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【発明の名称】 延性と穴広げ加工性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法
【発明者】 【氏名】木津 太郎
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号 JFEスチール株式会社内
【氏名】奥田 金晴
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号 JFEスチール株式会社内
【氏名】占部 俊明
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号 JFEスチール株式会社内
【氏名】細谷 佳弘
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号 JFEスチール株式会社内
【課題】

【解決手段】C、Mn、P、S、Nを適正量に調整し、Nb:0.005〜0.20%を含み、Si:0.2〜1.5%、Al:0.2〜2.0%を、Si+1/2(Al)≧0.50% を満足するように含有し、残部が実質的に鉄からなる鋼素材に、仕上圧延終了温度がAr変態点以上、巻取り温度が400〜650℃の熱間圧延と、冷間圧延と、さらに、Ac変態点以上で20℃/s以下の加熱速度で800〜900℃の温度域の焼鈍均熱温度まで加熱し、800〜900℃で60〜300s間滞留したのち、600〜700℃の温度域の徐冷停止温度まで1〜10℃/sの冷却速度で徐冷却し、ついで350〜500℃の温度域の急冷停止温度まで15〜200℃/sの冷却速度で急冷却し、350〜500℃の温度域で30〜300s間滞留したのち、冷却する焼鈍処理を施す。これにより、延性と穴広げ加工性に優れた高強度冷延鋼板となる。なお、Cr、Ni、Mo、Bのうちから選ばれた1種または2種以上、Ti、Vのうちから選ばれた1種または2種を含有してもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
mass%で、
C:0.05〜0.20%、 Si:0.2〜1.5%、
Mn:0.5〜3.0%、 P:0.05%以下、
S:0.01%以下、 Al:0.2〜2.0%、
N:0.01%以下、 Nb:0.005〜0.20%
を含有し、かつSi、Alを下記(1)式を満足するように含有し、残部が実質的に鉄からなる鋼素材に、熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程と、前記熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程とを順次施したのち、前記冷延板に焼鈍処理を施し冷延焼鈍板とするに当たり、
前記熱間圧延を、仕上圧延終了温度がAr変態点以上、巻取り温度が400〜650℃とする熱間圧延とし、
前記焼鈍処理を、Ac変態点〜焼鈍均熱温度までの平均加熱速度が20℃/s以下の加熱速度で800〜900℃の温度域の焼鈍均熱温度まで加熱し、該800〜900℃の温度域で60〜300s間滞留させ、800℃から600〜700℃の温度域の徐冷停止温度まで1〜10℃/sの平均冷却速度で徐冷却し、ついで該徐冷停止温度から350〜500℃の温度域の急冷停止温度まで15〜200℃/sの平均冷却速度で急冷却し、該350〜500℃の温度域で30〜300s間滞留させる処理とすることを特徴とする延性と穴広げ加工性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。

Si+1/2(Al)≧0.50% ………(1)
ここで、Si、Al:各元素の含有量(mass%)
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、B:0.0005〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、mass%で、Ti:0.01〜0.20%、V:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の高強度冷延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車車体用として好適な、高強度冷延鋼板の製造方法に係り、とくに延性と穴拡げ加工性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保全という観点から、自動車の排ガス規制が行なわれ、そのために自動車車体の軽量化が極めて重要な課題となっている。自動車車体の軽量化には、部品の薄肉化が有効であり、素材鋼板として高強度鋼板が使用されるようになってきた。しかし、一般に、鋼板を高強度化すると加工性が低下する。このため、自動車車体用として、延性に優れた高強度鋼板が要望されている。
【0003】
延性に優れた高強度鋼板として、従来から、複合組織鋼板(DP鋼板)がよく知られている。いわゆるDP鋼板は、軟質のフェライト相と硬質のマルテンサイト相とからなる複合組織を有し、高延性と高強度とを合わせ持つ鋼板である。
【0004】
また、さらに延性に優れた高強度鋼板として、オーステナイト相の変態誘起塑性(Transformation Induced Plasticity:TRIP)を利用した鋼板が知られている。このオーステナイト相の変態誘起塑性を利用した鋼板は、フェライト相あるいはベイナイト相中に残留オーステナイト相を含む組織を有する。この鋼板は、高温からの冷却履歴を制御して、フェライト相あるいはベイナイト相の生成によりオーステナイト相中にCを濃化させ、オーステナイト相を室温まで残留させた鋼板である。この鋼板は、加工変形時に残留オーステナイト相が歪誘起により変態して、硬質なマルテンサイト相となる現象を利用し、歪の集中を防止しとくに均一伸びを大きく向上させることができる。
【0005】
