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【発明の名称】 生体組織補填材および生体組織補填体
【発明者】 【氏名】袴塚 康治

【氏名】田村 知明

【氏名】土屋 利江

【氏名】伊佐間 和郎

【要約】 【課題】骨芽細胞の活性を促進し、細胞外基質を多く産生させて細胞の増殖および/または分化を促進する。

【解決手段】ニオブまたはタンタルの少なくともいずれかを含有する生体親和性の材料からなる生体組織補填材を提供する。これらの金属塩は、高い濃度においても毒性を示すことなく、骨芽細胞を活性化させて、細胞外基質の産生量を増大させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブまたはタンタルの少なくともいずれかを含有する生体親和性の材料からなる生体組織補填材。
【請求項2】
リン酸カルシウム多孔体からなる請求項1に記載の生体組織補填材。
【請求項3】
バイオガラスの表面にニオブまたはタンタルがコーティングされている請求項1に記載の生体組織補填材。
【請求項4】
生体高分子からなる請求項1に記載の生体組織補填材。
【請求項5】
ニオブまたはタンタルの濃度が、10ー5(mol/l)より大きく10ー3(mol/l)以下である請求項1から請求項4のいずれかに記載の生体組織補填材。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の生体組織補填材に細胞を播種してなる生体組織補填体。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は、生体組織補填材および生体組織補填体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、骨腫瘍摘出や外傷等により生じた骨の欠損部に、骨補填材を補填することにより、骨を再生させて欠損部を修復することが可能になってきている。骨補填材としては、ハイドロキシアパタイト(HAP)やリン酸三カルシウム(TCP)が知られているが、体内に異物を残さないとする考え方から、例えば、β−TCPのようなリン酸カルシウム多孔体からなる足場材が使用される。β−TCPを骨欠損部の骨細胞に接触させておくと、破骨細胞がβ−TCPを吸収し、骨芽細胞が新しい骨を形成する、いわゆるリモデリングが行われる。すなわち、骨欠損部に補填された骨補填材は、経時的に自家骨に置換されていくことになる(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
一方、リン酸カルシウム多孔体への細胞や組織の初期接着性を向上するために、リン酸カルシウム多孔体の表面にコラーゲンのような高分子を配置する技術が知られている。そして、コラーゲン等の高分子をリン酸カルシウム多孔体の表面に安定的に結合させる結合材として、亜鉛等の金属イオンを化学修飾することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、金属系医用材料としてステンレス鋼、コバルト・クロム合金、チタン合金などが人工骨、人工関節、骨固定材などの埋植医療用具に使用されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【非特許文献1】植村他2名,「生分解性β−TCP多孔材料を用いた骨におけるティッシュエンジニアリング−生体内で強度を増す新しい材料オスフェリオン−」,メディカル朝日,朝日新聞社,2001年10月1日,第30巻,第10号,p.46−49
【非特許文献2】伊佐間和郎、土屋利江、「金属塩の正常ヒト骨芽細胞の増殖及び分化に及ぼす影響」、第23回日本バイオマテリアル学会大会予稿集、p190
【特許文献1】特開2001ー198208号公報([0018]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および非特許文献2に示されるように、亜鉛を初めとする多くの金属イオンを含有する生体組織補填材および金属からなる埋植医療用具は存在する。
しかしながら、特許文献1に示されている亜鉛を初めとする多くの金属イオンは毒性を有し、その濃度が高くなると、細胞の増殖を阻害する要因となるという不都合がある。このため、毒性が高くならないように非常に低い濃度範囲で使用することが想定されている。
また、非特許文献2は、毒性が低く細胞の増殖を阻害しない金属塩を開示しているが、あくまでも、細胞の増殖を阻害しない人工骨、人工関節、骨固定材など金属製の埋植医療用具を開示するものに過ぎず、積極的に細胞の増殖を促進して生体組織の再生を図る生体組織補填材に何ら言及するものではない。
【0006】
この発明は、骨芽細胞の活性を促進し、細胞外基質を多く産生させて細胞の増殖および/または分化を促進することができる生体組織補填材および生体組織補填体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、ニオブまたはタンタルの少なくともいずれかを含有する生体親和性の材料からなる生体組織補填材を提供する。
出願人は、ニオブおよびタンタルが、いずれも、細胞の増殖を阻害しないばかりか、骨芽細胞の活性を促進し、細胞外基質の産生量を増加させる機能を有するという知見を得た。
そこで、これを利用したこの発明によれば、生体組織補填材を生体組織の欠損部に補填することにより、周囲に配されている骨芽細胞が活性化されて細胞外基質が多く産生されるので、欠損部を迅速に修復することができる。
【0008】
