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【発明の名称】 回転工具
【発明者】 【氏名】大久保 勇

【要約】 【課題】ドリル、エンドミル、軸付砥石等の回転工具において、刃部の突き出し長さが長い場合(突き出し長さ/刃の径が7以上程度)や被加工物のワーク剛性が低い場合に於いて、加工条件を落したり複数回の加工をせずに所望の表面粗さが得られる回転工具の供給を可能にする。

【解決手段】シャンク部と刃部あるいはシャンク部と把持部を別々の材料とし、これらの接合部において各々の中心をわずかにずらして(偏心させて)接合し、これらがために加工時に自励振動が起こり振動切削や振動研削が自然に行われ、表面粗さの小さい加工物がえられるようにした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル、エンドミル、軸付砥石等に代表される回転工具で、機械に取り付けられるシャンクの部分と、直接被加工物に触れて被加工物を加工する刃の部分あるいはこの刃の部分を保持する把持部分が別々の材料で作られていて、この二つの部分が接合されている箇所において相互の材料の中心が若干ずれた状態にして接合部に重量のアンバランスを持たせたことを特徴とする回転工具。
【請求項2】
ドリル、エンドミル、軸付砥石等に代表される回転工具で、機械に取り付けられるシャンクの部分と、直接被加工物に触れて被加工物を加工する刃の部分あるいはこの刃の部分を保持する把持部分が別々の材料で作られていて、この二つの部分が接合されている箇所において相互の材料の中心が若干ずれた状態にして接合部に重量のアンバランスを持たせた物で、接合されるさいに刃部または刃部を把持する把持部とシャンクのどちらかににあけられた穴の底に若干の空隙を持たせて接合されたことを特徴とする請求項1に記載の回転工具。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル、エンドミル、軸付砥石等に代表される回転工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、ドリル、エンドミル、軸付砥石等に代表される回転工具は小径のものにあってはソリッド(シャンクから刃部までの全体が単一の材料から作られているもの)の製品が多く、次いでシャンクと刃部は別々に作られ、この双方を焼ばめあるいは接着などで接合している製品が多い。大径のものにあっては溶接、ロー付けなどの接合法で作られているものが多い。
【0003】
現在作られている回転工具では、シャンクから突き出た刃部あるいは刃部を含む把持部が長い場合や被加工物が羽根のように薄い場合には、一般的にビビリ現象という状態になって高精度に加工できなかったり、表面の粗さが低下してしまい加工条件を落としたりして複数回加工しないと所望の物が得られないことがしばしばである。それは、ソリッドで作られた回転工具であっても接合で作られた回転工具であっても同様であり、現在上記の問題は解決できないでいる。
【0004】
これらの問題を解決するために、回転工具に超音波振動を加える切削装置や研削装置が提案されているが、装置が高価である、あるいは刃部に有効に振動が発生しないなどの問題が残っている。
【非特許文献1】砥粒加工学会誌 Vol.47 No.10 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在作られている回転工具ではシャンクから突き出た刃部あるいは刃部を含む把持部が長い場合や被加工物が羽根のように薄い場合には一般的にビビリ現象という状態になって高精度に加工できなかったり表面の粗さが低下してしまい加工条件を落としたり複数回加工しないと所望の物が得られないことがしばしばである。ソリッドであっても接合であっても現行上記の課題は解決できないでいる。
以上のような状況に鑑みシャンクから突き出た刃部あるいは刃部を含む把持部が長い場合や被加工物が羽根のように薄い場合においても加工条件を落としたりすることなく又精度や表面粗さを低下させることのない回転工具を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
