| 【発明の名称】 |
心不全症状を呈するゼブラフィッシュ |
| 【発明者】 |
【氏名】田中 利男
【氏名】島田 康人
【氏名】西村 訓弘
|
| 【要約】 |
【課題】簡便かつ安価な方法で心不全のモデル動物を作製する方法を提供すること。
【解決手段】心不全症状を呈するゼブラフィッシュの製造方法であって、ゼブラフィッシュ受精卵を化学物質、例えばタクロリムス水和物またはアステミゾールの存在下で飼育することを特徴とする方法が開示される。また、本発明の方法により得られる心不全症状を呈するゼブラフィッシュを用いて心不全治療薬の候補物質を同定する方法も開示される。本発明の心不全症状を呈するゼブラフィッシュは、心不全の治療および予防に関する研究開発のためのモデル動物として有用である。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 心不全症状を呈するゼブラフィッシュの製造方法であって、ゼブラフィッシュ受精卵をタクロリムス水和物またはアステミゾールの存在下で飼育することを特徴とする方法。 【請求項2】 ゼブラフィッシュが拡張型心筋症症状を呈する、請求項1記載の方法。 【請求項3】 ゼブラフィッシュ受精卵を受精直後から6日目までの間に連続的または断続的にタクロリムス水和物の存在下で飼育することを特徴とする、請求項1記載の方法。 【請求項4】 ゼブラフィッシュ受精卵を受精後24時間から34時間までの間、タクロリムス水和物の存在下で飼育することを特徴とする、請求項1記載の方法。 【請求項5】 ゼブラフィッシュ受精卵を受精直後から6日目までの間に連続的または断続的にアステミゾールの存在下で飼育することを特徴とする、請求項1記載の方法。 【請求項6】 心不全治療薬の候補物質を同定する方法であって,試験物質を請求項1記載の方法により製造された心不全症状を呈するゼブラフィッシュと接触させ,前記試験物質がゼブラフィッシュの心不全症状を変化させるか否かを測定することを含む方法。
|
【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、心不全の治療および予防に関する研究開発のためのモデル動物として有用なゼブラフィッシュに関する。 【背景技術】 【0002】 心不全などの心疾患を治療および予防するための新規薬剤の開発においては、心疾患の症状を呈するモデル動物、あるいは心疾患に関連する遺伝子または蛋白質に異常を有する変異体培養細胞または遺伝子組み換え培養細胞を用いて、候補薬剤の薬効を調べることが必要である。しかし、哺乳動物のモデル動物は高価であり広い実験施設を必要とするため、候補化合物を広くスクリーニングするのには適していない。また、培養細胞を用いる場合には、候補化合物が培養細胞で示す挙動と哺乳動物中での挙動とは必ずしも対応しない。 【0003】 一方、より安価で大量の処理に適した方法として、ゼブラフィッシュ、メダカなどの小型の魚類をモデル動物として用いることも研究されており、毒性試験、変異原性試験等に応用されている。このようなモデル動物を得る1つの方法は、変異原を作用させて突然変異を引き起こした後に、所望の表現型を有する個体を選択する方法である。しかし、安定な変異株を樹立するためには繰り返し交配させる必要があるため、非常に手間がかかる。また、疾患に関連する標的遺伝子が過剰発現するかまたは欠損しているトランスジェニック動物を得る方法も知られているが、この方法は疾患に関連した遺伝子が同定されている場合にしか適用することができないという制限がある。さらに、ゼブラフィッシュの発生における特定の遺伝子または蛋白質の役割を調べる目的で、発生過程の種々の期間にその遺伝子の発現または蛋白質の機能の阻害剤を添加する実験が行われている(Chang, et al., Cell 118, 649-663, 2004, Lee el al., Developmental Dynamics published online, Sep. 2005)。しかしながら、これらの方法は、阻害剤が発生に及ぼす影響を遺伝子レベルで調べる目的で行われているものであり、疾患モデル動物を作製する方法、特にスクリーニングに適した安定した形質を有する疾患モデル動物を大量に作製することは示唆されていない。 