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【発明の名称】 クワガタ虫類の人工飼育に用いる微生物
【発明者】 【氏名】水海 吉太郎

【要約】 【課題】クワガタ虫類の幼虫飼育に使う用品の中で飼育の成否を決定づけるのは菌糸ビンである。菌糸ビン用の微生物としてヒラタケ類やサルノコシカケ科のきのこ菌が使されてきたが一長一短があり、決して満足のいくものではない。幼虫の飼育において成育不全や羽化不全をおこさず健全な成虫を得ると共に、生産性や経済性にすぐれた微生物を提供する。

【解決手段】シワタケ科に属する微生物を使用することにより、生産性や経済性にすぐれた菌糸ビンを作った。特に、BMC−9152菌株は弱小幼虫の飼育、蛹から成虫になる羽化期の重要な段階において有効である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クワガタ虫類の人工飼育において使用するきのこ菌として、シワタケ科シワタケ属BMC−9152菌株を用いることを特徴とする飼育用品。
【請求項2】
同じ用途で用いられる、シワタケ科の微生物を使用する用品。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、クワガタ虫類を人工飼育するために有用な飼育用品の製造に使用する微生物に関するものである。クワガタ虫類は、自然界において、雌が腐朽木(微生物により軟らかく朽ちた木)に産卵し、孵化した幼虫は腐朽部分を食し成長する。脱皮を繰り返し、やがて蛹(さなぎ)となり、産卵からおよそ2年をかけて羽化(うか)し成虫となる。この生態観察から、人工飼育においては、鋸屑を使ったきのこ栽培で利用する鋸屑培養基にきのこ菌を培養した培養物を朽木の代わりに使用する。人工飼育による成虫は、野生の成虫に比べ、温度条件等が調節できるため概ね大型となる。ここで使用される微生物は、きのこ類で、白色腐朽菌と呼ばれる、木材の白腐されを起こす微生物である。白色腐朽菌と一口に云っても食用きのこ類をはじめ多種多様にわたり、使用する菌の種類、あるいは培養物の製造方法によっては効果の薄いものがある。
効果の期待できる培養物を製造するには、虫にとって好適な菌を選抜したり、好適な状態の培養物を製造しなければならないため、バイオテクノロジーを駆使する技術分野である。
【0002】
近年、黒いダイヤと週刊誌等で騒がれたクワガタ虫も、ブームは去ったかに見えるが、価格も下がり子供でも買えるペットとなった。クワガタ虫の種類により異なるが、寿命の長いものは成虫になって5年程度は飼うことができる。また、外国産のカブト虫やクワガタ虫も多量に輸入され、価格も手頃となり、ブーム当初より愛好者の裾野は格段に広がってきたと云える。
【0003】
愛好者は、お好みの虫をブリード(繁殖)し、売買あるいは交換により、新たな珍しい虫の飼育に挑む。入手したペアの親虫を交尾させ、まずは産卵させられるかどうか、次に五体満足な成虫まで育てられるか、否か、が腕の見せ所となる。特に、この世界は、成虫になったときの尻から角(大あご)の先までの長さが競われるのが一般である。成虫になった後は、縮みはしても大きくはならないため、幼虫時代にいかに大きく育てるかが重要なポイントとなる。したがって、幼虫の餌となる白色腐朽菌培養物の良否は決定的に影響すると云って過言ではない。
【背景技術】
【0004】
これまで、人工飼育には、主として食用きのこのヒラタケ菌の仲間が使用されてきた。一般に市販されているきのこ種菌では最も成長力が旺盛で、また、自然界での幼虫採取(腐朽材を斧で割り幼虫の段階で採取する)例があることにもよる。使用の形態は、広葉樹の鋸屑に小麦粉やフスマ(麦の皮の部分)等の栄養分を加えよく混合し、水分が50乃至55パーセントになるよう調整した後、高密度ポリエチレン製耐熱袋、ポリプロピレン製ビン等に詰め、加熱・加圧殺菌し、冷却後ヒラタケ菌を培養する。約1ヶ月で使用可能な状態に仕上がる。ビンに詰めたもの(菌糸ビンと呼ぶ)はそのまま、袋製のもの(菌床と呼ぶ)は適宜ガラスビン等に詰めた後1週間ていど置けば使用可能となる。この中に孵化した幼虫を入れ飼育するのである。
【0005】
