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【発明の名称】 雄性不稔植物の作出方法
【発明者】 【氏名】鳥山 欽哉

【氏名】川邊 隆大

【氏名】内宮 博文

【氏名】山田 真紀

【要約】 【課題】雄性不稔性であることを除き、原品種と同様な正常な形態を示し、花の外観が原品種と変わらない雄性不稔植物を作出する方法を提供する。

【解決手段】シロイヌナズナ由来のAtBI-1遺伝子の上流にイネ由来の葯のタペート組織特異的発現誘導プロモーターであるOsg6Bプロモーターを連結し、植物ゲノム中に導入することにより、当該植物を花の外観が原品種と変わらないことを特徴とする雄性不稔植物の作出方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロイヌナズナ由来のAtBI-1遺伝子の上流にイネ由来の葯のタペート組織特異的発現誘導プロモーターであるOsg6Bプロモーターを連結し、植物ゲノム中に導入することを特徴とする雄性不稔植物の作出方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来の遺伝子を組換えることにより、雄性不稔植物、特に花の外観が原品種と変わらない雄性不稔植物を作出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組み換え技術を利用した雄性不稔植物の作出にはRNA分解酵素と葯のタペート組織特異的な発現誘導プロモーターが使われてきた。RNA分解酵素として、バルナーゼ(barnase)やRNase T1などが知られている(非特許文献1)。バルナーゼはバチルス・アミロリクイフェシエンス(Bacillus amylolyquifaciens)由来のRNA分解酵素(RNase)である。RNase T1はアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来のRNaseである。これらの酵素はRNAを加水分解する酵素であり、本酵素が発現すると、その強力なRNA分解活性により細胞は死滅する。
【0003】
葯のタペート組織特異的な発現誘導プロモーターとして、タバコのTA29プロモーター(非特許文献2)、シロイヌナズナのA9プロモーター(非特許文献3)、イネのOsg6Bプロモーター(非特許文献4)等が知られている。
【0004】
特許文献1には、上記のバルナーゼ遺伝子を葯のタペート組織特異的な発現誘導プロモーターの下流に結合した組換えDNAを遺伝子導入することにより、タペート組織を死滅させることにより雄性不稔植物を得る技術が報告されている。このような、雄性不稔化技術は効率の良い一代雑種品種(F1品種)の開発において有用である。また、遺伝子組換え植物を栽培する際、花粉を介して組換え遺伝子が環境に拡散することが問題視されているが、雄性不稔植物を用いればこの問題を解決することができる。
【0005】
しかし、微生物由来のRNA分解酵素を用いた遺伝子組換え作物はパブリックアクセプタンス(public acceptance)の観点から望ましいものではない。
【0006】
葯のタペート組織特異的発現誘導プロモーターとしてイネ由来のOsg6Bプロモーターを用いた場合、植物由来の遺伝子を組み合わせることで部分的な雄性不稔植物の作出が報告されている。非特許文献5には植物由来の遺伝子の例として、サツマイモのフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)が、非特許文献6にはチャのカルコン合成酵素(CHS)が、非特許文献7にはシロイヌナズナのシアン耐性呼吸の最終酸化酵素(AOX)の報告がある。これらの例では、PAL, CHS, あるいはAOXのcDNAをアンチセンス方向でOsg6Bプロモーターの下流に連結したベクターをタバコに遺伝子導入し、それぞれの酵素活性を阻害することで、部分的な雄性不稔植物を得ている。しかし、完全な雄性不稔植物は得られていない。また、タペート組織と花粉が死滅するため、葯の収縮・退化が見られ、花を観賞する園芸植物の雄性不稔化技術としては決して望ましいものではない。
【0007】
AtBI-1(Arabidopsis thaliana Bax inhibitor-1)はシロイヌナズナからクローニングされ、AtBI-1が作るタンパク質は243アミノ酸残基からなるタンパク質で、細胞死を抑制する作用がある(非特許文献8)。これまでAtBI-1を含む細胞死を抑制する植物由来の遺伝子を操作することにより雄性不稔植物を作製した例は知られていない。
