| 【発明の名称】 |
アニオン交換性磁性材料とその製造方法 |
| 【発明者】 |
【氏名】吉川 信一
【氏名】田村 紘基
【氏名】武田 隆史
|
| 【要約】 |
【課題】磁場により誘導可能なアニオン交換体とその製造方法を提供する。
【解決手段】磁性体と層状複合水酸化物もしくは式M2+1−xM3+xO1+δで表される層状複合水酸化物の岩塩型固溶体との複合体であるアニオン交換性磁性材料、ならびにアルカリ条件ならびに不活性ガス雰囲気下において、磁性体、2価金属硝酸塩および3価金属硝酸塩を攪拌混合する、磁性体と層状複合水酸化物との複合体を製造する方法。 |
【特許請求の範囲】
【請求項1】 磁性体と層状複合水酸化物もしくは式M2+1−xM3+xO1+δで表される層状複合水酸化物の岩塩型固溶体との複合体であるアニオン交換性磁性材料。 【請求項2】 磁性体が、層状複合水酸化物または式M2+1−xM3+xO1+δで表される層状複合水酸化物の岩塩型固溶体によって被覆されている、請求項1に記載のアニオン交換性磁性材料。 【請求項3】 アルカリ条件ならびに不活性ガス雰囲気下において、磁性体、2価金属硝酸塩および3価金属硝酸塩を攪拌混合する、磁性体と層状複合水酸化物との複合体を製造する方法。 【請求項4】 アルカリ条件ならびに不活性ガス雰囲気下において、磁性体、2価金属硝酸塩および3価金属硝酸塩を攪拌混合して生じる沈殿物を、不活性ガス雰囲気下で焼成する、磁性体と式M2+1−xM3+xO1+δで表される層状複合水酸化物の岩塩型固溶体との複合体の製造方法。
|
【発明の詳細な説明】【技術分野】 【0001】 本発明は、磁性体と層状複合水酸化物もしくはその岩塩型固溶体とからなる複合体ならびにその製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、ハイドロタルサイト(化学式;[Mg6Al2(OH)16]・nH2O)と称される天然鉱石のアニオンに対するインターカレーション機能、すなわちアニオン交換体としての機能を応用しようとする研究が、各技術分野において盛んに行われている(非特許文献1)。また、炭酸イオンをインターカレートさせた炭酸イオン型ハイドロタルサイト(非特許文献2)や、ポリ酸イオンのインターカレーションによるマイクロポア多孔体の製造(非特許文献3)等が開発されている。 【0003】 ドラッグデリバリーシステムの開発において、ハイドロタルサイトのバイオナノハイブリッドを利用する試みも盛んである。例えば、ハイドロタルサイトのアニオン交換能を利用してリン酸基をもつDNA等を運ぶ非ウイルス性ベクターとして利用しようとする報告がなされている。また、ハイドロタルサイトを用いてATPやDNAのインターカレートする(非特許文献4)ことにより、またAs−myc−LDHの細胞への取り込ませることで、癌細胞の増殖を抑制することも試みられている。 【非特許文献1】カヴァニ(F.Cavani)ら、キャタリシス トゥデイ(Catalysis Today)、1991年、第11巻、173−301頁 【非特許文献2】日比野俊行、他2名、ハイドロタルサイト型陰イオン交換性粘土の合成と応用、[online]、「平成16年7月30日検索」、インターネット<URL:http://www.nire.go.jp/publica/hokoku/h28/h28_j.htm> 【非特許文献3】日比野俊行、ソフトケミストリー的材料設計−層状複水酸化物ハイドロタルサイトの機能材料化、「平成16年7月30日検索」、インターネット<URL:http://www.nire.go.jp/hist/1999-10-18/publica/news-99/99-07-1.htm> 【非特許文献4】チョイ(J.H.Choy)ら、Angew.Chem.Int.Ed.、2000年、第39巻、4042−4045頁 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし、ハイドロタルサイトをDDSとして利用するためには、薬物を担持させたハイドロタルサイトを体内の特定の場所に移動させることが必要である。