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【発明の名称】 リポソーム
【発明者】 【氏名】間 陽子

【氏名】渡来 仁

【氏名】河野 健司

【要約】 【課題】本発明は、陽性荷電脂質膜を有するリポソームを含む医薬組成物を提供することを目的とする。

【解決手段】TMAG、DLPC、DOPE及びSucPGを含み、生体内でT細胞又はマクロファージに取り込まれるリポソーム。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TMAG、DLPC、DOPE及びSuc-PGを含むリポソーム。
【請求項2】
生体内でT細胞又はマクロファージに取り込まれることができる請求項1記載のリポソーム。
【請求項3】
TMAGとDLPCとDOPEとの存在比が1:2:2である、請求項1記載のリポソーム。
【請求項4】
表面が親水性である、請求項1〜3から選択される少なくとも1項記載のリポソーム。
【請求項5】
多重膜から構成されるものである、請求項1〜4から選択される少なくとも1項記載のリポソーム。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、陽性荷電の脂質膜を有するリポソームに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療における細胞への遺伝子の導入には、これまでの研究によって、リポソーム、などの多くの担体が開発され、用いられてきた。生体への投与を考えた場合、用いる担体としては最も免疫原性が少なく、生体に対し安全性の高いものを選択することが好ましく、既存の担体の中ではリポソームが最適であると考えられる。
【0003】
リポソームは、両親媒性のリン脂質からなる担体である。前述のようにリポソームは、毒性が少なく、生物分解性であり、免疫原性が少ないという特徴を有する。さらに、リポソームは遺伝子、タンパク質又は薬剤などを封入することができ、標的部位に到達するまで、それらを生体内の酵素などによる攻撃から守ることができる。
【0004】
近年、本発明者を初めとする多くの研究者は、リポソームを遺伝子導入の担体として利用することに着目し、細胞への遺伝子導入の研究開発を行ってきている(非特許文献1)。
【0005】
遺伝子治療を必要とする疾患は多く、例えばHIV感染も遺伝子治療が有効な疾患の1つである。AIDSの治療においても、HIV感染の治療及び予防に有効な遺伝子治療用リポソーム担体の研究が進められている(非特許文献2)。
【0006】
これまでに、本発明者は、TMAG、DOPE及びDLPCで構成される陽性荷電リポソームを用いて、B細胞への遺伝子導入を成功させている。したがって、今後は免疫系を司る他のリンパ球細胞、例えばT細胞やマクロファージ細胞への遺伝子導入方法の開発が望まれている。
【非特許文献1】Zhao, D.-D., Watarai, S., Lee, J.-T., Kouchi, S., Ohmori, H., and Yasuda,T., (1997) Gene transfection by means of cationic liposomes: Comparison of the transfection efficiency of the liposomes prepared from the various positively charged lipids. Acta Med. Okayama, 51, 149-154.
【非特許文献2】Tana, Watarai, S., Onuma, M., Aida, Y., Kakidani, H., Kodama, H., and Yasuda, T., (1998) Antitumor effect of diphtheria toxin A-chain Gene-containing cationic liposomes conjugated with monoclonal antibody directed to tumor-associated antigen of bovine leukemia cells. Jpn. J. Cancer Res. (Gann), 89, 1202-1211.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、陽性荷電脂質膜を有するリポソームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、T細胞又はマクロファージに取り込まれるリポソームを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)TMAG、DLPC、DOPE及びSuc-PGを含むリポソーム。
(2)(1)記載のリポソームは、生体内でT細胞又はマクロファージに取り込まれることができる。
(3)(1)記載のリポソームは、TMAGとDLPCとDOPEとの存在比が1:2:2であてもよい。
(4)(1)〜(3)記載のリポソームの表面が親水性であってもよい。
(5)(1)〜(4)記載のリポソームは、多層膜から構成されるものであってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
1.概要
本発明者は、TMAG:DLPC:DOPEを例えば存在比(モル比)1:2:2で含有する陽性荷電リポソーム(TMAGリポソーム)が、細胞への遺伝子導入に優れていることを明らかにするとともに、サクシニル化ポリグリシドール(SucPG)を組み込んだTMAGリポソーム(SucPG-TMAGリポソーム)は、T細胞又はマクロファージと特異的に融合できることを見出した。さらに、SHIV-サルのモデル系において、vpr変異体発現ベクター封入リポソームの投与により、HIVの産生が抑制されることを示した。
【0011】
以上の知見に基づいて、本発明は、SucPG-TMAGを構成成分に含む陽性荷電の脂質膜を有するリポソームを提供する。

