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【発明の名称】 イオントフォレーシスによるトラネキサム酸の経皮送達
【発明者】 【氏名】高橋 明子
【住所又は居所】神奈川県横浜市都筑区早渕2−2−1 株式会社資生堂リサーチセンター(新横浜)内

【氏名】岡本 亨
【住所又は居所】神奈川県横浜市都筑区早渕2−2−1 株式会社資生堂リサーチセンター(新横浜)内

【氏名】富永 直樹
【住所又は居所】神奈川県横浜市都筑区早渕2−2−1 株式会社資生堂リサーチセンター(新横浜)内

【氏名】松野 文雄
【住所又は居所】神奈川県横浜市都筑区早渕2−2−1 株式会社資生堂リサーチセンター(新横浜)内

【要約】 【課題】トラネキサム酸の経皮送達を高めて、より効果的な美白および肌荒れ防止または改善効果をもたらす。

【解決手段】トラネキサム酸を含有するpH3.5から6.5の組成物を皮膚に接触させた後、該皮膚にプラス極側からのイオントフォレーシスを施すか、あるいは、トラネキサム酸を含有するpH8.5から10.5の組成物を皮膚に接触させた後、該皮膚にマイナス極側からのイオントフォレーシスを施す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラネキサム酸を含有するpH3.5から6.5の組成物を皮膚に接触させた後、該皮膚にプラス極側からのイオントフォレーシスを施すことを特徴とする、美白あるいは肌荒れ防止または改善のための美容方法。
【請求項2】
前記組成物が、0.1から0.5質量%のクエン酸を含有することを特徴とする請求項1記載の美容方法。
【請求項3】
トラネキサム酸を含有するpH8.5から10.5の組成物を皮膚に接触させた後、該皮膚にマイナス極側からのイオントフォレーシスを施すことを特徴とする、美白あるいは肌荒れ防止または改善のための美容方法。
【請求項4】
ケミカルピーリング施術後の皮膚に適用することを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の美容方法。
【請求項5】
トラネキサム酸を含有しかつpH3.5から6.5である、プラス極側からのイオントフォレーシス用の組成物。
【請求項6】
0.1から0.5質量%のクエン酸を含有することを特徴とする請求項5記載のイオントフォレーシス用の組成物。
【請求項7】
トラネキサム酸を含有しかつpH8.5から10.5である、マイナス極側からのイオントフォレーシス用の組成物
【請求項8】
塩の配合量が0.5質量%以下であることを特徴とする請求項5から7いずれか1項記載のイオントフォレーシス用の組成物
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、イオントフォレーシスを利用した美容方法およびイオントフォレーシス用の組成物に関するものである。より詳細には、イオントフォレーシスによりトラネキサム酸の経皮送達を高めて美白あるいは肌荒れ防止または改善効果をもたらす美容方法、ならびにトラネキサム酸を含有するイオントフォレーシス用の組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品や化粧料等に含まれる有効成分の経皮または粘膜吸収を促進させるために、イオントフォレーシス(イオン導入)の技術が利用されている。イオントフォレーシスとは、皮膚等に電極を当てて微弱な電流を流すことにより、本来皮膚に浸透しにくい成分の経皮送達を促進させる手法であり、電流によって形成される電場での同種電荷の電気反発(electro-repulsion)による力と、負に帯電している角層に吸着している陽イオンがマイナス極に引かれる際に生じるプラス極からマイナス極側への水の流れによる電気浸透流(electro-osmosis)による力によって、成分の経皮送達がもたらされると考えられている。図1に、イオントフォレーシスによる経皮送達の機序の概略を図示する。
【0003】
例えば、水溶性ステロイド(特許文献1)、および局所麻酔剤としてのリドカイン塩(特許文献2)などについてイオントフォレーシスによる投与が報告されている。
【0004】
