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【発明の名称】 植物病害の治療方法および治療装置
【発明者】 【氏名】豊田 秀吉

【氏名】松田 克礼

【氏名】東 勝秀

【氏名】太田 喜章

【氏名】野々村 照雄

【氏名】角谷 晃司

【氏名】草刈 眞一

【要約】 【課題】環境問題の恐れがなく、植物体の健全な領域の損傷を最小限に抑えながら、植物体の病原菌を死滅させる植物病害の治療方法および治療装置を提供する。

【解決手段】電極7と植物体1とに直流の高電圧を印加して、電極7および/または植物体1に静電気を荷電することにより、電極7と植物体1の間にコロナ放電を生じさせて、植物体1に付着または発生した植物病原菌を死滅させ、更に、電極7と植物体1との間の距離を、印加電圧に基づいて、植物病原菌を死滅させるが、植物体1のコロナ放電がおよぶ領域を枯死させることがないような範囲で定める植物病害の治療方法、及び治療装置を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と植物体とに直流の高電圧を印加して、前記電極および/または前記植物体に静電気を荷電することにより、前記電極と前記植物体の間にコロナ放電を生じさせ、前記植物体に付着または発生した植物病原菌を死滅させることを特徴とする植物病害の治療方法。
【請求項2】
前記電極と前記植物体との間の距離が、前記電極と前記植物体とに印加された電圧に基づいて、前記植物病原菌を死滅させるが、前記植物体の前記コロナ放電がおよぶ領域を枯死させることがないような範囲で定められることを特徴とする請求項1に記載の植物病害の治療方法。
【請求項3】
前記電極が開口部を有する不導体からなる遮蔽部材の内部に収容され、前記開口部を介して前記電極と前記植物体の間にコロナ放電を生じさせることを特徴とする請求項1または2に記載の植物病害の治療方法。
【請求項4】
前記開口部が、前記植物体の病害感染部位に対応した大きさ及び形状を有することを特徴とする請求項3に記載の植物病害の治療方法。
【請求項5】
前記コロナ放電がブラシコロナ放電であることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の植物病害の治療方法。
【請求項6】
開口部を有する不導体からなる遮蔽部材と、
前記遮蔽部材の内部に収容された電極と、
前記電極と植物体とに所定の高電圧を印加する高電圧印加手段と、
を備え、
前記開口部を介して前記電極と前記植物体の間にコロナ放電を生じさせて、前記植物体に付着または発生した植物病原菌を死滅させることを特徴とする植物病害の治療装置。
【請求項7】
前記電極と前記植物体との間の距離を変更するための距離変更手段を更に備えたことを特徴とする請求項6に記載の植物病害の治療装置。
【請求項8】
前記電極と前記植物体とに印加する電圧を変更するための電圧変更手段を更に備えたことを特徴とする請求項6または7に記載の植物病害の治療装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、植物体の病害感染部位に存在する菌糸、胞子および/または胞子柄をコロナ放電により死滅させることにより植物病害を治療する方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物病原菌(主にカビ)は、植物体の葉、茎、果実および根など様々な部位から感染する。多くの植物病原菌は、葉や茎など植物体の地上部表面に次世代胞子を形成し、風や湿気、雨等を介して周辺の植物に伝播する。
農園芸用植物の栽培においては、植物病害の発生を防止する目的で多くの殺菌剤が使用されている。しかし、植物病原菌が比較的短期間で薬剤耐性を獲得することや、植物によっては使用可能な薬剤の種類が限られていることなどにより、薬剤の利用だけで農園芸用植物全般の植物病害を完全に防除することは困難である。
【0003】
市販されている化学合成品由来の殺菌剤としては、チオファネートメチル剤等のベンゾイミダゾール系殺菌剤、メプロニル剤等の酸アミド系殺菌剤、トリフルミゾール剤等のステロール合成阻害剤、アゾキシストロビン剤等のメトキシアクリレート系殺菌剤等がある。これらの殺菌剤はいずれも耐性菌の出現が問題となっており、農薬の散布回数の増加を招く原因のひとつとなっている。
市販されている天然物由来の殺菌剤としては、酢酸、硫黄剤、マシン油剤、なたね油剤等がある。これらの剤はいずれも植物病原菌に対して耐性を誘導しないが、化学合成品由来の殺菌剤と比較して薬効が低く、また高濃度での散布が必要なため薬害が問題となるものが多い。
【0004】
農園芸用植物への殺菌剤の施用は、植物病原菌に感染した植物体やその病害感染部位だけでなく、圃場全体に対して行われる。したがって、施用対象の農園芸用植物以外の植物や土壌、近隣の農業用水や河川等にも薬剤が移行する可能性が高い。
【0005】
一方、工業分野においては、殺菌剤を用いずに、物品の表面に発生した細菌類、カビ類等の微生物を死滅させるため、パルス放電を用いた殺菌装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、移動不可能な物品に対しても殺菌処理を行なうことができるようにするため、小型の放電装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭63−318947号
【特許文献2】特開平11−047240号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の装置は、何れも、物品の表面に存在する微生物を死滅させることを目的とするものであって、特許文献1には、電極と電極の間にパルス状の高電圧を印加して被処理物の殺菌を行なうことが記載され、特許文献2には、誘電体によって被覆された放電線に交流電圧を印加して、被覆放電線を被処理物に接触または摺接移動させて殺菌を行なうことが記載されている。もし、このようなパルス状の高電圧や交流電圧を印加した装置を、病害が発生した植物体に適用した場合には、電圧、電流が大きく変動して安定性を欠く放電を繰り返すことになり、病害感染部位の微生物だけでなく、その部分の植物体自体に大きな損傷を与えてその部分の植物体自体を枯死させる恐れがあり、引いては植物体全体を枯死させる恐れがある。
【0007】