2.SucPG-TMAGリポソーム
本発明のリポソームは、TMAG (N-(α-trimethylammonioacetyl)-didodecyl-D-glutamate chloride)、DLPC (dilauroyl phosphatidylcholine)及びDOPE (dioleoyl phosphatidylethanolamine)を構成成分に含むものであり(TMAGリポソームという)、その表面が陽性に荷電しているため、負電荷を帯びている遺伝子の封入率に優れている。さらに、TMAGリポソームは細胞毒性も少ないため、生体に対して安全性の高い遺伝子導入担体として機能する。リポソームの遺伝子封入効率は、遺伝子封入リポソームを、クロロフォルム−メタノール液などで処理し、封入遺伝子を放出させた後、DAPI法などの公知の方法で遺伝子量を測定することによって、評価することができる。
【0012】
上記構成成分の存在比(モル比TMAG:DLPC:DOPE)は、リポソームが高い遺伝子封入率及び高い遺伝子導入効率を有する限り限定されるものではないが、0.5〜2:1〜3:1〜3、好ましくは0.75〜1.5:1.5〜2.5:1.5〜2.5、より好ましくは1:2:2である。本発明のリポソームの構成成分であるTMAGの化学式を下記に示す。
【0013】
【化1】


また、DLPC及びDOPEの構造式は以下の通りである。
【0014】
【化2】


【0015】
【化3】


本発明のリポソームは、上記TMAGリポソームに、さらにSucPGを含むことを特徴とする(SucPG-TMAGリポソームという)。
【0016】
SucPGとは、以下に示す構造を有する化合物であり、n-decyl基を有することが特徴である。n-decyl基を有することにより、SucPGを含むリポソームはリポソーム膜へのアンカリングが可能となる。また、SucPGは両親媒性であり、両親媒性のポリエチレングリコールと類似の主鎖骨格および側鎖にカルボキシル基を有するため、中性環境下においてはリポソーム膜を安定化するが、酸性環境化において側鎖カルボキシル基がプロトン化されるとリポソーム膜を著しく不安定化し、その膜融合を誘起するという特徴を有する。また、SucPGは、側鎖のカルボキシル基が解離すると負に帯電するため、リポソーム膜に固定化することによってリポソームにいわゆるステルス性(体内の細網内皮系による捕捉を逃れ、高い血中滞留性を示す性質)を付与することもできる。
【0017】
【化4】


上記式中、X、Y及びZはそれぞれ同一または異なる1以上の整数を示す。
【0018】
SucPG-TMAGリポソームは膜融合能を有するため、細胞内への遺伝子導入において極めて有用である。特に、SucPG-TMAGリポソームは、これまで遺伝子導入が困難とされていたT細胞やマクロファージに対して、高い融合能を示し、これらの細胞に取り込まれる。従って、本発明のリポソームは、T細胞又はマクロファージへの効率の良い遺伝子導入に用いることができる。細胞に対する遺伝子導入効率は、例えば、蛍光タンパク質(例えばルシフェラーゼ)の遺伝子を細胞に導入したときの、遺伝子導入細胞における蛍光強度を測定することによって評価することができる。
【0019】
ここで、リポソームは、その構造又は作製法によって、MLV(multilamellar vesicles、多重層リポソーム)、DRV(dehydration-rehydration vesicles、再水和リポソーム)、LUV(large umilamellar vesicles、大きな単層リポソーム)あるいはSUV(small unilamellar vesicles、小さな単層リポソーム)などに分類される。SucPG-TMAGリポソームは、TMAGリポソームをベースにして作られるが、このTMAGリポソームにも多層膜で構成されるMLV、DRV、LUV、又はSUVなどの種類が存在する。
【0020】
MLVの作製方法は、薄膜状態の脂質に水系溶媒を加えて水和・膨潤させた後、機械的的振動により容器から脂質薄膜を剥離させ作製する。DRVの作製方法は、リポソーム(MLV、SUV等)を凍結乾燥した後、水系溶媒で再水和させることにより作製する。LUVの作製方法は、有機溶媒(ジエチルエーテル、石油エーテル、ジクロロメタン、エチルアルコール等)に溶かした脂質溶液を一定の条件下で水系溶媒の中へ注入し作製する方法(有機溶媒注入法)、脂質/界面活性剤混合ミセルから界面活性剤を除去することにより作製する方法(界面活性剤除去法)、超音波処理をしたMLVを液体窒素で凍結させ、室温で解凍させた後、短時間の超音波処理もしくは機械的的振動により作製する方法(凍結融解法)、あるいは水と混和しない有機溶媒に溶かした脂質に少量の水系溶媒を加え、超音波処理によりw/oエマルジョンを作製した後、有機溶媒を減圧下で留去することにより作製する方法(逆相蒸発法)などにより作製する。SUVの作製方法は、薄膜状態の脂質に水系溶媒を加えて水和・膨潤させた後、超音波処理を行うことにより脂質二重膜の再配列を生じさせ作製する。また、MLVを超音波処理、またはフレンチプレス、加圧ろ過器あるいはエクストルーダーを用いて一定の大きさの孔を通すことによってもSUVを作製することができる。
【0021】
SucPGは、合成高分子ポリグリシドールを無水コハク酸とN,N-ジメチルフォルムアミド中において80℃で6時間反応させることにより作製することができる。
【0022】
本発明のSucPG-TMAGリポソームにおいて、SucPGはTMAGリポソーム中に、自身の持つn-decyl基を介してリポソーム膜へアンカリングされ、ポリエチレングリコールと類似の主鎖骨格および側鎖のカルボキシル基をリポソーム表面に発現した形態で存在する。そして、前述のようにして得られた各種形態のTMAGリポソーム作製時に、リポソーム構成脂質とともにSucPGを加え、TMAGリポソームを作製することによって、本発明のSucPG-TMAGリポソームを得ることができる。
【0023】
以上のようにして作製された本発明のリポソームは、以下の物理的特徴を有する。
【0024】
(a) 荷電
当該リポソームの表面は陽荷電を有する。陽荷電を有することにより、遺伝子導入効率を高めることができる。
【0025】
(b) 親水性
本発明のリポソームは親水性を有している。親水性を得るためには、リポソームの膜表面を親水性ポリマーで修飾するとよい。親水性ポリマーとしては、例えばポリエチレングリコール、ポリメチルエチレングリコール、ポリヒドロキシプロピレングリコール,ポリプロピレングリコール、ポリメチルプロピレングリコールなどが挙げられ、好ましくはポリエチレングリコールである。本発明のリポソームを親水性化するには、親水性ポリマーを脂質膜に埋め込む等の公知の手法を採用することができる(文献名:Takeuchi H, Kojima H, Yamamoto H, Kawashima Y. 2001, Evaluation of circulation profiles of liposomes coated with hydrophilic polymers having different molecular weights in rats. J Control Release. 75:83-91.、Vertut-Doi A, Ishiwata H, Miyajima K. 1996, Binding and uptake of liposomes containing a poly(ethylene glycol) derivative of cholesterol (stealth liposomes) by the macrophage cell line J774: influence of PEG content and its molecular weight. Biochim Biophys Acta. 1278:19-28.)。
【0026】
また、本発明のリポソーム(MLV)は、直径が0.02〜3ミクロン、好ましくは0.1〜0.2ミクロンである。前述のように本発明のリポソーム(SUV)は、一定の大きさの孔を通すことによって、好ましい直径に作製することができる。
【0027】
本発明のSucPG-TMAGリポソームは、膜融合能を持たせるように作製された遺伝子等の導入用担体であり、細胞内への遺伝子導入において有用なものである。特に、本発明のリポソームは、これまでに遺伝子導入が困難とされていたT細胞やマクロファージの細胞膜に融合可能であり、当該細胞への遺伝子導入において有効なツールとなる。
【0028】
本発明のリポソームの構成成分は、安全性又は生体内における安定性を考慮すると、上記のTMAG、DLPC及びDOPEの他、安定化剤、酸化防止剤、その他の表面修飾剤の配合をすることができる。
【0029】
安定化剤としては、膜流動性を低下させるコレステロールなどのステロール、グリセロール、シュクロースなどの糖類等が挙げられる。
【0030】
酸化防止剤としては、トコフェロール同族体(ビタミンE)等などが挙げられる。トコフェロールには、α、β、γ及びδの4個の異性体が存在するが本発明においてはいずれも使用できる。
【0031】
その他の表面修飾剤としては、グルクロン酸、シアル酸、デキストラン等の水溶性多糖類の誘導体等が挙げられる。

