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【発明の名称】 樹木の移植方法および樹木の移植用根鉢
【発明者】 【氏名】立山 富士彦

【要約】 【課題】林試移植法を改良し、移植に要する期間を短縮し、根鉢における発根率を改善する。

【解決手段】樹木の根鉢の周囲を掘り下げる工程;露出した根に環状剥皮を行う工程;透水性および通気性を有し、さらに樹木の根の伸張を抑制できる強度を有するシートで掘り下げた部分の全部または一部を覆う工程;シートで覆った部分に最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上である培養土を充填する工程;シート内に根毛が充分に発根するまで樹木を養生する工程;そして、シートおよびシート内の培養土を含む根鉢と共に樹木を移植先まで搬送する工程により樹木を移植する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹木の根鉢の周囲を掘り下げる工程;露出した根に環状剥皮を行う工程;透水性および通気性を有し、さらに樹木の根の伸張を抑制できる強度を有するシートで掘り下げた部分の全部または一部を覆う工程;シートで覆った部分に最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上である培養土を充填する工程;シート内に根毛が充分に発根するまで樹木を養生する工程;そして、シートおよびシート内の培養土を含む根鉢と共に樹木を移植先まで搬送する工程からなる樹木の移植方法。
【請求項2】
培養土が、最大容水時の三相分布における気相の割合が30%未満である請求項1に記載の樹木の移植方法。
【請求項3】
根鉢がシートに覆われ、根鉢とシートとの間に培養土が充填され、根鉢とシートとの間の根の部分に環状剥皮が行われており、シート内に根毛が充分に発根している樹木の移植用根鉢であって、シートが透水性および通気性を有し、かつ培養土が最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上であることを特徴とする樹木の移植用根鉢。
【請求項4】
培養土が、最大容水時の三相分布における気相の割合が30%未満である請求項3に記載の樹木の移植用根鉢。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、樹木を移植する方法に関する。特に本発明は、根回しが必要になる中大型の樹木の移植方法に関する。さらに本発明は、移植に適した樹木の根鉢にも関する。
【背景技術】
【0002】
植物の移植は、植物の栽培における重要な技術である。草や小型の樹木は移植が容易であるが、中大型の樹木の移植には大変な困難を伴う。小型の樹木は、一般に移植用容器内でコンテナー栽培することにより、容器と共に容易に搬送し、移植できる。
一方、中大型の樹木は、根を四方八方に張り巡らしている。樹木が水分や養分を吸収するため最も重要な根毛は、大部分が幹から最も遠い根の先端部分に存在している。そのため、大部分の根(特に根毛)を維持しながら、中大型の樹木を移植することは、実質的に不可能である。しかし、根(根毛)の大部分を切り捨ててしまうと、樹木は移植先で生きてゆくことができない。
そのため、樹木の根元近くに新たに根毛を発育させて、移植を容易にする方法、すなわち根回しが従来から行われている。
【0003】
従来の根回しは、一般に溝掘式と呼ばれている(例えば、非特許文献1参照)。
従来の根回しでは、樹木の根鉢を決定して、根鉢の周囲を溝のように掘り下げる。根鉢は、一般に根元直径の3〜5倍の直径を有する半球状である。掘り下げる際に、樹木を支持するために必要な太い根(支持根)を各方向に数本残し、他の根は根鉢に沿って切断する。
根の処理後、土を埋め戻し、根毛が充分に発根するまで樹木を養生する。
従来の根回しでは、樹木にかかる負担が大きい。そのため、負担を軽減するための処置、例えば、水分の需給バランスを取るための地上部の剪定、長時間の養生、数回に分割しての根回しの処置が必要である。
