| 【発明の名称】 |
はばのりの養殖 |
| 【発明者】 |
【氏名】前川 行幸
【氏名】倉島 彰
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| 【要約】 |
【課題】はばのりの発芽や生長を抑制して、糸状体や盤状体のまま保存株として維持可能な方法等を提供すること。
【解決手段】はばのりの配偶子を150個/mL以上の密度の懸濁液とし、海水、或いはリンまたは窒素を除いた培地中で保存することにより、配偶子を保存することができる。このとき、培地としては、PESI培地を用いることが好ましい。このようにして保存した配偶子を発芽させるには、特定の培地(例えば、窒素濃度が100μmol/L以上であり、リン濃度が5μmol/L以上であり、かつ窒素:リンの濃度比が2:1〜200:1の範囲の培地)、或いは配偶子を30個/mL以下の濃度の懸濁液とする。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 はばのりの配偶子を150個/mL以上の密度の懸濁液とし、海水、或いはリンまたは窒素を除いた培地中で保存することを特徴とするはばのり配偶子の保存方法。 【請求項2】 前記培地が、PESI培地であることを特徴とする請求項1に記載のはばのり配偶子の保存方法。 【請求項3】 請求項1または2に記載の方法によって保存されたはばのり配偶子を窒素濃度が100μmol/L以上であり、リン濃度が5μmol/L以上であり、かつ窒素:リンの濃度比が2:1〜200:1の範囲の培地に移すことを特徴とするはばのり葉状体の発芽方法。 【請求項4】 請求項3に記載の方法において、窒素:リンの濃度比が10:1〜40:1の範囲であることを特徴とするはばのり葉状体の発芽方法。 【請求項5】 請求項1または2に記載の方法によって保存されたはばのり配偶子を30個/mL以下の密度の懸濁液とすることを特徴とするはばのり葉状体の発芽方法。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、はばのりの養殖に関するものである。 【背景技術】 【0002】 はばのり(Petalonia binghamiae(J. Agardh)Vinogradova)は、カヤモノリ目(Sytosiphonales)の褐藻である。はばのりの成体は、幅が2cm〜3cm、長さが15cm〜20cmの葉状であり、色は黄褐色である。図1には、はばのりの葉状体の写真を示した。はばのりは、日本、朝鮮半島、台湾、中国、及びアメリカ沿岸にいたる広い範囲に分布し、潮間帯上部から中部に生育している。日本では、北海道から南西諸島にかけてほぼ全国的に分布している。また、はばのりは、一般には流通してはいないものの、食品としての有用藻類である。日本では生のまま、或いは漉いて乾燥されたものが関東地方の太平洋沿岸や熊野灘沿岸各地で食用に利用されている。また、東アジア各地でも食用に利用されている。はばのりは経済価値が高いことから、養殖が可能になれば、大きな利益が期待でき、地場産業の新興にも繋がる。 【0003】 図2には、はばのりの生活史を示した。はばのりは、大型で単相(n)の配偶体世代と、微小で複相(2n)の胞子体世代を有している。このうち、配偶体(葉状体)は、秋に発芽して冬にかけて生長し、春に成熟して配偶子を放出する。ここで、雌雄配偶子の接合により、顕微鏡的な大きさの盤状または糸状の胞子体となり、この状態で夏を過ごす。胞子体は、夏から秋にかけて成熟し、遊走子を放出する。放出された遊走子は発芽し、葉状の配偶体へと生長する。また、はばのりは単為発生も行う。配偶子は、接合することなく直接発芽して胞子体とほとんど同様の盤状体や糸状体に生長し、直接的に直立葉状体を形成するサブサイクルが報告されている。また、配偶体は雌雄同株であり、自家接合も行う。 【0004】 海藻の養殖では、対象種の維持と管理が重要である。すなわち、海藻を生長させる技術に加えて、株の成熟や発芽をいつでも促進・抑制できるような技術が必要である。一般に、海藻の株の管理は水温、光量、日長を調整して行うことが多い。例えば、特許文献1には、温度を調整して株の管理を行う方法が、特許文献2には、温度及び日照時間を調整して株の管理を行う方法が、それぞれ開示されている。 【0005】 しかしながら、本発明者が行った研究の結果によれば、はばのりは広範囲の水温(5℃〜20℃)、低光量(12.5μmol・m−2・s−1以上)、短日−長日という広い条件下において葉状体の発芽が見られた。そのため、はばのりの発芽や生長の促進は容易にできるものの、その抑制をすることが従来の方法では困難であることがわかった。 【0006】 【特許文献1】特開平9−154425号公報 【特許文献2】特開平11−113434号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、はばのりの発芽や生長を抑制して、糸状体や盤状体のまま保存株として維持可能な方法等を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者は、上記課題を解決するために、栄養塩濃度に着目した。