また、美容業界では、美白や肌質改善のために、ヒトの胎盤の抽出成分であるプラセンタや、ビタミンCについてイオントフォレーシスが行われている。ビタミンC(アスコルビン酸またはその誘導体)は粉末を単に水に溶かすだけでマイナスに荷電するため、マイナス極側からのイオントフォレーシスを施すことによって電気反発によってその経皮送達が高められる。
【0005】
一方で、トラネキサム酸およびその誘導体は抗プラスミン剤として一般に用いられており、化粧品用途でも、美白作用および抗肌荒れ作用等を有するとして各種外用剤等に配合されているが、トラネキサム酸は外用塗布で経皮吸収されにくく、より高い美白効果等をもたらすためにトラネキサム酸の経皮送達を高めることが強く望まれていた。しかしながら、トラネキサム酸は両性化合物であり、通常化粧料等で用いられる水溶液の中性pH領域(約7.3〜7.8)では見かけ上ほとんど解離しておらず、また、ビタミンCについて行われているようにトラネキサム酸を単に水に溶解させたのではほとんど電流が流れなかった。従って、イオントフォレーシスによりトラネキサム酸の経皮送達を高めることについて、これまで全く報告されていない。
【特許文献1】国際公開第96/011034号パンフレット
【特許文献2】特開平10−316590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑み、イオントフォレーシスによってトラネキサム酸の経皮送達を高めて、より効果的な美白および肌荒れ防止または改善効果をもたらすことができる美容方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
また、本発明は、イオントフォレーシスによるトラネキサム酸の経皮送達を可能にする、イオントフォレーシス用のトラネキサム酸含有組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
トラネキサム酸はカルボキシル基とアミノ基とを有する両性化合物であり、pHによって解離状態が異なり、等電点は約7.5で、Pka1は4.33、pKaは10.65である。従って、トラネキサム酸を水に溶解させたさせた際のpH領域であるpH7前後ではトラネキサム酸は見かけ上ほとんど解離しておらず、pHを弱酸性(pH3.5から6.5)にするとトラネキサム酸はプラスに荷電し、一方pHを弱塩基性(pH8.5から10.5)にするとマイナスに荷電する。
【0009】
以下に組成物のpHとトラネキサム酸の解離状態を示す:
【化1】


【0010】
本発明者は、トラネキサム酸含有組成物のpHを3.5から6.5の弱酸性にしてトラネキサム酸をプラスに荷電させ、かつプラス極側からのイオントフォレーシスを施すことによって、トラネキサム酸の経皮送達が顕著に高められること、さらには、pHを8.5から10.5の弱塩基性にしてトラネキサム酸をマイナスに荷電させてマイナス極側からイオントフォレーシスを施すことによっても通常の外用塗布に比べトラネキサム酸の経皮送達が高められることを見出し、本願発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の美白あるいは肌荒れ防止または改善のための美容方法は、トラネキサム酸を含有するpH3.5から6.5の組成物を皮膚に接触させた後、該皮膚にプラス極側からのイオントフォレーシスを施すか、あるいはトラネキサム酸を含有するpH8.5から10.5の組成物を皮膚に接触させた後、該皮膚にマイナス極側からのイオントフォレーシスを施すことを特徴とする。
【0012】
また、本発明のプラス極側からのイオントフォレーシス用の組成物はトラネキサム酸を含有しかつpH3.5から6.5であることを特徴とし、マイナス極側からのイオントフォレーシス用の組成物はトラネキサム酸を含有しかつpH8.5から10.5であることを特徴とする。
【0013】
本明細書において、「プラス極側からのイオントフォレーシス」とは、組成物を接触させた皮膚にプラス電極を当てて(すなわちプラス極を導入極として:Anodal IP)イオン導入することを意味する。また、「マイナス極側からのイオントフォレーシス」とは、組成物を接触させた皮膚にマイナス電極を当てて(すなわちマイナス極を導入極として:Cathodal IP)イオン導入することを意味する。
