| 【発明の名称】 |
植物栽培方法および植物栽培装置 |
| 【発明者】 |
【氏名】大崎 満
【氏名】和崎 淳
【氏名】信濃 卓郎
【氏名】田中 良巳
【氏名】山村 卓也
【氏名】田中 美穂
|
| 【要約】 |
【課題】水耕栽培でありながら、植物の生長に必要な養分の投入量を大幅に低減すること。
【解決手段】栽培容器110は、植物P、培養液120、保定資材130および半透膜140を収容する。培養液120は、栽培すべき植物Pの養分を含む水溶液であり、半透膜140を透過した養分は、保定資材130に埋設された植物Pの根圏に供給される。また、培養液120を改変すること、培養液120に養分を補充すること、もしくは培養液120への養分の補充を停止すること、または、これらを組み合わせることにより、培養液120の養分濃度を制御することができる。保定資材130は、植物Pの茎を保定して植物Pの安定を維持するとともに、水分を含んで植物Pの乾燥を防止する機能を有する。半透膜140は、培養液120および保定資材130に面しており、培養液120のうち、特定の養分を選択的に透過する。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 栽培すべき植物の養分を含む培養液を栽培植物の根圏に供給することにより、植物を栽培する植物栽培方法であって、 前記培養液に含まれる養分を選択的に透過する半透膜を用いて前記栽培植物の根圏に供給される養分の量を制御して、前記栽培植物の根毛の発達を促進させる、植物栽培方法。 【請求項2】 前記栽培植物の根圏に対する養分供給量の制御は、培養液を改変することにより行う、請求項1記載の植物栽培方法。 【請求項3】 前記栽培植物の根圏に対する養分供給量の制御は、培養液を改変すること、培養液に養分を補充すること、もしくは培養液への養分の補充を停止すること、またはそれらの組み合わせにより行う、請求項1記載の植物栽培方法。 【請求項4】 前記栽培植物の根圏に対する養分供給量の制御は、一定期間の育苗の後に、培養液を改変して前記半透膜を介して前記栽培植物の根圏に供給される養分の量を制限することにより行う、請求項1記載の植物栽培方法。 【請求項5】 前記培養液は、有機態リン酸を含む廃液または下水汚泥である、請求項1記載の植物栽培方法。 【請求項6】 請求項1から請求項5のいずれかに記載の植物栽培方法により栽培された植物。 【請求項7】 栽培すべき植物を収容する栽培容器と、 前記栽培植物の養分を含む培養液と、 前記栽培植物を保定する保定資材と、 前記培養液に含まれる養分を選択的に透過する半透膜と、を有し、 前記栽培植物は、前記半透膜を介して前記培養液と分離されており、 前記半透膜を用いて前記栽培植物の根圏に供給される養分の量を制御して、前記栽培植物の根毛の発達を促進させる、 植物栽培装置。 【請求項8】 前記半透膜は、シート状であり、 前記保定資材および前記栽培植物は、前記半透膜の上に配置されている、 請求項7記載の植物栽培装置。 【請求項9】 前記半透膜は、チューブ状であり、 前記保定資材および前記栽培植物は、前記半透膜の中に配置されている、 請求項7記載の植物栽培装置。
|
【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、植物栽培方法および植物栽培装置に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、ガラスやビニールフィルムなどで覆われた温室またはハウスの中で植物を栽培する施設栽培が盛んに行われるようになってきた。施設栽培においては、伝統的な路地栽培よりも自然条件(例えば、温度や水分、風など)の影響を受けにくいため、植物を安定して栽培することができる。 【0003】 特に、水耕栽培は、土壌を全く用いることなく、植物の生長に必要な養分が溶解した水溶液を用いて植物を栽培する方法であって、養分投入量や水分の管理が容易であるため、近時、施設農業や園芸作物の栽培において用いられている。水耕栽培には、土壌を用いた栽培と比較して、上記のように栽培環境の調節が比較的容易であることに加えて、連作障害がなく、一般的に植物の生長が早く収穫量が多いという利点がある。 【0004】 水耕栽培を用いた植物栽培方法の一例として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。 