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【発明の名称】 カロテノイド生産能を有する形質転換体及びカロテノイドの生産方法
【発明者】 【氏名】松永 是

【氏名】竹山 春子

【氏名】向山 大吉

【氏名】近藤 裕

【要約】 【課題】アスタキサンチン生産能を有する新規な形質転換体及びこの形質転換体を用いてアスタキサンチンを生産する新規なアスタキサンチンの生産方法を提供する。また、β-カロテンやアスタキサンチン等を始めとする種々のカロテノイドを選択的に生産することができる新規なカロテノイドの生産方法を提供する。

【解決手段】フィトエンデサチュラーゼをコードする遺伝子と、リコペンサイクラーゼをコードする遺伝子と、β-カロテンハイドロキシラーゼをコードする遺伝子と、β-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼをコードする原核生物由来の遺伝子とを含む組換えベクタープラスミドを宿主のカロテノイド生産能を有する光合成細菌に導入して形質転換させることにより得られたカロテノイド生産能を有する形質転換体である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィトエンデサチュラーゼ(Phytoene desaturase)をコードする遺伝子と、リコペンサイクラーゼ(Lycopene cyclase)をコードする遺伝子と、β-カロテンハイドロキシラーゼ(β-carotene hydroxylase)をコードする遺伝子と、β-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼ(β-carotene C(4)oxygenase)をコードする原核生物由来の遺伝子とを含む組換えベクタープラスミドを宿主のカロテノイド生産能を有する光合成細菌に導入して形質転換させることにより得られたカロテノイド生産能を有する形質転換体。
【請求項2】
宿主の光合成細菌が、海洋光合成細菌のロドビュラム スルフィドフィラム(Rhodovulum sulfidophilum)である請求項1に記載の形質転換体。
【請求項3】
宿主の海洋光合成細菌が、ニューロスポレン(Neurosporene)以降のカロテノイド合成経路が失活したロドビュラム スルフィドフィラムの突然変異体である請求項2に記載の形質転換体。
【請求項4】
フィトエンデサチュラーゼをコードする遺伝子が原核生物由来のcrtIであり、リコペンサイクラーゼをコードする遺伝子が原核生物由来のcrtYであり、かつ、β-カロテンハイドロキシラーゼをコードする遺伝子が原核生物由来のcrtZであって、β-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼをコードする遺伝子が原核生物由来のcrtWである請求項1〜3のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項5】
ニューロスポレン(Neurosporene)以降のカロテノイド合成経路が失活した海洋光合成細菌であるロドビュラム スルフィドフィラム(Rhodovulum sulfidophilum)の突然変異体を宿主とし、この宿主のロドビュラム スルフィドフィラムの突然変異体に、フィトエンデサチュラーゼ(Phytoene desaturase)をコードする遺伝子crtIを含む組換えベクタープラスミド、前記遺伝子crtIとリコペンサイクラーゼ(Lycopene cyclase)をコードする遺伝子crtYとを含む組換えベクタープラスミド、前記遺伝子crtI及び前記遺伝子crtYとβ-カロテンハイドロキシラーゼ(β-carotene hydroxylase)をコードする遺伝子crtZ及び/又は原核生物由来のβ-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼ(β-carotene C(4)oxygenase)をコードする遺伝子crtWとを含む組換えベクタープラスミドから選ばれた何れかの組換えベクタープラスミドを導入して形質転換させ、得られた形質転換体を用いて導入した遺伝子の種類に応じたカロテノイドを生産することを特徴とするカロテノイドの生産方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、カロテノイド生産能を有する光合成細菌にある種のカロテノイドを生産するのに有用な別の遺伝子を導入して形成した新規な形質転換体、及びこのような別の遺伝子が導入された形質転換体を用いて種々のカロテノイドを生産する新規なカロテノイドの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは、動植物界に広く分布する黄色から赤色又は紫色のポリエン色素の総称であって、脂質に対して抗酸化作用があることが知られており、その種類に応じて、食材用色素、化粧品、医薬品、健康食品等の多くの分野で広く利用されている。そして、このカロテノイドの製造方法については、主として化学合成による方法と天然物からの抽出による方法とが知られており、天然物からの抽出によって得られるもの代表例としては、例えば、ニンジン等の植物から抽出されるβ-カロテンや、ヘマトコッカス(Haematococcus)属の藻体から抽出されるアスタキサンチン等が挙げられる。
