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【発明の名称】 二形性真菌の酵母型生育誘導剤
【発明者】 【氏名】松本 達二

【氏名】三上 健

【氏名】渡部 俊彦

【氏名】小笠原 綾子

【氏名】又平 芳春

【氏名】三澤 義知

【要約】 【課題】安全性が高く、充分な真菌症の諸症状改善効果を期待できる二形性真菌の酵母型生育誘導剤を提供する。

【解決手段】形態二形性を示す二形性真菌の菌糸型生育に起因する真菌感染症の諸症状を軽減、改善すべく、有効量のキトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物、グルクロン酸、グルコサミニトール、ラクトシルアミン、ガラクトシルラクトサミン及びそれらの塩から選ばれた少なくとも1種を混入せしめることで、その二形性真菌の菌糸型生育を抑制し、酵母型生育を誘導する。前記オリゴ糖及びオリゴ糖の還元物は、その糖重合度が2〜8であるであることが好ましい。また、上記二形性真菌がカンジダ症の起因菌であるカンジダ属真菌、特にカンジダ アルビカンス(Candida albicans)であれば、カンジダ症の諸症状を軽減し、改善することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生育細胞において酵母型と菌糸型との形態二形性を示す二形性真菌の酵母型生育誘導剤であって、キトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物、グルクロン酸、グルコサミニトール、ラクトシルアミン、ガラクトシルラクトサミン及びそれらの塩から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする二形性真菌の酵母型生育誘導剤。
【請求項2】
前記キトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物は、その糖重合度が2〜8である請求項1記載の二形性真菌の酵母型生育誘導剤。
【請求項3】
前記二形性真菌が、カンジダ属に属する真菌である請求項1又は2記載の二形性真菌の酵母型生育誘導剤。
【請求項4】
前記二形性真菌が、カンジダ アルビカンス(Candida albicans)である請求項1〜3記載の二形性真菌の酵母型生育誘導剤。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物、グルクロン酸、グルコサミニトール、ラクトシルアミン、ガラクトシルラクトサミン及びそれらの塩から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有する二形性真菌の酵母型生育誘導剤に関する。より詳しくは、生育細胞において酵母形と菌糸形との形態二形性を示す二形性真菌について、その菌糸型生育を抑制する二形性真菌の酵母型生育誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
形態二形性を示す、いわゆる二形性真菌は、栄養増殖時において、単球あるいは楕円球状の酵母様に増殖する酵母型生育と、フィラメント状の菌糸様に増殖する菌糸型生育との双方の生育形態を可逆的に転換して増殖することができる。
【0003】
このような生育形態の可逆的な転換は、二形性真菌細胞がおかれる環境中、pH、栄養分、物理的因子等の特定の環境因子あるいはその変化によって誘導されることから、それらの二形性真菌が進化の過程で環境に適応するために獲得し維持している形質であると考えられている。したがって、その環境応答現象の統一的なメカニズムは明らかとされていないが、これらの二形性真菌に広く保存された機構が存在していると考えられている。
【0004】
一般に、真菌は、健常者に対して病原性が低いものの、体の抵抗力が弱ったり、体内の常在菌叢のバランスが崩れたときに感染症を引き起こす、いわゆる日和見感染症の原因菌となることが多い。
【0005】
真菌の感染症では、寄生組織に付着した真菌が増殖し組織を侵食することによってその症状が引き起こされるのが一般的であり、皮膚や爪などに発生する表在性真菌症や、皮下組織、消化管、肺等の内臓、又は、全身性に、体の深部組織を侵襲する内臓真菌症(深在性真菌症)などに分類される。内臓真菌症は重篤な基礎疾患や制癌剤等のために抵抗力が著しく低下している患者等に発症する場合が多い。
【0006】
人に病原性を示し、難治性の、あるいは、重篤な感染症を引き起こす病原性真菌としてはカンジタ属、アスペルギルス属、クリプトコックス属、トリコスポロン属等に属するものが代表的に挙げられ、カンジタ属、アスペルギルス属に属する真菌は上述の二形性真菌であることが知られている。
【0007】
これらのうちカンジダ症の起因菌であるカンジダ アルビカンス(Candida albicans)に代表されるカンジダ属真菌は、健常人に症状を引き起こすことなく寄生している人の常在菌であり、その真菌症の発症時には、その付着、侵食部位の皮膚上、消化管、口腔、肺、眼内組織、女性の膣内、血液やリンパ液中等の組織に寄生した真菌が増殖し組織を侵食することによって症状が引き起こされ、時に重篤な症状となることもある。