本発明は、アニオン交換能を有するハイドロタルサイトに対して、DDSへの利用に際しての体内移動誘導機能を付与する技術を提供するものである。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者らは、ハイドロタルサイトに代表される層状複合水酸化物もしくはこれを焼成して得られる層状複合水酸化物の岩塩型固溶体を磁気材料と複合化することで、かかる課題を解決することに成功した。 【0006】 即ち本発明は、磁性体と層状複合水酸化物もしくは式M2+1−xM3+xO1+δで表される層状複合水酸化物の岩塩型固溶体との複合体であるアニオン交換性磁性材料である。また、本発明の別の態様は、アルカリ条件ならびに不活性ガス雰囲気下において、磁性体、2価金属硝酸塩および3価金属硝酸塩を攪拌混合する、磁性体と層状複合水酸化物との複合体を製造する方法、ならびに、アルカリ条件ならびに不活性ガス雰囲気下において、磁性体、2価金属硝酸塩および3価金属硝酸塩を攪拌混合して生じる沈殿物を、不活性ガス雰囲気下で焼成する、磁性体と式M2+1−xM3+xO1+δで表される層状複合水酸化物の岩塩型固溶体との複合体の製造方法である。 【0007】 磁性体は、磁気記録や磁性流体などで広く用いられる他、外部から磁場を加えて移動を誘導制御できることから、近年では、癌の温熱療法や医療診断分野においても利用され始めている。本発明は、この磁性体の磁場による制御能に着目し、これとハイドロタルサイトとの複合体を調製することで、ハイドロタルサイトに代表される層状複合水酸化物が持つアニオン交換能を、生体内の任意の場所で発揮させようとするものである。 【0008】 ハイドロタルサイトは、典型的には、[Mg6Al2(OH)16]・nH2Oの化学構造式からなる天然鉱物の名称である。しかしながら、この他にも、一般式としてM2+1−xM3+x(OH)2(x/n)An−・mH2O(M2+とM3+はそれぞれマグネシウムやアルミニウムなどの2価と3価の金属イオンを表す)で表される金属元素の層状水酸化物も、典型的なハイドロタルサイトと同様の挙動を示すことが知られている。ここで、Mg2+、Ni2+、Fe2+、Zn2+などの2価金属イオンと、Al3+、Fe3+、Cr3+などの3価金属イオンとが組み合わされ、ハイドロタルサイト様の化合物が形成される。 【0009】 本発明では、典型的なハイドロタルサイトと、これに類似し、上記一般式に含まれるハイドロタルサイト様化合物とを合わせて、層状複合水酸化物と呼ぶこととする。従って、本発明では、いわゆる典型的なハイドロタルサイトの他に、上記一般式に含まれるハイドロタルサイト様化合物も、本発明の複合体を構成する層状複合水酸化物として理解される。 【0010】 この層状複合水酸化物は、陰イオンに対するインターカレーション能を有しており、上記組成式中、[M2+1−xM3+x(OH)2]の部分が主骨格(ホスト層)に、[(x/n)An−・mH2O]の部分がゲスト層に相当する。また、ホスト層とホスト層の間に存在する陰イオン同士の隙間を埋めるように層間水分子が存在する。 【0011】 この層間水は、層状複合水酸化物を焼成することにより可逆的に放出され、その結果、層状複合水酸化物の結晶構造は、陽イオン欠損を有する岩塩型固溶体(一般式、M2+1−xM3+xO1+δ)に変化する。岩塩型構造は、いわゆるスピネル型構造と類似の酸素充填格子を有する。本発明は、この層状複合水酸化物の岩塩型固溶体も、複合体の一部を構成するものとして理解される。 【0012】 本発明は、上記の層状複合水酸化物もしくはその岩塩型固溶体と磁性体との複合体である。この複合体は、磁性体、2価金属硝酸塩、ならびに3価金属硝酸塩によるアルカリ条件下での共沈法により形成される。 