更に、特許文献1及び特許文献2に記載された装置では、コロナ放電がおよぶ範囲を制限する機構は有していないので、コロナ放電がおよぶ範囲が広範囲に広がるため、もし、これらの装置を病害が発生した植物体に適用した場合には、病害感染部位だけでなく、その周囲にもコロナ放電がおよんで、植物体の放電がおよんだ領域に大きな損傷を与えてその領域を枯死させる恐れがあり、引いては植物体全体を枯死させる恐れがある。
【0008】
従って、本発明の目的は上記の問題を解決して、環境問題の恐れがなく、植物体の健全な領域の損傷を最小限に抑えながら、植物体の病原菌を死滅させる植物病害の治療方法および治療装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような目的を解決するため、本発明の植物病害の治療方法の1つの実施態様はは、電極と植物体とに直流の高電圧を印加して、前記電極および/または前記植物体に静電気を荷電することにより、前記電極と前記植物体の間にコロナ放電を生じさせ、前記植物体に付着または発生した植物病原菌を死滅させることを特徴とする。
【0010】
ここで、「植物体に付着または発生した植物病原菌」とは、植物体に付着した植物病原菌の胞子や、植物体に発生した植物病原菌の菌糸、胞子および/または胞子柄が考えられる。つまり、本治療方法では、既に発病した植物病害の治療だけでなく、今後発病の恐れがある植物病害の予防の処置をとることもできる。
【0011】
また、「電極」の材料としては、高電圧の荷電または帯電が可能な導体であれば、あらゆる材料を用いることができ、例えば、銅、アルミニウム、ステンレス、鉄、タングステン等が考えられる。電極の形状も、植物体の病害感染部位との間で放電が可能であればあらゆる形状を用いることができ、例えば、平板状、円筒状、球面状、線状の形状や、突起状または針状といった鋭部を有する形状が考えられる。ただし、放電の効率を考慮すれば、電極の放電部分の形状は線状または先鋭であることが好ましく、細線または鋭部を複数有するものがより好ましい。
また、「高電圧」とは、電極と植物体との間でコロナ放電が起こる電圧を意味し、電圧が高すぎるときには、火花放電等により植物に障害を起こす場合がある。例えば、1〜100kVが考えられ、5〜80kVが好ましく、10〜50kVがより好ましいといえる。高電圧については、電圧値を常に一定値に設定することもできるし、電圧値を状況に合わせて変更することもできる。また、治療中に、電圧値を最適値に変更することも考えられる。
【0012】
本実施態様では、電極または植物体の一方に高電圧の静電気を荷電するか、または電極および植物体に、両者間に高い電位差が生じるように(例えば、異なる極性の)静電気を荷電することによって、コロナ放電を生じさせる。更に詳細に述べれば、例えば、高圧電気発生装置を用いて、マイナスの高電圧を植物体に荷電し、電極を接地(アース)するまたは高圧電気発生装置の陽極に接続することが考えられる。同様に、高圧電気発生装置を用いてマイナスの高電圧を電極に荷電し、植物体を接地(アース)するまたは高圧電気発生装置の陽極に接続することが考えられる。植物体をマイナス荷電したときには、植物体に陰極コロナが発生し、電極をマイナス荷電したときには、植物体に陽極コロナが発生する。
【0013】
以上のように、電極または植物体に荷電するときの極性は、用途、設置する方法や場所等により好ましい極性を選ぶことができる。なお、交流電圧やパルス状の電圧を印加することは、放電の安定性に欠け、植物体の放電がおよんだ領域を枯死させ、引いては植物体全体を枯死させる恐れがあるので好ましくない。また、コロナ放電や火花放電が起きる条件としては、放電を起こすものの形状、放電を起こすものの間に印加された電圧の大きさ、及び放電を起こすものの間の距離が重要な要素となる。
【0014】
本実施態様における菌糸とは、菌類の栄養体を構成する糸状の細胞列のことであり、胞子とは、農園芸用植物に病気を感染させるもので、外生胞子(分生子)、胞子嚢(内生胞子を含む)、硬膜胞子等が含まれる。また、胞子柄とは、胞子を産生する器官のことである。本実施態様の治療対象となるものとして、例えば、うどんこ病、菌核病、および灰色カビ病等が考えられる。
【0015】
本実施態様では、植物体の健全な領域の損傷を抑えながら、効果的に植物体に発生した植物病原菌の菌糸、胞子および/または胞子柄を死滅させることができる。つまり、植物体に障害を与えることを最小限に抑えて病害の発生を見かけ上予防することができ、更に早期治療も可能である。また、感染部位の拡大を抑制することもできる。
【0016】
本発明の植物病害の治療方法のその他の実施態様は、前記電極と前記植物体との間の距離が、前記電極と前記植物体とに印加された電圧に基づいて、前記植物病原菌を死滅させるが、前記植物体の前記コロナ放電がおよぶ領域を枯死させることがないような範囲で定められることを特徴とする。
【0017】
ここで、「電極と植物体との間の距離」とは、放電を生じる電極の放電部、例えば、針状の形状を有する電極であればその先端部と、放電を生じる植物体の表面、例えば、葉面や円筒状の茎の表面との間の距離を意味する。
コロナ放電や火花放電が起こる条件は、放電を起こすものの形状、放電を起すものの間に起印加された電圧の大きさ、及び放電を起こすものの間の距離が重要な要素となる。もし、一定の形状を有する電極を用いて、電極と植物体とに一定の電圧を印加した場合に、離隔位置から電極と植物体との間の距離を縮めていくと、ある距離に達したところで放電が開始され、更に距離を縮めていくにつれて、より高いエネルギを有する放電に移行していき、最終的に火花放電が開始される。ここで、放電が開始されてから火花放電が開始されるまでの間の領域では、コロナ放電が生じていると考えられる。このコロナ放電が生じている領域において、電極と植物体との間の距離が離れた比較的小さなエネルギを有する放電では、植物の病原菌を死滅させるだけの効力は有していない。更に電極と植物体との間の距離を縮めて、より高いエネルギを有する放電に移行させることによって、植物体のコロナ放電がおよぶ領域の損傷を最小限に抑えてその領域が枯死することを防止しつつ、病原菌を死滅させる効力を有するようになる。そして、更に電極と植物体との間の距離を縮めていくと、最終的に火花放電が生じて、植物体のコロナ放電がおよぶ領域を大きく損傷させて枯死させることになる。
【0018】
本実施態様では、所定の形状の電極を用いた場合に、印加電圧に応じて、植物病原菌は死滅させるが、植物体のコロナ放電がおよぶ領域を枯死させることがないような範囲で、最適な電極と植物体との間の距離を定めることによって、植物体の損傷を最小限に抑えながら、効果的に病原菌を死滅させることができる。
【0019】
