| 【発明の名称】 |
徐放性医薬組成物 |
| 【発明者】 |
【氏名】山下 昇 【住所又は居所】静岡県焼津市大住180 アステラス製薬株式会社内
【氏名】高木 彰 【住所又は居所】静岡県焼津市大住180 アステラス製薬株式会社内
【氏名】勝眞 正孝 【住所又は居所】静岡県焼津市大住180 アステラス製薬株式会社内
【氏名】斎藤 勝実 【住所又は居所】静岡県焼津市大住180 アステラス製薬株式会社内
【氏名】高石 勇希 【住所又は居所】静岡県焼津市大住180 アステラス製薬株式会社内
【氏名】安田 達雄 【住所又は居所】静岡県焼津市大住180 アステラス製薬株式会社内
【氏名】高橋 豊 【住所又は居所】静岡県焼津市大住180 アステラス製薬株式会社内
【氏名】三富 光男 【住所又は居所】静岡県焼津市大住180 アステラス製薬株式会社内
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| 【要約】 |
【課題】医薬活性物質の水溶性のいかんに拘わらず、臨床上満足できるイオン性医薬活性物質の徐放性製剤を提供する。
【解決手段】イオン性医薬活性物質に対して反対荷電を有し、かつ該物質の疎水性を高めるイオン性化合物を含有してなるイオン性医薬活性物質の徐放性医薬組成物に関する。詳細には、イオン性医薬活性物質に対して反対荷電を有し、かつ該物質の疎水性を高めるイオン性化合物が、分子中に疎水性基を有するものであるイオン性化合物を含有してなるイオン性医薬活性物質の徐放性医薬組成物に関するものである。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 イオン性医薬活性物質に対して反対荷電を有し、かつ該物質の疎水性を高めるイオン性化合物を含有してなるイオン性医薬活性物質の徐放性医薬組成物。 【請求項2】 イオン性医薬活性物質に対して反対荷電を有し、かつ該物質の疎水性を高めるイオン性化合物が、分子中に疎水性基を有するものである請求項1記載の徐放性医薬組成物。 【請求項3】 前記イオン性化合物が、イオン性医薬活性物質の油/水分配比を高めるものである請求項1または2記載の徐放性医薬組成物。 【請求項4】 前記イオン性化合物の添加量が、電荷比として医薬活性物質に対して等モル以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の徐放性医薬組成物。 【請求項5】 イオン性医薬活性物質が、イオン性のプロスタン酸誘導体である請求項1乃至4のいずれかに記載の徐放性医薬組成物。 【請求項6】 イオン性のプロスタン酸誘導体がプロスタグランジンI2誘導体である請求項5記載の徐放性医薬組成物。 【請求項7】 イオン性医薬活性物質がアニオン性である請求項1乃至6のいずれかに記載の徐放性医薬組成物。 【請求項8】 イオン性化合物が、分子中にアンモニウム基、ピリジニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基を有する化合物、またはその塩である請求項7記載の徐放性医薬組成物。 【請求項9】 イオン性化合物が、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩、及びアルキルホスホニウム塩からなる群から選択される一種または二種以上を含有してなる請求項8記載の徐放性医薬組成物。 【請求項10】 イオン性化合物が塩化ベンザルコニウムである請求項9記載の徐放性医薬組成物。 【請求項11】 イオン性医薬活性物質が、合成のイオン性医薬物質である請求項1乃至10のいずれかに記載の徐放性医薬組成物。 【請求項12】 イオン性のプロスタグランジンI2誘導体が(±)−(1R*,2R*,3aS*,8bS*)−2,3,3a,8b−テトラヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(E)−(3S*)−3−ヒドロキシ−4−メチル−1−オクテン−6−イニル]−1H−シクロペンタ[b]ベンゾフラン−5−ブタン酸、またはその塩である請求項11記載の徐放性医薬組成物。 【請求項13】 イオン性医薬活性物質がカチオン性である請求項1乃至4のいずれかに記載の徐放性医薬組成物。 【請求項14】 イオン性化合物が、分子中にカルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基を有する化合物、またはその塩である請求項13記載の徐放性医薬組成物。 【請求項15】 イオン性化合物が、ラウリル硫酸ナトリウム及び/またはオレイン酸ナトリウムである請求項14記載の徐放性医薬組成物。 【請求項16】 イオン性医薬活性物質が、合成のイオン性医薬物質である請求項13乃至15のいずれかに記載の徐放性医薬組成物。
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【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、イオン性医薬活性物質の徐放性医薬組成物に関する。更に詳しくは、本発明は、イオン性医薬活性物質に対して反対荷電を有し、かつ該物質の疎水性を高めるイオン性化合物を含有してなるイオン性医薬活性物質の徐放性医薬組成物に関するものである。 【背景技術】 【0002】 医薬活性物質の投与には、経口投与が広く利用されている。しかし、医薬活性物質によっては、速効性または速効性と同時に持効性が求められるものもあり、経口投与と併せて非経口投与による治療が一般に行われている。非経口投与に用いられる製剤としては、静脈内、皮下、筋肉内への注射剤、または埋め込み剤、口腔、鼻腔、経肺、経膣、直腸、経皮等の経粘膜製剤などが挙げられるが、なかでも注射剤が一般的である。 【0003】 しかし、医薬活性物質の特性によっては、非経口投与用製剤において徐放化の困難なものもある。例えば、血中半減期の短い医薬活性物質や水溶性の高い医薬活性物質あるいは低分子の医薬活性物質などが挙げられるが、当該物質については、長時間の薬理効果を期待するため、医療の現場においては静脈内へ点滴注入したり、また皮下または筋肉内へ頻回に注入する等の治療が行われている。当該治療は、患者にとって肉体的にもまた精神的にも無視できるものではない。この問題を解決するため、血中半減期の長い医薬活性物質の創製、また医薬活性物質をポリエチレングリコール等の高分子と非可逆的な結合によりハイブリッド化するといった医薬活性物質そのものの血中半減期の延長化が研究されている。