【0008】
二形性真菌では、その菌糸型の形態的特徴から、菌が寄生する組織への機械的侵襲は菌糸型生育時において誘発されるものと考えられている。また、カンジダ アルビカンス(Candida albicans)では、薬剤によってその菌糸型生育が誘発されるように遺伝子改変された変異株を用いて、その菌糸型生育時にマウスに対する病原性が促進され、一方、その酵母型生育を誘導することによって病原性が抑制されることが報告されている(下記非特許文献1参照)。したがって、生育状態を酵母型に誘導することで、菌が寄生する組織への付着や機械的侵襲性を抑制し、菌の病原性を抑止することができると期待されている。
【0009】
二形性真菌の生育状態を酵母型に誘導する試みとしては、下記特許文献1に、酵母形細胞と菌糸形細胞とに可逆的に転換する二形性真菌がカンジダ属である場合に、ファルネゾール、ファルゾネエイト、ファルネシル アセテイト、ファルネセン、またはネロリドールを成分中に含んでいることを特徴とする二形成真菌であるカンジダ属に対する形態転換制御活性機能剤が開示されている。
【0010】
上記ファルネゾール等は、植物等に含まれる芳香性精油の成分であり、直鎖状の不飽和炭化水素を主鎖に有する炭素数15のドデカトリエン又はドデカテトラエン構造を有する化合物である。
【0011】
一方、カニ、エビ等の甲殻類の殻等から調整することができる天然素材であるキチンは、N−アセチル−D−グルコサミンを構成糖とする直鎖状の重合構造をその基本構造としてなる天然多糖類である。また、キトサンは、キチンに構成的に含まれるN−アセチル残基を加水分解、除去して得られる多糖類であり、D−グルコサミン(2−アミノ−D−グルコース)を構成糖とする直鎖状の重合構造をその基本構造としてなる天然多糖類である。
【0012】
そのキチンやキトサンのβ−1,4グルコシド結合を加水分解して得られるオリゴ糖であるキチンオリゴ糖又はキトサンオリゴ糖は、構成糖の重合度が2〜数十程度のオリゴ糖の総称であり、天然素材としての様々な利用・応用が期待されている。
【0013】
例えば、キトサンオリゴ糖の抗菌活性について、下記特許文献2及び特許文献3には、キトサンオリゴ糖を有効成分とする齲蝕予防・抑制剤が開示されている。また、下記特許文献4には、本出願人によって、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖及びその塩から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする肝機能障害予防改善剤が開示されている。
【0014】
また、下記特許文献5には、キトサンオリゴ糖の特性を失うことなく、着色を防止し、特に水溶液状態での安定性を高めた還元キトサンオリゴ糖(キトサンオリゴ糖アルコール体)も提案されている。そして、下記特許文献6には、原料に由来する部分アセチル化キトオリゴ糖などの不純物を効率よく除去することができると共に製造過程におけるキトサンオリゴ糖の着色を防止することができ、高純度のキトサンオリゴ糖及びキトサンオリゴ糖アルコール体を効率よく製造できる方法が開示されている。
【0015】
更に、下記特許文献7には、N−アセチルグルコサミンのアルコール体であるN−アセチルグルコサミニトール、及び/又は、キトオリゴ糖の還元物を含有する新規な食品素材、特に非う蝕及び難消化性の特性を有する新規な食品素材が開示されている。
【非特許文献1】Stephan P. Saville et al. Eukaryotic Cell, 2003 Vol.2 (5) p.1053-1060
【特許文献1】特許第3056730号公報
【特許文献2】特開2004−91413号公報
【特許文献3】特開2004−256557号公報
【特許文献4】特開平10−287572号公報
【特許文献5】特公平4−74358号公報
【特許文献6】特開2003−212889号公報
【特許文献7】特許第2529166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
真菌は真核生物でありその細胞生理上の基本機構が高等生物と類似していることから、抗真菌活性を有する化合物は人等の細胞にも作用してしまうという問題がある。したがって、真菌に対して選択的に作用し副作用の少ない抗真菌剤を得ることには、その細胞生理上の基本機構が高等生物とは異なる細菌に対する化合物(いわゆる抗生物質)と比べて、一般に困難性が伴う。
【0017】
従来からの抗真菌剤は真菌の細胞の増殖を抑制し、あるいは、真菌の細胞を死滅せしめる抗真菌活性を有する化合物であり、その活性は高いものの、上記理由から副作用の問題や、また、耐性菌の面から長期の投薬には適さないという問題があった。
