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【発明の名称】 ナス科植物の栽培方法
【発明者】 【氏名】秋草 文

【氏名】土屋 広司

【氏名】永田 照喜治

【要約】 【課題】高糖度の果実を有するナス科植物の栽培方法を提供する。

【解決手段】トマトの栽培方法は、1日にあたり日没から1〜3時間、特定波長600〜700nmの赤色光及び特定波長700〜750nmの遠赤色光の少なくともいずれかを含む光を照射する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナス科植物に対し、日没から1〜3時間、特定波長600〜700nmの赤色光及び特定波長700〜750nmの遠赤色光の少なくともいずれかを含む光を照射する、ことを特徴とするナス科植物の栽培方法。
【請求項2】
前記ナス科植物は、トマトであることを特徴とする請求項1に記載のナス科植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ナス科植物の栽培方法に関し、特に特定波長の光を照射するナス科植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、植物の生産性を向上させるため、人工光を用いて植物を照射する栽培方法が試みられている。例えば、特許文献1に開示された方法では、太陽光が照射されない時間帯で、発光波長が700〜800nmの遠赤色光を所定の光量子束密度以上になるように長日植物に連続照射することにより、長日植物の開花と草丈の成長を促進させる。特許文献2に開示された方法では、植物を照射する光源に含まれる青色光、赤色光及び遠赤色光の強度を調整することで、植物の栄養成分含有量を調整する。
【0003】
また、特許文献3に開示された方法では、発光波長が700〜760nmの遠赤色光を成育中の植物に照射することにより、植物の可食部の増量を図っている。特許文献4に開示された方法では、温室内に栽培されたブドウに対し、無加温状態で開花、結実、収穫の第1期作過程の終了後、休眠打破剤を散布し加温と合わせて人工光による補光を行い、年間2期作を実現している。
【特許文献1】特開2005−95132号公報
【特許文献2】特開平08−205677号公報
【特許文献3】特開平08−275681号公報
【特許文献4】特開平11−155395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの特許文献に記載された栽培方法は、植物の生産性向上を着目したものであり、植物の品質、特に高糖度の植物果実の生産には適用できないという欠点があった。
【0005】
本発明は、上記の問題点を解消する為になされたものであり、高糖度の果実を有するナス科植物の栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るナス科植物の栽培方法は、ナス科植物に対し、日没から1〜3時間、特定波長600〜700nmの赤色光及び特定波長700〜750nmの遠赤色光の少なくともいずれかを含む光を照射することを特徴とする。
【0007】
本願発明者は、上記の課題を解決するため、まず、浜松市と日本で高品質なトマトを生産する北海道余市町との環境条件等について調査を行い、余市町の朝方及び夕方の光は赤色光が多く含まれることが判明した。そこで、本願発明者は、この赤色光に着目し、波長域、照射タイミング、照射時間によるナス科植物の果実糖度への影響を更に調査研究した。その結果、日没から1〜3時間特定波長600〜700nmの赤色光及び特定波長700〜750nmの遠赤色光の少なくともいずれかを含む光を照射する(すなわち、補光する)ことにより、ナス科植物の果実の糖度を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
ここで、特定波長600〜700nmの赤色光は他の波長の光に比べてナス科植物の光合成への寄与が高い光である。また特定波長700〜750nmの遠赤色光は植物の種子の発芽や形態に作用する光とされている。従って、これらの特定波長の光を用いて補光することにより、ナス科植物は効率的に光合成を行うことができ高糖度の果実を生産することができるものと考えられる。また、日没から1〜3時間の照射を行うことは、ナス科植物の光合成産物を効果的に果実に蓄積させ、より高糖度の果実を得ることができるものと考えられる。
【0009】
なお、ここで、「日没」とは、太陽の上辺が水平線(すなわち、地平線)に接した瞬間のことを意味する。
【0010】
本発明に係るナス科植物の栽培方法において、ナス科植物はトマトであることが好適である。この場合には、高糖度のトマト果実が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高糖度の果実を有するナス科植物の栽培方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、本実施形態において、ナス科植物がトマトである場合について説明する。
【0013】
