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【発明の名称】 ドライアイおよび/またはドライマウスの治療用組成物
【発明者】 【氏名】坪田 一男

【氏名】齋藤 一郎

【要約】 【課題】ドライアイおよび/またはドライマウスを治療するための組成物を提供する。

【解決手段】クラステリンを産生している細胞を含んでなる治療用組成物をドライアイおよび/またはドライマウスの治療に用いる。クラステリンを産生している細胞は、SP細胞またはクラステリンをコードする遺伝子を導入された細胞を用いることができる。また、有効成分としてクラステリンを含んでなる治療用組成物を酸化ストレスを介して生じる疾患の治療に用いる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラステリンを産生している細胞を含んでなる、ドライアイおよび/またはドライマウスを治療するための治療用組成物。
【請求項2】
クラステリンを産生している前記細胞が、SP細胞である請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項3】
クラステリンを産生している前記細胞が、クラステリンをコードする遺伝子を導入された細胞である請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項4】
クラステリンを産生している前記細胞が、クラステリンをコードする遺伝子を導入された繊維芽細胞である請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項5】
有効成分としてクラステリンを含んでなる、酸化ストレスを介して生じる疾患を治療するための治療用組成物。
【請求項6】
酸化ストレスを介して生じる疾患が、ドライアイおよび/またはドライマウスである治療用組成物。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライアイおよび/またはドライマウスを治療するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の疾患により失われた組織を再生するために、幹細胞による再生医療の応用が検討されている。糖尿病やパーキンソン病などの疾患モデル動物では、胚性幹細胞(Embryonic stem cell:ES細胞)、骨髄細胞、組織幹細胞を用いた組織再生による治療の奏効が報告されており、その臨床応用が期待される。これらの幹細胞を用いた治療法は、難治性疾患を初めとした、治療法が未確立の疾患に対する新たな治療法となり得ると考えられており、多数の疾患への適用が試みられている。
【0003】
眼科領域では、すでに、スティーブン・ジョンソン症候群や角膜化学傷、角膜熱傷などによる角膜障害に対して、角膜幹細胞移植を応用し効果が得られている。スティーブン・ジョンソン症候群では角膜障害と共に涙液分泌障害も認められるため、重篤な乾燥性角膜炎(いわゆるドライアイ)の原因となることが多い。ドライアイは、シェーグレン症候群や頭頸部悪性腫瘍の放射線治療後にもみられ、これらの疾患では唾液分泌障害によるドライマウス(口腔乾燥症)を呈することも知られている。シェーグレン症候群では、ドライアイの症状が持続し、重篤な場合は失明に至る可能性があり、またドライマウス症状を合併することにより、齲食、歯周病、種々の細菌感染症や誤嚥性肺炎に至り、著しいquality of life(QOL)の低下をきたす。従って、その根治療法の確立は、国民のQOLの向上に対する急務である。
【0004】
ドライアイ等の治療には、人工涙液を点眼することによるものが多く、様々な組成の人工涙液が開発されている(例えば、特許文献1などを参照)。近年では血清を用いる方法が注目されつつあり、特にドライアイ患者の症状改善に、優れた効果があることが知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、このような外部から水分を補う治療は、自覚症状を軽減させる対症療法でしかなく、症状を一時的に軽減させるだけに過ぎなかった。
【特許文献1】特許公開2000−159659号公報
【特許文献2】特許公開2002−29977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、重篤なドライアイ及びドライマウスの症状を緩和し、または継続的に抑えるための治療組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、組織幹細胞に富んだ分画として知られるSP細胞(side population cell)を涙腺及び唾液腺に移入することにより、涙液及び唾液分泌量が回復することがわかった。また、涙腺及び唾液腺へのSP細胞移入による効果は、主にSP細胞から分泌されるクラステリン(clusterin)によることを明らかにした。