3.医薬組成物
前述のように、本発明のリポソームは、生体への無害性、低免疫原性、高い遺伝子封入効率、あるいは高い細胞融合能などの特徴を有する。従って、本発明のリポソームは、上記の性質を利用して、目的遺伝子の他、タンパク質、薬剤(化合物)などの目的物を含有させた医薬組成物として使用することが可能である。
【0032】
特に、本発明の医薬組成物は、T細胞やマクロファージへの特異的な細胞融合能を有して取り込まれる本発明のリポソームを含むため、これら免疫系細胞に関係した疾患に対する治療に有効である。例えば、vpr変異体(C81)タンパク質又はそれをコードする遺伝子などのアポトーシス誘導剤を含有したリポソームで、ウイルスに感染したT細胞又はマクロファージを処理すると、当該細胞はアポトーシスを引き起こす。
【0033】
本発明で用いるvpr変異体とは、HIV-1のvpr遺伝子がコードするVprタンパク質において、C末端側から15個のアミノ酸残基が欠失した81アミノ酸残基からなるタンパク質(配列番号2)である(「C81変異タンパク質」と呼ぶ場合がある)。このC81タンパク質は実施例に記載した方法に従って容易に製造することができる。C81変異タンパク質は、HIV-1のvpr遺伝子の核酸配列又はVprタンパク質のアミノ酸配列(Adachi,A.et al.,J.Virol.,59,pp.284-291,1986)を利用することによっても製造可能である。本発明のC81タンパク質は、Vprタンパク質に比べてアポトーシス誘導作用が著しく高められていることを特徴としている。また、本発明のC81変異タンパク質は、ウイルス感染細胞に発現すると直ちに細胞にアポトーシスを引き起こす特徴を有する。
【0034】
ここで、「アポトーシス誘導活性」とは、アポトーシスを細胞に引き起こす作用を意味し、本発明のC81変異タンパク質による高められたアポトーシス誘導作用は、陰性対照細胞と比較して、アネキシンV陽性細胞の出現レベルの上昇、ヘキスト染色によるアポトーシス小体の出現レベルの上昇又はカスパーゼ(Caspase)-3若しくは-9の活性の上昇を指標に用いて検出することができる。これらのアポトーシス誘導作用は、当業者であれば容易に確認することができる。また、本発明のタンパク質は、Vprタンパク質と異なり、実質的にG2期停止(arrest)能を有しないことを特徴としている。
【0035】
上記のC81タンパク質のアミノ酸配列(配列番号2)において、1個又は数個のアミノ酸残基が置換、挿入、及び/又は欠失したアミノ酸配列を有し、C81変異タンパク質と同様のアポトーシス誘導作用を有するタンパク質(以下、「改変タンパク質」と呼ぶ場合がある)も本発明の医薬組成物として使用することができる。
【0036】
改変タンパク質としては、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち1若しくは複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が欠失しており、1若しくは複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されており、及び/又は1若しくは複数個(好ましくは1個又は数個(例えば1個〜10個、さらに好ましくは1個〜5個))の他のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列からなり、かつ上記アポトーシス誘導活性を有する改変タンパク質が挙げられる。
【0037】
上記の改変タンパク質は、C81タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA(配列番号1)を有する大腸菌などをN-ニトロ-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジンなどの薬剤を用いて突然変異処理し、菌体から改変タンパク質をコードする遺伝子を回収した後、通常の遺伝子発現操作を行うことによって製造できる。あるいは、部位特異的変異法(Kramer,W.et al.,Methods in Enzymology,154,350,1987)やリコンビナントPCR法(PCR Technology,Stockton press,1989)などの手法によってヌクレオチドの欠失、置換、又は付加を直接導入してもよい。
【0038】
遺伝子に変異を導入するには、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばGeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(Invitrogen)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等(タカラバイオ社製))を用いて行うことができる。
【0039】
リポソームに含有させる遺伝子はC81変異タンパク質又は上記改変タンパク質をコードする核酸配列からなるDNA配列又はRNA配列のいずれをも包含するが、これらは上記文献記載の方法に従って容易に入手することが可能である。また、遺伝子は上記C81をコードするものに限定されるものではなく、治療目的に応じて任意に選択することができる。
【0040】
また、配列番号1に示す塩基配列に相補的な配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、アポトーシス活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を、リポソームに含有させることも可能である。
【0041】
「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイズさせた後の洗浄時の条件であって塩(ナトリウム)濃度が150〜2000mMであり、温度が25〜75℃、好ましくは塩(ナトリウム)濃度が300〜700 mMであり、温度が42〜72℃での条件をいう。
【0042】
