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【発明の名称】 医用ポリフェノール溶液
【発明者】 【氏名】玄 丞烋

【氏名】松村 和明

【氏名】北住 典明

【要約】 【課題】ポリフェノールを有効成分として含む、細胞保存剤、組織保存剤、臓器保存剤、蛋白質複合体形成剤などにおいて、ポリフェノールの分解、沈殿の発生、溶液の変色、または過酸化水素の発生を抑制することができるものを提供する。

【解決手段】0.0025〜0.05重量%(2.5〜500ppm)の高純度のエピガロカテキンガレートと、0.001〜0.02重量%(10〜200ppm)のアスコルビン酸又はアスコルビン酸金属塩と、0.001〜0.02重量%(10〜200ppm)の二亜硫酸カリウムとを含む。好ましくは、アスコルビン酸の亜鉛塩を用いる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェノールと、0.0001〜0.05重量%のアスコルビン酸又はアスコルビン酸金属塩とを含有することを特徴とする医用ポリフェノール溶液。
【請求項2】
ポリフェノールが、エピガロカテキンガレート(EGCg)である請求項1に記載の医用ポリフェノール溶液。
【請求項3】
ポリフェノールの濃度が、0.001〜0.1重量%である請求項1又は2に記載の医用ポリフェノール溶液。
【請求項4】
二亜硫酸カリウムを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の医用ポリフェノール溶液。
【請求項5】
亜鉛、マグネシウム、銅、及び鉄などの金属イオンを含有する請求項1〜3のいずれかに記載の医用ポリフェノール溶液。
【請求項6】
細胞保存剤、組織保存剤、臓器保存剤、蛋白質複合体形成剤、遺伝子複合体形成剤、細胞接着抑制剤、又は免疫寛容剤である請求項1〜4のいずれかに記載の医用ポリフェノール溶液。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェノールを有効成分とし、臓器保存剤、組織保存剤などとして使用可能な医用ポリフェノール溶液に属する。
【背景技術】
【0002】
近年の外科手術技術の進歩に伴って、臓器移植の症例が増加している。臓器移植においては、臓器提供者(ドナー)から摘出された臓器が直ちに受容者(レシピエント)に移植されるのが理想的ではあるが、必ずしも直ちに移植手術されるとは限らない。そのため、摘出された貴重な臓器を如何に保存するかが極めて重要である。特に、虚血及び再灌流等によってフリーラジカルが発生すること、及びフリーラジカルに起因して生体膜の脂質に過酸化が生じることが保存の際に問題となる。
【0003】
そこで、ポリフェノールを含む溶液からなる臓器保存剤が提案されている。ポリフェノールとは、同一分子内に複数のフェノール性水酸基をもち生理活性を有する植物成分であり、植物の葉、樹皮、果皮、種子等から抽出されるか、または同一の構造の化合物が合成されて得られる。ポリフェノールは抗酸化作用等の生理活性を有するので、フリーラジカルの発生及び生体膜の脂質過酸化を抑制する。その結果、ポリフェノールを含む臓器保存剤は、従来の凍結保存やUW液(University of Wisconsin solution)による保存よりも優れた臓器保存効果を示す(特許文献1、特許文献2参照)。
【0004】
さらに、ポリフェノールを含む溶液は、臓器保存剤以外にも、蛋白質複合体形成剤や遺伝子複合体形成剤などとして、医用目的に有用であることが知られている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2000−344602号公報
【特許文献2】WO2004/019680号公報
【特許文献3】特開2002−255811号公報
【特許文献4】特開2003−267801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の医用ポリフェノール溶液では、ポリフェノールが分解しやすい。そのため、褐色化する、沈殿物が生じやすい、といった欠点があった。また、ポリフェノールの濃度が小さい領域では、ポリフェノール溶液による効果が安定しない場合があった。
【0006】
高純度のエピガロカテキンガレートをポリフェノールとして使用することでポリフェノールの分解が緩和されるものの(特許文献4参照)、不十分である。例えば、イーグルスMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)培地中、エピガロカテキンガレート200ppm(0.02重量%)、37℃の条件においては、エピガロカテキンガレートの保持時間は10時間未満である。さらに、従来の医用ポリフェノール溶液では、人体に有害な過酸化水素が発生しやすいという問題がある。
【0007】