また、上記発明においては、リン酸カルシウム多孔体にニオブまたはタンタルの少なくともいずれかを含有することにより、特に、骨欠損部に補填されて骨組織の迅速な修復を図ることができる。
【0009】
また、上記発明においては、バイオガラスの表面にニオブまたはタンタルがコーティングされていることとしてもよく、生体高分子にニオブの金属塩またはタンタルの金属塩の少なくとも一方が含有されていることにしてもよい。
【0010】
さらに、上記発明においては、ニオブまたはタンタルの濃度が、10ー5(mol/l)より大きく10ー3(mol/l)以下であることが効果的である。骨芽細胞の分化による細胞外基質の産生量を大幅に増大させることができ、したがって効率的な生体組織欠損部の修復を図ることができる。
また、本発明は上記生体組織補填材に細胞を播種してなる生体組織補填体を提供する。
この発明によれば、播種された細胞を活性化するので、生体への補填前に十分に細胞を活性化させた状態とすることができる。すなわち、細胞に生体組織補填材が吸収される過程で、ニオブまたはタンタルが細胞に取り込まれて、より強い効果が生じている可能性がある。したがって、手術後の生体組織の再生をより迅速に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、骨芽細胞を活性化して細胞外基質の産生量を増大させ、補填された生体組織を迅速に修復することができるという効果を奏する。
したがって、本発明の生体組織補填材は、骨芽細胞の培養基材として用いることにより、骨芽細胞を高い活性状態で培養することができる。また、培養骨の基材として使用することにより、骨芽細胞の活性が高い培養骨を得ることができ、また細胞外基質が豊富な培養骨を得ることができる。さらに、骨補填材として使用することにより、骨芽細胞を活性化させ、欠損部等の迅速な修復を図ることができる。また、骨粗鬆症の治療薬として用いることにより、骨芽細胞を活性化し、細胞外基質による再石灰化効果により骨粗鬆症を治療することが可能となる。また、人工関節等の金属表面にコーティングすることにより、骨との摩擦による移植部分の骨融解を生ずることがなく摩擦部分の骨の再石灰化が期待でき、骨融解による人工関節の交換やコーティング材の再調整を施す期間を延長もしくは不要とする効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る生体組織補填材および生体組織補填体について、以下に説明する。
本実施形態に係る生体組織補填材は、例えば、β−TCP多孔体のようなリン酸カルシウム多孔体に、ニオブの金属塩(例えば、五塩化ニオブ:NbCl)またはタンタルの金属塩(例えば、五塩化タンタル:TaCl)の少なくともいずれかを含有してなるものである。
金属塩の濃度は、10ー5(mol/l)より大きく10ー3(mol/l)以下である。
【0013】
本実施形態に係る生体組織補填材によれば、この生体組織補填材が、例えば、骨組織に形成された腫瘍を掻爬して形成された骨欠損部に充填されることにより、含有されているニオブまたはタンタルの金属塩が、ニオブイオンまたはタンタルイオンとなって周囲の骨芽細胞に作用する。骨芽細胞は、これら金属イオンの作用により活性化され、多量の細胞外基質を産生することになる。その結果、産生された細胞外基質の作用により、骨芽細胞の成長がさらに促進され、分化および増殖が繰り返されることにより、迅速に骨組織が形成されていくことになる。
【0014】
本実施形態における上記作用効果は、出願人が行った以下の評価試験に基づいている。
評価試験の前提は以下の通りである。
本実施例の生体組織補填材は以下の通りに製造した。
【0015】
1. まず、Ca/P比が1.50〜1.68の化学組成範囲に入るように、メカノケミカル法にてリン酸カルシウムを合成し、その後、750℃以上の温度で焼成してリン酸カルシウムの粉末を得た。
2. 次に、上記により製造したリン酸カルシウム粉末に、水、界面活性剤およびTa(OCおよびNb(OCを加えて、攪拌、混合し、発泡した材料を紙製トレイに流し込んで80℃で24時間乾燥させた。
3. その後、1時間に100℃の割合で昇温し、900〜1000℃の温度で30分間焼成した。これにより、ニオブおよびタンタルを含有するリン酸カルシウム多孔体を得た。
【0016】
また、金属塩として、五塩化ニオブ(NbCl)または五塩化タンタル(TaCl)の他に、比較例として、三塩化アルミニウム(AlCl)、二塩化カドミウム(CdCl)、二塩化コバルト(CoCl)、三塩化クロム(CrCl)、二塩化銅(CuCl)、二塩化鉄(FeCl)、三塩化鉄(FeCl)、二塩化マンガン(MnCl)、五塩化モリブデン(MoCl)、二塩化ニッケル(NiCl)、四塩化チタン(TiCl)、三塩化バナジウム(VCl)、二塩化亜鉛(ZnCl)、四塩化ジルコニウム(ZrCl)を用意した。
細胞としては、正常ヒト骨芽細胞NHOst(CC-2538、Clonetics)を用いた。
培地には、β-グリセロリン酸ナトリウムおよび牛胎児血清を含有するα-MEM培地を用いた。
【0017】
細胞培養法は、コラーゲンTypeIコート24ウェルマイクロプレートの各ウェルに、1×10個程度の骨芽細胞を播種し、24時間後に規定濃度の金属塩を含む培地1mlと交換した。以後、同濃度の金属塩を含む培地を週3回の頻度で交換し2週間培養した。
このようにして培養した細胞に対し、以下のようにして、細胞の増殖度および分化度を測定した。
【0018】