【0004】
改良された根回しの方法として、林試(国立林業試験場)移植法が知られている(例えば、非特許文献2参照)。林試移植法は、環状剥皮および堆肥を含む培養土(具体的には、バーク堆肥)と畦シートの組み合わせに特徴がある。
林試移植法は、掘り下げて露出した根に環状剥皮を行う。環状剥皮により、形成層よりも外側の篩部が除去され、根の基部から根の先端部への養分の移動が阻止される。一方、残存する木部により、根の先端部から根の基部への水分の移動は維持される。環状剥皮によって、根鉢内での発根が促進される。
また、林試移植法では、掘り下げた部分に土を埋め戻すのではなく、掘り下げた部分を畦シートで囲み、その中にバーク堆肥を充填する。
畦シートは、田の畦道を保護するために開発されたシートである。畦シートには、安価で、非透水性かつ丈夫であるとの特徴がある。畦シートとして、ポリ塩化ビニルシートやポリオレフィン(例、ポリエチレン)シートが市販されている。
【0005】
【非特許文献1】川口弘、安蒜俊比古、「体系農業百科事典」、財団法人農政調査委員会、1967年、第VII巻
【非特許文献2】堀大才、「樹木医完全マニュアル」、牧野出版、1999年、183〜187頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、林試移植法を改良し、移植に要する期間を短縮することである。
また、本発明の目的は、根鉢における発根率を改善することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、以下の手段によって達成された。
(1)樹木の根鉢の周囲を掘り下げる工程;露出した根に環状剥皮を行う工程;透水性および通気性を有し、さらに樹木の根の伸張を抑制できる強度を有するシートで掘り下げた部分の全部または一部を覆う工程;シートで覆った部分に最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上である培養土を充填する工程;シート内に根毛が充分に発根するまで樹木を養生する工程;そして、シートおよびシート内の培養土を含む根鉢と共に樹木を移植先まで搬送する工程からなる樹木の移植方法。
【0008】
(2)根鉢の周囲を掘り下げる工程において、根鉢の周囲に人が入れる程度まで広く掘り下げる(1)に記載の移植方法。
(3)機械掘削で根鉢の周囲を掘り下げる(2)に記載の移植方法。
(4)環状剥皮を行う工程において、皮の切断面に発根促進剤を塗布する(1)に記載の移植方法。
(5)環状剥皮を行う工程において、環状剥皮面に防腐剤を塗布する(1)に記載の移植方法。
(6)掘り下げた部分のうち根鉢の周辺部分を補強用の板数枚に貼り付けたシートで覆い、シートで覆った部分に培養土を充填する(2)に記載の移植方法。
【0009】
(7)シートが0.1×10−2cm/s以上の透水係数を有する(1)に記載の移植方法。
(8)シートが50cm/cm/秒以上の通気度を有する(1)に記載の移植方法。
(9)シートが縦横いずれの方向でも10N/5cm巾以上の引張強力を有する(1)に記載の移植方法。
(10)シートが、0.02乃至2mmの厚みを有する(1)に記載の移植方法。
(11)シートが不織布である(1)に記載の移植方法。
【0010】
(12)培養土が、最大容水時の三相分布における気相の割合が30%未満である(1)に記載の移植方法。
(13)培養土が、最大容水時の三相分布における固相の割合が10%未満である培養土を用いる(1)に記載の移植方法。
(14)培養土が、ピートモスまたはココピートである(1)に記載の移植方法。
【0011】
(15)根鉢がシートに覆われ、根鉢とシートとの間に培養土が充填され、根鉢とシートとの間の根の部分に環状剥皮が行われており、シート内に根毛が充分に発根している樹木の移植用根鉢であって、シートが透水性および通気性を有し、かつ培養土が最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上であることを特徴とする樹木の移植用根鉢。