また、製剤担体から医薬活性物質の溶解性や溶出性を調節するため、医薬活性物質の水不溶化あるいは水難溶化による溶解遅延化、また生分解性高分子を用いたマイクロカプセル化による溶出抑制などの種々の方法が研究されている。 【0004】 例えば、特開平1−163199号公報には、インターロイキン−2などのサイトカインにアルギン酸ナトリウム等の分子量約5千以上の高分子有機酸類を等張以上の浸透圧になるように添加した上で振とうすることにより水不溶体を形成させ、該不溶体を徐放性注射用組成物とすることが開示されている。 【0005】 また、特開平9−208485号公報には、ペプチド・蛋白質性薬物とEDTAとから形成される水難溶性組成物の持続性製剤が開示されている。 【0006】 さらに、特開平8−3055号公報や特開平8−217691号公報には、水溶性生理活性物質と水溶性多価金属塩とから形成される水不溶体をポリ乳酸グリコール酸共重合体などの生分解性高分子に分散させたマイクロカプセルなどからなる徐放性製剤が開示されている。 【0007】 一方、特開昭62−129226号公報には、ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩、ハイランを含むヒアルロン酸の溶液から、主としてその溶液の粘性により、溶解あるいは分散された医薬物質が持続的に放出されることが開示されている。さらに、カチオン基を含む薬剤では、カルボキシル基を有するヒアルロン酸巨大分子とこの薬剤との間でのイオン交換が起こり得、この交換が、システムからの薬剤の拡散を一層遅くすることが記載されている。なお、同様にヒアルロン酸の粘性を利用する方法として、特開平1−287041号公報には医薬活性物質及びヒアルロン酸またはその塩からなる皮下または筋肉内投与に適した徐放性製剤が、また特開平2−213号公報には生理活性ペプチド及びヒアルロン酸またはその塩からなる持続性製剤が、それぞれ開示されている。 【0008】 しかしながら、ヒアルロン酸の粘性を利用した徐放性製剤は、その粘性物の中に取り込まれる医薬活性物質の粘性体からの拡散が速く、ヒアルロン酸の粘性に加えてさらにヒアルロン酸とカチオン性薬物とのイオン交換能を利用しても十分な溶出遅延効果を示さないと考えられる。したがって、カチオン性に限らずイオン性医薬活性物質の非経口徐放性製剤は、現在のところ臨床上満足すべきものが知られていない。特に、水溶性が高いイオン性医薬活性物質にあってはその溶解性の故に高分子の粘性を利用した拡散を抑制する技術では満足すべき徐放化を達成できないものであった。 【0009】 なお、特開昭53−18723号公報には、インスリンと第4級アンモニウム塩の陽イオン性界面活性剤を混和させてなる直腸投与用組成物が開示され、また特開昭59−89619号公報には、カルシトニン、および塩化ベンザルコニウムを、鼻粘膜に適用するに適した液体希釈剤または担体中に含ませてなる、鼻内投与用液体医薬組成物が開示されている。しかし、これら公報の技術は、いずれも薬物の直腸投与あるいは鼻粘膜投与における吸収改善を目的とするものであり、イオンコンプレックスの疎水性付与による徐放化については記載も示唆もされていない。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0010】 本発明は、医薬活性物質の水溶性のいかんに拘わらず、臨床上満足できるイオン性医薬活性物質の徐放性製剤を提供することを目的とする。 【0011】 かかる技術水準下、本発明者らは、非経口投与による徐放化が要請されているアニオン性医薬活性物質の徐放性製剤化を目的に、まず該アニオン性医薬活性物質に等モルのカチオン性化合物を添加し、それらのイオン的な相互作用によって水に難溶性のイオンコンプレックスを形成させることによる徐放化を試みた。しかし、得られたイオンコンプレックスをラットに皮下投与した結果、十分な徐放効果が得られず、水難溶化による溶解遅延を利用する方法はイオン性医薬活性物質の非経口徐放化には不十分であることが判明した。 【0012】 そこで本発明者らは、イオンコンプレックス化に伴う医薬活性物質の疎水化度をさらに高めるため、当該指標としてオクタノール/水分配比を選択し検討した結果、カチオン性化合物の種類によってイオンコンプレックス化に伴うアニオン性医薬活性物質のオクタノール/水分配比に差のあることが認められ、当該分配比の大きいものほど徐放効果の高いことを見いだした。また本発明者らは、該カチオン性化合物の添加量を増加させ、アニオン性医薬活性物質の前記分配比をさらに高めたところ、それに伴い徐放効果はさらに高まることを知見した。更に本発明者らは、これらのイオンコンプレックスが、意外にも医薬活性物質の水に対する溶解状態を維持したまま、すなわち医薬活性物質が水溶性であれば水溶液状態を維持したまま優れた徐放効果を有することも見いだしたのである。 【0013】 本発明者らは、イオン性医薬活性物質の疎水化度を高めることによる該医薬活性物質の徐放化が、アニオン性の他の医薬活性物質だけでなく、種々のカチオン性医薬物質でも同様に達成できる有効な手段であることを確認し、かつイオン性医薬活性物質の疎水化度を高めることによる徐放化が、従来知られておらず、非経口投与製剤は勿論、経口投与製剤にあっても有効に使える手段であることを知見して本発明に至ったものである。 【課題を解決するための手段】 【0014】 すなわち、本発明は、(1)イオン性医薬活性物質に対して反対荷電を有し、かつ該物質の疎水性を高めるイオン性化合物を含有してなるイオン性医薬活性物質の徐放性医薬組成物に関する。また、本発明は、(2)イオン性医薬活性物質に対して反対荷電を有し、かつ該物質の疎水性を高めるイオン性化合物が、分子中に疎水性基を有するものである(1)記載の徐放性医薬組成物に関するものである。また、本発明は、(3)前記イオン性化合物が、イオン性医薬活性物質の油/水分配比を高めるものである(1)または(2)記載の徐放性医薬組成物に関するものである。また、本発明は、(4)前記イオン性化合物の添加量が、電荷比として医薬活性物質に対して等モル以上である(1)〜(3)のいずれかに記載の徐放性医薬組成物に関するものである。 【0015】 本発明のイオン性医薬活性物質の徐放性薬組成物の特徴とするところは、ある種のカウンターイオンの添加によりイオン性医薬活性物質の油/水分配比を高め、疎水性を付与してなる注射剤などの徐放化にあり、従来イオン性医薬活性物質の徐放化で採用されている手段や、医薬活性物質自体を不溶化する手段、マイクロカプセル化により溶出を遅延させる手段とは全く異なる徐放化手段を採用するものであり、しかも、これら従来公知の徐放化手段では十分に満足すべき程度に達成することができなかった徐放化を達成できた点にある。 