【0005】 特許文献1記載の植物栽培方法では、栽培する植物を収容可能な形状を有する器具の一部に、植物の根と実質的に一体化しうるフィルム、具体的には、水分透過性/イオン透過性のバランスを有するフィルムを配置し、肥料成分を含む水を、当該フィルムを介して植物に接触させることにより、根に対する酸素供給と、水および肥料成分供給とを両方とも好適に行うようにしている。 【特許文献1】特開2005−102508号公報 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、従来の水耕栽培の方法においては、土壌を用いた植物栽培方法と比較して、植物の養分獲得に重要な役割を果たす根毛の発達が非常に劣る。そのため、植物の養分獲得効率が低く、多量の養分投入が必要となっている。その結果、栽培に要する費用も増大しがちである。このような問題は、根毛制御の思想を欠き、根毛の発達に関する限り通常の水耕栽培の方法と同様である特許文献1記載の植物栽培方法にも当てはまる。 【0007】 本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、水耕栽培でありながら、植物の生長に必要な養分の投入量を大幅に低減することができる植物栽培方法および植物栽培装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の植物栽培方法は、栽培すべき植物の養分を含む培養液を栽培植物の根圏に供給することにより、植物を栽培する植物栽培方法であって、前記培養液に含まれる養分を選択的に透過する半透膜を用いて前記栽培植物の根圏に供給される養分の量を制御して、前記栽培植物の根毛の発達を促進させるようにした。 【0009】 本発明の植物栽培装置は、栽培すべき植物を収容する栽培容器と、前記栽培植物の養分を含む培養液と、前記栽培植物を保定する保定資材と、前記培養液に含まれる養分を選択的に透過する半透膜と、を有し、前記栽培植物は、前記半透膜を介して前記培養液と分離されており、前記半透膜を用いて前記栽培植物の根圏に供給される養分の量を制御して、前記栽培植物の根毛の発達を促進させる構成を採る。 【発明の効果】 【0010】 本発明によれば、水耕栽培でありながら、植物の生長に必要な養分の投入量を大幅に低減することができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0011】 以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。 【0012】 本発明者は、水耕栽培において養分の投入量を低減するためには、栽培植物の根毛を制御して養分獲得効率を向上することが必要であることを見出した。また、栽培植物の根毛を制御して養分獲得効率を向上するためには、栽培植物の根圏に供給される養分の量を制御する必要があることを見出した。さらに、そのためには、一定期間の育苗の後に、栽培植物の根圏に供給される養分の量を制限する必要があることを見出した。 【0013】 本発明は、栽培すべき植物の培養液の養分を選択的に透過する半透膜を用いて栽培植物の根圏に供給される養分の量を制御して、栽培植物の根毛の発達を促進させるものである。 【0014】 まず、本発明の原理を説明する。 【0015】 植物の栄養獲得器官は根毛であり(根毛は栄養のみならず水の吸収器官でもある)、植物は、育苗段階で貧栄養状態に陥ると、自ら根毛の発達を促進して、より多くの養分を摂取しようとする性質を有する。したがって、根毛の発達を促進するためには、植物の根圏に供給される養分の量を制限することが有効である。しかし、一方で、育苗段階の植物は、貧栄養状態での耐性が非常に低いため、貧栄養状態では、常に、死滅してしまう危険性がある。そこで、本発明では、栽培植物の根圏に供給される養分の量を的確に制御することにより、根毛の発達を顕著に増加させるようにしている。根毛が発達(増加)すれば、根の表面積が増加し、栄養や水の獲得に大きく貢献するため、養分獲得効率が向上することになる。 【0016】 図1は、本発明の一実施の形態に係る植物栽培装置の全体構成を示す図である。 【0017】 図1に示す植物栽培装置100は、栽培容器110、培養液120、保定資材130、半透膜140およびクリップ150を有する。この植物栽培装置100では、シート状に加工された半透膜140の上に植物の保定資材130を載せて苗または種子を設置する。本明細書では、このタイプの植物栽培装置100を「トレイ型」と呼ぶことにする。トレイ型植物栽培装置100は、根が横方向にも広がりをもって生長する植物の栽培に適している。 【0018】 栽培容器110は、植物P、培養液120、保定資材130および半透膜140を収容する。