優れた装着感を得られるとのことで、頗る良好であった。
【0031】
また、第1の義歯床A1と第2の義歯床A2のいずれかが損傷した場合には、必要に応じて一方の義歯床のみを交換することも可能であり、破損前の装着感を極端に損なうこともない。たとえば、人工歯1や第2の義歯床A2の一部が損傷しても、人工歯1が配列された義歯床A2のみを交換すれば良く、使用により歯肉Gの粘膜面Mgに慣れ親しんだ第1の義歯床A1はそのまま使用することができ、第1の義歯床A1については破損前の装着感が維持される。
【0032】
図5は、本実施の形態における他の例の上顎用の義歯床D11である。この上顎用の義歯床D11は、上記義歯床D1と同様に第1の義歯床A1と第2の義歯床A2との二重構造であるが、第1の義歯床A1は略半楕円形状を呈している。本義歯床D11を装着すると、第1の義歯床A1が歯肉G及び口蓋Pの粘膜面Mg,Mpを被覆するようになっている(図6)。上顎側は義歯床が比較的に吸着しにくいが、義歯床D11を略半楕円形状とすることにより、上顎との接合面が広くなり、強い吸着力で固定される。
【0033】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態の有床義歯D2は、図7、図8に示すように、第1の義歯床A1と第2の義歯床A2との間に、弾性力を有する弾性体4が配されている。弾性体4としては、図7に示すように弾性力を有するシート状の接着剤を使用しても良い。接着力を有しないシート状の弾性体を接着剤とともに配して、上記第1の義歯床A1と第2の義歯床A2とを重ね合わせ接合させるものでも良い。シート状の弾性体4の数枚を増減させて、装着者の咀嚼時等における加圧の程度に合わせて弾力を調節することも可能である。
【0034】
歯肉Gの粘膜面Mgの変形に合わせて第1の義歯床A1が変形すると、第1の義歯床A1と第2の義歯床A2との重ね合わせ状態に不整合が発生し、第1の義歯床A1と第2の義歯床A2とにガタつきが生じて装着感が損なわれる場合があるが、本実施の形態の有床義歯D2によれば、両義歯床A1,A2の間に配された弾性体4がこの不整合を吸収し、装着感が損なわれることがない。両義歯床A1,A2が弾性体4を介して重ね合わされるため、互いに接触して破損される事態も防止される。また、弾性体4は、咬合により発生する縦方向の衝撃を吸収する緩衝材の役割をも果たし、装着感がより良好になる。なお、従来の有床義歯Dでも衝撃を吸収する緩衝材が配されることがあるが、この緩衝材は歯肉Gや口蓋Pの粘膜面Mと接する位置に配されるのに対して、本実施の形態の有床義歯D1では緩衝材の役割も果たす弾性体4が第1の義歯床A1と第2の義歯床A2との間に配されるため、従来と比較して咬合による衝撃が歯肉Gに伝わりにくく、歯肉Gにかかる負担が軽減され、常時振動による歯槽骨Bの吸収が防止されるという大きな効果も有する。
【0035】
前記各実施の形態では二つの義歯床A1,A2を有する義歯D1,D11,D2について説明したが、第1の義歯床A1と第2の義歯床A2との間に第3の義歯床を有するように、義歯床を三つ以上重ね合わせることも可能である。また、下顎用の有床義歯DDについても、上記有床義歯D1,D11,D2とほぼ同様である。
【0036】
また、前記各実施の形態の有床義歯D1,D11,D2は、同一材料で形成された両義歯床A1,A2を各々の役割に応じた好適な厚みに調節したものであるが、両義歯床A1,A2をほぼ同一の厚みとしながら各々の役割に応じた好適な硬さを有する材料を使用して形成しても良い。具体的には、第1の義歯床A1を歯肉Gの粘膜面Mgの変形に合わせて変形可能な程度の軟質材料で形成し、第2の義歯床A2を人工歯1が安定して固定される程度の硬質材料で形成することにより、各義歯床A1,A2ごとにその役割に応じた好適な硬さとする。たとえば、第1の義歯床A1の材料として軟質で弾力性に富む樹脂を使用し、第2の義歯床の材料として前記第1の義歯床A1よりも硬質な樹脂を使用しても良い。この場合は、硬さの硬い第2の義歯床A1が人工歯1を固定することにより人工歯1の安定性を確保しながらも、硬さの柔らかい第1の義歯床A1が歯肉Gの粘膜面Mgの変形に合わせて変形することにより密着状態が保たれて有床義歯D1の動揺が防止される。第1の義歯床A1は硬さが柔らかいため歯肉Gの粘膜面Mgに直接接しても違和感や痛みが生じにくい。また、咬合運動等による上下方向の振動が吸収される利点もある。
【0037】
(本発明の有床義歯の製造方法)
本発明の有床義歯の製造方法を前記実施の形態の有床義歯D1,D2を例に説明する。ここでは、一般的な加熱により重合硬化するタイプの歯科用合成樹脂であるポリスルフォンを用いて製造する場合で説明する。義歯床の材料である熱可塑性樹脂としては、アクリル系樹脂やスルフォン系樹脂などの、歯科理工学的に義歯床用材料として好ましい重合体が使用され、いずれの材料を用いても良いが、機械的強度が大きく耐振動性に優れ、残留モノマーがほとんどないポリスルフォン樹脂が好ましい。
【0038】
