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【発明の名称】 曲げ性、疲労特性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法
【発明者】 【氏名】面迫 浩次
【住所又は居所】広島県呉市昭和町11番1号 日新製鋼株式会社技術研究所内
【氏名】松元 孝
【住所又は居所】広島県呉市昭和町11番1号 日新製鋼株式会社技術研究所内
【課題】750N級以上の強度を維持しながら、薄肉化しても十分な強度をもち、自動車,家電機器,建材等の部材として使用される高強度冷延鋼板を提供する。

【解決手段】炭素当量Ceq(C+Si/24+Mn/6+Cr/5+B×5+V/14+Mo/4+Ni/40)を0.45〜0.7質量%に調整したC-Si-Mn鋼を加熱温度:1000℃以上で粗圧延した後、仕上げ温度:Ar3+50℃以上,巻取り温度:700℃以下で熱間圧延する。冷延後、830℃以上×60秒以上の加熱保持→10℃/秒以下で720〜600℃まで冷却する一次冷却→7℃/秒以上で二次冷却温度T:(-248×Ceq+538)℃まで冷却する二次冷却→T+30℃以上×3分以上の恒温処理の連続焼鈍を施すことにより、曲げ性,疲労特性が共に良好な高強度冷延鋼板を製造する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.08〜0.18質量%,Si:1.00〜1.80質量%,Mn:2.0〜2.6質量%,P:0.03質量%以下,S:0.005質量%以下,全Al:0.01〜0.1質量%,残部が実質的にFeで、(1)式で定義される炭素当量Ceqが0.45〜0.7質量%の範囲にあるスラブを用意し、
スラブを1000℃以上に加熱して粗圧延し、
Ar3+50℃以上の仕上げ温度から冷却して700℃以下で巻き取る熱間圧延により熱延鋼帯をフェライト+パーライト組織に調質し、
酸洗後に圧延率:30%以上で冷間圧延し、
830℃以上,60秒以上の加熱保持後に平均冷却速度:10℃/秒以下で720〜600℃まで冷却する一次冷却により面積率:50%以上でフェライトを生成させ、次いで平均冷却速度:7℃/秒以上で(2)式で定義される二次冷却温度T(℃)まで冷却し、更にT+30℃以上の温度に3分以上保持した後、室温まで冷却する熱処理を施すことを特徴とする曲げ性,疲労特性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
Ceq(%)=C+Si/24+Mn/6+Cr/5+B×5+V/14+Mo/4+Ni/40・・・・(1)
T (℃)=-248×Ceq+538 ・・・・(2)
【請求項2】
更にNi:0.10質量%以下,Mo:0.3質量%以下,Cr:0.5質量%以下,Cu:0.1質量%以下,V:0.08質量%以下,B:0.0050質量%以下,Ca:0.0050質量%以下,Ti:0.10質量%以下,Nb:0.05質量%以下の一種又は二種以上を含むスラブを使用する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
スラブの加熱温度が1170℃以下であり、粗圧延から仕上げ圧延の間で鋼板表面を衝突圧:2.0kgf/cm2以上でデスケーリングする請求項1又は2記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用材料,構造部材,鋼管用素材として使用され、強度:750N級以上で曲げ性,疲労特性に優れた高強度冷延鋼板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費節減を狙った軽量化のために薄肉化しても必要強度を維持する鋼材が自動車用鋼板として要求されており、強度:750N級以上の高強度冷延鋼板が使用され始めている。自動車用以外にも、軽量で高強度が要求される構造部材,電気機器等にも高強度冷延鋼板の使用が検討されている。高強度冷延鋼板としては、熱延時の制御圧延や連続焼鈍条件を制御することによりマルテンサイト,ベイナイト等の硬質低温変態相をフェライト相と共存させ、強度-延性バランスを改善した複合組織高強度鋼板が知られている。
