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【発明の名称】 固体材料の降伏点検出方法
【発明者】 【氏名】今村 仙治

【要約】 【課題】従来の引張試験方法とは異なる観点に基づいた重り式制御法を用いた引張試験方法により、従来方法では求めることができなかった固体材料の降伏点を容易に検出できる検出法を提供する。

【解決手段】検出対象の固体材料に対して、定荷重Wnの作用によるひずみεnの安定を待って、順次ステップ荷重Wsを追加した定荷重W(n+1)を段階的に作用させていき、各段階毎に測定した定荷重Wnの作用時におけるひずみεnの安定に要する時間Ts(n)が、安定推移から不安定な挙動を示したときの応力σnを、その固体材料における降伏点σyとした。また、各定荷重Wnの作用によるひずみεnの一階差分値εm、又は二階差分値εoが安定推移から不安定な挙動を示したときに、当該定荷重Wnにおける応力σnを、その固体材料における降伏点σyとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の固体材料に対して、定荷重Wnの作用によるひずみεnの安定を待って、順次ステップ荷重Wsを追加した定荷重W(n+1)を段階的に作用させていき、
各段階毎に測定した定荷重Wnの作用時におけるひずみεnの安定に要する時間Ts(n)が、安定推移から不安定な挙動を示したときの応力σnを、その固体材料における降伏点σyとすることを特徴とした固体材料の降伏点検出方法。
【請求項2】
検出対象の固体材料に対して、定荷重Wnの作用によるひずみεnの安定を待って、順次ステップ荷重Wsを追加した定荷重W(n+1)を段階的に作用させていき、
定荷重Wnの作用によるひずみεnと次段の定荷重W(n+1)の作用によるひずみε(n+1)との一階差分値[εm=ε(n+1)−εn]が、安定推移から不安定な挙動を示したときに、当該定荷重Wnにおける応力σnを、その固体材料における降伏点σyとすることを特徴とした固体材料の降伏点検出方法。
【請求項3】
検出対象の固体材料に対して、定荷重Wnの作用によるひずみεnの安定を待って、順次ステップ荷重Wsを追加した定荷重W(n+1)を段階的に作用させていき、
定荷重Wnの作用によるひずみεnと次段の定荷重W(n+1)の作用によるひずみε(n+1)との一階差分値[εm=ε(n+1)−εn]の二階差分値[εo=ε(m+1)−εm]が、安定推移から不安定な挙動を示したときに、当該定荷重Wnにおける応力σnを、その固体材料における降伏点σyとすることを特徴とした固体材料の降伏点検出方法。
【請求項4】
各ステップ荷重Wsの負荷速度を、途中で可変させたこと特徴とする請求項1、2、又は3記載の固体材料の降伏点検出方法。
【請求項5】
定荷重Wnの作用時におけるひずみεnの安定を、ひずみεnの進行(伸び)が停止した状態、又は所定値以下となった状態、としたことを特徴とした請求項1、2、3、又は4記載の固体材料の降伏点検出方法。
【請求項6】
ひずみεnの安定に要する時間Ts(n)、一階差分値εm、又は二階差分値εoの値が所定値の範囲を逸脱したときを、安定推移から不安定な挙動を示したとすることを特徴とした請求項1、2、3、又は4記載の固体材料の降伏点検出方法。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明が属する技術分野】
本願発明は、新規な引張試験方法を用いた固体材料の降伏点検出方法に関し、特に、従来の引張試験方法では降伏点を明確に検出することかできなかった金属材料や樹脂材料などの固体材料であっても降伏点を明確に検出することができる固体材料の降伏点検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属材料の引張試験方法は、従来から周知の日本工業規格(JIS)であるJIS Z 2241に則って行われており、金属材料に負荷する引張荷重における測定伸びから応力とひずみとを求め、例えば、図2、7、12に示す応力−ひずみ線図(以下「σ−ε線図」)が作成されて、当該金属材料の物性が検出されていた。