【0003】
また、このようなカロテノイドを遺伝子操作の技術を用いて効率良く生産するための方法についても、幾つかの試みが行われている。
例えば、大腸菌を宿主として用い、この大腸菌に、原核生物であるエルウィニア ヘルビコーラ(Erwinia herbicola)由来の遺伝子crtE{Farnesyl pyrophosphate(FPP)からGeranylgeranyl pyrophosphate(GGPP)を合成する酵素(GGPP synthase)}、crtB(GGPPからPhytoeneを合成する酵素(Phytoene synthase)}、crtI(Phytoene desaturase)、crtY(Lycopene cyclase)、crtZ(β-carotene hydroxylase)を、更に原核生物であるアグロバクター オーランチアカム(Agrobacterium aurantiacum)由来の遺伝子crtW(β-carotene C(4)oxygenase)あるいは真核生物であるヘマトコッカス プルビアリス(Haematococcus pluvialis)由来の遺伝子crtO(β-carotene ketolase)を導入してアスタキサンチンを生産する方法が提案されている(非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0004】
また、原核生物であるシネココッカス(Synechococcus sp. PCC7942)を宿主とし、このシネココッカスに真核生物であるヘマトコッカス プルビアリス(Haematococcus pluvialis)由来の遺伝子crtOを導入して形質転換し、アスタキサンチンを生産する方法が提案されている(非特許文献3参照)。
【0005】
更に、原核生物である光合成細菌のエリスロバクター・ロンガス(Erythrobacter longus) OCh101のβ-カロテンの生合成に関する遺伝子群をクローニングし、ロドバクター属の光合成細菌に遺伝子導入することによって、ロドバクター属の光合成細菌の光合成能力を利用しβ-カロテンを生産する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、真核生物である緑藻類のヘマトコッカス(Haematococcus)にエレクトロポレーション法(電気穿孔法)やデンドリマーを用いたトランスフェクション(Transfection)法により外来遺伝子を導入する緑藻類ヘマトコッカスへの外来遺伝子導入方法が提案されており(特許文献2参照)、その応用として、β-カロテンの二次代謝経路を部分的に失活させて、アスタキサンチンに至るまでの中間生成物、例えばゼアキサンチン(Zeaxanthin)やカンタキサンチン(Cantaxanthin)を生合成することの可能性が記載されている。
【0007】
更にまた、原核生物である海洋光合成細菌のロドビュラム スルフィドフィラム(Rhodovulum sulfidophilum)NKPB160471Rを宿主とし、この海洋光合成細菌に対して、原核生物である光合成細菌のエリスロバクター・ロンガス(Erythrobacter longus)OCh101由来のβ-カロテン生合成に関する遺伝子crtI及びcrtYを導入すると共に、真核生物であるヘマトコッカス プルビアリス(Haematococcus pluvialis)NIES144由来の遺伝子crtO及びcrtZを導入し、光合成細菌でアスタキサンチン生産の系を確立する試みも行われている(非特許文献4参照)。しかるに、この論文には、β-カロテン以上には生合成が進まなかったことが報告されている。
【0008】
【特許文献1】特開平08-89,241号公報
【特許文献2】特開2004-33,070号公報
【非特許文献1】N. Misawa & H. Shimada, Journal of Biotechnology, Vol.59, 169-181(1998)
【非特許文献2】Kajiwara S, K.T., Saito T, Kondo K, Ohtani T, Nishio N, Nagai S & Misawa N, Plant Mol. Biol., Vol.29, 343-352(1995)
【非特許文献3】M. Harker & J. Hirschberg, FEBS Letters 404, 129-134(1997)
【非特許文献4】冨士原、2003年1月東京農工大学修士論文
