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【発明の名称】 ワイピング装置及びインクジェット記録装置
【発明者】 【氏名】桑原 伸行
【住所又は居所】東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キヤノン株式会社内

【氏名】前田 浩行
【住所又は居所】東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キヤノン株式会社内

【要約】 【課題】記録ヘッドの吐出面に付着するインクミストや跳ね返りインク滴に起因するインク濡れが進行していった場合でも、濡れインクを効率よく拭き取り除去することができ、安定した良好なインク吐出を可能にするワイピング装置及びインクジェット記録装置を提供する。

【解決手段】記録ヘッドH1001の吐出面H1101に順次摺接する複数のゴム状弾性体のワイパーを有し、最初に摺接する第1ワイパー11の吐出面に対する当接角度θ1を後続の第2ワイパー12の該吐出面に対する当接角度θ2より小さい値に選定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出して記録媒体に記録する記録ヘッドの吐出面を拭き取り清掃するワイピング装置において、
前記吐出面に順次摺接する複数のワイパーを有し、
最初に摺接するワイパーの前記吐出面に対する当接角が他のワイパーの該吐出面に対する当接角より小さいことを特徴とするワイピング装置。
【請求項2】
前記インクは色材としての顔料と200以下の酸価を示す高分子物質を含有することを特徴とする請求項1に記載のワイピング装置。
【請求項3】
前記ワイパーがブレード状のゴム状弾性体で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイピング装置。
【請求項4】
前記最初に当接するワイパーの前記吐出面に対する当接角が30度以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイピング装置。
【請求項5】
前記最初に当接するワイパーの硬度が他のワイパーの硬度より低いことを特徴とする請求項3又は4に記載のワイピング装置。
【請求項6】
前記最初に当接するワイパーの自由長が他のワイパーの自由長より長いことを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項に記載のワイピング装置。
【請求項7】
前記複数のワイパーは互いに位置決め固定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のワイピング装置。
【請求項8】
前記複数のワイパーは一体に成形されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のワイピング装置。
【請求項9】
前記吐出面は撥水性を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のワイピング装置。
【請求項10】
記録ヘッドから記録媒体へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、
請求項1〜9のいずれか1項に記載のワイピング装置を備えていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、インクを吐出して記録媒体に記録する記録ヘッドの吐出面を拭き取り清掃するワイピング装置、及び該ワイピング装置を用いるインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドから記録紙等の記録媒体へインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置は、小型化が容易であり、騒音が少なく、安価であることなどの利点を有しており、コンピュータの出力装置や各種の印刷装置に使用されている。インクジェット記録装置に搭載される記録ヘッドは、インクを吐出するための吐出口が形成された吐出面を有しており、記録情報に基づいて吐出口を選択的に駆動することにより、所望のインク滴を記録媒体上に着弾させることで画像を記録していく。インクジェット記録装置では、複数の吐出口を所定ピッチで配列した吐出口列が形成された吐出面(通常では同一面)を有する記録ヘッドを使用する形態が一般的である。
【0003】
インクジェット記録装置においては、液状のインクを吐出させることから、このインク吐出の継続により、浮遊するインクミストや記録媒体から跳ね返るインク等が吐出面に付着する現象を起こすことがある。本願では、このような現象を「濡れ」又は「インク濡れ」と呼ぶ。この濡れ(インク濡れ)が吐出面上の吐出口近傍で起こった場合、吐出口を介して吐出口内のインクと濡れとがつながったり、複数の吐出口間でインクのつながりが生じたりする。また、紙粉やごみ等の異物が濡れを介して吐出面に付着し、付着物によって吐出口が塞がれることもある。以上のような現象が発生すると、吐出口から吐出しようとするインクが濡れによって引っ張られ、その結果吐出インク滴の吐出方向が曲がってしまい、インク滴の大きさや着弾位置にばらつきが生じることがある。さらには、吐出が不可能となることもある。その結果、正常な画像形成ができなくなるという不都合が生じる。
【0004】
このような不都合を防止するために、記録ヘッドの吐出面に撥水処理を施し、付着しようとするインク滴を弾くことで濡れを防止することが行われている。さらに、撥水処理だけでは完全に濡れを防止できないこともあるため、濡れが多くなった場合に該濡れを払拭(拭き取り清掃)するためのワイピング装置をインクジェット記録装置内に組み込むことが行われている。このワイピング装置は、一般的には吐出面を摺接するワイパーを備えており、所定のタイミングでワイパーによる摺接動作を行い、それにより濡れや異物を拭き取り清掃(払拭)するように構成されている。
【特許文献1】特開平8−20112号公報
【特許文献2】特開平8−187876号公報
【特許文献3】特開平11−78058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、記録画像(プリント画像)の画像濃度や堅牢性(耐水性、耐光性等)を向上させることを目的として、インクの色材として顔料を使用することが研究開発されている。インクジェット記録用のインクでは、色材として染料が多く用いられているが、インクの主溶媒には水を使用することが多いため、この染料も水溶性染料が多用されている。水溶性染料を用いる場合、水溶性の性質から耐水性が劣ったり、一般的な染料の性質として知られている耐光性に劣る等の課題があった。これらの課題を解決するために、耐水性及び耐光性に優れた顔料を用いることが攻究されている。