【0014】
プラス極側からイオントフォレーシスを施す場合、イオントフォレーシス用の組成物は、0.1から0.5質量%のクエン酸を含有することが好ましい。トラネキサム酸水溶液は無調整の場合pH7程度であり、クエン酸、乳酸および酢酸などの有機酸およびHCl等の無機酸のような任意の酸を用いて所望のpHに調整することができるが、pH安定性、安全性およびイオン導入効果の観点から、クエン酸をpH調整剤として用いることが好ましい。
【0015】
また、本発明のイオントフォレーシス用の組成物において、塩の配合量は0.5質量%以下であることが好ましい。塩によるイオンがトラネキサム酸の競合イオンとなり、塩の配合量が0.5質量%を超えると、トラネキサム酸の経皮送達が低下する傾向がある。
【0016】
本発明の美容方法は、例えばケミカルピーリング施術後の皮膚に適用することができる。ケミカルピーリングによる乾燥、炎症、肌荒れ等を効果的に軽減することができると共に、相乗的な美白および美肌効果をもたらすことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、トラネキサム酸含有組成物のpHを3.5から6.5の弱酸性にしてプラス極側からのイオントフォレーシスを施すか、あるいはトラネキサム酸含有組成物のpHを8.5から10.5の弱アルカリ性にしてマイナス極側からのイオントフォレーシスを施すことによって、トラネキサム酸の経皮送達を顕著に高めることができ、短期間で効率的に高い美白および肌荒れ防止または改善効果をもたらすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の美容方法で用いる組成物または本発明のイオントフォレーシス用の組成物はトラネキサム酸を含有する。
【0019】
トラネキサム酸の配合量は、特に限定はされないが、組成物全量に対して、好ましくは0.1質量%〜10.0質量%であり、より好ましくは0.5質量%〜5質量%であり、さらに好ましくは1質量%〜3質量%である。0.1質量%未満の配合量では、十分な美白または抗肌荒れ効果をもたらすことができない場合があり、また、組成物中10.0質量%を越えて配合しても、配合量の増加に見合った効果の増強が見られなくなり好ましくない。
【0020】
プラス極側からイオントフォレーシスを施す場合、本発明における組成物のpHは、pH3.5から6.5の弱酸性である。pHが3.5より低いと皮膚に接触させた際に刺激が強過ぎ、またpHが6.5より高いとトラネキサム酸が十分解離しない。より好ましくは、pH4.5から5.5であり、最も好ましくは約pH5である。
【0021】
また、マイナス極側からイオントフォレーシスを施す場合には、本発明における組成物のpHは、pH8.5から10.5の弱アルカリ性である。pHが10.5より高いと皮膚に接触させた際に刺激が強過ぎ、またpHが8.5より低いとトラネキサム酸が十分解離しない。より好ましくは、pH8.5から9.5であり、最も好ましくは約pH9である。
【0022】
プラス極側からイオントフォレーシスを施す場合、例えばクエン酸、乳酸、酢酸等の有機酸、および/または塩酸等の無機酸等、任意の酸を単独でまたは2種以上を組み合わせて配合して、本発明の組成物のpHを上述したような所望のpHに調整することができる。pH安定性、安全性およびイオン導入効果の観点から、クエン酸、乳酸および酢酸などの有機酸をpH調整剤として用いることが好ましく、特にクエン酸が最も好ましい。酸の配合量は所望のpHを達成できる量であり、用いる酸の種類やトラネキサム酸の配合量等によって異なり限定はされないが、例えばトラネキサム酸2.0質量%に対して、クエン酸を用いる場合、通常0.1から0.5質量%であり、より好ましくは0.3から0.5質量%である。クエン酸等の有機酸の配合量が0.5質量%を超えると、トラネキサム酸の経皮送達が低下する傾向があり、また0.1質量%未満であると、そのpH安定性が悪い場合がある。
【0023】