本発明で用いられるC81変異タンパク質には、配列番号2で示されるC81変異タンパク質又はその改変タンパク質のN末端から1〜16のいずれかの長さのアミノ酸を欠損させたものであって、かつアポトーシス誘導活性を示すものも含まれる(以下、「N末端欠損型C81変異タンパク質」ともいう)。当該N末端欠損型C81変異タンパク質は、アポトーシス誘導活性を示す限り、1個又は数個のアミノ酸残基が置換、挿入、付加及び/又は欠失したアミノ酸配列を有する改変体も含む。さらに、本発明で用いられる遺伝子には、前記N末端欠損型C81変異タンパク質をコードする核酸配列からなるDNA配列又はRNA配列のいずれをも包含する。これらN末端欠損型C81変異タンパク質及びそれらをコードする核酸配列は、上記文献記載の方法に従って容易に入手することができる。
【0043】
本発明のリポソームを医薬組成物として利用するために、C81等のタンパク質は、他のポリペプチドと融合されていてもよい。上記タンパク質のアミノ酸配列を部分配列として含む融合タンパク質、及び該融合タンパク質をコードする遺伝子もリポソームに包含させることができる。例えば、癌細胞などの標的細胞に対して特異的なモノクローナル抗体やそのフラグメントとの融合タンパク質を製造することにより、標的細胞において特異的にアポトーシスを惹起させることが可能になる。また、本発明の医薬組成物は、アポトーシス耐性が関与する疾患などの治療への有用性が期待され、生化学、遺伝子工学などの分野における試薬としても有用である。
【0044】
本発明のリポソームに含有させる遺伝子は、アポトーシス耐性が関与する疾患に対する遺伝子治療に用いることができる。例えば、癌やAIDSの予防及び/又は治療のための遺伝子療法に用いることができる。遺伝子療法の手技は特に限定されないが、通常は、本発明の遺伝子をベクターに組み込み、これをリポソームに導入してリポソームを生体内に投与すればよい。遺伝子治療用ベクターは種々知られており、当業者は適当なベクターを選択することができる。また、特定の細胞において遺伝子の発現を制御するための手法も当業者に利用可能である。そのほか、本発明の遺伝子をHIV-1LTRの下流に連結し、抗HIV gp120抗体結合リポソームに封入して生体内に導入することにより、HIV感染細胞を直接的かつ特異的に破壊することが可能である。
【0045】
前述のvpr変異体(C81)発現ベクターをSucPG-TMAGリポソームに封入し、マクロファージ細胞を標的として遺伝子導入を行うと、細胞の増殖阻害が認められる。さらに、HIV感染サルに前記ベクターを含有したSucPG-TMAGリポソームを投与すると、HIVの産生が抑制される。
【0046】
また、C81変異タンパク質と同じく、アポトーシス誘導活性を有するタンパク質、化合物、又は遺伝子(以下「アポトーシス誘導物質」ともいう)も本発明の医薬組成物に含有することができる。当該アポトーシス誘導物質に含まれる遺伝子には、例えばIκB、Smac/DIABLO、ICE、HtrA2/OMI、AIF、エンドヌクレアーゼG(endonuclease G)、Bax、Bak、Noxa、Hrk(harakiri)、Mtd、Bim、Bad、Bid、PUMA、活性化カスパーゼ-3(activated caspase-3)、Fas及びTkからなる群から選択される少なくとも1つのタンパク質及びそれらの改変体であって、アポトーシス誘導作用を有するものをコードする遺伝子を挙げることができる。
【0047】
上記タンパク質の意味は以下のとおりである。
IκB:inhibitor of κB、NFκBの阻害剤。
Smac/DIABLO:IAP(inhibitor of apoptosis protein)制御因子。
ICE:IL-1 beta-converting enzyme、IL-1β変換酵素。
HtrA2/OMI:ミトコンドリア由来の新規細胞死誘導因子。
AIF:apoptosis inducing factor、アポトーシス誘導因子。
エンドヌクレアーゼG(endonuclease G):ミトコンドリアから遊離するエンドヌクレアーゼ、アポトーシスDNアーゼ。
Bax:bcl-2 associated X protein。マルチドメインメンバー。アポトーシス促進。
Bak:Bcl-2ファミリーメンバー。
Noxa:p53で誘導されるアポトーシスのメディエーター(mediator of p53-induced apoptosis)。
Hrk(harakiri):アポトーシスの活性化剤(activator of apoptosis)。
Mtd:Bcl-2ファミリーメンバー。Bcl-2とBcl-XLのヘテロダイマリゼーションが生じないときにアポトーシスを活性化する。
Bim:BH3-only サブファミリー、Bcl-2スーパーファミリー、アポトーシス誘導因子、BH3-onlyタンパク質。
Bad:a heterodimeric partner for Bcl-XL and Bcl-2, displace Bax and promotes cell death。
Bid:Bcl-2ファミリー、BH3-onlyタンパク質、アポトーシス促進。
PUMA:p53 upregulated mediator of apoptosis。
活性化カスパーゼ-3:activated caspase-3。
Fas:FS-7(F)-and FL(F)-Associated cell Surface antigen、アポトーシスシグナルレセプターの一つ。
Tk:チミジンキナーゼ。
【0048】
また、本発明のリポソームには上記タンパク質や遺伝子以外にも、薬物を導入することができる。薬物としては特に限定されるものではないが、例えばアポトーシス誘導活性を有する薬剤(例えば、5-Fluorouracil、actinomycin D、adriamycin、anisomycin、aphidicolin、bleomycin、cisplatin、mitomycin C、campthotecin、doxorubicin、etoposide、irinotecan、Bestatin、Betulinic acid、C2 celamide、cycloheximide、dexamethasone、DHMEQ(dehydroxymethylepoxyquinomicin)、gefitinib、HA 14-1、inostamycin、methotrexate、paclitaxel、taxol、puromycin、quercetin、staurosporine、telomestatin、TRAIL(TNF related apoptosis inducing ligand)、tricostatin A及びハリクロリン等)を含有させることができる。