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これまでに提案され、また、報告された上記いずれの方法も、多種多様なカロテノイドを選択的に大量生産をするための方法としては必ずしも適当であるとはいえず、例えば、非特許文献1や非特許文献2に記載の方法においては、多くの遺伝子導入が必要な上、大腸菌がカロテノイド合成系を有していないためにこのカロテノイド合成のための前駆体含量が少なく、アスタキサンチン等のカロテノイドを大量生産するための方法としては不向きであり、また、非特許文献3に記載の方法もアスタキサンチン合成量が乾燥藻体重量に対して0.015重量%、培養液当りで0.143mg/Lと少なく、更に、特許文献1に記載の方法もβ-カロテン以降の合成には至っておらず、更にまた、特許文献2や非特許文献4に記載の方法についてはカロテノイド、特にアスタキサンチンの生産方法としては確立されていない。
【0010】
そこで、本発明者らは、β-カロテンやアスタキサンチン等を始めとする種々のカロテノイドを生合成するためのカロテノイド生産能を有する新たな形質転換体及びこの形質転換体を用いた新たなカロテノイドの生産方法について鋭意検討した結果、宿主としてカロテノイド生産能を有する光合成細菌を用い、この宿主の光合成細菌にフィトエンデサチュラーゼ(Phytoene desaturase)をコードする遺伝子(crtI)、リコペンサイクラーゼ(Lycopene cyclase)をコードする遺伝子(crtY)、β-カロテンハイドロキシラーゼ(β-carotene hydroxylase)をコードする遺伝子(crtZ)及びβ-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼ(β-carotene C(4)oxygenase)をコードする原核生物由来の遺伝子(crtW)から選ばれた1種又は2種以上の特定の遺伝子を含む組換えベクタープラスミドを導入し、得られた形質転換体を用いることにより、光合成細菌が本来有するカロテノイド合成のための前駆体を利用し、かつ、導入した遺伝子の種類に応じてアスタキサンチンまでの種々のカロテノイドを選択的に生合成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
従って、本発明の目的は、アスタキサンチン生産能を有する新規な形質転換体を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、このアスタキサンチン生産能を有する新規な形質転換体を用いてアスタキサンチンを生産する新規なアスタキサンチンの生産方法を提供することにある。
【0013】
更に、本発明の他の目的は、β-カロテンやアスタキサンチン等を始めとする種々のカロテノイドを選択的に生産することができる新規なカロテノイドの生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、フィトエンデサチュラーゼ(Phytoene desaturase)をコードする遺伝子と、リコペンサイクラーゼ(Lycopene cyclase)をコードする遺伝子と、β-カロテンハイドロキシラーゼ(β-carotene hydroxylase)をコードする遺伝子と、β-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼ(β-carotene C(4)oxygenase)をコードする原核生物由来の遺伝子とを含む組換えベクタープラスミドを宿主のカロテノイド生産能を有する光合成細菌に導入して形質転換させることにより得られたカロテノイド生産能を有する形質転換体である。
【0015】
また、本発明は、ニューロスポレン(Neurosporene)以降のカロテノイド合成経路が失活した海洋光合成細菌であるロドビュラム スルフィドフィラム(Rhodovulum sulfidophilum)の突然変異体を宿主とし、フィトエンデサチュラーゼ(Phytoene desaturase)をコードする遺伝子crtIを含む組換えベクタープラスミド、前記遺伝子crtIとリコペンサイクラーゼ(Lycopene cyclase)をコードする遺伝子crtYとを含む組換えベクタープラスミド、前記遺伝子crtI及び前記遺伝子crtYとβ-カロテンハイドロキシラーゼ(β-carotene hydroxylase)をコードする遺伝子crtZ及び/又は原核生物由来のβ-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼ(β-carotene C(4)oxygenase)をコードする遺伝子crtWとを含む組換えベクタープラスミドから選ばれた何れかの組換えベクタープラスミドを前記宿主に導入して形質転換させ、得られた形質転換体を用いて所望のカロテノイドを生産することを特徴とするカロテノイドの生産方法である。
【0016】
