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【発明の名称】 短周期型または長周期型の日周期リズムを示す動物
【発明者】 【氏名】石田 直理雄

【氏名】宮崎 歴

【要約】 【課題】日周期リズムが短周期型または長周期型を示すモデル動物を提供すること。

【解決手段】外来のPER2遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物が提供される。本発明のトランスジェニック動物は短周期型または長周期型の日周期リズムを示す。特に、核移行配列を欠失したPER2遺伝子を有するトランスジェニック動物は長周期型の日周期リズムを示す。本発明のトランスジェニック動物を作製する方法、ならびに本発明のトランスジェニック動物を用いて睡眠異常に影響を及ぼす化合物をスクリーニングする方法も提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外来のPER2遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項2】
短周期型の日周期リズムを示す、請求項1記載のトランスジェニック動物。
【請求項3】
長周期型の日周期リズムを示す、請求項1記載のトランスジェニック動物。
【請求項4】
核移行配列が欠失したPER2変異型遺伝子を有しており、長周期型の日周期リズムを示す、請求項1記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項5】
請求項1−4のいずれかに記載のトランスジェニック動物を作製する方法であって、動物細胞中で機能するプロモーターの下流に動作可能なように連結されたPER2遺伝子を動物の胚細胞に導入し、前記胚細胞からトランスジェニック動物を発生させることを含む方法。
【請求項6】
睡眠異常に影響を及ぼす化合物をスクリーニングする方法であって、試験化合物を請求項1−4のいずれかに記載のトランスジェニック動物に投与し、前記動物の日周期リズムを測定し、日周期リズムを変化させる化合物を同定する、の各工程を含む方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は睡眠異常のモデル動物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、日周期リズム(circadian rhythm)の分子機構の解明を目的とした研究において有効なモデル動物、より詳しくは、体温、自発的活動量、覚醒時間および睡眠等の日周期リズムが正常動物より短周期または長周期を示す動物に関する。また本発明は、本発明の動物の作製方法、ならびに本発明の動物の日周期リズムに影響を及ぼす化合物のスクリーニング方法に関する。
【0003】
生物に内在する約24時間の日周期リズムは、体内時計(または生物時計)と呼ばれる機構によって制御されていると考えられている。ヒトを対象とした臨床研究においては、睡眠相前進症候群や睡眠相後退症候群、不規則型睡眠覚醒障害、躁鬱病、あるいは身近なところでは時差ぼけ、シフトワークによる睡眠障害など、様々な疾病が体内時計の異常によって引き起こされていると考えられている。
【0004】
これまでに、哺乳類において生物時計を制御する遺伝子がいくつか同定されており、これには、Period(Per1,Per2,Per3)、Clock、BMAL、Cryptochrome(Cry1、Cry2)などが含まれる。Per遺伝子産物のPERは体内時計の中枢である視交叉上核でも各臓器でも1日周期の増減を示す分子であり、CLOCK/BMALによる転写活性化を抑制する因子といわれている。PER2のノックアウトマウスがリズム異常を示す一方で、PER1やPER3のノックアウトマウスでは顕著なリズム異常が見られないことから、3種類あるPERのなかでもPER2が生物時計を制御する上で最も重要な分子であると考えられている。
【0005】
日周期リズムに関わる体内時計の全体像、その詳しいメカニズム等の情報を提供することは、基礎研究はもとより、睡眠や恒常性の維持、投薬間隔や薬効の至適時間帯等をはじめとするヒトの生体リズムの関与する各種臨床的な観点からも極めて重要な課題となっている。
【0006】
したがって、睡眠異常などを引き起こす元となるリズム異常のメカニズムを解明し、睡眠異常を治療する方法を開発するために、種々の型の睡眠異常を示すモデル動物が必要とされている。
【0007】