このような鋼板を低合金組成で工業的に製造する方法として、例えば特許文献1には、C、Si、Mnを適正量含む鋼に、熱間圧延後、650℃以下で巻取り、ついで冷間圧延し、引き続いて二相域温度で焼鈍し、ついで350〜500℃の温度域まで1〜400℃/sの冷却速度で冷却し、該温度域で時効処理し室温まで冷却する延性のよい高強度鋼板の製造方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、C、Si、Mnを適正量含み、Alを0.25〜1.5%に高めた組成の鋼の冷延板を、二相域で焼鈍したのち、350〜600℃まで冷却し、その温度で保持してから5℃/s以上の冷却速度で250℃以下まで冷却し、3〜20%の残留オーステナイトを含む組織を有する、プレス成形性の良好な高強度鋼板の製造方法が提案されている。
【0007】
また、特許文献3には、C、Si、Mn、P、S、Al、Nを適正量に調整したスラブに、Ar変態点以上で仕上圧延したのち、500〜750℃で巻取り、40〜85%の冷間圧延を施した冷延板を、750〜900℃で10s〜3min間焼鈍し、その後、550〜700℃までを1〜10℃/sの徐冷、200〜450℃までを10〜200℃/sの急冷としたのち、350〜450℃で1〜10min保持し、5℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却し、50%以上のフェライトと、10%以上の残留オーステナイトと、5%以下のマルテンサイトと、残部ベイナイトからなる組織を有する延性の優れた低降伏比型高強度鋼板の製造方法が提案されている。
【0008】
しかし、このような残留オーステナイト相を含む鋼板は、優れた延性を有するものの、複合組織であることから穴広げ加工性に劣るという問題があった。これは、打抜き剪断時に、軟質相であるフェライト相と硬質相であるベイナイト相やマルテンサイト相などの低温変態相との境界部において、硬度差に起因した微小ボイドが発生し、穴広げ加工時にそのボンドが連結するためであるとされている。
【0009】
そこで残留オーステナイト相を含む鋼板の穴広げ加工性を向上させる方法として、例えば、特許文献4には、C、Si、Mn、Al、Niを適正量含み、さらにNb:0.020〜0.070%を含有し、P、S、Nを適正範囲に調整し、Si+Al:0.50以上、Mn+(1/3):1.0以上を満足するように含有する鋼片に、熱間圧延を施し300〜720℃で巻取ったのち、全圧下率:30〜80%で冷間圧延し、その後二相域に加熱し、冷却途中で550〜350℃の温度域で30s間以上保持するか、該温度域を100℃/min以下で冷却する焼鈍を施す高延性高穴広げ性高張力鋼板の製造方法が提案されている。この技術によれば、NbCをフェライト中に析出させてフェライト地の硬度を高め、硬質相との硬度差を小さくして、ボイドの発生を抑制し、穴広げ加工性を向上させることができるとしている。
【0010】
さらに、例えば、特許文献5には、C、Si、Mn、P、S、Al、Nを適正量含み、さらにTiをTi/S:5以上を満足するように含み、あるいはさらにNb、Mo、Vの1種以上を含むスラブに、仕上出側温度を(900+50Si)℃以下とする熱間圧延を行い、50〜80%の冷間圧延を施した冷延板を、700〜900℃の二相域温度で10s〜5min間焼鈍したのち、700〜500℃までの間の平均冷却速度を1〜120℃/sとして250〜500℃に冷却し、必要に応じ再加熱し250〜600℃の温度域に30s〜10min保持してから冷却し、マルテンサイトおよび残留オーステナイトを合計で6%以上含み、かつTi、Nb、Mo、Vを硬質第二相の体積率に応じて含有する、穴広げ性に優れた低降伏比高強度冷延鋼板の製造方法が提案されている。この技術によれば、マルテンサイト近傍のフェライトを主体にTi、Nb、Mo、Vを含む炭化物を微細析出させ、隣接組織間の変形応力差を低減して穴広げ加工性を向上できるとしている。
【0011】
一方、軟質なフェライト相を生成させないことで、穴広げ加工性を改善した技術もある。
【0012】
例えば、非特許文献1には、C、Si、Mn、Alを含む鋼を熱間圧延および冷間圧延後、950℃オーステナイト単相域まで昇温した後、400℃近傍でオーステンパー処理を行うことで、ベイニティックフェライトの母相中にラス状の残留オーステナイトを生成させたTRIP型ベイナイト鋼板が開示されている。
【特許文献1】特開昭62−182225号公報
【特許文献2】特開平06−145788号公報
【特許文献3】特開2002−317249号公報
【特許文献4】特開2001−207234号公報
【特許文献5】特開2002−69574号公報
【非特許文献1】K.Sugimoto,etal.:ISIJ International,40(2000)、No.9,pp.920−926
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1、特許文献2に記載された技術では、残留オーステナイト相を含む複合組織を有することから、穴広げ加工性は低く、さらに、結晶粒の微細化に大きく影響を及ぼす析出物生成元素も含有されていないことから、結晶粒が粗大化し、一層、穴広げ加工性が劣化するという問題があった。また、特許文献3に記載された技術では、鋼板の強度を高めるために、析出物形成元素を含有し、結晶粒の微細化による穴広げ加工性の向上が期待できるが、単に析出物形成元素を添加しただけでは、硬質相がバンド状に生成するため、大幅な穴広げ加工性の改善は見込めないという問題があった。
【0014】
また、穴広げ加工性の改善を指向した特許文献4に記載された技術では、NbCが熱間圧延後の巻取り時、あるいは冷間圧延後の昇温過程で析出、粗大化するため、穴広げ加工性を高めるのに十分な程度までフェライトの硬度を高めるには多量のNb含有が必要となる。その結果、フェライト地の延性が低下し、鋼板自体の延性も低下するという問題があった。
【0015】
また、特許文献5に記載された技術では、特許文献4に記載された技術と同様に、析出物の粗大化は避けられず、さらに、硬質第二相の体積率が大きいほど、析出物形成元素の添加量が多くなり、延性が低下するという問題があった。
【0016】
さらに、非特許文献1に記載された技術では、析出物形成元素の添加を必要とせずにベイニティックフェライトを母相としており、穴広げ加工性には優れている。しかし、冷延後に950℃のオーステナイト単相域で焼鈍を行なう必要があり、工業的に広く用いられている通常の焼鈍炉ではこのような焼鈍処理を行うことは困難であるという問題に加えて、さらに、ベイニティックフェライト相自体の延性が小さく、鋼板延性が低下するという問題もあった。