【0007】
したがって、本発明は、クラステリンを産生している細胞を含んでなる、ドライアイおよび/またはドライマウスを治療するための治療用組成物を提供する。
【0008】
クラステリンを産生している前記細胞は、SP細胞またはクラステリン遺伝子を導入された任意の細胞を用いることができる。クラステリン遺伝子を導入された細胞は、繊維芽細胞を例示できる。
【0009】
さらに、本発明は、有効成分としてクラステリンを含んでなる、酸化ストレスを介して生じる疾患を治療するための治療用組成物を提供する。酸化ストレスを介して生じる疾患の例としては、ドライアイおよびドライマウスが例示できるが、その他、白内障、ガン、膠原病、リウマチなどに加えて、糖尿病や虚血性心疾患、動脈硬化等の生活習慣病、腎不全も含まれる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のドライアイ及びドライマウスの治療用組成物によれば、従来治療が困難であったドライアイ及びドライマウスを効果的に治療することができる。また、クラステリンを有効成分として含む治療用組成物により、酸化ストレスを介して生じる疾患を治療することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の細胞含有治療用組成物により治療可能ないわゆるドライアイは、シンプルドライアイ(涙液減少症)、スティーブン・ジョンソン症候群や角膜化学傷、角膜熱傷などによる角膜障害、眼乾燥症、乏涙症、シェーグレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブン−ジェンソン症候群、眼類天疱胞、眼瞼縁炎、白内障術後や、アレルギー性結膜炎に伴うドライアイ等である。本発明の組成物は、特に重篤なドライアイに対して有効である。また、本発明の細胞含有治療用組成物により治療可能ないわゆるドライマウス(口腔乾燥症)は、スティーブン・ジョンソン症候群、シェーグレン症候群に伴うドライマウスなどが上げられる。その他、糖尿病、腎疾患などの全身疾患、薬の副作用、腫瘍、炎症、老化、中枢や末梢の神経障害、ストレス、頭頸部悪性腫瘍の放射線治療後のドライアイ及びドライマウスにも、本発明の組成物は有効である。
【0012】
本発明の治療用組成物に含まれる細胞は、治療を受ける本人の細胞であっても、治療を受ける本人以外の培養細胞株であっても使用することができる。しかし、非自己の細胞を移植すると拒絶反応により宿主の組織に生着しない可能性が高いため、本人由来の細胞が好ましい。また、用いることのできる細胞は、クラステリンを発現している細胞であればよく、例えば、SP細胞やクラステリン遺伝子を恒常的に発現するよう遺伝子操作した細胞(例えば、線維芽細胞など)や、診断目的で患者より採取した涙腺・唾液腺上皮細胞あるいは口腔粘膜上皮などを用いることができる。
【0013】
クラステリンは、アポリポプロテインJとも呼ばれる抗炎症性の糖タンパク質であるが(Jenne D.E. , Tschopp J. Clusterin: the intriguing guises of a widely expressed glycoprotein. Trends Biochem. Sci. 17: 154−159(1992))、その機能は十分には解明されていない。クラステリンは、遺伝子は公知である(例えば、EMBL Accession No.AY341244、Gene Bank accession No. NM_001831、Gene Bank accession No. NM_203339、Lakins JN, Poon S, Easterbrook-Smith SB, Carver JA, Tenniswood MP, Wilson MR. Evidence that clusterin has discrete chaperone and ligand binding sites. Biochemistry. 41:282−91(2002))。
【0014】
クラステリンをコードする遺伝子を導入された細胞は、クラステリンをコードする遺伝子に適当なプロモーターを連結させた発現ベクターを細胞に遺伝子導入して作成することができる。プロモーターは、涙腺および唾液腺でクラステリン遺伝子を発現させることができる限り、構成的プロモーターであっても誘導的プロモーターであってもよい。例えば、CAG、CMV、RSV、Lama6、amylaseのプロモーターなどを用いることができる。また、用いることのできるベクター は、例えば、pCAGIpuro、pcDNA3.1、PRc/RSV、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクターなどが挙げられる。クラステリン遺伝子を含むベクターの細胞への導入には、公知の方法、例えば、注入、エレクトロポレーション、カルシウムクロライド法、DEAE−デキストラン法、リポフェクション、インフェクションなどを用いることができる。