【0004】 【非特許文献1】Chang, et al., Cell 118, 649-663, 2004 【非特許文献2】Lee el al., Developmental Dynamics published online, Sep. 2005 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は、簡便かつ安価な方法で心不全のモデル動物を作製する方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは、ゼブラフィッシュの発生過程において化学物質を作用させることにより、心不全の症状を呈するゼブラフィッシュが得られることを見いだした。本発明は、心不全症状を呈するゼブラフィッシュの製造方法であって、ゼブラフィッシュ受精卵をタクロリムス水和物またはアステミゾールの存在下で飼育することを特徴とする方法を提供する。好ましくは、本発明の方法により得られるゼブラフィッシュは拡張型心筋症症状を呈する。 【0007】 本発明の方法の好ましい態様においては、ゼブラフィッシュ受精卵を受精直後から6日目までの間に連続的または断続的にタクロリムス水和物の存在下で飼育する。また別の好ましい態様においては、ゼブラフィッシュ受精卵を受精後24時間から34時間までの間タクロリムス水和物の存在下で飼育する。また別の好ましい態様においては、ゼブラフィッシュ受精卵を受精直後から6日目までの間に連続的または断続的にアステミゾールの存在下で飼育する。 【0008】 別の観点においては、本発明は、心不全治療薬の候補物質を同定する方法を提供する。この方法は、試験物質を本発明の方法により製造された心不全症状を呈するゼブラフィッシュと接触させ,前記試験物質がゼブラフィッシュの心不全症状を変化させるか否かを測定することを含む。 【発明を実施するための最良の形態】 【0009】 本発明者らは、ゼブラフィッシュの発生過程において化学物質を作用させることにより、心不全の症状を呈するゼブラフィッシュが得られることを見いだした。本発明は、心不全症状を呈するゼブラフィッシュの製造方法であって、ゼブラフィッシュ受精卵をタクロリムス水和物またはアステミゾールの存在下で飼育することを特徴とする方法を提供する。好ましくは、本発明の方法により得られるゼブラフィッシュは拡張型心筋症症状を呈する。 【0010】 ゼブラフィッシュ(属名Danio、例えばDanio rerio)とはインド原産の体長 5 cm ほどの小型の熱帯魚であり、コイ目 コイ科 ダニオ亜科(ラスボラ亜科、ハエジャコ亜科とも)に属し、オイカワ、コイや金魚などに近い。成体の体表に紺色の横じまをもつことから、シマウマにみたててこの名がある。飼育、繁殖が容易な魚で、流通価格も安く、観賞魚としてよく飼われている。いくつかの変種があるが本件では横じまの少ないゴールデン種が望ましい。ゼブラフィッシュは魚類であるが、主要臓器・組織の発生・構造などはヒトと良く似ており、各パーツ(臓器など)が受精卵から分化して形成されていく過程が透明な体を通して観察できる。受精後48時間で主要臓器・組織の基本構造が出来上がっても体長は2ミリ以下と96ウエルプレートなどの小スペースで取り扱うことができるため、「モデル動物全体への影響を指標とした新薬候補化合物スクリーニング」への適用が可能であり1)、既に、ゼブラフィッシュを新薬候補化合物のスクリーニングに利用する企業(DanioLabs (UK)、Phylonix(USA)など)も設立されている。また、学術的な支援も充実しており、NIHによるゼブラフィッシュ肥満モデル作成への研究費提供、Sanger Instituteによるゼブラフィッシュの全ゲノム解読などがある。 【0011】 受精卵の飼育水としては、一般に熱帯魚を飼育するのに適した飼育水のいずれを用いてもよく、例えば、以下の組成を有する飼育溶液(塩化カルシウム0.1g、塩化ナトリウム3.5g、塩化カリウム0.05g、炭酸水素ナトリウム0.2g/1L)やInstant Ocean (最終濃度60 μg/ml)などを用いることができる。飼育温度としては、一般に26℃〜30℃、好ましくは約28℃を用いる。容器としては、例えば、96ウェルマイクロプレートから100mLビーカーまで、幅広い実験用容器を用いることができるが、スクリーニングの性質上、96ウェル用スクエアプレートが最も望ましい。また1匹あたりの水量は受精卵の状態で最低100μl程度は必要である。 【0012】 このようにして受精卵を飼育すると、通常は、約48〜72時間で孵化し、このときの体調は約2mmである。さらに同様の条件で飼育を続けると、約5日で骨以外のほとんどの臓器の形成が完了し、約6日で骨を含むすべての臓器形成が完了する。