【0017】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、延性と穴広げ加工性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法を提供することを目的とする。なお、ここでいう、「高強度冷延鋼板」とは、引張強さ:780MPa以上の冷延鋼板をいうものとする。また、「延性に優れた」とは、引張試験における引張強さTSと全伸びElの積TS×Elが20000MPa%以上である場合をいい、「穴広げ加工性に優れた」とは、引張強さTSと穴広げ加工試験における穴広げ率λとの積TS×λが27000MPa%以上である場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記した課題を達成するため、延性、穴広げ加工性に影響する各種要因について鋭意考究した。その結果、とくに、Nbを含有する組成の素材を用い、熱間圧延を施し、さらに冷間圧延を施した後の焼鈍処理を、Ac1変態点以上の温度域での加熱が徐加熱で、かつ焼鈍均熱温度からの冷却が徐冷却と急冷却、ベイナイト生成温度域での滞留とを組み合わせた熱履歴とすることにより、残留オーステナイト相を含む硬質第二相を微細かつ均一に分散させた組織とすることができ、延性と穴広げ加工性という、従来では相反する特性を両立させることができることを見出した。
【0019】
まず、本発明の基礎になった実験結果について説明する。
【0020】
mass%で、0.15%C−0.20〜0.40%Si−1.6%Mn−0.02%P−0.001%S−0.10〜1.5%Al−0.0002%N−0.03%Nb含有する冷延板に、焼鈍処理を施した。
【0021】
焼鈍処理の条件はつぎのとおりとした。20℃/sの加熱速度でAc1変態点まで昇温し、さらに、Ac1変態点から10℃/sの加熱速度で焼鈍均熱温度(850℃)まで加熱した。その後、焼鈍均熱温度(850℃)で180s間の均熱処理を施した。なお、昇温、均熱および冷却時を含め、800℃以上での滞留時間は192sとなった。均熱後、焼鈍均熱温度から、7℃/sの冷却速度で、徐冷停止温度(670℃)まで徐冷却した。引き続き、30℃/sの冷却速度で急冷停止温度(470℃)まで急冷却した。その後、急冷停止温度(470℃)で80sの滞留処理を行なった。ついで急冷却停止温度(470℃)から10℃/sの冷却速度で室温まで冷却した。なお、350〜500℃の温度域での滞留時間は93sとなった。
【0022】
得られた冷延焼鈍板について、引張試験と穴広げ加工試験を実施し、引張強さTS、伸びElと穴広げ率λを求めた。得られた結果をTS×El、TS×λと(Si+Al/2)量との関係で図1に示す。なお、(Si+Al/2)におけるSi、Alは各元素の含有量(mass%)である。
【0023】
図1から、(Si+Al/2)を0.50以上とすることにより、TS×Elを20000MPa%以上とすることができ、またTS×λが27000MPa%以上を満足できることがわかる。この知見をもとに種々検討した結果、本発明者らはNbを含有し、(Si+Al/2)を0.50以上に調整したうえで、焼鈍処理を徐加熱、均熱温度域での滞留と、その後の徐冷却と急冷却、ベイナイト生成温度域での滞留とを組み合わせた熱履歴とすることにより、延性と穴広げ加工性とをともに優れたものとすることができることを見出した。
【0024】
すなわち、Nbを含有し、さらに(Si+Al/2)を所定量以上とした組成の素材を用いることにより、熱延板のフェライト粒が微細化し、冷間圧延後の焼鈍時にオーステナイト核発生サイトを増加させることができる。さらに、Ac1変態点以上の温度域で徐加熱を行うことにより、オーステナイトの生成を均一分散化でき、また、焼鈍均熱温度からの冷却を徐冷却することにより、オーステナイト中のC濃度が高くなるとともに、オーステナイト相の微細化、分断化が促進される。徐冷却に引き続く急冷却と、ベイナイト生成温度域での保持を行なうことにより、セメンタイトやパーライトの生成を抑制しベイナイトの生成を促進して、オーステナイト中のC濃度をさらに高め、微細なオーステナイト相を含む硬質第二相を微細かつ均一に分散させることができる。これにより、高延性と高穴広げ加工性を有する冷延鋼板とすることができる。
【0025】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)mass%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.2〜1.5%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.05%以下、S:0.01%以下、Al:0.2〜2.0%、N:0.01%以下、Nb:0.005〜0.20%を含有し、かつSi、Alを次(1)式
Si+1/2(Al)≧0.50% ………(1)
(ここで、Si、Al:各元素の含有量(mass%))
を満足するように含有し、残部が実質的に鉄からなる鋼素材に、熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程と、前記熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程とを順次施したのち、前記冷延板に焼鈍処理を施し冷延焼鈍板とするに当たり、
前記熱間圧延を、仕上圧延終了温度がAr変態点以上、巻取り温度が400〜650℃とする熱間圧延とし、前記焼鈍処理を、Ac変態点〜焼鈍均熱温度までの平均加熱速度が20℃/s以下の加熱速度で800〜900℃の温度域の焼鈍均熱温度まで加熱し、該800〜900℃の温度域で60〜300s間滞留させ、800℃から600〜700℃の温度域の徐冷停止温度まで1〜10℃/sの平均冷却速度で徐冷却し、ついで該徐冷停止温度から350〜500℃の温度域の急冷停止温度まで15〜200℃/sの平均冷却速度で急冷却し、該350〜500℃の温度域で30〜300s間滞留させる処理とすることを特徴とする延性と穴広げ加工性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、B:0.0005〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、mass%で、Ti:0.01〜0.20%、V:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする高強度冷延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、残留オーステナイト相を含む硬質第二相を微細かつ均一に分散させることができ、延性と穴広げ加工性がともに優れた高強度冷延鋼板が安価に、しかも容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