本発明の課題は、ポリフェノールの分解、沈殿の発生、溶液の変色、及び過酸化水素の発生を抑制することができる医用ポリフェノール溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の医用ポリフェノール溶液は、ポリフェノールと、0.0001〜0.05重量%のアスコルビン酸又はアスコルビン酸金属塩とを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の医用ポリフェノール溶液によると、ポリフェノールの分解が抑制され、また過酸化水素の発生が抑制される。従って、本発明の医用ポリフェノール溶液では、溶液の効果が長時間維持される。さらに、沈殿の発生、溶液の変色を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の医用ポリフェノール溶液において、アスコルビン酸としては、L−アスコルビン酸が望ましい。また、アスコルビン酸金属塩の金属としては、ナトリウムなどのアルカリ金属の他、例えば亜鉛、マグネシウム、銅、及び鉄などの遷移金属を使用することができる。特に亜鉛を用いた場合、ポリフェノールに対する安定化効果が大きい。
【0011】
アスコルビン酸及びアスコルビン酸金属塩の濃度は、0.0001〜0.05重量%(1〜500ppm)であるが、好ましい濃度は0.0001〜0.03重量%(1〜300ppm)であり、より好ましい濃度は0.001〜0.02重量%(10〜200ppm)である。
【0012】
本発明におけるポリフェノールについては、限定されない。カテキン類、タンニン類、プロアントシアニジン(Oligomeric proanthocyanidins)又はリスベラトロールが使用され得る。例えば、3,3,4,5,7−フラボペントールで知られるカテキンが好ましく、特に好ましいのは、エピガロカテキンガレート(EGCg)である。エピガロカテキンガレートの純度は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上である。
【0013】
また、ポリフェノールは、例えば、茶、ワイン、チョコレート、サボテン、海藻、野菜(たまねぎ(最外部の黄褐色の皮)、アロエ抽出物パセリの葉、白色野菜など)、柑橘類(温州みかん、だいだい、ポンカンの皮、夏みかんの皮、グレープフルーツ、レモンなど)、リンゴなどの果実類、穀物(こうりゃん、大豆、そば、小麦など)、ダリアの花などの種々の食品・植物に多く含まれているので、茶抽出物、海草抽出物、果実抽出物、サボテン抽出物又はワイン抽出物などの抽出物でも良い。
【0014】
例えば茶抽出物は、水、エタノール、酢酸エチルなどの溶剤を用いて茶の葉より抽出することで得られ、カテキン類を主成分とし、その中でもエピガロカテキンガレートを最も多く含む。また、得られた茶抽出物あるいは市販の茶抽出物から、クロロフィルの除去、さらにカラムクロマトグラフ法による精製をすることによって、高純度のエピガロカテキンガレートを得ることが可能である。
【0015】
本発明において、ポリフェノールの濃度は、0.001〜0.1重量%(10〜1000ppm)が好ましい。より好ましい濃度は0.0025〜0.05重量%(25〜500ppm)であり、特に好ましい濃度は0.005〜0.01重量%(50〜100ppm)である。
【0016】
また、L−アスコルビン酸の安定性を高めるため、二亜硫酸カリウムなどの酸化防止剤が加えられても良い。二亜硫酸カリウムを添加する場合、添加量は、好ましくは0.0001〜0.05重量%(1〜500ppm)であり、好ましくは0.0001〜0.03重量%(1〜300ppm)、より好ましくは0.001〜0.02重量%(10〜200ppm)である。
【0017】
また、L−アスコルビン酸または、L−アスコルビン酸ナトリウム等を用いる場合に、亜鉛、マグネシウム、銅、及び鉄などの遷移金属のイオンを塩化物等の形で添加することができる。例えば、L−アスコルビン酸に対して、1/150〜1/2のモル比となるように、金属塩を添加することができ、これにより、ポリフェノールに対する安定化効果をさらに高めることができる。
【0018】
本発明の医用ポリフェノール溶液は、例えば、細胞保存剤、組織保存剤、臓器保存剤、蛋白質複合体形成剤、遺伝子複合体形成剤、細胞接着抑制剤、又は免疫寛容剤として使用することができる。
【0019】
細胞保存剤として使用する場合、保存対象となる細胞には、表皮細胞、膵実質細胞、膵管細胞、肝細胞、血液細胞、心筋細胞、骨格筋細胞、骨芽細胞、骨格筋芽細胞、神経細胞、血管内皮細胞、色素細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞などがある。
【0020】
組織保存剤として使用する場合、保存対象となる組織には、上皮組織、結合組織、筋肉組織、神経組織などがある。
【0021】
臓器保存剤として使用する場合、保存対象となる臓器には、皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、さい帯、腸、神経、肺、胎盤、膵臓、脳、四肢末梢、網膜などがある。ここで、臓器保存剤には心臓手術時に使用される心停止液も含まれる。
【0022】
細胞保存剤、組織保存剤又は臓器保存剤のとき、細胞等の保存対象はどの生物由来でも良い。好ましくは哺乳動物由来の細胞、組織又臓器であり、より好ましくはヒトの細胞、組織又は臓器である。
【0023】