【0003】
高強度冷延鋼板の要求特性のひとつに曲げ性がある。強度:750N級以上の高強度冷延鋼板は補強部品等に使用されることから、普通鋼のような複雑形状を得るためのプレス成形性ではなく、曲げ加工性が重視される場合が多い。特に、曲げ半径の小さなシートレール等の部材に高強度冷延鋼板が適用され始めている最近、従来よりも格段に過酷な曲げ加工性が要求される傾向にある。走行時の振動によって荷重が繰返し負荷される自動車部材では、疲労特性も重要な要求特性である。
【0004】
熱延鋼板の疲労特性を改善した例は多数報告されているが、高強度冷延鋼板の疲労特性を改善した提案は少ない。たとえば、ポリゴナルフェライト,ベイナイト,マルテンサイトの面積比及び粒径を制御することにより疲労特性を改善した例(特許文献1)もあるが、曲げ性と両立させた場合は不明であり、疲労特性,曲げ性共に良好な鋼板は提案されていない。低温変態相の硬さを低下させてフェライト相との硬度差を小さくすることにより曲げ性が改善される(特許文献2,3)が、単に硬度差を小さくするだけでは過酷な曲げ加工用途に十分満足できる結果が得られていない。
【特許文献1】特開平3-264646号公報
【特許文献2】特開昭62-13533号公報
【特許文献3】特開昭63-293121号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高強度冷延鋼板の疲労特性,曲げ性の両立を図るため鋼種,製造条件を種々の観点から検討した結果、C-Si-Mn鋼を用い、連続焼鈍中に一部マルテンサイトを生成させ、変態歪みによるベイナイト変態促進効果によって鋼板中の残留オーステナイトを5%以上確保しながら微細組織化することにより、強度:750N以上で優れた曲げ性,疲労特性を付与した高強度冷延鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、C:0.08〜0.18質量%,Si:1.00〜1.80質量%,Mn:2.0〜2.6質量%,P:0.03質量%以下,S:0.005質量%以下,全Al:0.01〜0.1質量%,残部が実質的にFeの組成をもち、(1)式で定義される炭素当量Ceqが0.45〜0.7質量%の範囲に調整されたスラブを使用する。スラブは、更にNi:0.10質量%以下,Mo:0.3質量%以下,Cr:0.5質量%以下,Cu:0.1質量%以下,V:0.08質量%以下,B:0.0050質量%以下,Ca:0.0050質量%以下,Ti:0.10質量%以下,Nb:0.05質量%以下の一種又は二種以上を含むことができる。
Ceq(%)=C+Si/24+Mn/6+Cr/5+B×5+V/14+Mo/4+Ni/40・・・・(1)
【0007】
粗圧延,熱間圧延,冷間圧延,連続焼鈍を経て冷延鋼板が製造されるが、各工程での製造条件を次のように制御する。
粗圧延工程では、スラブを1000℃以上に加熱して粗圧延する。
熱間圧延工程では、仕上げ温度をAr3+50℃以上に設定し、仕上げ圧延後に冷却して700℃以下で巻き取ることによりフェライト+パーライト組織に調質する。
次いで、焼鈍・酸洗後、圧延率:30%以上で目標板厚に冷間圧延する。
【0008】
得られた冷延鋼板に次の連続焼鈍を施すことにより、引張強さ:750N級以上で曲げ性,疲労特性に優れた高強度冷延鋼板となる。
・加熱保持:830℃以上,60秒以上
・一次冷却:加熱保持後に平均冷却速度:10℃/秒以下で720〜600℃まで冷却
この一次冷却により、面積率:50%以上でフェライトが生成する。
・二次冷却:平均冷却速度:7℃/秒以上で二次冷却温度Tまで冷却
二次冷却温度TはT(℃):-248×Ceq+538で定義され、好ましくは二次冷却温度T±5℃に10〜30秒保持する。
・恒温処理:更にT+30℃以上の温度に3分以上保持した後、室温まで冷却
【0009】
