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【発明の名称】 誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入方法及び焼入装置
【発明者】 【氏名】清澤 裕
【住所又は居所】神奈川県平塚市田村七丁目4番10号高周波熱錬株式会社内
【氏名】寒河江 正樹
【住所又は居所】神奈川県平塚市田村七丁目4番10号高周波熱錬株式会社内
【氏名】渡邊 靖之
【住所又は居所】静岡県磐田市東貝塚1578番地 NTN株式会社内
【氏名】平岡 恒哲
【住所又は居所】静岡県磐田市東貝塚1578番地 NTN株式会社内
【課題】誘導加熱による鋼板のプレス加工で成形されるシェル型針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入れ

【解決手段】針状ころ軸受外輪Wの内周軌道面に外周がテーパ面を有する円筒形の誘導加熱コイル20を配設し、外周面に冷却片11を有する冷却治具10を配設し、冷却片11により針状ころ軸受外輪の外周面を冷却しながら、内周軌道面軌道面を誘導加熱し、冷却手段30により上部から噴射冷却焼入れする。これにより、針状ころ軸受外輪の内周軌道面の表面のみの焼入れを行うことができ、かつ冷却水の当たりが均一になり、均一な軌道面の表面硬さが得られる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板のプレス加工で形成されるシェル型針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入れにおいて、被焼入れ外輪の内周軌道面に誘導加熱コイルを配設し、外周面に冷却治具を配設し、該冷却治具により被焼入れ外輪の外周面を冷却しながら、内周軌道面を誘導加熱して表面焼入れすることを特徴とする誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入方法。
【請求項2】
外周がテーパ面を有する円筒形の誘導加熱コイルを被焼入れ外輪の内周軌道面に配設し、該コイル外周と被焼入れ外輪の内周軌道面との間隔の大きい方向から噴射冷却して焼入れすることを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入方法。
【請求項3】
鋼板のプレス加工で形成されるシェル型針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入装置において、被焼入れ外輪の内周軌道面に誘導加熱コイルが配設され、内周軌道面を誘導加熱中に被焼入れ外輪の外周面を冷却する冷却片を備えた冷却治具が配設されたことを特徴とする誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入装置。
【請求項4】
前記冷却治具は、放射状に分割された複数の扇形断面の冷却片を組み合わせた円筒体からなり、該各冷却片が被焼入れ外輪の外周に密接するように付勢され、被焼入れ外輪の熱膨張に対応して移動することを特徴とする請求項3に記載の誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入装置。
【請求項5】
前記冷却治具が水冷されたことを特徴とする請求項3又は4に記載の誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入装置。
【請求項6】
被焼入れ外輪の内周軌道面に配設された外周がテーパ面を有する円筒形の誘導加熱コイルと、該コイル外周と被焼入れ外輪の内周軌道面との間隔の大きい方向から冷却液を噴射冷却するように配設された冷却手段とを備えたことを特徴とする請求項3又は4に記載の誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鋼板のプレス加工で形成されるシェル型針状ころ軸受の軌道輪のように非常に肉厚の薄いリングの軌道面を表面のみ焼入れする焼入方法及び焼入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
肉厚の薄いシェル型針状ころ軸受としては、例えば特許文献1の針状ころ軸受が開発されている。この軸受の軌道輪は、薄鋼板を絞り加工した薄肉リング材からなっている。このために、絞り加工性のよい低炭素鋼を使用して加工し、従来は浸炭又は浸炭窒化処理により表面硬化して製造された。