【0016】 本発明の徐放性医薬組成物を詳しく説明する。 本発明に用いられるイオン性医薬活性物質としては、通常薬理学的に治療に供され、経口、非経口投与による徐放化が求められる物質であれば特に制限されない。アニオン性医薬活性物質としては、例えば、フルフェナム酸、メフェナム酸、サリチル酸、インドメタシン、アルクロフェナク、ジクロフェナク、アルミノプロフェン、イブプロフェン、エトドラク、オキサプロジン、ケトプロフェン、ジフルニサル、スリンダク、チアプロフェン、トルメチン、ナプロキセン、フェノプロフェンカルシウム、プラノプロフェン、フルルビプロフェン、ロキソプロフェンナトリウム、ロベンザリット二ニナトリウムなどの解熱鎮痛消炎剤、アモバルビタールナトリウムなどの催眠鎮静剤、ホパンテン酸などの局所麻酔剤、ダントロレンなどの骨格筋弛緩剤、バクロフェンなどの鎮けい薬、フロセミド、エタクリン酸、ピレタニドなどの利尿剤、カプトプリル、エナラプリル、メチルドパなどの血圧降下剤、プラバスタチンなどの高脂血症用剤、リオチロニン、レボチロキシン、リン酸ベタメタゾン、コハク酸プレドニゾロンなどのホルモン剤、ミノドロン酸などの骨代謝改善剤、カルバゾクロムスルホン酸、トロンビン、トラネキサム酸などの止血剤、プロベネシドなどの痛風治療剤、コンドロイチン硫酸、アデノシン三リン酸などの代謝性医薬品、クロモグリク酸、トラニラストなどのアレルギー用薬、アンピシリン、セファクロル、セファレキシン、セフピラミド、セフォテタンなどの抗生物質、パラアミノサリチル酸などの抗結核剤、ベラプロストナトリウムなどの抗血小板剤、血液・体液用薬、グルクロン酸などの肝臓疾患用剤、ビオチン、パントテン酸カルシウムなどのビタミン類等が挙げられる。またこれらのアニオン性医薬活性物質は製薬学的に許容される塩あるいは遊離酸であってもよい。 【0017】 また、アニオン性医薬活性物質は蛋白質、ペプチド類の発現に関与する物質(例えばDNA、RNA等の核酸類あるいは低分子及び高分子の転写調節因子及びそれらの阻害剤)などであってもよい。 【0018】 カチオン性医薬活性物質としては、塩酸アマンタジン、塩酸ピペリデンなどの抗パーキンソン剤、塩酸クロルプロマジン、ペルフェナジン、マレイン酸ペルフェナジン、塩酸イミプラミン、塩酸アミトリプチリンなどの精神神経用剤、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン、塩酸ジブカインなどの局所麻酔剤、塩化スキサメトニウムなどの骨格筋弛緩剤、塩化アセチルコリン、臭化メチルベナクチジウム、臭化ジスチグミン、塩酸トラゾリンなどの自律神経剤、臭化水素酸スコポラミン、硫酸アトロピンなどの鎮けい剤、塩酸プロカインアミドなどの不整脈用剤、塩酸ヒドララジン、フマル酸ベンシクランなどの循環器用剤、塩酸アモスラロール、塩酸ニカルジピン、硫酸ベタニシンなどの血圧降下剤、塩酸ジルチアゼムなどの血管拡張剤、塩酸エフェドリン、dl−塩酸メチルエフェドリンなどの鎮咳剤、ファモチジンなどの消化性潰瘍剤、塩酸タムスロシンなどの泌尿生殖器官用薬、塩酸ラモセトロンなどの制吐剤、塩酸チクロピジンなどの血液・体液用薬、シクロフォスファミドなどのアルキル化剤、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミンなどの抗ヒスタミン剤、塩酸タウンピシリンなどの抗生物質、塩酸ブレオマイシン、塩酸アクラルビシン、硫酸ビンブラスチンなどの抗腫瘍性抗生物質、硝酸チアミンなどのビタミン類等が挙げられる。またこれらのカチオン性医薬活性物質は製薬学的に許容される塩あるいは遊離塩基であってもよい。 【0019】 また、医薬活性物質がペプチドまたは蛋白質などの場合は、製剤のpHによってアニオン性あるいはカチオン性いずれにもなりうることから、例えばペプチドまたは蛋白質の安定なpH領域を考慮する等、必要に応じた反対荷電を有するイオン性化合物を選択することができる。該ペプチドまたはタンパク質としては、ネオカルチノスタチン、ジノスタチンスチラマー(SMANCS)、インターフェロン(例えばα,β、γ)、インターロイキン(例えばIL−1〜IL−18)、腫瘍壊死因子(TNF)、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、トロンボポエチン(TPO)、血小板増殖因子、幹細胞増殖因子(SCF)、塩基性あるいは酸性の繊維芽細胞増殖因子(FGF)あるいはこれらのファミリー、神経細胞増殖因子(NGF)あるいはこれらのファミリー、インスリン様成長因子(IGF)、骨形成因予(例えばBMP1〜BMP12)あるいは形質転換増殖因子(TGF−β)のスーパーファミリー、肝細胞増殖因子(HGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、インスリン、カルシトニン、グルカゴン、ヒト成長因子(hGH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、L−アスパラギナーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、組織プラスミノーゲンアクチベーター(t−PA)などが挙げられる。これらのペプチドまたは蛋白質は、天然に存在する配列構造のものであってもその改変体であってもよい。また、それらの修飾体(例えばポリエチレングリコールなどによる化学修飾体)であってもよい。またこれらは単量体として用いても、ホモまたはヘテロの多量体として用いてもよい。 【0020】 アニオン性医薬活性物質またはカチオン性医薬活性物質としては、好ましくは合成したイオン性医薬物質である。 【0021】 イオン性医薬活性物質として、さらに好ましくはイオン性のプロスタン酸誘導体である。さらにイオン性のプロスタン酸誘導体として、好ましくはプロスタグランジンI2誘導体である。さらにイオン性のプロスタグランジンI2誘導体が、下記の一般式(I) 【化1】