約7日で体調が約5mmとなり、このとき心臓の大きさは約0.1mmである。ゼブラフィッシュは身体が透明であるため、心臓をはじめとして、各種臓器および血管の形態は肉眼で観察することができる。 【0013】 本発明の方法においては、タクロリムス水和物またはアステミゾールの存在下で受精卵を飼育する。タクロリムス水和物(tacrolims)は、FK506とも称され、商標名プログラフ(アステラス製薬)、構造式名C14H69NO12、分子量804.018の土壌放線菌Streptomyces tsukubaenesis由来のマクロライド骨格を有する化合物である。タクロリムス水和物は免疫抑制剤であり、臓器移植後の拒絶反応抑制、全身型重症筋無力症および関節リウマチへの適応が認められている。タクロリムス水和物の詳細な作用機序は不明であるが、一般的には細胞内のFKBP (FK506-binding protein)に結合し、カルシニューリンの活性を阻害、T細胞の活性化に伴うIL-2,-3,-4,-5、インターフェロン(IFN)-γ、GM-CSF等のサイトカイン遺伝子の転写を阻害し、産生を阻害することにより免疫抑制作用を発揮すると考えられている。 【0014】 また、アステミゾール(astemizole)とは、商品名ヒスマナール、構造式1-[(4-フルオロフェニル)メチル]-N-[1-[2-(4-メトキシフェニル)エチル]-4-ピペリジル]-ベンゾイミダゾール-2-アミン、C28H31FN4O、分子量458.571の化合物である。鎮静作用のない長時間作用型ヒスタミン(H1)受容体拮抗薬である。アレルギーの中でI型(アナフィラキシー型)は、抗原+IgE抗体が肥満細胞等のIgE受容体に作用し、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン等を放出させるのが契機となって起る。ヒスタミンには血管拡張作用があり、この作用によりアレルギーの症状である、くしゃみ、鼻水などが発生する。アステミゾールはH1受容体の作用を抑制し、これらのアレルギー症状を抑えることが知られている。アステミゾールは気管支喘息、蕁麻疹、皮膚炎、アレルギー性鼻炎に使用されていたが、不整脈の原因となるなどの副作用のため、現在は使用されていない。 【0015】 本発明の方法においては、ゼブラフィッシュ受精卵を、受精直後から6日目までの間に連続的または断続的に、タクロリムス水和物またはアステミゾールの存在下で飼育する。ここで、連続的とは受精直後から6日目まで、タクロリムス水和物またはアステミゾールを含む飼育水で受精卵を培養することを意味し、断続的とは、受精直後から6日目までの間の1回または複数回の任意の期間、タクロリムス水和物またはアステミゾールを含む飼育水で受精卵を培養することを意味する。飼育水中のタクロリムス水和物の好ましい濃度は1nM〜100μM、より好ましくは10nM〜10μMである。特に好ましい態様においては、タクロリムス水和物を50nMの濃度で48時間、あるいは1μMの濃度で12時間投与する。飼育水中のアステミゾールの好ましい濃度は1nM〜100μM、より好ましくは3nM〜10μMである。濃度が低すぎると心不全症状の出現頻度が低くなり、濃度が高すぎると非特異的な変化や死亡の頻度が高くなり、いずれの場合もモデル動物の調製には不適切である。 【0016】 また、タクロリムス水和物またはアステミゾールは、受精卵へのマイクロインジェクション、稚魚への注射による各組織へのマイクロインジェクション、稚魚への経口投与(受精後4日目以降)、親魚への投与(経口あるいは溶解、各組織への注射)などにより、ゼブラフィッシュまたはその受精卵に投与してもよい。 【0017】 1つの好ましい態様においては、ゼブラフィッシュ受精卵を、受精直後から24時間、タクロリムス水和物またはアステミゾールを含む飼育水で飼育した後に、これらの物質を含まない飼育水に交換して、さらに飼育を続ける。別の好ましい態様においては、受精直後から発生過程の途中である1日目もしくは2日目まで、受精直後から発生過程がほぼ終了する3日目まで、受精直後から骨以外のほとんどの臓器の形成が完了する5日目まで、あるいは、受精直後から骨を含むすべての臓器形成が完了する6日目まで、タクロリムス水和物またはアステミゾールの存在下で飼育する。別の好ましい態様においては、ゼブラフィッシュ受精卵を、受精直後(0時間目)から24時間、6時間目から18時間(24時間目まで)、12時間から24時間(36時間目まで)、24時間から24時間(48時間目まで)、48時間から24時間(72時間目まで)、72時間から24時間(96時間目まで)、タクロリムス水和物またはアステミゾールを含む飼育水で飼育した後に、これらの物質を含まない飼育水に交換して、さらに飼育を続ける。