本発明において、宿主とするカロテノイド生産能を有する光合成細菌としては、好ましくはアスタキサンチン生産能を有するヘマトコッカス プルビアリス(Haematococcus pluvialis)よりも生育の速い原核生物であるのがよく、例えば、海洋光合成細菌であるロドビュラム スルフィドフィラムを始めとして、エリスロバクター属、ロジバクター属、ロドビュラム属等の種々の光合成細菌を例示することができるが、アスタキサンチンまでの合成経路を構築させる上で、より好ましくは海洋光合成細菌のロドビュラム スルフィドフィラムから導かれ、ニューロスポレン(Neurosporene)以降のカロテノイド合成経路が失活した突然変異体であるのがよい。このニューロスポレン(Neurosporene)以降のカロテノイド合成経路が失活したロドビュラム スルフィドフィラムを宿主として用いることにより、ロドビュラム スルフィドフィラムにおけるニューロスポレン(Neurosporene)からスフェロイデン(Spheroidene)への合成経路が遮断され、ニューロスポレンからアスタキサンチンへの合成経路を構築することが容易になる。
【0017】
そして、このような海洋光合成細菌であるロドビュラム スルフィドフィラムの突然変異体を得る方法については、特に制限はないが、例えば、所定の細胞濃度に調整した細胞懸濁液中に所定濃度のEMS(Ethyl methanesulfonate)を添加し、次いで室温で数分間培養した後、得られた菌体をリン酸緩衝液で洗浄し、更に光合成細菌用培地で洗浄した後、寒天プレートに植菌して培養し、増殖した菌株のうちから緑色の株のみを選択して採取することにより、ロドビュラム スルフィドフィラムの突然変異体を得ることができる。本発明の実施例1で用いたロドビュラム スルフィドフィラムの突然変異体は、Rhodovulum sulfidophilum NKPB160471RMと命名され、2004年9月7日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに受領番号「NITE AP-21」として寄託されている。
【0018】
また、このような宿主としての光合成細菌に導入される組換えベクタープラスミドについては、フィトエンデサチュラーゼをコードする遺伝子、リコペンサイクラーゼをコードする遺伝子、β-カロテンハイドロキシラーゼをコードする遺伝子、及びβ-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼをコードする原核生物由来の遺伝子から選ばれたいずれか1種又は2種以上の遺伝子を含む組換えベクタープラスミドであるのが好ましく、より具体的には、フィトエンデサチュラーゼをコードする遺伝子crtIを含む組換えベクタープラスミド、前記遺伝子crtIとリコペンサイクラーゼをコードする遺伝子crtYとを含む組換えベクタープラスミド、前記遺伝子crtI及び前記遺伝子crtYに加えてβ-カロテンハイドロキシラーゼをコードする遺伝子crtZ及び/又は原核生物由来のβ-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼをコードする遺伝子crtWを含む組換えベクタープラスミドであるのがよい。
【0019】
上記の遺伝子crtI、crtY、及びcrtZを取得するための微生物については、本発明で用いる光合成細菌が好ましくは原核生物の海洋光合成細菌であるので、遺伝子crtWと同様に、好ましくは原核生物由来の遺伝子であるのがよく、より具体的には、エルウィニア ヘルビコーラ、アグロバクター オーランチアカム{若しくは、パラコッカス スピーシーズ(Paracoccus sp.)MBIC 1143}、シアノバクテリア、その他にエリスロバクター属、ロドバクター属、ロドビュラム属等の光合成細菌を例示することができる。これらの遺伝子crtI、crtY、crtZ及びcrtWを取得する微生物と、これらの遺伝子crtI、crtY、crtZ及びcrtWが導入される宿主のカロテノイド生産能を有する光合成細菌とを共に原核生物とすることにより、カロテノイド合成酵素(蛋白)合成におけるコドンの使用頻度が類似しているため、結果として効率良く酵素が合成されてカロテノイド合成が進むものと考えられる。
【0020】
本発明において、組換えベクタープラスミドを調製するための遺伝子crtI、crtY、crtZ及びcrtWは、上述したような所定の微生物からこれまでに知られている例えばアルカリSDS法、トリトンリゾチーム法等の種々の方法で抽出し、次いで特定のプライマーを用いてPCR法で増幅させることにより取得することができる。また、取得したこれらの遺伝子crtI、crtY、crtZ及びcrtWを用いて組換えベクタープラスミドを構築する方法についても、これまでに知られているDNAリガーゼを用いたライゲーション反応による方法を採用することができ、更に、構築された組換えベクタープラスミドを宿主となるカロテノイド生産能を有する光合成細菌に導入して形質転換させる方法についても、これまでに知られている例えばエレクトロポレーション法、接合伝達法、塩化カルシウム法等の種々の方法を採用することができ、更にまた、得られた形質転換体の培養についても、形質転換前の光合成細菌の培養方法と同じ方法を採用する等、これまでに知られている方法を採用することができる。
