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【発明の名称】 癌細胞増殖抑制剤
【発明者】 【氏名】中釜 斉

【氏名】土屋 直人

【要約】 【課題】SND1の機能を明らかにし、癌を治療又は予防するための方法及び手段を提供すること。

【解決手段】SND1タンパク質のアミノ末端領域からなるポリペプチド、又は該アミノ末端領域のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ癌細胞の増殖抑制活性を有するポリペプチドを含有することを特徴とする癌細胞増殖抑制剤。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SND1タンパク質のアミノ末端領域からなるポリペプチド、又は該アミノ末端領域のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ癌細胞の増殖抑制活性を有するポリペプチドを含有することを特徴とする癌細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
SND1タンパク質のアミノ末端領域からなるポリペプチドが配列番号6又は8に示されるアミノ酸配列からなるものである、請求項1記載の癌細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
SND1タンパク質のアミノ末端領域からなるポリペプチド、又は該アミノ末端領域のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ癌細胞の増殖抑制活性を有するポリペプチドをコードする核酸を含有することを特徴とする癌細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
核酸が、配列番号5若しくは7に示される塩基配列からなる核酸、又は配列番号5若しくは7に示される塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ癌細胞の増殖抑制活性を有するポリペプチドをコードする核酸である、請求項3記載の癌細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
核酸が発現ベクター中に含まれる、請求項3又は4記載の癌細胞増殖抑制剤。
【請求項6】
SND1の機能又は発現を抑制するための手段を含むことを特徴とする癌細胞増殖抑制剤。
【請求項7】
SND1の機能又は発現を抑制するための手段が該SND1タンパク質に対する抗体である、請求項6記載の癌細胞増殖抑制剤。
【請求項8】
SND1の機能又は発現を抑制するための手段が該SND1タンパク質をコードする遺伝子の転写を抑制する手段である、請求項6記載の癌細胞増殖抑制剤。
【請求項9】
SND1の機能又は発現を抑制するための手段が該SND1タンパク質をコードする遺伝子の翻訳を抑制する手段である、請求項6記載の癌細胞増殖抑制剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の癌細胞増殖抑制剤を含むことを特徴とする癌の予防剤又は治療剤。
【請求項11】
癌が、大腸癌及び子宮頸癌からなる群より選択される、請求項10記載の癌の予防剤又は治療剤。
【請求項12】
SND1を発現する細胞と被検物質とを接触させるステップ、該細胞において増殖の接着阻止が生じるか否かを判定するステップ、及び増殖の接着阻止を生じた被検物質を癌細胞増殖抑制物質として選択するステップを含むことを特徴とする癌細胞増殖抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項13】
細胞が上皮細胞である、請求項12記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
増殖の接着阻止がE-カドヘリンを用いて判定される、請求項12記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
SND1が導入され、細胞の増殖の接触阻止が消失していることを特徴とするSND1発現細胞。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞増殖抑制剤、並びに癌の治療剤及び予防剤に関する。また本発明は、癌細胞増殖抑制物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SND1(Staphylococcal Nuclease homology Domain)はヒト大腸癌で高頻度に発現亢進が認められる。SND1は、c-MybやSTATsなどの転写因子の活性を上昇させる転写のコアクチベーターとして知られている(非特許文献1及び2)。近年、RNA-interferenceに関与する可能性が報告され注目を集めている分子である。しかしながら、その細胞内機能の詳細は現在のところ不明な点が多い。本発明者のグループは、1本鎖C-rich DNAに配列特異的に結合するタンパク質としてマウスSND1を単離し、機能解析を行っている(非特許文献3)。そして現在までに、SND1が細胞内で細胞質に優位に局在し、mRNA−タンパク質複合体と相互作用していることを見出している(未公表)。
【0003】
さらに、ヒト大腸癌検体を用いてSND1 mRNAの発現を解析すると、癌部では非癌部に比べて平均5倍以上の発現上昇が認められ、ほぼ8割以上の大腸癌検体で発現上昇していることがみとめられている。
【0004】
しかしながら、SND1が癌において何らかの役割を果たしているのか否かは未知であった。
【0005】
【非特許文献1】Leverson, JD et al., Mol. Cell 第2(4)巻, 417-425頁, 1998年
【非特許文献2】Yang, J. et al., EMBO J. 第21(18)巻, 4950-4958頁, 2002年