これらを収容した状態において、半透膜140の下部には培養液120が配置され、半透膜140の上部には植物Pおよび保定資材130が配置される。すなわち、植物Pの種または苗は、半透膜140の上部に移植される。このため、植物栽培装置100では、植物Pの存在する部位が培養液120から切り離されている。栽培容器110の材料は、培養液120の漏れを防止できる材料であれば、どのようなものでもよい。 【0019】 培養液120は、栽培すべき植物Pの養分を含む水溶液であり、半透膜140を透過した養分は、保定資材130に埋設された植物Pの根圏に供給される。培養液120の成分は、栽培する植物Pに応じて設定されるものであり、その濃度は、例えば、一般の水耕栽培に用いる標準培養液(図2参照)の4〜5倍程度の濃度であることが好ましい。また、培養液120は、植物Pと直接には接触していないため、その改変を容易に行うことができる。さらに、植物Pが培養液120から養分を吸収して養分濃度が低下した場合においても、培養液120に養分を補充することにより、その濃度を容易に所定の値に維持することができる。 【0020】 本発明においては、培養液120の使用量を、通常の水耕栽培よりも圧倒的に小さくすることができるため(例えば、1/10程度)、全体として、培養液120に含まれる栄養塩(養分)を節約し、かつ、水の使用量を節約できる。また、一般の水耕栽培の培養液よりも高い濃度の培養液120を用いるのは、上記のように植物Pが培養液120と直接には接触しておらず半透膜140を介する必要があるためである。 【0021】 保定資材130は、植物Pの茎を保定して植物Pの安定を維持するとともに、水分を含んで植物Pの乾燥を防止する機能を有する。また、保定資材130を通じて空気中の酸素が植物Pに供給される。したがって、保定資材130の材料としては、貧栄養状態であり、高い保水性および高い通気性を有する材料、例えば、パーライト、バーミキュライト、もしくはこれらの混合体、または高分子ゲルを用いることが好ましい。 【0022】 半透膜140は、培養液120および保定資材130に面しており、培養液120のうち、特定の養分を選択的に透過する。半透膜140は、植物Pの生育に必要な水や無機栄養のような低分子化合物は通すが、タンパク質や多糖類のような高分子化合物は通さない性質を有する。可溶性の低分子化合物を透過する性質は、植物Pの生育に都合がよく、半透膜140を用いて栽培することにより、培養液120中の養分および水分は、半透膜140を透過して、植物Pのある保定資材130の側に浸透する。半透膜140の材料としては、例えば、セルロース膜やセロファン膜、コロジオン膜など、様々な材料を用いることができるが、その適性は、栽培する植物Pまたは培養液120の組成によって異なる。半透膜140は、上記のようにシート状に加工され、栽培容器110の開口とほぼ同一の形状を有する。 【0023】 ここで、植物Pには半透膜140を介して養分が供給されるが、植物Pの根は、培養液120に浸っていない状態にあることが重要である。なぜなら、この状態により、根に供給される養分の制御能力が増大するとともに、根が培養液120に浸ることによる植物Pへの酸素供給量の不足が発生しないからである。 【0024】 クリップ150は、保定資材130および半透膜140を栽培容器110に固定する機能を有する。 【0025】 次に、上記の構成を有する植物栽培装置100を用いて植物の栽培を行う手順について、図3の作業工程図を用いて説明する。 【0026】 まず、ステップS1000では、植物栽培装置100のセッティングを行う。具体的には、栽培容器110に培養液120を注入した後、順に半透膜140および保定資材130をそれぞれ配置する。 【0027】 そして、ステップS1100では、栽培する植物Pの種子の播種を行う。具体的には、まず、栽培する植物Pの種子の表面を洗浄・殺菌する。洗浄・殺菌は、例えば、エタノールを用いて入念に行うことが好ましい。次に、洗浄・殺菌した種子を水または養分が溶解した水溶液に浸して催芽させる。次に、催芽した種子を保定資材130の中に埋める。 【0028】 なお、催芽処理は、必ずしも必要な作業ではなく、洗浄・殺菌した種子を、直接、保定資材130の中に埋めるようにしてもよい。 【0029】 そして、ステップS1200では、播種した種子を、培養液120の濃度を制御しながら栽培する。 【0030】 ここで、培養液120の養分濃度を制御する基本パターンについて、図4(A)〜図4(C)を用いて説明する。 