【0022】 (式中、R1は、COOR2を示す。 (ここでR2は、 1)水素または薬理学的に受け入れられる陽イオン、 2)−Z−Ar1 (ここでZは原子価結合またはCtH2tで表される直鎖若しくは分岐アルキレンであり、tは1〜6の整数を示し、Ar1は2−ピリジル、3−ピリジルまたは4−ピリジルを示す。) 3)−CtH2tCOOR3または(ここでCtH2tは前記定義に同じ、R3は水素または薬理学的に受け入れられる陽イオンを示す。) 4)−CtH2tN(R4)2(ここでCtH2tは前記定義に同じ、R4は水素、炭素数1〜12の直鎖アルキルまたは、炭素数3〜14の分岐アルキルを示す。)を示す。) また、Aは、 1)−(CH2)m−(ここで、mは1から3の整数を示す。) 2)−CH=CH−CH2− 3)−CH2−CH=CH− 4)−CH2−O−CH2− 5)−CH=CH− 6)−O−CH2−または 7)−O≡C−を示す。 また、Yは、水素、炭素数1〜4のアルキル、塩素、臭素、フッ素、ホルミル、メトキシまたはニトロを示す。 また、Bは−X−C(R5)(R6)OR7を示す。 (ここで、R5は水素または炭素数1〜4のアルキルを示し、R7は水素、炭素数1〜14のアシル、炭素数6〜15のアロイル、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロフラニル、1−エトキシエチルまたはt−ブチルを示し、Xは、 1)−CH2−CH2− 2)−CH=CH−または 3)−C≡C−を示し、 R6は、 1)炭素数1〜12の直鎖アルキルまたは炭素数3〜14の分岐アルキル、 2)−Z−Ar2 (ここでZは前記定義に同じ、Ar2はフェニル、α−ナフチル、β−ナフチル、または少なくとも1個の塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、トリフルオロメチル、炭素数1〜4のアルキル、ニトロ、シアノ、メトキシ、フェニルもしくはフェノキシ置換したフェニルを示す。) 3)−CtH2tOR8 (ここでCtH2tは前記定義に同じ、R8は炭素数1〜6の直鎖アルキル、炭素数3〜6の分岐アルキル、フェニル、少なくとも1個の塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、トリフルオロメチル、炭素数1〜4のアルキル、ニトロ、シアノ、メトキシ、フェニルもしくはフェノキシ置換したフェニル、シクロペンチル、シクロヘキシル、または、炭素数1〜4の直鎖アルキルの1〜4個で置換されたシクロペンチルまたはシクロヘキシルを示す。) 4)−Z−R9 (ここでZは前記定義に同じ、または、R9は水素、炭素数3〜12のシクロルキルまたは炭素数1〜5のアルキルの1〜3個で置換された炭素数3〜12の置換シクロアルキルを示す。)、 5)−CtH2t−CH=C(R10)R11または (ここでCtH2tは前記定義に同じ、R10、R11は水素、メチル、エチル、プロピル、またはブチルを示す。)、 6)−CuH2u−C≡C−R12 (ここでuは1〜7の整数であり、CuH2uは直鎖または分岐アルキレンを表わし、R12は炭素数1〜6の直鎖アルキルを示す。)を示す。) また、Eは水素または−OR13を示す。 (ここでR13は水素、炭素数1〜12のアシル、炭素数7〜18のアロイル、炭素数1〜12の直鎖アルキルまたは炭素数3〜14の分岐アルキルを示す。)) で表わされる化合物、又はその塩類である。尚、上記一般式(I)で表される化合物には、不斉炭素原子に基づく光学異性体が存在する場合があるが、本発明は、d体、l体及びdl体のいずれをも包含する。さらにより好ましいイオン性のプロスタグランジンI2誘導体としては、安定性に優れているものが選択される。例えば、特開昭58−124778号公報に記載されている方法により製造することができる化合物、またはその塩が挙げられる。さらに好ましくは、アニオン性プロスタグランジンI2誘導体として、(±)−(1R*,2R*,3aS*,8bS*)−2,3,3a,8b−テトラヒドロ−2−ヒドロキシ−1−[(E)−(3S*)−3−ヒドロキシ−4−メチル−1−オクテン−6−イニル]−1H−シクロペンタ[b]ベンゾフラン−5−ブタン酸(一般名「ベラプロスト」)、またはその塩が挙げられる(該化合物のナトリウム塩が抗血小板作用剤、血流増加剤等として市販されており、その一般名はベラプロストナトリウムという。該ベラプロストナトリウムを以下単に「BPS」と略記することもある)。 【0023】 本発明に用いられるイオン性医薬活性成分の添加量は、通常薬理学的に治療効果を示す量であれば特に制限されないが、例えばBPSの場合、0.1〜1000μgである。なお、本発明においてイオン性医薬活性物質は、水に易溶性の物質と同様に難溶性の物質であっても本発明の疎水性の付与による徐放化の恩恵を享受することができる。 【0024】 本発明に用いられるイオン性医薬活性物質に対して反対荷電を有し、かつ該物質の疎水性を高めるイオン性化合物としては、通常生理学的に許容されるものであれば特に制限されないが、好ましくは疎水性の高い置換基を有するものである。疎水性の高い置換基を分子中に有することによりイオン性医薬活性物質の疎水性を高めることができる。当該指標としては、例えば医薬活性物質の油/水分配比(=例えばオクタノールなどの油層中の医薬活性物質濃度/水層中の医薬活性物質の濃度)を測定することによって算出することができる。好ましくは、イオン性医薬活性物質の電荷と同等の電荷となるよう該化合物を添加するとき、無添加に比べて油/水分配比が高まるものである。さらに好ましくは、例えば20倍等量の電荷となるよう反対荷電を有する化合物を過剰に添加するとき、等量添加に比べて分配比が更に高まるものである。なお、本発明のイオン性化合物における『イオン性』とは、分子内に1または2以上の電荷を有する基を有することを意味し、該基は分子内で親水基として働くが、これ以外に電荷に関与しない親水基を有していてもよい。イオン性としては、好ましくは分子内に1個の電荷を有する基を有するものである。医薬活性物質がアニオン性の場合、添加するカチオン性化合物としては、好ましくは、分子内にアンモニウム基、ピリジニウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基を有するもの、またはその塩などが挙げられる。さらに好ましくは、前記官能基を有し、かつ炭素数6以上の疎水基を有するものが挙げられる。該化合物としては、例えば塩化トリエチルベンジルアンモニウム、塩化トリブチルベンジルアンモニウムなどのトリアルキルベンジルアンモニウム塩、塩化オクチルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ミリスチルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウムと塩化ミリスチルジメチルベンジルアンモニウムの混合物である塩化ベンザルコニウムなどのアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、塩化ベンゼトニウム、またはその誘導体、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウムなどのアルキルトリメチル塩、塩化ラウリルピリジニウム、塩化セチルピリジニウムなどのアルキルピリジニウム塩、オレイルアミノ酢酸、ステアリルアミノ酢酸などのアルキルアミン塩、塩化テトラブチルホスホニウム、塩化トリセチル(4−ビニルベンジル)ホスホニウムなどのアルキルホスホニウム塩、またはその誘導体等が挙げられる。