図1は実施形態に係るナス科植物の栽培方法を利用した栽培装置を示す構成図である。この図に示される栽培装置1は、トマト10を収容するための空間を形成した栽培室12と、栽培室12内に設置された照射光源16と、太陽光を検知するセンサ14と、制御部18とを備えている。
【0014】
栽培室12は、太陽光等の外部からの光を透過した状態でトマト10を栽培するための部屋であり、例えば光透過性を有する透明なビニールやガラスから構成される。
【0015】
照射光源16は、特定波長600〜700nmの赤色光及び特定波長700〜750nmの遠赤色光の少なくともいずれかを含む人工光を発するものである。照射光源16としては、単色性及び発光率に優れた半導体レーザや発光ダイオード(LED)等が用いられる。例えば、照射光源16は、特定波長600〜700nmの赤色光を発するLEDと特定波長700〜750nmの遠赤色光を発するLEDとから構成されており、必要に応じて単独に、同時にまたは交互にこれらの光を発する。
【0016】
このような照射光源16は、トマト10のそれぞれに対して十分に均一に照射されるように複数配置されることが好適である。従って、照射光源16は、図1に示すようにトマト10の上方向に設けられることに限らず、トマト10の全体に均等に照射すると共に太陽光を遮らないようにトマト10の横方向や下方向などに設けられてもよい。また、照射光源16を設置する際に、照射光源16に起因したトマト10の高温障害の発生を防止するため、トマト10と照射光源16との距離を適宜調整する必要がある。
【0017】
センサ14は、例えば栽培室12に入射されてきた太陽光を検知し、検知した検知信号を制御部18に送信するように設定されている。本実施形態において、センサ14は栽培室12の内部に配置されているが、栽培室12の外部であって、太陽光を当たる場所に設置されてもよい。
【0018】
制御部18は、センサ14から送信されてきた検知信号を解析し、その解析結果に基づいて日没であるか否かの判断を行う。日没であると判断された場合には、照射光源16に制御信号を送信し、照射光源16を所定時間にわたって連続あるいは断続的に点灯させる。
【0019】
また、制御部18は、例えば照射光源16から発する光の照射強度や照射時間を変化させるように設定されることが好ましい。この場合には、トマトの品種、栽培条件、成育状況などによって光の照射強度と照射時間を調整することができ、安定した高糖度のトマト10の果実を生産することが可能となる。
【0020】
図2は、本実施形態に係るトマトの栽培方法の全体処理を示す流れ図である。以下、図2に従って本実施形態に係るトマト10の栽培方法について説明する。
【0021】
本実施形態に係るトマトの栽培方法は、1日にあたり日没から1〜3時間、特定波長600〜700nmの赤色光及び特定波長700〜750nmの遠赤色光の少なくともいずれかを含む光を照射する特徴としており、その他の潅水や施肥等は、通常のビニールハウス等におけるトマトの栽培方法と同様の条件で行う。
【0022】
図2に示すように、センサ14が常時に栽培室12に入射されてきた太陽光を検知し、検知した検知信号を制御部18に送信する(ステップS20)。制御部18では、例えばセンサ14から送信されてきた検知信号中の太陽光の強度変化を解析し、その解析結果に基づき日没であるか否かの判断を行う(ステップS21)。そして、日没であると判断された場合には、制御部18は、照射光源16に制御信号を送信し、特定波長600〜700nmの赤色光及び特定波長700〜750nmの遠赤色光の少なくともいずれかを含む人工光を1〜3時間にわたって連続的に出力するように、照射光源16を点灯させる(ステップS22)。
【0023】
本実施形態によれば、特定波長600〜700nmの赤色光と特定波長700〜750nmの遠赤色光とは、他の波長の光に比べてナス科植物の光合成への寄与と光合成産物をより効果的に果実に蓄積させる効果が高い光であるため、これらの特定波長の光を日没から1〜3時間照射することにより、トマト10は効率的に光合成を行うことができ、高糖度の果実が得られる。また、本実施形態に係る栽培方法は、通常の栽培方法に比べて果実の収穫量を増加する効果が期待できる。
[実施例]
【0024】
以下に実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1、2と比較例1、2]
(実施例1)
まず、トマト苗(品種:ハウス桃太郎)を対象とし、図4に示すような人工光を用いた完全制御型の栽培条件で、特定波長680nmの赤色光補光を行った。具体的には、主光源の消灯後に、図5示す補光条件で特定波長680nmの赤色光をトマト苗に照射した。なお、図4に示される総光光強度は主光源から発する光の強度である。また、実施例1において、赤色光補光の光強度は、20〜30μmol・m−2・s−1で、光合成有効放射束PPF値で照明光の約20分の1とした。
【0026】
(実施例2)
実施例1と同品種のトマト苗を対象とし、実施例1と同様の栽培条件及び補光条件で、蛍光灯による補光を行った(図3〜5参照)。
(比較例1)
実施例1と同品種のトマト苗を対象とし、実施例1と同様の栽培条件及び補光条件で、特定波長465nmの青色光による補光を行った(図3〜5参照)。