また別の好ましい態様においては、受精直後から6日目までの間に、ゼブラフィッシュ受精卵を、タクロリムス水和物またはアステミゾールを含む飼育水で飼育する期間と、これらの物質を含まない飼育水で飼育する期間とを交互に設けて、これらの物質にパルス的に曝露されるようにする。 【0018】 現在のところ、タクロリムス水和物またはアステミゾールがゼブラフィッシュに心疾患を誘導するメカニズムは不明であるが、これらの物質の存在下では、ゼブラフィッシュの発生過程において特定の遺伝子または遺伝子群の発現量または発現のタイミングが異常となるためであると考えられる。 【0019】 本発明の方法により得られるゼブラフィッシュは、心不全治療薬の候補物質を同定するために用いることができる。ゼブラフィッシュは透明であるため、ゼブラフィッシュの心臓の形態は、特殊な装置を用いることなく、肉眼または実体顕微鏡で容易に観察することができる。生体画像での解析には倍率40倍程度の実体顕微鏡が望ましい。顕微鏡に付属のデジタルカメラで心臓および心臓周囲を撮影し、Adobe PhotoshopやScion Imageなどの一般的な画像解析ソフトにて、心臓・心臓周囲のサイズを測定し、数値化する。本発明の心不全モデルゼブラフィッシュは正常個体と比較し、明らかに心臓・心臓周囲領域の拡大が認められる。また顕微鏡に付属のビデオカメラで心拍動および心臓の動きを記録する。本発明の心不全モデルゼブラフィッシュは、正常個体と比較し心拍動数は上昇し、ヒトの心不全の症状と一致する。心臓の動きに関しては、収縮期および拡張期の心内腔の測定より、心拍出量を算出、数値化する。本発明の心不全モデルゼブラフィッシュは心拍出量も低下し、ヒトの心不全の症状と一致する。心臓の機能としては、電気生理学的手法を用い、ゼブラフィッシュの心臓位置を体表から挟み込むような形で電極を置き、誘導された心電図を測定、評価する。 【0020】 心不全モデルゼブラフィッシュでは透明な体を通して心房から心室への血流の逆流が認められ、ヒトの心不全における弁膜症症状と一致する。心拍出量・心血管系の循環状態の確認には血管造影法を用いることも可能である。血管造影法は、腹側の心臓よりやや尾部側あるいは尾部の静脈から、ガラスキャピラリーで蛍光色素・蛍光色素を結合させたマイクロビーズ(FITC-コンジュゲート化マイクロビーズやCy3等)あるいは色素(Rose Bengal等)を微量注入する。体が透明であるため、血流をリアルタイムで観察することが可能である。 【0021】 組織学的検討は、パラフィン切片標本あるいは凍結切片標本を用い、HE染色(ヘマトキシリン・エオシン染色)などの一般的な染色法を行う。タクロリムスによるモデルゼブラフィッシュでは、ヒトの拡張型心筋症によく似た組織学的所見(心室壁の薄層化、心内腔の拡大など)が認められる。 【0022】 また、心不全に特異的な遺伝子の発現を調べるために、ISH(in situ hybridization)法やISP(in situ PCR)法、レーザーマイクロダイセクション法による心臓の各種細胞の抽出、RNA増幅法などを用いる。その後のアプリケーションとしてはDNAチップ、ディファレンシャルスクリーニン法を始めとする様々な遺伝子発現解析が可能である。心不全に特異的なタンパク質の発現を調べるためには、免疫染色法(抗体)やプロテインチップ、二次元電気泳動、LC-MASS/TOF-MASS法、プロテインシーケンサーによる実験を行う。 【0023】 心不全治療薬の候補物質を同定するためには、試験物質を本発明の方法により製造された心不全症状を呈するゼブラフィッシュと接触させ,前記試験物質がゼブラフィッシュの心不全症状を変化させるか否かを測定する。候補化合物が心不全症状を呈する本発明のゼブラフィッシュに及ぼす効果を調べるためには、本発明の方法により得られたゼブラフィッシュに候補化合物を投与し、心臓の形態を観察する。試験化合物を投与する方法としては、候補化合物が水溶性である場合には飼育水中に溶解すればよく、水不溶性である場合には適当な界面活性剤との複合体またはエマルジョンの形で飼育水中に懸濁すればよい。あるいは、ゼブラフィッシュの餌に混ぜて経口投与してもよく、注射などにより非経口投与してもよい。候補物質の投与タイミングとしては、心不全症状を誘導する化合物を加える時点に対して、前投与、同時投与、後投与の3パターンがある。