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【発明の名称】 遊星ローラねじ
【発明者】 【氏名】高橋 大樹
【住所又は居所】神奈川県藤沢市鵠沼神明一丁目5番50号 日本精工株式会社内
【課題】高荷重、高速回転で使用され、「こじり」モーメントが加わった場合でも長寿命な遊星ローラねじを提供する。

【解決手段】ねじ軸1、ナット2、ローラ3を、所定の鋼で形成した後に、所定の熱処理を施すことで作製する。ねじ軸1の螺旋状溝11、ナット2の螺旋状溝21、ローラ3の螺旋状溝31の各表層部の残留オーステナイト量を、20体積%以上40体積%以下にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状溝が形成されたねじ軸と、内周面に螺旋状溝が形成されたナットと、前記ねじ軸とナットとの間に配置され、両者の前記螺旋状溝に噛み合う螺旋状溝が形成された複数のローラと、を備えた遊星ローラねじにおいて、
前記ねじ軸、ナット、およびローラの少なくとも一つは、質量比で、Cの含有率が0.1%以上0.7%以下、Siの含有率が0.1%以上1.5%以下、Mnの含有率が0.1%以上1.5%以下、Crの含有率が0.5%以上3.0%以下、Vの含有率が0.6%以上2.0%以下、Moの含有率が3.0%以下、Niの含有率が2.0%以下で、残部Feおよび不可避不純物からなる合金鋼で所定形状に形成した後、920℃以上の温度で浸炭窒化を行い、次いで、焼入れと焼戻しを施して、前記螺旋状溝の表層部の炭素含有率を0.7質量%以上1.3質量%以下、窒素含有率を0.15質量%以上0.3重量%以下とすることにより得られ、前記各螺旋状溝の表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下であることを特徴とする遊星ローラねじ。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は遊星ローラねじに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電動射出成形機やメカニカルプレス装置用のボールねじは、比較的大型で高荷重を受ける。そのため、従来より、ねじ軸とナットは、SCM420HやSCM415H等の浸炭鋼を所定形状に加工した後、870〜900℃で浸炭を行い、次いで、焼入れと焼戻しを施して、ねじ軸の外周面およびナットの内周面の表層部の硬さをビッカース硬さ(Hv)で700程度にしている。また、ボールとしては、高炭素クロム軸受鋼2種(SUJ2)製で表層部の表面硬さがビッカース硬さ(Hv)で750程度のものを用いている。しかしながら、使用条件が過酷になるにつれて、上記従来例のボールねじでは耐摩耗性が不十分となっている。
【0003】
下記の特許文献1には、特に耐摩耗性が要求される用途に好適な転がり軸受およびボールねじ装置についての記載がある。ここでは、転がり軸受またはボールねじ装置の転動部材の少なくとも一つを、重量%(質量%)で、C;0.1〜0.7%、Si;0.1〜1.5%、Mn;0.1〜1.5%、Cr;0.5〜3.0%、V;0.6〜2.0%、Mo;3.0%以下、Ni;2.0%以下で含有し、残部Feおよび不可避不純物からなる合金鋼で形成し、これに920℃以上の温度で浸炭窒化を施して完成品表面の炭素濃度を0.7〜1.3重量%、窒素濃度を0.15〜0.3重量%とすることにより、その表面に粒径0.1μm以下の炭化物、窒化物、および炭窒化物を少なくとも400個/100μm2 析出させている。
【0004】
一方、遊星ローラねじは、外周面に螺旋状溝が形成されたねじ軸と、内周面に螺旋状溝が形成されたナットと、前記ねじ軸とナットとの間に配置され、両者の前記螺旋状溝に噛み合う螺旋状溝が形成された複数のローラと、を備えている。ねじ軸を回すと、ローラが自転しながら公転することによりナットを回転させるため、ナットは軸方向に、ねじ軸に対して相対的に移動する。このような遊星ローラねじは、例えば下記の特許文献2および3に記載されている。これらの特許文献には、使用する材料についての記載はない。
【0005】
遊星ローラねじの製造方法の従来例としては、高炭素クロム軸受鋼を用い、焼入れおよび焼戻しを行うことにより、各螺旋状溝の表層部の硬さをHv653〜800とする方法がある。また、焼入れ性の良好な低炭素肌焼き鋼(SCR420H、SCM420H、SCM415H、SAE8620H、SAE4320H)を用い、浸炭または浸炭窒化を行う方法もある。
【特許文献1】特開2000−212721号公報
【特許文献2】特開平8−338461号公報
【特許文献3】特開2000−110907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、遊星ローラねじの使用条件が過酷になっており、上記特許文献1に記載された技術を転用しただけでは、高荷重、高速回転で使用される遊星ローラねじの寿命を十分に向上させることができない。