【0021】
本発明において、特に好ましい形質転換体としては、上記のニューロスポレン(Neurosporene)以降のカロテノイド合成経路が失活した海洋光合成細菌であるロドビュラム スルフィドフィラムの突然変異体(受領番号:NITE AP-21)に、フィトエンデサチュラーゼをコードする原核生物由来の遺伝子crtI、リコペンサイクラーゼをコードする原核生物由来の遺伝子crtY、β-カロテンハイドロキシラーゼをコードする原核生物由来の遺伝子crtZ、及びβ-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼをコードする原核生物由来の遺伝子crtWとプロモーターとしてpufを含む組換えベクタープラスミドを導入して得られたものを挙げることができる。この形質転換体は、アスタキサンチンまでのカロテノイド生産能を有するものであり、Rhodovulum sulfidophilum NKPB160471RM(pRKY415WZ)と命名され、2004年9月7日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに受付番号「NITE AP-22」として寄託されている。
【0022】
本発明のカロテノイド生産方法において、遺伝子crtIを含む組換えベクタープラスミドが導入された形質転換体からは最終生成物としてリコペン(Lycopene)を、遺伝子crtIとcrtYとを含む組換えベクタープラスミドが導入された形質転換体からは最終生成物としてβ-カロテン(β-carotene)を、更に、遺伝子crtI、crtY及びcrtZを含む組換えベクタープラスミドが導入された形質転換体からは最終生成物としてゼアキサンチン(Zeaxanthin)を、また、遺伝子crtI、crtY及びcrtWを含む組換えベクタープラスミドが導入された形質転換体からは最終生成物としてカンタキサンチン(Canthaxanthin)を、更に、遺伝子crtI、crtY、crtZ及びcrtWを含む組換えベクタープラスミドが導入された形質転換体からは最終生成物としてアスタキサンチンをそれぞれ生産することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明においては、カロテノイド生産能を有する光合成細菌を宿主とし、この光合成細菌に、フィトエンデサチュラーゼをコードする遺伝子(crtI)、リコペンサイクラーゼをコードする遺伝子(crtY)、β-カロテンハイドロキシラーゼをコードする遺伝子(crtZ)及びβ-カロテン-C(4)-オキシゲナーゼをコードする原核生物由来の遺伝子(crtW)から選ばれた1種又は2種以上の特定の遺伝子を含む組換えベクタープラスミドを導入して形質転換せしめ、得られた形質転換体を用いることにより導入した遺伝子の種類に応じてアスタキサンチンまでの種々のカロテノイドを選択的に合成することができる。
【0024】
そして、本発明で用いるカロテノイド生産能を有する光合成細菌は、それ自体がカロテノイド合成の前駆体を合成する代謝経路を有しており、しかも、ヘマトコッカス プルビアリスやその他の微細藻類に比べて生育速度が速く、種々のカロテノイドを工業的に有利に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0026】
[実施例1]
〔工程1〕Paracoccus sp. MBIC1143トータルDNAの調整
トータルDNAは、原核生物のパラコッカス スピーシーズ(Paracoccus sp.)MBIC 1143を、表1に示す組成のRCVB液体培地(1l, pH6.8)で増殖させ、得られた菌体から調製した。遠心回収により集菌後、ペレットの10倍容量のプロテアーゼKバッファー(100mM NaCl, 10mM Tris-HCl pH7.4, 50mM EDTA)に懸濁し、プロテアーゼKを0.1mg/mlになるように加えた。10wt%-ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を終濃度0.5重量%になるように加え、よく混合した後、37℃で1時間消化した。フェノール:クロロホルム(1:1)溶液による抽出を3回、クロロホルム抽出を1回行った後、回収した水溶液に対して1/10容量の3M-酢酸ナトリウム(pH7.4)と2.5倍容量のエタノールとを加え、トータルDNAを遠心回収した。70%-エタノールでリンスした後、上澄みを除いて風乾させ、TE緩衝液(10mM Tris-HCl, 0.1mM EDTA)に溶解した。
【0027】
【表1】