【0012】
(16)シートが0.1×10−2cm/s以上の透水係数を有する(15)に記載の移植用根鉢。
(17)シートが20cm/cm/秒以上の通気度を有する(15)に記載の移植用根鉢。
(18)シートが縦横いずれの方向でも10N/5cm巾以上の引張強力を有する(15)に記載の移植用根鉢。
(19)シートが、0.02乃至2mmの厚みを有する(15)に記載の移植用根鉢。
(20)シートが不織布である(15)に記載の移植用根鉢。
【0013】
(21)培養土が、最大容水時の三相分布における気相の割合が30%未満である(15)に記載の移植用根鉢。
(22)培養土が、最大容水時の三相分布における固相の割合が10%未満である(15)に記載の移植用根鉢。
(23)培養土が、ピートモスまたはココピートである(15)に記載の移植用根鉢。
【発明の効果】
【0014】
林試移植法では、堆肥と畦シートとを組み合わせて用いている。
林試移植法において、堆肥を含む培養土として、具体的にはバーク堆肥が用いられている。バーク堆肥は、最大容水時の三相分布における気相の割合が高く(32%程度)、液相の割合が低く(56%程度)、固相の割合が高い(12%程度)との特徴がある。気相の割合が高いことは通気性が高いことを意味し、液相の割合が低いことは保水力が低いことを意味する。
一方、林試移植法に用いられる畦シートには、透水性と通気性とが全く無い。
【0015】
本発明者の研究の結果、林試移植法におけるバーク堆肥の使用と畦シートの使用には、密接な関係があることが判明した。バーク堆肥には、保水性が低いとの問題がある。この問題は、透水性がない畦シートを用いることにより解決できる。一方、畦シートには、通気性がないとの問題がある。この問題は、通気性が高いバーク堆肥を用いることにより解決できる。従って、林試移植法において、バーク堆肥の使用と畦シートとの使用は、実質的に不可分の関係にあると言える。
【0016】
本発明者が林試移植法の内容について以上のように研究を進めたところ、培養土の種類を変更することにより、畦シートに代えて透水性および通気性を有するシートを使用でき、その方が良好な結果が得られることが判明した。
本発明では、透水性および通気性を有するシートと、保水性が高い、言い換えると最大容水時の三相分布における液相の割合が高い(60%以上である)培養土とを組み合わせて使用する。保水性が高い培養土を用いることで、透水性を有するシートを用いても、充分な量の水を培養土内に保持することができる。また、シートが通気性を有しているため、通気性が低い、言い換えると最大容水時の三相分布における気相の割合が低い(30%未満である)培養土も使用できる。
すなわち、林試移植法では、保水性を畦シートで、通気性をバーク堆肥で確保していたのに対して、本発明では、逆に、保水性を培養土で、通気性をシートで確保する。
林試移植法と本発明とを比較すると、本発明の方が、樹木への負担が軽減され、移植に要する期間をさらに短縮することができる。以下、具体的に説明する。
【0017】
植物の利用できる水分(有効水)は、毛管水と重力水の一部である。
一方、林試移植法が用いるバーク堆肥は、土壌粒子の表面に付着している吸湿水や結晶の間に入り込んでいる膨潤水を多く含む。吸湿水や膨潤水は、植物が利用できない無効水である。
農業では古くから植物栽培に適した土として、「水持ちがよく、水はけのよい土」が求められている。そのような土とは、有効水が多く、無効水を速やかに流すことができる土壌である。
バーク堆肥には無効水が多く、無効水が酸素不足から生じる根腐れを助長する要因となっている。林試移植法は、土壌としてバーク堆肥を単独で使用し、さらに通気性がない畦シートを用いるため、根腐れの問題が非常に起こりやすい。
【0018】