まず、本発明で使用する鋼素材の組成限定理由について説明する。以下、組成におけるmass%は、単に%で記す。
【0028】
C:0.05〜0.20%
Cはオーステナイトを安定化させる元素であり、オーステナイト中に濃化して、オーステナイトを室温まで安定に残留させることができる。この残留オーステナイトは、プレス加工などによる歪導入時に硬質なマルテンサイトに歪誘起変態し、歪の集中を抑制することで加工性を向上させることができる。このような残留オーステナイトを得るためには、C:0.05%以上の含有を必要とする。なお、ベイナイトやマルテンサイトなどの硬質な低温変態相の生成を促進し、鋼板を高強度化するためには、Cは0.10%以上含有することが好ましい。一方、0.20%を超える含有は、セメンタイトやパーライトを多量に生成し、延性、穴広げ加工性がともに劣化する。また、多量のC含有は、溶接性の劣化も招く。このため、本発明では、Cは0.05〜0.20%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.15%以下である。
【0029】
Si:0.2〜1.5%
Siは、フェライトを安定化させる元素であり、フェライト生成を促進することで、オーステナイト中にCを濃化させる作用を有する。さらに、Siはフェライト中のC固溶量を低減する作用も有し、オーステナイト中のC濃度をさらに高めることができる。このような効果は、0.2%以上の含有で顕著となる。一方、Siの1.5%を超える多量含有は、溶接性を劣化させるとともに、熱延加熱時にスラブ表面にファイヤライトの生成を促進し、いわゆる赤スケールと呼ばれる表面模様の発生を助長する。また、冷延焼鈍時、表面に生成するSi酸化物が化成処理性を劣化させるとともに、溶融亜鉛めっき時に不めっきを誘発する。このようなことから、Siは0.2〜1.5%に限定した。なお、好ましくは0.4%以上である。とくに表面性状に優れることが要求される鋼板や溶融亜鉛めっき鋼板の場合には、0.7%以下とすることが好ましい。
【0030】
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、オーステナイトを安定化させる元素であり、マルテンサイトの生成開始温度Ms点を低下させ、焼鈍過程における冷却時にオーステナイトがマルテンサイトに変態するのを抑制する。また、パーライトの生成も遅らせ、オーステナイトを室温まで安定に残留させる作用を有する。さらに、Mnは、固溶強化元素として、鋼板の高強度化に有効に寄与する。このような効果は、0.5%以上、好ましくは1.0%以上の含有で認められる。一方、3.0%を超える多量のMn含有は、鋼板の溶接性を劣化させるとともに、ベイナイト変態を抑制し、焼鈍過程における冷却時にベイナイト変態の進行にともなうオーステナイト中へのC濃化を抑制する。このため、所望の残留オーステナイト量が確保できなくなる。このようなことから、Mnは0.5〜3.0%に限定した。なお、好ましくは2.0%以下である。
【0031】
P:0.05%以下
Pは、固溶強化に有効な元素であり、さらにフェライト安定化元素として、オーステナイト中へのC濃化を促進する作用も有する元素であり、このような効果は、0.01%以上の含有で顕著となる。一方、Pは、多量に含有すると粒界に偏析して、鋼板の延性、靭性を低下させるとともに、溶接性も劣化させる。このため、Pは0.05%以下とする。
【0032】
S:0.01%以下
Sは、熱間での延性を著しく低下させ、熱間割れを誘発し、表面性状を著しく劣化させる。また、Sは、強度にほとんど寄与しないばかりか、不純物元素として粗大なMnSを形成することにより、延性や、とくに穴広げ加工性を低下させる。このため、Sは極力低減することが望ましいが、0.01%までは許容できる。このため、Sは0.01%以下に限定した。なお、延性および穴広げ加工性を向上させる観点からは、Sは0.005%以下に限定することが好ましい。
【0033】
Al:0.2〜2.0%
Alは、フェライトを安定化させる元素であり、フェライト生成を促進することで、オーステナイト中にCを濃化させる作用を有する。また、Alは、固溶強化元素として高強度化にも有効に寄与する。このようなことから、本発明では、Alは0.2%以上含有させる。一方、2.0%を超えるAlの多量含有は、鋼のAr変態点を上昇させ、オーステナイト単相域で熱間圧延を終了することを困難にする。したがって、Alは0.2〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.3〜1.0%である。
【0034】
N:0.01%以下
0.01%を超えるNの多量含有は、熱間圧延中にスラブ割れを伴い、表面疵を発生する危険性が増大する。このため、Nは0.01%以下に限定した。なお、好ましくは0.004%以下である。
【0035】
Nb:0.005〜0.20%
Nbは、本発明における最も重要な元素の1つであり、熱間圧延時に加工されたオーステナイトの再結晶を抑制する作用を有し、未再結晶オーステナイトからのフェライト変態を促進し、熱延板の組織を細粒化して、冷延後の焼鈍処理時に再結晶フェライトの核生成サイトを増加させる作用を有する。また、Nbは、微細な炭窒化物を形成し、再結晶フェライトの粒成長を抑制する作用を有し、焼鈍時の加熱に際し、オーステナイトの核生成サイトをさらに増加させ、その結果、残留オーステナイトを微細分散させる。また、Nbは組織の細粒化と炭窒化物形成により強度上昇に寄与する。
【0036】