【0006】
顔料をインクジェット用インクの色材として利用する際には、次のことに留意する必要がある。すなわち、通常の顔料は水に不溶であるため、界面活性剤や樹脂等の存在によって水中で分散させる必要がある。更に必要に応じて適切な樹脂や溶剤等を添加することによりインクジェット用インクとしている。このような分散の手法自体は従来より塗料や印刷の分野で実施されているが、インクジェット用インクの場合は、数十μm径の吐出口より液滴の吐出をさせることから小さな粒径の顔料が求められる。一般にインクジェット用インクで使用する顔料の粒径としては、200nm以下、より好ましくは100nm以下が適切である。
【0007】
さらに、安定吐出のためには、外力や時間経過によって凝集や沈降を起こさない分散安定性が求められる。また、記録媒体上にインクが着弾した後に顔料粒子と記録媒体との間で強い結着力が発現していることが必要となる。顔料は前述のように水に不溶である性質であるため、記録媒体上に着弾した後も粒子の形態で存在することになる。特に記録媒体が普通紙である場合には、紙を構成している繊維と顔料との間では強い結着力がない。そこで、記録媒体と顔料との間の結着力を向上させるために、バインダー成分としてインク中に水溶性高分子物質を含有させることが行われる。特に記録媒体にインクが付着した後の定着性や擦過性の特性向上を図るためには、酸価の低い高分子物質を適用することが好ましい。ここで、酸価とは、一般の術語であり、試料1g中に含有される遊離脂肪酸を中和するに要する水酸化カリウムのmg数で定義される。
【0008】
このように定着性や擦過性の特性を高く維持しようとする場合には比較的酸価の低い高分子物質が利用されるが、酸価の低い高分子物質は、酸価の高いものに比べて水に対する溶解性が低いという性質を有する。そのため、インクジェット用インクに適用する際に、吐出面上で濡れが生じる場合、吐出面上で濡れのインク中における経時的な水等の揮発性溶媒の蒸発が進行していくと、部分的に凝集を起こしたり、この高分子物質自体が析出したりする。更なる濡れが発生することによりこのことが繰り返され、次第に濡れが蓄積されていくことになる。この濡れの蓄積が進行していくと、濡れインク部分の粘度上昇や析出物の堆積に伴う固化のため、ワイピング動作を行っても濡れを完全に払拭できず、拭き残しが発生することがある。
【0009】
図3は吐出面上の濡れの状態を模式的に例示する図であり、(a)は飛散したインクが吐出面に付着して濡れた状態を吐出面上から見た模式的正面図であり、(b)は(a)に示す吐出面の状態を側方から見た模式的側面図であり、(c)は(a)に示す吐出面を従来のワイピング装置で拭き取り清掃した後の状態を示す模式的正面図である。図3の(a)に示すように濡れの状態は吐出面内で均一ではなく吐出面内の箇所により付着しているインクの大きさが異なっている。また、図3の(a)の吐出面を横方向から見ると、図3の(b)に示すように、付着したインクの厚さもそれぞれ異なっている。
【0010】
このような状態において従来のワイピング方法でワイパーの摺接を実行した場合には、図3の(c)に示すような拭き残し状態となり、濡れを払拭することが困難である。すなわち、それぞれの濡れインクは付着している箇所によって濡れインクの量やその粘性が異なっており、そのため、ワイピングのときにワイパーに対するインク抵抗が吐出面上の箇所によって差異を生じている。その結果、図3の(c)に示すように、濡れを除去しきれない部分が点在することになる。
【0011】
更に、図3の(a)及び図3の(b)の状態でワイパーの摺接を行うことは、吐出面の中で濡れインクがあまり存在しない箇所にもワイパーが接触することでもある。ワイパーが接する吐出面の部位ではワイパーが摺接しながら濡れインクが広がることもあって、ワイパー及び吐出面の両者が共にインク付着のない箇所同士で接する機会は実際には少ないといえる。しかし、ワイパー及び吐出面のインク付着のない箇所同士が接する機会が無いとはいえない。ワイパー及び吐出面のインク付着がない箇所同士が接した場合には、ワイパーの接触部に磨耗が生じやすくなる。
【0012】
このような濡れの払拭の困難性に鑑みてワイピング動作を頻繁に行うことで堆積した濡れを逐一払拭することが考えられるが、そのような動作を行うためには記録ヘッドを頻繁にワイピング位置に移動させたり長時間のワイピング操作を行ったりする必要がある。そのため、このような解決手段では、記録装置の動作機構が複雑になったり、記録動作のスループット(全体的な記録速度)が低下したりすることになり、好ましい解決策とはいえない。
【0013】
逆にインク中に酸価の高い高分子物質を含有させた場合には、濡れインクとして吐出面に付着したとしても、前述したように相対的に溶解性が高いことから濡れ部分の粘度上昇や高分子物質の析出は発生しにくく、たとえ濡れの現象が発生したとしても、次の濡れインクの付着で再溶解されやすい。このため濡れの蓄積や堆積は起こりにくく、染料を用いたインクに近い挙動で液状として維持される。
【0014】
しかし、酸価の高い高分子物質は水溶性が比較的高いため、記録媒体に着弾したインクが記録媒体の厚さ方向へ浸透しやすく、結果として、画像濃度を高く維持することが難しくなる。さらに、インクが記録媒体の厚さ方向に広がることから、顔料粒子と紙との結着力を強く維持することができなくなり、記録画像の擦過性が低下してしまう。
以上のことから、画像性能を高めようとした場合には、吐出面における濡れインクの凝集や析出による粘度上昇や固化を引き起こす可能性があり、更にこれらが吐出面上で堆積していくことから、濡れインクを拭き取り清掃(払拭)するためのワイピング操作が困難になるという技術的課題が発生してくる。
【0015】
図3の(c)に示すようなワイピング操作の際の拭き残しを解消するために、複数のワイパーにより同一箇所を連続的(順次)を摺接することが提案されている。例えば、特開平8−20112号公報においては、複数枚のワイパーを記録ヘッドの進行方向に対して直角方向に並列配置し、最初に吐出面に当接するワイパーの当接力を比較的弱くし、当接する順にワイパーの当接力を順次強くする構成が開示されている。染料を溶解させたインクや、吐出面に付着して蒸発しても含有物質が析出しにくいインクであれば、前述のような濡れインクの拭き残しは防ぐことができるが、吐出面上で濡れインクの蒸発に伴ってインク中の含有物質が析出して堆積してくるようなものでは、ワイピングのときのワイパーの摺接が不十分となったり、ワイパーの揺動が発生して複数回のワイピングの繰り返しだけでは濡れを十分に払拭できないなどの不都合がある。