【0031】 図4(A)は、培養液の養分濃度を制御する基本パターンの一例を示す図、図4(B)は、培養液の養分濃度を制御する基本パターンの他の例を示す図、図4(C)は、培養液の養分濃度を制御する基本パターンのさらに他の例を示す図である。 【0032】 植物Pは、栽培期間中は、培養液120から養分を吸収して生長するため、培養液120の養分濃度は、時間とともに低下する(図4(A)参照)。したがって、培養液120の養分濃度を所定の値に維持するためには、継続的に、培養液120に養分を補充することが必要になる(図4(B)参照)。さらに、培養液120の養分濃度を大幅に変化させるためには、培養液120そのものを改変することが必要になる(図4(C)参照)。培養液120の改変は、培養液の成分をその場で調整することにより、または、すでに成分調整された培養液に取り替えることにより行われる。すなわち、図4(A)の基本制御パターンは、養分の補充を行わない場合であり、図4(B)の基本制御パターンは、養分の補充を行う場合であり、図4(C)の基本制御パターンは、培養液を改変する場合である。 【0033】 本実施の形態では、図4(A)〜図4(C)の基本制御パターンを組み合わせることにより、例えば、栽培開始後、一定期間の育苗の後に、植物Pに供給する培養液120の養分濃度を一時的に低下させる制御を行う。 【0034】 図5(A)〜図5(D)は、それぞれ、図4(A)〜図4(C)の基本制御パターンを組み合わせた栽培制御方法の一例を示す図である。なお、どの栽培制御方法を採用するかは、例えば、用途に応じて決定される。 【0035】 図5(A)の栽培制御方法では、一定期間の育苗の後に、一時的に、培養液120を、養分濃度が低い他の培養液に改変する。また、図5(B)の栽培制御方法では、一定期間の育苗の後に、一時的に、培養液120への養分の補充を停止する。また、図5(C)の栽培制御方法では、一定期間の育苗の後に、一時的に、培養液120への養分の補充を停止し、さらに、当該停止期間経過後に、一時的に、培養液120を、養分濃度が低い他の培養液に改変する。また、図5(D)の栽培制御方法では、一定期間の育苗の後に、一時的に、培養液120を、養分濃度が低い他の培養液に改変し、さらに、当該改変期間経過後に、一時的に、培養液120への養分の補充を停止する。 【0036】 ここで、育苗期間の培養液120の濃度は、一般の水耕栽培に用いる標準培養液の4〜5倍程度の濃度であることが好ましく、濃度を低下させた培養液120の濃度は、一般の水耕栽培に用いる標準培養液の1/5〜1/10倍程度の濃度であることが好ましい。 【0037】 また、上記一定期間は、植物によって異なる。例えば、トマトの場合、上記一定期間は、2週間から3週間程度である。 【0038】 なお、培養液120の濃度の制御は、栽培容器110内の培養液120の量を増減すること、または、培養液120の交換回数を増減することによっても達成される。 【0039】 また、培養液の改変方法としては、上記のように培養液の養分濃度を低くすることに限定されるわけではなく、培養液120の養分濃度を高くする必要が生じた場合には、培養液120を、養分濃度が高い他の培養液に改変することも可能である。 【0040】 ここで、図1に示す植物栽培装置100の変形例について説明する。 【0041】 図6は、図1に示す植物栽培装置100の一変形例を示す図である。なお、図1に植物栽培装置100と同じ構成要素については同一の符号を付し、その説明を省略する。 【0042】 図6に示す植物栽培装置200は、栽培容器210、培養液120、保定資材130、および半透膜220に加えて、おもり230、固定部材240および保持部材250を有する。この植物栽培装置200は、チューブ状に加工された半透膜220の中に植物の保定資材130および苗または種子を設置し、おもり230をつけたものである。本明細書では、このタイプの植物栽培装置200を「チューブ型」と呼ぶことにする。チューブ型植物栽培装置200は、根が主として鉛直方向に生長する植物の栽培に適している。 【0043】 栽培容器210は、植物P、培養液120、保定資材130、半透膜220、おもり230、固定部材240および保持部材250を収容する。これらを収容した状態において、半透膜220の外側には培養液120が配置され、半透膜220の内側には植物Pおよび保定資材130が配置される。すなわち、植物Pの種または苗は、半透膜220の上部に移植される。このため、植物栽培装置200においても、植物Pの存在する部位が培養液120から切り離されている。栽培容器210の材料は、培養液120の漏れを防止できる材料であれば、どのようなものでもよい。 