本発明の植物病害の治療方法のその他の実施態様は、前記電極が開口部を有する不導体からなる遮蔽部材の内部に収容され、前記開口部を介して前記電極と前記植物体の間にコロナ放電を生じさせることを特徴とする。
【0020】
ここで、「不導体」としては、電気を通さないもの即ち絶縁体と言われているものであればあらゆる材料を用いることができ、例えば、アクリル、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ウレタン、ポリエステル、レーヨン、セルロース、ゴム等が考えられる。
【0021】
また、「開口部を有する遮蔽部材」とは、電極を囲むことができて一部に開口を備えた中空領域を有する部材を意味する。この開口部を介して、遮蔽部材に囲まれた電極と、遮蔽部材の外部にある植物体との間でコロナ放電を生じさせることができる。この遮蔽部材の形状としては、例えば、端部が開放された筒状または柱状の部材、一部に開口部が設けられた球状またはボックス状の部材等が考えられる。
電極が「遮蔽部材の内部に収容される」とは、電極が開口部を除いて遮蔽部材で囲まれた状態にあることを意味し、電極の少なくとも一部が遮蔽部材と接触している場合も含まれるし、電極と遮蔽部材が接触していない場合も含まれる。
【0022】
電極から発生するコロナ放電(陽極、陰極コロナ共に含む)は、遮蔽部材を通過できずに、遮蔽部材に設けられた開口部を通って、遮蔽部材の外部に存在する植物体へ達する。従って、植物体の開口部の形状に対応した領域にだけ、コロナ放電がおよぶことになるので、植物体の病害感染部位に存在する菌糸、胞子および/または胞子柄を死滅させるが、その周囲の植物体の健全な領域に損傷を与えることを最小限に抑えることができる。また、電極が不導体の遮蔽部材に囲まれているので、感電事故の発生を防ぎ、また、遮蔽部材の内壁によってコロナ放電の進路もガイドされるので、効率よいコロナ放電を行なうことができる。
【0023】
以上のように、本実施態様によれば、コロナ放電を植物体の病害感染部位を対象として使用することができるので、植物体に障害を与えることを最小限に抑えて病害の発生を見かけ上予防することができ、更に早期治療も可能である。また、感染部位の拡大を抑制することもできる。
【0024】
本発明の植物病害の治療方法のその他の実施態様は、前記開口部が、前記植物体の病害感染部位に対応した大きさ及び形状を有することを特徴とする。
【0025】
「病害感染部位に対応した大きさ及び形状」とは、病害感染部位にコロナ放電をおよぼすときに、病害感染部位以外の植物体の健全な部位に不必要なコロナ放電がおよぶのを抑制するため、開口部が、病害感染部位に応じた適切な大きさや形状を有することを意味する。
上記のように、本発明の植物病害の治療方法は、静電気を荷電することによってコロナ放電を生じさせ、また、電極と植物体との間の距離を、植物病源菌は死滅させるが植物体のコロナ放電がおよぶ領域を枯死させることがない最適な値に定めることによって、植物体の損傷を最小限に抑えながら、効果的に病原菌を死滅させることができる。
【0026】
本実施態様では、更に、開口部が、植物体の病害感染部位に対応した大きさ及び形状を有しているので、植物体の病害感染部位に対応した領域にコロナ放電がおよぶことになり、植物体の健全な領域に損傷を与えることを最小限に抑えながら、確実に、菌糸、胞子および/または胞子柄を死滅させることができる。もし、病害感染部位が開口部よりも広い場合には、放電が同じ場所に重複しておよばないように、開口部の位置をずらしながらコロナ放電を繰り返すことによって、植物体の健全な領域の損傷を最小限に抑えながら、病原菌を死滅させることができる。
【0027】
本発明の植物病害の治療方法のその他の実施態様は、前記コロナ放電がブラシコロナ放電であることを特徴とする。
【0028】
コロナ放電や火花放電が起こる条件は、上記のように、放電を起こすものの形状、放電を起こすものの間に起印加された電圧の大きさ、及び放電を起こすものの間の距離が重要な要素となる。一定の形状を有する電極を用いて、電極と植物体とに一定の電圧を印加した場合に、離隔位置から電極と植物体との間の距離を縮めていくときに生じる放電を、放電の一般的な分類に応じて説明すると、ある距離に達したときに、グローコロナ放電が起こり、次に、より高いエネルギを有するブラシコロナ放電が起こり、更に近づけていくと、最終的に火花放電が起こる。
コロナ放電のうち、ブラシコロナ放電は、グローコロナ放電より更に高いエネルギを有するので、植物体のコロナ放電がおよんだ領域を枯死させることなく、植物体に発生した植物病原菌の菌糸、胞子および/または胞子柄をより効果的に死滅させることができる。
【0029】
本発明の植物病害の治療装置の1つの実施態様は、開口部を有する不導体からなる遮蔽部材と、前記遮蔽部材の内部に収容された電極と、前記電極と植物体とに所定の高電圧を印加する高電圧印加手段と、を備え、前記開口部を介して前記電極と前記植物体の間にコロナ放電を生じさせて、前記植物体に付着または発生した植物病原菌を死滅させることを特徴とする。
【0030】
本実施態様では、植物体の病害感染部位に存在する菌糸、胞子および/または胞子柄を死滅させるが、植物体の健全な他の領域に損傷を与えることを最小限に抑えることができる小型の治療装置を実現することができる。
また、「所定の高電圧」については、電圧値を常に一定値に設定することもできるし、電圧値を状況に合わせて変更することもできる。また、治療中に電圧値を適正値に変更することも考えられる。
【0031】
本発明の植物病害の治療装置のその他の実施態様は、前記電極と前記植物体との間の距離を変更するための距離変更手段を更に備えたことを特徴とする。
【0032】
ここで、「距離変更手段」は、電極と植物体との間の距離を変更することができるものであれば、あらゆる手段を用いることができる。例えば、ネジやスクリューを用いて電極の位置を移動させる機構を用いることもできるし、異なる寸法の複数のスペーサブロックを用意して、スペーサブロックを変更することによって、電極の位置を移動させる構造を用いることもできる。また、ソレノイド、シリンダ、電動モータを始めとするアクチュエータを用いて、電極の位置を移動させる機構を備えることもできる。この場合には、制御装置を備えて、この制御装置に、電極の形状、印加電圧等に基づいた演算式を記憶させて、電極の位置を自動的に変更する制御を行なうことも考えられる。また、電極と植物体との間の電圧や電流等を計測して、検出データに基づくフィードバック制御を行なうことも考えられる。
【0033】