【0049】
これらのタンパク質をコードする遺伝子は、データベースの塩基配列情報から、例えばPCR法などの分子生物学的手法により作製することができ、あるいは核酸合成機により合成されたものを使用することもできる。
【0050】
また、HIV-1に感染しているT細胞又はマクロファージにおいてアポトーシス誘導を起こすタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、あるいはアポトーシスを誘導する薬剤も、本発明に含まれる。加えて、細胞周期が停止している細胞に直ちにアポトーシスを誘導するタンパク質、該タンパク質をコードする遺伝子、又は薬剤も本発明に含まれる。
【0051】
従って、本発明の医薬組成物は、抗ウイルス薬、特にHIV-1、FIV、SIV、BIV又はHIV-2の増殖抑制剤又は感染予防剤、あるいはAIDS(後天性免疫不全症候群)、AIDS関連症候群(ネコAIDS、サルAIDS、ウシAIDS、ヒトHIV-2感染症など)又はウイルスによる感染症(肝がん、子宮けいがん、ATL、カポジ肉腫など)の発症の予防剤又は治療剤として使用することができる。この場合は、HIVウイルス感染者(HIVウイルス陽性の健常者又はAIDS患者)に対して治療又は予防を特異目的として投与することができる。また、健常者に対して、感染予防の目的で使用することも可能である。また、本発明は、当該医薬組成物を、FIV、SIV、BIV又はHIV-2に感染したネコ、サル、ウシ又はヒトに投与することによるAIDS関連症候群の予防方法又は治療方法を提供する。さらに、本発明は、HIV-1、FIV、SIV、BIV又はHIV-2に感染した細胞に、当該医薬組成物を接触させることによるHIV-1、FIV、SIV、BIV又はHIV-2の感染増殖を抑制する方法を提供する。上記の疾患は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであってもよく、いずれも本発明の医薬組成物を使用する対象とすることができる。
【0052】
本発明のSucPG-TMAGリポソームに目的物を含有させるには、まず目的物が遺伝子の場合には、MLV、DRVならびにLUVにおいては、あらかじめ遺伝子をリポソーム作製時の水系溶媒に加えることにより含有できる。SUVにおいては、SUV(TMAGリポソーム)と遺伝子とを反応させ複合体を作製した後、SucPG-TMAGリポソーム(SUV)と反応させることによって行えばよい。リポソームと遺伝子との比は、1:20〜1:60であり、1:40であることが好ましい。
【0053】
次に目的物がタンパク質の場合、各種形態のリポソーム作製時の水系溶媒にあらかじめタンパク質を加えることによってリポソームに含有させればよい。例えば、タンパク質として抗体を含有させるときの比は、20%以内、好ましくは10%以内である。また、前記抗体として、HIV-1のエンベロープタンパク質の1つであるgp120の抗体を用いることもできる。本発明のリポソームに、gp120の抗体をあらかじめgp120の抗体を結合させておくことで、HIV-1に感染している細胞を直接的かつ特異的に破壊することが可能である。抗gp120抗体は、HIV-1感染細胞に発現するgp120を認識する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体であってもよく、あるいはそれらの断片であってもよい。
【0054】
当該抗体は、当業者であれば市販のものを購入して、あるいは公知の抗体作製方法に従って作製して得ることもできる。
【0055】
さらに、目的物が化合物等の薬剤である場合、薬剤が水溶性の場合は、各種形態のリポソーム作製時の水系溶媒にあらかじめ加えることにより、また、薬剤が疎水性の場合は、各種形態のリポソームの脂質溶液に加えることによってリポソームに含有することができる。
【0056】
本発明の医薬組成物は、目的物を含むリポソームをそのまま用いることも、公知の薬学的に許容できる担体などを配合して製剤化することも可能である。このような薬学的に許容可能な担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などを挙げることができる。製剤化の剤形としては、経口的投与形態に用いられる錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤などが、また非経口的投与形態に用いられる点滴、坐剤、注射剤、軟膏剤、バップ剤などが挙げられる。
【0057】
また、本発明の医薬組成物の投与経路は特に限定されず、経口又は非経口的に投与することができる。非経口投与の形態として、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、経皮吸収などが挙げられるが、好ましくは静脈内注射である。また、注射剤は、非水性の希釈剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール、オリーブ油などの植物油、エタノールなどのアルコール類など)、懸濁剤又は乳濁剤として調製することが可能である。注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤の配合などにより行えばよい。また、注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。すなわち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物とし、使用前に無菌の注射用蒸留水又は他の溶媒に溶解して使用することができる。
【0058】
本発明の医薬組成物の投与量は、投与対象の年齢、投与経路、投与回数により異なり、広範囲に変えることができる。本発明において、C81変異型タンパク質の有効量と適切な希釈剤及び薬理学的に使用し得る担体との組合せとして投与される有効量は、一回につき体重1kgあたり0.001〜50 mg/body、好ましくは0.01〜5 mg/body、さらに好ましくは1 mg/bodyの範囲の投与量を選ぶことができ、1日1回から数回に分けて1日以上投与される。投与スケジュールは、毎日投与〜7日おきの投与であることが好ましい。

