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【発明の名称】 Aktシグナル経路の活性化阻害を目的として使用するレフルノミド
【発明者】 【氏名】澤向 範文

【氏名】田中 良哉

【要約】 【課題】レフルノミドが、Aktシグナル経路を抑制するという新しい知見に基づいて、レフルノミドの新規の用途を提供することを目的とする。

【解決手段】Aktシグナル経路の活性化阻害を目的として、また、Aktシグナル経路の活性化阻害による、同経路の活性化した細胞に対する細胞増殖抑制及び、アポトーシス誘導を目的としてレフルノミドを使用する。更に、レフルノミドの有効量を含有することからなる、Aktシグナル経路の活性化阻害に基づく疾患を予防及び治療するための医薬としてレフルノミドを使用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aktシグナル経路の活性化阻害を目的として使用するレフルノミド。
【請求項2】
Aktシグナル経路の活性化阻害による、該経路の活性化した細胞に対する細胞増殖抑制及び、アポトーシス誘導を目的として使用するレフルノミド。
【請求項3】
請求項1及び2のいずれか1項に記載のレフルノミドにおいて、癌の治療にも合わせて使用するレフルノミド。
【請求項4】
請求項1及び2のいずれか1項に記載のレフルノミドにおいて、マスト細胞が関与する病態の治療に使用するレフルノミド。
【請求項5】
レフルノミドの有効量を含有することからなる、Aktシグナル経路の活性化に基づく疾患を予防及び治療するためのレフルノミドの医薬としての使用。
【請求項6】
請求項5記載のレフルノミドの医薬としての使用において、前記活性化に基づく疾患は、癌及びマスト細胞が関与する疾患のいずれか1又は2であるレフルノミドの医薬としての使用。
【請求項7】
請求項6記載のレフルノミドの医薬としての使用において、レフルノミドを生理学的に許容し得る賦形剤と共に、又は、該賦形剤と、他の活性化合物、添加剤、及び補助物質のいずれか1又は2以上と共に、所定の製剤形態にすることからなるレフルノミドの医薬の製法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内Aktシグナル経路の活性化阻害を目的としたレフルノミドの使用、及びAktシグナル経路が活性化した細胞へのアポトーシス誘導を目的としたレフルノミドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
レフルノミド(HWA−486)は、N−(4−トリフルオロメチルフェニル)−5−メチルイソオキサゾール−4−カルボキサミドという名前をもつイソキサゾール誘導体である。投与すると、この化合物は、速やかにその活性開環型であるN−(4−トリフルオロメチルフェニル)−2−シアノ−3−ヒドロキシクロトンアミド(A771726)に変換され、その後速やかに、ケト−エノール互変異を受けて、下記のN−(4−トリフルオロメチルフェニル)−2−シアノ−3−オキソ−ブチルアミドとなる。
【0003】
【化1】


【0004】
(既知の用途と機序)
このレフルノミドは、抗炎症作用を有し関節リウマチの治療薬として使用されている。
その主な作用機序として、ピリミジンヌクレオチド三リン酸の生合成における要の酵素であるジヒドロオロチン酸デヒドロゲナーゼ(DHODH)に作用し核酸合成阻害をもたらし、細胞増殖抑制、細胞周期を停止させることが知られている。なお、レフルノミドに関する発明としては、インターロイキン1アルファを阻害するためのレフルノミドの使用(例えば、特許文献1参照)、腫瘍壊死因子アルファを阻害するためのレフルノミドの使用(例えば、特許文献2参照)、インターロイキン8を阻害するためのレフルノミドの使用(例えば、特許文献3参照)、インターロイキン1ベータを阻害するためのレフルノミドの使用(例えば、特許文献4参照)、レフルノミドの合成方法(例えば、特許文献5参照)、レフルノミド産物の抗ウイルス用途(例えば、特許文献6参照)、レフルノミドの新規な製法及び新しい結晶形態(例えば、特許文献7参照)等がある。
しかしながら、本申請の様な、細胞内シグナル伝達経路であるAktシグナル経路の活性化を抑制する作用は報告されていない。また、同経路の活性化を抑制することにより、同経路活性化細胞にアポトーシスをもたらす作用も知られていない。
【0005】