第1の義歯床A1の製造は、(1−1)まず上顎の状態を示す石膏模型(スタディ模型)を形成する。(1−2)歯肉の型取り(印象採取)を行い、(1−3)この型に石膏を流し込んで石膏型を形成し、(1−4)さらにこの石膏型から起こした蝋型に蝋を流し込んで所定の厚みの蝋堤を形成する。(1−5)このの蝋部分をロストワックス法によりポリスルフォンに置き換えることにより第1の義歯床A1が製造される。第1の義歯床A1は第2の義歯床A2とは別に製作することができるため、人工歯1の安定及び咬合力を考慮することなく歯肉Gや口蓋の粘膜面Mgを被覆するに適した材料や厚みでの製作が可能となる。
【0039】
他方、第2の義歯床A2の製造は、第1の義歯床A1を製造してから製造する。(2−1)まず第1の義歯床A1の第2の義歯床A2との接合面側を示す石膏模型を形成する。(2−2)第1の義歯床A1の型取り(印象採取)を行い、(2−3)この型に石膏を流し込んで石膏型を形成し、(2−4)さらにこの石膏型から蝋堤を形成する。(2−5)この蝋堤に人工歯1を配列して仮義歯床(蝋堤歯)作成する。(2−6)蝋部分をロストワックス法によりポリスルフォンに置き換えることにより人工歯1が配列された第2の義歯床A2が製造される。第2の義歯床A2は第1の義歯床A1とは別に製作することができ、装着感を考慮することなく人工歯1の安定に適した材料や厚みでの製作が可能になる。なお、人工歯1の製造や配列などの他の工程については従来の義歯床と同様である。
【0040】
製作された第1の義歯床A1と第2の義歯床A2とは、重ね合わされて接着剤等の連結手段を介して連結されることにより、一体的な有床義歯D1,D2となる。両義歯床A1,A2の連結に際しては、第1の実施の形態の有床義歯D1の場合は、図2に示すように、第1の義歯床A1又は第2の義歯床A2の所定位置に接着剤3を塗布する等した後に、両義歯床A1,A2を重ね合わせて連結する。第2の実施の形態の有床義歯D2のように、両義歯床A1,A2の間に弾性体4を配する場合は、第1の義歯床A1又は第2の義歯床A2の所定位置に接着剤3を塗布する等した後に、両義歯床A1,A2の間に弾性体4を配し、図7に示すように、両面に接着剤が塗布されたシート状のシリコン樹脂4を挟んで重ね合わせることにより連結する。
【0041】
また、第1の義歯床A1と第2の義歯床A2のいずれかが破損した場合には、必要に応じて破損した一方の義歯床のみを新たに製作して交換することで、破損していない他方の義歯床については慣れ親しんだ微妙な感覚を残したままで、有床義歯D1,D11,D2の損傷を補修することができる。なお、本実施の形態の製造方法によれば、従来の製造工程を二工程要することとなるが、慣れ親しんだ微妙な感覚を極端に狂わすことがなく、それ以上に有り余る効果を有する。
【0042】
以上、前記各実施の形態及び製造方法では、天然歯の全欠損を補うための総義歯床D1,D11,DD,D2について説明したが、天然歯の一部欠損を補う有床義歯(部分義歯・局部床義歯)にも適用可能である。ただし、第1の義歯床A1が歯肉Gの粘膜面Mgに吸着可能なように、第1の義歯床A1はある程度の面積が必要であり、現実的には三歯欠損で三人工歯が配列された有床義歯であることが好ましい。
【0043】
また、上記各実施の形態及び製造方法では、歯肉Gの粘膜面Mgのみを被覆して口蓋の粘膜面Mpを被覆しないU字状の義歯床D1,D2について説明したが、歯肉G及び口蓋Pの粘膜面Mg,Mpを被覆する略半楕円形状の義歯床D11(図5参照)にも適用可能である。さらに、本発明はレジンやスルフォン等の樹脂製の義歯床を有する有床義歯に限らず、歯肉Gの粘膜面Mgを被覆する部分に樹脂製の義歯床が使用され口蓋Pの粘膜面Mpを被覆する部分に金属が使用された金属床にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1の実施の形態の上顎用の有床義歯と下顎用の有床義歯を示す斜視図
【図2】上記第1の実施の形態の上顎用の有床義歯の分解斜視図
【図3】上記第1の実施の形態の上顎用の有床義歯の断面図
【図4】上記第1の実施の形態の有床義歯の装着状態を示す図
【図5】上記第1の実施の形態における他の例の上顎用の有床義歯を示す図。
【図6】上記実施の形態における他の例の上顎用の有床義歯の装着状態を示す図。
【図7】本発明の第2の実施の形態の上顎用の有床義歯を示す分解斜視図
【図8】上記第2の実施の形態の有床義歯を示す断面図
【図9】上記第2の実施の形態の有床義歯の装着状態を示す図
【図10】従来例の有床義歯を示す図
【図11】従来例の有床義歯の使用状態を示す図
【符号の説明】
【0045】
D,DD,D1,D11,D2 有床義歯
D,D1,D11,D2 上顎用の有床義歯
DD 下顎用の有床義歯
1 人工歯
2 補強部材
3 接着剤
4 弾性体
A1 第1の義歯床
A2 第2の義歯床
G 歯肉
P 口蓋
M 粘膜面
Mg 歯肉の粘膜面
Mp 口蓋の粘膜面
B 歯槽骨
L 中心線
【出願人】 【識別番号】399016503
【氏名又は名称】本間 久雄
【出願日】 平成18年11月6日(2006.11.6)
【代理人】 【識別番号】100105809
【弁理士】
【氏名又は名称】木森 有平


【公開番号】 特開2007−75631(P2007−75631A)
【公開日】 平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願番号】 特願2006−301006(P2006−301006)