【0016】
ただし、ワイパーの当接力を順次強くすることで上記のような堆積物でも十分に払拭できるワイパーの摺接を実現できれば、濡れを完全に除去できる可能性はある。しかし、ワイパーの当接力が大きくなった場合は、吐出面上の撥水剤が磨耗するという不都合が発生し、撥水性の低下に伴ってインク濡れの程度が更に増大してしまうことになりかねない。また、このようにワイパーの当接力を更に高く設定することは、ワイパーの吐出面との接触部分の磨耗を増大させることにもつながる。
【0017】
一方、特開平8−187876号公報並びに特開平11−78058号公報には、吐出面の上記の撥水性低下に対処するために、該吐出面に撥水剤を付与する手法が開示されている。特開平8−187876号公報においては、撥水剤を保持する保持部材と該保持部材でワイピングするワイピング機構とを有し、ゴムブレードからなるワイピングパッドで吐出面の濡れインクを拭き取った後、拭き取った部分に撥水剤保持部材を接触させて撥水剤を補給するようにした構成が開示されている。また、特開平11−78058号公報においては、吐出面に撥水性皮膜を形成する手段を備え、ワイパーで吐出面をワイピングした後に該吐出面に撥水剤溶液を含有した吸収性部材を押し付けることで撥水皮膜層を形成する構成が開示されている。
【0018】
これらの文献に開示されている手法においても、使用可能な撥水剤の種類に制約があり、また、撥水層を再形成するときに均一な厚さの層を形成するのが困難であるといった技術的課題がある。更に、撥水層を再形成するために専用の機構をインクジェット記録装置内に追加する必要があり、装置の大型化を招くという技術的課題もある。従って、これらの手法により吐出面に撥水性を再付与することで、ワイピング時のワイパーの当接力を高く設定することは、これらの観点から好ましいものではなかった。
【0019】
本発明は以上のような技術的課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、記録ヘッドの吐出面におけるインク濡れが進行していった場合でも、濡れインクを効率よく拭き取り除去することができ、安定した良好なインク吐出を可能にするワイピング装置及びインクジェット記録装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者は、インク吐出による吐出面上のインク濡れの発生状態、並びにインク濡れで付着しているインクの揮発分の蒸発に伴う吐出面上での挙動などについて攻究を重ねた結果、吐出面上に発生したインク濡れを効率よく払拭除去できる新規な手法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
本発明によるワイピング装置は、上記目的を達成するため、インクを吐出して記録媒体に記録する記録ヘッドの吐出面を拭き取り清掃するワイピング装置において、前記吐出面に順次摺接する複数のワイパーを有し、最初に摺接するワイパーの前記吐出面に対する当接角が他のワイパーの該吐出面に対する当接角より小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のワイピング装置及びインクジェット記録装置によれば、記録ヘッドの吐出面に順次摺接する複数のワイパーを使用し、最初に摺接するワイパーの吐出面に対する当接角が他のワイパーの該吐出面に対する当接角より小さい構成とするので、記録ヘッドの吐出面におけるインク濡れが進行していった場合でも、濡れインクを効率よく拭き取り除去することができ、安定した良好なインク吐出が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一又は対応部分を示すものである。図9は本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の外観を示す斜視図である。図10は本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の内部構成を示す斜視図である。図11は図10中のキャリッジに搭載される記録手段(ヘッドカートリッジ)の斜視図であり、図12は図11の記録手段を記録ヘッドとインクタンクに分解した状態を示す斜視図である。図13は図12中の記録ヘッドを部品ごとに分解して下方から見た分解斜視図である。
【0024】
図9において、インクジェット記録装置の装置本体M1000の外殻部は、下ケースM1001、上ケースM1002、アクセスカバーM1003及び排紙トレイM1004で構成され、これら外殻部を構成する各部材は装置本体のシャーシM3019(図10参照)により支持されている。シャーシM3019は、所定の剛性を有する複数の板状金属部材によって形成され、記録装置の骨格をなし、後述する各記録動作機構を支持している。下ケースM1001は前記外殻部の略下半分を形成し、上ケースM1002は前記外殻部の略上半分を形成しており、両ケースの組み合わせによって後述の各機構を収納する空間を有する中空構造体をなしている。装置本体M1000の後部上面部び前面のそれぞれに開口部が形成されている。
【0025】
下ケースM1001の前面に形成された開口部は排出トレイM1004により開閉可能になっている。この排出トレイM1004は、その一端で下ケースに回転自在に保持されており、その回転によって前面の開口部を開閉するように構成されている。記録動作を実行する際には、排出トレイM1004を前面側へと回転させて開口部を開放することにより、記録紙等の記録媒体を該開口部から排出可能にするとともに、排出された記録媒体を順次積載していくことができる。排紙トレイM1004には2枚の補助トレイM1004a及びM1004bが収納されており、必要に応じて各補助トレイを手前に引き出すことにより記録媒体の積載面積を3段階に拡大及び縮小させることができる。
【0026】
アクセスカバーM1003は、その一端部で上ケースM1002に回転自在に保持され、後部上面の前記開口部を開閉することができる。アクセスカバーM1003を開くことによって、装置本体内からヘッドカートリッジH1000全体、あるいはインクタンクH1900又は記録ヘッドH1001ごとに取り出し、交換することができる。なお、アクセスカバーM1003を開閉させると、その裏面に形成された突起がカバー開閉レバーを回転させ、該レバーの回転位置をマイクロスイッチなどで検出することにより該アクセスカバーの開閉状態を検出することができる。
【0027】