【0003】
一般に、固体材料に漸次増加の荷重を負荷して行くと、ある値から塑性変形が発生する現象が見られる。これを降伏(yielding)といい、このときの応力を「降伏点」と呼んでいる。この降伏点は、低中炭素鋼では明確な降伏が認められ,塑性変形の開始と同時にいったん応力は若干低下し,その応力で塑性変形が進展する挙動を示す。そして、塑性変形の開始点の応力を上降伏点,進展する応力を下降伏点と規定している。降伏点は構造の強さを知る一つの目安となり、各種の機械器具装置の設計においては、作用する応力が降伏点を越えることのないように部品の強度設計を行っている。
【0004】
ところで、炭素鋼以外の鉄鋼材料など大部分の固体材料やプラスチックは、その応力に対するひずみ値は連続的に推移し、不連続点として顕れる臨界的な変化点がなく、明確な降伏点が顕れないのが通常であった。そのため,慣行的に、ある割合の永久ひずみが残留するときの応力を「耐力」と呼んで,これを降伏点と同等に取り扱うようにしている。この耐力の決定は、ISO(国際標準機構)やJISに規定する「オフセット法」や「永久伸び法」や「全伸び法」が用いられている。これによると、0.2%の永久ひずみが残留するときの応力を耐力としているが、この0.2%とする合理的な根拠はなく、設計者の一部にはこの耐力決定に疑問をもち、より大きな安全余裕を採って0.1%の残留ひずみを耐力として採用する人もいる。
【0005】
この不明瞭な降伏点を演算や作図から何とか降伏点を見出そうとする方法が、下記の特許文献1,2において開示されている。しかし、ここで開示されている技術的方法においてもデータの採取は、依然、従来の引張試験方法(定速度引張試験方法)を用いているものであった。すなわち、検出対象である金属材料を停止することなく一定の微速度で連続的に引張荷重を作用させていき、所定荷重毎にひずみを測定して行くものであった。そして、特許文献1にあっては、逐次応力増加率をコンピュータなどで演算してゆくことにより、降伏点を検出するものであった。また、特許文献2にあっては、σ−ε線図から作図的に降伏点を検出するものであった。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−45269号公報
【特許文献2】
特開平5−172724号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記各特許文献により開示された降伏点の検出方法は、その基となる測定データが、依然従来からの引張試験方法によっているため、煩雑な演算が伴い、その明確性や信頼性に欠けるものであった。
【0008】
いずれにしても、従来の引張試験方法により描かれるσ−ε線図を用いている限り、ある一部の固体材料(低炭素鋼材や焼き戻し材、等)を除いた、多くの材料では、降伏点を明確化させることができないと言う根本的な欠点があった。そのため、降伏点が定まらない固体材料に対しては、恣意的な値になりがちな上記「耐力」の概念をもって良し、現在まで降伏点の顕在化について学問的かつ技術的な追究が成されていないのが現状であった。
【0009】
【目的】
そこで、本願発明者は、鋭意研究の結果、従来の引張試験方法とは異なる観点に基づいた重り式制御法(本願発明者定義のDead Weighted Control Method,以下、本明細書では「DW法」と略称する)を用いた引張試験方法により採取したデータを用いれば、従来方法では不明瞭で求めることができなかった固体材料の降伏点を容易に検出できることを見出し、ここに固体材料の降伏点の検出を目的とした固体材料の降伏点検出方法を本願発明として提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段と作用】
上記目的を達成するため本願発明の固体材料の降伏点検出方法は、以下のように構成している。
【0011】
すなわち、検出対象の固体材料に対して、定荷重Wnの作用によるひずみεnの安定を待って、順次ステップ荷重Wsを追加した定荷重W(n+1)を段階的に作用させていく手法によって、各ステップ毎に採取した各定荷重Wnの作用時におけるひずみεnの安定に要する時間Ts(n)が、安定推移から不安定な挙動を示したときに、当該定荷重Wnにおける応力σnを、その固体材料における降伏点σyとして検出するものである。