本発明では、透水性および通気性を有するシートを使用することで、根鉢底部まで酸素を供給できる。また、透水性および通気性を有するシートを使用することによって、バーク堆肥ではなく、保水性が高く、かつ根腐れの原因となる無効水が少ない培養土(例、ピートモス、ココピート)を使用することが可能になった。本発明に従い、透水性および通気性を有するシートと、根腐れが起こりにくい培養土とを併用することにより、樹木に最適な発根環境を整えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[透水性および通気性を有するシート]
本発明では、透水性および通気性を有するシートを用いる。
シートが透水性を有するとは、具体的には、0.1×10−2cm/s以上の透水係数を有することが好ましい。透水係数は、0.1乃至5×10−2cm/sがさらに好ましく、0.2乃至2×10−2cm/sが最も好ましい。
シートが通気性を有するとは、具体的には、20cm/cm/秒以上の通気度を有することが好ましい。通気度は、20乃至500cm/cm/秒であることがさらに好ましく、50乃至200cm/cm/秒であることが最も好ましい。
【0020】
シートは、さらに樹木の根の伸張を抑制できる強度を有することが好ましい。シートの強度は、具体的には、縦横いずれの方向でも10N/5cm巾以上の引張強力を有することが好ましい。引張強力は、10乃至1000N/5cm巾がさらに好ましく、20乃至500N/5cm巾が最も好ましい。
シートは、0.02乃至2mmの厚みを有することが好ましく、0.05乃至1mmの厚みを有することがさらに好ましく、0.1乃至0.5mmの厚みを有することが最も好ましい。また、シートの目付は、10乃至100g/mが好ましく、20乃至80g/mがさらに好ましく、30乃至70g/mが最も好ましい。
シートの物性は、原則としてJIS−L−1906(一般長繊維不織布試験法)に従って測定する。
【0021】
シートの強度(引張強力)と質量(厚み、目付)との関係では、樹木の根の伸張を抑制できる(樹木の根が貫通しない)強度を有する範囲で、可能な限り軽量のシートを用いることが好ましい。すなわち、軽量のシートの方が、取り扱いが容易である。シートに要求される強度は、樹木の種類、特に樹木の大きさにより変化する。大型の樹木の場合は、充分な強度を得るため比較的重い(厚みや目付の値が大きい)シートを用いる必要がある。小型の樹木の場合は、比較的軽い(厚みや目付の値が小さい)シートであっても、必要とされる強度を確保できる。
【0022】
以上のような透水性および通気性を有するシートとして、不織布を好ましく用いることができる。不織布は扱いやすく、後述するように、継ぎ目や環状剥皮を行った根回りの処置が容易で作業しやすいとの特徴がある。
また、不織布は、根回しが終了後、そのまま、すなわち根鉢を不織布で巻いた状態で、樹木を移植先まで搬送することができる。すなわち、不織布は、樹木の搬送において、そのまま根巻き材として利用することができる。これに対して、林試移植法で用いられている畦シートは、樹木の搬送には適していない。林試移植法で根回しが終了後、樹木を移植先まで搬送する際には、根鉢から畦シートを外し、代わりに根鉢を「こも」で巻く作業を行うことが普通である。
【0023】
本明細書において不織布は、一般的な定義と同様に、繊維を(織らずに)、からませる、バインダーで接着する、あるいは、熱で融着させるような(織る以外の)方法で作製した布を意味する。繊維は、天然繊維よりも合成繊維の方が好ましい。合成繊維は、ポリオレフィン(例、ポリプロピレン)、ポリアミド(例、ナイロン)およびポリエステルが好ましく、ポリエステルがさらに好ましい。繊維間は、バインダーで接着されていることが好ましい。ただし、バインダーとして用いる接着剤は、樹木、特にその根系に悪影響を与えない化合物を選択する必要がある。
市販の不織布(例えば、旭化成せんい(株)製のエスタスエステル)を用いることができる。
【0024】
[最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上である培養土]
本発明では、さらに、最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上である培養土を用いる。液相の割合は、65%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましく、75%以上であることが最も好ましい。