【0044】 半透膜220は、保定資材130を収容した状態で、培養液120中に浮かんでおり、培養液120のうち、特定の養分を選択的に透過する。半透膜220の性質および材料は、半透膜140と同様である。 【0045】 おもり230は、保定資材130および半透膜220の向きを安定化させる機能を有する。おもり230の材料としては、培養液120の中に沈む物質であればどのようなものでもよく、例えば、石を用いる。 【0046】 固定部材240は、半透膜220を固定し、培養液120中で、半透膜220の形状が崩れるのを防止する機能を有する。固定部材240の材料としては、例えば、プラスチックを用いる。 【0047】 保持部材250は、栽培容器210の壁面に密着固定され、固定部材240を保持することにより、保定資材130および半透膜220に、培養液120中に浮かぶための浮力を与える機能を有する。 【0048】 この植物栽培装置200の構成によっても、本発明の特徴である、培養液120の濃度の制御を行うことができるため、根毛の生長を促進した植物の栽培を実現することができる。 【0049】 このように、本実施の形態では、植物の根圏に供給される養分の量を制御することができるため、様々な植物の栽培に適用することが考えられる。 【0050】 以下、本実施の形態における用途別の栽培制御方法について、図7〜図11を用いて具体的に説明する。 【0051】 図7は、標準的な作物を栽培する場合における時間と養分の濃度との関係を示す図である。図8は、収穫前に養分集積して栽培する場合における時間と養分の濃度との関係を示す図である。図9は、植物内の硝酸濃度を減少させて栽培する場合における時間と養分の濃度との関係を示す図である。図10は、植物を廃液や下水汚泥に導入して浄化する場合における時間と養分の濃度との関係を示す図である。図11は、リン欠乏を誘導して有用物質を生産する場合における時間と養分の関係を示す図である。 【0052】 (標準的な作物の栽培) 標準的な作物(例えば、野菜や花卉等)は、培養液を適宜交換し、または、作物に吸収された養分を培養液に供給する。すなわち、作物に供給する養分濃度を所定の値に維持して栽培する(図7参照)。 【0053】 (収穫前に養分集積をする栽培) マメ科の作物のマメにタンパク質を集積させるために、窒素を多く吸収させる場合には、一定期間の育苗の後、一時的に、培養液の養分濃度を低下させることによって根毛量を増大させ、その後、培養液の養分濃度を増加させて栽培する(図8参照)。 【0054】 (植物内の硝酸濃度の減少) 葉菜類(例えば、ホウレンソウやキャベツ等)は、植物内に蓄積する硝酸濃度が高いため、健康被害をもたらすおそれがあることが指摘されている。そこで、当該硝酸濃度を減少させるため、収穫前の一定期間において、培養液から硝酸塩を除去し、アンモニウム塩に置き換えて栽培することにより、植物体の硝酸の吸収を抑制する(図9参照)。 【0055】 (水質改善) 本発明者は、さらなる研究により、植物の根毛において、酸性ホスファターゼの活性が高いという現象を見出した。したがって、植物の根毛の発達を促進することにより、酸性ホスファターゼの活性のさらなる向上が可能になることを見出した。 【0056】 根分泌性酸性ホスファターゼは、有機態リン酸を無機リン酸に分解するという特性を有する。そこで、本発明により根毛の発達を促進した植物を、有機態リン酸を含有する廃液や下水汚泥等に導入して、有機態リン酸を無機リン酸に分解させ、無機リン酸を植物に吸収させることにより、植物に養分を摂取させるとともに、当該廃液や下水汚泥等を浄化する(図10参照)。 【0057】 (リン欠乏誘導により有用物質の生産) 遺伝子組み換えにより、リン欠乏で誘導されるプロモータを有用物質生産遺伝子の上流につないだ植物を生産し、当該遺伝子が生産する有用物質を多量に生産する。具体的には、一定期間、標準的な培養液の濃度で栽培した後、リンを減らした培養液に改変することにより、遺伝子発現を誘導して有用物質の生産を行う。この用途においては、閉鎖系栽培が可能であるため、組み換えた遺伝子の拡散を防ぐことができる(図11参照)。 【0058】 このように、本実施の形態によれば、一定期間の育苗の後に、植物に供給する培養液の養分を一時的に低下させる制御を行って植物の根毛の発達を促進するため、水耕栽培でありながら、植物の生長に必要な養分の投入量を大幅に低減することができる。 【0059】 なお、本発明は、上記の用途の他にも、高付加価値植物(有用物質や薬効成分を産生)、遺伝子組み換えやウイルス感染によって付加価値が高められた植物の栽培にも適用できる。