【0012】
ここで用いるデータの採取は、上記したDW法を用い、従来の引張試験機のように引張荷重を定速度で不断に作用させていくのではなく、所定のステップ荷重Ws(各段階毎に追加していく荷重)を順次追加して段階的に漸次増加させていく荷重Wnを作用させていくものである。そして、各段階ではこの荷重Wnを一定値に保持しておく定荷重としている。これはあたかも所定重量の重垂を負荷させている状態と同様である。通常、この定荷重の維持は、万能引張試験機のクロスヘッドを適宜調節して行う。この定荷重Wnの作用下でのひずみεnは、定荷重Wnの作用直後は進行するが、ある程度の時間経過後にはそのひずみεnの進行が停止して安定することとなる。この定荷重Wnの作用後から安定するまでに要する時間(以下「安定時間」)Tsを、各ステップ毎の定荷重値Wnとひずみεnと共に測定していくものである。この安定時間Tsの値は、荷重Wnが弾性領域内にある間は、ほぼ大きく変動することなく近似した値の範囲内で推移していくが、弾性領域から塑性領域に移行する付近では、これまでの範囲内から逸脱して大きく変動した値を示し始める。このような挙動が顕れた点を捉えて、この固体材料の降伏点σyとしている。
【0013】
ここで、この「ひずみεnの安定」の判断は、ひずみεnの進行(伸び)が完全に停止した状態(伸びの停止)としてもよいが、ひずみεnの進行(伸び)がある所定値の範囲以内と場合を捉えて「安定」と規定してもよい。
【0014】
上記検出方法は、ひずみεnの安定に要する時間Ts(n)に着目した検出方法であるが、同じDW法により得られたデータのうち、各段の定荷重Wnの作用時における各段のひずみεnを基にして降伏点を検出することもできる。
【0015】
すなわち、検出対象の固体材料に対して、定荷重Wnの作用によるひずみεnの安定を待って、順次ステップ荷重Wsを追加した定荷重W(n+1)を段階的に作用させていき、定荷重Wnの作用によるひずみεnと次段の定荷重W(n+1)の作用時におけるひずみε(n+1)との一階差分値[εm=ε(n+1)−εn]が、安定推移から不安定な挙動を示したときに、当該定荷重Wnにおける応力σnを、その固体材料における降伏点σyとする。
【0016】
また、各定荷重Wnの作用によるひずみεnの一階差分値εmの二階差分値[εo=ε(m+1)−εm]が安定推移から不安定な挙動を示したときに、当該定荷重Wnにおける応力σnを、その固体材料における降伏点σyとする。
【0017】
ここで、安定推移から不安定な挙動を示したときとは、各ステップ毎に採取したひずみεnを基に演算した、一階差分値εm、又は二階差分値εoの値が、所定値以上になった場合をいう。
【0018】
上記の安定時間Ts(n)の変化と同様に一階差分値εmの変化に着目しても十分に降伏点を見出すことができるが、二階差分値εoの変化に着目して解析した場合は、より正確にかつより明確に降伏点σyが顕在化させることができ、またグラフ化した場合はこれを視覚的に明確に表すことができる。
【0019】
また、定荷重Wnからステップ荷重Wsを追加して次の段階の定荷重W(n+1)に移行する場合、ステップ荷重Wsの追加のための負荷速度を一定の速度で行ってもよいが、この負荷速度を途中で可変させてもよい。例えば、次の段階の定荷重W(n+1)の数%手前で負荷速度を減速させた場合であり、言うなれば、定荷重W(n+1)に達する手前でブレーキを掛けることである。
【0020】
かかる操作は、次の段階の定荷重W(n+1)を保持するときの安定制御を考慮して、被検出物の固体材料について最適値が選択される。また同様に、負荷速度の設定についても被検出物の固体材料について最適値が選択される。これは、負荷速度の如何によっては、固体材料内の分子結合構造に影響して種々の変化が現れると推測されるからである。
【0021】
【実験例】
次に、本願発明を実証するため、(1)Cu(銅)の素材、(2)S45C(機械構造用炭素鋼)、(3)SCM(クロムモリブデン鋼)の三種の固体材料(試験片)について行った実験例について説明する。