培養土は、最大容水時の三相分布における気相の割合が30%未満であることが好ましい。気相の割合は、26%未満であることがさらに好ましく、22%未満であることが最も好ましい。
培養土は、最大容水時の三相分布における固相の割合が10%未満であることが好ましい。固相の割合は、7%未満であることがさらに好ましく、4%未満であることが最も好ましい。
培養土の仮比重は、0.2未満であることが好ましい。
培養土のpHは、7未満であることが好ましい。
【0025】
下記第1表に、最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上である培養土の例を示す。第1表では、林試移植法に用いられるバーク堆肥も示す。
第1表において、「仮比重」は、培養土を乾燥した時の単位容積当たりの質量比を示す。「固相」、「液相」および「気相」は、最大容水時の三相分布、すなわち、飽水時の固体、水および空気の割合である。「pH」は、培養土20mlに蒸留水100mlを添加して測定した値である。
【0026】
第1表
────────────────────────────────────────
培養土 仮比重 固相 液相 気相 pH
────────────────────────────────────────
バーク堆肥(参考) 0.3 12.1% 56.0% 31.9% 6.9
────────────────────────────────────────
ピートモス(カナダ) 0.1 3.5% 76.5% 20.0% 4.0
ブラックピート(ネベマ) 0.1 4.4% 69.7% 25.9% 5.9
ココピート 0.1 2.9% 79.0% 18.1% 6.7
牛オガ堆肥 0.1 14.2% 81.8% 4.0% 8.8
────────────────────────────────────────
【0027】
培養土は、雑菌の混入が少なく、品質が安定であることが望ましい。
ピートモスおよびココピートが特に好ましい。ピートモスは、比較的短繊維のピートモス(例、カナダ産ピートモス)が好ましい。ココピートは、椰子ガラをチップ化したものである。ピートモスおよびココピートには、バーク堆肥と比較して雑菌の混入が少なく、根の切り口のカルス形成が促進されるとの効果がある。
【0028】
[移植方法の概要]
(樹木の種類と樹勢)
本発明の方法は、根回しを必要とする高中木の移植に適している。本発明の方法は、根回しを必要とする高中木であれば、常緑樹と落葉樹、あるいは針葉樹と広葉樹の区別なく適用できる。
一般に、若木のように樹勢がある樹木の移植は容易で、老木、大木あるいは病虫害にかかった樹木の移植は困難である。ただし、本発明の移植方法は、樹木への負担が小さいとの効果があるため、樹勢が弱った樹木であっても、本発明に従うことにより移植が可能になる。
【0029】
(移植の時期)
移植のための作業(根回し)を開始する時期は、秋〜春が適しており、夏は不適当であるとされている。東京近辺では、2月〜3月が最適で、11月下旬〜12月中旬が次の適期である。
ただし、本発明の移植方法は、樹木への負担が小さいとの効果がある。そのため、本発明に従うと不適当とされる夏に樹木を移植することも可能になる。後述する実施例2は、最も不適当とされる6月に根回しを行った例である。
【0030】
(地上部の剪定)
樹木は、地下部と地上部とで、水分および養分の観点でバランスがとれている必要がある。樹木の移植では、根回しのため地下部が減少し、水分の吸収量が極端に減少する。そのため、予め移植前に地上部を剪定し、地下部と地上部とのバランスをとる方法が普通に採用されている。
ただし、本発明の移植方法では、樹木の発根が促進され、速やかに根が伸長するため、地上部の剪定を極力抑えることができる。従って、本発明によれば、樹形を損なうことなく樹木を移植できる。
【0031】
(根鉢の決定)