【0018】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は安全性が高く、充分な真菌症の諸症状改善効果を期待できる二形性真菌の酵母型生育誘導剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、生育細胞において酵母形と菌糸形との形態二形性を示す二形性真菌について、その菌糸型生育を、キトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖還元物などの特定の糖類によって抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明の二形性真菌の酵母型生育誘導剤は、生育細胞において酵母型と菌糸型との形態二形性を示す二形性真菌の酵母型生育誘導剤であって、キトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物、グルクロン酸、グルコサミニトール、ラクトシルアミン、ガラクトシルラクトサミン及びそれらの塩から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、真菌細胞が増殖するために必要な細胞外部からの栄養源に、有効量の上記特定の糖類を混入せしめることで、二形性真菌の菌糸型生育を抑制し酵母型生育を誘導することができる。
【0022】
本発明においては、上記キトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物は、その糖重合度が2〜8であることが好ましい。これによれば、活性の低いキトサンオリゴ糖及びキチンオリゴ糖が除かれているので、より比活性の高いものとすることができる。
【0023】
上記二形性真菌が、カンジダ属に属する真菌であれば、本発明の真菌の酵母型生育誘導剤を効果的に用いることができる。
【0024】
また、上記二形性真菌が、カンジダ アルビカンス(Candida albicans)であれば、本発明の二形性真菌の酵母型生育誘導剤を更に効果的に用いることができる。
【0025】
すなわち、これらによれば、カンジダ属に属する真菌、特にカンジダ アルビカンス(Candida albicans)の菌糸型生育に起因する真菌感染症の諸症状を、軽減し、改善することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の二形性真菌の酵母型生育誘導剤を用いることにより、二形性真菌が菌糸型の生育形態で増殖することを抑制することができ、これらの二形性真菌の病原性を抑制し、これらの二形性真菌に起因される感染症、例えば二形性真菌がカンジダ属真菌であればカンジダ症の諸症状を軽減し、改善する効果が期待できる。また、安全性の高い糖類なので、医薬品、飲食品、うがい薬、皮膚塗布用クリーム、化粧料、飼料、餌料、農薬等に添加して常用的に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明において、キトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物は、カニ、エビ等の甲殻類の殻等から常法によって調製されるキチンを、化学的又は生化学的に処理することによって得ることができる。その際、本出願人による上記特許文献4又は特許文献6に開示される方法によれば、より好適に製造することができる。
【0028】
すなわち、キトサンオリゴ糖は、キチンを熱濃アルカリ処理して得られるキトサンを部分加水分解して得られるキトサンの部分加水分解物を、塩酸、酢酸、蟻酸等の酸とともに加熱した後、酸を除去するか、又は中和脱塩し、結晶化等により粉末化するか、あるいは、希酸に溶解後、キトサナーゼ、D-グルコサミニダーゼ等のキトサン分解酵素を作用させる等の方法によって得ることができる。また、キチンオリゴ糖は、キチンを酸又は酵素によって部分加水分解して得ることができる。
【0029】
キトサンオリゴ糖及びキチンオリゴ糖を還元処理して末端構成糖が糖アルコール体である還元物(オリゴ糖アルコール体)とする方法は、公知の方法を採用できるが、例えば Campbell, B. J. et al: J. Chromatogr., 622, 137-146(1993)に記載された方法に従って水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を用いる方法や、P. Karrer and J. Meyer: Helvetica, 20, 626(1937)、又は Yoshio Matsushita: Bull. Chem. Soc. Jpn., 24, 144-147(1950)に記載された金属触媒による水素還元法を用いることができる。
【0030】
上記のようにして得られたキトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物は、必要に応じてカラムクロマトグラフィーや溶剤分画等の方法によって分画、精製することにより、所望の平均分子量のものを高濃度に含有する組成物を得ることができる。
【0031】
本発明に用いられるキトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物は、低分子化されているオリゴ糖であればよいが、好ましくは平均分子量200〜4,000のものが用いられ、より好ましくは平均分子量600〜1,400のものが用いられる。
【0032】