これまでに、時計遺伝子の変異と睡眠異常との関連性を示すいくつかの例が報告されている。本発明者らは、Clock遺伝子に変異が生じたマウスが日周期リズムに異常を示し、夜型睡眠モデルマウスとして有用であることを見いだした(特開2003−707376)。Zhengらは、PAS領域を欠失したmPer2遺伝子を有するマウスが、短周期型の日周期リズムを示すことを報告している(Nature 400, 169-173, 1999)。また、家族性睡眠症候群という疾患においてPER2分子の中央部分にあるカゼインキナーゼによるリン酸化部位に遺伝子多型(SNPS)が存在していて、それが原因で睡眠異常が生ずるケースがあるとの報告がある。しかし、安定的に短周期型または長周期型の日周期リズムを示すモデル動物は知られていない。
【特許文献1】特開2003−707376
【非特許文献1】Nature 400,169-173 (1999)
【非特許文献2】Mol. Cell.Biol. 21 (19), 6651-6659 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ヒトにおける日周期リズム異常のメカニズムを解明するための手段として有効な、睡眠異常を示すモデル動物を提供することを目的とする。具体的には、本発明は日周期リズムが短周期型または長周期型を示すモデル動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、動物において野生型または変異型のPer2遺伝子を強制発現させることにより、その動物の日周期リズムが短周期型または長周期型となることを見いだした。すなわち本発明は、外来のPer2遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物を提供する。本発明のトランスジェニック動物は、短周期型または長周期型の日周期リズムを示す。本発明の好ましい態様においては、本発明のトランスジェニック動物は、核移行配列が欠失したPer2変異型遺伝子を有し、長周期型の日周期リズムを示す。
【0010】
別の観点においては、本発明は、上述の本発明のトランスジェニック動物を作製する方法であって、動物細胞中で機能するプロモーターの下流に動作可能なように連結されたPer2遺伝子を動物の胚細胞に導入し、前記胚細胞からトランスジェニック動物を発生させることを含む方法を提供する。
【0011】
また別の観点においては、本発明は、睡眠異常に影響を及ぼす化合物をスクリーニングする方法であって、試験化合物を上述の本発明のトランスジェニック動物に投与し、前記動物の日周期リズムを測定し、日周期リズムを変化させる化合物を同定する、の各工程を含む方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のトランスジェニック動物は、外来のPer2遺伝子を体細胞中に有することを特徴とする。「外来のPer2遺伝子」とは、トランスジェニック動物が元々その染色体上に持っているPer2遺伝子の代わりにまたはそれに加えて、外から導入されたPer2遺伝子を意味する。外来のPer2遺伝子は、ホモで存在していてもヘテロで存在していてもよい。外来のPer2遺伝子は、動物細胞中で機能するプロモーターの下流に動作可能なように連結して、トランスジェニック動物に導入する。好ましくは、プロモーターはPer2遺伝子を強制的に、すなわち、天然のPer2遺伝子の発現の制御とは独立して発現させる。プロモーターは構成的なものでも誘導可能なものでもよい。
【0013】
PER2(PERIOD2)は、哺乳動物の日周期を制御する蛋白質の1つである。しかし、PER2がどのようなメカニズムで日周期を制御しているのかは不明であった。本発明においては、野生型のPER2を強制発現させたトランスジェニックマウスが短周期型の日周期を示し、核移行配列を欠失したPER2を強制発現させたトランスジェニックマウスが長周期型の日周期を示すことが見いだされた。PER2の「核移行配列」とは、PER2の分子中に存在し、PER2蛋白質の核内への移行を指示するシグナルとなるアミノ酸配列である。本発明者らは、これまでに、培養細胞を用いた研究により、PER2の分子中に存在する核内移行配列は、通常はこの蛋白質の他の領域によりマスクされていること、PER2がCRYと結合すると核内移行配列がアクティブとなってPER2/CRY複合体が核内へと移行すること、PER2はC末端領域中にCRYと結合するための結合部位を有しており、この結合部位を欠失させるとPER2もCRYも核内へ移行できなくなること、ならびに、PER2の核移行配列を欠失させると、PER2だけでなくCRYも核内へ移行できなくなることを明らかにした(Mol. Cell. Biol. 21 (19), 6651-6659 (2001))。CRYは核内で転写抑制因子として働くことが知られているため、変異型PER2の存在下では核内移行が阻害され、転写因子としての機能が果たせなくなると考えられる。
【0014】