前投与とは、ゼブラフィッシュ受精卵を、候補物質の存在下で飼育した後に、候補物質の存在下または非存在下でタクロリムス水和物またはアステミゾールの存在下で飼育を続けることをいう。同時投与とは、ゼブラフィッシュ受精卵を、受精直後または適当な時間経過後から、候補物質とタクロリムス水和物またはアステミゾールとの存在下で飼育することをいう。後投与とは、ゼブラフィッシュ受精卵を、タクロリムス水和物またはアステミゾールの存在下で飼育した後に、タクロリムス水和物またはアステミゾールの存在下または非存在下で候補物質の存在下で飼育を続けることをいう。基本的に、飼育水は毎日交換するのが望ましいが、候補化合物によっては一定期間をあけて交換することも可能である。ハイスループット化には、化合物の投与や飼育水の交換をバイオメックなどのロボティクスを用いて行うことが好ましい。 【0024】 多数の候補化合物をスクリーニングする場合は、上述の測定方法をマイクロタイタープレートまたはマイクロアレイのフォーマットで行うことができる。具体的な例として、候補化合物を飼育水中に溶解する方法を説明する。まず心不全モデルゼブラフィッシュの飼育および化合物投与には96ウェルスクエアプレートに、候補化合物ライブラリーは96ウェルマイクロプレートに用意する。そしてロボティクスにより、化合物ライブラリーが分注されている96ウェルマイクロプレートから希望の候補化合物をゼブラフィッシュを飼育している各ウェルに添加する。この方法がスループット性能および正確性、コンビネーションの豊富さなどの点でもっとも望ましい。詳細な方法としては、まず96ウェルスクエアプレート1ウェルあたり200μlの飼育水にゼブラフィッシュの受精卵を入れ、次に、心不全を誘導する化合物(タクロリムス、アステミゾール)を溶解した飼育水を100μl加える。次に、候補化合物を溶解した飼育水100μlを加える。これらの化合物を加える際の濃度は、最終濃度を調整するように設定する。候補化合物の投与および飼育水の交換にはロボティクスを用いることが望ましいが、飼育水吸引の際、ゼブラフィッシュの吸い上げおよび損傷を避けるため、吸入スピードを下げる、ピペットの先端部96スクエアプレートの底辺より、5mm以上上の位置にする、数回のピペッティングで飼育水を交換するなどの工夫が必要である。ちなみに96ウェルスクエアプレートは各ウェル約500μlの液量が保持できる。3種類以上の化合物を同時に投与する場合は、たとえば前述の液量を100μlから50μlに減らすなど、適宜変更すればよい。 【0025】 本発明にしたがえば、簡便な方法により安定した形質を示す心不全モデル動物を大量に得ることができる。 【0026】 以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。 【実施例1】 【0027】 タクロリムス水和物による心不全症状を呈するゼブラフィッシュ作製 ゼブラフィッシュ受精卵100個(前日にオスとメスを1匹ずつ水槽に入れ暗室に置き、早朝明かりをつけることにより産卵を促進、受精卵を回収する)を受精後1時間以内から、タクロリムス水和物最終濃度50nMを溶かした飼育水(塩化カルシウム0.1g、塩化ナトリウム3.5g、塩化カリウム0.05g、炭酸水素ナトリウム0.2g/1L)の中での飼育を開始した。密度は卵1個あたりの水量が0.25mLを下回らないようにし(10cmシャーレに100個)28℃の恒温漕で、毎日飼育水を交換して飼育した。受精卵は受精後2〜3日目で孵化した。3日目より心陰影の拡大が確認され、5日目には90%程度の魚に拡張型心筋症に類似した心臓組織形状が認められた。結果を図1に示す。 【0028】 次に、受精卵をタクロリムス水和物に曝露する時間を変えて、同様の実験を行った。受精卵を受精後1時間以内に飼育水の中での飼育を開始し、受精後24時間から飼育水にFK506最終濃度1μMを加え、その10時間後にFK506を含まない飼育水に交換した。受精卵は受精後2〜3日目で孵化した。3日目に心陰影の拡大が観察され、80%程度の魚に拡張型心筋症に類似した心臓組織形状が認められた。ただし、この実験では体軸の変形などの変化が約10%に認められた。 【実施例2】 【0029】 心不全治療薬カルベジロールの効果 実施例1で作製したゼブラフィッシュを用いて、心不全治療薬であるカルベジロールの効果を調べた。結果を図2に示す。