【非特許文献3】Fukuda, H. et al., Proc. Japan Acad. 第79B巻, 120-123頁, 2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した実状に鑑み、SND1の機能を明らかにし、癌を治療又は予防するための方法及び手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、SND1が癌細胞の増殖に関与しており、SND1のアミノ末端領域からなるポリペプチドを投与することによって癌細胞の増殖が抑制されるという知見を得た。また本発明者は、SND1を過剰発現する細胞の増殖を観察したところ、該細胞においては増殖の接着阻止が消失しているという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、以下の(1)〜(6)である。
(1)SND1タンパク質のアミノ末端領域からなるポリペプチド、又は該アミノ末端領域のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ癌細胞の増殖抑制活性を有するポリペプチドを含有することを特徴とする癌細胞増殖抑制剤。
【0009】
上記癌細胞増殖抑制剤において、SND1のアミノ末端領域からなるポリペプチドは、例えば配列番号6又は8に示されるアミノ酸配列からなるものである。
【0010】
(2)SND1タンパク質のアミノ末端領域からなるポリペプチド、又は該アミノ末端領域のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ癌細胞の増殖抑制活性を有するポリペプチドをコードする核酸を含有することを特徴とする癌細胞増殖抑制剤。
【0011】
上記癌細胞増殖抑制剤において、核酸は、例えば配列番号5若しくは7に示される塩基配列からなる核酸、又は配列番号5若しくは7に示される塩基配列からなる核酸と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ癌細胞の増殖抑制活性を有するポリペプチドをコードする核酸である。
また、核酸は、発現ベクター中に含まれていてもよい。
【0012】
(3)SND1の機能又は発現を抑制するための手段を含むことを特徴とする癌細胞増殖抑制剤。
上記癌細胞増殖抑制剤において、SND1の機能又は発現を抑制するための手段としては、限定されるものではないが、該SND1タンパク質に対する抗体、該SND1タンパク質をコードする遺伝子の転写を抑制する手段、及び該SND1タンパク質をコードする遺伝子の翻訳を抑制する手段が挙げられる。
【0013】
(4)上記いずれかの癌細胞増殖抑制剤を含むことを特徴とする癌の予防剤又は治療剤。
ここで癌としては、限定されるものではないが、大腸癌及び子宮頸癌が含まれる。
【0014】
(5)SND1を発現する細胞と被検物質とを接触させるステップ、該細胞において増殖の接着阻止が生じるか否かを判定するステップ、及び増殖の接着阻止を生じた被検物質を癌細胞増殖抑制物質として選択するステップを含むことを特徴とする癌細胞増殖抑制物質のスクリーニング方法。
【0015】
上記スクリーニング方法において、細胞としては、例えば上皮細胞を使用することができる。
また、増殖の接着阻止はE-カドヘリンを用いて判定することができる。
【0016】
(6)SND1が導入され、細胞の増殖の接触阻止が消失していることを特徴とするSND1発現細胞。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、癌細胞増殖抑制剤が提供される。かかる癌細胞増殖抑制剤は、癌細胞の増殖を効果的に抑制することができるため、癌の治療又は予防に有用である。
【0018】
また本発明により、癌細胞の増殖を抑制する物質を効率的に同定するためのスクリーニング方法が提供される。かかるスクリーニング方法は、癌の治療又は予防薬の候補ともなりうる癌細胞増殖抑制物質を同定するものであり、医薬分野で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.癌細胞増殖抑制剤
SND1とは、約900〜920アミノ酸からなるポリペプチドであり、5つのスタフィロコッカスヌクレアーゼ相同ドメイン(staphylococcal nuclease homology domain;SND)とチューダー相同ドメイン(tudor homology domain)を持つ。これらドメインの詳細な機能は不明であるが、この構造は線虫(C. elegans)からヒトまで高度に保存されている。例えば、SND1は、ヒト(アクセッション番号BC017180、U22055、AK096583、AB209510、BT009785)、マウス(アクセッション番号AB021491)、ラット(アクセッション番号AY697864)、ショウジョウバエ(アクセッション番号BT003270)、線虫(アクセッション番号U40029-2)等において見出されているが、特にヒトとマウス間では、アミノ酸レベルで97%の同一性を示すことから、細胞内機能も種間で保存されていることが容易に推察される。なお本明細書中、「SND1」とは、タンパク質及び遺伝子の両方を意味することがある。また、ヒトSND1の塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1(一例として、アクセッション番号BT009785)及び2に、マウスSND1の塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3及び4に示す。しかしながら、これらのヒト及びマウスのSND1にはいくつかの多型や変異が存在することが予想されるため、本明細書に例示した配列に限定されるものではない。
【0020】
SND1の細胞増殖における役割を解析するため、本発明者はテトラサイクリン誘導型HeLa(ヒト子宮頚部癌細胞株)細胞を用いて、完全長SND1及びSND1アミノ末端領域のみ(SND-ΔC)を発現する細胞株を樹立した。SND1発現誘導細胞株では、SND1タンパク質の発現誘導の有無にかかわらず細胞増殖速度に変化は認められなかった。これは、HeLa細胞ではもともとSND1が高発現しているためと推測される。一方、アミノ末端領域(SND-ΔC)を発現する細胞株では、SND1のアミノ末端領域(SND-ΔC)の発現量に相関して細胞増殖が抑制された。
