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【発明の名称】 組成物及びそれを含有する抗腫瘍剤
【発明者】 【氏名】岡山 實

【氏名】高崎 真一

【氏名】竹林 貴史

【要約】 【課題】安全でかつ安価な腫瘍細胞の増殖抑制能を有する組成物及びそれからなる抗腫瘍剤を提供すること。

【解決手段】ジェランを硫酸化することにより合成した硫酸化ジェランを含有する組成物とし、その組成物を製剤化して、抗腫瘍剤とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍細胞の増殖抑制能を有する組成物であって、グルコースとグルクロン酸とラムノースからなり、1以上の水酸基が硫酸エステル化されている硫酸化多糖を含有することを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記硫酸化多糖が、グルコース2分子とグルクロン酸1分子とラムノース1分子からなる構成単位の繰り返しによって構成されていることを特徴とする請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記構成単位が、下記式(1)で示される単位であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【化1】


(式中、Rはそれぞれ独立に選ばれるOHまたはOSO3Hである。)
【請求項4】
腫瘍細胞の増殖抑制能を有する組成物であって、1以上の水酸基が硫酸エステル化されているジェランを含有することを特徴とする組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の組成物からなる抗腫瘍剤。
【請求項6】
前記組成物が静脈内投与、腸管内投与または経口投与用に製剤化されていることを特徴とする請求項5記載の抗腫瘍剤。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍細胞の増殖抑制能を有する組成物及びそれからなる抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍の死亡率は、現在の日本の死因の中で、最も高い割合を占める。そこで、種々の原料を用いて、抗腫瘍剤の検討が続けられてきた。しかし、腫瘍細胞は、本来自己の細胞が形質転換した細胞であるため、腫瘍細胞に対して強力な薬効を有する薬剤は、通常、正常細胞に対しても強い副作用がある。
【0003】
近年、動物由来の材料を用いることで、副作用が少なく、腫瘍細胞に対する増殖抑制効果の高い薬剤の開発が進められている。例えば、ヘパリン等の硫酸化多糖類による腫瘍細胞の増殖抑制の研究が行われている。それによると、ヘパリンは腫瘍細胞増殖抑制能を有することが明らかになってきた(例えば特許文献1、非特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開昭63−88128号公報
【非特許文献1】ANTACHOPOULOS C T, ILIOPOULOS D C, GAGOS S, AGAPITOS M V, KARAYANNACOS P E, ROBOLI S K, SKALKEAS G D, (Athens Univ. School of Medicine, Athens, GRC)"In vitro Effects of Heparin on SW480 Tumor Cell-Matrix Interaction." Anticancer Res.,VOL. 15 NO. 4 P1411-1416 (1995/07-1995/08)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ヘパリンを多量に人体に投与した場合に、重篤な合併症である出血合併症の危険を伴うことが問題となっている。これは血液凝固系の内因系、外因系どちらの系にもヘパリンが作用することに起因している。
【0005】
また、ヘパリンは牛、豚、子羊等の肺、腸を原料に抽出精製される。狂牛病の流行以来、牛臓器由来のヘパリンの使用が禁止されているように、動物から抽出したヘパリンからは、基本的に何らかのウイルスやプリオンの混入を完全に排除する事が出来ない。しかも、生体からヘパリンを抽出するには費用がかかり、ヘパリンそのものが高価になってしまう。
【0006】
このような事情に鑑み、本発明は、安全でかつ安価な腫瘍細胞の増殖抑制能を有する組成物及びそれからなる抗腫瘍剤を提供することを課題としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の構成を有する。
【0008】
[1]腫瘍細胞の増殖抑制能を有する組成物であって、グルコースとグルクロン酸とラムノースからなり、1以上の水酸基が硫酸エステル化されている硫酸化多糖を含有することを特徴とする組成物。
[2]上記硫酸化多糖が、グルコース2分子とグルクロン酸1分子とラムノース1分子からなる構成単位の繰り返しによって構成されていることを特徴とする[1]に記載の組成物。
[3]上記構成単位が、下記式(1)で示される単位であることを特徴とする[2]に記載の組成物。


(式中、Rはそれぞれ独立に選ばれるOHまたはOSO3Hである。)
[4]腫瘍細胞の増殖抑制能を有する組成物であって、1以上の水酸基が硫酸エステル化されているジェランを含有することを特徴とする組成物。
[5][1]〜[4]のいずれか1つに記載の組成物からなる抗腫瘍剤。
[6]静脈内投与、腸管外投与または経口投与用に製剤化されていることを特徴とする[4]に記載の抗腫瘍剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、安全でかつ安価な腫瘍細胞の増殖抑制能を有する組成物及びそれからなる抗腫瘍剤を提供できることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0011】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0012】
==硫酸化多糖及びその製法==
本発明にかかる組成物は、グルコースとグルクロン酸とラムノースからなり、1以上の水酸基が硫酸エステル化されている硫酸化多糖を含有する。この硫酸化多糖の骨格を構成するグルコースとグルクロン酸とラムノースの割合及び結合順序は、特に限定されないが、グルコース2分子とグルクロン酸1分子とラムノース1分子の4分子が構成単位となり、この構成単位の繰り返しによって構成されていることが好ましく、この場合、構成分子数の比が2:1:1となる。
【0013】
特に、この繰り返し単位が、以下の式(1)であることがより好ましい。