本実施態様では、電極と植物体との間の距離を変更する距離変更手段を備えることによって、電極の形状や電極と植物体との間の印加電圧等に応じた、電極と植物体との間の最適な距離を設定することができ、常に安定した効果的なコロナ放電を実現することができる。
【0034】
本発明の植物病害の治療装置のその他の実施態様は、前記電極と前記植物体とに印加する電圧の値を変更するための電圧変更手段を更に備えたことを特徴とする。
【0035】
本実施態様では、電圧変更手段によって、電極と植物体とに印加する電圧の値を所望の値に変更することができるので、電極の形状や電極と植物体との間の距離に応じた、電極と植物体と間の最適な電圧を設定することができ、常に安定した効果的なコロナ放電を実現することができる。
また、本実施態様においては、電流値を計測して、その検出データに基づいて、最適な放電状態となるように電圧値を変更するフィードバック制御を行なうことも考えられる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の植物病害の治療方法および治療装置においては、植物病原菌の胞子および/または胞子柄等をコロナ放電により死滅させる場合に、植物体の病害感染部位のみを対象として使用することができるので、植物体に障害を与えることを最小限に抑えて病害の発生を見かけ上予防することができ、更に早期治療も可能である。また、感染部位の拡大を抑制することもできる。また、環境に負荷を与えることなく植物病害を治療することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。
(本発明の植物病害の治療方法の説明)
始めに、本発明の植物病害の治療方法の一実施形態の説明を行なう。本実施形態では、電極と植物体とに高電圧を印加して、コロナ放電により、植物体に付着または発生した植物病原菌を死滅させる植物病害の治療方法を示す。ここで、植物体に付着または発生した植物病原菌とは、植物体に付着した植物病原菌の胞子や、植物体に発生した植物病原菌の菌糸、胞子および/または胞子柄が考えられる。つまり、本実施形態では、既に発病した植物病害の治療だけでなく、今後発病の恐れがある植物病害の予防の処置をとることもできる。
具体的には、植物体の養土部分もしくは植物体の茎部分に、高電圧印加手段の一部である高圧電気発生装置のプラスまたはマイナスの端子を接続して荷電させ、電極を植物体の荷電と逆に帯電させることにより、植物病害の治療方法を行なうことができる。また、電極に高圧電気発生装置のプラスまたはマイナスの端子を接続して荷電させ、植物体の養土部分もしくは植物体の茎部分を、電極の荷電と逆に帯電させることにより、植物病害の治療を行なうこともできる。なお、ここで荷電とは積極的に高電圧をチャージさせることを意味し、帯電とは誘導されて高電圧になる状態を意味する。
【0038】
更に詳細にいえば、高圧電気発生装置を用いてマイナスの高電圧を植物体に荷電したとき、電極を接地(アース)とするまたは高圧電気発生装置の陽極に接続することが考えられる。または、高圧電気発生装置を用いてマイナスの高電圧を電極に荷電したとき、植物体を接地(アース)とするまたは高圧電気発生装置の陽極に接続することが考えられる。つまり、植物体にマイナス荷電したときには、植物体に陰極コロナが発生し、電極にマイナス荷電したときには、植物体に陽極コロナが発生する。
【0039】
植物体または電極を荷電するときの極性は、用途、設置する方法や場所等により好ましい極性を選ぶことができるが、実際に治療を行なうときの治療装置のセッティングの容易性等を考慮すれば、植物体を接地して電極をマイナス荷電した方が好ましいといえる。また、コロナ放電には、グローコロナ放電とブラシコロナ放電が含まれる。この中では、より高いエネルギを有するブラシコロナ放電を用いる方が望ましいといえるが、あまり高い電圧を印加すると、火花放電が起きる恐れがある。コロナ放電や火花放電が発生する条件に関しては、図3、4を用いて後述する。
なお、電極と植物体とに交流電圧やパルス状の電圧を印加することは、本発明のような静電気を荷電する場合と比べて、安定した放電が生じないため、植物体の放電がおよんだ領域を損傷、枯死させる恐れが高く望ましいものではない。
【0040】
ここで、本実施形態おける菌糸とは、菌類の栄養体を構成する糸状の細胞列のことである。また胞子とは、農園芸用植物に病気を感染させるもので、外生胞子(分生子)、胞子嚢(内生胞子を含む)、硬膜胞子等が含まれる。また胞子柄とは、胞子を産生する器官のことである。
【0041】
本実施形態の対象となる植物病害としては、例えば、うどんこ病(トマト、ナス、ピーマン、ムギ類、キュウリ、メロン、スイカ、豆類、ブドウ、イチゴ、バラ等)、菌核病(トマト、ナス、キュウリ、スイカ、ダイコン、ハクサイ、キャベツなど)、および灰色カビ病(トマト、ナス、ピーマン、キュウリ、カボチャ、イチゴ、エンドウ、インゲン、タマネギ、ネギ等)、葉かび病(トマト等)、さび病(ネギ、タマネギ、ニラ、アスパラガス、レタス等)が挙げられる。
【0042】
(本発明の植物病害の治療装置の実施形態の説明)
本発明の植物病害の治療装置の一実施形態を、図1に示す。
本実施形態の治療装置5は、不導体からなる両端が開口された筒状の遮蔽部材6と、先端部7の近傍を除いてケース10で覆われた電極7と、電極7の後端に接続されたアース線12と、電極7の先端部7aと遮蔽部材6の先端部6aとの間の距離を変更するための距離変更手段9と、植物体1にマイナスの高電圧を荷電するための高圧電気発生装置8と、高圧電気発生装置8と植物体1を電気的に接続する接続部材11と、を備える。接続部材11は、高圧電気発生装置8から伸びたケーブル11bと、ケーブル11bの先端に接続された端子11aとから構成される。また、高圧電気発生装置8、接続部材11、及びアース線12は、電極7と植物体1とに高電圧を印加する高電圧印加手段を構成する。
また、植物体1は、樹脂性のポット4に植えられており、その茎部に植物病原菌の胞子柄2および胞子3が発生している。
【0043】
本実施形態では、遮蔽部材6はアクリル樹脂からなり、両方の端部が開放された筒状の形状を有している。原則として、遮蔽部材6の先端部6aを、植物体1の病害感染部位(胞子柄2、胞子3が発生した部位)と接触させた状態で、コロナ放電を起して治療を行なう。