【0022】
試験片は、一般的に用いられる段付き中央縮径の円柱棒状を成し、全長を180mm、平行部の直径を10mm、標点距離を35mm、及びつかみ部の直径を15mm、その長さを65mmに形成し、平行部は平滑に仕上げている。測定は試験片の平行部中央にひずみゲ−ジを軸方向に沿って貼り付けて行い、ひずみゲ−ジはYFLA−2を用いた。
【0023】
上記試験片からのデータ採取は、上記したDW法(本発明者命名)を用い、対比するため従来法の引張試験についても行った。このDW法による段階的な荷重負荷と時間との関係を示す荷重仕様は、図1に示す。横軸は時間T、縦軸は荷重Wを示し、これに付加したnは整数値であり、各ステップの順番を示すものである。
【0024】
先ず図1にしたがって説明すると、弾性領域内にある任意の定荷重W(n−1)にステップ荷重Wsを追加して、次の段の定荷重Wn=W(n−1)+Wsを負荷する。この定荷重Wnは、この段階でのひずみεnの進行が停止するまで保持する。このグラフにおいて、A(n−1)点の定荷重W(n−1)から次にステップのBn点における定荷重Wnまで、Tbn−Ta(n−1)の時間で到達させることを意味し、このA(n−1)点からBn点までの傾斜がステップ荷重Wsの荷重負荷速度Vaを示す。次に、Bn点で定荷重制御速度Vbで引張荷重を作用させるが、これは定荷重Wnの状態を保持するためのものである。このBn点以降は予め設定した時間間隔毎(本実験例では10秒間隔)にひずみεnを測定し、このひずみεnの進行の度合い(変化量)が0値、又は所定値の範囲内になった時点で、試験片の変形が停止したもの(ひずみの進行停止)と判断する。そして、上記Bn点の到達時点Tbnからこの停止を判断した時点Tanまでに要した時間(Tan−Tbn)を「ひずみεnの安定に要した時間Ts(n)」(これを「安定時間Ts(n)」と略称する。)として測定する。このようにして、任意のステップ(段階)の荷重Wnにおけるひずみεnの進行の停止を確認した後、次のステップ荷重Wsを順次追加していき、各ステップ毎(各段階毎)の荷重Wnと安定時間Ts(n)の変化を測定していく。実験は、降伏点が現れるまで段階的に増加荷重を作用させていった。なお、本明細書においては、ステップ荷重Wsの用語のほかに、この値を試験片の断面積で除したステップ応力σsの用語を用いる場合がある。
【0025】
[実験例1の結果]
実験例1は、試験片として、焼き入れ、焼き戻し等の熱処理をしない、素材のままのCu(銅)を用いて行ったものである。
図2は、従来法の引張試験による銅素材のσ−ε線図である。このときの引張速度はV=0.1mm/minとした。このグラフは約100MPaまでは直線的に挙動しているが、その後はなだらかな曲線になって塑性領域に至っている。このグラフから容易に降伏点を見出すことはできないのは明らかである。なお、応力は公称応力として算出し、引張速度はクロスヘッドの移動速度をもとに示した。
【0026】
図3のグラフはDW法引張試験によるσ−ε線図を示す。応力σ=235.6MPaでひずみが急に増加して降伏が起こったことが顕れている。この実験では、ステップ応力σs=2.5MPa、荷重負荷速度Va=0.1mm/min、定荷重制御速度Vb=0.02mm/minに設定している。以下の実験においても同様である。
【0027】
また、ひずみの安定時間Tsに着目して、DW法引張試験により各ステップ(各段階)のポイント(図1に示すA点、B点)において採取した荷重Wnと時間Tnとから各応力σnとひずみの安定時間Tsとの関係を、縦軸に時間(単位:秒)、横軸に応力σ(単位:MPa)を採って表したものが図4である。これによると、当初は一定の範囲内で安定的に推移(グラフではほぼ水平推移)していた時間Tsが、A点を境に急激に大きくなりはじめ、その後は停止することなく何時までもひずみが進行して行く挙動が見られた。このA点以前の応力では弾性領域であり、A点以後は塑性領域と捉えることができ,この境界のA点が降伏点を示しているものと判断できる。このようにDW法を用いることにより従来法では降伏点が求めることができなかった材料でも、ひずみの安定時間Tsに着目すれば、これを明瞭に顕在化させることができ、降伏点σyの検出が可能となった。