作業を開始する前に、樹木の周囲の上土を除去して樹木の状態を調べ、根鉢の寸法を決定する。
根鉢の直径は、一般に、樹木の根元直径の3〜5倍である。根鉢の深さは、一般に、樹木の根元直径の1.5〜2.5倍である。すなわち、根鉢は、一般に、樹木の根元直径の3〜5倍の直径を有する半球に近い形状を有する。ただし、具体的な根鉢の寸法は、移植による樹木への負担のような樹木側の条件と、搬送手段のような人間側の条件との双方を考慮して決定する。すなわち、樹木の負担を軽減するためには可能な限り大きな根鉢が望ましいが、搬送手段を考えると可能な限り小さな根鉢が望ましい。
本発明の移植方法は、樹木への負担が小さいとの効果があるため、本発明によれば比較的小さな根鉢でも移植が可能になる。
【0032】
(移植の手順)
本発明の移植方法は、下記の工程(1)〜(6)が必須である。
(1)樹木の根鉢の周囲を掘り下げる工程
(2)環状剥皮を行う工程
(3)シートで掘り下げた部分を覆う工程
(4)培養土を充填する工程
(5)樹木を養生する工程
(6)樹木を移植先まで搬送する工程
以下、各工程について、順次説明する。
【0033】
[移植方法の各工程]
(樹木の根鉢の周囲を掘り下げる工程)
図1は、樹木の根鉢の周囲を掘り下げた状態を示す断面模式図である。(a)は林試移植法で行われている掘り下げ方法の態様(本発明にも適用可能)であり、(b)は本発明において好ましい掘り下げ方法の態様である。
図1では、樹木の根元直径(D)の4倍の直径(4D)を有する半球に近い形状に根鉢を設定している。
図1の(a)に示すように、林試移植法では、根鉢(図1では、直径が4Dのほぼ半球状)の周囲を、根鉢の直径の1/10程度の巾(図1では0.4D)で溝状に掘り下げる。本発明でも、(a)と同様の方法を採用できる。
【0034】
しかし、本発明では、図1の(b)に示すように、根鉢の周囲に人(必要に応じて、さらに大型の機械)が入れるように、広く掘り下げることが好ましい。
(b)のように広く掘り下げる場合は、機械掘削を採用できる。具体的には、(1−1)機械掘削により根鉢の周囲に人が入れる程度まで広く掘り下げ、(1−2)環状剥皮(下記)を実施する根を選定し、そして(1−3)人力で仕上げ掘削を行う手順で処理することが望ましい。
【0035】
(環状剥皮を行う工程)
環状剥皮は、根鉢から出ている根のうち、比較的大きな支持根を3〜5本選択して実施する。環状剥皮の幅は、一般に15〜20cmである。
なお、根鉢から出ている残りの根は、切断する。
環状剥皮を行うことで、それよりも幹側の皮の切断面の発根を促進できる。環状剥皮を行った根は、水分を幹側に供給するため、地上部の剪定を極力抑制できる。また、環状剥皮を行った支持根が残るため、支持根が支柱としても機能する。
【0036】
図2は、環状剥皮を行った根の状態を示す模式図である。
図2に示すように、環状剥皮では、形成層およびそれよりも外側の篩部を除去する。これにより、根の幹側(基部)から根の先端部への養分の移動が阻止される。一方、残存する木部により、根の先端部から根の基部への水分の移動は維持される。
【0037】
環状剥皮は、鋭利な刃物を用いて、甘皮を残さないように、かつ木部を傷つけないように丁寧に削り取る。皮の切り取り面は、同様に鋭利な刃物で仕上げる。
皮の切断面には、発根促進剤(例えば、β−インドール酪酸、商品名:オキシベロン)を塗布し、カルス形成を促進することが好ましい。環状剥皮面には、防腐剤(例、チオファネートメチル、商品名:トップジン)を塗布することが好ましい。
環状剥皮を行わない根は、鋭利な刃物で切断する。太い根には、切断面に面取りを行い、発根促進剤を塗布し、カルス形成を促進することが好ましい。
【0038】
(シートで掘り下げた部分を覆う工程)
図3は、シートで掘り下げた部分を覆った状態を示す断面模式図である。(a)は林試移植法で行われている掘り下げ方法の態様(本発明にも適用可能)であり、(b)は本発明において好ましい掘り下げ方法の態様である。
(a)の態様では、本発明に従う透水性および通気性を有するシート(例、不織布)で掘り下げた部分の外側を覆う。