電極7は、銅製の棒の先端を針状に尖らせて形成され、先端部7aの近傍を除いて、アクリル樹脂からなるケース10に覆われ、電極7とケース10は接触状態にある。電極7を覆ったケース10は、遮蔽部材6の後端側の開口部から、遮蔽部材6の外部へ突出している。また、電極7に電気的に接続されたアース線12は接地されている。高圧電気発生装置8から伸びたケーブル11bの先端に取り付けられたクリップ状の端子11aが、植物体1の茎部に取り付けられ、高圧電気発生装置8と植物体1は電気的に接続されている。この高圧電気発生装置8は、設定電圧値を変更する機能を有しているので、植物体1と電極7との間の印加電圧を所望の値に変更することができる。
【0044】
電極7はケース10の略中央に配置され、ケース10は筒状の遮蔽部材6の略中央に配置されるので、電極7は、筒状の遮蔽部材6の略中央に配置されているといえる。また、ケース10の外径と、筒状の遮蔽部材6の内径との間には、スクリューネジから構成される距離変更手段9が設けられており、ケース10と筒状の遮蔽部材6とを回転させることによって、ケース10と遮蔽部材6とを相対的に移動させることができる。従って、距離変更手段9によって、電極7の針状の先端部7aと遮蔽部材6の先端部6aとの間の距離を、所望の値に変更することができるので、電極7の先端部7aと植物体1の病害感染部位との間の距離を、印加電圧応じた最適な値に正確に設定することができる。通常、植物体1にコロナ放電をおよぼすときには、遮蔽部材6の先端部6aを植物体1の病害感染部位と接触させて用いるので、電極7の先端部7aと遮蔽部材6の先端部6aとの間の距離と、電極7の先端部7aと植物体1の病害感染部位との間の距離は一致する。
なお、上述のように、印加電圧を所望の値に変更できるので、先端部7aと植物体1の病害感染部位との間の距離を一定にしておいて、その距離に応じた最適な電圧値に変更することもできる。
【0045】
この治療装置5において、電極7の先端部7aの形状、植物体1に荷電する電圧値(マイナス)、電極7の先端部7aと植物体病害感染部位の距離を適切に設定することによって、安定したコロナ放電を生じさせることができる。また、遮蔽部材6の内径が、植物体1の病害感染部位の大きさに対応するような大きさになっており、図1では、先端部6aに設けられた開口部が、病害感染部位の胞子柄2および胞子3をカバーしている。
【0046】
以上の設定において、コロナ放電を行なうことにより、植物体1の病害感染部位の胞子柄2および胞子3を死滅させることが可能であり、遮蔽部材6の先端部6aを植物体1に接触させても障害を与えることなく、かつ、遮蔽部材6によってガイドされるため、コロナ放電が病害感染部位以外の植物体1の健全な他の領域におよばないので、植物体1の損傷を最小限に抑えることができる。
なお、植物体1の病害感染部位が遮蔽部材6の内径より大きい場合には、遮蔽部材6の位置をずらしてコロナ放電を繰り返すことによって、植物体1の損傷を最小限に抑えながら、病原菌を死滅させることができる。
先端部が針状の形状の電極7を用いた場合の、電極7と植物体1との間の印加電圧に応じた、電極7の先端部7aと植物体病害感染部位の間の最適な距離についは、図4を用いて後述する。
【0047】
なお、図1では、病害感染部位の胞子柄2および胞子3が模式的に大きく描かれているが、植物体1の茎部の表面から突出している距離は、電極7の先端部7aからの距離に比べてきわめて小さいものである。
【0048】
(本発明の治療装置のその他の実施形態の説明)
上記の実施形態では、銅製の電極7を用いているが、これに限定されるものではなく、高電圧を荷電または帯電することができる導体であれば、あらゆるものを用いることができる。例えば、アルミニウム、ステンレス、鉄、タングステン等を用いることもできる。
また、上記の実施形態では、電極の先端の形状が針状になっているが、コロナ放電を生じる形状であれば、あらゆる形状を用いることができる。例えば、平板状、円筒状、球面状の形状、線状や、突起状または針状といった鋭部を有する形状が考えられる。ただし、効率よく放電できるという観点からは、電極の放電部分の形状は線状または先鋭であることが好ましく、細線または鋭部を複数有するものがより好ましいといえる。
【0049】
また、上記の実施形態では、不導体からなる遮蔽部材6の材料として、アクリル樹脂が用いられているが、これに限定されるものではなく、絶縁体であればどのような材料でも用いることができる。例えば、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ウレタン、ポリエステル、レーヨン、セルロース、ゴム等が考えられる。
【0050】
また、上記の実施形態では、遮蔽部材6が端部に開口部を有する円筒状の形状を有しているが、これに限定されるものではなく、電極を囲むことができ少なくとも一部に開口を有する中空領域を有する形状であれば、あらゆる形状を用いることができる。
例えば、図2(a)に示すような両端が開口された柱状の形状や、図2(b)に示すような一部に開口部の設けられた内部が中空の球状の形状や、図2(c)に示すような一部に開口部の設けられた内部が中空のボックス状の形状も考えられる。
また、図2(d)に示すように、開口部の位置と電極7の向きとが異なる配置も考えられ、開口部を複数設けることも考えられる。なお、開口部のない遮蔽部材を用いて、電極を完全に囲む場合には、病害感染部位への放電が起こらなくなるため採用することはできない。
【0051】
上記の実施形態では、電極を接地させて、植物体にマイナスの電圧を荷電させているが、これに限定されるものではなく、植物体を接地させて、電極にマイナスの電圧を荷電させることもできる。また、電極と植物体の間にコロナ放電が生じる一定の電位差が生じるように静電気を荷電するものであれば、その他のあらゆる形態を適用することができる。例えば、電極と植物体の一方にプラスの電圧を荷電し、他の電極を接地することも考えられるし、電位差が生じるように、電極及び植物体に静電気を荷電することも考えられる。
【0052】
また、図1では、電極7が収容された遮蔽部材6の部分と、高圧電気発生装置8の部分とが、別の場所に設置されている実施形態が示されているが、電極7が収容された遮蔽部材6の部分に高圧電気発生装置8を組み込んで、一体型の小型治療装置5を形成することもできる。
【0053】
(コロナ放電、火花放電の発生条件の説明)
上記のようにコロナ放電や火花放電を発生させる条件は、電極の形状、電極と植物体とに印加する電圧の大きさ、及び電極と植物体との間の距離に大きく影響される。
ここで、針状の電極と平板状の電極とを用いて行なった放電試験の結果の一例を図3に示す。図3は、両電極間の印加電圧と距離との関係を模式的に表したグラフであって、縦軸に電極間に印加する電圧の大きさを示し、横軸に電極間の距離を示す。
【0054】