カルベジロール最終濃度1μMをタクロリムス水和物と同時投与した結果、心陰影の拡大がなくなったゼブラフィッシュは約70%、また受精後24時間からのタクロリムス水和物単独投与の後、受精後2日目からカルベジロールを加えた場合でも心陰影の拡大がなくなったゼブラフィッシュは約60%認められた。心陰影の大きさを画像解析測定、統計学的評価をした結果、両者とも約50%のその領域の縮小を認めた。心拍数の正常化も同程度の割合で認められた。組織学的検討では、タクロリムス水和物単独投与で認められた拡張型心筋症に類似した形状は改善していた。以上より、本発明の心不全モデルゼブラフィッシュに対する心不全治療薬カルベジロールの効果が証明された。 【実施例3】 【0030】 種々の心不全治療薬の効果 タクロリムス水和物を用いて作製した心不全症状を呈するゼブラフィッシュに、実施例2と同様にして、市販の種々の心不全治療薬を作用させて、その影響を調べた。心不全治療薬としては、βアドレナリン作動性受容体であるチモロール(Timolol)、アルプレノロール(Alprenolol)、アルテレノール(Arterenol)、アセブトロール(Acebutolol)およびピンドロール(Pindolol);心臓選択的βアドレナリン作動性受容体であるメトプロロール(Metoprolol)およびアテノロール(Atenolol);αおよびβアドレナリン作動性受容体であるラベタロール(Labetalol)、カルベジロール(Carvedilol);アンジオテンシン変換酵素阻害剤であるカプトプリル(Captopril)およびエナラプリル(Enalapril);ならびにホスホジエステラーゼIII阻害剤であるアムリノン(Amrinone)を用い、示される最終濃度でタクロリムス水和物と同時投与した。 【0031】 結果を図3に示す。縦軸は、腹側膨張を示すゼブラフィッシュ胚の出現率を、心不全治療薬を加えない陰性対照における出現率を100パーセントとしたときの相対値で表す。複数のヒト心不全治療薬で、カルベジロールと同様に心陰影の拡大の改善効果が認められた。この結果は、本発明の方法により作製したゼブラフィッシュが心不全モデル動物として有用であることを示す。 【実施例4】 【0032】 アステミゾールによる心不全症状を呈するゼブラフィッシュ作製 ゼブラフィッシュ受精卵を受精後1時間以内から、アステミゾール最終濃度250〜500nMを溶かした飼育水(塩化カルシウム0.1g、塩化ナトリウム3.5g、塩化カリウム0.05g、炭酸水素ナトリウム0.2g/1L)の中での飼育を開始した。密度は卵1個あたりの水量が0.25mLを下回らないようにし(10cmシャーレに100個)28℃の恒温漕で、毎日飼育水を交換して飼育した。受精卵は受精後2〜3日目で孵化した。受精卵は受精後2〜3日目で孵化した。3日目より心陰影の拡大が確認され、5日目には90%程度の魚に心臓組織形状の異常が認められた。タクロリムス水和物の場合と異なり、心臓組織のサイズは小さく、心電図異常も著名に認められ、先天性心疾患に関連する心不全モデルになる。 【産業上の利用可能性】 【0033】 本発明の心不全症状を呈するゼブラフィッシュは、心不全の治療および予防に関する研究開発のためのモデル動物として有用である。 【図面の簡単な説明】 【0034】 【図1】図1は、タクロリムス水和物に曝露して発生させたゼブラフィッシュの心臓の形態を示す。 【図2】図2は、本発明の心不全モデルゼブラフィッシュの心臓の形態に対するカルベジロールの影響を示す。 【図3】図3は、本発明の心不全モデルゼブラフィッシュの心臓の形態に対する種々の心不全治療薬の影響を示す。
|
| 【出願人】 |
【識別番号】304026696 【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
|
| 【出願日】 |
平成17年11月11日(2005.11.11) |
| 【代理人】 |
【識別番号】230104019 【弁護士】 【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100106840 【弁理士】 【氏名又は名称】森田 耕司
【識別番号】100105991 【弁理士】 【氏名又は名称】田中 玲子
【識別番号】100114465 【弁理士】 【氏名又は名称】北野 健
|
| 【公開番号】 |
特開2007−129982(P2007−129982A) |
| 【公開日】 |
平成19年5月31日(2007.5.31) |
| 【出願番号】 |
特願2005−328106(P2005−328106) |
|