一方、マイナス極側からイオントフォレーシスを施す場合、例えばKOH、トリエタノールアミン、2-アミノ-2- メチル−1,3 プロパンジオール、2-アミノ-2- メチル-1- プロパノール等の有機アミン、アルギニンなどの塩基性アミノ酸等、任意の塩基性物質を単独でまたは2種以上を組み合わせて配合して、本発明の組成物のpHを上述したような所望のpHに調整することができる。それら塩基性物質の配合量は所望のpHを達成できる量であり、用いる塩基性物質の種類やトラネキサム酸の配合量等によって異なり限定はされない。
【0024】
本発明の組成物には、塩を配合することもできるが、トラネキサム酸をpH7.5以下で使用する場合はNa、Kなどの陽イオンが、またpH7.5以上で使用する場合はClなどの陰イオンが、トラネキサム酸の競合イオンとなるため、例えばNaCl等の塩の配合量は、0.5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0025】
本発明における組成物は、限定はされないが、例えば、水溶液、ゲル状水溶液、水含有成型ゲル剤、ゲル状軟膏、水含有成型ゲルを担持したシート状製剤、あるいはスクワランやエステル油などの油分を含むO/Wエマルションなどの形態で提供される。
【0026】
さらに、本発明における組成物は、上記した構成成分の他に、水溶液、ゲル剤やエマルション等の目的とする剤形において通常用いられている他の任意の成分を必要に応じて適宜配合することができる。そのような成分として、特に限定はされないが、例えば、保湿剤、増粘剤、アルコールなどの有機溶媒等が挙げられる。
【0027】
保湿剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、フルクトース、マンノース、エリスリトール、トレハロース、キシリトール、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ムコイチン硫酸、カロニン酸等が挙げられる。
【0028】
また増粘剤としては、アラビアガム、カラギーナン、カラヤガム、トラガカントガム、キャロブガム、クインスシード(マルメロ)、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、ペクチン酸ナトリウム、アラギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、CMC、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、PVA、PVM、PVP、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ローカストビーンガム、グアガム、タマリントガム、ジアルキルジメチルアンモニウム硫酸セルロース、キサンタンガム、寒天、ベントナイト、ヘクトライト、ケイ酸AlMg(ビーガム)、ラポナイト等が挙げられる。
【0029】
有機溶媒としては、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類が挙げられる。
【0030】
さらに、例えばフェノキシエタノール、パラベン等の防腐剤や、例えばブチルヒドロキシトルエン,トコフェロール,フィチン等の酸化防止剤、さらには、必要に応じて、上述した酸または塩基性物質以外の緩衝剤またはpH調整剤等を配合してもよいが、安全性の観点から防腐剤や酸化防止剤等を含有しないことが好ましい。
【0031】
本発明の美容方法において、組成物を皮膚に接触させる方法は、組成物中のトラネキサム酸を経皮送達できるものであればいかなる方法を採用してもよい。例えば水溶液またはゲル状製剤またはO/Wエマルションを直接皮膚に塗布したり、あるいは例えばガーゼ等に組成物を含浸させて皮膚に適用してもよい。また、シート状の組成物を皮膚に直接貼り付けてもよい。あるいはイオントフォレーシス装置の電極構造体に一体化した薬剤貯蔵部に組成物を含ませてパッドやイオン交換膜等を介して皮膚に接触させてもよい。その適用部位も特に限定されず、顔、腕、背部、足、胸部等、体のいかなる皮膚であってもよい。
【0032】
組成物を接触させた皮膚にプラス電極またはマイナス電極を当てて、イオントフォレーシスを施す。イオントフォレーシスの手法、装置、電圧の印加条件等は、通常用いられている任意のものを用いることができる。
【0033】
例えば、電極としては、白金、カーボン、銀、塩化銀電極などを用いることができ、通電方法も直接型、パルス型、パルス脱分極型など任意の方法でよい。