【0039】
(b)の態様では、本発明に従う透水性および通気性を有するシート(例、不織布)を付けた板(例、ベニヤ板)を、掘り下げた部分のうち根鉢の周辺部分に立てる。シートを付ける補強用の板は、数枚用意する。板と根鉢との隙間の寸法は、10〜20cmが好ましい。板の厚さは、1〜5mmが好ましい。シートを板に付けるには、ホッチキスのような簡単な手段が採用できる。板の継ぎ目や、板から外に出ている根(環状剥皮を行った支持根)の周囲は、シートの端切れを当てて、培養土が漏れないようにすることが好ましい。
図3の(b)に示すように、支柱(例、パイプ)を打ち込み、板とシートを補強することが好ましい。
【0040】
(培養土を充填する工程)
図4は、シートで覆った部分に培養土を充填した状態を示す断面模式図である。(a)は林試移植法で行われている掘り下げ方法の態様(本発明にも適用可能)であり、(b)は本発明において好ましい掘り下げ方法の態様である。
(a)の態様では、掘り下げた部分に、本発明に従う最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上である培養土を充填する。
【0041】
(b)の態様では、シート(および板と支柱)で囲った部分に、本発明に従う最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上である培養土を充填する。また、シート(および板と支柱)の外側は、土(通常は掘り下げた際の土)を埋め戻す。(b)の態様は、具体的には(4−1)培養土を充填し、(4−2)水極めを行い、そして(4−3)土を埋め戻す手順で行うことが好ましい。
図4の(a)および(b)に示すように、根鉢の上部はマルチング資材で覆って、保護することが好ましい。根鉢の外側の上部に、水鉢を切ってもよい。
【0042】
(樹木を養生する工程)
樹木を養生する期間は、シート内(特に培養土を充填した部分)に根毛が充分に発根するまでの期間である。
本発明に従う方法を採用することで、養生に要する期間を短縮できる。
【0043】
(樹木を移植先まで搬送する工程)
図5は、搬送用の根鉢の状態を示す断面模式図である。(a)は林試移植法で行われている掘り下げ方法の態様(本発明にも適用可能)であり、(b)は本発明において好ましい掘り下げ方法の態様である。
図5に示すように、シートおよびシート内の培養土を含む根鉢と共に樹木を移植先まで搬送する。
【0044】
図5に示す樹木の移植用根鉢は、根鉢がシートに覆われ、根鉢とシートとの間に培養土が充填され、根鉢とシートとの間の根の部分に環状剥皮が行われており、シート内に根毛が充分に発根している樹木の移植用根鉢であって、シートが透水性および通気性を有し、かつ培養土が最大容水時の三相分布における液相の割合が60%以上であることを特徴とする。
【0045】
本発明の方法では、根の伸長がシートの内部に抑制されているため、移植に際して根がほとんど外に出ていない。そのため、根鉢の堀取りが容易である。また、伸びた根を切ることなく、また伸びた根を外気にさらすことなく移植できるため、移植に伴う樹木の負担を最小限にとどめることができる。
図5に示すように、シートは根巻き材としても利用できる。よって、シートの上から網掛けを行うことも可能である。これにより、移植の作業を大幅に省力化できる。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
樹高10m、幹回り1.09m、枝張り12mのソメイヨシノを移植した。
9月に、以下の根回しを実施した。
【0047】
(1)上土を除き、直径約1.5mの半球状の根鉢を決定した。
次に機械掘削により根鉢の周囲に人が入れる程度まで広く掘り下げ、環状剥皮を実施する根(四方に伸びた比較的大きな支持根)を3本選定し、そして人力で仕上げ掘削を行った。
【0048】
(2)選定した3本の根に15〜20cm幅の環状剥皮を行った。皮の切断面にはオキシベロンを、環状剥皮面にはトップジンを塗布した。環状剥皮を行わない太い根には、切断面に面取りを行い、オキシベロンを塗布した。その他の根は、鋏で切り戻しを行った。
