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【発明の名称】 歩行補助装置の制御装置
【発明者】 【氏名】芦原 淳
【住所又は居所】埼玉県和光市中央1丁目4番1号 株式会社本田技術研究所内

【要約】 【課題】躓くなどの不測の事態に遭遇した際の使用者の反射的な行動に対する処理をより一層的確化し得る歩行補助装置の制御装置を提供する。

【解決手段】使用者の股関節並びに膝関節の少なくともいずれか一方に対応する位置にトルク発生手段(トルクアクチュエータTA1・TA2)を配置し、脚部の運動に対する補助力を付加するための歩行補助装置の制御装置を、歩行状態の異常を検知する異常検知手段(筋電センサ31・しきい値37・比較回路36)を有すると共に、使用者の運動を補助する通常時動作モード(通常モード39)と予めプログラムされた異常時動作モード(強制転倒回避モード40・動力遮断モード41)との切換手段(判定回路38)を有し、異常検知時は、前記異常時動作モードに切り換わるようにした。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の股関節並びに膝関節の少なくともいずれか一方に対応する位置にトルク発生手段を配置し、脚部の運動に対する補助力を付加するための歩行補助装置の制御装置であって、
歩行状態の異常を検知する異常検知手段を有すると共に、使用者の運動を補助する通常時動作モードと運動形態が予め設定された異常時動作モードとの切換手段を有し、異常検知時は、前記異常時動作モードに切り換わるようにしてなることを特徴とする歩行補助装置の制御装置。
【請求項2】
前記異常時動作モードは、異常な歩行姿勢を立て直す運動を強制的に行わせるものであることを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置の制御装置。
【請求項3】
前記異常時動作モードは、使用者の下肢に対する前記トルク発生手段の動力伝達を遮断するものであることを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置の制御装置。
【請求項4】
前記異常検知手段は、筋肉の緊張度を計測すべく人体に配置したセンサと、該センサの出力値を微分する微分手段と、該微分手段の出力を予め設定した判定値と比較する比較手段とを有するものであることを特徴とする請求項1に記載の歩行補助装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の股関節並びに膝関節の少なくともいずれか一方に対応する位置にトルク発生手段を配置し、脚部の運動に対する補助力を付加するための歩行補助装置の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
寝たきり患者の介護作業などで自らの脚力以上の力を出せるように、あるいは加齢による筋力低下で自力歩行が困難となった人のために、電動モータなどのトルクアクチュエータを股関節や膝関節の側方に装着し、トルクアクチュエータが発生する回転力で下肢の運動を補助するようにした筋力補助装置が種々提案されている(特許文献1を参照されたい)。
【0003】
上記文献1に記載のパワーアシスト装置においては、外骨格型のビームを大腿部に固定するベルト等の固定具と大腿部の前面との間に設けたセンサと、足裏の爪先および踵に設けたセンサとで使用者自身の脚部の動きを検出し、これらのセンサの電気信号によってトルクアクチュエータの駆動力を制御して脚部の屈伸運動を補助するようにしている。
【特許文献1】特開2003−250844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、フィードバック制御によって使用者の脚部の運動補助力をアクチュエータに発生させる従来の歩行補助装置によると、例えば、躓いて倒れそうになった時などの反射的な転倒回避運動に対応するには、通常よりも素早く足を踏み出すなどしなければならないが、この応答速度を考慮して電動モータや電源回路の容量を設定すると、電動モータや電源回路が大型化し、装置の重量増大や製造コストの増大を招く。また、使用者の反射動作に衰えがあり、使用者が発する力をフィードバックしてそれを倍力する駆動指令をアクチュエータに与えるだけでは、転倒回避運動を十分に補えないこともあり得た。
【0005】