【0034】
また電流密度も限定されないが、好ましくは0.001〜0.5mA/cmであり、より好ましくは0.01〜0.4mA/cmであり、さらに好ましくは0.05〜0.3mA/cmである。0.001mA/cm未満であるとトラネキサム酸の経皮送達が十分でない場合があり、また0.5mA/cmを超えると皮膚刺激性を示す場合がある。
【0035】
イオントフォレーシスの施術時間も特に限定されないが、通常0.5〜30分であり、より好ましくは1〜20分である。また、施術回数や間隔も任意であってよい。
【0036】
本発明の美容方法は、イオントフォレーシスを用いたトラネキサム酸の経皮送達によって美白または肌荒れ防止または改善をもたらし得るものであればよく、単独で行ってもよいし、あるいは他の任意の美容方法と組み合わせてもよい。
【0037】
例えば、ケミカルピーリング施術後の皮膚に本発明の美容方法を適用することによって、ケミカルピーリングによる乾燥、炎症、肌荒れ等を効果的に軽減することができ、また相乗的な美白および美肌効果をもたらすことができる。本明細書において、「ケミカルピーリング」とは、例えばα−ヒドロキシ酸、トリクロロ酢酸、サリチル酸、またはフェノール等の化学物質を皮膚に塗布して、その作用により表層部を一定の深さで剥離させる方法を意味する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
1.トラネキサム酸含有組成物のpHおよび導入極の検討
表1に示す処方で、それぞれpH5、7、および9のトラネキサム酸含有組成物を調製した。配合量はいずれも組成物全量に対する質量%で表す。トラネキサム酸はpH5ではプラスに荷電し、pH7では見かけ上ほとんど電荷をもたず、またpH9ではマイナスに荷電していた。
【表1】


【0040】
イオントフォレーシス実験装置としてフランツセルを用い、電源としてファンクションジェネレーター(FG273;KENWOOD製)を用いた。また、プラス電極としてAg電極、マイナス電極としてAgCl電極を用いた。各組成物をドナー液とし、リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)をレシーバー液として用いた。図2に、in vitroイオントフォレーシス実験の概略を示す。
【0041】
予め37℃に保温したセルにヘアレスマウスの皮膚を挟み、真皮層側のセルにレシーバー液7.5ml、角質層側のセルにドナー液3mlを添加した。プラス極を導入極とする場合(Anodal IP)は、ドナー液側にAg電極、レシーバー液側にAgCl電極を用い、逆にマイナス極を導入極とする場合(Cathodal IP)は、ドナー液側にAgCl電極、レシーバー液側にAg電極を用いて、0.28mA/cm2、10kHz、50%dutyの条件下で30分間電流を流した。また、対照として、各組成物について電流を流さないで同様に実験した(IP無)。レシーバー液中のトラネキサム酸(TA)の濃度をLC−MSによる微量定量法を用いて測定して、累積透過量を求めた。累積透過量は、一定面積あたりの薬物の皮膚透過量(μg/cm2)と定義される。また、セルに挟んだヘアレスマウス皮膚におけるトラネキサム酸(TA)の皮内濃度(角層表皮濃度)を求めた。図3Aは30分後におけるトラネキサム酸の累積透過量を示し、また図3(B)および図3(C)は、それぞれpH5でプラス極側から導入した場合、およびpH9でマイナス極側から導入した場合の、トラネキサム酸(TA)の皮内濃度(角層表皮濃度)を示す。いずれも平均値±SD(n=3)で示す。
【0042】
図3(A)に示すように、組成物のpHが5で、プラス極側からイオン導入した場合にトラネキサム酸の累積透過量が最も高く、トラネキサム酸の経皮送達を顕著に高めることができた。また、組成物のpHが9でマイナス側からイオン導入した場合も、pH5でプラス極側からイオン導入した場合よりその効果は低いが、イオン導入しない場合よりも有意にトラネキサム酸の経皮送達を高めることができた。上述したように、イオントフォレーシスによる経皮送達は、電流によって形成される電場での同種電荷の電気反発による力と、負に帯電している角層に吸着している陽イオンがマイナス極に引かれる際に生じるプラス極からマイナス極側への水の流れによる電気浸透流による力によってもたらされると考えられる(図1)。従って、pH5においてプラスに荷電したトラネキサム酸にプラス極からイオン導入した場合、電気反発力と電気浸透流による力が共に正に作用するため、トラネキサム酸の累積透過量が最も高められたと考えられる。一方、pH9でマイナス極からイオン導入した場合のトラネキサム酸の経皮送達促進効果は電気反発力のみによるものと考えられる。