すなわち、高荷重、高速回転で使用される遊星ローラねじは、機台に取り付ける際に、取り付け誤差が大きかったり機台の変形が生じたりすると、こじり(ねじ軸とナットとの間に生じる相対的な傾き)が発生する恐れがある。そして、遊星ローラねじに「こじり」モーメントが加わると、ナット内に常に、ローラとの接触面圧の高い箇所が存在することになるため、寿命の低下を招く。
本発明の課題は、高荷重、高速回転で使用され、「こじり」モーメントが加わった場合でも長寿命な遊星ローラねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、外周面に螺旋状溝が形成されたねじ軸と、内周面に螺旋状溝が形成されたナットと、前記ねじ軸とナットとの間に配置され、両者の前記螺旋状溝に噛み合う螺旋状溝が形成された複数のローラと、を備えた遊星ローラねじにおいて、下記の構成(1) と下記の構成(2) とを特徴とする遊星ローラねじを提供する。
(1) 前記ねじ軸、ナット、およびローラの少なくとも一つは、質量比で、Cの含有率が0.1%以上0.7%以下、Siの含有率が0.1%以上1.5%以下、Mnの含有率が0.1%以上1.5%以下、Crの含有率が0.5%以上3.0%以下、Vの含有率が0.6%以上2.0%以下、Moの含有率が3.0%以下、Niの含有率が2.0%以下で、残部Feおよび不可避不純物からなる合金鋼で所定形状に形成した後、920℃以上の温度で浸炭窒化を行い、次いで、焼入れと焼戻しを施して、前記螺旋状溝の表層部の炭素含有率を0.7質量%以上1.3質量%以下、窒素含有率を0.15質量%以上0.3重量%以下とすることにより得られる。
(2) 前記各螺旋状溝の表層部の残留オーステナイト量が20体積%以上40体積%以下である。
【0008】
ここで、ねじ軸、ナット、およびローラの各螺旋状溝の表層部の残留オーステナイト量が20体積%未満であると、前記各螺旋状溝の表面の靱性が不足する。また、前記各螺旋状溝の表層部の残留オーステナイト量が40体積%を超えると、前記各螺旋状溝の硬さが不足する。
本発明の遊星ローラねじによれば、前記構成(1) を満たすことにより、ねじ軸、ナット、およびローラの少なくとも一つの螺旋状溝の耐摩耗性が良好になり、前記構成(2) を満たすことにより、各螺旋状溝の面に適度な靱性が付与される。よって、高荷重、高速回転で使用され、「こじり」モーメントが加わった場合の寿命が長くなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の遊星ローラねじによれば、高荷重、高速回転で使用され、「こじり」モーメントが加わった場合の寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1はこの実施形態の遊星ローラねじを示す部分断面図である。この図に示すように、遊星ローラねじは、ねじ軸1とナット2とローラ3を備えている。ねじ軸1の外周面に螺旋状溝11が形成されている。ナット2の内周面に螺旋状溝21が形成されている。ローラ3は、ねじ軸1とナット2の間に配置され、ローラ3の外周面には、ねじ軸1の螺旋状溝11とナット2の螺旋状溝21の両方に噛み合う螺旋状溝31が形成されている。この遊星ローラねじは、軸有効直径が30mmであり、リードが10mmであり、条数が5であり、ローラ3を7本備えている。
【0011】
この遊星ローラねじのねじ軸1、ナット2、およびローラ3を、材質と熱処理条件を変化させて作製することにより、螺旋状溝の表層部(表面から深さ0.2mmまでの位置)の残留オーステナイト量(γR )、炭素含有率〔C〕、窒素含有率〔N〕が、表1に示す値となっているものを得た。そして、その他の部材は全て同じとし、下記の表1に示す組み合わせで組み立てた。
【0012】
素材としては、SCM420Hからなる素材と、下記の合金鋼Aからなる素材を用意した。合金鋼Aは、質量比で、Cの含有率が0.10%、Siの含有率が0.40%、Mnの含有率が0.75%、Crの含有率が1.45%、Vの含有率が0.98%で、残部Feおよび不可避不純物からなる。
各素材をねじ軸1、ナット2、およびローラ3の形状に加工した後、「浸炭窒化」では、温度920〜950℃で6〜8時間、吸熱型ガス雰囲気中にエンリッチガスおよびアンモニアガスを加えて浸炭窒化を行った後、常温まで空冷し、次いで、温度820〜880℃に0.5〜1.5時間保持した後に常温まで空冷する二次焼入れを施した後、温度160〜180℃に2〜3時間保持する焼戻し処理を行った。
【0013】
「浸炭」では、温度920〜950℃、処理時間6〜8時間の条件で浸炭(通常浸炭)を行い、次いで、820〜880℃に0.5〜1.5時間保持した後に常温まで冷却する焼入れ処理と、温度160〜180℃に2〜3時間保持する焼戻し処理を行った。
得られた遊星ローラねじを、軸方向荷重:300kN、モーメント荷重:4.0kN・m、ストローク:40mm、回転速度の最大値:500min-1、温度:80℃、潤滑剤:グリース「ルベールYS−2」の条件で、100万回往復運動させた後、ねじ軸の摩耗量を測定した。
これらの結果も下記の表1に併せて示す。表中、本発明の範囲から外れている値に下線を施した。
【0014】
【表1】