【特許文献1】特開平06−234638号公報
【特許文献2】特開平06−234637号公報
【特許文献3】特開平06−234636号公報
【特許文献4】特開平06−234635号公報
【特許文献5】特表2004−500380号公報
【特許文献6】特表2003−523309号公報
【特許文献7】特表2003−517011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(Aktシグナル経路活性化細胞における背景)
端的にはAktシグナル経路が異常に活性化した細胞は腫瘍化する。腫瘍細胞の異常増殖や不死化のメカニズムには、アポトーシス誘導シグナルの減少だけでなく、生存シグナルの増大が関与していることが知られている。細胞の最も重要な生存シグナルの一つとして知られるP13K/PDK/Akt経路に関る分子は、多くの癌で遺伝子増幅や活性亢進が起きていることが明らかとなっている。活性化したAktは、シグナル下流のGSK3β、FKHR、p27Kipl、Bad、N F- kB、Caspase−9、Fas mediated signal、MDM2等の分子群を介して細胞増殖、アポトーシス抵抗性に働くことが知られている。
サイトカイン及び増殖因子受容体変異による受容体の恒常的活性化は下流のP13K/PDK/Akt経路を活性化させ、細胞の腫瘍化の要因となっていることが知られている。
一方、癌抑制遺伝子PTEN(Phosphatase and tensin homolog deleted on chromosome ten)がAkt活性化を阻害することにより腫瘍に対し抑制効果を示すことが知られているが、PTENの異常は癌化と密接な関係がある。実際、PTENは子宮内膜癌や前立腺癌等の多くの悪性腫瘍において変異が報告され、DNAメチル化などによりPTEN機能不活化が癌化に関ることが報告されており、PTENが関与する癌はさらに多く存在するものと考えられる。さらに、PTENの先天性変異はCowden病やLhermitte−Duclos病、Bannayan−Zonana症候群など、多発性の過誤腫を伴い、高頻度に乳癌、甲状腺癌、卵巣癌などを好発する疾患を引き起こすことが知られている。
【0007】
(Aktシグナル経路活性化阻害薬の抗腫瘍薬としての可能性)
恒常的なAktの異常賦活化を呈す、サイトカイン及び増殖因子受容体の変異、癌抑制遺伝子PTENの変異や欠如は、多くの腫瘍で認められる。また、多くの腫瘍でP13キナーゼやAkt遺伝子増幅が報告されている。しかし、正常細胞においては、この経路はあまり働いていない。以上のことから、Akt経路の活性化阻害は、抗腫瘍剤を始めとした医薬への応用が期待できる。
【0008】
(マスト細胞における背景)
マスト細胞はI型アレルギーや各種アレルギー疾患、慢性炎症性疾患、自己免疫疾患、組織線維化などの病態形成に関与するとされる。マスト細胞は増殖因子ステムセルファクター(SCF)がその受容体KITを介し、Akt経路を活性化させることにより長期生存し、炎症や疾患の慢性化に関与している。従って、Aktシグナル経路の活性化阻害はマスト細胞の生存を制御する上で重要な経路である。
【0009】
本発明者はレフルノミドがAktシグナル経路を抑制させ、同経路賦活癌細胞をアポトーシスに導くことを突き止めた。また、その機序として、Aktを活性化させる分子であるPDK1のリン酸化を抑制し、さらにAktのリン酸化を抑制することを明らかとし、以下に示す本発明を完成した。すなわち、レフルノミドが、Aktシグナル経路を抑制するという新しい知見に基づいて、レフルノミドの新規の用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の通りである。
(発明1)Aktシグナル経路の活性化阻害を目的として使用するレフルノミド。
(発明2)Aktシグナル経路の活性化阻害による、同経路の活性化した細胞に対する細胞増殖抑制及び、アポトーシス誘導を目的として使用するレフルノミド。
(発明3)マスト細胞腫瘍、子宮癌、前立腺癌、メラノーマ、膀胱癌、乳癌、肺癌、造血系腫瘍、神経膠芽腫、骨肉腫、PTEN (Phosphatase and tensin homolog deleted on chromosome ten) 変異又は欠損腫瘍や増殖因子受容体異常腫瘍等の各種癌の治療にも合わせて使用する発明1、発明2に記載のレフルノミド。
(発明4)マスト細胞が関与する病態(例えば、慢性炎症性疾患、アレルギー疾患や自己免疫疾患等)の治療に使用する発明1、発明2に記載のレフルノミド。