粗圧延から仕上げ圧延の間でデスケーリングすることにより、熱延中の鋼板表面に生成しているスケールを除去することも可能である。この場合、スラブの加熱温度を1170℃以下とし、衝突圧:2.0kgf/cm2以上で高圧水を鋼板表面に衝突させる。デスケーリングを一回又は複数回繰り返すことにより、疲労特性が飛躍的に向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の高強度冷延鋼板で必要とする金属組織は、フェライト+ベイナイト+マルテンサイト+残留オーステナイトの混合組織である。曲げ性,疲労特性の改善には金属組織の均一化が最も重要であり、フェライト/マルテンサイトの界面にミクロクラックが発生すると曲げ性,疲労特性が劣化する。そこで、連続焼鈍条件の規制により部分的にマルテンサイト又はベイナイトを生成させ、その後の恒温変態でマルテンサイトやベイナイトの焼戻し及び変態歪みによるベイナイト変態促進効果を利用して、組織の均一化及びベイナイト変態による微細で安定な残留オーステナイトを確保している。
【0011】
連続焼鈍では、パーライトの生成を抑制することが重要である。仮にパーライトが生成するとベイナイトや残留オーステナイト量が低下し、疲労特性が劣化しやすくなる。(2)式で計算される温度T(℃)に一旦冷却して一部マルテンサイトを生成させることも重要である。パーライトの生成抑制及び一部マルテンサイトの生成により、ベイナイト変態の促進作用及び組織の微細化が図られる。連続焼鈍に続く恒温処理では、必要量のAlが含まれていることからベイナイト変態中にセメンサイトの生成が抑制され残留オーステナイトが確保される。その結果、目標とするフェライト+ベイナイト+マルテンサイト+残留オーステナイトの混合組織で均一微細な金属組織となり、曲げ性,疲労特性に優れた高強度冷延鋼板が得られる。
T (℃)=-248×Ceq+538 ・・・・(2)
【0012】
以下、本発明で規定した各種条件を説明する。
〔合金成分〕
・C:0.08〜0.18質量%
鋼材の強度を向上させると共にオーステナイト安定化元素であり、連続焼鈍過程中のベイナイト変態時にフェライト相からオーステナイト相に濃化し、疲労特性の改善に有効な残留オーステナイトを安定化させる。5%以上の残留オーステナイトを確保し、引張強さ:750N/mm2以上の強度を得る上で、0.08質量%以上のC含有が必要である。しかし、0.18質量%を超える過剰量のCが含まれると、溶接性の劣化や過剰な強度上昇を招き、曲げ性が劣化する。好ましくは、0.08〜0.15質量%の範囲でC含有量を選定する。
【0013】
・Si:1.00〜1.80質量%
固溶強化により強度-伸びバランスを改善しながら高強度化する成分であると共に、フェライト変態を促進させてオーステナイト相にCを濃化させる作用があり、間接的に残留オーステナイトの安定化にも役立つ。そのため、室温で変態誘起塑性を示す残留オーステナイトの確保が容易になる。更に、ベイナイト変態温度域においてセメンタイトの析出を抑制し、未変態オーステナイトへのC濃化が一層促進される。このような効果は1.00質量%以上のSi添加で得られるが、1.80質量%を超える過剰量のSiを添加すると脱スケール性の悪いスケールが熱延時に生じやすくなり酸洗性,溶接性,製品の表面性状に悪影響を及ぼす。好ましくは、1.0〜1.5質量%の範囲でSi含有量を選定する。
【0014】
・Mn:2.0〜2.6質量%
焼入れ性を改善しオーステナイトの安定化に有効な成分である。冷却途中でパーライト変態を抑制し、強度向上に有効なベイナイト,疲労特性の改善に有効な残留オーステナイトの必要量を確保する作用も呈する。このような効果は、2.0質量%以上のMn添加でみられる。しかし、2.6質量%を超えるMnの過剰添加は、焼入れ性が過剰に高まって強度が過度に上昇し、延性,曲げ性,溶接性,疲労特性が劣化しやすくなる。好ましくは、2.0〜2.4質量%の範囲でMn含有量を選定する。
【0015】
・P:0.03質量%以下
Siと同様にフェライト生成に影響を及ぼす成分であるが、過剰含有は延性,曲げ性を劣化させるので、0.03質量%に上限を設定した。