このグラフにおいて、例えば、電極間の距離を一定にして、電極間に印加する電圧を徐々に大きくしていくと、暗流の状態に引き続いて、グローコロナ放電が起こり、次いで、より高いエネルギを有するブラシコロナ放電が起こり、最終的に火花放電が起こる。同様に、電極間に印加する電圧を一定にして、電極間の距離を離隔位置から徐々に近づけていくと、電極間に20kV前後を下回る電圧を印加する場合には、暗流の状態に引き続いて、グローコロナ放電が起こり、次いで、より高いエネルギを有するブラシコロナ放電が起こり、最終的に火花放電が起こる。また、電極間に20kV前後を上回る電圧を印加する場合には、離隔位置(距離が26cm前後)からグローコロナ放電は起こり、電極間に60kV前後を上回る電圧を印加する場合には、離隔位置(距離が26cm前後)からブラシコロナ放電は起こる。
上記の試験では、導体からなる電極間で放電が行なわれているが、本発明の治療装置を用いた場合には、導体からなる針状の電極と、平板状または円筒状とみなされる植物体との間で放電が行われるので、若干放電が起こりにくい傾向とはなるが、基本的な特性は同一であると考えられる。
【0055】
次に、図1に示す本発明の治療装置5を用いて、植物体1の葉面に放電させた場合の、オオムギうどんこ病に対する試験結果を図4に示す。なお、図4の横軸は、葉面からの距離(mm)を示す。この試験では、治療装置5の電極7を接地(アース)して、高圧電気発生装置8により、植物体1にマイナス5kV、マイナス10kV、及びマイナス20kVの高電圧を荷電して試験を行なった。各々の電圧において、針状の電極7の先端部7aと葉面上の病害感染部位との間の距離を様々な値に変化させて、放電の状態及び葉面の病害感染部位の治癒の状態を調べた。
試験は暗室内で行ない、目視で放電の開始及び火花放電の開始を確認した。試験において、電極7の先端部7aと葉面上の病害感染部位との間の距離を離隔位置から徐々に近づけていくと、目視で放電の開始が確認され、次に、目視で火花放電の開始が確認されるまでの間は、火花放電よりは弱い放電がほぼ安定的に行なわれていた。この領域では、コロナ放電が発生していると考えられる。
【0056】
植物体1にマイナス5kVを荷電した場合には、図4(a)に示すように、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との間の距離が、9mmに達したときに放電が起こり、距離が4mmに達したときに、火花放電が起こった。ここで、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との間の距離が4〜9mmの間では、コロナ放電が生じていると考えられる。このコロナ放電が起こる4〜9mmの距離の間で、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との間の距離を様々に変化させて、繰り返し試験を行なった。その結果、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との距離が4〜6mmの間の範囲で、病害感染部位の病原菌に変化が見られ、コロナ放電による殺菌効果が確認できた。一方、電極7の先端部7aと病害感染部位との距離が、6〜9mmの間の範囲では、病害感染部位の病原菌に変化が見られなかった。
【0057】
同様にして、植物体1にマイナス10kVを荷電した場合には、図4(b)に示すように、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との間の距離が11mmに達したときに放電が起こり、距離が6mmに達したときに、火花放電が起こった。ここで、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との間の距離が6〜11mmの間では、コロナ放電が生じていると考えられる。このコロナ放電が起こる6〜11mmの距離の間で、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との間の距離を様々に変化させて、繰り返し試験を行なった。その結果、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との距離が6〜9mmの間の範囲で、病害感染部位の病原菌に変化が見られ、コロナ放電による殺菌効果が確認できた。一方、電極7の先端部7aと病害感染部位との距離が、9〜11mmの間の範囲では、病害感染部位の病原菌に変化が見られなかった。
【0058】
同様にして、植物体1にマイナス20kVを荷電した場合には、図4(c)に示すように、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との間の距離が21mmに達したときに放電が起こり、距離が15mmに達したときに、火花放電が起こった。ここで、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との間の距離が15〜21mmの間では、コロナ放電が生じていると考えられる。このコロナ放電が起こる15〜21mmの距離の間で、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との間の距離を様々に変化させて、繰り返し試験を行なった。その結果、電極7の先端部7aと葉面の病害感染部位との距離が15〜17mmの間の範囲で、病害感染部位の病原菌に変化が見られ、コロナ放電による殺菌効果が確認できた。一方、電極7の先端部7aと病害感染部位との距離が、17〜21mmの間の範囲では、病害感染部位の病原菌に変化が見られなかった。
【0059】
上記の試験結果をまとめると、植物体にマイナス5kVを荷電した場合に、4〜6mmの距離において殺菌効果が確認され、植物体にマイナス10kVを荷電した場合に、6〜9mmの距離において殺菌効果が確認され、植物体にマイナス20kVを荷電した場合に、15〜17mmの距離において殺菌効果が確認された。これらの結果を実験式でまとめれば、例えば、印加電圧が5〜20kV前後の範囲において、下式に示す範囲(距離)で殺菌効果を有すると考えられる。
殺菌効果を有する範囲(距離)L =L1 ± 1〜1.5 (mm)
中心距離L1 =0.056V1.79+4(mm)
印加電圧V: 印加電圧 (kV)
この実験式の計算結果を下表に示す。なお、下表ではL=L±1(mm)として計算した。また、実験式は上式に限られるものではなく、同様な印加電圧と距離との関係を示す式であれば、あらゆる式を用いることができる。例えば、距離Lが、印加電圧Vの1乗から2乗の間の関数として表すことが考えられる。