【0021】
これらの結果から、SND1の機能又は活性を阻害することにより癌細胞の増殖が抑制されることが判明した。また、そのアミノ末端領域(SND-ΔC)を投与することによりSND1の機能を阻害し、その結果として癌細胞の増殖を抑制することが可能である。それゆえ本発明に係る癌細胞増殖抑制剤は、SND1のアミノ末端領域からなるポリペプチド、該ポリペプチドをコードする核酸又はSND1の機能若しくは発現を抑制するための手段を含有することを特徴とするものである。
【0022】
(1)SND1のアミノ末端領域からなるポリペプチド(SND-ΔC)
SND1のアミノ末端領域からなるポリペプチド(SND-ΔC)は、癌細胞の増殖抑制活性を有する(実施例1)。ここで「SND1のアミノ末端領域」とは、SND1に存在する5つのSNドメインのうち、アミノ末端側の1〜3つのSNドメインを含む領域を指し、例えば、アミノ末端側の2つのSNドメインを含む領域、アミノ末端側の3つのSNドメインを含む領域等である。当業者であれば、SND1に存在するSNドメインを特定し、適当なSND1のアミノ末端領域を含むポリペプチドを作製し、該ポリペプチドが癌細胞の増殖抑制活性を有するか否かを確認することができる。例えば該ポリペプチドと癌細胞とを接触させ、その後、当技術分野で公知の方法(例えば細胞数の計数、癌細胞特異マーカーの検出など)で癌細胞の増殖を測定することなどにより行うことができる。好ましくは、アミノ末端領域は、ヒトSND1に関しては配列番号2に示されるアミノ酸配列における1番から300〜500番までのアミノ酸、好ましくは1番から496番までのアミノ酸、特に好ましくは1番から361番までのアミノ酸からなる領域(配列番号6)、マウスSND1に関しては配列番号4に示されるアミノ酸配列における1番から300〜500番までのアミノ酸、好ましくは1番から496番までのアミノ酸、特に好ましくは1番から361番のアミノ酸からなる領域(配列番号8)であるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
また本発明で用いるSND1のアミノ末端領域からなるポリペプチドは、癌細胞の増殖抑制活性を保持する限り、該ポリペプチドのアミノ酸配列において複数個、好ましくは1若しくは数個のアミノ酸に置換、欠失、付加等の変異が生じてもよい。例えば、配列番号6若しくは8に示されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が欠失してもよく、配列番号6若しくは8に示されるアミノ酸配列に1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が付加してもよく、あるいは、配列番号6若しくは8に示されるアミノ酸配列の1〜10個、好ましくは1〜5個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したものも、癌細胞の増殖抑制活性を保持する限り、本発明において用いることができる。変異を有するポリペプチドの癌細胞の増殖抑制活性は、上述したように確認することができる。
【0024】
SND1のアミノ末端領域からなるポリペプチドは、それらの配列から公知の方法に従って化学合成又は組換え手法により作製することができる。
【0025】
(2)SND1のアミノ末端領域からなるポリペプチドをコードする核酸
SND1のアミノ末端領域からなるポリペプチドをコードする核酸は、SND1のアミノ末端領域をコードする塩基配列情報に基づいて容易に作製することができる。例えば、当業者であれば、適当なSND1のアミノ末端領域を含むポリペプチドをコードする核酸を調製し、該核酸によりコードされるポリペプチドが癌細胞の増殖抑制活性を有するか否かを確認することができる。例えば調製した核酸を癌細胞に導入し、SND1のアミノ末端領域を含むポリペプチドを発現させ、その後、当技術分野で公知の方法で癌細胞の増殖を測定することなどにより行うことができる。好ましくは、アミノ末端領域をコードする核酸は、ヒトSND1に関しては配列番号1に示される塩基配列における1番から900〜1500番までの塩基、好ましくは1番から1488番までの塩基、特に好ましくは1番から1083番までの塩基からなる配列(配列番号5)、マウスSND1に関しては配列番号3に示される塩基配列における175番から1074〜1674番までの塩基、好ましくは175番から1662番までの塩基、特に好ましくは175番から1257番までの塩基からなる配列(配列番号7)からなるものであるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
上記核酸は、ヒトやマウス等の任意の細胞若しくは組織から調製したDNA又はcDNAライブラリーを用いて、上記核酸の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を行うことにより調製することができる。あるいは、上記核酸の塩基配列に基づいて、化学合成によって核酸を調製することができる。本発明において使用する核酸は、DNA若しくはRNA、又はDNAとRNAのハイブリッド核酸のいずれでもよい。
【0027】
また、部位特異的突然変異誘発法等によって変異を有する核酸であって上記SND1のアミノ酸領域からなるポリペプチドをコードする核酸を作製することもできる。なお、核酸に変異を導入するには、Kunkel法、Gapped duplex法等の公知の手法又はこれに準ずる方法を採用することができる。例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した市販の変異導入用キットなどを用いて変異の導入が行われる。また、エラー導入PCRやDNAシャッフリング等の手法により、変異核酸を作製することもできる(Chen K, and Arnold FH. 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 90: 5618-5622;Stemmer, W. P. 1994, Nature, 370:389-391及びStemmer W. P., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 91: 10747-10751)。