栄養塩、特に窒素とリンは海藻の生長に影響を及ぼす要因であることが知られている。また、個体が吸収する栄養塩量は、培養時の個体密度に依存する可能性がある。そこで、培地中の窒素とリンの濃度を調整するとともに、培養密度を調節することにより、はばのりの発芽・生長の制御を試みた。 【0009】 こうして上記課題を解決するために、第一の発明に係るはばのり配偶子の保存方法は、はばのりの配偶子を150個/mL以上の密度の懸濁液とし、海水、或いはリンまたは窒素を除いた培地中で保存することを特徴とする。本発明において、培地が、PESI培地であることが好ましい。 【0010】 また、上記発明に記載に方法によって保存されたはばのり配偶子について、はばのり葉状体を発芽させるための第1の方法は、窒素濃度が100μmol/L以上であり、リン濃度が5μmol/L以上であり、かつ窒素:リンの濃度比が2:1〜200:1の範囲の培地に移すことを特徴とする。このとき、窒素:リンの濃度比が10:1〜40:1の範囲であることが好ましい。 或いは、上記発明に記載の方法によって保存されたはばのり配偶子について、はばのり葉状体を発芽させるための第2の方法は、はばのり配偶子を30個/mL以下の密度の懸濁液とすることを特徴とする。 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば、はばのりの配偶子について、発芽や生長を抑制して、糸状体や盤状体のまま保存株として維持すると共に、適当な時期に発芽させることができる。この方法を用いれば、はばのりの配偶子を長期間に渡って保存させ、適当な時期に葉状体を得ることができるので、はばのり養殖に大きく貢献することができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0012】 次に、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。 【0013】 <材料および方法> 実験に用いた材料は、2004年2月8日に静岡県下田市において採集したはばのりの配偶体(葉状体)より得た。採集したはばのり葉状体を新聞紙に包み、冷蔵して三重大学生物資源学部藻類学研究室に持ち帰った。2月9日に研究室内で濾過海水中に浸すことにより、配偶子を放出させた。 培地には、PESI培地(Tatewaki, M. 1966. Formation of a crustaceous sporophytes with unilocular sporangia in Scytosiphon lomentaria. Phycologia 6: 62-66.)を改変して用いた。 【0014】 PESI培地原液の製造方法は、次の通りであった。300mL程度の蒸留水に下表1に記載の成分を順番に加え、十分溶解させ、pHを7.8に調整し、蒸留水で1000mLにメスアップした。なお、表1中のP-2 metal mix (*)の組成については、別途表2に示した。 このようにして調整したPESI培地原液を適当量に分注し、オートクレーブ処理(121℃、20分)により滅菌した。滅菌後のPESI培地原液は、4℃にて冷蔵保存した。 【0015】 【表1】
【0016】 【表2】
【0017】 PESI培地原液中の、窒素およびリン濃度を変化させて、8種類の改変PESI培地原液を調整した。これらの改変PESI培地原液を滅菌濾過海水996mLに対して4mL加え,さらにKI stock solutionを130μL添加することにより1/5濃度の改変PESI培地とした。KI stock solutionは,0.2mg/mLの濃度で100mL作成し,4℃で冷蔵保存したものを用いた。 これらの調整培地と滅菌濾過海水を実験に使用した。表3には、実験に用いた9種類の培地の窒素(N)濃度、リン(P)濃度、及び窒素:リン濃度比を示した。また、具体的な窒素源としては硝酸を、リン源としてはグリセロリン酸ナトリウムを用いた。なお、表3中の培地No.9(S.W.)は「海水」を示している。 【0018】 【表3】
【0019】 はばのり葉状体から放出された配偶子を培地No.1〜培地No.9のそれぞれの培地の中に入れ、配偶子密度が3800、760、152、30、6個体/mLの5段階になるよう調整した。これらの配偶子懸濁培地を、それぞれ5mLずつ培養プレートに入れて培養を行った。培養プレートの底面積は9.6cm2であった。また、全ての培養条件で、培養プレートは2枚ずつ用いた。葉状体の発芽率は、試験開始から7日おきに倒立顕微鏡を用いて観察し、原則として100個体以上の観察を行った。但し、1mL当たり6個体/mLの密度区においては、個体数が少なかったため、10個体〜30個体の観察とした。 【0020】 培養開始から96日目に、海水(培地No.9)を培地とした実験区のうちの1枚のプレートを改変PESI培地(培地No.1)の培地に変更し、その後の発芽率を測定した。 培養条件は、温度20℃、光周期12L:12D、光強度100μmol・m−2・s−1とし、培地は7日おきに交換した。 