例えば、「COS−YS」(商品名、焼津水産化学工業株式会社製)は、上記の方法によって得られ、キトサンオリゴ糖の重合度が2〜8程度の混合物、すなわちキトビオース、キトトリオース、キトテトラオース、キトペンタオース、キトヘキサオース、キトヘプタオース、キトオクタオース等の混合物であり、好ましく用いることができる。また、重合度が2〜6の混合物であればより好ましい。
【0033】
また、例えば、「NA-COS-Y」(商品名、焼津水産化学工業株式会社製)は、上記の方法によって得られ、N−アセチルグルコサミンと、重合度が2〜8程度のキチンオリゴ糖、すなわちN−アセチルキトビオース、N−アセチルキトトリオース、N−アセチルキトテトラオース、N−アセチルキトペンタオース、N−アセチルキトヘキサオース、N−アセチルキトヘプタオース、N−アセチルキトオクタオース等の混合物であり、好ましく用いることができる。また、重合度が2〜5の混合物であればより好ましい。
【0034】
本発明においては、上記のようにオリゴ糖又はオリゴ糖の還元物を混合物の状態で使用することもできるが、カラムクロマトグラフィーや溶剤分画等の方法によって所望の重合度のものに更に分画、精製してもよい。その際、本出願人による上記特許文献6に開示される方法によれば、より好適に製造することができる。
【0035】
上記方法により調整されたキトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物は、調整後に大量の塩類を含む場合は脱塩処理することが好ましい。脱塩の方法は、公知の方法を採用できるが、NaCl阻止率が55.0〜99.5%のRO膜を用いて行なうことが好ましい。また、イオン交換クロマトグラフィーにより分画、精製した各画分に含まれる溶液が塩又はアルカリを呈する場合は、中和した後に脱塩処理することが好ましい。
【0036】
一方、グルコサミンの糖アルコール体であるグルコサミニトールは、グルコサミンを上述の還元方法で還元することにより得ることができる。グルコサミンの由来については特に制限されないが、例えばキチンの酸による完全加水分解や、特開2004−283144号公報に開示されているクロロウィルスを用いた発酵法により得ることができる。
【0037】
また、グルクロン酸(GlcA)はグルコースの6位の炭素がカルボキシル基を構成する単糖であって、ヒアルロン酸、コンドロイチン、フコイダン等の構成糖として、動植物界において広く分布しており、これらを含む天然物からの抽出、分解による方法、又は、合成法、発酵法等によって得ることができるが、その由来、製法は特に制限されるものではない。グルクロン酸、グルクロン酸アミドやグルクロン酸ナトリウム等は医薬品原料としても市販されており、それらを用いても良い。
【0038】
また、ラクトシルアミン(Lac−NH)はラクトースを構成するグルコースの1位の炭素にアミノ基を有する二糖類であって、例えば、ラクトースを水、又はDMSO(ジメチルスルホオキシド)等の溶媒に溶解し、過剰量の炭酸水素アンモニウムを添加することによって得ることができる。
【0039】
更に、ガラクトシルラクトサミン(Galb1-4Galb1-4GlcN)は、2個のガラクトースと1個のグルコースがβ−1,4グルコシド結合によって直鎖状に構成される重合度3のオリゴ糖であって、そのグルコースの2位の炭素にアミノ基を有する3糖類であって、例えば、ラクトースとグルコサミン混合水溶液にBacillus circulans由来のβ‐ガラクトシダーゼを添加することにより得られる。
【0040】
本発明の二形性真菌の酵母型生育誘導剤においては、上記の手段によって得られるキトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物、グルクロン酸、グルコサミニトール、ラクトシルアミン、ガラクトシルラクトサミンを有効成分とすることができる。
【0041】
上記有効成分は、遊離体であってもよく、また、その活性に影響を与えない限りで塩を形成したものであってもよい。塩としては、各種無機塩や有機酸塩等であって、例えば、キトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、グルコサミニトール、ラクトシルアミン、ガラクトシルラクトサミンであれば、塩酸塩、乳酸塩、酢酸塩、硫酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、アジピン酸塩、グルコン酸塩、酒石酸塩等が挙げられ、グルクロン酸であれば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられるが、特に最終製品の塩形態を限定するものではない。
【0042】
本発明の二形性真菌の酵母型生育誘導剤を真菌感染の予防改善に用いる場合は、上記有効成分を、医薬品、飲食品、うがい薬、皮膚塗布用クリーム、化粧料、飼料、餌料、農薬等に添加、配合して用いることができる。また、上記有効成分として実質上直接摂取又は投与することもできる。
【0043】
例えば、人に医薬用として使用する場合、経口、肺への吸入、皮膚上への塗布、外粘膜への塗付等の各種の投与方法のいずれかを採用して、有効量の上記有効成分を真菌の細胞が増殖するために必要な細胞外部からの栄養源に混入せしめ、その菌糸型生育を抑制し二形性真菌の酵母型生育を誘導することができる。