【0028】
〔工程2〕PCR法によるcrtW(Accession No. D58420)及びcrtZ(Accession No. D58420)の取得
上記工程1で得られたゲノムDNA(10ng/ul)をテンプレートとし、DNAポリメラーゼにAmpliTaq Gold(Applied Biosystems社製)を用いてPCRを行った。このPCR反応は、1サイクルの条件をそれぞれ熱変性について95℃、30秒の条件、アニーリングについてcrtWが57.2℃、1分の条件及びcrtZが59.4℃、1分の条件、及び、伸長について72℃、1分の条件とし、30サイクル行った。プライマーについては表2に示すcrtW及びcrtZに特異的なプライマーを用いた。
【0029】
【表2】


【0030】
〔工程3〕組換えベクタープラスミドの構築
次に、制限酵素KpnI(TaKaRa社製)及びSse8387I(TaKaRa社製)をそれぞ
れDNA1ugに対して1Uの割合で用い、37℃、1時間の条件で制限酵素消化によりそれぞれcrtW及びcrtZを切り出し、次いでライゲーションキット(TaKaRa社製ligation kit ver.2)を用い、切り出されたcrtW及びcrtZと、KpnI及びSse8387Iで消化したpRKY415(pufプロモーター、Erythrobacter longus OCh101由来のcrtI(Accession No. D83514)及びcrtY(Accession No. D83513)が組み込まれているベクター;Takeyama, H. et al., J. Mar. Biotechnol. 4, pp224-229(1996)参照)とのライゲーション反応(ベクター:インサート=1:10)を行い、目的の原核生物由来のcrtI、crtY、crtW、及びcrtZが組み込まれた組換えベクタープラスミド(pRKY415WZ)を構築した。
ここで、組換えベクタープラスミドの構築に用いたベクター(pRKY415)と構築された組換えベクタープラスミド(pRKY415WZ)を図1に示す。
【0031】
〔工程4〕ロドビュラム スルフィドフィラム(Rhodovulum sulfidophilum)
の突然変異体の作製
細胞濃度1×109cells/mlに調整した1.5mlのロドビュラム スルフィドフィラムNKPB160471Rに、濃度4重量%となるようにエチルメタンスルフォン酸(EMS)を添加し、室温で5分間インキュベートし、その後、菌体をリン酸緩衝液(pH 7.0)で4回、また、光合成細菌用培地(RCVB培地)で2回それぞれ洗浄し、次いで寒天プレート(Rifampicin 80μg/ml含有)に植菌し、32℃、暗条件下で培養し、得られた培養物から緑色の菌株(突然変異体)を分取した。
このロドビュラム スルフィドフィラムの突然変異体については、ロドビュラム スルフィドフィラム(Rhodovulum sulfidophilum)NKPB160471RMと命名され、発明者 松永 是により2004年9月7日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに寄託番号「NITE AP-21」として寄託された。
【0032】
〔工程5〕ロドビュラム スルフィドフィラムの形質転換
上記工程3で得られた組換えベクタープラスミド(pRKY415WZ)をエレクトロポレーション法(2.5V, 25uFD, 200Ω, Biorad社製Gene Pulser)により大腸菌E. coli S17-1に導入した。得られたE. coli S17-1の形質転換体(1.0×1010cells/ml)とロドビュラム スルフィドフィラムNKPB160471RM(1.0×1010cells/ml)とを1:10の割合で混合し、RCVBプレートにスポットして32℃、暗条件下に24時間インキュベートした。
得られたロドビュラム スルフィドフィラムの形質転換体については、ロドビュラム スルフィドフィラム(Rhodovulum sulfidophilum)NKPB160471RM(pRKY415WZ)と命名され、発明者 松永 是により2004年9月7日に独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターへ寄託番号「NITE AP-22」として寄託された。