【0043】
さらに、図3(B)および(C)に示すように、角層表皮内のトラネキサム酸濃度も、pH5でプラス極からイオン導入した場合およびpH9でマイナス極からイオン導入した場合において、電流を流さない場合と比較して有意に上昇した。
【0044】
2.塩濃度の検討
次に、競合イオンの濃度の影響を調べるために、上記表1のpH5の組成物に、以下の表2に示す濃度でNaClを添加し、各濃度の塩を含有するトラネキサム酸含有組成物(いずれもpH約5)を調製した。イオントフォレーシス実験装置としてフランツセルを用いて上述した方法に従いプラス極側からイオン導入し、30分後のトラネキサム酸の累積透過量および角層表皮濃度を測定した。対照として、0.5質量%のNaClを含有する試料について、電流を流さないで同様に測定した。各試料につき平均値(n=3)を求め、累積透過量および皮内濃度(角層表皮濃度)を表2に示す。
【表2】


【0045】
いずれも電流を流さない場合と比べるとトラネキサム酸の累積透過量は増加したが、塩濃度が0.5質量%を超えると、イオントフォレーシスによるトラネキサム酸の透過促進効果が低下する傾向が認められた。
【0046】
3.in vivo経皮吸収促進効果の検討
表3に示す処方で調製したトラネキサム酸含有組成物(pH4.89およびpH10.0)を用い、以下の方法によってイオントフォレーシスによるトラネキサム酸のin vivo 経皮吸収促進効果について検討した。電流を流さない場合についてはpH4.89の処方を用いた。
【表3】


【0047】
実験方法
ハートレイモルモット背部皮膚をシェーバで除毛後、表3のpH4.89またはpH10.0の組成物を1ml塗布し、ビタリオンII(インディバジャパン社製)を用いて、それぞれプラス極側(Anodal IP)またはマイナス極側(Cathodal IP)からイオントフォレーシスを5分間施した。対照として、同じ組成物を皮膚に塗布して、電流を流さないで5分間放置した(IP無し)。投与30分後に、水道水で洗浄、投与部位の皮膚を採取した。皮膚を角層表皮および真皮の2層に分割し、角層表皮中のトラネキサム酸(TA)濃度をLC−MSにて測定した。平均値±SD(n=3)として結果を図4に示す。
【0048】
本発明の方法に基づきpH5付近のトラネキサム酸含有組成物を皮膚に塗布してプラス極側からイオントフォレーシスを施すか、またはpH10付近のトラネキサム酸含有組成物を皮膚に塗布してマイナス極側からイオントフォレーシスを施すことによって、トラネキサム酸のin vivo経皮吸収を有意に促進することができ、その効果はpH5の方が高かった。
【0049】
4.in vivo美白効果の検討
上記の表3に示す処方で調製したトラネキサム酸含有組成物(pH4.89)を用いて、以下の方法によってin vivo美白効果について検討した。
【0050】
実験方法
8―メトキシプソラレン(8−Methoxypsoralen)処理光毒性色素沈着Wiser Mapleモルモットを用いて、毛がりした背部に、トラネキサム酸含有組成物1mlを皮膚に塗布し、ビタリオンII(インディバジャパン社製)を用いてプラス極側からイオントフォレーシスを5分間施した(Anodal IP)。対照として、同じ組成物を皮膚に塗布して、電流を流さないで5分間放置した(IP無し)。7週間毎日同様に処理し、以下の評価基準で1週間ごとにその脱色効果を評価した:
評価基準
評価基準に基づき、7週後の5匹の平均評価点を求めた。
【0051】
色素沈着の脱色効果
(評価点1.0):色素沈着がほとんど目立たなくなった
(評価点0.5):色素沈着が非常にうすくなった
(評価点0.25):色素沈着がうすくなった
(評価点0):変化なし
色素沈着増強効果(副作用)
(評価点0):変化なし