(発明5)レフルノミドの有効量を含有することからなる、Aktシグナル経路の活性化に基づく疾患を予防及び治療するための医薬としての使用。
(発明6)マスト細胞腫瘍、子宮癌、前立腺癌、メラノーマ、膀胱癌、乳癌、肺癌、造血系腫瘍、神経膠芽腫、骨肉腫、PTEN変異又は欠損腫瘍や増殖因子受容体異常腫瘍等の各種癌等の疾患、さらに、マスト細胞が関与する慢性炎症性疾患、アレルギー疾患や自己免疫疾患等の疾患を予防及び治療するための発明5に記載の医薬としての使用。
(発明7)発明6のレフルノミドの医薬としての使用において、レフルノミドを、生理学的に許容し得る賦形剤と共に、又は、該賦形剤と、他の活性化合物、添加剤、及び補助物質のいずれか1又は2と共に、適当な製剤形態にすることからなる医薬の製法。
ここで、他の活性化合物とは、例えば各種抗癌剤、アレルギー剤、免疫剤等の併用可能な薬剤等をいう。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、レフルノミド産物が、Aktシグナル経路を抑制するという全く新しい知見に基づいて、同経路の活性化した細胞にアポトーシスを誘導させるという新規の用途を提供するものである。
レフルノミドは、既存の抗腫瘍薬や抗マスト細胞薬とは異なる方法で細胞増殖抑制、アポトーシス誘導を齎すことが発見されており、既知の抗腫瘍薬と併用する場合でも相乗効果が期待できる。この様なレフルノミドの新規作用機序はAkt経路が活性化した細胞に関る幅広い疾患の治療薬として、多大なる有用な医学的貢献が期待できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、リンパ球などの免疫担当細胞や白血病細胞などを使用して、サイトカインや増殖因子のレセプターとの結合を介するシグナル伝達機構を解明してきた。そして、一連の研究過程に於いて、マスト細胞の増殖因子SCF(ステムセルファクター)とそのレセプターであるKITに着目した。KIT受容体の活性化によりマスト細胞は長期生存を可能とするが、その恒常的活性化はマスト細胞を腫瘍化へ齎す。その代表的な腫瘍細胞株としてHMC−1(ヒトマスト細胞腫瘍株)が知られている。HMC−1はKIT受容体の変異により恒常的にその下流のシグナルが活性化されている。KIT受容体下流のシグナルの一つであるP13K/PDK1/Akt経路(Aktシグナル経路)は細胞の生存維持に非常に重要なシグナル経路であるが、HMC−1はこのAkt経路が恒常的に活性化した細胞であり、この細胞を用いてAktシグナル経路(以下、Akt経路とも言う)に及ぼすレフルノミド影響に着目した。
【0013】
つまり、細胞の生存維持に重要なAktシグナル経路の重要蛋白質であるAktと、Aktの上流でAktをリン酸化させる蛋白質であるPDK1に対する、レフルノミドの作用を検討した。Akt及びPDK1の活性化を証明するには、同蛋白質のリン酸化を検出することで証明でき、抗リン酸化Akt抗体、抗リン酸化PDK1抗体を用いたウエスタンブロット法(無数にある蛋白質の中から、ある特定のタンパク質だけを検出する方法であり、特定の蛋白質に対して抗体を反応させ、抗体の付いた特定の蛋白質をさらに発光する抗体と反応させ、発光の有る無し、強さを見ることにより、特定の蛋白質の存在及び量を調べる方法である。)を用いた。
【0014】
また、Akt経路の活性化した細胞に対するレフルノミドの細胞増殖抑制効果を見るために、tetracolor oneを用いて細胞増殖を検証(tetracolor oneを添加すると細胞増殖速度の違いにより細胞培養液の色が変化し、色の変化から細胞増殖速度の違いを吸光度測定器にて吸光度(OD)で検出する方法である)し、さらに、レフルノミドの作用機序が、従来主な作用機序であると言われてきた、ジヒドロオロチン酸デヒドロゲナーゼ(DHODH)阻害による核酸合成阻害であるかどうかをみるために、DHODH阻害による核酸合成阻害を回復する効果のあるウリジンを添加し、従来の主な作用機序とは異なる作用機序であるかを検証した。
【0015】
さらに、細胞がアポトーシスに陥る前に生じる細胞内変化の一つとして現れる、断片化カスペース(断片化カスペースはカスペースの活性化の証拠であり、カスペースが活性化すると細胞はアポトーシスに陥る)の存在、及び量を調べることによりレフルノミドの効果を検証した。
【0016】