上ケースM1002の後部上面には、電源キーE0018及びレジュームキーE0019が押下可能に設けられると共に、表示燈E0020が設けられている。電源キーE0018を押下すると、表示燈E0020が点燈して記録(プリント)可能であることを使用者に知らせることができる。また、表示燈E0020は、点滅のしかたや色の変化によって、記録装置のトラブル等を使用者に知らせるなど、種々の表示機能を有する。更にブザーをならすことも可能である。トラブル等が解決した場合は、レジュームキーE0019を押下することにより記録動作を再開させることができる。
【0028】
図10において、本実施形態における記録動作機構として、記録紙やプラスチック薄板等の記録媒体を装置本体内へ自動的に給送するための給紙部M3022と、給紙部M3022から1枚ずつ送出される記録媒体を所定の記録位置へ搬送するとともに該記録媒体を該記録位置から排出部M3030へ記録媒体を搬送する搬送部M3029と、記録位置に搬送された記録媒体に所望の記録(プリント)を行う記録部と、該記録部の記録ヘッドH1001のインク吐出性能を維持回復するためのインク吸引やワイピング等の回復処理を行うための回復部M5000とが設けられている。上記記録部(プリント部)は、キャリッジ軸M4021に沿って移動可能に案内支持されたキャリッジM4001と、このキャリッジM4001に着脱可能に搭載される記録手段としてのヘッドカートリッジH1000と、を具備している。
【0029】
次に、図11〜図13を参照して、上記記録部で使用されるヘッドカートリッジH1000について説明する。本実施形態におけるヘッドカートリッジH1000は、図11に示すように、インクを貯留するインクタンクH1900と、このインクタンクH1900から供給されるインクを記録情報に基づいて吐出口から吐出する記録ヘッドH1001とを有する。記録ヘッドH1001はキャリッジM4001に対して着脱可能に搭載される。
【0030】
本実施形態におけるヘッドカートリッジH1000は、写真調の高画質な画像形成を可能とするものであり、インクタンクとして例えばブラック、ライトシアン、ライトマゼンタ、シアン、マゼンタ及びイエローの各色独立の複数のインクタンクH1900を備えている。各インクタンクH1900は、それぞれ個別に着脱自在となっている。記録ヘッドH1001は、図13に示すように、吐出素子基板H1100、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300、第2のプレートH1400、インクタンクホルダH1500、インク流路形成部材H1600、フィルタH1700、シールゴムH1800などで構成されている。
【0031】
吐出素子基板H1100はシリコン基板をベースとし、該吐出素子基板の表面にはインクを吐出するための複数の吐出素子と各吐出素子に電力を供給するためのアルミニウム等の電気配線とが成膜技術により形成されている。さらに、前記吐出素子基板の上記表面には、前記吐出素子に対応した複数のインク流路と複数の吐出口H1100Tとがフォトリソグラフィ技術により形成されている。なお、前記吐出素子基板には、前記複数のインク流路にインクを供給するためのインク供給口が裏面に開口するように形成されている。前記複数の吐出口H1100Tが形成されている面が記録ヘッドH1001の吐出面H1101となる。
【0032】
吐出素子基板H1100は第1のプレートH1200に接着固定されており、該プレートH1200には吐出素子基板H1100にインクを供給するためのインク供給口H1201が形成されている。さらに、第1のプレートH1200には、開口部を有する第2のプレートH1400が接着固定されている。この第2のプレートH1400は、電気配線基板H1300と吐出素子基板H1100とが電気的に接続されるように、該電気配線基板H1300を保持している。電気配線基板H1300は、吐出素子基板H1100にインクを吐出するための電気信号を印加するものであり、吐出素子基板H1100に対応する電気配線と該電気配線の端部に位置し本体からの電気信号を受け取るための外部信号入力端子H1301とを有している。外部信号入力端子H1301は、インクタンクホルダH1500の背面側に位置決め固定されている。
【0033】
一方、インクタンクH1900を着脱可能に保持するインクタンクホルダH1500にはインク流路形成部材H1600が例えば超音波溶着により固定され、インクタンクH1900から第1のプレートH1200へ至るインク流路H1501が形成されている。インクタンクH1900と係合するインク流路H1501のインクタンク側端部には、フィルタH1700が装着されており、外部からの塵埃の侵入を防いでいる。インク流路H1501のインクタンクH1900との係合部にはシールゴムH1800が装着され、該係合部からのインクの蒸発を防いでいる。
【0034】
そして、インクタンクホルダH1500、インク流路形成部材H1600、フィルタH1700及びシールゴムH1800からなるインクタンクホルダ部と、吐出素子基板H1100、第1のプレートH1200、電気配線基板H1300及び第2のプレートH1400からなる吐出素子部とを接着等で結合することにより、記録ヘッドH1001が構成されている。
【0035】
次に、本実施形態に係るインクジェット記録装置において使用されるインクであって、顔料を色材として用いるインクについて説明する。ここでは、一例としてブラックインクについて説明するが、他の色のインクに関しても、使用する顔料の種類を各色インクに相当するものに調整するだけで、同じ内容の技術をそのまま適用することができる。まず、インクを調製するにあたり、水に不溶の顔料を分散させる必要がある。これは次のような方法で行われる。
【0036】
すなわち、水不溶性高分子物質として、スチレン/メタクリル酸/2−ヒドロキシエチルメタクリレート/テトラエチレングリコールメタクリレート(重量による配合比:75/15/5/5、重量平均分子量:20000、酸価:100)をメチルエチルケトンに溶かし、有効成分が50%の高分子溶液を調製した。この高分子溶液を20g、カーボンブラック(比表面積:220m2 /g、吸油量:120ml/100g)を30g、1Nの水酸化カリウム水溶液を17.9g、メチルエチルケトンを20g、イオン交換水を30g用意し、これらを十分に攪拌し、次いで3本ロールミルで20回混錬した。得られたペーストをイオン交換水200gに投入し、十分に攪拌した後に、エバポレーターを用いてメチルエチルケトン及び水を留去した。
【0037】
その後に遠心分離機で租粒を除去し、不揮発濃度が10重量%の顔料分散体Aを作成した。この顔料分散体Aを蒸発乾固し、TG−DTAで顔料(P)と高分子物質(B)の比率を測定したところ、P/B=75/25であった。以上のようにして生成された分散体を『顔料分散体A』とし、次の内容で他の成分と混合してインクの調製を行う。