【0044】
なお、その場合、医薬的に許容される担体や賦形剤、その他添加剤を用いて、噴霧剤、皮膚塗布用クリーム剤、徐放性製剤、散剤、錠剤、細粒剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤等の製剤とすることができる。また、安定剤、増粘剤、増量剤、着色剤及び芳香剤の様な補助的添加剤を含有してもよい。
【0045】
上記有効成分の1日当りの投与、摂取、塗布量は種々の条件により異なるが、各々体重1kg当たり、経口の場合0.1〜300mg、肺への吸入の場合0.1〜300mg、皮膚上への塗布の場合10〜1,500mg、外粘膜への塗付の場合10〜1,500mgが好ましく、経口の場合1〜30mg、肺への吸入の場合1〜30mg、皮膚上への塗布の場合10〜150mg、外粘膜への塗付の場合10〜150mgがより好ましい。また、うがい薬の場合は、上記有効成分を、好ましくは0.1〜200mg/ml、より好ましくは1〜20mg/ml含有する溶液で口腔内を一定時間浸すように用いればよい。
【0046】
なお、キトサンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖の還元物、キチンオリゴ糖、キチンオリゴ糖の還元物の安全性については、既に確認されているところであるが、本出願人による試験においても、ラットにおける経口投与での急性毒性は、両者ともLD50>5g/kg以上であり、その安全性が確認されている。
【0047】
また、グルクロン酸(GlcA)、グルコサミニトール、ラクトシルアミン(Lac−NH2)、ガラクトシルラクトサミン(Galb1-4Galb1-4GlcN)についても、その毒性は低く、人の医薬用として使用する場合は適宜その有効性を鑑みて投与、摂取すればよい。
【0048】
一方、上記有効成分を、飲食品、飼料、餌料、化粧料等に配合して使用することもできる。その場合、飲食品、飼料、餌料、化粧料等のそれぞれの主目的に対して影響を与えない程度に配合することが好ましい。具体的には、それらへの固形分当りの配合量としては、飲食品、飼料、餌料で0.01〜80重量%、化粧料で0.01〜40重量%が好ましい。なお、上記有効成分はいずれも容易に水に溶解するので、添加、配合が容易である。
【0049】
本発明の二形性真菌の酵母型生育誘導剤を適用する二形性真菌としては、生育細胞において酵母形と菌糸形との形態二形性を示す二形性真菌であればよいが、そのようなものの例として、カンジダ属に属する真菌のほかにも、アスペルギルス属、スポロトリックス属が例示できる。
【実施例】
【0050】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0051】
<試験例1>
(カンジダ アルビカンスの生育形態に対するキトサンオリゴ糖の影響)
所定重合度のキトサンオリゴ糖のそれぞれについて、その酵母型生育誘導について比較した。また、対照としてD−グルコサミン(2−アミノ−D−グルコース;GlcN)について比較した。
【0052】
各キトサンオリゴ糖には、上記低糖重合度のキトサンオリゴ糖混合物である「COS―YS」(商品名、焼津水産化学工業株式会社製)を、イオン交換カラムクロマトグラフィーによって所定の重合度のものに分画、精製したキトビオース(COS2)、キトトリオース(COS3)、キトテトラオース(COS4)、キトペンタオース(COS5)、キトヘキサオース(COS6)の塩酸塩を用いた。なお、その純度はいずれも97.5%以上であり、それぞれその活性に影響を与えない範囲の濃度で所定の重合度以外のキトサンオリゴ糖を含有するものであった。
【0053】
これらキトサンオリゴ糖(COS2−6)、あるいは、対照としてD−グルコサミン(GlcN)をカンジダ アルビカンスの液体栄養培地であるRPMI1640(グルコースを0.2%含有)(日水製薬株式会社製)に配合し、予め、サブロー培地(ペプトン1%、グルコース4%、pH5.6〜5.8)を用いて27℃で振とう培養することで酵母型に生育調整したカンジダアルビカンスを1×10 (cells/ml) の細胞濃度で植菌し、37℃、5%COの好気的条件下で一晩培養後、菌の形態を顕微鏡下に観察し酵母型生育菌の菌数を測定した。形態の判定については、単球もしくは楕円球状の菌体を酵母型、糸状の菌体を菌糸型として、変態過程の細胞であるGerm tubeをもつ菌体については母細胞である酵母型の直径よりも長い場合は菌糸型、それ以外を酵母型とした。なお、各キトサンオリゴ糖を配合した培養液の7.2〜7.5であり、中性付近のpHであった。
【0054】
液体栄養培地であるRPMI1640に配合するキトサンオリゴ糖(COS2−6)、あるいは、D−グルコサミン(GlcN)の配合濃度を、その重量を一定として(A)最終濃度20mg/ml、あるいは、そのモル濃度を一定として(B)最終濃度10mMとし、酵母型生育菌の菌数の総菌数に対する割合を酵母型生育誘導活性として比較した。
【0055】
その結果を表1に示す。

