本発明は、このような従来技術の欠点を解消すべく案出されたものであり、その主な目的は、躓くなどの不測の事態に遭遇した際の使用者の反射的な行動に対する処理をより一層的確化し得る歩行補助装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために本発明は、使用者の股関節並びに膝関節の少なくともいずれか一方に対応する位置にトルク発生手段(トルクアクチュエータTA1・TA2)を配置し、脚部の運動に対する補助力を付加するための歩行補助装置の制御装置として、歩行状態の異常を検知する異常検知手段(筋電センサ31・比較回路36・しきい値37)を有すると共に、使用者の運動を補助する通常時動作モード(通常モード39)と運動形態が予め設定された異常時動作モード(強制転倒回避モード40・動力遮断モード41)との切換手段(判定回路38)を有し、異常検知時は、前記異常時動作モードに切り換わるようにしてなるものを提供することとした(請求項1)。
【0007】
特に、異常時動作モードにおいては、異常な歩行姿勢を立て直す運動を強制的に行わせるもの(請求項2)としたり、使用者の下肢に対するトルク発生手段の動力伝達を遮断するもの(請求項3)としたりすると良い。
【0008】
さらに、異常検知手段として、筋肉の緊張度を計測すべく人体に配置したセンサと、該センサの出力値を微分する微分手段と、該微分手段の出力を予め設定した判定値と比較する比較手段とを有するもの(請求項4)とすると良い。
【発明の効果】
【0009】
このような本発明の請求項1によれば、躓くなどして歩行姿勢が不安定となった際の最も合理的な姿勢立て直し運動を記憶させた異常時動作モードを予め設定しておき、姿勢が異常変化を起こすであろうと予測した際には異常時動作モードに切り換えることにより、最低限の動力で転倒回避運動を行わせることができる。特に請求項2によれば、異常な歩行姿勢を立て直す運動が自動制御されるので、反射機能が衰えた人の負担を小さくすることができ、また、請求項3によれば、姿勢を立て直そうとして無理な力を加えないので、定格出力を必要最低限に設定することができ、装置を大型化せずに済む。
【0010】
これらに加えて請求項4によれば、例えば躓いた人が姿勢を安定させようとして力を入れた時の筋肉の緊張度合いに応じた量として躓きの程度を検出し得るので、人間の感覚に一致した検出が可能である上、筋肉の反応を直接検出するので、姿勢が大きく変化する以前に動揺の兆候を判別することができ、加速度センサやジャイロセンサを用いる場合に比してタイムラグが少なくて済む。しかも腹部などに筋電位センサなどを配するのみで検出し得るので、複雑な力学的演算が不要なことと相俟って、異常検知手段の小型軽量化を推進し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に添付の図面を参照して本発明について詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明が適用される外骨格型歩行補助装置の全体を示す斜視図であり、図2は、使用者への装着状態を示す側面図である。図1に示すように、歩行補助装置は、使用者の腰部に装着される腰部支持具1と、使用者の左右の上腿部に装着される上下に長い棒状をなす上腿部支持具2と、使用者の左右の下腿部に装着される上下に長い棒状をなす下腿部支持具3と、使用者が履いた靴に装着される足部支持具4とからなっている。
【0013】
腰部支持具1は、図3に示すように、比較的剛性の高い部材で上面視略U字形(コの字形)に形成された基部1aと、基部1aの前端部に結合した弾性に富む薄板材で形成された一対の開閉部1bとからなり、全体として前方中央部が開放されたC字形をなしている。また基部1aの中央部は左右方向に伸縮可能にされ、左右の開閉部1bは前後方向に摺動可能にされており、これらは、使用者の体格に応じた適正寸法に設定した上でボルトなどの適宜な固定手段をもって固定されるようになっている。
【0014】
腰部支持具1の側部前端および上腿部支持具2の上端には、左右の股関節にトルクを付与するトルクアクチュエータTA1(図2)を取り付けるための左右一対の腰部アクチュエータベース5が設けられている。また上腿部支持具2の下端および下腿部支持具3の上端には、左右の膝関節にトルクを付与するトルクアクチュエータTA2(図2)を取り付けるための左右一対の膝部アクチュエータベース6が設けられている。
【0015】