このような効果は、0.005%以上のNb含有で認められる。一方、0.20%を超える多量の含有は、通常の熱延工程における再加熱時においては、炭窒化物を全て固溶することができず、粗大な炭窒化物が残留し、残留オーステナイトの微細分散や強度上昇が期待できなくなる。また、連続鋳造からスラブを一旦冷却したのち再加熱を行なう工程を経ることなく、連続鋳造後、そのまま熱間圧延を開始する場合においても、0.20%を超えて含有しても、更なる強度上昇が期待できず、材料コストの増加も招く。またさらに、多量のNb含有は、熱間圧延時において、累積歪よる荷重の増大を招くばかりか、熱延板の強度が上昇し、冷間圧延における圧延荷重負荷が増大し、圧延能率が低下し製造コストが増加するという問題もある。このようなことから、Nbは0.005〜0.20%に限定した。なお、好ましくは0.10%以下である。
【0037】
本発明では、Si、Al含有量を上記した範囲内でかつ次(1)式
Si+1/2(Al)≧0.50% ………(1)
を満足するように調整する。
【0038】
(1)式は、初期の加工歪に対して安定な残留オーステナイトを生成させて延性を良好とするための限定であり、本発明者らが種々検討して得た実験式である。Si、Alは、上記したようにともにフェライトを安定化させ、フェライト生成を促進することで、オーステナイト中にCを濃化させる作用を有するが、さらにオーステナイト中にCを濃化させ、初期の加工歪に対して安定な残留オーステナイトを生成させ、加工性を向上させて、本発明の延性の目標であるTS×El:20000MPa%以上を得るために、(1)式を満足するようにSi、Al量を調整する必要がある。
【0039】
本発明では、上記した基本組成に加えて、必要に応じさらにCr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、B:0.0005〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ti:0.01〜0.20%、V:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種を含有することができる。
【0040】
Cr:0.1〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%、Mo:0.1〜1.0%、B:0.0005〜0.0030%のうちから選ばれた1種または2種以上
Cr、Ni、Mo、Bは、いずれも強度を増加させる作用を有し、必要に応じ選択して含有できる。
【0041】
Cr、Ni、Moは、ベイナイト変態を抑制する作用を有し、マルテンサイト分率を増加させ、鋼板強度を上昇させる作用を有する。このような効果は、Cr、Ni、Moが それぞれ0.1%以上の含有で認められる。一方、Cr、Ni、Moがそれぞれ1.0%を超える多量含有は、材料コストが増加するとともに、ベイナイト変態によるオーステナイト中へのC濃化を抑制し、残留オーステナイトの生成を阻害する。このため、Cr、Ni、Mo はそれぞれ0.1〜1.0%の範囲に限定することが好ましい。なお、溶融亜鉛めっきを施す用途に用いる場合には、表面に生成するCrの酸化物が不めっきを誘発するため、Crは0.5%以下とすることがより好ましい。また、Crはフェライト中のセメンタイトの生成を抑制する作用があり、フェライト中の固溶Cを増加させる傾向にあるが、フェライト中の固溶C量が大きい場合、鋼板の時効硬化により、降伏強度が上昇しプレス加工時の形状凍結性が劣化する傾向にある。このような固溶Cによる形状凍結性の劣化が問題となる場合には、セメンタイトの生成を抑制するCrの添加量を減少させ、フェライト中の固溶C量を低減させるSiの添加量を増加させることが好ましく、そのためCr含有量とSi含有量の比:Cr/Siを0.3未満とすることが好ましい。
【0042】
Bは、オーステナイトからフェライトへの変態を抑制し、硬質な低温変態相の生成を促進し、鋼板の強度上昇に寄与する。このような効果は0.0005%以上の含有で認められる。一方、0.0030%を超える過剰な含有は、焼入れ性向上効果が飽和するだけでなく、再結晶抑制作用により熱間圧延時の圧延荷重負荷が著しく増加するとともに、さらに、フェライト変態が抑制されることで、オーステナイト中へのC濃化が抑制され、残留オーステナイトの生成を阻害する。このため、Bは0.0005〜0.0030%の範囲に限定することが好ましい。
【0043】
Ti:0.01〜0.20%、V:0.01〜0.20%のうちから選ばれた1種または2種
Ti、Vは、いずれも微細な炭窒化物の形成を介して、延性の向上、鋼板の強度上昇に寄与する元素であり、強度−延性バランスを向上するために必要に応じ選択して含有できる。
【0044】
Tiは、微細な炭窒化物の形成を介して、鋼板の強度を上昇させるとともに、熱延板および冷延板の細粒化にも寄与する。このような効果は、Ti:0.01%以上の含有で認められる。一方、0.20%を超える多量のTiを含有しても、通常の熱延工程における再加熱時においては、炭窒化物は全て固溶することができず、粗大な炭窒化物が残り、強度上昇や組織の細粒化が期待できなくなる。また、連続鋳造からスラブを一旦冷却したのち再加熱をおこなう工程を経ることなく、連続鋳造後、そのまま熱間圧延を開始する場合においても、0.20%を超えて含有しても、更なる強度上昇が期待できず、材料コストの増加も招く。このため、含有する場合には、Tiは0.01〜0.20%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.03〜0.10%である。
【0045】
Vは、微細な炭窒化物の形成を介して、鋼板の強度を上昇させる。また、Vは、フェライトを安定化させる元素であり、冷延後焼鈍時の昇温過程において、鋼のAr1変態点を上昇させ、昇温時、オーステナイト生成の核発生頻度を増加させることができ、残留オーステナイトを微細分散化させ、鋼板の延性を向上させる。このような効果は、V:0.01%以上の含有で認められる。一方、0.20%を超えて含有しても、更なる強度上昇が期待できず、材料コストの増加も招く。このため、Vは0.01〜0.20%に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.03〜0.10%である。