【0015】
涙腺及び唾液腺への細胞の移入にあたり、例えば、1×103〜1×106個、好ましくは、5×103〜1×104個の細胞を移入することができるが、患者の症状に応じて適宜変更可能である。
【0016】
また、本発明によるドライアイおよび/またはドライマウスの治療用組成物は、有効成分としてクラステリンを0.001mg〜1mg/ml含む。本発明の治療用組成物は、クラステリン以外の組成物、例えば、防腐剤、保存剤、安定剤等を含んでもよく、また、公知の抗酸化作用を有する薬剤を更に含んでも良い。クラステリンを有効成分として含む治療用組成物は、涙腺および唾液腺に局所投与することにより、ドライアイおよびドライマウスの症状を緩和または軽減できる。この治療要素生物の剤型として、軟膏、クリーム、ローション、エアロゾル、スプレー等が挙げられる。
【実施例】
【0017】
<SP細胞の採取>
マウス涙腺及び唾液腺から組織幹細胞に富んだ分画として知られるSP細胞を採取し、SP細胞特異的に発現する遺伝子をDNAマイクロアレイにより同定した。
【0018】
6週齢のマウスから、涙腺及び唾液腺組織を摘出し、コラゲナーゼ及びヒアルロニダーゼにより細胞を解離させ、フィルターメッシュにより上皮塊を分離した。得られた上皮塊を、0.25%のトリプシンと1mMのEDTAにより10分間処理し、機械的に解離させた。さらに、解離した上皮細胞の一部をトリパンブルーにより染色して、生存率が90%以上であることを確認した。残りの上皮細胞を、Hoechst33342により染色した後、UVレーザーを照射し、FACSにより450nmと675nmの2波長で展開した。その結果、蛍光強度の低い特徴的な細胞集団として得られるSP細胞が検出された(図1a)。
【0019】
また、これらの細胞集団は、ABCトランスポーター阻害剤であるレセルピンで前処理することにより消失することが確認された(図1b)。全体の細胞に対するSP細胞の割合は、涙腺及び唾液腺ともに、ほぼ0.5〜1.0%であった。
【0020】
<涙液・唾液分泌障害マウスへのSP細胞の移入>
放射線照射により、涙液・唾液分泌障害を呈するマウスを作成し、涙腺及び唾液腺にSP細胞を移入して、涙液及び唾液の分布の回復が起こるかどうかを検討した。
マウスの涙腺及び唾液腺に15Gyの放射線照射を行い、照射1週間後に涙液及び唾液量を測定して、分泌量の減少したことを確認して涙液・唾液分泌障害マウスとした。
GFP(Green Fluorescent Protein;緑色蛍光タンパク質)をコードする遺伝子をトランスジェニックしたマウスから採取した、5×103〜1×104個のSP細胞を、放射線照射2週間後の涙液・唾液分泌障害マウスの涙腺及び唾液腺に移入した。移入後、経時的にムスカリン性アセチルコリン受容体のアゴニストであるピロカルピン投与による涙液・唾液分泌量を測定して、SP細胞移入による効果を検討した。
【0021】
涙液及び唾液ともに移植後1ヶ月での分泌量の回復が認められ、その回復効果は持続し、移入後8週でも、涙液および唾液の分泌量の回復が認められた(図2)。SP細胞が移入された涙腺及び唾液腺を摘出して、蛍光顕微鏡により観察した結果、腺房細胞様構造をとるGFP陽性細胞の存在が認められた。
【0022】
しかし、確認されたGFP陽性細胞(すなわち、移入されたSP細胞)数と涙液及び唾液の分泌量との間に、明らかな相関はなく、移入されたSP細胞から分泌される液性因子が、放射線照射後に残存する腺房細胞の涙液及び唾液分泌に関与している可能性が考えられた。
【0023】
<SP遺伝子特異的に発現する遺伝子の解析>
移入したSP細胞から分泌される液性因子が、残存する腺房細胞の涙液及び唾液分泌を促進する可能性を検討するために、SP細胞特異的に発現している遺伝子をマイクロアレイにより解析した。
【0024】
SP細胞に特異的に発現される各種の遺伝子が解析されたが、中でも、クラステリン(clusterin)をコードする遺伝子が、涙液及び唾液腺に共通して高い発現が示されていた。
【0025】
<クラステリンの機能解析>
クラステリンの機能を解析するために、クラステリンをコードする遺伝子をマウス線維芽細胞株(STO)に導入して、クラステリンを恒常的に発現する細胞株STOcluを作成した。
【0026】
STOclu細胞をH22により刺激した後、生細胞数をトリパンブルーにより計測した。N−アセチル−L−システイン及びカタラーゼを活性酸素種のインヒビターとして用いた。結果を図3に示す。H22により刺激した野生型STO細胞に比べて、STOclu細胞の生細胞数が有意に高いことが認められた。
【0027】
22は以下の反応により、ヒドロキシラジカルを介して細胞を障害することが知られている。
【数1】