・S:0.005質量%以下
残留オーステナイトの生成に悪影響を及ぼすことはないが、疲労強度に有害なA系介在物がS含有量の増加に応じて多量生成する。A系介在物の増加傾向は0.005質量%を超えると顕著になるので、S含有量の上限を0.005質量%(好ましくは、0.002質量%)と規制した。
【0016】
・全Al:0.01〜0.1質量%
Siと同様に室温で安定な残留オーステナイトの確保に重要な成分である。セメンタイトに固溶せず、ベイナイト変態させる恒温処理の際にもセメンタイトの析出を抑え、変態を遅延させる作用を呈する。Siよりもフェライト形成能が強いAlを添加すると、Si添加に比較して変態開始が早くなり、極短時間保持でもオーステナイトにCが濃化される。その結果、オーステナイト相が一層安定化し、生成したオーステナイトのC濃度が高くなると共に、残留オーステナイト量も多くなり高い加工硬化特性を示す。Alの添加効果は全Alとして0.01質量%以上でみられるが、全Alが0.1質量%を超えると溶接性が低下する傾向を示す。好ましくは、0.05〜0.08質量%の範囲でAl含有量を選定する。
【0017】
以上の必須成分に加え、Ni,Mo,Cr,Cu,V,B,Ca,Ti,Nb等の任意成分を必要に応じて添加しても良い。添加される任意成分は用途や要求特性に応じて適宜選択されるが、多量添加は圧延性,鋼材コスト等に悪影響を及ぼすので、各任意成分の添加量上限を次のように定める。
・Ni:0.10質量%以下
オーステナイト相を安定化する作用を呈するが、過剰添加は過度の強度上昇,鋼材コストの上昇を招くので、上限を0.10質量%に定めた。
【0018】
・Mo:0.3質量%以下
炭化物の生成を抑えると共に、マルテンサイト変態温度を下げて残留オーステナイトを安定化する作用を呈する。しかし、過剰添加は鋼材コストの上昇は勿論、焼入れ性を不必要に高めて強度を過度に上昇させることにもなるので、上限を0.3質量%に定めた。
・Cr:0.5質量%以下
焼入れ性を確保する成分であるが、過剰添加は焼入れ性を不必要に高めて強度を過度に上昇させ、鋼材コストも高くなるので、上限を0.5質量%に定めた。
【0019】
・Cu:0.1質量%以下
耐食性の改善に有効な成分であるが、過剰添加するとスラブの熱間加工性が低下する。Cu添加による熱間加工性の低下はNiの複合添加で解消されるものの、結果として鋼材コストの上昇を招くので0.1質量%に上限を定めた。
・V:0.08質量%以下
マルテンサイト変態温度を下げ残留オーステナイトの安定化に寄与する成分であるが、過剰添加は鋼材コストの上昇は勿論、焼入れ性を不必要に高めて強度を過度に上昇させることにもなるので、上限を0.08質量%に定めた。
【0020】
・B:0.0050質量%以下
パーライトの生成を抑え、粒界強化によって耐二次加工脆化を改善する作用がある。しかし、Bの添加効果は0.0050質量%で飽和し、それ以上添加しても鋼材コストの上昇を招く。
・Ca:0.0050質量%以下
非金属介在物の形態を変えることにより加工性を向上させる成分であるが、Caの添加効果は0.0050質量%で飽和し、それ以上添加しても介在物を粗大化させ、却って曲げ性が劣化する。
【0021】
・Ti:0.10質量%以下
鋼中に固溶しているNをTiNとして固定しAlNの生成を抑制する作用がある。析出硬化によってフェライト地を強化し変形抵抗力を増大させることから、強度確保にも有効である。しかし、過剰量のTiを添加するとTiCの生成量が増加し、析出強化により強度が過度に上昇し、またオーステナイト相に濃化するC量の絶対量が下がり、C濃化によるオーステナイト相の安定化効果が小さくなり残留オーステナイト量が減少する。過剰なTi添加は、延性,曲げ性にとっても好ましくない。そのため、Ti含有量の上限を0.10質量%に規制した。
・Nb:0.05質量%以下
適度にオーステナイト相のパーライト変態を抑制する作用があり、結果として残留オーステナイトを得るための冷却条件が緩和される。しかし、過剰添加してもNbの増量に見合った効果が得られないので、上限を0.05質量%に定めた。