【0033】
〔工程6〕カロテノイドの抽出及び測定
上記工程5で得られたロドビュラム スルフィドフィラム突然変異体(NKPB160471RM)の形質転換体{NKPB160471RM(pRKY415WZ)}を、RCVB液体培地にカナマイシン(Kanamycin)30μg/mlを添加して調製したRCVBN液体培地10Lに接種し、32℃、明所好気条件で8日間培養した後、菌体を遠心回収して回収し、凍結乾燥を行った。
【0034】
得られた凍結乾燥菌体0.5gに抽出溶剤のアセトン5mlを加えて色素を抽出し、得られたアセトン抽出物について、カラムとしてウォーターズ シンメトリー(Waters Symmetry)C18 カラム(150mm×3.9 mm; 5μm)を用い、溶出溶剤としてアセトニトリル:メタノール:2-プロパノール(90:6:4)を用い、HPLC分析(1ml/min、40℃)を行った。
【0035】
保持時間3.7分に最大吸収480nmのピークが得られ、分画して質量分析を行ったところ597の分子量が示され、アスタキサンチンの標準品(シグマ社製)とよく一致し、アスタキサンチンが生成していることを確認した。
この実施例1で得られたアセトン抽出物におけるカロテノイド組成を以下の表5に示す。
【0036】
[実施例2]
組換えベクタープラスミドとして上記のpRKY415(pufプロモーター、Erythrobacter longus OCh101由来のcrtI及びcrtYが組み込まれているベクター)を用いた以外は、上記実施例1と同様にして、ロドビュラム スルフィドフィラム(Rhodovulum sulfidophilum)NKPB160471RMの形質転換を行い、その形質転換体{NKPB160471RM(pRKY415)}を得た。得られた形質転換体{NKPB160471RM(pRKY415)}について、上記実施例1と同様にして培養した後、カロテノイドの抽出及び測定を行った。結果を表5に示す。
【0037】
[実施例3]
上記の実施例1において、その工程3で切り出された遺伝子crtZを用いてcrtI、crtY、及びcrtZが組み込まれた組換えベクタープラスミド(pRKY415Z)を構築した以外は、上記実施例1と同様にして形質転換体{NKPB160471RM(pRKY415Z)}を作製し、上記実施例1と同様にして培養した後、カロテノイドの抽出及び測定を行った。結果を表5に示す。
【0038】
[実施例4]
上記の実施例1において、その工程3で切り出された遺伝子crtWを用いてcrtI、crtY、及びcrtWが組み込まれた組換えベクタープラスミド(pRKY415W)を構築した以外は、上記実施例1と同様にして形質転換体{NKPB160471RM(pRKY415W)}を作製し、上記実施例1と同様にして培養した後、カロテノイドの抽出及び測定を行った。結果を表5に示す。
【0039】
[比較例1]
突然変異及び形質転換の操作をしていないロドビュラム スルフィドフィラムNKPB160471Rそれ自体について、上記実施例1と同様にして培養した後、カロテノイドの抽出及び測定を行った。結果を表5に示す。
【0040】
[比較例2]
上記実施例1の工程4で得られたロドビュラム スルフィドフィラムの突然変異体NKPB160471RM(受付番号:NITE AP-21)について、上記実施例1と同様にして培養した後、カロテノイドの抽出及び測定を行った。結果を表5に示す。
【0041】
[比較例3]
〔工程1〕Haematococcus pluvialisからのcrtO及びcrtZ遺伝子の抽出
表3に示す組成のbasal培地(1l, pH6.8)を用いH. pluvialis を12−12時間明暗周期(20μmol photons/m2/s)で4日間培養を行った。酢酸ナトリウム及び硫酸鉄を、それぞれ終濃度45 mM及び450 μMとなるよう添加し、スターラーで攪拌を行いながら強光(125μmol photons/m2/s)で藻体のシスト化を促す培養を8時間行った。シスト化したH. pluvialisから、ホットフェノール法を用いてtotal-RNAの抽出を行い、Oligo dTカラム(TaKaRa社製)によりmRNAを精製した。
【0042】
【表3】