顔料分散体A ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40重量%
グリセリン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10重量%
ポリエチレングリコール(分子量:1000) ・・・ 3重量%
アセチレノールEH(商品名) ・・・・・・・・・・ 0.15重量%
これらの成分を最終的に混合し、よく攪拌した後にポアサイズ1.0μmのメンブレンフィルタで濾過し、目的物であるインクを得た。
【0038】
次に、図10を参照して、ヘッドカートリッジH1000を搭載するキャリッジM4001について説明する。図10において、キャリッジM4001には、記録ヘッドH1001をキャリッジM4001上の所定の装着位置に案内するためのキャリッジカバーM4002と、記録ヘッドH1001のインクタンクホルダH1500と係合することで該記録ヘッドH1001を押圧して所定の装着位置にセットするためのヘッドセットレバーM4007とが設けられている。前記ヘッドセットレバーM4007はキャリッジM4001の上部に回動可能に取り付けられている。また、ヘッドセットレバーM4007の記録ヘッドH1001との係合部にはばね付勢されるヘッドセットプレート(不図示)がばねを介して取り付けられ、このばね力によって記録ヘッドH1001を押圧しながらキャリッジM4001に装着するように構成されている。
【0039】
また、キャリッジM4001の記録ヘッドH1001との別の係合部にはコンタクトフレキシブルケーブルE0011が設けられ、このコンタクトフレキシブルケーブル上のコンタクト部と記録ヘッドH1001に設けられたコンタクト部(外部信号入力端子)H1301とが電気的に接触しており、これらによって、記録のための各種情報の授受や記録ヘッドH1001への電力供給などが行われる。
【0040】
ここで、コンタクトフレキシブルケーブルE0011のコンタクト部とキャリッジM4001との間には不図示のゴムなどの弾性部材が設けられ、この弾性部材の弾性力と前記ヘッドセットレバーばねによる押圧力とによって該コンタクト部とキャリッジM4001との確実な接触を可能としている。前記コンタクトフレキシブルケーブルE0011はキャリッジM4001の背面に搭載されたキャリッジ基板(不図示)に接続されている。
【0041】
以上のような構成のインクジェット記録装置によれば、記録情報に基づいて記録ヘッドH1001の吐出口H1100Tからインクを吐出することで記録紙等の記録媒体に画像が形成される。この画像形成のためにインクの吐出を継続していくと、吐出面に濡れが発生することがある。次に、この濡れを解消するためのワイピング装置について説明する。なお、このワイピング装置は前述の回復部M5000内に設けられている。
【0042】
図1は本発明によるワイピング装置の第1の実施形態におけるワイピングユニットを示す側面図である。図1において、ワイピングユニット10には2個のワイパー11、12が設けられ、記録手段H1000(記録ヘッドH1001)には吐出口が配列された吐出面H1101が設けられている。ワイピングユニット10を吐出面H1101に対して矢印A方向に移動させることで吐出面H1101を摺接することにより、該吐出面H1101の拭き取り清掃が行われる。
【0043】
ワイピングユニット10には吐出面H1101に順次摺接する複数(2枚)のブレード状のゴム状弾性体のワイパー11、12が設けられている。つまり、ワイピングユニット10には、最初に吐出面H1101に摺接する第1ワイパー11と続いて吐出面H1101に摺接する第2ワイパー12とが設けられている。これらのブレード状のワイパー11、12は硬度(ゴム硬度)70度のポリエーテルウレタンの成形品で形成されている。
【0044】
第1ワイパー11は固定部材14により、第2ワイパー12は固定部材15により、所定の位置関係で基台13上に固定されている。本実施形態では、第1ワイパー11の厚さD1は0.5mmに、第2ワイパー12の厚さD2も0.5mmに、第1ワイパー11の自由長L1は8mmに、第2ワイパー12の自由長L2は5mmに、それぞれ選定されている。つまり、最初に当接するワイパー11の自由長が他のワイパー12の自由長より長くなるように選定されている。このような寸法選定により、第2ワイパー12が吐出面H1101を摺接する際に当接角が約45度となるように、ヘッドカートリッジH1000とワイピングユニット10との相対位置関係が規定されている。
【0045】
図2は図1のワイピングユニット10におけるワイパー11、12の取付け構造を分解して示す斜視図である。図2において、ワイピングユニット10は基台13を有しており、この基台13には、ゴム状弾性体からなるブレード状の第1ワイパー11に設けられた取り付け孔111、112のそれぞれに嵌合する突起131、132が設けられている。同様に、基台13には、ゴム状弾性体からなるブレード状の第2ワイパー12に設けられた取り付け孔121、122のそれぞれに嵌合する突起133、134が設けられている。各突起131、132、133 、134は基台13に一体にモールド成形されている。第1ワイパー11及び第2ワイパー12は、矢印B1方向及び矢印C1方向から前述の各孔に前述の各突起をそれぞれ嵌合させることで、基台13に位置決めされる。
【0046】
次いで、ステンレス鋼等で作製された固定部材14、15を、それぞれ矢印B2方向、矢印C2方向から基台13に取り付ける。すなわち、第1ワイパー11の固定部材14は、その孔141、142に基台13の突起131、132を嵌合させるとともに、その凸リブ143、144を基台13の両側に形成された溝135に掛止させることにより、基台13に対し所定の弾性力を持って位置決め固定され、これによって、第1ワイパー11が基台13に対して位置決め固定される。同様に、第2ワイパー12の固定部材15は、その孔151、152に基台13の突起133、134を嵌合させるとともに、その凸リブ153、154を基台13の両側に形成された溝136に掛止させることにより、基台13に対し所定の弾性力を持って位置決め固定され、これによって、第2ワイパー12が基台13に対して位置決め固定される。
【0047】
図4〜図6は図1及び図2に示したワイピングユニット10によって図3の(a)及び(b)に示すように吐出面H1101に付着した濡れインクを拭き取り除去する際の動作を示す図である。図4はワイピングユニット10を矢印A方向に移動させることで第1ワイパー11が吐出面H1101に摺接し始めたときの状態を示し、(a)は吐出面H1101の模式的正面図であり、(b)はワイピングユニット10及び記録ヘッドH1001の模式的側面図である。