【0022】
・炭素当量Ceq:0.45〜0.7質量%
本成分系では、式(1)で炭素当量Ceqが算出される。要求強度を得る上では0.45質量%以上の炭素当量Ceqが必要であるが、炭素当量Ceqが0.7質量%を超える成分設計では焼入れ性が過度になり、急激な強度上昇,曲げ性の著しい低下の原因となる。
Ceq(%)=C+Si/24+Mn/6+Cr/5+B×5+V/14+Mo/4+Ni/40 ・・・・(1)
【0023】
〔粗圧延〕
所定の成分・組成に調整された溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造で得られたスラブを加熱後に粗圧延する。粗圧延に先立つ加熱では、結晶粒の粗大化を防止し、フェライト変態を促進させるため加熱温度を1000℃以上に設定する。
【0024】
〔熱間圧延〕
粗圧延後のスラブを所定板厚まで熱間圧延する。熱間圧延では、仕上げ温度:Ar3+50℃以上に設定し、熱延鋼帯を巻取り温度:700℃以下で巻き取ることによりフェライト+パーライト組織に調質する。Ar3+50℃に達しない仕上げ温度では熱延時の変形抵抗が高く、絞込みが発生しやすい。逆に仕上げ温度が900℃を超えると粗粒化が進行するので、(Ar3+50℃)〜(Ar3+100℃)の範囲で仕上げ温度を調節することが好ましい。
熱延された鋼帯は、焼鈍後に得られる材質を安定化させるため比較的高温で巻き取られる。低温捲取りでは、ベイナイトやマルテンサイトが生成して後工程の連続焼鈍時にオーステナイトが不安定化すると共に、板幅エッジの冷却速度過多に起因する部分的な硬化が生じやすい。逆に700℃を超える高温巻取りでは、フェライト結晶粒が粗大化し、後工程の連続焼鈍時に板幅方向に沿ったオーステナイト化が不安定化する。好ましくは、550〜680℃の温度範囲で巻取り温度を選定する。
【0025】
〔デスケーリング〕
熱延工程の途中で鋼帯表面を一回以上デスケーリングすると、高強度冷延鋼板の疲労特性が改善される。デスケーリングに際してはスラブの加熱温度を1170℃以下に調節し、仕上げ圧延前の鋼帯表面に衝突圧:2.0kgf/cm2以上で高圧水を衝突させる方法が代表的であるが、加圧ロールで同様な圧下力を加える酸洗前圧延によるデスケーリングも採用可能である。
デスケーリング性に悪影響を及ぼすファイアライトが生成しやすいSi鋼をベースにしているので、ファイアライトの融点(1170℃)よりもスラブの加熱温度を下げることが好ましい。1170℃を超える加熱温度では、ファイアライトが結晶粒界に食い込み、デスケーリングによっても剥離しがたくなる。また、衝突圧:2.0kgf/cm2以上で一回以上デスケーリングすることにより、熱延鋼帯の表面肌が飛躍的に良くなり、焼鈍時の粒界酸化等によるスケール起因の疲労破壊が減少して疲労特性が改善される。
【0026】
〔冷間圧延〕
熱延鋼帯は、焼鈍・酸洗後、所定板厚まで冷間圧延される。冷間圧延では、再結晶温度の低下,オーステナイトの安定化を狙って圧延率を30%以上に設定する。圧延率が30%に達しない軽圧下圧延では、再結晶温度の低下に有効な歪が蓄積されがたく、オーステナイトの安定度も低下しやすい。
【0027】
〔連続焼鈍〕
冷間圧延された鋼帯を連続焼鈍することにより、フェライト+低温変態相+残留オーステナイトの複合組織に調質される。連続焼鈍は、加熱保持,一次冷却,二次冷却,恒温処理の工程を経る。
・加熱保持
冷延鋼帯を保持温度:830℃以上,保持時間:60秒以上で加熱保持することによりオーステナイト化を十分進行させる。830℃に達しない保持温度ではオーステナイト化が不十分になり、残留オーステナイトが減少し、安定した曲げ性,疲労特性が得られがたい。しかし、過度の高温に保持するとフェライト変態を遅延させる結晶粒の粗大化が生じ、未変態オーステナイトへのC濃化が不十分になりやすいので、保持温度の上限を900℃とすることが好ましい。
【0028】
・一次冷却