【0046】
上記した成分以外の残部は、実質的に鉄である。
ここでいう「残部が実質的に鉄である」とは、残部が鉄および不可避的不純物をはじめ、本発明の作用・効果を損なわない限り、他の微量元素を含有してもよいことを意味する。
【0047】
上記した組成の溶鋼を、転炉、電気炉等の通常の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の通常の方法で、スラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
【0048】
鋼素材は、鋳造後、室温まで冷却することなくそのまま、あるいは、室温まで冷却することなく加熱炉に装入し所定温度以上としたのち、あるいは室温まで冷却し、好ましくは1100〜1300℃に再加熱したのち、常法にしたがい、熱間圧延を施し熱延板とする熱延工程と、前記熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする冷延工程とを順次施したのち、前記冷延板に焼鈍処理を施し冷延焼鈍板とする。
【0049】
鋼素材の加熱温度はとくに限定されないが、1100℃未満ではその後の熱間圧延に際し、圧延荷重が増大し、圧延能率の低下を招く。さらに、Ar変態点以上で仕上圧延を終了することも困難となってしまう。一方、1300℃を超える加熱は、酸化ロスが増大し表面疵の発生や歩留り低下を招く。
【0050】
本発明では、熱間圧延は、仕上圧延終了温度:Ar変態点以上、巻取り温度:400〜650℃とする熱間圧延とする。
【0051】
仕上圧延終了温度:Ar変態点以上
仕上圧延終了温度がAr変態点未満では、フェライト+オーステナイトの二相域での圧延となり、軟質なフェライト相に歪が集中してオーステナイトには十分な歪が導入されないため、変態後のフェライト粒が粗大化する。また、歪が集中するフェライト相においても、フェライト相は積層欠陥エネルギーが高いことから回復が進行して、フェライトの再結晶が起こらず、圧延方向に展伸した粗大粒となる。このような熱延板段階でのフェライト粒の粗大化は、冷延後の焼鈍時におけるオーステナイトの核発生サイトを減少させ、焼鈍後の残留オーステナイト相を含む第二相が粗大化して、良好な延性、良好な穴広げ加工性を得ることができなくなる。このため、仕上圧延終了温度はAr変態点以上に限定した。なお、仕上圧延終了温度の上限は、オーステナイトの再結晶、粒成長の観点から、950℃以下とすることが好ましい。
【0052】
巻取り温度:400〜650℃
巻取り温度が400℃未満では、低温変態相が生成し熱延板が硬質化する。このため、冷間圧延工程における圧延負荷が増大し、圧延能率が低下する。また、さらに、巻取り温度が400℃未満では、Nb炭窒化物の生成が抑制され、Nbが熱延板中で固溶Nbとして存在し、冷延後の焼鈍において再結晶が顕著に抑制される。そのため、未再結晶組織からのオーステナイト変態が促進され、オーステナイト粒が粗大化するため、焼鈍後に形成される第二相も粗大化し、穴広げ性が低下する。一方、巻取り温度が650℃を超えて高くなると、粗大パーライトが生成するため、冷延後の焼鈍において、C量の高いパーライト相からオーステナイト変態が進行し、そのため、焼鈍後の残留オーステナイト相を含む第二相も粗大化し、良好な延性、良好な穴広げ加工性を確保できなくなる。また、巻取り温度が650℃を超えて高くなると、Nb炭窒化物が粗大化し、冷延後の焼鈍における再結晶粒の粒成長抑制効果が低下し、粗大組織からオーステナイト変態が促進され、オーステナイト粒が粗大化するため、焼鈍後に形成される第二相も粗大化し、穴広げ性が低下する。また、粗大な炭窒化物は強度上昇にも寄与しない。このようなことから、巻取り温度は400〜650℃の範囲に限定した。
【0053】
ついで、熱延板に冷間圧延を施し冷延板とする。
【0054】
冷間圧延における冷間圧下率は、冷延板の板厚に応じ適宜決定できる。しかし、冷間圧下率が50%未満では、冷延板に導入される歪が少なく、焼鈍時のフェライトの再結晶粒径が大きくなり、穴広げ性が低下する。そのため、冷間圧下率は50%以上とすることが好ましい。一方、85%を超えて冷間圧延を行っても、歪の蓄積効率が低下するうえ、圧延荷重負荷の増大を招く。このため、冷間圧下率は85%以下とすることが好ましい。
【0055】
なお、冷間圧延を施す前に、常温にて酸洗を行い、熱延鋼板の表面に形成されているスケールを除去することが好ましい。
ついで、冷延板は焼鈍処理を施され、冷延焼鈍板となる。
【0056】
焼鈍処理は、Ac変態点〜焼鈍均熱温度までの平均加熱速度が20℃/s以下の加熱速度で800〜900℃の温度域の焼鈍均熱温度まで加熱し、該800〜900℃の温度域で60〜300s間滞留させ、800℃から600〜700℃の温度域の徐冷停止温度まで1〜10℃/sの平均冷却速度で徐冷却し、ついで該徐冷停止温度から350〜500℃の温度域の急冷停止温度まで15〜200℃/sの平均冷却速度で急冷却し、該350〜500℃の温度域で30〜300s間滞留させる処理とする。
【0057】
Ac1変態点〜焼鈍均熱温度間の平均加熱速度:20℃/s以下
焼鈍時の加熱は、平均加熱速度:20℃/s以下の徐加熱とする。Ac1変態点以上、焼鈍均熱温度までの加熱速度は、本発明の最も重要な要件の1つである。Ac1変態点以上の温度域で徐加熱を行なうことにより、微細なオーステナイトを分散させて変態させることができ、さらにオーステナイト中のC濃化を促進することができる。これは、Ac1変態点直上の、オーステナイト分率が小さい状態では、オーステナイトが粗大化せず、したがって、オーステナイト周りのC減少領域も小さくなり、結果としてCが濃化しうるサイトが多く残り、オーステナイトの核発生サイトが増加するためである。その後、さらに、焼鈍均熱温度まで徐加熱を行なうことで、加熱途中や均熱時の粗大なオーステナイトの生成を抑制し、オーステナイトが分散した状態を保ったまま、オーステナイト分率を高め、オーステナイト中へのC濃化を促進させることができ、所定量以上の分散した残留オーステナイト相を安定して確保でき、延性、穴広げ加工性が向上する。
【0058】