【0028】
変異を有する核酸により作製されるポリペプチドが目的の癌細胞の増殖抑制活性を有するか否かは、変異核酸を形質転換体において発現させ、得られるポリペプチドの活性を、上述したように測定することにより確認することができる。
【0029】
さらに、上記塩基配列からなる核酸の塩基配列に対し相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、癌細胞の増殖抑制活性を有するポリペプチドをコードする核酸も使用することができる。ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、高い相同性(相同性が60%以上、好ましくは80%以上)を有する核酸がハイブリダイズする条件をいう。より具体的には、ナトリウム濃度が150〜900mM、好ましくは600〜900mMであり、温度が60〜68℃、好ましくは65℃での条件をいう。例えばハイブリダイゼーション条件が65℃であり、洗浄の条件が0.1%SDSを含む0.1×SSC中で65℃、10分の場合に、慣例的な手法、例えばサザンブロットなどによってハイブリダイズすることが確認された場合には、ストリンジェントな条件でハイブリダイズするといえる。
【0030】
上記核酸は、発現ベクター中に含まれていてもよい。そのような発現ベクターは、適当なベクターに上記核酸を連結(挿入)することにより調製することができる。本発明で使用可能なベクターとしては、宿主中で独立して複製可能なベクター又は宿主の染色体上に上記核酸を組み込むことが可能なベクターのいずれでもよい。例えば、ベクターとしては、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミド、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルスなどのRNAウイルスのベクターが挙げられる。本発明において使用可能な発現ベクターとしては、限定されるものではないが、pcDNA-HAベクター(Invitrogen)、pTRE-hyg-FLAGベクター(Clonetech)などが挙げられる。
【0031】
発現ベクターに核酸を挿入するには、まず、精製された核酸を適当な制限酵素で切断し、適当な発現ベクターの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法などが採用される。
【0032】
核酸は、所望のSND1のアミノ末端領域からなるポリペプチドが発現されるように発現ベクターに組み込まれることが必要である。そこで、使用する発現ベクターには、プロモーター、目的の核酸のほか、所望によりエンハンサーなどのシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)などを連結することができる。
【0033】
(3)SND1の機能又は発現を抑制する手段
SND1は、癌細胞の増殖に関与していると考えられる(実施例1)。そのため、SND1の機能又は発現を抑制すれば、癌細胞の増殖抑制効果や、癌の予防又は治療効果が期待される。
【0034】
従って、SND1の機能及び発現を抑制するための手段は、癌細胞増殖抑制剤として有効である。
【0035】
かかるSND1の機能又は発現を抑制するための手段としては、
(a)SND1タンパク質に対する抗体
(b)SND1タンパク質をコードする遺伝子の転写を抑制する手段
(c)SND1タンパク質をコードする遺伝子の翻訳を抑制する手段
が挙げられる。
【0036】
(a)SND1タンパク質に対する抗体
SND1タンパク質に対する抗体は、細胞又は被験体におけるSND1タンパク質と特異的に結合することにより、該SND1タンパク質の活性を抑制することができる。従って、SND1タンパク質に対する抗体を含む組成物は、癌細胞の増殖抑制に有効である。
【0037】
SND1タンパク質に対する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であり、それぞれSND1タンパク質のエピトープに結合することができる全体分子、及びFab、F(ab’)2、Fv断片等が全て含まれる。このような抗体は、例えばポリクローナル抗体の場合には、SND1タンパク質やその一部断片を免疫原として動物を免役した後、血清から得ることができる。あるいは、SND1タンパク質をコードする遺伝子(又は該遺伝子を含む発現ベクター)を注射や遺伝子銃によって、動物の筋肉や皮膚に導入した後、血清を採取することによって作製することができる。動物としては、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ニワトリなどが用いられる。
【0038】
また、モノクローナル抗体は、公知のモノクローナル抗体作製法(「単クローン抗体」、長宗香明、寺田弘共著、廣川書店、1990年; "Monoclonal Antibody" James W. Goding, third edition, Academic Press, 1996)に従い作製することができる。
【0039】
(b)SND1タンパク質をコードする遺伝子の転写を抑制する手段
SND1タンパク質をコードする遺伝子の転写を抑制する手段としては、SND1遺伝子の転写プロモーター領域を転写抑制型プロモーターと置換するために用いることが可能な発現ベクターが挙げられる。また、SND1タンパク質をコードする遺伝子の転写を抑制する手段としては、当該遺伝子の転写に関わる領域に転写抑制活性のある塩基配列を挿入するための発現ベクターを用いてもよい。上記のような発現ベクターの設計及び調製は当業者には周知である。
【0040】
(c)SND1タンパク質をコードする遺伝子の翻訳を抑制する手段