【0021】 <結果> 本実験では、ほぼすべての場合で糸状体あるいは盤状体から直接葉状体が生じた。 図3には、培養開始から8週間目における葉状体の発芽率と栄養塩密度および個体密度の関係を示した。図には、培地No.1、4、7、8、および9のみを示した。図より明らかなように、同じ培地を用いた場合には、個体密度が低いほど発芽率は高く、最も密度の低い6個体/mLでは海水中で培養した場合を除き、ほぼ全ての個体から葉状体が発芽した。また、リンが無い場合(培地No.7)の発芽率は、窒素もリンも含まない場合(培地No.8)と同程度であった。 【0022】 図4には、葉状体の発芽率と窒素及びリン濃度の比の関係を示した結果を示した。窒素:リンの比(N:P比)が20:1のときに最も発芽率は高くなった。また、同じ培地を用いた場合は、個体密度が低いほど発芽率は高かった。30個体/mLでは、窒素が0の培地(培地No.4)では発芽率がほぼ100%に達したのに対し、リンが0の培地(培地No.7)では発芽率は53%であった。培地No.7の結果は、窒素・リンともに0の培地(培地No.8)と同程度の結果であった。また、最も密度が高い3800個体/mLで発芽したのは、N:P比が20:1の培地(培地No.1)を用いた場合のみであった。 【0023】 培養開始から96日目に海水中(培地No.9)で培養していたはばのりの培養液を改変PESI培地(培地No.1)に変更して、葉状体の発芽に対する栄養塩添加の効果を調べた。結果を図5に示した。海水中の培養(培養日数が0日〜96日まで)では、6個体/mLおよび30個体/mLの低個体密度条件においてわずかに葉状体の発芽が見られるのみであったが、培地変更から13日後には、3800個体/mLの密度区を除いて、全ての個体から葉状体が発芽した。 【0024】 <考察> 本試験の結果、はばのりの葉状体発芽率は、窒素・リンの濃度、及び培養密度に依存していることが明らかになった。特に、リンの欠乏が発芽を抑制する作用が大きいと考えられた。 はばのりは、5℃〜20℃という広い水温において、日長の条件にかかわらず葉状体を形成する。このことは,はばのり葉状体が秋季から発芽可能であることを示している。しかし、材料を採集した下田市や三重県などの本邦中部域ではばのり葉状体が見られるのは冬季に限られている。一般に沿岸域においては、海水中の栄養塩濃度は夏季に低く、冬季に高くなることが知られている。はばのりの発芽は栄養塩濃度に影響されることから、はばのりが冬季にしか見られないのは、海水中の栄養塩濃度が影響しているのではないかと考えられた。 【0025】 はばのりの糸状体や盤状体を海水中で培養した場合、3ヶ月以上にわたってほとんど葉状体が発芽しなかった。しかし、培地を高栄養塩濃度のものに変更すると直ちに葉状体の発芽が見られた。このことから、はばのりの葉状体を発芽させずに糸状体や盤状体のまま保存株として維持することは、はばのりの培地及び培養密度の制御によって可能となることが示された。 【0026】 具体的には、例えば1mLあたり150個以上の配偶子懸濁液を作成し、海水中あるいは窒素とリンを抜いたPESI培地中で保存をする。葉状体を得る際は、細片にした保存株を窒素とリンを添加した培地に移す。或いは、単に細片にした保存株を低密度にするだけでも葉状体を得ることが可能である。 海藻養殖に必要な保存株の制御には、温度・光などの物理的要因を用いることが多い。本研究で開発された手法は、栄養塩濃度と個体密度で制御する点でユニークである。特に、保存株の密度による手法は非常に簡単であり、はばのりの養殖技術に貢献すると考える。 【図面の簡単な説明】 【0027】 【図1】はばのりの葉状体を示す写真図である。 【図2】はばのりの生活史を説明するための図である。 【図3】はばのり葉状体の発芽に対して、栄養塩密度と個体密度が与える影響を示すグラフである。 【図4】はばのり葉状体の発芽に対して、窒素:リン比が与える影響を示すグラフである。 【図5】はばのり葉状体の発芽に対して、栄養塩添加の影響を確認した結果を示すグラフである。
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| 【出願人】 |
【識別番号】504208463 【氏名又は名称】尾鷲市
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| 【出願日】 |
平成18年1月26日(2006.1.26) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100108280 【弁理士】 【氏名又は名称】小林 洋平
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| 【公開番号】 |
特開2007−195460(P2007−195460A) |
| 【公開日】 |
平成19年8月9日(2007.8.9) |
| 【出願番号】 |
特願2006−18109(P2006−18109) |
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