【特許文献1】特開平10−46318号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の浸炭や浸炭窒化などの熱処理には大規模な熱処理設備が必要で、設備費が高く、保守にもコストと工数がかかる。また浸炭、浸炭窒化処理などの熱処理は処理時間が長くかかるという問題点があった。これらにより、従来の生産方式は小ロット生産には向かず、大ロット生産が余儀なくされ、また各工程がそれぞれ単独工程のために、仕掛りが増加しリードタイムが長くなるという問題点があった。
【0004】
そこで本発明は、上記問題点を解決し、安価、簡素な設備で処理でき、表面硬化処理の時間を短縮し、仕掛かり在庫を削減するための、誘導加熱による針状ころ軸受の軌道面の表面焼入方法及び焼入装置を提供することを目的とする。特に本発明は、多品種少量生産の場合に効果が大きいものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明者らは浸炭などの熱処理によらず表面硬化する方法として、C含有量を0.3%以上にした鋼材を使用して誘導加熱により表面焼入れすることを検討した。しかしながら、シェル型針状ころ軸受の軌道輪などの場合は非常に肉薄のために、通常の誘導加熱では肉厚全体が加熱されて、軌道輪の靭性が低下して破損するという問題点が生ずる。そこで、軸受の本来の性能を持ち、かつ軌道輪の靭性を持たせるには、軸受軌道面の表面のみを硬化させる必要がある。
【0006】
上記問題点を解決するために、本発明の誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入方法は、鋼板のプレス加工で形成されるシェル型針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入れにおいて、被焼入れ外輪の内周軌道面に誘導加熱コイルを配設し、外周面に冷却治具を配設し、該冷却治具により被焼入れ外輪の外周面を冷却しながら、内周軌道面を誘導加熱して表面焼入れすることを特徴とするものである。
【0007】
すなわち、いわゆる冷し金からなる冷却治具を被焼入れ外輪の外周に配設し、外輪外周を熱伝導により冷やしながら、内周軌道面を誘導加熱することにより、外周側の温度を上げないで内周表面だけの温度を上昇させて軌道面表面だけを焼入れ硬化できる。
【0008】
また、本発明の誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入方法は、外周がテーパ面を有する円筒形の誘導加熱コイルを被焼入れ外輪の内周軌道面に配設し、該コイル外周と被焼入れ外輪内周軌道面との間隔の大きい方向から噴射冷却して焼入れすることが望ましい。
【0009】
例えばシェル型針状ころ軸受の軌道輪は小型で薄肉であり、表面のみ焼入れするために誘導加熱コイルと焼入れ内周軌道面との間隔を非常に狭くとる必要がある。また薄肉表面に高い焼入れ硬さを得るためには、加熱直後に急冷する必要があるが、コイルと焼入れ面との間隔が極めて狭いために冷却水が焼入れ面に均等に当たらず焼入れむらを生ずる恐れがある。そこで本発明はコイル外周をテーパにして間隔の大きい方側から水冷して焼入れ面に冷却水を均等に当たるようにしたものである。これにより均等な高い硬さの焼入れ面が得られる。
【0010】
上記焼入れを効果的に実施するために、本発明の針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入装置は、被焼入れ外輪の内周軌道面に誘導加熱コイルが配設され、内周軌道面を誘導加熱中に被焼入れ外輪の外周面を冷却する冷却片を備えた冷却治具が配設されたことを特徴とするものである。
【0011】
前記冷却治具は、放射状に分割された複数の扇形断面の冷却片を組み合わせた円筒体からなり、該各冷却片が被焼入れ外輪の外周に密接するように付勢され、被焼入れ外輪の熱膨張に対応して移動することが望ましい。
【0012】
被焼入れ外輪の外周を効率よく冷却するには、被焼入れ外輪外周と冷却治具の冷却片(冷し金)とを密着させてこの間の熱伝導を良くすることが必要である。しかし、冷却治具を外周に接する円筒にすると、被焼入れ外輪の加熱による熱膨張に対応するように、隙間を設けなければならないために熱伝導が悪くなる。そこで上記のように、移動可能な複数の扇形断面の冷却片を設けて、この冷却片が軌道輪外周に密着するようにすれば熱膨張に対応できる。そして冷却片をばねなどの付勢力により外周に密着させることにより、熱伝導が十分に行われ冷却効果を上げることができる。前記冷却治具は水冷することにより、連続操業の場合も冷却効果を一層向上できる。
【0013】
また本発明の前記冷却治具は水冷されることが望ましい。そして、被焼入れ外輪の内周軌道面に配設された外周がテーパ面を有する円筒形の誘導加熱コイルと、該コイル外周と被焼入れ外輪の内周軌道面との間隔の大きい方向から冷却液を噴射冷却するように配設された冷却手段とを備えることが望ましい。これにより前述のように、被焼入れ外輪内周軌道面の急速冷却が均等に行われ、内周軌道面の高い硬さが均等に得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入方法及び焼入装置により、以下の効果が得られる。