【0049】
(3)不織布(エルタスエステルE05040、旭化成繊維(株)製)を厚さ3mmのベニヤ板にホッチキスで止めた。不織布の透水係数は、0.9×10−2cm/s、通気度は143cm/cm/秒、縦方向の引張強力は200N/5cm巾、横方向の引張強力は80N/5cm巾、厚みは0.18mmであった。
パイプを根鉢の周囲に円形に打ち込み、ベニヤ板に取り付けた不織布を立て込んだ。根鉢と不織布との隙間は、10〜20cmに設定した。ベニヤ板の継ぎ目、および環状剥皮を行った支持根の周囲には、不織布の端切れを当てた。
【0050】
(4)根鉢と不織布との隙間に、ピートモス(固相:3.5%、液相:76.5%、気相:20.0%)を充填した。水極めを行い、埋め戻した。
(5)5月まで約8ヶ月間、養生した。
発根状態を調べたところ、環状剥皮の幹側および太い根の面取り部分から勢いよく発根していた。
(6)不織布をそのまま根巻き材として利用し、その上から縄掛けを行って、移植先まで搬送した。
[実施例2]
樹高10m、幹回り1.7mのクスノキを移植した。
6月下旬に以下の根回しを実施した。
【0051】
(1)上土を除き、直径約3mの半球状に根鉢を決定した。
次に機械掘削により根鉢の周囲に人が入れる程度まで広く掘り下げ、環状剥皮を実施する根(四方に伸びた比較的大きな支持根)を4本選定し、そして人力で仕上げ掘削を行った。
【0052】
(2)選定した4本の根に15〜20cm幅の環状剥皮を行った。皮の切断面にはオキシベロンを、環状剥皮面にはトップジンを塗布した。環状剥皮を行わない太い根には、切断面に面取りを行い、オキシベロンを塗布した。その他の根は、鋏で切り戻しを行った。
【0053】
(3)不織布(エルタスエステルE05040、旭化成繊維(株)製)を厚さ3mmのベニヤ板にホッチキスで止めた。不織布の透水係数は、0.9×10−2cm/s、通気度は143cm/cm/秒、縦方向の引張強力は200N/5cm巾、横方向の引張強力は80N/5cm巾、厚みは0.18mmであった。
パイプを根鉢の周囲に円形に打ち込み、ベニヤ板に取り付けた不織布を立て込んだ。根鉢と不織布との隙間は、10〜20cmに設定した。ベニヤ板の継ぎ目、および環状剥皮を行った支持根の周囲には、不織布の端切れを当てた。
【0054】
(4)根鉢と不織布との隙間に、ピートモス(固相:3.5%、液相:76.5%、気相:20.0%)を充填した。水極めを行い、埋め戻した。
(5)70日間、養生した。
発根状態を調べたところ、環状剥皮の幹側および太い根の面取り部分から勢いよく発根していた。伸長した根の長さは、60cmに達していた。ほぼ1日に1cm伸びたことになる。
(6)不織布をそのまま根巻き材として利用し、その上から縄掛けを行って、移植先まで搬送した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】樹木の根鉢の周囲を掘り下げた状態を示す断面模式図である。
【図2】環状剥皮を行った根の状態を示す模式図である。
【図3】シートで掘り下げた部分を覆った状態を示す断面模式図である。
【図4】シートで覆った部分に培養土を充填した状態を示す断面模式図である。
【図5】搬送用の根鉢の状態を示す断面模式図である。
【符号の説明】
【0056】
(a) 林試移植法で行われている掘り下げ方法の態様(本発明にも適用可能)
(b) 本発明において好ましい掘り下げ方法の態様
D 樹木の根元直径
【出願人】 【識別番号】592075563
【氏名又は名称】内山緑地建設株式会社
【出願日】 平成17年7月5日(2005.7.5)
【代理人】 【識別番号】100074675
【弁理士】
【氏名又は名称】柳川 泰男


【公開番号】 特開2007−14204(P2007−14204A)
【公開日】 平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願番号】 特願2005−195635(P2005−195635)