また、SND1タンパク質をコードする遺伝子の翻訳を抑制する手段としては、いわゆるアンチセンス核酸を用いる方法が挙げられる。すなわち、SND1遺伝子のmRNAに対するアンチセンス核酸、又は該アンチセンス核酸を転写するベクターを、プラスミドとして導入するか又は被験細胞若しくは被験体のゲノムに組み込み、当該アンチセンス核酸を過剰発現させることで、SND1タンパク質をコードする遺伝子のmRNAの翻訳が抑制される。アンチセンス核酸に関する技術は、例えば哺乳動物を宿主とした場合でも知られている(Han et al.(1991) Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 88,4313-4317; Hackett et al.(2000) Plant Physiol., 124,1079-86)。
【0041】
アンチセンス核酸は、当技術分野で公知の手法に従って設計し、使用することができる(例えば、Frank, B.L.ら、Method in Molecular Biology, 74:37, 1997)。例えば、SND1遺伝子に対するアンチセンス核酸としては、配列番号1又は3に示す塩基配列(特に、SND1タンパク質をコードする領域に相当する、配列番号1における1〜2733番からなる塩基配列、及び配列番号3における175〜2898番からなる塩基配列)に対し相補的な配列からなる核酸を例示することができる。ただし、本発明において用いるアンチセンス核酸は、宿主に導入されて、内在性遺伝子の発現を低減又は抑制しうる限り、配列番号1又は3に示す塩基配列に対して完全に相補的な配列である必要はない。また、アンチセンス核酸は、宿主に導入されて、内在性遺伝子の発現(翻訳又は転写)を抑制又は阻害しうる限り、配列番号1又は3に示す塩基配列に対し相補的な配列の一部分であってもよい。例えば、アンチセンス核酸は、長さが約10〜50塩基、好ましくは15〜30塩基、より好ましくは18〜25塩基であり、GC含量が50%以上となるように設計する。アンチセンス核酸を設計するためのソフトも公知である。また、アンチセンス核酸は、DNA又はRNAのいずれでもよいし、DNAとRNAのハイブリッド核酸であってもよい。
【0042】
アンチセンス核酸は、設計したアンチセンス核酸をそのまま宿主に導入(投与)してもよいし、あるいは設計したアンチセンス核酸が宿主内で発現されるような核酸又は組換えベクターとして導入(投与)してもよい。このようなアンチセンス核酸の導入又は投与は、遺伝子治療として当技術分野で公知である。
【0043】
組換えベクターとしてアンチセンス核酸を送達する場合、投与は、公知の任意の手法、例えばキメラウイルスなどの組換え発現ベクターを用いた手法、又はレトロウイルスベクター若しくはアデノ随伴ウイルスベクターを含む種々のウイルスベクターを用いた手法により行うことができる。使用し得るベクターには、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、レトロウイルスなどのRNAウイルスが含まれるが、これらに限定されるものではない。このような組換えベクターの調製は、当技術分野で公知である。
【0044】
目的の宿主(組織又は細胞)にアンチセンス核酸を投与するために使用し得る他の遺伝子送達機構には、コロイド分散系、リポソーム誘導系、人工ウイルスエンベロープなどが含まれる。また、アンチセンス核酸の投与のために、例えば巨大分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油型乳剤、ミセル、混合ミセル、リポソーム等を利用することができる。
【0045】
また、SND1タンパク質をコードする遺伝子の翻訳を抑制するために、RNA干渉(RNA interference)を利用することも可能である。具体的には、標的とするSND1タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列に相補的な二本鎖RNAを細胞内に導入すると、SND1タンパク質をコードする内在性遺伝子のmRNAが分解されて、結果としてその細胞での遺伝子発現が特異的に抑制されることとなる。この手法は、哺乳動物細胞などにおいても確認されている(Hannon,GJ., Nature (2002) 418,244-251 (review);特表2002-516062号公報;特表平8-506734号公報)。
【0046】
二本鎖RNAは、当技術分野で公知の手法により設計することができる。例えば、配列番号1又は3に示される塩基配列のうち連続した10〜100塩基、好ましくは連続した10〜50塩基、より好ましくは連続した10〜30塩基からなる配列に対して標的化するように二本鎖RNAを設計しうる。好ましくは、二本鎖RNAは、siRNA(short-interfering RNA)である。
【0047】
また、二本鎖RNAは、二本鎖RNAをそのまま宿主に投与してもよいし、あるいは二本鎖RNAを発現する組換えベクターを宿主に投与し、該宿主において二本鎖RNAを発現させてもよい。二本鎖RNAの送達は、アンチセンス核酸と同様に実施することができる。
【0048】
(4)適用対象
本発明に係る癌細胞増殖抑制剤の適用対象は、癌細胞又は癌細胞を含む組織若しくは被験体である。本発明において「癌細胞」とは、悪性の腫瘍である癌に由来する細胞であれば特に限定されるものではなく、侵襲性と転移性を示し、正常の細胞に比較して未分化であるか又は分化度が低いという特徴を示すものである。例えば限定されるものではないが、癌細胞には、食道癌細胞、胃癌細胞、大腸癌細胞、肺癌細胞、肝臓癌細胞、甲状腺癌細胞、腎癌細胞、頭頚部癌細胞、膵臓癌細胞、子宮癌細胞、卵巣癌細胞、乳癌細胞、前立腺癌細胞等が含まれる。
【0049】
本癌細胞増殖抑制剤は、癌細胞の増殖を抑制することができる限り、その剤形、投与経路、投与量などが限定されるものではない。好ましい剤形、投与経路、投与量などは、当業者であれば、in vitro実験などを行うことにより容易に決定することができる。
【0050】
2.癌の予防剤又は治療剤