蛋白質複合体形成剤として使用する場合、対象となる蛋白質には、動物性蛋白質、植物性蛋白質、核蛋白質、リポ蛋白質、金属製蛋白質などがある。
【0024】
ポリフェノールと、アスコルビン酸またはアスコルビン酸金属塩とが溶解される液については、医用ポリフェノール溶液の用途に応じて適宜選択すると良い。例えば、イーグルスMEM等の各種培養液、PBS(−)等のリン酸緩衝液、トリス緩衝液、生理食塩水が挙げられる。また、ユーロコリンズ液(Euro-Collins液, Squifflet, J.P. et al., Transplant Proc., 13693, 1981)、UW液(University of Wisconsin, Wahlberg, J. A. et al., Transplantation, 43, 5-8, 1987)等の従来の臓器保存液でも良い。
【0025】
本発明の医用ポリフェノール溶液には、用途に応じて抗酸化剤、安定化剤等の薬剤が適宜添加されても良い。そのような成分として、以下が挙げられる:
リン酸塩、クエン酸塩、または他の有機酸;抗酸化剤(例えば、SOD、ビタミンEまたはグルタチオン);低分子量ポリペプチド;タンパク質(例えば、血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン);親水性ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン);アミノ酸(例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン);単糖類、二糖類、及び多糖類の化合物(グルコース、マンノースまたはデキストリンを含む);キレート剤(例えば、EDTA);糖アルコール(例えば、マンニトールまたはソルビトール);塩形成対イオン(例えば、ナトリウム);ならびに/あるいは非イオン性表面活性化剤(例えば、ポリオキシエチレン・ソルビタンエステル(Tween(商標))、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロック共重合体(プルロニック(pluronic、商標))またはポリエチレングリコール);血栓溶解剤;血管拡張剤;組織賦活化剤;カテコラミン;PDEII阻害剤;カルシウム拮抗剤;βブロッカー;ステロイド剤;脂肪酸エステル;抗炎症剤;抗アレルギー剤;抗ヒスタミン剤。
【実施例1】
【0026】
医用ポリフェノール溶液の調製には、市販の緑茶抽出物(株式会社ファーマフーズ研究所製、「TP−60」、エピガロカテキンガレート(EGCg)含量約60重量%)を用いた。これは一般的な方法により緑茶の茶葉から抽出を行ったものである。
【0027】
その緑茶抽出物1000gに対して1リットルの水及び1リットルのエタノールを加え、10〜30分間加熱溶解した後、冷蔵庫内で放置した。24時間後、沈殿の発生を確認してから、低温下で濾別し乾燥させた。これにてクロロフィルが除去された。
【0028】
次に、(株)三菱化学のイオン交換樹脂「ダイヤイオン(DIAION; 登録商標)HP−20」の低圧カラムに充填した後、エタノールの20%水溶液を溶離液として、UVでモニタリングしながらカラム分離を行った。これにより、純度80重量%のエピガロカテキンガレートの画分が得られた。続いて、それを東ソー株式会社のゲル濾過クロマトグラフィー用カラムである「トヨパール(登録商標)HW−40C」を用い、メタノールの40%水溶液を溶離液として、カラム分離を行った。これにより、高純度のエピガロカテキンガレートの画分が得られた。
【0029】
このようにして得られたエピガロカテキンガレート精製物について、高速液体クロマトグラフ装置((株)島津製作所製、SCL10A)、及びODS(octa decyl silyl)カラム((株)YMCの「J‘spere ODS M−80」、150mm×4.6mm内径)を用い、また、移動相として含リン酸メタノール水溶液(メタノール/0.05%リン酸水溶液=20/80)を用い、カラム温度30℃、及び検出波長280nmの条件にて、分析した。その結果、エピガロカテキンガレート精製物の純度はおよそ98重量%であった。
【0030】
このようにして製造された精製エピガロカテキンガレート(EGCg)10mg及びL−アスコルビン酸(ビタミンC)10mgを、50mLのイーグルスMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium、Sigma-Aldrich, Inc)培地に添加して溶解させた。そして、それを4℃の温度条件下で密閉保存し、各々について24、72、120、168、240及び360時間後におけるエピガロカテキンガレート及びL−アスコルビン酸の残存量を、上記純度分析と同一の高速液体クロマトグラフ分析により調べた。また、比較のために、エピガロカテキンガレートのみを10mg添加したもの、及びL−アスコルビン酸のみを10mg添加したものを用意し、同様な方法で残存量を調べた。さらに、エピガロカテキンガレート10mg及びL−アスコルビン酸10mgとともに、二亜硫酸カリウム10mgを添加したものについても、同様な方法で残存量を調べた。結果を表1及び図1〜4に示す。
【表1】