【0048】
図5は図4の状態からワイピングユニット10を更に矢印A方向に移動させることで第1ワイパー11に続いて第2ワイパー12が吐出面H1101に摺接し始めたときの状態を示し、(a)は吐出面H1101の模式的正面図であり、(b)はワイピングユニット10及び記録ヘッドH1001の模式的側面図である。図6は図5の状態からワイピングユニット10を更に矢印A方向に移動させることで第1ワイパー11が吐出面H1101から抜け出したときの状態を示し、(a)は吐出面H1101の模式的正面図であり、(b)はワイピングユニット10及び記録ヘッドH1001の模式的側面図である。
【0049】
次に、図4〜図6を参照して、ワイピングユニット10を用いて図3の(a)及び(b)に示すように吐出面H1101に付着した濡れインクを拭き取り除去する際の動作について説明する。
ワイピングユニット10は待機状態では記録ヘッドの吐出面H1101に対して図1に示すような相対位置関係にある。このような待機位置からワイピングユニット10を矢印A方向に移動させると、まず第1ワイパー11が図4に示すように吐出面H1101に摺接し始め、第1ワイパー11によるワイピングが行われる。この際、第1ワイパー11の先端部は、図4の(b)に示すようにたわみ、吐出面H1101との間では非常に小さい角度θ1で接触する。このときの当接角度θ1は、本実施形態では、約10度である。
【0050】
図4の状態では、第1ワイパー11の先端部の湾曲部が吐出面H1101に接近しており、この湾曲部の稜線付近ではワイパー11と吐出面H1101との間の距離が非常に小さくなっている。従って、第1ワイパー11は、吐出面H1101に対して、稜線部のみでなく、ある程度広がった範囲で面接触に近い状態で当接している。このため、第1ワイパー11の摺接によって、吐出面H1101上の付着物(濡れインク)を除去することはほとんどできないが、吐出面H1101上で濡れインクを広げつつ、ほぼ均一厚さの皮膜状にならすことができる。
【0051】
更にワイピングユニット10の動作が進行していくと、図5に示すように、第1ワイパー11に続いて第2ワイパー12が追随して吐出面H1101を摺接するようになる。ここで、第2ワイパー12の自由長は第1ワイパー11の自由長よりも短い寸法に選定されている。このため、第2ワイパー12は、吐出面H1101に対して、主として先端の稜線部で接触することになり、濡れインクを拭き取り除去するのに有効な角度で当接することになる。このときの当接角度θ2は、上記θ1よりも大きく、本実施形態では約45度である。
【0052】
一方、第2ワイパー12が進入してくる部分の濡れインクは、先行した第1ワイパー11の摺接によって吐出面H1101上で広げられてほぼ均一な厚さにならされているため、当接角度が大きい第2ワイパー12によって効率よく拭き取り除去することができ、第2ワイパー12が通過したあとの吐出面H1101は清浄な面になっている。このようなワイピング動作を進行させながらワイピングユニット10が更に矢印A方向に移動していくと、図6に示すように、第1ワイパー11は吐出面H1101上から抜け出し、第2ワイパー12も該吐出面の大部分を摺接し終えた状態となる。そして、第2ワイパー12による吐出面H1101上の濡れインクの払拭が終了したところで、吐出面全体が清浄な面となる。
【0053】
以上説明した実施形態によれば、記録ヘッドH1001の吐出面H1101に順次摺接する複数のゴム状弾性体のワイパー11、12を使用し、最初に摺接するワイパー11の該吐出面に対する当接角θ1が他のワイパー12の該吐出面に対する当接角θ2より小さいように構成するので、記録ヘッドの吐出面におけるインク濡れが進行していった場合でも、濡れインクを効率よく拭き取り除去することができ、安定した良好なインク吐出が可能になるワイピング装置及びインクジェット記録装置が提供される。
【0054】
図7は本発明によるワイピング装置の第2の実施形態におけるワイピングユニットを示す側面図である。本実施形態では、基台13上に固定部材14、15を介して固定される複数(2個)のワイパー11、16のうち、後続のワイパー(第2ワイパー)16の吐出面H1101と摺接する先端部分16aが尖塔状に形成されている。つまり、本実施形態は、前述の第1の実施形態の第2ワイパー12に代えて、先端摺接部分16aを尖塔状(又は槍先状)にした第2ワイパー16を使用するものであり、この点で第1の実施形態と相違するが、その他の点では実質的に同じ構成をしており、それぞれ対応する部分を同一符号で示し、それらの詳細説明は省略する。
【0055】
このような第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の作用効果に加え、各ワイパー11、16の基台13に対する取り付け時における公差や、吐出面H1101とワイピングユニット10との相対位置の公差などによって発生することがある、第2ワイパー16の吐出面H1101に対する当接角のばらつきに起因する摺接の不安定性を抑えることができるという作用効果が得られる。つまり、本実施形態の構成によれば、第2ワイパー16の当接角にある程度のばらつきがあっても、常に第2ワイパー16の先端部16aで吐出面H1101を摺接することが可能となるため、常に第2ワイパー16の先端の稜線を利用して濡れインクを除去することが可能となる。これによって、一層確実な濡れインクの払拭が可能になる。
【0056】
図8は本発明によるワイピング装置の第3の実施形態におけるワイピングユニットを示す側面図である。本実施形態におけるワイピングユニット10は、第1の実施形態におけるワイパー11、12の材質と同じポリエーテルウレタンを用いて第1ワイパー17aと第2ワイパー17bを一体成形したワイパーユニット17を作製し、このワイパーユニット17を台座18に固着(又は結合)したものである。ここで、ワイパーユニット17と台座18との間の結合(又は固着)は、接着やビス締結などの周知の固定手段で行うことができる。ただし、ワイパーユニット17がポリエーテルウレタンで形成されていることから、吐出面H1101を摺接する際の摩擦抵抗力による変形が生じないようにする必要があり、そのため、台座18は剛性が高い材料、例えばポリアセタールやポリカーボネート等で形成することが好ましい。
【0057】
本実施形態に係るワイピング装置は、以上説明した点で前述の第1の実施形態と相違するが、その他の点では実質的に同じ構成をしている。そして、本実施形態によれば、前述の第1の実施形態と同様の作用効果に加えて、ワイパーを台座に取り付ける際の取り付けのばらつきから発生し得るワイパーの自由長の変動を抑えることができるという作用効果が得られる。