以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0059】
遺伝子導入効率の高い陽性荷電リポソームの脂質組成の検討
本実施例では、遺伝子導入効率の高いリポソームの脂質組成を比較検討することを目的とした。
【0060】
陽性荷電リポソームとして、脂質組成が(1)TMAG:DLPC:DOPEのモル比が1:2:2からなるリポソーム(TMAGリポソーム)、(2)DC-Chol:DOPEのモル比が3:2からなるリポソーム(DC-Cholリポソーム)及び(3)DDAB:DOPEのモル比が1:2.2からなるリポソーム(DDABリポソーム)のそれぞれに対して、多重層リポソーム(MLV)、再水和リポソーム(DRV)、及び小さな単層リポソーム(SUV)の形態のものを作製し、それぞれの遺伝子封入率と細胞に対する遺伝子導入効率を比較した。ここで、DC-Cholは、3β[N-(N',N'-dimethylaminoethane)-carbamoyl]cholesterolを意味し、DDABは、Dimethyldioctadecylammonium bromideを意味する。DC-Chol及びDDABの構造式を下に記す。
【0061】
【化5】


【0062】
【化6】


細胞への遺伝子導入は、COS-1細胞を標的とし、ルシフェラーゼ遺伝子を用いることによって行った。遺伝子封入効率は、DNA封入リポソームをクロロフォルム−メタノール液で処理し、封入DNAを放出させた後、DAPI法によりDNAを測定することで求めた。
【0063】
遺伝子封入効率の結果を表1に示す。表1中、MLVはmultilamellar vesiclesを、DRVはdehydration-rehydration vesiclesを、SUVはsmall unilamellar vesiclesを意味する。TMAGはTMAGリポソームを、DC-CholはTMAGリポソームを、DDABはDDABリポソームを意味する。MLV、DRV及びSUVのいずれの形態においても、TMAGリポソームが最も高い遺伝子封入効率を示した。
【0064】
【表1】