【0014】
この多糖の硫酸化度、すなわち硫酸化可能な水酸基のうちの硫酸基置換率は8〜90%であることが好ましく、30〜80%であればより好ましい。さらに硫酸化後の多糖の平均分子量は1〜1000KDaの範囲が好ましく、1〜300KDaであればより好ましい。
【0015】
本発明の組成物に含まれる硫酸化多糖は化学合成されたものであっても、自然界に存在する微生物の発酵産物や海藻からの抽出物であってもよく、特にその起源は限定されない。
【0016】
化学合成する場合、原材料となる水酸基を有する多糖もまた、化学合成されたものであっても、自然界に存在する微生物や海藻からの抽出物であってもよい。その原材料が高分子である場合、予め、塩酸、硫酸、トリフルオロ酢酸等の酸あるいは水酸化ナトリウム等のアルカリによる加水分解により低分子量化してから反応に用いてもよい。
【0017】
自然界に存在する原材料の例としては、シュードモナス エロデア(Pseudomonas elodea)が生産する多糖を脱アシル化処理後に精製して得られたジェラン(gellan CAS 71010-52-1)が挙げられる。ジェランは、グルコース、ラムノース及びウロン酸から構成される多糖であり、安価に大量に入手することが可能であるから、原材料として好ましく使用することができる。また、微生物が産生する糖類で、アルカリジェン(Alcaligenes)属の生産するウェラン(welan)(米国特許4,342,866号)、またはラムサン(rhamsan)(米国特許4,401,760号)が挙げられる。
【0018】
これらの原材料を硫酸化する方法は通常知られている方法が利用できる。例えば、宮本啓一等(インターナショナル オブ ジャーナル オブ バイオロジカル マクロモレキュールズ(International Journal of Biological Macromolecules) 28 (2001) p.381-385)の方法のようにジメチルホルムアミド中で多糖にクロロスルホン酸を作用させる方法や、カミデ ケンジ等の方法のように、ジメチルホルムアミド(DMF)中で多糖にDMF/‐SO3複合体を作用させる方法で調製できる。また他に同様な方法としてジオキサン‐SO3複合体、トリメチルアミン‐SO3複合体、ピリジン‐SO3複合体などの無水硫酸複合体を多糖に作用させる方法が使用可能である。
【0019】
本発明に利用される硫酸化多糖の平均分子量、はHPLCによるゲル濾過クロマトグラフィーを利用し、溶出液に0.2M−NaCl、分子量のスタンダードとして分子量既知のプルラン(Shodex STANDARD P−82)を用い、示差屈折率検出器により測定できる。
【0020】
==腫瘍細胞の増殖抑制能を有する組成物及び抗腫瘍剤==
上記硫酸化多糖は、腫瘍細胞の増殖抑制能を有する組成物を構成できる。この組成物は、薬学的に許容できる担体(キャリア)を含有してもよい。
【0021】
この組成物はヘパリンに対し通常なされている方法と同様の方法で薬剤投与の形態に変換できる。すなわち、この組成物を、常法に従って、乳剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの製剤にして経口投与してもよいし、バッファーや生理食塩水に溶解し、注射剤などの製剤にして皮下、筋肉内、腹腔内や静脈内へ注射する、あるいは、坐薬(座剤)などの製剤にして直腸内投与する、あるいは、噴霧剤などの製剤にして口腔または気道粘膜へ噴霧することにより粘膜投与する、あるいは、軟膏やテープ剤などの製剤にして患部(例えば、皮膚や粘膜など)に塗布又は貼付することにより経皮投与あるいは粘膜投与する、というような態様で非経口投与することもできる。
【0022】
このようにして構成された組成物は、以下の実施例に示すように腫瘍細胞の増殖抑制能を有する。従って、この組成物を剤形化すると、抗腫瘍剤として利用できる。
【0023】
対象とする腫瘍の種類は、特に限定しないが、肺癌細胞、大腸癌細胞、骨肉腫、メラノーマなどに対し、特に好ましく適用できる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。
【0025】
実施例において使用する用語の定義および測定方法は以下の通りである。
1)平均分子量(KDa)測定:多糖を0.2M NaCl水溶液に1.0mg/mlの濃度で溶解し、HPLCによってゲルろ過した。HPLCのカラムはShodex Ionpak KS−804及びKS−Gを使用し、0.2M NaCl水溶液を溶出液とした溶出物は示差屈折率検出器により検出した。別途測定した分子量既知のプルラン(Shodex STANDARD P−82)により、あらかじめ溶出時間と分子量の検量線を作成し、検量線に当てはめることで多糖の平均分子量を決定した。