【0015】
この表の結果から以下のことが分かる。
No. 1〜4の遊星ローラねじは請求項1の発明の実施例に相当する。これに対して、No. 5〜10の遊星ローラねじは本発明の比較例に相当する。そして、No. 1〜4の遊星ローラねじはNo. 5〜7の遊星ローラねじよりも、摩耗量が著しく少なかった。
【0016】
また、No. 8〜10の遊星ローラねじは、往復運動が100万回となる前に動きに変化が生じたため、その時点で往復運動を停止し、ねじ軸、ナット、ローラの各螺旋状溝の状態を確認した。その結果、No. 8の遊星ローラねじは、ねじ軸に剥離が生じていた。No. 9の遊星ローラねじは、ナットに剥離が生じていた。No. 10の遊星ローラねじは、ローラに剥離が生じていた。いずれも剥離が生じていた部品の螺旋状溝は、表層部の残留オーステナイト量が40体積%を超えていた。
したがって、本発明の遊星ローラねじは、高荷重、高速回転で使用された際の寿命が長いものであることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に相当する遊星ローラねじを示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0018】
1 ねじ軸
11 ねじ軸の螺旋状溝
2 ナット
21 ナットの螺旋状溝
3 ローラ
31 ローラの螺旋状溝
【出願人】 【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
【住所又は居所】東京都品川区大崎1丁目6番3号
【出願日】 平成16年10月8日(2004.10.8)
【代理人】 【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也

【識別番号】100075579
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 嘉昭

【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 秀▲てつ▼

【公開番号】 特開2006−105362(P2006−105362A)
【公開日】 平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願番号】 特願2004−296265(P2004−296265)