上記癌細胞増殖抑制剤は、癌細胞の増殖を効果的に抑制することができるため、癌の予防又は治療のために使用することができる。本発明において「癌」とは、悪性の細胞性腫瘍を意味し、癌腫及び肉腫の両方を含む。例えば、大腸癌、食道癌、胃癌、肺癌、腎癌、甲状腺癌、耳下腺癌、頭頚部癌、骨・軟部肉腫、尿管癌、膀胱癌、子宮癌、肝癌、乳癌、卵巣癌、卵管癌、膵臓癌、前立腺癌、脳腫瘍等が挙げられ、特に大腸癌及び子宮頸癌に適用することが好ましい。これらの癌は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであってもよい。
【0051】
本発明に係る予防剤又は治療剤は、上記癌の発症を予防することを目的として(予防剤)、あるいは上記癌患者又は癌のリスクが高いと診断された患者に対しては症状の悪化の防止又は症状の軽減などを目的として(治療剤)投与することができる。
【0052】
上記癌細胞増殖抑制剤を癌の治療剤又は予防剤として用いる場合には、薬学的に許容される担体と共に配合して医薬組成物として用いることもできる。このときの有効成分の担体に対する割合は、1〜90%の間で適宜調整すればよい。
【0053】
本発明の予防剤又は治療剤は、経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる。例えば、予防剤又は治療剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、癌原病巣に対して又は癌腫に対応した予想転移部位に対して局所注射等の局所投与を行うことが好ましい。
【0054】
本発明の予防剤又は治療剤を経口投与する場合は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれのものであってもよく、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。また、本発明の予防剤又は治療剤を非経口投与する場合は、静脈内注射(点滴を含む)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐剤などの製剤形態を選択することができ、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0055】
これらの各種製剤は、医薬において通常用いられる賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などを適宜選択し、常法により製造することができる。
【0056】
上記各種製剤は、薬学的に許容される担体又は添加物を共に含むものであってもよい。このような担体及び添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどが挙げられる。使用される添加物は、剤形に応じて上記の中から適宜又は組み合わせて選択される。
【0057】
本発明の予防剤又は治療剤の投与量は、予防剤又は治療剤に含まれる成分の種類、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。
【0058】
本発明の予防剤又は治療剤が核酸又は組換えベクターなどを含み、それを遺伝子治療剤として使用する場合は、核酸を注射により直接投与する方法のほか、核酸が組込まれた組換えベクターを投与する方法が挙げられる。また例えば核酸や組換えベクターをリポソームなどのリン脂質小胞、ミセル、ウイルスエンベロープなどに導入し、投与する方法を採用することができる。
【0059】
さらに、核酸、アンチセンス核酸若しくは二本鎖RNA、又はそれらを含む組換えベクターなどを含む薬剤は、被験体から得られた細胞又は組織に導入した後、その細胞又は組織を同じ被験体又は別の被験体に投与することも可能である(ex vivo法)。細胞又は組織への導入は、当技術分野で公知の遺伝子導入法(例えば、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション、リポフェクションなど)を用いて行うことができる。
【0060】
遺伝子治療剤の投与形態としては、通常の静脈内、動脈内等の全身投与のほか、癌組織又は転移組織に局所投与を行うことができる。さらに、カテーテル技術、外科的手術等と組み合わせた投与形態を採用することもできる。遺伝子治療剤の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なる。
【0061】
3.スクリーニング
本発明者は、SND1をラット正常小腸上皮細胞に導入し、SND1を過剰発現する細胞の増殖を観察したところ、その細胞においては増殖の接触阻止が消失したことを観察した(実施例2)。ここで、「増殖の接着阻止」とは、細胞は、その増殖時に、細胞密度に依存して、培養容器上に単層となった後、その細胞間の接着により分裂(増殖)の阻止が生じる。しかしながら、異常細胞(例えば癌細胞)は、そのような細胞増殖の接着阻止が「消失」し、そのため増殖を続けて細胞が何層にも積み重なった状態となる。
【0062】
従って、SND1を発現する細胞は、増殖の接触阻止が消失したモデルとして使用することができる。本発明においては、癌細胞において観察される増殖の接着阻止の消失事象を示す細胞を利用して、該細胞における増殖の接着阻止を正常化する物質を、癌細胞の異常増殖を抑制する物質として同定する。
【0063】
従って、本スクリーニング方法は、SND1を発現する細胞と被検物質とを接触させるステップ、該細胞において増殖の接着阻止が生じるか否かを判定するステップ、及び増殖の接着阻止を生じた被検物質を癌細胞増殖抑制物質として選択するステップを含む。
【0064】
SND1を発現する細胞は、当業者であれば、SND1の配列情報(例えば配列番号1又は3)を利用して容易に作製することができる。発現されるSND1は、それが癌細胞の増殖の接着阻止を消失する限り特に限定されるものではなく、例えば、ヒトSND1(配列番号1)及びマウスSND1(配列番号3)を用いることができる。また使用する細胞は、増殖速度が速く、接触阻止機能を有する細胞、例えば、大腸上皮細胞などの上皮細胞、線維芽細胞、神経膠細胞、筋肉細胞、脂肪細胞の悪性化した細胞などが挙げられる。