一方、遺伝子導入効率は、COS-1細胞に対するルシフェラーゼ遺伝子の導入の程度を、細胞溶解液のルシフェラーゼ活性を測定することにより評価した。方法は、1×105個のCOS-1細胞を24穴プレートで37℃、24時間培養した後、血清存在下での遺伝子導入においては、培地を除き10%ウシ胎児血清(FCS)入り培地0.4 mlとともに0.1μgのルシフェ
ラーゼ遺伝子を含むリポソームを加え、37℃で3時間培養して遺伝子導入を行った。その後、10%ウシ胎児血清(FCS)入り培地0.4 mlを加え、37℃で48時間培養し、遺伝子導入細胞の溶解液についてルシフェラーゼ活性を、キットを用いて測定した。一方、血清非存在下での遺伝子導入においては、培地を除きFCSを含まない培地0.4 mlとともに0.1μgのルシフェラーゼ遺伝子を含むリポソームを加え、37℃で3時間培養して遺伝子導入を行った。その後、20%FCS入り培地0.4 ml加え、37℃で48時間培養し、遺伝子導入細胞の溶解液についてルシフェラーゼ活性を、キットを用いて測定した。
【0065】
結果を表2に示す。表2中、MLVはmultilamellar vesiclesを、DRVはdehydration-rehydration vesiclesを、SUVはsmall unilamellar vesiclesを意味する。上記の遺伝子封入効率と同様に、MLV、DRV及びSUVのいずれの形態においても、TMAGリポソームが最も高い遺伝子導入効率を示した。
【0066】
また、血清を添加した場合においても、TMAGリポソームが最も高い遺伝子導入効率を示した。
【0067】
【表2】