【0058】
なお、以上の実施形態では、ゴム状弾性体からなる2個のブレード状のワイパーを使用し、各ワイパーの硬度及び肉厚(板厚)が同じである場合を説明したが、本発明はその他の種々な態様で実施できるものであり、それらも本発明の範囲内に含まれるものである。例えば、第1ワイパー11の硬度(ゴム硬度)を第2ワイパー12、16の硬度よりも低く選定することにより、第1ワイパー11の摺接時における当接角をさらに小さく(低く)することができる。それによって、吐出面H1101における濡れインクを一層均一な皮膜層にすることができる。図1の構成を例と採った場合、具体的には、第1ワイパー11の硬度を約60度に選定するとともに、第2ワイパー12の硬度を約80度に選定することができる。
【0059】
ただし、ワイパーの硬度が低くなった場合、該ワイパーの当接力(圧接力)が低くなることもあり得るが、その場合にはワイパーの自由長や厚さを適宜選定することによって調整すればよい。更に、ワイパーの硬度を変更することは第2ワイパーの硬度が相対的に高くなることであり、ワイパーの硬度変更によって第2ワイパーの摺接時のたわみ量を抑える点とたわみの変動を抑える点で更なる効果を生み出すこともできる。
【0060】
以上の実施形態では、2枚(2個)のワイパーを用いる場合を例に挙げて説明したが、本発明はこの枚数に限定されるものではなく、前記第1ワイパー又は前記第2ワイパーに相当するワイパーを複数枚で構成したり、前記第1及び第2ワイパーの両方を複数枚で構成したりしても良く、本発明はこのような構成も含むものである。このような構成を採ることにより、第1ワイパーによる吐出面1101上の濡れインクの均一な皮膜化を一層確実なものにすることができ、第2ワイパーによる濡れインクの拭き取り除去を一層確実なものにすることができる。特に、インクの中に使用される低酸価の物質の選択によっては濡れインクの堆積がより進行しやすい場合があり、このような構成はその際に有効なものである。
【0061】
また、本発明は、吐出面H1101を撥水性にするための処理の有無や方法についても、特に限定されるものではない。吐出面H1101が撥水性又は親水性のいずれであっても、該吐出面における濡れインクの付着は起こり得る。しかし、ワイパーを用いて濡れインクを払拭する点では、濡れインクと吐出面H1101との間の接触箇所がなるべく少ないほうが効果的であるので、吐出面H1101に撥水性が付与されている(すなわち、吐出面H1101は撥水性を有する)方が好ましい。
【0062】
以上のような本発明を完成する過程では次のような技術事項が確認された。まず、色材としての顔料と200以下の酸価を示す高分子物質を用いて顔料を分散させたインクを記録ヘッドから吐出させ、該インクの吐出に伴って発生する吐出面上の「濡れ」を引き起こすインクの付着状態を観察すると、以下に説明するような技術事項が確認された。なお、ここで用いる高分子物質では親水基及び疎水基のバランスが重要である。代表的なものとしては、ポリアクリル酸・ポリスチレンの共重合体を挙げることができ、また、酸価の定義から、その中でもカルボキシル基が多いほど酸価が高くなる。
【0063】
次に、本発明を完成する過程では確認された技術事項について具体的に説明する。吐出面上のインク付着は微小液滴状態で吐出口近傍を含めた広い範囲において発生し、更にインク吐出の継続によりインク付着(濡れインク)が増大していく。これと共に、吐出面上の付着インク中の揮発分の蒸発も起こっていくため、付着インクは次第に粘度を増していき、更には高分子物質成分の析出も起こってくる。このような状態となっていく間に、更に別のインク滴が吐出面に付着していき、その中でも近接した位置に付着したものはこのように粘度上昇したり析出した部分と合体していく。しかし、この合体に際しては、高分子物質の酸価が低い場合には、すでに析出した高分子物質は後から付着するインク滴によっては容易に再溶解しないため、粘度上昇成分及び析出物が堆積していくことになる。
【0064】
もともとインク滴の付着には規則性がないので、これらのインク滴付着は吐出面上でばらつき、その箇所によって付着インクの量に差が生じたり、堆積したインク成分の厚さも異なってくる。この状態で第1ワイパーによって当接角を図4中のθ1のように小さく(低く)して吐出面の摺接を行うと、一部の付着インクは除去されることもあるが、ほとんどの付着インクは除去されずに吐出面上に残る。しかし、この第1ワイパーの摺接によって、付着インクはほぼ均一な厚さにならされ、それに伴って吐出面上の広範囲に広がっていく。このような現象は、第1ワイパーの吐出面に対する接触が稜線による線接触ではなく、面接触に近い状態で行われることに起因する。
【0065】
つまり、ワイパーの当接角が図4中のθ1のように小さいということは、吐出面との接触時にワイパーの稜線を明確に現出させることが難しく、稜線による線接触に比べて吐出面とワイパーとの接触領域が多くなること(面接触に近くなること)でもある。従って、摺接時のワイパーの揺動は発生しにくく、該ワイパーでならされたインクは全体がほぼ均一な厚さの層となって広範囲に広がり、更に全インク滴が交じり合うため部分的な粘性(硬さ)の差異も消失されていく。
【0066】
続いて、第1ワイパーよりも接触角が高い第2ワイパー(図5中の当接角度θ2)を吐出面に摺接させていくと、この第2ワイパーと吐出面との接触は線接触となるため、先の第1ワイパーでほぼ均一な厚さにならされた濡れインクは容易に除去されていく。ここで、第1ワイパーが通過した後の時間で濡れインク中の揮発分が更に蒸発することも考えられるが、この時間は非常に短いため、ここでのインクの変質は無視し得る。また、付着インク(濡れインク)を全体的に一旦ほぼ均一な層状態にならしているため、場所によって付着インクの状態に差が生じることもほとんどない。以上の構成及び作用によって、吐出面上の付着インクを確実に払拭除去することが可能となる。
【0067】
なお、これらの中で吐出面に対する第1ワイパー又は他のワイパーの当接角については、次のように選定することが好ましい。まず、第1ワイパーの当接角度は、面接触に近い摺接を実現するのに適切な当接角である約30度以下に選定することが好ましく、より好ましい当接角は約0度乃至約25度である。ワイパーに用いる材料の弾性率や硬度、更にはワイパーの厚さや自由長等の形状を考慮して各種検討を行ったところ、第1ワイパーの当接角が約30度を超えると、該ワイパーの稜線による接触の影響が大きくなり、面接触或いはそれに近い状態は得られなくなる。各種の材質及び形態のゴム状弾性体のワイパーについて、付着インクをほぼ均一にならす効果を生み出すために適切な当接角を実験的に求めたところ、約0度乃至約25度の範囲の当接角が好適であることが確認された。なお、十分又は理想的な面接触にする場合の当接角は約0度である。