またカチオン性化合物としては、塩酸クロルプロマジン、フェノチアジン、ペルフェナジン、マレイン酸ペルフェナジン、レボメプロマシン、塩酸リドカイン、塩酸メプリルカイン、塩化アセチルコリン、臭化メチルベナクチジウム、臭化ジスチグミン、塩酸トラゾリン、塩酸イミプラミン、塩酸デシプラミン、塩酸アミトリプチリン、塩酸プロカイン、塩酸リドカイン、塩酸ジブカイン、メプリルカイン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、イプロヘプチンなどの界面活性医薬等が挙げられる。これらカチオン性化合物は製薬学的に許容される塩または遊離塩基であってもよい。好ましくは、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩、アルキルホスホニウム塩のものであり、さらに好ましくはアルキルジメチルベンジルアンモニウム塩のものであり、より好ましくは塩化ベンザルコニウムである。これらの化合物は一種または二種以上組み合わせて用いてもよい。 【0025】 本発明に用いられるイオン性化合物において、医薬活性物質がカチオン性の場合、添加するアニオン性化合物としては、好ましくは、分子内にカルボキシル基、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基を有しているものなどが挙げられる。さらに好ましくは、前記官能基を有し、炭素数6以上の疎水基を有するものが挙げられる。該化合物としては、例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸またはそれらの生理学的に許容される塩(例えばナトリウム、カリウムなど)、ラウリル硫酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、POE(2)ラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのアルキルエーテル硫酸塩、ラウリルスルホ酢酸ナトリウムなどのアルキルアリルスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、ラウロイルサルコシンナトリウムなどのN−アシルアミノ酸塩、ラウリルリン酸ナトリウムなどのアルキルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸塩またはその遊離酸、デオキシコール酸ナトリウムなどの胆汁酸類またはその塩、ジパルミトイルホスファチジン酸ナトリウムなどのジアルキルホスファチジン酸塩またはその遊離酸等が挙げられる。好ましくは、オレイン酸ナトリウム及び/またはラウリル硫酸ナトリウムである。これらの化合物は一種または二種以上組み合わせて用いてもよい。 【0026】 また前記イオン性化合物の添加量は、通常イオン性医薬活性物質の電荷を中和し、かつ該医薬活性物質の疎水性を高める以上の量であれば特に制限されないが、好ましくは重量/重量%として0.0001%以上50%以下、さらに好ましくは0.001%以上10%以下、さらにより好ましくは0.01%以上5%以下である。該化合物の添加量は、生理学的に許容される上限の量の範囲内で望まれる徐放パターンを示す量に選択することができる。なお、当該化合物の添加量は、通常イオン性医薬活性物質に対するモル比(電荷比)において決定することができるが、好ましくは1以上1000以下である。 【0027】 本発明の徐放性医薬組成物のpHについては、通常生理学的に許容される範囲であれば特に制限されないが、好ましくは3〜8である。またpHについては、本発明に用いるイオン性医薬活性物質の安定性を考慮して任意に設定することができる。 【0028】 本発明の徐放性医薬組成物は、例えば水溶液製剤、油性製剤、脂肪乳剤、エマルジョン製剤、ゲル製剤など種々の剤形に製剤化し、筋肉内、皮下、臓器などへの注射剤、または埋め込み剤、鼻腔、直腸、子宮、膣、肺などへの経粘膜剤などとして投与することができる。また、経口剤(例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等の固形製剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等の液剤等)としても投与することができる。なかでも、注射剤が好ましい。注射剤とする場合、必要に応じて公知の保存剤、安定化剤、分散剤、pH調節剤、等張化剤等を添加してもよい。ここで保存剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、フェノール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。また、安定化剤としては、例えばデキストラン、ゼラチン、酢酸トコフェロール、アルファチオグリセリン、などが挙げられる。また、分散剤としては、例えばモノオレイン酸ポリオキシエチレン(20)ソルビタン(Tween80)、セスキオレイン酸ソルビタン(Span30)、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール(プルロニックF68)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60などが挙げられる。また、pH調節剤としては、例えば塩酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。また、等張化剤としては、例えばブドウ糖、D−ソルビトール、D−マンニトールなどが挙げられる。 