【0028】
次に、各ステップ毎に採取した各定荷重Wnの作用時におけるひずみεnの差分値に着目しても降伏点σyを明確化する方法について説明する。各ステップのひずみεnの一階差分値εmは式1に示す。
【式1】 [εm=ε(n+1)−εn]
この式1により得られた値εmと各ステップの応力σnとの関係を示したものが図5である。
また各ステップのひずみεnの一階差分値εmを用いたニ階差分値εoは式2に示す。
【式2】 [εo=ε(m+1)−εm]
この式2により得られた値εoと各ステップの応力σnとの関係を示したものが図6である。
【0029】
図5、6のグラフから明らかなように、これまで所定の範囲内の振幅で安定的に推移していた値がある点を境として大きく振れ始め不安定な挙動を示しはじめた。この境の点の応力は上記図4の降伏点と一致し、この点が降伏点σyであると推測できる。すなわち、各ステップ毎のひずみεnの一階差分値、または二階差分値を採ることによっても明確に降伏点σyが検出できると言える。なお、ひずみεnの一階差分値εmでも降伏点を明確化することができるが、材料によってはなお不十分な場合もある。この場合は、二階差分値εoを取ることにより、より明確に降伏点を顕在化させることができた。
【0030】
[実験例2の結果]
実験例2は、試験片として焼き入れ、焼き戻し等の熱処理をしない、S45C(機械構造用炭素鋼)の素材を用いて行ったものである。
図7は、従来の引張試験法によるS45C素材のσ−ε線図である。このときの引張速度はV=0.1mm/minとした。当該グラフは約400MPa付近までは直線的に挙動しているが、その後は連続的してなだらかな曲線(下側凸の右上がり)を示し、弾性領域と塑性領域の明確な境は見られず、いずれの点が降伏点であるかを把握することはできない。
【0031】
そこで、この素材に本願発明にかかる検出法を適用した。なお、ステップ応力σs、荷重負荷速度Va、及び定荷重制御速度Vb、は上記の実験1と同様に設定している。図8はDW法引張試験によるS45C素材のσ−ε線図である。この線図によれば、σ=約500MPa付近に僅かな線の不連続点X1が見られる。この点X1をもって降伏点σyと判断するのは不十分と思われる。
【0032】
そこで、各ステップ毎の応力σnとひずみの安定時間Tsとの関係をグラフ化したものを図9に示す。このグラフによると、Ts=10秒前後で推移していた値が、σ=508.0MPaを境として大きく振れ始めた、時間Tsが安定しないことが見て取れる。すなわち、この点を降伏点σyとして捉えることができる。この点を境に、弾性から塑性に移行するときに見られる、試験片の分子の転位が急激に起きて、ひずみεの進行が停止して安定するまでの時間が大きくなるためと考えられる。
【0033】
さらに、各ステップ毎のひずみεnの一階差分値、及び二階差分値についてグラフ化するとそれぞれ図10、図11となる。やはり図9と同様に、σ=508.0MPaで大きな振幅が見られる。
【0034】
[実験例3の結果]
実験例3は、試験片として、焼き入れ、焼き戻し等の熱処理をしない、SCM(クロムモリブデン鋼)の素材を用いて行ったものである。
図12は、従来の引張試験法によるSCM素材のσ−ε線図である。このときの引張速度はV=0.2mm/minとした。当該グラフは約350MPa付近までは直線的に挙動しているが、その後は連続的してなだらかな曲線(下側凸の右上がり)を示し、弾性領域と塑性領域の明確な境の点を見出すことはできない。
【0035】
次に、この素材に本願発明にかかる検出法を適用した。なお、荷重のかけ方は上記実験1、2、と同様である。図13はDW法引張試験によるSCM素材のσ−ε線図である。この線図によれば、σ=約420MPa付近に僅かな線の不連続点X2が見られる。この点X2をもって降伏点σyと判断するのは不十分と思われる。
【0036】