【0028】
図3から、クリスタリンがヒドロキシラジカルを含む活性酸素種(ROS)を除去することにより、細胞障害を抑制している可能性が想定された。クリスタリンの細胞障害に対する機能を解析するため、STO細胞及びSTOclu細胞それぞれについて、H22刺激後に誘導される細胞内の活性酸素の量を測定した。結果を図4に示す。
【0029】
その結果、STOclu細胞は、STO細胞と比べて、H22により誘導された活性酸素種の量が少ないことが示され、クリスタリンが活性酸素種(ROS)の除去に関与していることが示唆された。
【0030】
<培地中に分泌されたクラステリンの機能解析>
STOclu細胞では培養上清中に分泌型のクラステリンの存在が認められた。この分泌型のクラステリンがH22刺激による細胞障害に対して抑制的に働く可能性を検証するために、H22刺激直前に培地交換を行った場合と行わなかった場合における生細胞数の経時的変化を検討した。
STOclu細胞を2つの群に分け、一方は培地交換を行った直後にH22刺激を行い、生細胞数を計測した。他方は、上記同様にSTOclu細胞をH22により刺激した後、生細胞数を計測した。培地交換の直後にH22刺激を行ったSTOclu細胞を図5Aに、直線に培地交換せずにH22刺激を行ったSTOclu細胞を図5Bに示す。
【0031】
この結果、STOclu、Mockともに生細胞数の増加が認められたが、STOcluでは培地交換を行わなかった場合に相乗的に生細胞数の増加が認められた。このことにより、培地交換により細胞分泌物が失われた場合に比べて、培地交換しなかった場合には、培養上清中に分泌されたクラステリンがH22刺激による細胞障害を抑制する機能を果たしていることが示された。
【0032】
図4と図5に示したこれらの結果から、涙液及び唾液の分泌障害の回復にSP細胞が分泌するクリステリンが関与していることが示された。また、クラステリンの作用は、酸化ストレスからの細胞保護作用であることが示された。すなわち、クラステリン遺伝子導入細胞から産生されるクラステリンはフリーラジカル除去能を有するものといえる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】Hoechst33342による染色及びUVレーザー照射によるSP細胞の検出を示す図である。
【図2】SP細胞移入後8週の涙液および唾液の分泌量の回復を示すグラフである。
【図3】H22により刺激したSTO細胞とSTOclu細胞の生細胞数(相対値)の比較を示すグラフである。
【図4】H22刺激後に誘導されるSTO細胞とSTOclu細胞の活性酸素の量の比較を示すグラフである。
【図5】H22刺激直前にSTOclu細胞の培地を交換した場合と培地交換をしない場合との生細胞数の比較を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】504042638
【氏名又は名称】株式会社クオリタス.
【識別番号】503384971
【氏名又は名称】株式会社クレインサイエンス
【出願日】 平成17年6月2日(2005.6.2)
【代理人】 【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一

【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一

【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男

【識別番号】100118407
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 尚美

【公開番号】 特開2006−335684(P2006−335684A)
【公開日】 平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願番号】 特願2005−162372(P2005−162372)