加熱保持された鋼帯を平均冷却速度:10℃/秒以下で720〜600℃まで冷却すると面積率:50%以上でフェライトが生成する。フェライトの生成は冷却速度の影響を受け、平均冷却速度を10℃/秒以下とすることにより面積率:50%以上のフェライトが確保される。10℃/秒を超える冷却速度では、必要なフェライト面積率が得られず、未変態オーステナイトへのC濃化が不十分になる。一次冷却温度:720〜600℃も面積率:50%以上でフェライトを生成させる上で重要な条件であり、当該温度範囲を外れると十分量のフェライトが得られない。
【0029】
・二次冷却
一次冷却で面積率:50%以上のフェライトを生成させた後、平均冷却速度:7℃/秒以上で二次冷却温度Tまで二次冷却する。二次冷却温度Tは、適量のマルテンサイトを生成させるため(-248×Ceq+538)℃に設定され、好ましくは二次冷却温度T±5℃に20〜30秒保持される。
7℃/秒に達しない緩冷却では、未変態オーステナイトからパーライトが生成して残留オーステナイト量が減少するばかりでなく、高温で生成した硬質で粗大なパーライトとフェライトの界面でクラックが生じやすくなり、曲げ性が劣化する。二次冷却温度Tまで一旦冷却することにより、不安定なオーステナイトから一部マルテンサイトが生成し、マルテンサイト変態時に発生する変態歪みによりベイナイト変態が促進される。また、ベイナイト変態の促進に必要な変態歪みを得るため、二次冷却温度Tに10秒以上保持することが好ましい。
【0030】
・恒温処理
二次冷却後の鋼帯を保持温度:T+30℃以上に3分以上保持することにより、適正な残留オーステナイトを維持しながらベイナイト変態を進行させる。短すぎる保持時間では、ベイナイト変態が不足し、残留オーステナイト量も減少し、オーステナイト相へのC濃化も不十分になる。その結果、ベイナイト変態温度から常温まで冷却する過程で未変態オーステナイトからマルテンサイトが生成し、強度が上昇して曲げ性,疲労特性が劣化する
【実施例】
【0031】
表1の組成をもつ鋼材を転炉で溶製し、スラブに連続鋳造した後、粗圧延を経て板厚:2.0mmに熱間圧延し、更に冷間圧延して板厚:1.2mmの冷延鋼帯を製造した。熱延工程では、1250℃に加熱したスラブを仕上げ温度:850℃で熱間圧延し、600℃でコイル状に巻き取った。また、熱延途中、衝突圧:1.6kgf/cm2で高圧水を温度:1150℃の鋼帯表面に衝突させてデスケーリングした。
【0032】


【0033】
冷延鋼帯を連続焼鈍炉に通板し、840℃に120秒加熱保持した後、平均冷却速度:8℃/秒で680℃まで一次冷却し、更に平均冷却速度:12℃/秒で420℃まで冷却し、次いで450℃×3分で恒温処理し、室温まで冷却した。
得られた冷延焼鈍板からJIS-5号試験片を切り出し、圧延方向の引張試験、両振り平面曲げ疲労試験に供した。疲労特性は、107サイクルでの応力を疲労強度(σw)とし、引張試験で得られた引張強さ(TS)で除した値(σw/TS)を疲労限度比として算出した。
【0034】
残留オーステナイトは、X線回折法で定量した。
曲げ試験では、冷延焼鈍板から圧延方向に沿って切り出された曲げ試験片を使用し、先端アールが0.5mm単位で変わるパンチを用いて90度V曲げし、割れが発生しない先端アールを限界曲げ半径として求めた。
調査結果を表2に示す。高強度冷延鋼板の用途では、引張強さ:750N/mm2以上,限界曲げ半径:0.5mm以下,疲労限度比:0.5以上が合格と評価される。
【0035】
表2にみられるようにNo.1の鋼は、Si,Mnが不足し炭素当量Ceqも低いためフェライト変態が早く、必要強度が得られず、疲労限度比も一般的なレベルにあった。No.2の鋼は、C,Mnが不足するため低い疲労限度比を示した。No.4の鋼は、Mnが不足し必要強度が得られず、曲げ性にも劣っていた。No.5の鋼は、Cが不足しSiが過剰なため、フェライトの成長によりオーステナイトが不均一分散し、曲げ性、疲労限度比共に低い値であった。No.9の鋼は、逆にCが過剰でSiがMnが不足するため炭化物の析出に起因して曲げ性が劣り、フェライトの分散も不均一なため疲労限度比に劣っていた。