【0060】
【表1】


【0061】
以上のように、本発明の治療装置5においては、電極7と植物体1の間に印加する電圧に応じて、電極7の先端部7aと植物体1の病害感染部位との間の距離を、殺菌効果を有するコロナ放電が生じる範囲に設定すれば、植物体1の病害の治療を行なうことが可能である。
この試験において、グローコロナ放電からブラシコロナ放電への移行点と、電極7の先端部7aと植物体1の病害感染部位との間の距離との対応は必ずしも明確ではないが、コロナ放電による殺菌効果が確認できた領域と、ブラシコロナ放電が生じる領域とは、ほぼ対応すると考えられる。
上記のように、殺菌効果を有するコロナ放電が生じる距離の範囲はかなり大きな幅があるので(例えば、10kVの場合には3mm幅)、この幅の範囲内で、火花放電が生じる距離から一定の値を加えた距離を設定すれば、火花放電による植物体の損傷の恐れがない、コロナ放電を有効に用いた病害の治療を行なうことができる。
【0062】
また、印加電圧を一定にした場合の、コロナ放電及び火花放電が起こる距離は、湿度、植物体の種類、または植物体の病害感染部位の形状によっても変化すると考えられる。しかし、上記のように、コロナ放電によって病害の治療が期待できる距離の範囲はかなり大きな幅があり、この幅に比べれば上記の要素による変動は小さいと考えられる。
湿度の変化や植物体の種類による影響については、上記のように火花放電が生じる距離から一定の値を加えた距離を設定すれば、湿度変化や植物体の種類の変更による火花放電の恐れがなく、コロナ放電を有効に用いることができる。また、同様に、植物体の病害感染部位の形状は、面状または円筒状と考えられ、鋭部を有するか否かに比べてその差は小さいと考えられ、火花放電が生じる距離から一定の値を加えた距離を設定すれば、植物体の形状変化による火花放電の恐れがなく、コロナ放電を有効に用いることができると考えられる。また、植物体の病害感染部位の形状ごとに試験データをとり、そのデータに基づいて、植物体の病害感染部位の形状ごとに最適な距離を設定することもできる。
【0063】
(本発明に係る距離変更機構のその他の実施形態の説明)
上記の実施形態では、スクリューネジから構成される距離変更手段が記載されているが、本発明に係る距離変更手段は、これに限定されるものではなく、電極の先端部と遮蔽部材の先端との相対的な距離を変更できるものであれば、あらゆる部材、機構、装置を用いることができる。例えば、図5に示すように、異なる電圧値に対応した距離を確保するためのスペースブロック20を複数作成しておき、設定電圧に応じたブロック20に組み替えて、電極7の先端部7aと遮蔽部材6の先端部6aとの間の距離を、設定電圧に対応した値に変更することも考えられる。図5(a)には、マイナス10KVに対応するスペースブロック20を、筒状の遮蔽部材6に組み込んだところを示し、図5(b)には、マイナス20KVに対応するスペースブロック20を、筒状の遮蔽部材6に組み込んだところを示す。スペースブロック20を交換する場合には、遮蔽部材6の先端に取り付けられた押さえピース21を着脱して行なう。押さえピース21は、取付ネジ、スナップファスナ等を用いてに遮蔽部材6の先端に取り付けることができる。
【0064】
本発明に係る距離変更手段のその他の実施形態として、図6に示すようなアクチュエータを用いて電極を移動させる距離変更手段も考えられる。この距離変更手段9では、電極7が挿入されたケース10をアクチュエータ22を用いて移動させて、電極7の先端部7aと遮蔽部材6の先端6aとの距離を変更する機構を備えている。アクチュエータ22としては、図示したようなソレノイドや電動、空圧、油圧シリンダを用いることもできるし、サーボモータを始めとする様々な電動モータを用いることもできる。アクチュエータ22を制御する制御装置23を更に備えて、例えば、操作者が印加電圧を設定し、必要に応じて、病害感染部位の形状等の条件をインプットすることにより、制御装置23が演算を行なってアクチュエータ22に制御信号を送り、電極7の先端部7aと遮蔽部材6の先端6aとの間の距離を、印加電圧に対応した最適値に変更する自動制御を行なうことができる。制御装置23が行なう演算式としては、例えば、上記の表1に示す計算式を用いることもできる。なお、同様の演算式を用いて、電極7の先端部7aと遮蔽部材6の先端6aとの間の距離を一定にして、印加電圧を最適値に変更する制御を行なうこともできる。
また、電極7と植物体1との間の電位差をセンサで計測し、その検出データに基づいて、火花放電が生じない範囲で最も高いエネルギを有するコロナ放電が起こるように、電極7の先端部7aと遮蔽部材6の先端6aとの距離を自動制御することも考えられる。
【0065】
(線状の電極を用いた治療装置の説明)
上記の治療装置の実施形態では、針状の電極を用いた治療装置を示したが、本発明の治療装置のその他の実施形態として、図7に示すような線状の電極7を用いた治療装置5も考えられる。この治療装置5では、円筒状の遮蔽部材6の側面に多数の開口部6bが設けられており、先端部6aはプレートで塞がれている。また、遮蔽部材6の後端部は、グリップ部14に挿入されている。
線状の電極7の材質は、銅、ステンレス、鉄、タングステン等が例示でき、タングステン線を用いることが好ましい。この線状の電極7は、円筒状の遮蔽部材6の中心部に、その長手方向に沿って配置されている。線状の電極7の一端は遮蔽部材6の先端部6aのプレートに取付けられ、他端は、遮蔽部材6の後端部に取付けられている。そして、線状の電極7は、ケーブル11を介して高圧電気発生装置8に電気的に接続されている。従って、本実施形態では、治療を行なう植物体が接地される。
【0066】
この治療装置5を用いて治療を行なうためには、まず、高圧電気発生装置8により電極7に荷電を行ない、円筒状の遮蔽部材6の側面を植物体の病害発生部位と接触させる。これにより、遮蔽部材6の開口部6bを介して、線状の電極7と植物体の病害発生部位との間でコロナ放電が生じて、植物体の病害細菌を死滅させ治療を行なうことができる。
また、この治療装置5の主要部材の寸法としては、線状の電極7の太さは、20〜1000μmであって、好ましくは40〜800μmであり、より好ましくは50〜100μmである。この範囲の寸法であれば、容易にコロナ放電が生じる。円筒状の遮蔽部材6の直径については、電極7と植物体の病害発生部位との間の距離が印加電圧に応じた適切な値になるように、適切な値に設定する必要がある。例えば、印加電圧がマイナス10kVであれば、直径を12mm前後に設定し、印加電圧がマイナス20kVであれば、直径を30mm前後に設定することが考えられる。また、遮蔽部材6に設けられた開口部6bの寸法は、植物体の葉が内部に入らないような大きさが適切であり、例えば2〜4mm程度が考えられる。