【0065】
スクリーニングにおいてはSND1を過剰発現する細胞を使用することが好ましい。例えば、SND1を導入した細胞を複数作製し、それらの細胞の中から最も多くSND1を発現する細胞を選択することができる。また、SND1を、強力なプロモーターの制御下に細胞に導入してもよい。
【0066】
接触させる被検物質は、特に限定されるものではなく、タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成化合物、天然抽出物(細胞抽出物など)、ケミカルライブラリー若しくはペプチドライブラリーなどでありうる。
【0067】
細胞と被検物質との接触は、例えば、被検物質の細胞への投与、被検物質を添加した培地における細胞の培養などにより行うことができる。接触する時間、条件などは、使用する被検物質の種類に応じて適宜調整することができる。
【0068】
接触後、該細胞が増殖の接触阻止の消失を示すか否かは、当業者に公知の方法により判定することができる。例えば、細胞間接着に重要な癌抑制因子であるE-カドヘリンの局在を分析し、該細胞におけるE-カドヘリンの異常局在(すなわち正常細胞では細胞膜上に存在するが、異常増殖細胞では細胞膜以外、例えば細胞質内に存在する)が観察される場合には、該細胞が増殖の接触阻止の消失を示すといえる。また、アクチンの局所異常、一定面積当たりの細胞数の上昇、寒天培地上での生育などによっても増殖の接触阻止の消失を確認することができる。
【0069】
細胞における増殖の接触阻止が生じていると判定された場合には、被検物質は異常増殖を抑制し正常化するものであり、その被検物質を癌細胞増殖抑制物質として選択する。そのようにして選択された物質は、例えば癌の予防又は治療に用いることができると考えられる。
【0070】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0071】
(1)テトラサイクリン誘導型全長SND1及びSND1アミノ末端ポリペプチド(SND-ΔC)発現ベクターの構築
SND1の機能を解析するため、哺乳動物発現ベクターを構築し、タンパク質発現誘導型細胞株を樹立することとした。そのための発現ベクターとしてpTRE-hyg-FLAGを選択した。マウス由来SND1 cDNA(Genebank accession AB021491)の全長(配列番号3における175〜3428番の塩基配列)及び5’領域(配列番号3における175〜1257番の塩基配列)を精製し、はじめにpcDNA-HAベクター(Invitrogen)に挿入した。そのプラスミドDNAから、HA領域を含む全長並びに5’領域 cDNA断片を精製し、pTRE-hyg-FLAGベクター(Clonetech)に組み込んだ。発現タンパク質は、FLAG-HA融合タンパク質として発現する(図1)。発現ベクターの構造は図2に示す。
【0072】
SND1はタンパク質全長を発現する。SND-ΔCはcDNAの5'側1083bpを含む。これらのプラスミドから発現されるタンパク質の構造を図1に示す。SND1全長のタンパク質がFLAG-HA融合タンパク質として産生される。一方、SND-ΔCはSND1のアミノ末端領域の361アミノ酸残基を含むポリペプチドをFLAG-HA融合タンパク質として発現する。
【0073】
これらのプラスミドを細胞に導入して、イムノブロットにより組換えタンパク質の発現を確認した(図3)。
【0074】
(2)テトラサイクリン誘導型SND1及びSND-ΔC細胞の樹立
SND1の発現ベクターを導入する細胞として、ヒト子宮頚部癌細胞株HeLaをテトラサイクリン誘導型に改良したtet-on HeLa細胞(Clonetech)を選択した。tet-on HeLa細胞に、上記(1)で構築したプラスミドDNAをリポフェクション法により導入した。細胞をネオマイシン並びにハイグロマイシンを含む選択培地中で培養し、形質転換細胞を含むコロニーを単離した。さらに、単離した細胞を低細胞密度で選択培地中に播種し再度コロニーの単離を行った。得られた細胞を播種し、ドキシサイクリン(テトラサイクリン誘導体)添加により融合タンパク質の発現が認められるクローンを識別し、SND1及びSND-ΔC発現細胞株とした。
【0075】
SND Full clone 3-1はドキシサイクリン添加後速やかに、FLAG-HA融合SND1タンパク質を発現する。その発現は3日後まで安定である。一方、SND-ΔC clone 16-5は、発現誘導後速やかに50kDaの融合タンパク質を発現するが、その発現は2日後を最大に減少することが判明した(図4)。
【0076】
(3)細胞増殖の解析
SND1タンパク質及びSND-ΔCポリペプチドの発現が、細胞増殖にどのような影響を与えるか検討した。SND1発現細胞株及びSND-ΔC発現細胞株を2×104個培養皿に播種し、一晩培養した。そこに2μg/mlの濃度でドキシサイクリンを添加し、継時的に細胞を回収し細胞数をカウントした。実験の対照として、ドキシサイクリン未添加の細胞数もカウントした。
【0077】
その結果、SND Full clone 3-1では、SND1タンパク質の発現誘導の有無にかかわらず細胞増殖に変化は認められなかった(図5のA)。一方、SND-ΔC clone 16-5では、SND-ΔCポリペプチドの発現量の高い24時間及び48時間後で細胞数が未誘導の細胞に比べ50%にまで抑制されることがわかった(図5のB)。
【0078】
上記(1)〜(3)の結果から、ヒト大腸癌で高頻度に認められるSND1タンパク質の過剰発現は、細胞増殖を亢進していることが考えられる。また、癌に対しては、SND1のアミノ末端領域のポリペプチド(SND-ΔC)を導入することにより、癌細胞の増殖を抑制することが可能である。
【実施例2】
【0079】
SND1は細胞内でRNAと結合し機能していると考えられる。そこで本実施例においては、ラット小腸上皮細胞(IEC6)にマウス由来SND1 cDNA を導入し恒常的に過剰発現する細胞株を単離し、その細胞を観察した。
【0080】
(1)SND1発現ベクターの構築