上腿部支持具2の腰部アクチュエータベース5並びに膝部アクチュエータベース6との連結部は、回動軸が前後方向に延在するヒンジ7a・7bを介して屈曲自在に連結されている。また下腿部支持具3の膝部アクチュエータベース6並びに足部支持具4との連結部も、回動軸が前後方向に延在するヒンジ8a・8bを介して屈曲自在に連結されている。そして上腿部支持具2及び下腿部支持具3は、上下に伸縮可能にされると共に、使用者の体格に応じた適正寸法に設定した上でボルトなどの適宜な固定手段をもってその長さが固定されるようになっている。
【0016】
各アクチュエータベース5・6に個々に取り付けられるトルクアクチュエータTA1・TA2は、クラッチ及び減速機付き電動モータからなり、腰部支持具1並びに上腿部支持具2の下端のそれぞれにモータハウジングが固定され、上腿部支持具2並びに下腿部支持具3の各上端のそれぞれにロータが固定される。これにより、股関節並びに膝関節の運動に対応した補助的なトルクが、腰部支持具1の側部前端と上腿部支持具2の上端との連結部および上腿部支持具2の下端と下腿部支持具3の上端との連結部に与えられる。なお、両トルクアクチュエータTA1・TA2は、それぞれ対応する各アクチュエータベース5・6に対して反復着脱可能なねじ手段などを介して取り付けられており、保守・整備の簡略化が図られている。
【0017】
上腿部支持具2の上下方向中間位置には、一対の弾性C字形部材を適宜な上下間隔をおいて連結してなる上腿部結合クリップ9が、所定範囲を上下に摺動可能に結合している。また下腿部支持具3の上下方向中間位置にも、一対の弾性C字形部材を適宜な上下間隔をおいて連結してなる下腿部結合クリップ10が、所定範囲を上下に摺動可能に結合している。
【0018】
下腿部支持具3と足部支持具4との連結部11は、左右方向に延在する軸上で回動可能になっており、足首の運動に追従可能になっている。
【0019】
腰部支持具1の中央部には、図示されない補機類との結合部が設けられる背当て板12が取り付けられている。なお、制御回路やバッテリーは、背当て板12に取り付けられる。
【0020】
上腿部支持具2に対する上腿部結合クリップ9の連結部並びに、下腿部支持具3に対する下腿部結合クリップ10の連結部には、図4に併せて示すように、軸力センサ21が介設されている。この軸力センサ21は、図5に示したように、板材の4ヶ所をL字形に切除することで十文字をなす4つの可撓腕部21aとその周囲の枠部21bとを形成してなるものであり、例えば、機械構造用炭素鋼等の板材から機械加工によって形成されており、4つの可撓腕部21aのそれぞれに、例えば抵抗線歪みゲージなどの変位センサ(図示せず)が貼り付けられている。そして、上腿部結合クリップ9並びに下腿部結合クリップ10が4つの可撓腕部21aが交差する中心部に固定され、上腿部支持具2並びに下腿部支持具3に設けられたガイドレール13に摺合した摺動部材14に枠部21bが固定されている。
【0021】
この軸力センサ21により、上下、左右、前後に複合的に作用する力が検出可能であり、上腿部支持具2と上腿部結合クリップ9との間、並びに下腿部支持具3と下腿部結合クリップ10との間に作用する略全方向についての力を検出することができる。
【0022】
例えば、股関節を中心に上腿部を前方へ振り出すと、上腿部結合クリップ9に前方へ押す力が加わり、これを軸力センサ21が検知する。そこでこの力がゼロになるように股関節の側方に配置されたトルクアクチュエータTA1にトルクを発生させることにより、使用者の上腿部の動きに上腿部支持具2を追従させることができる。また静止時に軸力センサ21が何らかの力を検出していると言うことは、使用者の脚部に歩行補助装置の重量が加わっていることを意味しているので、軸力センサ21に検出される力が可能な限り小さくなるように両トルクアクチュエータTA1・TA2の出力をフィードバック制御すれば、歩行補助装置の自重による荷重の殆どを靴底から床面に逃がしてキャンセルすることが可能となり、使用者の負担を著しく低減することができる。
【0023】
ところで、人は、通常脊柱の周囲の筋肉を緊張させて直立姿勢を維持しようとしている。そして直立姿勢が不安定になりそうなときは、瞬時に左右の外腹斜筋の緊張力を拮抗させて上体を安定させようとすることが知られている。この人が本来備えている姿勢保持反応に着目し、腹部周囲の筋肉の緊張状態を観察し、その反応を検出することにより、歩行姿勢が異常状態となりそうなことを早期に検出することができる。
【0024】
筋肉の緊張状態の観察手段としては、皮膚の表面に電極を張り付けることによって筋肉の活動電位を検出する表面誘導法が知られている。具体的に言うと、直径約10mmの複数の表面電極を、外腹斜筋の筋繊維に沿って電極間の距離を15mmとして体表面に貼り付け、外腹斜筋の活動電位を検出する。ここで表面電極の数は、適宜に決定される。