(比較例2)
実施例1と同品種のトマト苗を対象とし、実施例1と同様の栽培条件で無補光を行った(図3〜5参照)。
【0027】
上記の実施例1、2及び比較例1、2のトマト1果実に対し、収穫適期を迎えたものから順次に収穫し、Brix(%)糖度計(株式会社竹村電機製作所アタゴ製の手持屈折糖度計TN−1α)を用いて糖度を測定した。
【0028】
その結果として、実施例1(赤色光補光)の場合は最も高い糖度を有するトマト果実が得られており、実施例1及び実施例2(赤色光を含む蛍光灯補光)の場合は、比較例1(青色光補光)及び比較例2(無補光)の場合に比べて、収穫した果実の平均糖度が高く、糖度9度以上を示す果実の割合が50%以上の結果であった(図6及び図7参照)。
【0029】
このような結果により、単独の赤色光あるいは赤色光を含む光は、高糖度を有するトマト果実を得ることに有効であることが実証された。
【0030】
[実施例3と比較例3]
また、トマト10苗(品種:麗夏)を対象とし、上記の実施例1と同様の栽培条件及び補光条件で、特定波長735nmの遠赤色光(遠赤色LED使用)による補光(実施例3)と、無補光(比較例3)とを行い、実施例1と同様に収穫したトマト果実の糖度を測定した。
【0031】
その結果として、図8に示すように、実施例3(遠赤色光による補光)の場合は、比較例3(無補光)の場合に比べて、収穫した果実の平均糖度が高いことが確認できた。また、糖度9以上を示す果実の割合については、実施例3の場合は約18%であることに対し、比較例3の場合は0であった(図9参照)。これにより、遠赤色光による補光の場合は、赤色光補光の場合と同様にトマト果実の糖度の向上に有効であると実証された。
【0032】
[実施例4と比較例4]
また、赤色光補光によるトマトの果実の収穫量への影響を調べるため、実施例4及び比較例4を行った。
【0033】
まず、本葉7、8枚が展開した状態のトマト苗(品種:麗夏)を、4月の中旬に静岡県浜松市にある無加温ガラス温室の栽培ベッドに定植し、8月中旬まで潅水や肥料は適宜行い、栽培管理を行った。また、当該温室内の気温が過度の上昇を防ぐため、晴天日の日中は温室上部に黒い寒冷紗を張った。このため、真夏の栽培に関わらず、日中の太陽光の光強度は通常より低くなった。
【0034】
(実施例4)
上記のトマト10株に対し、特定波長680の赤色光を用いて4月下旬から8月中旬まで、日没から1時間の照射を行った。なお、照射光源はトマトの上部に取り付けられ、光強度は10μmol・m−2・s−1程度とした。
(比較例4)
上記のトマト10株に対し、無補光を行った。
【0035】
実施例4及び比較例4のトマト果実に対し、収穫適期を迎えたものから順次に収穫し、果実の個体重量を調査した。
【0036】
その結果として、図10に示すように、実施例4(赤色光補光)の場合は、比較例4(無補光)の場合に比べ、果実の個体重量と株あたり収穫量共に増加したことが見られた。これにより、赤色光補光は、トマト果実の収穫量を増加する効果を有することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態に係るナス科植物の栽培方法を利用した栽培装置を示す構成図である。
【図2】実施形態に係るトマトの栽培方法の全体処理を示す流れ図である。
【図3】実施例1、2及び比較例1、2の光源を示す図である。
【図4】トマトの栽培条件を示す図である。
【図5】トマトの補光条件を示す図である。
【図6】各補光、無補光とトマト果実の平均糖度の測定結果を示す図である。
【図7】各補光、無補光とトマト果実の糖度分布との関係を示す図である。
【図8】遠赤色光補光、無補光とトマト果実の平均糖度の測定結果を示す図である。
【図9】遠赤色光補光、無補光とトマト果実の糖度分布との関係を示す図である。
【図10】赤色光補光、無補光とトマト個体重量、株あたり収穫量との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1…栽培装置、10…トマト、12…栽培室、14…センサ、16…照射光源、18…制御部。
【出願人】 【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
【識別番号】506128260
【氏名又は名称】株式会社永田農業研究所
【出願日】 平成18年4月14日(2006.4.14)
【代理人】 【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹

【識別番号】100092657
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 史朗

【識別番号】100124291
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 悟


【公開番号】 特開2007−282544(P2007−282544A)
【公開日】 平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願番号】 特願2006−112119(P2006−112119)