【0013】 本発明で使用する2価金属硝酸塩ならびに3価金属硝酸塩は、前記一般式M2+1−xM3+x(OH)2(x/n)An−・mH2Oで表される化合物を形成する各価の金属元素の硝酸塩である。具体的には、2価金属硝酸塩としては、Mg2+、Ni2+、Fe2+、Zn2+などの各硝酸塩が、3価金属硝酸塩としては、Al3+、Fe3+、Cr3+などの各硝酸塩が使用される。 【0014】 一般に、層状複合水酸化物それ自体は、アルカリ条件下で2価金属硝酸塩と3価金属硝酸塩とを適当な不活性ガス雰囲気中、例えば窒素ガス雰囲気中で混合攪拌することで、簡単に調製することができる。しかし、この様にして予め形成させた層状複合水酸化物と磁性体とを単に混合攪拌するだけでは、本発明の複合体を得ることはできない。 【0015】 本発明の複合体は、アルカリならびに適当な不活性ガス雰囲気中という条件下で、2価金属硝酸塩、3価金属硝酸塩、ならびに磁性体とを同時に共存させ、それらを共沈させることにより、形成することができる。この方法により得られる本発明の複合体は、SEM電子顕微鏡を用いて観察することにより、磁性体が層状複合水酸化物によって被覆された構造を有していることが明らかとなった(図1−a、1−b)。 【0016】 この複合体は、層状複合水酸化物によるアニオン交換能を保持していると共に、磁性体の作用によって、外部から磁場を与えることにより、容易に周囲環境内を移動させることができる。 【0017】 また、本発明の式M2+1−xM3+xO1+δで表される層状複合水酸化物の岩塩型固溶体と磁性体との複合体は、上記の層状複合水酸化物と磁性体との複合体を500℃以下で焼成して得ることができる。この焼成により、層状複合水酸化物の層間水が可逆的に失われて、層状複合水酸化物の結晶構造が岩塩型固溶体へと変化することにより、磁性体への被覆がより強固なものとなり、焼成前の複合体に比して、層状複合水酸化物の被覆の物理的強度が大きく上昇する。 【発明の効果】 【0018】 アニオン交換体を磁気材料と複合化することで、アニオン交換能を持つ磁性材料が得られ、種々の陰イオンを取り込んだアニオン交換体の存在位置を、外部磁場により遠隔制御することが可能になった。この特性を利用すれば、磁場を与えることにより所望の部位で薬物治療を行うことができる他、環境中の有害アニオンの分離あるいは有用アニオンの回収も、行うことができる。 【発明を実施するための最良の形態】 【0019】 本発明の複合体を構成する層状複合水酸化物は、前述のとおり、一般式M2+1−xM3+x(OH)2(x/n)An−・mH2O(M2+とM3+はそれぞれマグネシウムやアルミニウムなどの2価と3価の金属イオンを表す)で表される金属元素の層状複合水酸化物、あるいはこれらの岩塩型固溶体であり、Mg2+、Ni2+、Fe2+、Zn2+などの2価金属硝酸塩と、Al3+、Fe3+、Cr3+などの3価金属硝酸塩から形成され得る。 【0020】 また、本発明で利用可能な磁性体は格別の制限はないが、フェライトなどの強磁性体の利用が好ましく、特に、磁性体の表面が層状複合水酸化物で被覆される構造を有することから、磁性体は10nm〜10μm、好ましくは10〜600nmの平均粒径を有する概ね球形の磁性粒子であることが望ましい。具体的には、マグネタイトなどを挙げることができる。 【0021】 ここで、本発明の製造方法において、2価金属硝酸塩、3価金属硝酸塩ならびに磁性体は、2:1:1〜10:5:1、好ましくは3:1.5:1〜4:2:1のモル比で混合攪拌すればよい。この混合攪拌はpH9〜12、好ましくはpH10のアルカリ条件下で行う必要がある。このアルカリ条件は、0.1〜1mol程度のアルカリ金属の水酸化物溶液、例えば水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液、あるいはアンモニア水を利用することで、用意することができる。 【0022】 また、上記成分の混合時並びに後述する焼成時に使用する不活性ガスとしては、アルゴンなどを利用することもできるが、窒素ガスの利用が好ましい。 