【0029】 また、本発明の徐放性医薬組成物は、それ自体徐放効果を示すので当該組成物をそのまま水溶液の状態で投与することもできるが、さらに徐放効果を高めるため、例えば大豆油、ゴマ油、コーン油、ツバキ油、ヒマシ油、ラッカセイ油、ナタネ油などの植物油または中鎖脂肪酸トリグリセリド、オレイン酸エチルなどの脂肪酸エステル、ポリシロキサン誘導体などを配合するか、また、ヒアルロン酸またはその塩(重量平均分子量:約8万〜200万)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量平均分子量:2万〜40万)、ヒドロキシプロピルセルロース(2%水溶液の粘度:3〜4000cps)、アテロコラーゲン(重量平均分子量:約30万)、ポリエチレングリコール(重量平均分子量:約400〜2万)、ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量:10万〜900万)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(1%水溶液の粘度:4〜10万cSt)、メチルセルロース(2%水溶液の粘度:15〜8000cSt)、ポリビニルアルコール(粘度:2〜100cSt)、ポリビニルピロリドン(重量平均分子量:2.5万〜120万)などの水溶性高分子を配合して投与することもできる。 【0030】 本発明の徐放性医薬組成物において、イオン性医薬活性物質については溶解状態が維持されるものが好ましいが、製剤の外観について特に制限するものではなく、懸濁状態であってもよい。 【0031】 また、本発明の徐放性医薬組成物の投与量としては、通常かかる組成物あるいは医薬組成物に含有される医薬活性物質の含有量と適用しようとする疾患の種類、患者の年齢・体重、投与回数などによって適宜使用することができるが、例えばBPSを用いた場合には、0.1μg〜10g、好ましくは10μg〜1gである。 【発明を実施するための最良の形態】 【0032】 本発明をさらに下記の実験例、実施例、比較例によって詳しく説明するが、本発明を限定するものではない。 【0033】 (実験例1) (BPSのオクタノール/リン酸塩緩衝液分配比(PC)における塩化ベンザルコニウムの添加比並びにpHとの関係) (方法) pH5〜8のリン酸緩衝液に240μg/mlとなるようにBPSを溶解し、このBPSの電荷と等量の電荷、5倍等量及び20倍等量の電荷となるように各種カチオンを添加した。水層と同量のオクタノールを加え37℃で1時間振とうした。遠心分離後の水層中の医薬活性物質の濃度を測定し、分配比を算出した。 (分配比=オクタノール層中の医薬活性物質濃度/水層中の医薬活性物質濃度) 【0034】 (結果及び考察) BPSのオクタノール/リン酸緩衝液分配比(PC)におけるカチオン性化合物の添加比並びにpHとの関係を図1に示す。その結果、pH7において、PCが塩化ベンザルコニウムの添加量とともに増大した。これはイオンコンプレックス化により疎水性が増大した薬物はオクタノール層に分配し、水層中でおこるイオンコンプレックス形成反応の平衡は塩化ベンザルコニウム濃度が高いほど形成の側にずれるためと考えられる。また、pHについては、酸性薬物であるBPSはpHの増加に伴い分配比は低下するが塩化ベンザルコニウムの添加により分配比の低下は抑制された。即ちpHが高いほど塩化ベンザルコニウムのBPS分配比に及ぼす効果は大きかった。また20倍等量の塩化ベンザルコニウムに合わせて等張となるように塩化ナトリウムを添加した場合、BPSの分配比は低下した。これは塩化ナトリウムの添加によりイオンコンプレックス形成反応が阻害されたためと考えられ、塩化ベンザルコニウム添加によるBPS分配比の増加効果はイオンコンプレックス形成が関与していることが裏付けられた。 【0035】 (実験例2) (分配比実験によるカチオン性化合物の評価) BPS、ジクロフェナクナトリウム(以下単に「DIC」と略記することもある)のオクタノール/リン酸塩緩衝液(pH7)の分配比に及ぼす各種カチオンの効果を検討した。 (方法) 水層に濃度が240μg/mlとなるように医薬活性物質を溶解し、この医薬活性物質の電荷と等量の電荷及び20倍等量の電荷となるように各種カチオンを添加した。以下、実験例1と同様に処理して分配比を算出した。 【0036】 (結果及び考察) 各種カチオンが医薬活性物質の分配比に及ぼす影響について代表例を表1に示す。塩化トリエチルベンジルアンモニウムなどのアルキルベンジルアンモニウム塩、塩化ラウリルトリメチルアンモニウムなどのアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化ラウリルピリジニウムなどのアルキルピリジニウム塩、ホスホニウム塩、塩酸リドカイン、塩酸メプリルカインについて、アニオン性医薬活性物質の分配比の増加が認められた。しかし、表には記載していないが、比較例の非イオン性化合物であるセスキオレイン酸ソルビタン(スパン30)もしくはアニオン性化合物であるラウリル硫酸ナトリウムでは無添加の分配比と変わらず、効果が認められなかった。また、無機塩(塩化マグネシウム)または疎水性が小さい化合物(塩酸アルギニン)では複合体を形成しても薬物の疎水性を高めないため、分配比の増加は認められなかった。更にカチオン性ヒドロキシエチルセルロース(ジェルナー)、硫酸プロタミンではカチオン基に代表されるような親水基が多く、分子内に存在する他の疎水基とのバランスで親水性が強いため複合体を形成しても医薬活性物質の疎水性が十分に高まらなかったためと考えられる。 【0037】 【表1】
【0038】 すなわち、医薬活性物質がアニオン性である場合、4級アンモニウム基やホスホニウム基などの反対電荷を有し、かつ疎水性の高い置換基(例えば炭素数6以上の疎水基等)を有する化合物が、アニオン性医薬活性物質の疎水性を高める効果を有することが明らかとなった。 【0039】 (実験例3) (分配比実験によるアニオン性化合物の評価) 塩酸タムスロシンのオクタノール/リン酸塩緩衝液(pH7)分配比に及ぼす各種アニオンの効果を検討した。 (方法) 水層に濃度が100μg/mlとなるように塩酸タムスロシンを溶解し、この電荷と等量の電荷及び20倍等量の電荷となるように各種アニオンを添加した。以下、実験例1と同様に処理して分配比を算出した。 【0040】 (結果及び考察) 各種アニオンが塩酸タムスロシンの分配比に及ぼす影響について代表例を表2に示す。脂肪酸もしくはその塩(実験例ではナトリウム塩)において、その添加量(無添加、等量、20倍等量)に相関して分配比は高まった。特にアルキルスルホン酸塩であるラウリル硫酸ナトリウムが分配比を最も高めた。しかし、表には記載していないが、比較例の非イオン性化合物であるスパン30もしくはカチオン性化合物である塩化ベンザルコニウムは無添加の分配比と同等もしくはそれ以下であり、また、酒石酸、スベリン酸、セバシン酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、ヒアルロン酸ナトリウム、オイドラギッドLでは分配比の増加は認められなかった。これは親水基と疎水基のバランスで親水性が強いため複合体を形成しても医薬活性物質の疎水性が十分に高まらなかったためと考えられる。 【0041】 【表2】