【0056】
【表1】


【0057】
表1に示すように、何も添加しない場合は、酵母型生育を示す菌の割合は0.1%程度であり、この培養条件下においてはカンジダ アルビカンスが菌糸型生育によって増殖していることが分かる。また、対照であるD−グルコサミン(GlcN)を添加した場合においても、酵母型生育を示す菌の割合は配合濃度条件(A)の重量濃度一定の条件下で8.0%、(B)のモル濃度一定の条件下で0.4%であり、その生育形態にほとんど変化は見られなかった。
【0058】
それに対して、キトサンオリゴ糖(COS2−6)を添加した場合においては、酵母型生育を示す菌の割合は配合濃度条件(A)の重量濃度一定の条件下で100%、(B)のモル濃度一定の条件下で43.5〜100%であり、キトサンオリゴ糖に有為な酵母型生育誘導活性がみとめられた。また、特にCOS3やCOS4において酵母型生育を示す菌の割合が高く、オリゴ糖の重合度に依存した酵母型生育誘導活性がみられた。
【0059】
<試験例2>
(カンジダ アルビカンスの生育形態に対するキチンオリゴ糖の影響)
所定重合度のキチンオリゴ糖のそれぞれについて、その酵母型生育誘導について比較した。また、対照としてN−アセチル−D−グルコサミン(GlcNAc)について比較した。
【0060】
各キチンオリゴ糖には、上記低糖重合度のキチンオリゴ糖混合物である「NACOS―Y」(商品名、焼津水産化学工業株式会社製)を、活性炭カラムクロマトグラフィーによって所定の重合度のものに分画、精製したN−アセチルキトビオース(NACOS2)、N−アセチルキトトリオース(NACOS3)、N−アセチルキトテトラオース(NACOS4)、N−アセチルキトペンタオース(NACOS5)を用いた。なお、その純度はいずれも97.5%以上であり、それぞれその活性に影響を与えない範囲の濃度で所定の重合度以外のキチンオリゴ糖を含有するものであった。
【0061】
これらキチンオリゴ糖(NACOS2−5)、あるいは、対照としてN−アセチル−D−グルコサミン(GlcNAc)を用いて、試験例1と同様の試験を行った。なお、各キチンオリゴ糖を配合した培養液のpHは7.2〜7.3であり、中性付近のpHであった。酵母型生育誘導活性を比較した結果を表2に示す。
【0062】
【表2】