(評価点−0.25):色素沈着が少し濃くなった
(評価点−0.5):色素沈着が濃くなった
(評価点−1.0):色素沈着が非常に濃くなった
スコアの平均値±SD(n=5)として結果を図5Aのグラフに示す。また、7週間後の皮膚の写真を図5Bに示す。
【0052】
約pH5のトラネキサム酸含有組成物を皮膚に塗布してプラス極側からイオントフォレーシスを施すことによって、単に組成物を皮膚に塗布するのみよりも、有意に高い美白効果をもたらすことができた。
【0053】
以下に、本発明のイオントフォレーシス用の組成物の処方例を実施例として示す。尚、配合量は全て組成物全量に対する質量%で表す。
【0054】
実施例1
プラス極側からのイオントフォレーシス用の組成物(1)
配合成分 配合量(質量%)
イオン交換水 97.6
トラネキサム酸 2.0
クエン酸(食品) 0.4
pH 4.9
【0055】
実施例2
プラス極側からのイオントフォレーシス用の組成物(2)
配合成分 配合量(質量%)
イオン交換水 87.1
トラネキサム酸 2.0
クエン酸(食品) 0.4
アルキレンオキシド誘導体 10.0
フェノキシエタノール 0.5
pH 5.1
【0056】
実施例3
プラス極側からのイオントフォレーシス用の組成物(3)
配合成分 配合量(質量%)
イオン交換水 87.1
トラネキサム酸 2.0
クエン酸(食品) 0.4
グリセリン 10.0
フェノキシエタノール 0.5
pH 5.0
【0057】
実施例4
プラス極側からのイオントフォレーシス用の組成物(4)
配合成分 配合量(質量%)
イオン交換水 87.1
トラネキサム酸 2.0
クエン酸(食品) 0.4
1,3−ブチレングリコール 10.0
フェノキシエタノール 0.5
pH 5.1
【0058】
実施例5
プラス極側からのイオントフォレーシス用の組成物(5)
配合成分 配合量(質量%)
イオン交換水 87.1
トラネキサム酸 2.0
クエン酸(食品) 0.4
エタノール 10.0
フェノキシエタノール 0.5
pH 5.2
【0059】
実施例6
マイナス極側からのイオントフォレーシス用の組成物(1)
配合成分 配合量(質量%)
イオン交換水 87.495
トラネキサム酸 2.0
グリセリン 10. 0
NaOH(試薬) 0.005
フェノキシエタノール 0.5
pH 9.0
【0060】
実施例7
マイナス極側からのイオントフォレーシス用の組成物(2)
配合成分 配合量(質量%)
イオン交換水 87.46
アルキレンオキシド誘導体 5.0
トラネキサム酸 2.0
エタノール 5.0
NaOH(試薬) 0.040
フェノキシエタノール 0.5
pH 10.2
【0061】
これら実施例のトラネキサム酸含有組成物はいずれも、プラス極側からのイオントフォレーシス(実施例1から5)またはマイナス極側からのイオントフォレーシス(実施例6から7)によって高い美白および肌荒れ改善または防止効果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】イオントフォレーシスによる経皮送達の機序の概略図
【図2】in vitroイオントフォレーシス実験の概略図
【図3】pHおよび導入極の影響を示すグラフ
【図4】イオントフォレーシスによるトラネキサム酸のin vivo経皮吸収促進効果を示すグラフ
【図5】in vivo美白効果を示すグラフ(A)および皮膚の写真(B)
【出願人】 【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社資生堂
【住所又は居所】東京都中央区銀座7丁目5番5号
【出願日】 平成17年4月21日(2005.4.21)
【代理人】 【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史

【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛

【公開番号】 特開2006−298850(P2006−298850A)
【公開日】 平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願番号】 特願2005−124312(P2005−124312)