これまで使用されてきた微生物としては、食用きのこ類であるヒラタケ属のPleurotas ostreatus、Pleurotus abalonusや、強力な白色腐朽菌であるカワラタケ(Coliolus versicolor)、アラゲカワラタケ(Coliolus hirsutus)がある。この外、これらでは飼育困難な虫用としてマンネンタケ(Ganoderma lucidum)が用いられている。しかしながら、カワラタケやマンネンタケなどでは初齢幼虫を入れた場合死んでしまうことも多く見受けられる。また、このような菌種では、飼育温度が25℃以上となる夏場は、菌糸の劣化が進み、長丁場となる蛹化・羽化期を持ちこたえられない場合も多い。従って、初齢、2齢等力の弱い幼虫にも優しく、かつ、高温での長丁場を持ちこたえられる新たな菌種の開発が求められてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しょうとする課題】
【0006】
前述のように、従来から使用されてきた菌種は人工飼育にとって必ずしも満足しうるものではない。卵から孵化した幼虫は、一般に、初齢、2齢、3齢、蛹(さなぎ)と、脱皮・変態し、最終的には蛹が脱皮し成虫となる。この間、3齢後期には自らが羽化するための蛹室を作り、その中で変態し蛹となる。蛹の期間は、虫の種類や雌雄、温度条件が異なればもちろん変わるが、雄の場合2ヶ月程度は考えておく必要がある。国産のオオクワガタ虫の場合、25℃内外の温度管理下で飼育すれば雌で4ヶ月、雄では8ヶ月目ぐらいから羽化が始まる。
幼虫の人工飼育で重要な課題が2つある。第1に、まだ弱い初、2齢幼虫が死ぬことのない、幼虫に優しい菌種であること。第2は、3齢幼虫が蛹室を作り、変態し羽化するまでの期間、即ち最低でも2ヶ月間以上は菌糸としての力を維持したまま持続できる能力のある菌種であることである。
現在最も多く使用されているヒラタケ類では、その途上で、ビンの中でキノコ(子実体)を形成し衰弱したり、場合によっては蛹室内にキノコを出すこともあり、飼育の最終段階で涙を飲むことも多い。したがって、容易にはキノコを作らない菌種であることも望ましい。
【0007】
また、菌の世界には、菌に寄生し殺傷するものがある。主としてトリコデルマ菌と呼ばれる一群の微生物で、緑色の分生胞子を形成するため比較的容易に判別できる。高温多湿な条件下で猛威をふるい、この菌に侵害され始めると1週間程度で当初の菌は死滅する。従って、これら寄生性の菌類に侵されにくい菌種を選抜することも重要な課題である。
【0008】
本発明の目的は、クワガタ虫類の人工飼育において、従来に無い優れた能力を持つ菌床、菌糸ビンを製造するための、新たな菌種を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、かかる目的を達成できる微生物を選抜すべく鋭意研究を重ねてきた。自然界より純粋分離し保存中の白色腐朽菌、新たに腐朽材より純粋分離した菌で、従来と同様の菌糸ビンを製作し、国産オオクワガタの幼虫を入れ飼育した結果、シワタケ科に属する微生物(白色腐朽菌)がクワガタ虫類の人工飼育に使用する菌種として優れていることを見出した。その中でも、別件で既に特許申請の対象菌株となっているシワタケ(Merulius tremellosus)のBMC−9152菌株(特許微生物寄託センター寄託番号 FERM P−18151)は、特に優れた特性を有していた。本発明は、かかる発見に基づき完成されたものである。
【0010】
本発明で用いる特許申請微生物の分類学的位置は、
担子菌亜門(BASIDIOMYCOTINA)
真正担子菌綱(EUBASIDIOMYCETES)
ヒダナシタケ目(APHYLLOPHORALES)
シワタケ科(Meruliaceae) に属する菌である。
【0011】
シワタケ科(Meruliaceae)は、原色日本新菌類図鑑(II)によると、シワタケ属(Merulius)、コガネシワウロコタケ属(Phlebia)、ニカワウロコタケ属(Gloeostereum)などがある。
【0012】
シワタケ科の菌は自然界の腐朽材から、市販の食用きのこ類と同様に、比較的容易な方法で単離し、寒天培地で保存ができる。しかしながら、それと識別できるキノコ(子実体)がおよそきのこ類と考えにくい形状(腐朽材の表面部に背着し、皮革状にはりついている)をしており、また、子実体を形成しても乾燥条件が続くと剥がれ落ちるという性質があるため、専門的な知識を有する者でないと特定は困難である。
【0013】
なお、BMC−9152及び9160菌株の同定に関しては、以下の文献を参考にした。
(1)古川久彦、野淵 輝著「増補・改訂版栽培きのこ害菌・害虫ハンドブック」p.122−123(1996)(社)全国林業改良普及協会
(2)今関六也、本郷次雄、椿 啓介共著「原色日本新菌類図鑑(II)」p.105(1989)(株)保育社
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