【0025】
図6に示したように、上記のような筋電センサ31が捉えた筋電信号を信号入力回路32に入力したならば、これを整流回路33で全波整流し、平滑化回路34にて移動平均をとるなどして平滑化する。そして平滑化した値を微分回路35に入力して微分し、この微分値を比較回路36に入力して所定のしきい値37と比較する。その結果、しきい値よりも低ければ、軸力センサ31の出力のフィードバック制御による通常モード39での補助動力付加制御の継続を判定回路38が下し、しきい値37よりも高ければ、例えば躓き兆候大など、歩行状態が異常であることを判定回路38が判断し、軸力センサ31の出力に基づくフィードバック制御を停止し、使用者の障害の程度に応じて強制転倒回避モード40あるいは動力遮断モード41に切り換える。
【0026】
ここで強制転倒回避モード40は、股関節並びに膝関節に設けたトルクアクチュエータTA1・TA2の回転角と上記した筋電信号のパターンとから姿勢変化の推移を推定し、転倒を回避するのに最も合理的な運動を軸足に行わせるように、予め設定されたトルク目標値に従って各トルクアクチュエータTA1・TA2を自動制御するものである。そして動力遮断モード41は、各トルクアクチュエータTA1・TA2が発生する補助動力では転倒を回避し得ないと判断された場合は、各トルクアクチュエータTA1・TA2に組み込まれたクラッチを切断するなどして各トルクアクチュエータTA1・TA2の上腿部支持具2並びに下腿部支持具3への動力伝達を断ち、使用者を倒れるに任せることである。
【0027】
特に、動力遮断モード41での転倒に備え、図3に例示したように、腰部支持具1におけるU字形をなす基部1aの使用者の腰部Hにおける左右の腸骨陵部43(骨盤側面端点)から仙腸関節44(脊柱と骨盤の接合点)の後背面に対応する部位に緩衝パッド46c〜46eを介装し、また左右一対の開閉部1bにおける左右の腸骨棘部45(骨盤前面端点)に対応する部位に緩衝パッド46a・46bを介装するものとすれば、腰部支持具1がプロテクターとなるので、転倒によるダメージから使用者の腰部Hを保護することができる。
【0028】
なお、上記実施例に示したように、筋電位の微分値、つまり単位時間当たりの変化量で判定するものとすれば、急峻に変化する場合にのみ反応し、電位のピーク値が大きくても、ゆっくりと変化する場合には反応しない。つまり、姿勢の変化量自体が大きくても、通常モードでリカバリーできるような緩慢な変化の場合には応答しない。また変化量の絶対値で判定するのではないので、センサ出力がオフセットするなどしても誤検知しない、という副次的なメリットもある。
【0029】
筋肉の収縮反応を検出する方法としては、上述の筋電位計測法の他に、圧電センサを用いて筋肉の硬さを計測する方法も知られているが、これら各種の筋肉の緊張度の計測法を単独で、あるいは適宜に組み合わせて用いることができる。また本発明は、上記した外骨格型の歩行補助装置に限らず、形状記憶合金、高分子材あるいは空気圧を用いたアクチュエータ(必要ならば、特開2002−48053号公報を参照されたい)にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明が適用された歩行補助装置の装着具の全体斜視図である。
【図2】歩行補助装置の人体への装着状態を示す側面図である。
【図3】腰部支持具の上面図である。
【図4】装着具の要部背面図である。
【図5】軸力センサの斜視図である。
【図6】制御モード切り換えの制御フローに係わる説明図である。
【符号の説明】
【0031】
31 筋電センサ
32 信号入力回路
35 微分回路
36 比較回路
37 しきい値
38 判定回路
39 通常モード
40 強制転倒回避モード
41 動力遮断モード
【出願人】 【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
【住所又は居所】東京都港区南青山二丁目1番1号
【出願日】 平成16年8月27日(2004.8.27)
【代理人】 【識別番号】100089266
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 陽一

【公開番号】 特開2006−61460(P2006−61460A)
【公開日】 平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願番号】 特願2004−248167(P2004−248167)