【0042】 すなわち、カルボキシル基や硫酸基などの反対電荷を有し、かつ疎水性の高い置換基(例えば炭素数6以上の疎水基等)を有する化合物が、カチオン性医薬活性物質の疎水性を高める効果を有することが明らかとなった。 【0043】 (実施例1) (ゲル製剤) BPS 0.024重量部(以下「部」と略記)と塩化カプリルジメチルベンジルアンモニウム0.29部(塩化ベンザルコニウム0.36部に相当するモル数に調節した)を水89.686部に溶解し、これにヒドロキシプロピルセルロース(商品名HPC−M)10部を添加して攪拌し、完全に膨潤させゲル製剤を調製した。 【0044】 (実施例2〜9) (ゲル製剤) 実施例1の塩化カプリルジメチルベンジルアンモニウムを表3に示すように他のカチオン性化合物に換え、各成分の重量部は実施例1と同一のゲル製剤を調製した。 【0045】 【表3】
【0046】 (比較例1〜3) BPS 0.024部を水に溶解し、これにHPC−M 10部を添加して攪拌し、完全に膨潤させゲル製剤としたもの、またこれらに塩酸アルギニン、硫酸マグネシウムを添加したゲル製剤を比較例として調製した(表4)。 【0047】 【表4】
【0048】 (実験例4) (各種カチオンを用いたゲル製剤のin vitro放出試験) 実施例1〜9及び比較例1〜3のゲル製剤について、37℃の等張リン酸緩衝液(pH7.4)10ml中で放出実験を実施した。 その結果、先の分配比実験(実験例2)において、疎水性を高める効果の認められた第4級アンモニウム塩で放出の遅延が確認された。一方同実験例において、分配比がほとんど高まらなかった塩化マグネシウムと同種の2価無機金属塩である硫酸マグネシウム、塩酸アルギニンでは放出の遅延は認められなかった。 したがって、分配比の増強効果と放出の遅延効果については相関性のあることが示唆された。 【0049】 (実施例10) (ゲル製剤) BPS 0.024部と塩化ベンザルコニウム0.02部を水89.956部に溶解し、これにHPC−M 10部を添加して攪拌し、完全に膨潤させゲル製剤を調製した。 【0050】 (実施例11〜17) (ゲル製剤) 表5に示すBPS、塩化ベンザルコニウム、HPC−M、水の各配合割合のものを実施例10と同様な調製方法によりゲル製剤を調製した。 【0051】 (比較例4) 実施例17において塩化ベンザルコニウムを添加しないものを比較例として調製した。 【0052】 【表5】
【0053】 (実験例5) (ゲル製剤におけるカウンターイオンの添加量の放出性に及ぼす影響) 実施例11〜13及び比較例1の製剤について、37℃のリン酸塩緩衝液(pH7.4)10ml中で放出実験を実施した。 放出試験の結果を図2に示す。本発明製剤からのBPSの放出は、比較例に比べ明らかに制御され、また放出はカウンターイオンである塩化ベンザルコニウムの添加量に相関して遅延することが判明した。 【0054】 (実験例6) (ラットin vivoにおける塩化ベンザルコニウムの添加効果) 実施例17及び比較例4の製剤をWistar系雄性ラット(8週齢)背部に皮下投与し、経時的な血漿中薬物濃度を測定した。 経時的な血漿中濃度の結果を図3に示す。本発明製剤(塩化ベンザルコニウム添加)において、血漿中薬物濃度推移は比較例に比べ徐放性を示した。また前記(実験例5)のin vitroの結果から、塩化ベンザルコニウムの添加量により徐放パターンを調節可能であると考えられる。 【0055】 (実施例18) (液製剤) BPS 0.002部と塩化ベンザルコニウム0.36部を水99.638部に溶解し、液製剤を調製した。 【0056】 (比較例5) (液製剤) 実施例18において、塩化ベンザルコニウムを添加しないものを比較例として調製した。 【0057】 (実施例19) (乳化製剤) BPS 0.002部と塩化ベンザルコニウム0.36部を水94.638部に溶解し、これに大豆油5部を添加し、マイクロフルイダイザーを用いて(12000psi、室温で10分)乳化製剤を調製した。 【0058】 (実施例20〜24) (乳化製剤) 表6に示すBPS、塩化ベンザルコニウム、その他の添加剤(界面活性剤、油など)、水の各配合割合のものを実施例19と同様な調製方法により乳化製剤を調製した。 【0059】 【表6】
【0060】 (実施例25) BPS 0.002部と塩化ベンザルコニウム0.36部をエタノール2部に溶解した後、大豆油を加えて100部とした油性製剤を調製した。 【0061】 (実施例26〜30) (油性製剤) 表7に示すBPS、塩化ベンザルコニウムをアルコール類等(エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル)に溶解した後、油(大豆油、ゴマ油)を加えて100部とした油性製剤を調製した。 【0062】 【表7】
【0063】 (実施例31〜34) (ゲル製剤) BPS 0.002部と塩化ベンザルコニウム0.36部を水に溶解し、これにゲル基剤(CMC−Na、ヒアルロン酸ナトリウム、アテロコラーゲン、ゼラチン)を添加して攪拌し、完全に膨潤させゲル製剤を調製した(表8)。 【0064】 【表8】
【0065】 (実施例35〜38) (クリーム製剤) BPS 0.002部と塩化ベンザルコニウム0.36部を水に溶解し、これに大豆油20部を混合した後、ゲル基剤(HPC−M、CMC−Na、ヒアルロン酸ナトリウム、アテロコラーゲン)を添加して攪拌し、クリーム製剤を調製した(表9)。 【0066】 【表9】
【0067】 (実施例39〜40) (ゲル製剤) DIC 0.1部とカチオン性化合物(塩化ベンザルコニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム)0.36部を水89.54部に溶解し、HPC−M10部を添加して攪拌し、完全に膨潤させゲル製剤を調製した(表10)。 【0068】 【表10】
【0069】 (比較例6) 実施例39において、塩化ベンザルコニウムを添加しないものを比較例として調製した。 【0070】 (実施例41〜45) (ゲル製剤) DIC 0.1部と塩化ベンザルコニウムを水に溶解し、HPC−M5部を添加して攪拌し、完全に膨潤させゲル製剤を調製した(表11)。 【0071】 【表11】
【0072】 (実施例46〜49) (液製剤) DIC 0.1部と塩化ベンザルコニウムを水に溶解し、液製剤を調製した(表12)。 【0073】 【表12】