すなわち、植物生産、および、植物生産に伴う有用物質や薬効成分の生産への適用が期待される。 【実施例】 【0060】 本発明者は、本発明の効果を実証するために詳細な実験を行った。以下では、その実験結果について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定して解釈されるものではない。 【0061】 以下の実施例で用いた実験器具は、特に示した場合を除き、以下の通りである。 <栽培植物> ルーピン(Lupinus albusL. cv. Kievskij Mutant)、トマト(Lycopersicon esculentum Mill cv. Momotarou(品種:桃太郎)) <トレイ型栽培装置に用いた栽培容器> ポリプロピレン製4リットル容バット <チューブ型栽培装置に用いた栽培容器> ポリプロピレン製バケツ、13リットル容 <培養液> 図2に示す培養液の5倍濃度の培養液 <トレイ型栽培装置に用いた半透膜> ポリビニルアルコールフィルム#2500 日本合成化学工業製 <チューブ型栽培装置に用いた半透膜> Dialysis Membrane (セルロース性透析チューブ、分画分子サイズ:12000−14000、厚さ:0.0203nm、平均ポアサイズ:2.5nm) 和光純薬製 <パーライト> ネニサンソ 三井金属鉱業製 <バーミキュライト> バーミキュライト 昭和バーミキュライト(株)製 <光学顕微鏡> BH−2 オリンパス製 <包理材> OCT compound <無蛍光スライドガラス> Histobond (MarienfeldGmbH, Lauda-konigshofen, Germany) <冷却器> Cicrom HM500M; MicromInternational GmbH, Walldorf, Germany <基質溶液> 75 mM Tris-Malate buffer (pH 4.3) <フィルタ> Excitation 360 nm, emission 450 nm <蛍光顕微鏡> Axiovert 200M; Carl Zeiss; Oberkochen, Gemany 【0062】 以下の実施例においては、栽培前の播種処理として、以下の処理を行った。なお、「栽培期間」とは、播種処理後の種子を保定資材の中に埋めてから経過した期間のことをいう。 <ルーピンの播種処理> ルーピンの種子の表面を、70%のエタノールで洗浄した後、5倍に希釈した次亜塩素酸で殺菌した。殺菌後の種子を、緩やかに流し続けた水道水中に浸し(48時間)、催芽処理を行った。 <トマトの播種処理> トマトの種子の表面を、70%のエタノールおよび水道水で洗浄した。 【0063】 また、トレイ型栽培装置で培養する場合には、保定資材の乾燥を防止するために、保定資材の上に、苗が育つ部分に切れ目の入ったマルチ用ビニールシートを被せた。また、根が半透膜に到達して、半透膜から十分な量の水分を得ることができるようになるまで、霧吹きを用いて、保定資材の水分を補給した。特に、トマトの栽培時には、発芽までの間、種子の湿度を保ち、乾燥から守るために、保定資材の上に、トレイ型栽培装置全体を覆うように、サランラップ(旭化成製)を被せた。このとき、サランラップと保定資材との間に、3〜5cm程度の苗が育ちうる空間を作った。 【0064】 (実施例1) 実施例1では、チューブ型栽培装置で栽培したルーピンの根毛と通常の水耕栽培で栽培したルーピンの根毛とを比較し、根毛形成の違いを観察した。 【0065】 具体的には、まず、チューブ型栽培装置で10日間の栽培をしたルーピンを、根を傷付けないように取り出し、脱塩水で洗浄した後、根と地上部とを分離した。そして、根の重さ、および、地上部の重さをそれぞれ測定し、地上部の重さに対する根の重さの比(根の重さ/地上部の重さ)を求めた。なお、本実施例においては、リンを含む(+P)培養液およびリンを含まない(−P)培養液で栽培した場合のそれぞれについて、実験を行った。 【0066】 図12は、水耕栽培で栽培したルーピンの(根の重さ/地上部の重さ)と実施例1で栽培したルーピンの(根の重さ/地上部の重さ)との比較を示す図である。 【0067】 図12より、本実施例で栽培したルーピンは、水耕栽培で栽培したルーピンに比して、相対的に、根の重さが大きいことが分かる。また、本実施例で栽培したルーピンについては、リン(+P)を含む培養液で培養した方が、リンを含まない(−P)培養液で栽培した方が、相対的に、根の重さが大きいことが分かる。 