【0067】
遮蔽部材6の長さは、使用状況により所望の長さにすることができ、例えば、遮蔽部材6を交換することにより、使用状況に適した長さに変更することもできる。例えば、遮蔽部材6の長さとして、50cm、30cm、または15cmが例示できる。
【0068】
本治療装置5では、操作者がグリップ部14を握って、遮蔽部材6を植物体の病害発生部位に接触させ、または摺動させる操作を行なうことによって、容易に植物体の病害の治療を行なうことができる。また、植物体や病害部位の種類、大きさ、位置に応じて、直径や長さが異なる遮蔽部材6に容易に交換できるような、遮蔽部材6の簡易着脱機構を有するようにすることもできる。
なお、本実施形態では、径が同一の遮蔽部材6を用いる場合には、電極7と植物体の病害発生部位との間の距離は一定なので、電極7と植物体との間の印加電圧を最適値に変更する制御を行なうことが好ましい。
(本発明の治療方法、治療装置の実施例の説明)
次に、図1に示す治療装置を実際に用いて、植物体の病害感染部位にコロナ放電を照射した本発明の治療方法の実施例の説明を行なう。
【実施例1】
【0069】
実施例1では、図1に示す治療装置5によるオオムギうどんこ病の治療効果を調べた。この治療装置5の電極7および遮蔽部材6の詳細な寸法を示すと、電極7は、外径1.2mm、長さ30cmの銅製の棒の先端を針状にしたものであり、遮蔽部材6は、アクリル樹脂製で、内径4mm、厚さ6mm、長さ35cmの筒状の形状を有している。電極7は遮蔽部材6のほぼ中央を通るように挿入され、距離変更手段9を調整して、電極7の先端部7aが遮蔽部材6の先端6aよりも16mm手前となるように設定されている。電極7の後端には、アース線12が接続されて接地されている。
【0070】
また、オオムギうどんこ病に感染した植物体1が、直径12cmで底穴がないプロピレン製のポット4に植えられており、高圧電気発生装置8に接続されたケーブル11bの先端に取り付けられたクリップ型端子11aを、植物体1の茎部に接続して、マイナス20kVに荷電した。この状態で、植物体1の葉上に形成されたうどんこ病斑に治療装置5の遮蔽部材6を垂直に近づけて、先端部6aを接触させ、10秒間放電させた。
【0071】
上記の図4(c)のデータに示すように、マイナス20kVの圧力に荷電した状態で、電極7の先端部7aと植物体1の病害感染部位との間の距離を16mmにする場合には、火花放電を起こす恐れがなく、病原菌を死滅させる効果が大きい比較的大きなエネルギを有するコロナ放電を用いることができる。
実施例1の試験結果は、コロナ放電がおよんだ病斑上の胞子柄は、完全に萎縮し倒伏したが、周囲の健全な葉は影響を受けていなかった。従って、本発明の治療方及び治療装置の効果が、本試験により確認されたといえる。
【実施例2】
【0072】
次に、実施例2では、図1に示す治療装置を用いて、うどんこ病に罹病した露地植えのキュウリ苗1(品種:シャープ1、1.2葉期)に形成された病斑の治療の試験を行った。距離変更手段9を調整して、電極7の先端部7aが遮蔽部材6の先端部6aよりも8mm手前となるように設定し、高圧電気発生装置8によりマイナス10kVに荷電した。この状態で、葉上に形成された病斑すべてに治療装置5の遮蔽部材6を垂直に近づけて、先端部6aを接触させ、10秒間放電させた。
【0073】
上述の図4(b)のデータに示すように、マイナス10kVの圧力に荷電した状態で、電極7の先端部7aと植物体1の病害感染部位との間の距離を8mmにする場合には、火花放電を起こす恐れがなく、病原菌を死滅させる効果が大きい比較的大きなエネルギを有するコロナ放電を用いることができる。
実施例2の試験結果は、10日後に治療効果を観察したところ、病斑に放電した苗では、無処理苗と比較して発病率および発病度がともに抑制されていた。従って、本発明の治療方及び治療装置の効果が、本試験により確認されたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の植物病原菌の菌糸、胞子および/または胞子柄等を放電により死滅させることでの植物病害の治療方法は、病害の発生部位のみを対象として使用して、周囲の植物体の健全な部位を損傷させることがなく、また、環境へ負荷を与えることなく植物病害を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の治療装置の一実施形態を概念的に示した図。
【図2】電極を内部に収容した遮蔽部材のその他の実施形態を概念的に示した図。
【図3】針状電極と平板状電極を用いた場合の、コロナ放電、火花放電が生じる条件を示した試験結果の一例を示すグラフ。
【図4】本発明の治療装置におけるコロナ放電、火花放電が生じる条件、及び病原菌への効果を示すグラフ。
【図5】本発明の治療装置の距離変更機構のその他の実施形態を概念的に示す図。
【図6】本発明の治療装置の距離変更機構のその他の実施形態を概念的に示す図。
【図7】線状の電極を用いた本発明の治療装置のその他の実施形態を示す図。
【符号の説明】
【0076】
1 植物体
2 胞子柄
3 胞子
4 ポット
5 治療装置
6 遮蔽部材
6a 遮蔽部材の先端部
7 電極
7a 電極の先端部7a
8 高圧電気発生装置
9 距離変更機構
10 ケース
11 接続部材
11a 端子
11b ケーブル
12 アース線
14 グリップ
20 スペースブロック
21 押さえピース
22 アクチュエータ
23 制御装置
【出願人】 【識別番号】000104113
【氏名又は名称】カゴメ株式会社
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
【識別番号】000205627
【氏名又は名称】大阪府
【出願日】 平成18年1月23日(2006.1.23)
【代理人】 【識別番号】100078662
【弁理士】
【氏名又は名称】津国 肇

【識別番号】100075225
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 文雄


【公開番号】 特開2007−195405(P2007−195405A)
【公開日】 平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願番号】 特願2006−14136(P2006−14136)