【0023】 焼成は、500℃以下、好ましくは400℃で行う。500℃以上の焼成では、層状複合水酸化物がMgOとスピネルに分解する虞がある。 【0024】 以下、実施例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はかかる実施例に示された具体的な態様に限定されるものではない。 【実施例1】 【0025】 平均粒径が約10μmのFe3O4粉末1gを窒素雰囲気下で水酸化ナトリウム水溶液(1mol/dm3)に分散させ、さらに0.2mol/dm3のMg(NO3)2・6H2Oと0.1mol/dm3のAl(NO3)3・9H2Oの混合水溶液を、攪拌しながらpHが10になるまで加えて沈殿を形成させた。24時間熟成させた後の沈殿を回収し、これに200mlの脱炭酸水を加えて洗浄した後、再び沈殿を回収する作業を3回繰り返し、本発明の層状複合水酸化物と磁性体との複合体3gを得た。 【実施例2】 【0026】 実施例1で得た複合体0.15gを、窒素雰囲気下、管状炉を用いて10時間、400℃で焼成した。焼成後、大気中で30分間、粉末を超音波処理し、アルニコ磁石(磁束密度0.06T)で磁気分離を行うことにより、本発明の層状複合水酸化物の岩塩型固溶体と磁性粒子との複合体0.09gを得た。生成された複合体をSEM(JEOL JSM6300)電子顕微鏡により観測したところ、Fe3O4の粒子は板状の岩塩型固溶体によりほぼ均一に被覆されていた(図1−a)。 【0027】 この複合体に磁場を印加することで誘導される磁化を測定すると、1kOeの磁場印加で34emu/g、5kOeの磁場印加で40emu/gとなった(図2)。また、鉄酸化物をFe3O4とすると、複合体の組成はFe3O4/0.185[Mg0.69Al0.31(OH)2](CO3)0.16と表すことができる。また、岩塩型固溶体の密度を2.0g/cm3、磁性体の密度を5.2g/cm3、10μm径の磁性体の表面が均一に被覆されていると仮定して、岩塩型固溶体の厚みは0.26μmと推定された。 【実施例3】 【0028】 実施例2で得た複合体へのATPのインターカレーション能を確認した。実施例2の複合体0.03gを再度400℃で1時間焼成し、これを9.96×10−5mol/lのATP水溶液(pH7)100mlに60℃、24時間浸漬させた後に、上清を回収し、残存ATP量をICP(誘導プラズマ発光分析)法により測定した。 【0029】 その結果、残存リン濃度は9.256ppmから7.744ppmに減少したことが確認された。従って、複合体にインターカレートしたATP量は、[Mg0.69Al0.31(OH)2](ATP)0.081と算出された。 【0030】 従って、[Mg0.69Al0.31(OH)2]から計算されるイオン交換容量0.31モルに対して、ATP3−は0.081×3=0.243モルとなり、イオン交換容量の約80%がイオン交換されていると推察される。 【図面の簡単な説明】 【0031】 【図1−a】図1−aは、本発明の式M2+1−xM3+xO1+δで表される層状複合水酸化物の岩塩型固溶体と磁性体との複合体の電子顕微鏡写真である。 【図1−b】図1−bは、複合体を形成する前の磁性粒子(Fe3O4)の電子顕微鏡写真である。 【図2】図2は、実施例2で得た複合体の磁場印加下での磁化を示す。
|
| 【出願人】 |
【識別番号】504173471 【氏名又は名称】国立大学法人 北海道大学
|
| 【出願日】 |
平成16年8月20日(2004.8.20) |
| 【代理人】 |
【識別番号】100102668 【弁理士】 【氏名又は名称】佐伯 憲生
|
| 【公開番号】 |
特開2006−56829(P2006−56829A) |
| 【公開日】 |
平成18年3月2日(2006.3.2) |
| 【出願番号】 |
特願2004−240428(P2004−240428) |
|