【0068】 また、分離した根を80%のエタノールに浸して、4℃で保存(数時間から数日)した。保存した根を、0.05%のメチレンブルー水溶液に浸して染色し(5分)、水道水で洗浄した。そして、染色した根を光学顕微鏡で観察した。 【0069】 図13(A)は、水耕栽培で栽培したルーピンの根を示す光学顕微鏡写真(×50)であり、図13(B)は、実施例1で栽培したルーピンの根を示す光学顕微鏡写真(×50)である。 【0070】 図13(A)および図13(B)より、本実施例で栽培したルーピンは、水耕栽培で栽培したルーピンに比して、根毛の発達が著しく促進されていることが分かる。 【0071】 (実施例2) 実施例2では、チューブ型栽培装置でトマトを栽培して、トマトおよびトマトの根を観察した。栽培期間は10日間で、保定資材には、パーライトとバーミキュライトを1:1の割合で混合したものを用いた。 【0072】 図14(A)は、実施例2で栽培したトマトを示す写真である。図14(B)は、図14(A)のトマトの根の様子を示す写真である。 【0073】 図14(A)および図14(B)より、栽培期間が10日間であるにもかかわらず、根毛の発達が促進されており、トマトが順調に生長していることが分かる。 【0074】 (実施例3) 実施例3では、チューブ型栽培装置でルーピンを栽培して、ルーピンおよびルーピンの根を観察した。栽培期間は10日間で、保定資材には、パーライトとバーミキュライトを1:1の割合で混合したものを用いた。 【0075】 図15(A)は、実施例3で栽培したルーピンを示す写真である。図15(B)は、図15(A)のルーピンの根の様子を示す写真である。 【0076】 図15(A)および図15(B)より、栽培期間が10日間であるにもかかわらず、根毛の発達が促進されており、ルーピンが順調に生長していることが分かる。 【0077】 (実施例4) 実施例4では、トレイ型栽培装置でトマトを栽培して観察した。栽培期間は33日間で、保定資材には、パーライトを用いた。 【0078】 図16は、実施例4で栽培したトマトを示す写真である。 【0079】 図16より、栽培期間が33日となり、トマトがさらに順調に生長していることが分かる。 【0080】 (実施例5) 実施例5では、トレイ型栽培装置でトマトを栽培して観察した。栽培期間は37日間で、保定資材には、パーライトを用いた。なお、本実施例では、培養液の濃度を、図2に示す培養液を、それぞれ、0.2倍、1倍、5倍の濃度に調整した培養液を用いて実験を行った。 【0081】 図17(A)は、実施例5で図2に示す培養液の0.2倍の濃度の培養液で栽培したトマトを示す写真である。図17(B)は、実施例5で図2に示す培養液の1倍の濃度の培養液で栽培したトマトを示す写真である。図17(C)は、実施例5で図2に示す培養液の5倍の濃度の培養液で栽培したトマトを示す写真である。 【0082】 図17(A)〜図17(C)より、本発明においては、一般の水耕栽培に用いられる培養液の組成の0.2〜5倍以内の培養液濃度の範囲であれば、濃度が高い培養液で栽培するほど、トマトは、良好な生長を示すことが分かった。 【0083】 (実施例6) 実施例6では、水耕栽培で3週間、リン欠乏状態で栽培したルーピンの3次根を用いて、酸性ホスファターゼの活性染色を行い、植物の自家蛍光と比較することにより、根毛部分における酸性ホスファターゼの活性を観察した。 【0084】 具体的には、まず、栽培後のルーピンの水分を紙タオルで除去し、ルーピンの3次根を、包埋材を用いて−20℃に冷却して包理した。次に、包理した3次根を、冷却器を用いて、50μmの厚さに切断した。切断した根の切片は、無蛍光スライドガラスの上に載せた。 【0085】 また、活性染色は、ELF97 phosphate(Invitrogen, Carlsbad, CA, USA)を用いて行った。1mL ELF97 phosphateは、25μMになるように基質溶液で希釈した。次に、希釈した基質溶液を、30〜50μL切片上に滴下して、暗所に10〜20分おいた。次に、インキュベーションを行い、基質溶液をピペットで除去し、等量の基質溶液を滴下して除去することを3回繰り返して未反応の基質を洗い流した。また、ネガティブコントロールとして、基質溶液の代わりに基質溶液を滴下した切片を用いて同様の操作を行った。 【0086】 そして、洗浄した切片に、基質溶液を50μL滴下した後、カバーガラスをかけ、フィルタが入った蛍光顕微鏡を用いて検鏡し、phosphatase活性により、生成したELF97分解産物を可視化することで、酸性ホスファターゼの活性を検出した。 