2)硫酸基置換率(%):多糖の構成糖当たりの水酸基のうち硫酸エステル化された水酸基の割合を百分率で表示した。この測定方法は、多糖の全S量をICPによる元素分析により測定し、多糖から遊離した遊離S量をイオンクロマトグラフィーにより測定する。全S量から遊離S量を差し引いた結合S量から硫酸基置換率を算出した。
【0026】
<実施例1>硫酸化ジェランの合成
ジェラン(和光純薬製)2.0gを0.5M−トリフルオロ酢酸水溶液200mlに添加し、80℃で30分間反応させ加水分解し、低分子化した。得られた低分子化ジェラン1.0gを窒素ガス中で脱水ピリジン100mlに添加しピリジン三酸化硫黄錯体を6.4g添加し、115℃で5時間反応させた。反応終了後ピリジンを留去した。水10mlに溶解した後、2倍量のエタノールを添加し、反応物を沈殿させ、濾過して回収した。回収した沈殿を10mlの水に溶解し、1N NaOHにて中和し、再び2倍容量のエタノールにて沈殿させ、回収した。この沈殿・回収を3回繰り返し、50℃の減圧乾燥により1日乾燥し、硫酸化ジェランの粉末を得た。
【0027】
<実施例2>in vivoにおける腫瘍細胞増殖抑制活性の測定(硫酸化ジェランGS46を用いて)
7匹のマウス(C57BL/6♂、6週令、以下同じ)の各尾静脈に、実施例1で合成し、HBSS100μlに溶解した硫酸化ジェラン(平均分子量27.7KDa、硫酸基置換率69.1%)1mgを注入した。ネガティブコントロールとして、別の7匹のマウスにHBSS100μlを注入し、ポジティブコントロールとして、さらに別のマウス7匹にHBSS100μlに溶解したヘパリン(分子量10KDa)1mgを注入した。10分後に各マウスの尾静脈に、HBSS100μlに懸濁したルイス肺癌由来高転移性H11細胞2×10個を注入した。16日後に各マウスを屠殺して肺を摘出し、ブアン・ドゥボスク固定液で一晩固定した。
【0028】
固定した各肺を70%エタノールで洗浄後、湿重量を測定したところ、硫酸化ジェランを注入したマウス7匹全部が顕著な腫瘍細胞の増殖抑制を示した(図1、図2参照)。腫瘍の外見からも、腫瘍細胞の増殖抑制が確認された。
【0029】
<実施例3>in vivoにおける腫瘍細胞増殖抑制活性の測定(硫酸化ジェランGS29を用いて)
実施例2において、硫酸基置換率のより低い硫酸化ジェラン(分子量9.6KDa、硫酸基置換率38.6%)を用いる以外は、同様の方法で腫瘍細胞の増殖抑制を調べたところ、硫酸化ジェランを注入したマウス7匹中2匹が顕著な腫瘍細胞の増殖抑制を示したが(図1、図2参照)、全体にGS46より、抑制効果は穏やかであった。
【0030】
<実施例4>in vivoにおける腫瘍細胞増殖抑制活性の測定(硫酸化ジェランGS12を用いて)
実施例2において、硫酸基置換率の最も低い硫酸化ジェラン(分子量197.7KDa、硫酸基置換率17.5%)を用いる以外は、同様の方法で腫瘍細胞の増殖抑制を調べたところ、いずれのマウスもさらに穏やかな腫瘍細胞の増殖抑制を示した(図1、図2参照)。
【0031】
このように、本発明の組成物は、腫瘍細胞の増殖抑制能を有することから、抗腫瘍剤として使用できる。しかも、その抑制能は、硫酸基置換率に依存的であるため、投与量依存的であると考えられ、この組成物は薬剤として使いやすいものになると期待される。また、その抑制能は、分子量には非依存的であるので、この組成物は剤形化も容易で、様々な形状を取りうると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例において、腫瘍細胞増殖抑制能を比較した肺の観察写真である。
【図2】本発明の実施例において、腫瘍細胞増殖抑制能を比較した肺の湿重量の測定値を表したグラフである。
【出願人】 【識別番号】504322611
【氏名又は名称】学校法人 京都産業大学
【識別番号】000002071
【氏名又は名称】チッソ株式会社
【出願日】 平成16年8月24日(2004.8.24)
【代理人】 【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人

【公開番号】 特開2006−62983(P2006−62983A)
【公開日】 平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願番号】 特願2004−244405(P2004−244405)