1.設備が小型で安く、工場の設置面積が少なくて済み、雰囲気炉よりも環境が改善される。
2.熱処理(表面硬化処理)の時間が短縮されて、リードタイムが短くなり、多品種少量生産が容易になり、仕掛かりが減少する。
3.さらに、各工程と結び付けやすく一貫したライン生産が可能になり、搬送時の異品混入、打ち傷、変形などの品質的欠陥が減少し、品質向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の誘導加熱による針状ころ軸受の軌道面の表面焼入れ装置について、図示の1実施形態について具体的に説明する。図1は本発明の誘導加熱による針状ころ軸受の軌道面の表面焼入装置の断面図であって、図2のA−A断面を示す。図2は図1の上面板を除いた上面図、図3は被処理軸受軌道輪と誘導加熱コイルの関係を示す詳細図である。
【0016】
以下、図に基づいて説明する。本実施形態に用いた針状ころ軸受の軌道輪(以下ワークWという)は、シェル型針状針状ころ軸受の外輪であり、図3に断面を示すように軌道部Wbの下端に鍔部Waが設けられ、上端に薄肉の絞り部Wcが設けられた薄肉のリングからなる。図3のワークWの上端の絞り部Wcは曲げ加工されるので焼入れされないで、軌道部Wbの内周軌道面軌道面のみが表面焼入れされる。
【0017】
本発明の焼入装置1は、ワークWの外周を冷却する冷却治具10と、ワーク内周軌道面を誘導加熱する加熱コイル20と、加熱後ワーク内周軌道面を急冷するための冷却手段30とからなる。
【0018】
ワークWの外周を冷却する冷却治具10は、円筒を3分割した扇形断面の3個の冷却片11からなる。3個の冷却片11は、円筒に組み立てたときワークの外周に接する内接面を有し、内接面はワークの下面を支えるように段付き孔形状にされている。冷却片11を組み立てたときの冷却片11の内接面内径は、ワークが滑入できる程度の隙間のない内径にされているので、低温時でも密接されて熱伝導が良好な状態に保たれている。
【0019】
冷却片11は下板16と上板17とに挟まれて移動可能に支持され、冷却片11に固着された案内棒12が案内板13の案内部に滑動可能に支持されている。そして、冷却片11はコイルばね14により内接面がワーク外周に密接するように付勢されている。冷却片11は中空にされて中空部が水冷されるようになっている。そして、冷却治具10は図示しない駆動手段により回転され、ワークは回転しながら加熱焼入れされるようになっている。
【0020】
冷却治具を一体の円筒にすると、ワークの温度が低い状態では熱膨張に対応させてワークと冷却片の間に隙間を設けておかなければならないが、隙間を設けると熱伝導が悪くなり冷却効果が発揮できない。本発明ではワークが加熱されて熱膨張するとき、冷却片がワークに密着して移動するので、温度の低いときも高いときもワークを効果的な冷却ができる。
【0021】
誘導加熱コイル20は円筒形をなし、ワークの軌道面を加熱するように配設される。冷却手段30は中空リング体の下面にノズルが設けられて、加熱された軌道面に冷却水を噴射して焼入れするように配設されている。本発明の加熱コイルは、図3に詳細を示すように、冷却手段側の隙間を大きくするように勾配xのテーパが設けられている。
焼入れ冷却に当たって、薄肉の軌道面に十分な焼入れ硬さを得るためには、加熱コイルを加熱位置のままにしてワークが加熱後冷えないうちに急冷したい。一方、前述したように、ワークは小径薄肉で表面のみを焼入れするために、誘導加熱コイル外周とワーク内周との間隔は通常1mm程度の非常に狭い隙間にされる。そのために、従来の平行な円筒形の加熱コイルでは、冷却手段から噴射冷却しても加熱面に冷却液が入り難く、焼入れ面の均等な冷却ができないために十分な焼入れ硬さが得られず焼入れむらが生ずる場合がある。そこで本発明の加熱コイルは、前述のように外周にテーパを設けて冷却手段側の隙間を大きくすることにより、ワーク端部の過熱を防ぐとともに、噴射された冷却液がコイルのテーパ面に当たって流れて加熱面が均等に冷却され、均一な高い硬さが得られる。
【0022】
以下、上記本発明構成の誘導加熱による針状ころ軸受の軌道面の表面焼入装置の動作について説明する。
まず、加熱コイル20と冷却手段30を図の上方に移動して、ワークを冷却治具10の冷却片11の内周に装入する。そして、加熱コイル20と冷却手段30を所定位置に戻し、図示しない駆動手段により冷却治具10を回転しながら加熱コイル20に電力を投入してワークを加熱する。このとき、ワークが熱膨張するが、冷却片11はコイルスプリング14により付勢されて、ワークの外周に密接して移動するので、熱伝導によりワーク外周は冷却片11により冷却され、ワーク内周表面だけが温度が上昇する。