マウス由来SND1 cDNA(配列番号3)をpcDNA-HAに組み込み、全長SND1タンパク質がHA融合タンパク質として発現するようにした(図6)。そのプラスミドを一過性にHeLa細胞に導入し、タンパク質の発現を確認した。
【0081】
(2)SND1発現ラット小腸上皮細胞の樹立
ラット正常小腸上皮細胞株(IEC6、大日本製薬株式会社)に上記(1)で構築したプラスミドDNAをエレクトロポレーション法で導入した。細胞はネオマイシンを含む選択培地で培養し、形質転換細胞を含むコロニーを単離した。得られた形質転換細胞は、限外希釈法でさらに分離し、SND1発現細胞株を取得し、IEC6-SND1細胞とした。
【0082】
最終的に6種類のSND1発現細胞株を得た。これらのうち、クローン10-14及びクローン46-8についてHA−SND1発現を確認した(図7)。クローン46-8はクローン10-14の約2.7倍のタンパク質を発現している。
【0083】
(3)細胞増殖の解析
(2)で調製したIEC6-SND1細胞を5×104個播種し、継時的に細胞を回収し細胞数をカウントし、細胞増殖能を解析した。細胞増殖初期において、SND1発現細胞は空プラスミドを導入した細胞(コントロールMock6-3)と比較してその増殖速度に変化はみとめられなかった。しかしながら、細胞間接着が完了し、コントロール細胞(Mock6-3)が接触阻止により増殖が遅くなるのに対して、SND1発現細胞(クローン46-8及び10-4)は細胞間接着が形成された後も増殖速度の低下は認められなかった(図8)。このことは、SND1発現細胞において接触阻止機能が消失していることを意味している。さらに各IEC-SND細胞クローンの細胞増殖を検討した結果、得られたIEC-SNDクローンは全て細胞間接着が完了した後も増殖を続けることが判明した(図9)。
【0084】
(4)IEC6-SND1の免疫染色
細胞増殖の接触阻止機能が消失している細胞では、細胞の極性が失われている可能性が考えられる。そこで細胞間接着に重要な癌抑制因子E-カドヘリンの局在を解析した。IEC6-SND1細胞をメタノールで固定した後、抗HA抗体(Roche製)と共にインキュベートした。細胞を洗浄後、蛍光標識した2次抗体(Molecular Probe製)と共にインキュベートし、HA-SND1の細胞内局在を確認した。E-カドヘリンの局在は、抗E-カドヘリンモノクローナル抗体(Cell Signaling製)を用いて行った。
【0085】
免疫染色の結果を図10に示す。コントロール細胞(Mock)では、E-カドヘリンが細胞膜上に染色されているのに対して、SND1発現細胞では、細胞質への蓄積が認められた(図10下段)。E-カドヘリンの異常局在がSND1過剰発現細胞株の接触阻止機能の消失につながっている可能性を見出した。またこの現象は、SND1が細胞の接着及び運動に関与する新しい機能を有することを意味している。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明により、癌細胞増殖抑制剤が提供される。かかる癌細胞増殖抑制剤は、癌細胞の増殖を効果的に抑制することができるため、癌の治療又は予防に有用である。
【0087】
また本発明により、癌細胞の増殖を抑制する物質を効率的に同定するためのスクリーニング方法が提供される。かかるスクリーニング方法は、癌の治療又は予防薬の候補ともなりうる癌細胞の増殖抑制物質を同定するものであり、医薬分野で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】組換えSND1タンパク質及びSND-ΔCポリペプチドの構造を示す。
【図2】SND1発現ベクターの構造を示す。
【図3】イムノブロットにより確認した組換えSND1タンパク質及びSND-ΔCポリペプチドの発現を示す。
【図4】SND1及びSND-ΔC発現tet-on HeLa 細胞株のドキシサイクリン(Dox)による発現の誘導を示す。
【図5】SND1タンパク質発現HeLa細胞(A)及びSND-ΔCポリペプチド発現HeLa細胞(B)の細胞増殖曲線を示す。
【図6】HA融合SND1組換えタンパク質の構造を示す。SN: Staphylococcal nuclease homology domain;Tudor: Tudor homology domain
【図7】恒常的SND1発現ラット小腸上皮細胞株(クローン10-4及び46-8)における組換えタンパク質の発現について、抗HA抗体を用いたイムノブロット解析の結果を示す。
【図8】IEC6-SND細胞株クローン10-4、クローン46-8及びコントロール細胞Mock 6-3における細胞増殖曲線を示す。
【図9】各IEC-SND細胞クローンにおける細胞増殖曲線を示す。
【図10】IEC-SND細胞における癌抑制因子E-カドヘリンの局在を示す。
【配列表フリ−テキスト】
【0089】
配列番号5、7:合成ポリヌクレオチド
配列番号6、8:合成ポリペプチド
【出願人】 【識別番号】803000056
【氏名又は名称】財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
【出願日】 平成17年5月31日(2005.5.31)
【代理人】 【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔

【識別番号】100096183
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 貞次

【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節

【識別番号】100120905
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 伸子

【公開番号】 特開2006−335659(P2006−335659A)
【公開日】 平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願番号】 特願2005−159715(P2005−159715)