【0031】
表1及び図1〜4に見られるように、エピガロカテキンガレートのみで保存した場合には、24時間後にはエピガロカテキンガレートを検出することができなかった。それに対して、エピガロカテキンガレートをL−アスコルビン酸とともに保存した場合には、240時間後においてもエピガロカテキンガレートを検出することができた。さらに、二亜硫酸カリウムをL−アスコルビン酸とともに添加した場合には、360時間後においても大部分のエピガロカテキンガレートが残存していた。
【実施例2】
【0032】
実施例1で用いたと同じ純度98%のエピガロカテキンガレートを用意し、濃度が0、50、75及び100ppmとなるように、50mMリン酸緩衝食塩水(PBS(−)、pH7.4)中に溶解させた。次いで、これら各溶液に対して、L−アスコルビン酸を種々の濃度(0〜1000ppm)で添加した。そして、6時間後における過酸化水素発生量をFOXII法(570nm光検出)によって調べた。結果を図5に示す。
【0033】
図5に見られるように、L−アスコルビン酸によって過酸化水素の発生量が抑制されることが分かった。L−アスコルビン酸の濃度1〜500ppm、特には10〜200ppmにおいて過酸化水素の発生が顕著に抑制され、濃度20ppmにおいて最も抑制された。すなわち、全く予想と異なり、少量だけ添加した際に優れた抑制効果が示された。L−アスコルビン酸の濃度は、少量すぎると長期に効果を持続できないため、過酸化水素の発生を長期にわたって抑制する観点から、20〜200ppmが特に好ましいと考えられる。
【実施例3】
【0034】
L−アスコルビン酸に代えて、L−アスコルビン酸亜鉛塩を用いた。実施例1と同程度の結果が得られた。
【実施例4】
【0035】
実施例1のL−アスコルビン酸に、更に0.03ミリモルのZnCl2を添加した。
【0036】
実施例1の結果より約10%EGCgの安定性が増大した。すなわち、表1中、試験例1(図1に対応)と同様の条件で、0.03ミリモルのZnCl2を添加した場合、L−アスコルビン酸がほぼ消滅するまでの時間が10%以上増加し、これによりEGCgが50%以上残存する時間が約10%増大した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】エピガロカテキンガレート及びL−アスコルビン酸の残存量を示すグラフ(1)である。
【図2】エピガロカテキンガレート及びL−アスコルビン酸の残存量を示すグラフ(2)である。ニ亜硫酸カリウム存在下での結果を示す。
【図3】エピガロカテキンガレートの残存量を示すグラフである。
【図4】L−アスコルビン酸の残存量を示すグラフである。
【図5】アスコルビン酸の過酸化水素抑制効果を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】503247229
【氏名又は名称】玄 丞烋
【出願日】 平成16年12月28日(2004.12.28)
【代理人】 【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子

【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人

【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士

【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸

【識別番号】100124707
【弁理士】
【氏名又は名称】夫 世進

【公開番号】 特開2006−188436(P2006−188436A)
【公開日】 平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願番号】 特願2004−381772(P2004−381772)