増殖度の測定は、20μl/mlの生細胞測定用試薬TetraColor ONE(生化学工業)を含有する培地1mlを各ウェルに加えた。2時間培養した後に、450nm(対照波長600nm)での吸光度を測定した。コントロール群の吸光度を100%として、各実験群の増殖度を求めた。
【0019】
その測定結果を図1に示す。これによれば、五塩化ニオブ(NbCl)および五塩化タンタル(TaCl)は、他の金属塩が、濃度の上昇とともに、骨芽細胞の増殖度を急激に低下させていくのに対し、五塩化タンタル(TaCl)は、濃度10ー5mol/l以上の高い濃度においても増殖度を微減させるのみであり、五塩化ニオブ(NbCl)にあっては、濃度の増加とともに増殖度を増加させていることがわかる。
【0020】
五塩化ニオブ(NbCl)および五塩化タンタル(TaCl)以外の金属塩は、高い毒性を示すため、高濃度になるほど骨芽細胞の増殖度を低下させてしまうが、五塩化ニオブ(NbCl)および五塩化タンタル(TaCl)は毒性が少なくあるいは全くなく、高濃度になっても増殖度をさほど低下させることなく、さらには増殖度を増加させるよう機能していることになる。
【0021】
また、分化度の測定は、0.1N塩酸1mlを各ウェルに加えて15時間室温に放置し、各ウェルの塩酸抽出液を得た。カルシウムC−テストワコー(和光純薬工業)を用いて、塩酸抽出液10μlに0.88Mモノエタノールアミン緩衝液(pH11.0)1mlを加え、次に、0.63mMオルトクレゾールフタレインコンプレクソン、69mM8−キノリノール100μlを加えた。室温で15分間反応させた後に、570nmでの吸光度を測定し、ウェルあたりのカルシウム含量を定量した。コントロール群のカルシウム含量を100%として、各実験群の分化度を求めた。
【0022】
その測定結果を図2に示す。これによれば、五塩化ニオブ(NbCl)および五塩化タンタル(TaCl)は、他の金属塩が、濃度の上昇とともに、骨芽細胞の分化度を低下させていくのに対し、濃度の増加とともに分化度を著しく増加させていることがわかる。
分化度が高ければ高いほど、骨芽細胞が活性化されて細胞外基質を多く産生していることになる。
【0023】
このように、本実施形態に係る生体組織補填材によれば、生体組織欠損部に補填するだけで、周囲の骨芽細胞の活性を著しく増大させ、生体組織の迅速な修復を図ることができるという効果がある。
したがって、骨芽細胞の培養基材として用いることにより、骨芽細胞を高い活性状態で培養することができる。さらに、骨補填材として使用することにより、骨芽細胞を活性化させ、欠損部等の迅速な修復を図ることができる。また、骨粗鬆症の治療薬として用いることにより、骨芽細胞を活性化し、細胞外基質による再石灰化効果により骨粗鬆症を治療することが可能となる。また、人工関節等の金属表面にコーティングすることにより、骨との摩擦による移植部分の骨融解を生ずることがなく摩擦部分の骨の再石灰化が期待でき、骨融解による人工関節の交換やコーティング材の再調整を施す期間を延長もしくは不要とする効果が期待できる。また、骨組織以外の生体組織に適用しても効果的である。
【0024】
また、本実施形態に係る生体組織補填材を基材として間葉系幹細胞を播種して培養することにより、骨芽細胞の活性が高い生体組織補填体を得ることができる。また、このような生体組織補填体によれば、細胞外基質を豊富に含み、生体組織欠損部への移植後の修復をさらに迅速にすることができる。
【0025】
なお、生体組織補填材の基材として、βーTCP多孔体を例示したが、これに代えて、他のリン酸カルシウムや、生体組織に親和性のある材料であれば任意のものでよく、生体吸収性の材料であればさらに好ましい。特に、生体適合性を有する多孔性のセラミックスや、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ヒアルロン酸、またはこれらの組合せを用いてもよい。
【0026】
また、上記生体組織補填材の基材にニオブまたはタンタルを含有させる場合の他、ニオブまたはタンタルを積極的に添加してなる合金材料によっても、生体内に移植した後の効果的な骨形成が期待できる。このような合金材料としては、従来のチタン合金、ステンレス鋼、コバルト・クロム合金等が考えられ、合金製造の際にニオブ塩またはタンタル塩を添加すればよい。その濃度は、例えば、ニオブまたはタンタルが10ー5(mol/l)より大きく10ー3(mol/l)以下であることが効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る生体組織補填材に含まれる金属塩の濃度と骨芽細胞の増殖度との関係を示すグラフである。
【図2】本発明の一実施形態に係る生体組織補填材に含まれる金属塩の濃度と骨芽細胞の分化度との関係を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
【識別番号】501393771
【氏名又は名称】土屋 利江
【識別番号】504306965
【氏名又は名称】伊佐間 和郎
【出願日】 平成16年11月15日(2004.11.15)
【代理人】 【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生

【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴

【公開番号】 特開2006−75581(P2006−75581A)
【公開日】 平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願番号】 特願2004−330417(P2004−330417)