シャンクと刃部又は刃部を把持する把持部の接合部を偏心させて作り、この偏心により重量のアンバランスを生み出し自励振動を起こす。この自励振動により刃部において振動切削あるいは振動研削状態にして上記の課題を解決するものである。振動切削、振動研削が有効なことはすでによく知られていることであるが外部から工具の刃先に有効な振動を起こす良い加振装置はなく本発明のように工具自身が特別な力を借りることなく自発的に振動を起こし振動切削、振動研削が出来ることは課題解決にとって極めて有効な手段と言える。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、シャンクと刃部又は刃部を保持する把持部の接合部を偏心させて作り、この偏心により重量のアンバランスを生み出し、回転工具が回転した時に自励振動を起こすというものである。この自励振動により刃部において振動切削あるいは振動研削状態にして,非常に小さい表面粗さの製品をうることが出来る。振動切削、振動研削が有効なことはすでによく知られていることであるが、外部から工具の刃先に有効な振動を起こす良い加振装置は少なく、本発明のように工具自身が特別な力を借りることなく自発的に振動を起こし、精度の高い振動切削・振動研削が出来るということが最大の利点である。
【0008】
それでは現行の接合品(接着、焼ばめ、ロー付け、溶接等によるもの)では、同じように自励振動がなぜ起きないかというと、回転工具の場合シャンク部と刃部の中心が一致それも出来るだけ高い精度で一致させることが重要と考えられて、ひたすらそれを追求実施してきたためである。わざわざ偏心させて接合することなど、誰も少しも考えなかったわけである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
刃部に振動を発生させるという目的を、外部の加振装置を必要とせずに、簡単・安価に実現した。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明回転工具の1実施例の正面から見た断面図及び側面図である。1のハッチング部分はシャンク部分である。2のハッチング部分は刃の部材部分であり、シャンクに挿入された部分と、先端の刃に加工された部分からなっている。3はシャンクの中心線であり、先端の刃の中心線でもある。4はシャンクに刃部材が挿入された部分の中心線を表している。これでシャンクの中心とシャンクに埋め込まれた刃部材の中心はずれており、偏心している事が分かる。シャンクに偏心させて刃の部分になる材料を挿入し、シャンクの接合部に塑性加工を施して両者を強固に固定する。この後、刃を構成する部分を、シャンクの中心に合わせて切削や研削で削り出し、エンドミルやドリルを形成する。または、円柱に研削した後、砥石材料をこの部分に形成しても良い。通常刃はシャンクの外形を基準に作られており従ってシャンクの中心と刃の中心は極めて高い精度で一致している。しかし、シャンクとシャンクの穴部に挿入された刃部材の接合においては各々の中心は一致していない(偏心している)ので出来上がったものは図のようなものになる。図をみてわかる通り接合部においてのみ工具の回転中心に対し重量のバランスが崩れている。この重量バランスが崩れているがために回転に伴って振動が自発的に起きる、すなわち自励振動を起こす回転工具となる。5はシャンク部の外径であり、6はシャンク部の穴に刃の部材を挿入したときの外径であり、7は刃の部材から刃の部分を削りだした時の刃の外径である。シャンク部から突き出した刃部の根元の部分は直角に表現しているが、シャンク部側に削り込み、加工する際の切り屑が逃げやすくなるように傾斜を設けていてももちろんかまわない。通常こうした回転工具に取られるどんな形状であっても本発明の効果を妨げる物ではない。
【0011】
図1において、例えばシャンク材料は合金鋼(SCM435)で、刃部材料は超硬で作り、それぞれを図のように偏心させて塑性加工で接合した。シャンク材料は、熱処理により硬度はHRc40とした。超硬は焼き上がりのままのいわゆる研磨されていない黒皮材を用いた。塑性加工による接合後にシャンクをφ6に研磨し、その後シャンクを基準に刃部材を研磨にて刃先の先端形状が半球状(R1)のボールエンドミルとなるように仕上げた。さらに刃先にはコーティング処理を施した。比較検討するために超硬のソリッド(シャンクから刃先まで超硬の一体品)で同一形状同一寸法のものを作り同じコーティングを施した。