【0074】 (比較例7) 実施例46〜49において、塩化ベンザルコニウムを添加しないものを比較例として調製した。 【0075】 (実施例50〜53) (ゲル製剤) アニオン性医薬活性物質(サリチル酸ナトリウム、フェノプロフェンカルシウム)とカチオン性化合物(塩化ベンザルコニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム)を水に溶解し、HPC−M10部を添加して攪拌し、完全に膨潤させゲル製剤を調製した(表13)。 【0076】 【表13】
【0077】 (実施例54〜56) (ゲル製剤) アニオン性医薬活性物質(セフピラミドナトリウム、ミノドロン酸)とカチオン性化合物(塩化ベンザルコニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム)を水に溶解し、HPC−M10部を添加して攪拌し、完全に膨潤させゲル製剤を調製した(表14)。 【0078】 【表14】
【0079】 (実施例57〜60) (ゲル製剤) カチオン性医薬活性物質(塩酸タムスロシン、塩酸ラモセトロン)とアニオン性化合物(オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム)を水に溶解し、HPC−M10部を添加して攪拌し、完全に膨潤させゲル製剤を調製した(表15)。 【0080】 【表15】
【0081】 (比較例8) 実施例57〜58において、オレイン酸ナトリウムもしくはラウリル硫酸ナトリウムを添加しないものを比較例として調製した。 【0082】 (実験例7) (ラットin vivoにおける効果) 実施例18及び比較例5の液製剤、実施例19〜21の乳化製剤、実施例25〜28の油性製剤、実施例31〜38のゲル製剤またはクリーム製剤を、それぞれWistar系雄性ラット(8週齢)背部に皮下投与し、経時的な血漿中薬物濃度を測定した。 その結果、それぞれの製剤においでカウンターイオンの添加により徐放効果が得られることが判明した。一方、比較例のあるものでは徐放効果は認められなかった。 【0083】 (実験例8) (in vitro放出試験における効果) 実施例39、40及び比較例6、実施例50、51、実施例52、53、実施例54、55、実施例56のそれぞれのゲル製剤について、37℃のリン酸塩緩衝液(pH7.4)10ml中で放出実験を実施した。 放出試験の結果を図4に示す。その結果、分配比実験で疎水性が増強された第4級アンモニウム塩において放出の遅延が確認された。一方、比較例のあるものでは放出の遅延は認められなかった。 【0084】 (実験例9) (ラットin vivoにおける効果(カチオン添加量の影響)) 実施例41〜45のゲル製剤、実施例46〜49及び比較例7の液製剤をWistar系雄性ラット(8週齢)背部に皮下投与し、経時的な血漿中薬物濃度を測定した。 経時的な血漿中濃度の結果を図5に示す。その結果、塩化ベンザルコニウムの添加量に相関して血漿中薬物濃度推移は徐放性を示し、添加量により徐放パターンを調節可能であることが示唆された。一方、比較例のあるものでは徐放効果が認められなかった。 【0085】 (実験例10) (in vitro放出試験における効果) 実施例57、58及び比較例8、実施例59、60のそれぞれのゲル製剤について、37℃のリン酸塩緩衝液(pH7.4)10ml中で放出実験を実施した。 その結果、分配比実験で疎水性が増強されたアルキル有機酸塩において放出の遅延が確認された。一方、比較例のあるものでは放出の遅延は認められなかった。 【産業上の利用可能性】 【0086】 本発明は、イオン性医薬活性物質の水溶性のいかんに拘わらずイオン性医薬活性物質の優れた徐放効果を発揮する徐放性医薬組成物を提供するものとして有用である。又、本発明は、従来イオン性医薬活性物質の徐放化で採用されている手段や、医薬活性物質自体を不溶化する手段、マイクロカプセル化により溶出を遅延させる手段とは全く異なる徐放化手段を採用するものであり、しかも、これら従来公知の徐放化手段では十分に満足すべき程度に達成することができなかった徐放化を達成した点において有用である。 また、本発明の医薬組成物は、注射剤の他、埋め込み剤、経粘膜剤、経口製剤等あらゆる医薬品製剤において、優れた徐放効果を達成することができる。 【図面の簡単な説明】 【0087】 【図1】図1は、BPSのオクタノール/リン酸緩衝液分配比(PC)におけるカチオン性化合物の添加比並びにpHとの関係を示すものである。 【図2】図2は、実験例5において、実施例11〜13及び比較例1の製剤について、37℃のリン酸塩緩衝液(pH7.4)10ml中で放出実験を実施したときのBPSの放出挙動を示すものである。 【図3】図3は、実験例6において、実施例17及び比較例4の製剤をWistar系雄性ラット(8週齢)背部に皮下投与したときの経時的な血漿中薬物濃度を示すものである。 【図4】図4は、実験例8において、実施例39、40及び比較例6の製剤について、37℃のリン酸塩緩衝液(pH7.4)10ml中で放出実験を実施したときのジクロフェナクの放出挙動を示すものである。 【図5】図5は、実験例9において、実施例44、49及び比較例7の製剤をWistar系雄性ラット(8週齢)背部に皮下投与したときの経時的な血漿中薬物濃度を示すものである。
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| 【出願人】 |
【識別番号】000006677 【氏名又は名称】アステラス製薬株式会社 【住所又は居所】東京都中央区日本橋本町2丁目3番11号
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| 【出願日】 |
平成17年12月26日(2005.12.26) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100088616 【弁理士】 【氏名又は名称】渡邉 一平
【識別番号】100089347 【弁理士】 【氏名又は名称】木川 幸治
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| 【公開番号】 |
特開2006−111636(P2006−111636A) |
| 【公開日】 |
平成18年4月27日(2006.4.27) |
| 【出願番号】 |
特願2005−373626(P2005−373626) |
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