【0087】 図18(A)は、実施例6で栽培したルーピンの根における酸性ホスファターゼの活性を示す顕微鏡写真(×200)である。図18(B)は、ルーピンの根における自家蛍光を示す顕微鏡写真(×200)である。図18(C)は、図18(A)のルーピンの根の断面における酸性ホスファターゼの活性を示す顕微鏡写真(×200)である。図18(D)は、図18(B)のルーピンの根の断面における自家蛍光を示す顕微鏡写真(×200)である。なお、酸性ホスファターゼの活性は緑色の蛍光で示される。 【0088】 図18(A)〜図18(D)より、リン欠乏状態で栽培したルーピンの根は、通常のルーピンの根と比較して、酸性ホスファターゼの活性が高いことが分かる。また、酸性ホスファターゼの活性自体は根全体に存在するが、根毛で極めて高い活性を有していることが分かる。 【産業上の利用可能性】 【0089】 本発明に係る植物栽培方法および植物栽培装置は、水耕栽培でありながら、植物の生長に必要な養分の投入量を大幅に低減することができる効果を有し、植物栽培方法および植物栽培装置として有用である。 【図面の簡単な説明】 【0090】 【図1】本発明の一実施の形態に係る植物栽培装置の全体構成を示す図 【図2】一般の水耕栽培に用いられる培養液の組成を示す図 【図3】本発明の一実施の形態に係る植物の栽培手順を示す作業工程図 【図4】(A)培養液の養分濃度を制御する基本パターンの一例を示す図、(B)培養液の養分濃度を制御する基本パターンの他の一例を示す図、(C)培養液の養分濃度を制御する基本パターンの他の一例を示す図 【図5】(A)培養液の濃度を制御した栽培の一例を示す図、(B)培養液の濃度を制御した栽培の他の一例を示す図、(C)培養液の濃度を制御した栽培の他の一例を示す図、(D)培養液の濃度を制御した栽培の他の一例を示す図 【図6】本発明の植物栽培装置の変形例の全体構成を示す図 【図7】標準的な作物を栽培する場合における時間と養分の濃度との関係を示す図 【図8】収穫前に養分集積して栽培する場合における時間と養分の濃度との関係を示す図 【図9】植物内の硝酸濃度を減少させて栽培する場合における時間と養分の濃度との関係を示す図 【図10】植物を廃液や下水汚泥に導入して浄化する場合における時間と養分の濃度との関係を示す図 【図11】リン欠乏を誘導して有用物質を生産する場合における時間と養分の関係を示す図 【図12】水耕栽培で栽培したルーピンの(根の重さ/地上部の重さ)と実施例1で栽培したルーピンの(根の重さ/地上部の重さ)との比較を示す図 【図13】(A)水耕栽培で栽培したルーピンの根を示す光学顕微鏡写真、(B)実施例1で栽培したルーピンの根を示す光学顕微鏡写真 【図14】(A)実施例2で栽培したトマトを示す写真、(B)図14(A)のトマトの根の様子を示す写真 【図15】(A)実施例3で栽培したルーピンを示す写真、(B)図15(A)のルーピンの根の様子を示す写真 【図16】実施例4で栽培したトマトを示す写真 【図17】(A)実施例5で図2に示す培養液の0.2倍の濃度の培養液で栽培したトマトを示す写真、(B)実施例5で図2に示す培養液の1倍の濃度の培養液で栽培したトマトを示す写真、(C)実施例5で図2に示す培養液の5倍の濃度の培養液で栽培したトマトを示す写真 【図18】(A)実施例6で栽培したルーピンの根における酸性ホスファターゼの活性を示す顕微鏡写真、(B)ルーピンの根における自家蛍光を示す顕微鏡写真、(C)図18(A)のルーピンの根の断面における酸性ホスファターゼの活性を示す顕微鏡写真、(D)図18(B)のルーピンの根の断面における自家蛍光を示す顕微鏡写真 【符号の説明】 【0091】 100、200 植物栽培装置 110、210 栽培容器 120 培養液 130 保定資材 140、220 半透膜 150 クリップ 230 おもり 240 固定部材 250 保持部材 P 植物
|
| 【出願人】 |
【識別番号】504173471 【氏名又は名称】国立大学法人 北海道大学
|
| 【出願日】 |
平成17年10月13日(2005.10.13) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100105050 【弁理士】 【氏名又は名称】鷲田 公一
|
| 【公開番号】 |
特開2007−104960(P2007−104960A) |
| 【公開日】 |
平成19年4月26日(2007.4.26) |
| 【出願番号】 |
特願2005−298756(P2005−298756) |
|