【0063】
表2に示すように、対照であるN−アセチル−D−グルコサミン(GlcNAc)を添加した場合において、酵母型生育を示す菌の割合は配合濃度条件(A)の重量濃度一定の条件下で7.1%、(B)のモル濃度一定の条件下で6.4%であり、その生育形態にほとんど変化は見られなかった。また、重合度2、3のNACOS2やNACOS3を添加した場合においても、酵母型生育を示す菌の割合は低かった。
【0064】
それに対して、キチンオリゴ糖(NACOS4、5)を添加した場合においては、酵母型生育を示す菌の割合は(A)の重量濃度一定の条件下でそれぞれ25.8%、26.8%、(B)のモル濃度一定の条件下でそれぞれ24.4、21.9%であり、重合度4、5のキチンオリゴ糖には、試験例1でのキトサンオリゴ糖の活性よりは弱いものの、有意な酵母型生育誘導活性がみとめられた。
【0065】
<試験例3>
上記試験例1において高比活性を示したCOS3について、液体栄養培地に添加する配合濃度を、3、6、12mg/mlとし、試験例1と同様の試験を行い、その酵母型生育誘導活性の配合濃度依存性を検討した。また、COS3の構成糖であるD−グルコサミンの分子内ヘミアセタール性を失ったCOS3の還元物であるキトトライオールの塩酸塩についても検討した。その結果を表3に示す。
【0066】
【表3】


【0067】
表3に示すように、COS3の添加量を増加させることで、酵母型生育を示す菌の割合を増加させることができることが明らかとなった。また、その活性よりは弱いものの、キトトライオールについても酵母型生育誘導活性がみとめられた。
【0068】
<試験例4>
種々の糖関連化合物について試験例1と同様の試験を行い、酵母型生育誘導活性を検討し、その活性を何も添加しない対照に対して相対評価した。
























【0069】
【表4】


【0070】
表4に示すように、重合度3のオリゴ糖の末端構成糖のグルコースの2位にアミノ基を有するガラクトシルラクトサミン(Galb1-4Galb1-4GlcN)、グルクロン酸(GlcA)、グルコサミンの糖の還元物であるグルコサミニトール(CH1H)、又は糖重合度2−5のキトサンオリゴ糖の還元物(CH2H−CH5H)、ラクトシルアミン(Lac−NH)において、有意な酵母型生育誘導活性がみとめられた。ここで、糖重合度2〜5の各キトサンオリゴ糖の還元物(CH2H〜CH5H)は、上記キトサンオリゴ糖COS2〜6やキチンオリゴ糖NACOS2〜5と同様に、糖重合度2−5程度に調整されたキトサンオリゴ糖の還元物を、更に、クロマトグラフィーによって分子量分画することで調製したものである。
【0071】
なお、表4に示すオリゴ糖の略式構成構造においては、オリゴ糖が、グルコース(Glc)、ガラクトース(Gal)、グルコサミン(GlcN)、アセチルグルコサミン(GlcNAc)又はグルコサミン塩酸塩(GlcNHCl)を構成糖として有し、それらが相互にβ−1,4グルコシド結合(β1―4)あるいはα―1,6グルコシド結合(α1―6)して構成されたものであることを示す。また、GlcAN(6COOH-GlcNHCl)とはグルコサミン酸である。
【0072】
<試験例5>
グルクロン酸(GlcA)、キトサンオリゴ糖の還元物(CH4H及びCH5H)、ラクトシルアミン(Lac−NH)について、液体栄養培地に添加する配合濃度を、0.1、1、10mg/mlとし、試験例1と同様の試験を行い、酵母型生育誘導活性を検討した。
【0073】
【表5】


【0074】
表5に示すように、ラクトシルアミン(Lac−NH)とキトサンオリゴ糖の還元物(CH4H及びCH5H)においては10mg/mlまで濃度依存的な酵母型生育誘導活性がみられた。一方、アミノ基を持たないグルクロン酸(GlcA)は10mg/mlでは活性が見られるものの、1mg/mlの濃度では活性がみられず、構成糖にアミノ基を有する他のものよりその比活性が弱いことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、医薬品、飲食品、うがい薬、皮膚塗布用クリーム、化粧料、飼料、餌料、農薬等に添加して使用することができる二形性真菌の酵母型生育誘導剤を提供することができる。
【出願人】 【識別番号】390033145
【氏名又は名称】焼津水産化学工業株式会社
【出願日】 平成16年11月30日(2004.11.30)
【代理人】 【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂

【公開番号】 特開2006−151893(P2006−151893A)
【公開日】 平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願番号】 特願2004−346462(P2004−346462)