さらに、Ac1変態点到達時点では、フェライトの再結晶が完了していることが望ましいが、未再結晶フェライトが残留している場合でも、Ac1変態点〜焼鈍均熱温度間で徐加熱を行なうことにより、未再結晶部分がいっきにオーステナイト変態することに起因するバンド状のオーステナイト生成を抑制することができる。
【0059】
このような効果を得るために、焼鈍時、Ac1変態点〜焼鈍均熱温度間の加熱速度を平均加熱速度で20℃/s以下に限定する。なお、好ましくは、10℃/s以下である。加熱速度の下限は特に規定しないが、極端に小さい加熱速度は、操業能率の低下を招くため、5℃/s以上とすることが好ましい。また、室温からAc1変態点までの加熱速度も特に規定しないが、フェライトの再結晶を促進させるため、この温度域も20℃/s以下で昇温することが好ましい。
【0060】
焼鈍均熱温度:800〜900℃
焼鈍均熱温度は、オーステナイト+フェライトの二相域とし、オーステナイト分率の増加とオーステナイト中へのC濃化を促進させ、所定量以上の残留オーステナイト相を安定して確保し延性を向上させるため、800℃以上にすることが好ましい。一方、焼鈍均熱温度が900℃を超えると、オーステナイト分率が大きくなりすぎて、オーステナイト中のC濃化が小さくなり、その後の冷却過程でオーステナイトを室温まで残留させることが困難となるうえ、オーステナイト粒径の粗大化も招く。このため、焼鈍均熱温度は800〜900℃の温度域の温度とする。なお、ここで焼鈍均熱温度とは、焼鈍時の最高到達温度である。
【0061】
800〜900℃の温度域における滞留時間:60〜300s
加熱昇温、均熱および冷却時に800〜900℃の温度域(焼鈍均熱温度域)に滞留する滞留時間が60s未満では、オーストナイト中へのC濃化が不十分となり、その後の800℃以下の冷却過程でオーステナイトを室温まで残留させることが困難となる。一方、滞留時間が300sを超えると、オーステナイトが粗大化するとともに、操業能率の低下も招く。このため、800〜900℃の温度域における滞留時間は60〜300sの範囲に限定した。これにより、所定量以上の分散した残留オーステナイト相を安定して確保でき、延性、穴広げ加工性が向上する。なお、ここで滞留時間の確保は、上記焼鈍均熱温度で均熱(保持)してもよいし、加熱、冷却速度を調整して確保してもよい。
【0062】
800℃から600〜700℃の温度域の徐冷停止温度までの平均冷却速度:1〜10℃/s
800℃以下の冷却は、平均冷却速度:1〜10℃/sの徐冷却とし、600〜700℃の温度域(徐冷停止温度域)の徐冷停止温度で冷却を停止する。800℃から徐冷停止温度までの温度域を徐冷却することにより、冷却時のフェライト生成を促進し、オーステナイト中へのC濃化を促進させるとともに、残留するオーステナイト相を微細に分断させることができ、延性、穴広げ性が向上する。このような効果を得るためには、冷却速度を10℃/s以下に限定する。一方、冷却速度が1℃/s未満では、オーステナイトから変態したフェライトが成長し粗大化して、オーステナイトが微細に分断されることなく残留する。また冷却速度が1℃/s未満では、操業能率の低下を招く。このため、800℃から徐冷停止温度までの冷却は、平均冷却速度:1〜10℃/sの徐冷却とした。なお、より好ましくは5℃/s以下である。これにより、所定量以上の残留オーステナイト相を安定して確保でき、延性、穴広げ加工性がともに向上する。
【0063】
また、徐冷却停止温度が700℃を超えて高くなると、フェライト分率が小さく、オーステナイト中へのC濃化が不十分となる。また、徐冷却停止温度が600℃未満では、セメンタイトやパーライトが生成し、オーステナイト中への濃化が不十分となる。このため、焼鈍均熱温度で均熱した後の冷却では、徐冷却停止温度は600〜700℃の温度域の温度に限定した。
【0064】
徐冷停止温度から、350〜500℃の温度域の急冷停止温度までの平均冷却速度:15〜200℃/s
徐冷停止温度から、ついで平均冷却速度:15〜200℃/sで350〜500℃の温度域(急冷停止温度域)の急冷停止温度まで急冷却する。ベイナイト生成温度域である、350〜500℃の温度域まで急冷却を行なうことにより、冷却途中でのオーステナイトからのセメンタイト、パーライトの生成を抑制し、ベイナイト変態の駆動力を高めることができる。そして、これにより、オーステナイト相中へのC濃化が促進され、オーステナイトを室温まで安定に残留させることができる。これにより、所定量以上の残留オーステナイト相を安定して確保でき、延性が向上する。上記したような効果を得るためには、15℃/s以上の冷却速度で、350〜500℃の温度域の急冷停止温度まで冷却する必要がある。一方、平均冷却速度を200℃/sより大きくしても、更なる効果が認められないばかりか、操業においては、冷却停止温度のばらつきが大きくなるため、材質上のばらつきも大きくなる。このため、徐冷却停止温度から急冷停止温度までの冷却では、平均冷却速度:15〜200℃/sの範囲の冷却速度に限定した。
【0065】
また、急冷停止温度が500℃を超えると、ベイナイト変態が進行せず、セメンタイトやパーライトが生成するため、延性、穴広げ性が低下する。一方、急冷停止温度が350℃未満では、マルテンサイト変態が進行し、オーステナイト中にCを濃化させることは困難となる。このため、急冷停止温度は350〜500℃の温度域の温度に限定した。
【0066】
350〜500℃の温度域での滞留時間:30〜300s
350〜500℃の温度域(急冷停止温度域)で滞留させることにより、ベイナイト変態を進行させ、オーステナイト中のC濃度を高めることができる。これにより、所定量以上の残留オーステナイト相を安定して確保でき、延性が向上する。このような効果を得るためには、この温度域で30s以上滞留させることが好ましい。一方、300sを超えて長く滞留させると、オーステナイトからフェライトと炭化物が析出し、オーステナイト分率が低下するとともに、オーステナイト中のC濃度も低下する。このため、350〜500℃の温度域での滞留時間を30〜300sの範囲に限定した。
【0067】
350〜500℃の温度域(急冷停止温度域)で上記した時間滞留させたのちは、冷却する。急冷停止温度域での滞留後の冷却は、放冷、急冷いずれでもよい。なお、焼鈍処理後、溶融亜鉛めっきを施し、さらに合金化処理を行う場合には、合金化処理のため、500℃以上の再加熱をおこなっても構わない。