下記の実施例に記載されるように、本発明のトランスジェニック動物は、日周期リズムが変化し、短周期型または長周期型の日周期リズムを示す。「日周期リズム」とは、ほぼ24時間周期で繰り返す生理現象を意味する。「短周期型」とは、対象とする動物を恒暗条件下で飼育し、特定の生理学的パラメーターにより日周期リズムを測定した場合に、活動期(覚醒期)と休止期が現れる周期が正常動物より短いことを意味する。「長周期型」とは、対象とする動物を恒暗条件下で飼育し、特定の生理学的パラメーターにより日周期リズムを測定した場合に、活動期(覚醒期)と休止期が現れる周期が正常動物より長いことを意味する。
【0015】
日周期リズムを測定するための生理学的パラメーターとしては、限定するものではないが、例えば飲水行動、体温、自発的活動量および覚醒時間を挙げることができる。これらの生理学的パラメーターの日周期リズムは、以下に示すようにして測定することができる。
【0016】
飲水行動;給水瓶の吸水口前面部に赤外線センサーを装着し、動物が飲水した場合センサーが感知し、その活動を記録する。5分毎に活動の有無を決定し経時的な行動量を評価する。
【0017】
体温;動物の腹腔内に体温の電波遠隔測定装置(TA10TA-F20; Data SciencesInt., USA)を埋め込み、これを介して測定する。得られた測定値を1時間ごとに平均化する。
【0018】
自発的活動量;動物の首の両側の筋肉に筋電図(EMG)測定のためのテフロン(登録商標)コートされたステンレスワイヤーを埋め込み、該動物の動きに伴うシグナル強度の変化をモニターすることによって測定する。得られた測定値を1時間ごとに平均化する。
【0019】
覚醒時間;動物の首の両側の筋肉に筋電図(EMG)測定のためのテフロン(登録商標)コートされたステンレスワイヤーを、また該動物の頭蓋骨中に脳波(EEG)測定のためのステンレス小型ねじ式電極を埋め込み、コンピューター画面上で5秒間ごとの脳波および筋電図のパターンを視覚的に同定することによって定量化する。得られた値を1時間ごとに平均化する。
【0020】
上記特性を示す本発明の動物としては、ヒトを除く哺乳動物であれば特に限定されないが、例えばマウス、ラット、ウサギ、ブタ、ウシ、ハムスターを挙げることができる。
【0021】
本発明の短周期型または長周期型モデル動物は、新しい睡眠薬のスクリーニング(短周期型または長周期型を正常型に戻す)、日周期リズム分子機構の研究(特にPER2分子がどのように哺乳類日周期リズム分子機構形成に関わるかという点を明らかにするための実験動物になりうる)、睡眠異常の発症メカニズムの研究、ならびに疾患の起こりやすい時刻の分子機構の研究(例えば、心筋梗塞は朝方に多い、突然死は夜方に多い等)等に有用である。
【0022】
本発明の日周期リズムが短周期型または長周期型を示すトランスジェニック動物は、以下のようにして作製することができる。Per2遺伝子の配列は、Genbank Accession No. AB016532から入手することができる。ラットPER2の核移行配列は、アミノ酸残基778−794に位置すると考えられている(Mol. Cell. Biol. 21 (19), 6651-6659 (2001))。それらの配列は、マウスPER2のアミノ酸残基778−794、ヒトPER2のアミノ酸残基789−806に相当する。この核移行配列を欠失したPER2をコードする遺伝子は、制限酵素による消化とライゲーションを適宜組み合わせることにより、あるいは、PCR反応等の手法により核移行配列の上流のフラグメントと下流のフラグメントとを作製した後にこれらを連結させることにより、または当該技術分野において知られる他の適当な方法により、作製することができる。
【0023】
このようにして製造した野生型または変異型PER2遺伝子を動物細胞中で作用しうる適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に挿入して、遺伝子導入用のコンストラクトを構築する。プロモーターとしては、当該技術分野において知られる動物細胞中で作用しうるいずれのプロモーターを用いてもよく、例えば、CAGプロモーター、CMVプロモーター、SV40プロモーターなどを用いることができる。
【0024】
採卵用の雌動物に、牝馬血清性腺刺激ホルモンを腹腔内投与し、次にヒト絨毛性性腺刺激ホルモンを投与した後、雄と交尾させる。前核期受精卵を採取し、野生型または変異型PER2遺伝子を含むコンストラクトを前核にマイクロインジェクションする。受精卵をm−KRB培地中で数時間から一晩インキュベートした後、偽妊雌の卵管に移植する。生まれた仔のそれぞれについて、目的とする遺伝子が組み込まれているか否かについてスクリーニングする。スクリーニングは、各個体の尾部等から少量の血液を採取し、PCR、サザンブロッティング等の方法を用いてDNAを分析することにより行うことができる。所望のトランスジンを有する個体を選択する。得られたトランスジェニック動物と、野生型動物とを交配させてF1を取得する。