【0012】
そして、次のような条件で本発明によるものと現行の超硬ソリッドによるものとの比較加工テストを実施した。
被加工材:プレハードン鋼(硬度HRc45)
切削速度:90m/min
1回転1刃当たりの送り量:0.06mm
切り込み量:半径方向軸方向共に0.1mm
冷却方法:エアーブロー(切削油不使用の乾式加工)
機械:高速マシニングセンター
加工形状:予め粗加工された縦3mm横4mm深さ6mmの穴を上記の条件で仕上げた。
加工時間:3時間
除去体積:3立方センチメートル
【0013】
テストの結果、寸法精度に差は全く見られなかった。刃の欠損、磨耗等も20倍に拡大して目でみた限りでは差はほとんど認められなかった。しかしながら加工されたワークの表面粗さに大きな差が現れ、その結果を表1に示すが,本発明の効果が現れていることを如実に示している。刃部の突き出し長さ(シャンクから刃先端までの長さ)が大きくなると、常識的に条件が悪くなってその結果、特に表面粗さが悪くなることは良く知られている。今回のテスト結果でも現行品は突き出し長さが2.25倍になったら表面粗さは1.43倍に悪くなっている。然るに本発明品ではその表面粗さが全く変わっていない。超硬に比べ剛性が半分程度と低い合金鋼のシャンク材でこのような結果が出るのはこの道の技術者にとって信じがたいことであるが、これこそが本発明品の効果である。
【表1】


【実施例2】
【0014】
図2は、本発明の請求項2を説明する1実施例であって、正面から見た断面図と側面図である。これは、接合部でシャンクと刃部材の間に若干の空隙がある回転工具の一例である。図1と比べてみたとき空隙があるかないかの差だけで、あとは完全に同じである。ここに空隙部があると、シャンク部のここの強度が下がるので、図1のものに比べて振動しやすくなりわずかなアンバランスでも自励振動が起きやすくなるという特徴を持っている。図中1〜7は図1と同様である。8はシャンクの刃部材挿入部の底に設けた空隙部である。
【0015】
図2において、例えばシャンク材料は工具鋼(SKD61)、刃部材料は超硬で作り、それぞれを偏心させて空隙部を持たせて塑性加工で接合した。シャンク材料は熱処理により硬度はHRc45とした。超硬は研磨をして寸法を揃えたものを用いた。塑性加工による接合後にシャンクをφ6に研磨し、その後シャンクを基準に刃部材を研磨にて刃先の先端形状が半球状(R1)のボールエンドミルとなるように仕上げた。さらに刃先にはコーティング処理を施した。比較検討するために超硬のソリッド(シャンクから刃先まで超硬の一体品)で同一形状同一寸法のものを作り同じコーティングを施した。
【0016】
そして、次のような条件で本発明によるものと現行の超硬ソリッドによるものとの比較加工テストを実施した。
被加工材:SKD61(硬度HRc50)
切削速度:46m/min
1回転1刃当たりの送り量:0.03mm
切り込み量:径方向0.05mm軸方向0.02mm
冷却方法:Wet
機械:高速マシニングセンター
加工形状:予め粗加工された厚さ1mm幅30mm高さ20mmの薄い板上の側面(30×20の面)を上記の条件で仕上げ加工をした。
【0017】
テスト加工の結果、寸法精度、削り残し量についてまったく差は見られなかった。また刃の欠損、磨耗についても差は見られなかった。しかしながら加工されたワークの表面粗さに大きく差が現れ、その結果を表2に示すが,本発明の効果が如実に示されている。シャンクと刃部材または把持部の間の空隙の作り方は色々な方法が考えられるが、要はこの部分に空間があり、一部の強度が下がり振動が発生しやすくなればどのような方法でもその効果は同じである。表2は十点平均粗さ(Rz)と最大高さ(Ry)の2種類の粗さ表示法で測定したデータ-であるがいずれも発明品の方が現行ソリッドの約1/2の粗さと断然良い。
【表2】


【実施例3】
【0018】