【0043】
〔工程2〕crtO及びcrtZの増幅
得られたmRNAをテンプレートとし、RT-PCR kit ReverTra Dash (TOYOBO)を用いて逆転写を行った。このとき、プライマーはRandom primerを用いた。逆転写反応の前処理として、mRNAとプライマーの混合液を70℃、10分のインキュベートを行った。
30℃で10分、42℃で20分、99℃で5分、及び4℃で5分の逆転写反応により得られたcDNAをテンプレートとし、37℃、20分のRNase処理後、スピンカラムで精製し、DNAポリメラーゼにAmpliTaq Gold(Applied Biosystems)を用いてPCRを行った。PCR反応は熱変性;95℃で30秒、アニーリング;55℃で1分、伸長;72℃で1分を1サイクルとして30サイクル行った。プライマーは表4に示すcrtO及びcrtZに特異的なプライマー〔crtO及びcrtZ特異的RT-nested PCR プライマー(RBS及び制限酵素サイト付き)〕を用いた。
【0044】
【表4】


【0045】
〔工程3〕組換えベクタープラスミドの構築
H. pluvialis NISE 144からRT-PCRにより得られたcrtO及びcrtZをPromega社のpGEM-T Easy Vector System Iを用い、TAクローニングを行った。EcoR I(DNA1ugに対して1U)を用いた制限酵素消化(37℃、1時間)によりpGEMからcrtOあるいはcrtZを切り出し、crtO及びcrtZ(等モル量、Takara社製ligation kit ver.2)のライゲーション(16℃、30分)を行った。次に、そのライゲーション産物(crtOZ)とKpnI(DNA1ugに対して1U)で消化した組換えベクタープラスミドpRKY415とのライゲーション(ベクター:インサート=1:10、Takara社製ligation kit ver.2)を行い、crtI、crtY、crtO、及びcrtZが組み込まれた組換えベクタープラスミドpRKY415OZを構築した。
【0046】
〔工程4〕ロドビュラム スルフィドフィラムの形質転換
上記の工程3で得られた組換えベクタープラスミドpRKY415OZをエレクトロポレーション法(2.5V, 25uFD, 200Ω,Biorad社製Gene Pulser)によりE. coli S17-1に導入した。得られた形質転換体(1.0×1010cells/ml)をロドビュラム スルフィドフィラムNKPB 160471R(1.0×1010cells/ml)と1:10の割合で混合し、RCVBプレートにスポットし24時間、暗条件下、32℃でインキュベートした。
【0047】
〔工程5〕カロテノイドの抽出及び測定
上記の工程4で得られたロドビュラム スルフィドフィラムの形質転換体{NKPB 160471R(pRKY415OZ)}を、RCVB液体培地に30μg/mlのカナマイシンを添加して調製したRCVBN培地で培養した後、菌体を遠心回収し凍結乾燥を行った。色素をアセトンによる抽出後、Waters Symmetry C18 カラム(150mm×3.9mm; 5μm)を用いアセトニトリル:メタノール:2-プロパノール(90:6:4)によりHPLC分析(1ml/min、40℃)を行った。β-caroteneのピークのみが示され、導入したCrtO及びZの活性は確認されなかった。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】


【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のカロテノイド生産能を有する新規な形質転換体及び新規なカロテノイドの生産方法は、宿主の光合成細菌が有するカロテノイド合成のための前駆体を有効に利用し、かつ、新たに導入した遺伝子の種類に応じてアスタキサンチンまでの種々のカロテノイドを選択的に生合成することができるものであり、種々のカロテノイドの選択的合成の可能性を示しており、今後のカロテノイドの工業的生産に寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、実施例1において、組換えベクタープラスミドの構築に用いたベクター(pRKY415)と構築された組換えベクタープラスミド(pRKY415WZ)を示す概念図である。
【出願人】 【識別番号】591033744
【氏名又は名称】松永 是
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
【出願日】 平成16年9月10日(2004.9.10)
【代理人】 【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫

【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣

【識別番号】100110733
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥野 正司

【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永

【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也

【公開番号】 特開2006−75097(P2006−75097A)
【公開日】 平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願番号】 特願2004−263498(P2004−263498)