シワタケ科の菌は、一般的な食用きのこ類(シイタケ、ヒラタケ、ナメコ等)を栽培する鋸屑培地で容易に培養ができる。生態的な力は強く、菌糸の伸長は食用きのこ類に比べ極端に速い。本発明の場合、広葉樹(ブナ、クヌギ等)の鋸屑に小麦粉やフスマを加え、希望の含水率となるよう調整した後、所定の容器(高密度ポリエチレン製袋、ポリプロピレン製ビン等)に詰め、蒸気殺菌釜で120℃、90分乃至120分間殺菌処理をする。冷却後、シワタケ菌を接種すると1週乃至2週間で菌糸の蔓延が完了する。若干の熟成期間を見ても、約15日で使用可能な状態となる。高密度ポリエチレン製袋入りのものは菌床と呼ばれ、いったん取り出し、お好みの容器(プリンカップ、ガラスビン、ポリビン等)に詰め替えて使用する。ポリプロピレン製ビン入りのもの、ガラスビン、ポリビンに詰め替えたものは菌糸ビンと呼ばれている。ポリプロピレン製ビン入りのものはそのまま幼虫を入れられるが、詰め替えビンの場合、ふつう詰め替え後1週間程度経過したものを使用する。
【実施例】
【0015】
以下、実施例により本発明について具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものではない。
〈実施例1(有用菌種の選抜に関する試験)〉
クヌギオガ粉5容にブナオガ粉5容を加え良く混合、これに対し重量比で10パーセントの小麦粉およびフスマを加え水分含量が55パーセントとなるよう加水、これを850ミリリットル容のポリプロピレン製ビンに詰める。常法通り殺菌釜で加圧・加熱殺菌(120℃、90分間)し、冷却後、あらかじめ拡大培養しておいた供試菌10菌株を接種し、22度に設定した培養室で培養した。この試験は、幼虫飼育に用いる菌糸培養物を製造する際の難易度をチェックしたもので、ビン全体に菌糸が伸びる(菌糸の蔓延)のに要する日数に関する資料となる。この結果を表1に示す。
【0016】
【表1】


表1の結果より、本発明で用いる菌(シワタケ)は、ほかの菌種に比べ格段に成育力に優れていることが判かり、製品に仕上げるまでの期間が短くて済む。また、このことは生態的力が強いことを示す場合が多く、トリコデルマ類のような菌寄生性の微生物に対する抵抗力が強いことが示唆される。
【0017】
〈実施例2(有用菌株の選抜に関わる幼虫飼育試験)〉
国産オオクワガタ虫の雌雄を交尾させ、産卵・孵化した2乃至3齢幼虫の雄を、実施例1で製造されたビンへ入れ飼育試験を実施した。入れた幼虫の体重は、およそ5グラムから13グラムの間で、ランダムに投入し、飼育室の温度は、25℃から27℃に設定した。1ヵ月後に菌糸の持ち具合を観察後、幼虫を取り出し、体重を測定した。その結果を表2に示す。
【0018】
【表2】


表2の結果より、シワタケ菌を使用した菌糸ビンは、幼虫を投入し30日経過後の体重増でも好成績である。しかも、菌糸の色は投入時とほとんどかわらず、幼虫もビン内を動き回ること無く、ビン底部より行儀良く食べており理想的な状態である。その外の菌種ではビン内の8割程度がすでに黒く変色しており、シワタケビンの持ちの良さが際立っている。
【0019】
(実施例2)で飼育された幼虫は、新たなビンに入れ替えられやがて蛹室をつくり、蛹化し成虫となった。シワタケ菌を使用したビンでは内部が汚泥化することもなく極めて良好な性状であった。
【発明の効果】
本発明により以下の効果が得られる。
(a)クワガタ虫類の幼虫飼育に使用する用品(菌糸ビン)の調製においてシワタケ科の微生物を使用することにより、調製期間(培養期間)が3分の1ないし2分の1に短縮でき、大幅な省エネ効果がもたらされる。
(b)シワタケ科の微生物を使用して調製した菌糸ビンは、弱小幼虫に対して優しく、幼虫の死亡率が減少する。
(c)幼虫がビン内部で動きまわることがなく、きまり良く食するため、ビンの日持ちが、従来の菌を使用した場合の2倍ないし3倍良い。
(d)菌寄生性の害菌に対する抵抗力が強いため、害菌による菌糸の消耗が極めて少なく、また自然劣化も無視できる。
(e)従来使用されてきた菌を使用したビンに比べおよそ半数のビンで成虫まで仕上げられ経済効果がもたらされる。
【出願人】 【識別番号】505038081
【氏名又は名称】有限会社微創研
【出願日】 平成16年12月30日(2004.12.30)
【代理人】
【公開番号】 特開2006−187216(P2006−187216A)
【公開日】 平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願番号】 特願2004−382955(P2004−382955)