【0023】
ワーク内周軌道面が焼入れ温度に達すると、冷却手段30から冷却水が噴射され、焼入れ面が冷却されて焼入れされる。このとき、加熱コイルの外周にテーパが付されているので、噴射された冷却水は加熱コイル外周を流れてワーク内周軌道面を均一に冷却する。これによって、ワーク内周の表面のみが焼入れ硬化される。
【0024】
[実施例]
次に実施例について説明する。実施例に使用したワークWは、図3に示す断面形状の内径D=26mm,肉厚t=1mm,高さh=20mmのJIS S55C材を使用した。そして、冷却治具を用いた本発明装置と、冷却治具を用いない従来例の比較方法とで内周軌道面焼入れを行った。
本発明方法では、誘導加熱コイルは図3のx=15度のテーパを付したコイルを用い、比較方法では外周面が平行な円筒コイルを用い、コイルとワーク内周軌道面の隙間はいずれも1.0mmにした。加熱条件は、いずれも200kHzで0.2s加熱後、水冷した。
【0025】
焼入れ後、断面の硬さ分布を測定した。その結果、比較方法では外周がわずかに低いが肉厚全体の断面硬さがほとんど同じ約Hv750で肉厚全体が焼入れされた。これに対し本発明方法では、内周軌道面から約0.3mm深さまでの硬さがHv750になり、外周面からほぼ0.7mm深さまでの硬さがHv200で内周軌道面だけの表面硬化ができた。
【0026】
また、焼入れ後のワークの内周軌道面の上下円周の硬さ分布を測定した結果は、比較方法では冷却手段に近い上側では円周にほぼ均一に約Hv750の硬さが得られたが、中央及び下側では冷却水が十分回らないために円周でも硬さむらが生じ、下側円周ではHv650〜680の硬さしか得られなかった。これに対して本発明方法では、コイル外周のテーパの効果で冷却水の回りが均一のために、上下部ともにHv750以上の硬さが得られ、円周の硬さも均一であった。すなわち、本発明の外周にテーパを設けた加熱コイルの効果が認められた。
【0027】
上記のように、本発明の誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入方法と装置によれば、薄肉の軌道面でも誘導加熱焼入れによっても軌道面の表面のみの焼入れが可能であるので、従来の浸炭などの表面硬化処理に比して以下の効果が認められる。
1.熱処理設備が小型で安く、環境が改善される。
2.熱処理(表面硬化処理)の時間が短縮されて、多品種少量生産が容易になり、仕掛かりが減少する。
3.さらに、一貫したライン生産が可能になり、品質向上が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
以上述べたように本発明の誘導加熱による針状ころ軸受外輪の軌道面の表面焼入方法と装置によれば、設備費が低減され工場環境が改善されるとともに、熱処理時間が短縮されて製造コストが低減されて、軸受の原価低減が可能になり産業の発展に貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明実施形態の誘導加熱による針状ころ軸受の軌道面の表面焼入装置の断面図である。
【図2】図1の上板を除いた上面図である。
【図3】本発明実施形態の加熱コイルとワークの関係を示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
10 冷却治具、11 冷却片、12 案内棒、13 案内板、14 コイルスプリング、16 下板、17 上板、20 誘導加熱コイル、30 冷却手段、W ワーク(針状ころ軸受外輪)
【出願人】 【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
【住所又は居所】東京都品川区東五反田二丁目17番1号
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
【住所又は居所】大阪府大阪市西区京町堀1丁目3番17号
【出願日】 平成16年6月22日(2004.6.22)
【代理人】 【識別番号】100104835
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 正人

【識別番号】100090055
【弁理士】
【氏名又は名称】桜井 隆夫

【公開番号】 特開2006−9043(P2006−9043A)
【公開日】 平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願番号】 特願2004−183215(P2004−183215)