【0068】
上記した製造方法で得られる冷延鋼板は、上記した組成を有し、さらに面積率で、50〜90%のフェライト相と、5〜30%のベイナイト相と、5%以上の残留オーステナイト相と、あるいはさらに30%以下のマルテンサイト相からなる複合組織を概ね有し、引張強さ:780MPa以上の高強度と、TS×Elで20000MPa%以上の高延性と、さらに、TS×λで27000MPa%以上の高穴広げ加工性を有する、延性と穴広げ加工性がともに優れた高強度冷延鋼板となる。
【0069】
以下、実施例に基づき、さらに本発明について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。
【実施例】
【0070】
表1に示す組成の鋼を真空溶解炉で溶製し、小型鋼塊(100kg)とした。
【0071】
ついで、これら鋼塊を1250℃に加熱(保持:1h)し、熱間圧延を施して、板厚:3.5mmの熱延板とした。なお、熱間仕上圧延終了温度はAr変態点以上の870℃とした。熱間圧延終了後、直ちに、20℃/sの冷却速度で冷却を開始し、巻取り相当温度である550℃で1時間の保持を行なった。そして、その後、50℃/hの徐冷却にて室温まで冷却し、実機での巻取り(巻取温度550℃相当)を模擬した。室温まで冷却された熱延板は、塩酸にてスケールを除去(酸洗)した後、71%の冷間圧下率で板厚1.0mmまで冷間圧延を行い、冷延板とした。
【0072】
これら冷延板に、表2に示す条件の焼鈍処理を施し、冷延焼鈍板とした。なお、焼鈍処理は、つぎの条件を基本とした。
【0073】
(1)20℃/sの加熱速度でAc1変態点まで昇温した。
【0074】
(2)さらに、Ac1変態点から10℃/sの加熱速度(HR)で焼鈍均熱温度(T1=850℃)まで加熱した。その後、焼鈍均熱温度(850℃)で180s間(均熱処理時間t0)の均熱処理を施した。
【0075】
(3)均熱後、焼鈍均熱温度から、7℃/sの冷却速度(CR1)で、徐冷停止温度(T2=670℃)まで徐冷却した。なお、昇温、均熱および冷却時を含め、800℃以上での滞留時間(t1)は192sとなった。なお、800℃からT2までの冷却速度としてみても、7℃/sであった。
【0076】
(4)引き続き、30℃/sの冷却速度(CR2)で急冷停止温度(T3=470℃)まで急冷却した。その後、急冷停止温度(470℃)で80sの滞留処理を行なった。
【0077】
(5)ついで急冷却停止温度(470℃)から10℃/sの冷却速度で室温まで冷却した。なお、350〜500℃の温度域(急冷停止温度域)での滞留時間(t2)は93sとなった。
【0078】
なお、Ar3変態点、Ac変態点は、冷却、昇温時の熱膨張曲線から求めた。
【0079】
この条件を基本として、Ac1変態点から焼鈍均熱温度までの加熱速度(HR)、焼鈍均熱温度(T1)、焼鈍均熱温度での均熱処理時間(t0)、800〜900℃の温度域における滞留時間(t1)、焼鈍均熱温度からの徐冷却の冷却速度(CR1)、徐冷停止温度(T2)、急冷却の冷却速度(CR2)、急冷停止温度(T3)、350〜500℃の温度域での滞留時間(t2)を種々変化させた。
【0080】
得られた冷延焼鈍板について、組織観察、引張特性、穴広げ加工性を調査した。試験方法はつぎの通りとした。
【0081】
(A)組織調査
得られた冷延焼鈍板から、試験片を採取し、圧延方向に平行な断面(L方向断面)について、ナイタール液で腐食し走査型電子顕微鏡を用いて組織を撮像し、画像解析装置を用いて、各相の組織分率を求めた。なお、各冷延焼鈍板について、1000倍の倍率で3視野観察し、各視野における各相の分率を求め、各視野の平均値を各冷延焼鈍板における組織分率とした。なお、マルテンサイト相と残留オーステナイト相は、さらに200℃×2hの焼戻しを施して、組織観察(倍率:5000倍)を行い、区別した。焼戻し熱処理後に炭化物が析出した相をマルテンサイト、炭化物の析出が認められない相を残留オーステナイト相とした。
【0082】
(B)引張特性
得られた冷延焼鈍板に、伸び率:0.5%の調質圧延を施した後、圧延方向に直角な方向(C方向)が引張方向となるように、JIS Z 2201の規定に準拠してJIS 5号引張試験片を切り出し、JIS Z 2241の規定に準拠して、破断までの引張試験を実施し、降伏応力YS、引張強さTS、全伸びElを求めた。
【0083】
(C)穴広げ加工性試験
得られた冷延焼鈍板から、試験片(大きさ:100×100mm)を採取し、中央部に直径:d(=10mmφ)の初期穴をポンチで打抜き、この初期穴に、頂角60°の円錐ポンチを挿入し、拡大して、板厚を貫通する割れが発生した時の穴径dを求め、次式
λ(%)={(d−d)/d}×100
を用いて、穴広げ率λを求めた。
【0084】
得られた結果を表4、5に示す。
【0085】
【表1】


【0086】
【表2】


【0087】
【表3】


【0088】
【表4】


【0089】
【表5】


【0090】
本発明例はいずれも、引張強さTS:780MPa以上の高強度と、TS×El:20000MPa%以上の優れた延性と、TS×λ:27000MPa%以上の優れた穴広げ加工性とを有する、延性と穴広げ加工性に優れた高強度冷延鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、強度が低いか、延性が低下しているか、穴広げ率が低下しているか、あるいはこれらすべてが低下しているか、して、延性と穴広げ加工性がともに優れたものとはなっていない。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】伸びEl、穴広げ率λと(Si+Al/2)量との関係を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号
【出願日】 平成16年6月15日(2004.6.15)
【代理人】 【識別番号】100099531
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 英一

【公開番号】 特開2006−2186(P2006−2186A)
【公開日】 平成18年1月5日(2006.1.5)
【出願番号】 特願2004−177434(P2004−177434)