図3は、本発明の別の形態の1実施例の正面から見た断面図と側面図である。シャンクと刃部材の間に刃部材を保持する部分(把持部)があってこれがシャンクと接合されているものである。この場合はシャンクと刃部は直接接合されておらず中間に把持部と称する刃部材を保持する部材がシャンクと接合されている。刃を把持部に固定する方法としては、把持部を加熱して熱膨張により穴径を広げそこへ刃部材を挿入し冷却して刃部材をしっかりと把持するもの(取り外すときは接合時と同様に加熱して穴を広げ刃部材を抜き取る)、いわゆる焼きばめによる方法、刃部材を直接把持部の先端にロー付けやねじで固定する方法、あるいは溶接による方法であっても良い。図1から3は全て、シャンク側に穴をあけた例で示したが、刃または把持部側に穴をあけてもその効果は同様である。例えば、シャンクに剛性の高い超硬材料を用いる場合は、把持部材料に合金鋼や工具鋼を用い、把持部側に穴をあける。この時もちろんシャンク材と把持部材は図のように偏心させておく。そして、シャンクと把持部材を塑性加工により接合する。このあと、刃部材を把持部に上記した色々な方法で取り付けることが可能である。図中1〜7は図1と同様である。9はシャンク部と刃部材の間に設けた刃の把持部である。
【0019】
図4に、従来例の回転工具を示す。シャンク材料と刃部材料が同一の、いわゆるソリッドの例で示している。一体で作られているから、当然の事ながらシャンク部と刃材部の中心は完全に一致している。従って、研削や研磨加工の際に刃物自体が自励振動するようなことはない。図中1、3、5、7は図1と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0020】
超硬ソリッドで作った回転工具は、超硬に高価なタングステンやコバルトなどの材料を用いるので材料費コストが上昇する。しかし本発明品の場合には、シャンク部材には比較的安価な合金鋼や工具鋼を用いるので、高価な超硬材の使用量が概ね1/5以下になり、材料費を下げた回転工具を提供できる。また、その接合には塑性加工による接合法を用いるので、 現行のロー付け、焼ばめ、接着等による接合方法では接合部のメス、オスの精度を極めて高精度にあげる必要があるのに対し塑性加工による接合ではその1/10程度でよくロー材や接着剤等の消耗品を使わず、焼ばめのように加熱の必要もないので製造コストを下げることが出来る。
【0021】
また本発明では、従来の回転工具では決して起こらない自励振動による振動切削や振動研削が起こり、特に厳しい加工条件下において従来の回転工具では得られない表面粗さが得られる。このことは粗さを現行と同じ程度にするならば送り速度を相当あげることが出来、高能率な加工が出来ることを意味する。これらを安価に提供できるようになるので、最近ますます高精度が要求される金型加工や自動車部品加工などに広く使われる可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】シャンク部と刃部材とが偏心して接合された説明図である。(実施例1)
【図2】シャンク部の、刃部装入部の穴の底に空隙部を設けた場合の説明図である。(実施例2)
【図3】シャンク部と刃部との間に、刃部を保持する把持部を設けた場合の説明図である。(実施例3)
【図4】従来例のソリッドタイプの説明図である。
【符号の説明】
【0023】
1 シャンク部材
2 刃部材
3 シャンク及び刃の中心線
4 シャンク部材に刃部材が挿入されたときの刃部材の中心線又はシャンク材が把持部材に挿入された時の偏心した接合部の中心線
5 シャンク部材の外径
6 シャンク部材に刃部材が挿入されたときの、刃部材の外形又はシャンク部材が把持部材に挿入されたときの偏心した接合部の外径
7 シャンク部材に刃部材が挿入された後、刃部材から刃の部分を形成した時の刃の外径
8 シャンク部材に刃部材が挿入されたとき、刃部材挿入の穴の底に設けられた空隙部
9 シャンク部と刃部材の間に設けられた、刃を保持するための把持部
【出願人】 【識別番号】593130717
【氏名又は名称】大久保 勇
【出願日】 平成17年5月6日(2005.5.6)
【代理人】
【公開番号】 特開2006−312205(P2006−312205A)
【公開日】 平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願番号】 特願2005−135103(P2005−135103)