【実施例2】
【0068】
細胞融合可能なリポソームの検討
本実施例では、細胞特異的に融合可能なリポソームを検討することを目的に行った。
【0069】
サクシニル化ポリグリシドール(SucPG)を含むリポソーム及び、SucPGを含むTMAGリポソームを以下のように作製した。SucPGを含むリポソームは、dipalmitoyl phosphatidylcholine (DPPC)とDOPE、モル比1:1からなる脂質組成に、サクシニル化ポリグリシドール(SucPG)を脂質重量比で30%加えてリポソーム(SucPG-リポソーム)(MLV)を作製した。一方、SucPGを含むTMAGリポソームは、TMAG:DLPC:DOPE、モル比1:2:2からなる脂質組成にSuCPGを重量比で30%加えたリポソーム(SucPG-TMAGリポソーム)(MLV)を作製した。
【0070】
上記のように作製したSucPG-リポソームと細胞膜との融合能について検討した。細胞膜との融合能は、SucPG-リポソームにカルセインを封入し、COS-1細胞、MP3細胞(ウシマクロファージ細胞株)、J774.1細胞(マウスマクロファージ細胞株)、DH82細胞(イヌマクロファージ細胞株)及びCEM細胞(ヒトT細胞株)を標的としたカルセインの細胞内導入により解析した。さらに、SucPGを含むTMAGリポソーム(SucPG-TMAGリポソーム)を作製し、同様に細胞膜との融合能について検討した。カルセインの細胞内への導入は、2×105個の上記細胞株をチャンバースライドで37℃、24時間培養し、無血清培地で洗浄後、無血清培地とともにカルセイン封入SucPGリポソームあるいはカルセイン封入SucPG-TMAGリポソームを培養細胞株に加えた。その後、37℃で3時間培養し、PBSで洗浄した後、カルセインによる蛍光を蛍光顕微鏡観察により検出した。
【0071】
図1はMP3細胞へのリポソームによるカルセインの導入を示したものであり、Aは、SucPG-リポソームを用いたとき、BはSucPG-TMAGリポソームを用いたときの結果である。また、図2は、CEM細胞へのSucPG-TMAGリポソームによるカルセインの導入を示したものである。図1及び図2ともに倍率は400倍である。
【0072】
図1及び図2から、SucPGを含むTMAGリポソームは、マクロファージ(MP3細胞)内(図1)及びTリンパ球細胞(CEM細胞)内(図2)へカルセインを効率良く導入できたことが示された。
【0073】
従って、SucPG-TMAGリポソームは細胞、特にマクロファージ及びTリンパ球に特異的に融合可能であることが示された。
【実施例3】
【0074】
SucPG-TMAGリポソームによる細胞への遺伝子導入
本実施例では、SucPG-TMAGリポソームによる細胞内への遺伝子導入能について検討した。
【0075】
実施例2で作製したSucPG-TMAGリポソームにvpr変異体(C81)発現ベクターを封入した。vpr変異体(C81)発現ベクターは、HIV-1感染性DNAクローンpNL432のvpr遺伝子断片の部分であるC81遺伝子の5'端にFlag配列を連結後、高度発現ベクターpME18neoに挿入することによって作製することができる(国際公開00/18426号パンフレット)。また、上記ベクターのリポソームへの封入方法は、リポソーム作製時の水系溶媒にvpr変異体(C81)発現ベクターを加え、SucPG-TMAGリポソーム(MLV)を作製することによりリポソーム内に含有させた。
【0076】
標的細胞に、MP3細胞、J774.1細胞及びDH82細胞を用いて、上記リポソームによって遺伝子導入を行い、導入後に細胞の増殖阻害が起きるかを検討した。細胞の増殖阻害は、遺伝子導入時及び遺伝子導入2日後の生細胞数を、トリパンブルー色素排除試験によって計測して求めた。
【0077】
MP3細胞にリポソームを導入したときの結果を図3に示す。図3の白カラムはリポソームを導入していない未処理の細胞(Cont)、斜線カラムはSucPG-TMAGリポソームのみを導入した細胞(Lipo.)、黒カラムはvpr変異体遺伝子(C81)発現ベクターを封入したSucPG-TMAGリポソームを導入した細胞(Lipo.+C81)を示す。図3に示すとおり、Vpr変異体(C81)発現ベクターをSucPG-TMAGリポソームに封入し、マクロファージ細胞を標的として遺伝子導入を行った結果、細胞の増殖阻害が認められた。
【0078】
本実施例から、マクロファージ細胞に対する遺伝子導入担体としてのSucPG-TMAGリポソームの有用性が示された。
【実施例4】
【0079】
SucPG-TMAGリポソームによるSHIV感染サルへの遺伝子導入
本実施例では、HIV感染細胞においてのみ発現されるように構築されたC81発現ベクターを、SucPG-TMAGリポソームに封入し、SHIV-サルのモデル系でHIV感染細胞の排除効果について検討した。
【0080】
本実施例で使用する、HIV感染細胞においてのみ発現されるように構築されたC81発現ベクターは、国際公開00/18426号パンフレットに記載した方法によって作製することができる。上記のように作製したベクターを、実施例2で作製したリポソームに封入する方法は、リポソーム作製時の水系溶媒にC81発現ベクターを加え、MLVを作製することによりリポソーム内に含有させた。
【0081】
本実施例において使用するSHIVとは、HIV-1のenv領域等を有し、マカク族サルへの感染が可能なSIV/HIVキメラウイルスである。SIVとHIVとのキメラの程度により、毒性に強弱があることが知られている。本実施例において、強毒・弱毒SHIV感染性分子クローン及びそれらのゲノムを一部互いに入れ換えたウイルスをアカゲザルに接種した。
【0082】
HIV感染細胞の排除効果は、C81発現ベクター封入SucPG-TMAGリポソームをSHIV感染サルの静脈内に7日間連続投与したときの、SHIVの産生抑制によって評価した。また、この際、C81発現ベクターは、1 mg/kgで投与した。ウイルスRNA量が接種前のレベルで3週以上安定したときに、解析を終了した。血漿中ウイルスRNA量を測定した結果を図4に示す。図4において、彩色を施した升目は、リポソームを投与した期間を示す。また、「MM○○○」(○は数字)は、感染させたウイルスの株を示す。図4の左パネルはリポソーム投与2週前から投与後5週目までのウイルスRNA量(コピー/ml)を示し、右パネルはリポソーム投与2週前から投与後20週目までのウイルスRNA量(コピー/ml)を示す。
【0083】
その結果、vpr変異体(C81)発現ベクター封入SucPG-TMAGリポソームを種々の血中ウイルス量を示すSHIV感染サルに投与したところ、すでにエイズを発症し、持続的に107コピー/ml以上のウイルス量を示すサルに対しては、治療時期が遅すぎたため、正確な効果の判定ができなかった。しかし、105コピー/ml以下の血中ウイルス量を示すサルに対しては、1週間の投与期間中に血中ウイルス量が投与前の1/10程度に減少し(図4)、末梢血CD4+T細胞数を増加させる効果があることが確認された(図5、MM342)。投与終了直後は、抗HIV薬と同様に結集ウイルス量が投与前のレベルに戻ったが、数週間後に血中ウイルス量が検出限界以下に激減し、特徴的な二相性のウイルス量の低下作用を示した。(図4右パネル、MM341及びMM342、矢印)。
【0084】
従って、血漿中のウイルスレベルを低下するほど、AIDSの予後が良好であるため、本発明の医薬組成物はAIDSの治療において有効であることが示された。本実施例により、このベクターを単独又はHAART法と併用することによって、HIV感染者体内から感染細胞を特異的に駆除できる可能性を強く示している。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】SucPGリポソーム及びSucPG-TMAGリポソームによるMP3細胞へのカルセインの導入を示す図である。
【図2】SucPG-TMAGリポソームによるCEM細胞へのカルセインの導入を示す図である。
【図3】MP3細胞の増殖に対するvpr変異体(C81)発現ベクター封入SucPG-TMAGリポソームの効果を示す図である。
【図4】アポトーシス誘導剤を含有した本発明のリポソームによる抗SHIV作用を示す図である。
【図5】アポトーシス誘導剤を含有した本発明のリポソームによる抗SHIV作用を示す図である。
【出願人】 【識別番号】503359821
【氏名又は名称】独立行政法人理化学研究所
【出願日】 平成16年10月12日(2004.10.12)
【代理人】 【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩

【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二

【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子

【公開番号】 特開2006−111540(P2006−111540A)
【公開日】 平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願番号】 特願2004−298238(P2004−298238)