【0036】
これに対し、本発明で規定した条件を満足するNos.3,6〜8,10,11の鋼は、引張強さ:750N級以上の強度をもち、限界曲げ半径:0.5mm以下,疲労限度比:0.5以上と曲げ性,疲労特性に優れていた。
【0037】


【0038】
良好な限界曲げ半径,疲労限度比を示したNos.3,7,11の鋼材について、熱延条件,連続焼鈍条件をそれぞれ表3,4に示すように変化させた製造条件A〜Jで冷延焼鈍板を製造し、熱延条件,連続焼鈍条件が機械特性に及ぼす影響を詳細に調査した。
【0039】


【0040】


【0041】
製造された各冷延焼鈍板の機械特性を同様な試験で調査した結果を表5に示す。
スラブの加熱温度が製造条件Aでは1100℃,製造条件Bでは1250℃であるが、何れの場合も引張強さ:750N級以上の強度をもち曲げ性,疲労特性共に良好であった。また、本発明で規定した条件を満足する製造条件G,Jでは、曲げ性,疲労特性共に良好な高強度冷延鋼板が得られた。デスケーリング時の衝突圧を3kgf/cm2とした製造条件Cでは、製造条件Bよりも更に疲労限度比が高い高強度冷延鋼板が得られた。
【0042】
デスケーリングしない製造条件Dでは、疲労限度比が低い値を示した。
製造条件Eは、連続焼鈍時の加熱保持時間が短く、二次冷却速度が遅く、恒温処理の保持時間が不足する場合であり、パーライトが生成し、常温までの冷却過程で未変態オーステナイトから生成するマルテンサイト量が増加した結果、疲労特性に劣っていた。
一次冷却温度が高すぎる製造条件Fでは、フェライト変態が進行しがたく、オーステナイトからベイナイトが生成した。この場合、オーステナイトへのC濃化が十分でないため低C濃度のベイナイトが生成するため曲げ性は良好であるものの、結晶粒の粗大化に起因して疲労強度が劣っていた。
【0043】
製造条件Hは、熱延鋼帯の巻取り温度が高く、連続焼鈍時の二次冷却温度が低い場合であり、マルテンサイトの増量に起因して強度が急激に上昇しており、曲げ性,疲労特性に劣っていた。
連続焼鈍時の加熱保持温度、一次冷却温度が低い製造条件Iでは、均一なオーステナイトが生成せず二相域からの変態が生じたため、フェライト変態量の不足による強度上昇がみられ、結果として曲げ性,疲労特性に劣っていた。
【0044】
以上の対比から明らかなように、同じ鋼種を使用した場合でも、熱間圧延,連続焼鈍の条件を適正管理することにより、フェライト+低温変態相+残留オーステナイトの複合組織に調質でき、引張強さ:750N級以上の強度で曲げ性,疲労特性共に優れた高強度冷延鋼板が得られることが確認される。
【0045】


【産業上の利用可能性】
【0046】
以上に説明したように、組成,製造条件の適正管理により、引張強さ:750N級以上の強度を維持しながら、曲げ性,疲労特性を高位にバランスさせた高強度冷延鋼板が得られる。この高強度冷延鋼板は、軽量化のために薄肉化しても十分な強度をもち、疲労特性が重視される自動車用部品を初め、過酷な曲げ加工,深絞り等で製品形状に加工される家電機器,建材等の広汎な分野で使用される。
【出願人】 【識別番号】000004581
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区丸の内3丁目4番1号
【出願日】 平成16年6月23日(2004.6.23)
【代理人】 【識別番号】100092392
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 亘

【識別番号】100116621
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 萬里

【公開番号】 特開2006−9057(P2006−9057A)
【公開日】 平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願番号】 特願2004−184519(P2004−184519)