【0068】
一方、第1ワイパーのあとに続いて線接触の当接を行わせる第2ワイパーの好適な当接角度については、上記と同様の攻究の結果、吐出面に対して約25度乃至約60度の当接角が好ましく、さらには、約30度乃至は約50度の範囲の当接角がより好ましいことが確認された。なお、第2ワイパーの当接角が約60度を超えた場合には、ワイピング動作時に稜線による線接触が不十分になることがあって揺動することがあり、そのため、第1ワイパーでならしたあとの付着インクの払拭除去が不十分になることがあった。
【0069】
以上説明したように、前述の実施形態によれば、色材としての顔料と酸価が200以下の高分子物質を含有するインクを吐出口から吐出するに当たっては、吐出面における濡れが進行している場合でも、適切なワイピングを施すことによって常に安定したインク吐出を維持することができ、安定した良好な画像記録を行うことができる。すなわち、本発明によれば、染料を色材としたインクでは発生し得なかった吐出面上での濡れを引き起こし、従来技術では該吐出面上の濡れを除去できないような、顔料を色材としたインクを使用する場合でも、吐出面上の撥水剤層の変更やワイピングの際の当接力向上を必要とせずに、該吐出面上の濡れを効率よく除去することが可能となる。
【0070】
また、前述の実施形態によれば、第1ワイパーの作用により濡れインクを吐出面上で均一な厚さに広範囲に広げていくことができるため、その後にワイパー(第2ワイパー等)で吐出面を摺接する際にも、該ワイパーと該吐出面がインク付着(インク層)の無い箇所で接触することはない。そのため、本発明はワイパーの磨耗防止の点でも有効である。このことは、インクの設計自由度を高くなる点、並びに画像の信頼性が向上する点で有効であり、更にはインクジェット記録装置のシステムの安定性向上の点でも有効である。
【0071】
なお、以上の実施形態では、記録媒体に対して移動可能なキャリッジに搭載した記録ヘッドを用いるシリアルタイプのインクジェット記録装置を例に挙げて説明したが、本発明は、副走査のみで記録するラインタイプのインクジェット記録装置など、他の記録方式のインクジェット記録装置に対しても同様に適用可能なものであり、同様の作用効果を奏するものである。また、本発明は、インクジェット記録装置であれば、1個の記録ヘッドを用いる装置、異なる色のインクを用いる複数の記録ヘッドを用いる装置、あるいは同一色彩で異なる濃度のインクを用いる複数の記録ヘッドを用いる装置、さらには、これらを組み合わせた装置の場合にも、同様に適用することができ、同様の効果を達成し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明によるワイピング装置の第1の実施形態におけるワイピングユニットを示す側面図である。
【図2】図1のワイピングユニットにおけるワイパーの取付け構造を分解して示す斜視図である。
【図3】記録ヘッドの吐出面上の濡れの状態を模式的に例示する図であり、(a)は飛散したインクが吐出面に付着して濡れた状態を吐出面上から見た模式的正面図であり、(b)は(a)に示す吐出面の状態を側方から見た模式的側面図であり、(c)は(a)に示す吐出面を従来のワイピング装置で拭き取り清掃した後の状態を示す模式的正面図である。
【図4】ワイピングユニットを移動させることで第1ワイパーが吐出面に摺接し始めたときの状態を示し、(a)は吐出面の模式的正面図であり、(b)はワイピングユニット及び記録ヘッドの模式的側面図である。
【図5】図4の状態からワイピングユニットを更に移動させることで第1ワイパーに続いて第2ワイパーが吐出面に摺接し始めたときの状態を示し、(a)は吐出面の模式的正面図であり、(b)はワイピングユニット及び記録ヘッドの模式的側面図である。
【図6】図5の状態からワイピングユニットを更に移動させることで第1ワイパーが吐出面から抜け出したときの状態を示し、(a)は吐出面の模式的正面図であり、(b)はワイピングユニット及び記録ヘッドの模式的側面図である。
【図7】本発明によるワイピング装置の第2の実施形態におけるワイピングユニットを示す側面図である。
【図8】本発明によるワイピング装置の第3の実施形態におけるワイピングユニットを示す側面図である。
【図9】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の外観を示す斜視図である。
【図10】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の内部構成を示す斜視図である。
【図11】図10中のキャリッジに搭載される記録手段(ヘッドカートリッジ)の斜視図である。
【図12】図11の記録手段を記録ヘッドとインクタンクに分解した状態を示す斜視図である。
【図13】図12中の記録ヘッドを部品ごとに分解して下方から見た分解斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
10 ワイピングユニット
11、17a 第1ワイパー
12、16、17b 第2ワイパー
13 基台
14、15 固定部材
16a 先端部分
17 ワイパーユニット
18 台座
M1000 装置本体
M1001 下ケース
M1002 上ケース
M1003 アクセスカバー
M3022 給紙部
M3029 搬送部
M3030 排出部
M4001 キャリッジ
M4021 キャリッジ軸
M5000 回復部
H1000 記録手段(ヘッドカートリッジ)
H1001 記録ヘッド H1100T 吐出口
H1101 吐出面
H1900 インクタンク
E0018 電源キー
A ワイピング方向
θ1、θ2 当接角度
【出願人】 【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
【住所又は居所】東京都大田区下丸子3丁目30番2号
【出願日】 平成17年5月9日(2005.5.9)
【代理人】 【識別番号】100078846
【弁理士】
【氏名又は名称】大音 康毅

【識別番号】100087583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 増顕

【公開番号】 特開2006−312261(P2006−312261A)
【公開日】 平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願番号】 特願2005−135581(P2005−135581)