【0025】
さらに別の観点においては、本発明は、睡眠異常に影響を及ぼす化合物をスクリーニングする方法を提供する。該方法は、試験化合物を本発明のトランスジェニック動物に投与し、前記動物の日周期リズムを測定し、日周期リズムを変化させる化合物を同定する、の各工程を含む。ここで、「睡眠異常」とは、体内時計の制御の異常により生ずる疾病または状態を表し、例えば、睡眠睡眠相前進症候群、睡眠相後退症候群、不規則型睡眠覚醒障害、時差ぼけ、躁鬱病、痴呆老人の夜間徘徊などが含まれる。本発明の方法により睡眠異常に影響を及ぼす化合物として同定された化合物は、日周期リズムや睡眠異常のメカニズム研究用の試薬として有用である。さらに、このような化合物は、日周期リズムに異常を示す動物のリズムを変更する薬剤、すなわち新規な睡眠薬の候補として有用であると考えられる。
【0026】
以下に、実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらの記載は例示の目的にのみ提供されるものであり、本発明の範囲はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0027】
CAGプロモーターの下流に核移行配列をコードするDNA配列(1642−2490)を欠失したラットPer2遺伝子を連結したDNAを作製した(図1)。ここから切り出したDNA断片をC57BL6系統マウスのES細胞にマイクロインジェクションし、ICRマウスの子宮内に着床後出産させた。産子の尾からDNAを抽出し、PCR法によりPer2遺伝子を検出することにより、相同組み換えにより染色体にPer2を含むDNA断片が挿入されたマウスを同定した。その結果12ラインのトランスジェニックマウスを得た。さらに、これらのトランスジェニックマウスを正常型c57BL6系統と交配させることにより産子を得た。その結果、PER2変異型蛋白質を発現させる変異動物14ラインのうち、PER2変異型蛋白質を過剰発現するマウスを7ライン同定した。
【0028】
これらのトランスジェニックマウスについて、以下のようにして日周行動リズムを測定した。恒暗条件下での飲水行動を測定した。給水瓶の吸水口前面部に赤外線センサーを装着し、動物が飲水した場合センサーが感知し、その活動を記録する。5分毎に活動の有無を決定し、活動が観察された場合を黒、ない場合をしろで表し、1日の活動パターンを表示した(図2、3)。トランスジェニックマウスの活動を1段目に1日目と2日目、2段目に2日目と3日目のデータを順次示すダブルプロット法で表示すると、24時間以上の周期では左に傾いた黒い帯がみられ、長周期で活動していた(図2、3)。
【0029】
その結果、核移行配列欠失型PER2トランスジェニックマウスのうち、恒暗条件において測定したリズムが長周期となるものが2ライン同定された。その1つである03−1ラインは、正常マウス(23.6時間)と比較して、長周期の行動パターンを示し、その平均周期は25.2時間であった(図2)。また別の07−3ラインも、正常マウスと比較して、長周期の行動パターンを示し、その平均周期は24.8時間であった(図3)。すなわち、核移行配列を欠失したPER2を導入することにより、長周期型の日周期リズムを示す動物を得ることができた。
【実施例2】
【0030】
実施例1と同様にして、野生型PER2の過剰発現マウスを作成した。CAGプロモーターの下流にPER2遺伝子を連結し、C57BL/6マウスバックグラウンドのトランスジェニックマウス06−1を作成した。この06−1ラインマウスは、正常マウスと比較して短周期の行動パターンを示し、その平均周期は23時間であった(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明のトランスジェニックマウスを作製するために用いたDNA断片の構造を示す。
【図2】図2は、本発明のトランスジェニックマウスの行動パターンを示すアクトグラムである。
【図3】図3は、本発明のトランスジェニックマウスの行動パターンを示すアクトグラムである。
【図4】図4は、本発明のトランスジェニックマウスを作製するために用いたDNA断片の構造とトランスジェニックマウスの行動パターンを示すアクトグラムである。
【出願人】 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【出願日】 平成16年9月27日(2004.9.27)
【代理人】
【公開番号】 特開2006−87384(P2006−87384A)
【公開日】 平成18年4月6日(2006.4.6)
【出願番号】 特願2004−278735(P2004−278735)