そこで、各ステップ毎の応力σnとひずみの安定時間Tsとの関係をグラフ化すると図14となる。これによると、Ts=10秒前後で推移していた値が、σ=420.4MPaを境として大きく振れ始めた、時間Tsが安定しないことが見て取れる。すなわち、この点を降伏点σyとして捉えることができる。さらに、各ステップ毎のひずみεnの一階差分値、及び二階差分値についてグラフ化するとそれぞれ図15、図16となる。やはり図14と同様に、σ=420.4MPaで大きな振幅が見られる。
【0037】
【他の実施例】
これら本願発明の検出方法は、上記各図で表したようにグラフにより視覚的に明確化したが、これに限らず、採取したデータを用いてステップの前後との差分を採り、この差分値の変化の度合をコンピュータ等の演算装置を用いて判断するようにしてもよい。例えば、ある設定値の範囲を越えた場合を捉えて、安定推移から不安定な挙動を示したと判断するようにプログラム化してもよい。
【0038】
【発明の効果】
本願発明の降伏点検出方法は、以上のように構成されているため、従来の引張試験方法では顕在化させることができなかった固体材料の降伏点を、容易、かつ簡単に顕在化させることができる。降伏点を検出することができない材料については、便宜的に「耐力」の概念を導入して、構造計算や部材の強度設計に用いていたが、本願発明を用いることにより、これまで把握できなかった降伏点を用いて正確でかつ信頼性のある部材の設計を行うことができ、産業界への貢献は顕著なものとなることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 DW法による段階的な荷重と時間との関係を示す荷重仕様図である。
【図2】 従来の引張試験法による銅素材のσ−ε線図である。
【図3】 DW法引張試験による銅素材のσ−ε線図である。
【図4】 DW法引張試験により採取した銅素材のデータより応力σとひずみの安定時間Tsとの関係を示したグラフである。
【図5】 DW法引張試験により採取した銅素材のデータより各ステップのひずみεnの一階差分値εmと各ステップの応力σnとの関係を示したグラフである。
【図6】 DW法引張試験により採取した銅素材のデータより各ステップのひずみεnの二階差分値εoと各ステップの応力σnとの関係を示したグラフである。
【図7】 従来の引張試験法によるS45C素材のσ−ε線図である。
【図8】 DW法引張試験によるS45C素材のσ−ε線図である。
【図9】 DW法引張試験により採取したS45C素材のデータより応力σとひずみの安定時間Tsとの関係を示したグラフである。
【図10】 DW法引張試験により採取したS45C素材のデータより各ステップのひずみεnの一階差分値εmと各ステップの応力σnとの関係を示したグラフである。
【図11】 DW法引張試験により採取したS45C素材のデータより各ステップのひずみεnの二階差分値εoと各ステップの応力σnとの関係を示したグラフである。
【図12】 従来の引張試験法によるSCM素材のσ−ε線図である。
【図13】 DW法引張試験によるSCM素材のσ−ε線図である。
【図14】 DW法引張試験により採取したSCM素材のデータより応力σとひずみの安定時間Tsとの関係を示したグラフである。
【図15】 DW法引張試験により採取したSCM素材のデータより各ステップのひずみεnの一階差分値εmと各ステップの応力σnとの関係を示したグラフである。
【図16】 DW法引張試験により採取したSCM素材のデータより各ステップのひずみεnの二階差分値εoと各ステップの応力σnとの関係を示したグラフである。
【出願人】 【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
【出願日】 平成15年1月31日(2003.1.31)
【代理人】 【識別番号】100095717
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 博文

【公開番号】 特開2006−153458(P2006−153458A)
【公開日】 平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願番号】 特願2003−24721(P2003−24721)