最後に、レフルノミドによりアポトーシスが誘導されていることを、アネキシンV(PI−annexinV)を用いたアポトーシス検出法を用いて証明した。同方法はアネキシンVという早期アポトーシスに陥った細胞表面に出現するタンパク質を、それに対する抗体を使って検出する方法であり、アネキシンVが陽性ということは、早期アポトーシスに陥っていることを意味する。
【0017】
(方法)
(1)PDK1のリン酸化抑制の検討 (ウエスタンブロット)
(2)Aktのリン酸化抑制の検討 (ウエスタンブロット)
(3)細胞増殖実験(tetracolor one)
(4)断片化カスペース3誘導実験 (ウエスタンブロット)
(5)アポトーシス誘導実験 (アネキシンVアポトーシス検出法)
HMC−1(ヒトマスト細胞腫瘍株)に、レフルノミド(LEF)を0、10μM、100μM、200μM添加し、ウエスタンブロット法により、PDK1及びリン酸化したPDK1のレフルノミド添加による変化を検証した((1)の実験)。
同様に(2)、(4)の実験を行った。
さらに、tetracolor oneを用いて(3)の実験、アネキシンVアポトーシス検出法により、(5)の実験を行った。
【0018】
以上の結果を図1〜図5に示す。
(1)レフルノミドは容量依存性にPDK1のリン酸化を抑制した (図1参照)。
抗リン酸化PDK1抗体によるバンドが容量依存性に減弱している。抗PDK1抗体のバンドの減弱はなく、レフルノミドによるリン酸化の減少が、PDK1分子数そのものの減少に由来するのではないことが示されている。
(2)レフルノミドは容量依存性にAktのリン酸化を抑制した (図1参照)。
抗リン酸化Akt抗体によるバンドが容量依存性に減弱している。抗Akt抗体のバンドの減弱はなく、レフルノミドによるリン酸化の減少が、Akt分子数そのものの減少に由来するのではないことが示されている。
(3)レフルノミドは容量依存性に細胞増殖を抑制し(図2参照)、100μMの濃度でウリジンの添加による回復を認めなかった(図3参照)。P<0.01は、統計学的に有意差ありを示す。
(4)レフルノミドは容量依存性にカスペース3を断片化させた(図4参照)。
35kDa(キロダルトン)の分子量であるカスペース3が断片化され、35kDaのバンドの減弱と17及び19kDaのバンドの増強を認める。断片化カスペース3を特異的に認識する抗体でもバンドの増強を認める。
(5)レフルノミドは容量依存性にアポトーシスを誘導した(図5参照)。
レフルノミドを各濃度で添加した結果を、それぞれが4分割されて示してあるが、右下の領域が早期アポトーシスに陥った細胞(アネキシン陽性、PI陰性)を示している。図では右下の領域のドットがレフルノミドを添加することにより増加していることがわかる。
【0019】
(発明に至る実験結果の要約)
レフルノミドはAkt経路活性化腫瘍細胞のモデルであるHMC−1においてPDK1及びAktのリン酸化を抑制した。生存シグナルであるAkt経路が抑制された細胞にはアポトーシスが誘導された。この事象に関して特筆すべきは、HMC−1のレフルノミドによる増殖抑制がウリジン添加により回復せず、従来からいわれているレフルノミドの作用機序であるジヒドロオロチン酸デヒドロゲナーゼ阻害による核酸合成阻害作用以外の、Aktシグナル経路抑制を介したアポトーシス誘導剤としての作用をレフルノミドが示したことである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】レフルノミドによるPDK1及びAktのリン酸化抑制を示す説明図である。
【図2】レフルノミドによる細胞増殖抑制作用を示す説明図である。
【図3】ウリジン添加による、レフルノミドの細胞増殖抑制作用の回復の有無を示すグラフである。
【図4】レフルノミドによるカスペース3の断面化を示す説明図である。
【図5】レフルノミドによるアポトーシスの誘導を示す説明図である。
【出願人】 【識別番号】505104803
【氏名又は名称】澤向 範文
【識別番号】505104814
【氏名又は名称】田中 良哉
【出願日】 平成17年3月22日(2005.3.22)
【代理人】 【識別番号】100090697
【弁理士】
【氏名又は名称】中前 富士男

【公開番号】 特開2006−265117(P2006−265117A)
【公開日】 平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願番号】 特願2005−81972(P2005−81972)