【0008】
【特許文献1】PCT出願国際公開第8910396号公報
【非特許文献1】C. Mariani et al., Nature 347-741, 737, 1990
【非特許文献2】J. Serinck et al., Nuc. Acid. Res., 18, 3403, 1990
【非特許文献3】Wyatt Paul et al., Plant Mol. Biol., 19, 611-622, 1992
【非特許文献4】T. Tsuchiya et al., Plant Mol. Biol. 26, 1737-1745, 1994
【非特許文献5】N. Matsuda et al., Plant Cell Physiol., 37, 215-222,1996
【非特許文献6】N. Matsuda et al., Plant Biotechnology 14, 157-161, 1997
【非特許文献7】H. Kitashiba et al., Molecular Breeding, 5, 209-218, 1999
【非特許文献8】M. Kawai et al., FEBS Lett., 464, 143-147, 1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の遺伝子組換え技術で作出された雄性不稔植物は、葯のタペート細胞を死滅させることにより花粉も死滅し、葯が収縮・退化する。葯が退化することは、花の外観が異なってしまい、花を観賞する切り花としての観賞価値を低下させるという問題点がある。
【0010】
パブリックアクセプタンスの観点から、バルネースやRNase T1などの微生物由来の遺伝子を用いず、植物由来の遺伝子を用いて完全な雄性不稔植物を作出することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはシロイヌナズナからクローニングされ、細胞死を抑制する作用があるとされるAtBI-1遺伝子から発現されたタンパク質が、正常な花粉発達を阻害して雄性不稔植物を作製することに成功した。その際、AtBI-1を発現誘導する時期が重要であり、花粉発育段階の四分子期から2細胞期に発現誘導するイネ由来のOsg6Bプロモーターを使用することが有効であることを明らかにした。正常な葯では、発育後期の2細胞期にタペート組織が細胞死を起こし、その結果、正常な花粉が形成される。Osg6Bプロモーターを用いてAtBI-1を発現誘導させたシロイヌナズナでは、通常起こるタペート組織の細胞死が抑制されており、膨潤したタペート組織が、花粉を押しつぶしていた。葯の収縮・退化は見られず、葯の外観は原品種の葯と同じであった。
【発明の効果】
【0012】
イネ由来のOsg6Bプロモーターの下流にシロイヌナズナ由来のAtBI-1遺伝子を結合した遺伝子を導入することにより、従来の導入遺伝子でみられたような葯の収縮・退化などが起こらず、外観は原品種の植物と同じ、雄性不稔植物を作出することが可能となった。
【0013】
細胞死を誘導・促進するような遺伝子を用いて雄性不稔植物を作製する研究は行われているが、細胞死を抑制する植物由来の遺伝子を用いて、完全な雄性不稔形質を付与する研究例は知られていない。本発明はパブリックアクセプタンスの観点からも有用である。
【0014】
本発明は、シロイヌナズナのみに限定されるものではなく、他の園芸植物や作物に適用可能である。
【実施例】
【0015】
AtBI-1は細胞死を抑制する働きをもつ。本発明ではAtBI-1を四分子期のタペート組織で発現誘導させることにより、タペート組織の細胞死を抑制することを発明した。さらに、タペート組織の細胞死を抑制することにより、花粉の発育が異常となり雄性不稔植物が得られることを発明した。正常な花粉発達が起きるためには、タペート組織が特定の発育時期(四分子期)に細胞死を起こすことが必須であり、AtBI-1が細胞死を阻害したために正常な花粉発達が阻害され、その結果雄性不稔となる。以下、本発見を実施例によりさらに説明するが、これら実施例のみによって限定されるものではない。
【0016】
AtBI-1 を増幅させるための鋳型としてAtBI-1 cDNA( DDBJ accession no. AB025927 )を含んだプラスミドを使用した。PCR(Polymerase Chain Reaction)法により増幅を行った後、修飾酵素 T4 Polynucleotide Kinaseで処理した。その結果、5’末端にリン酸基が付加された平滑末端をもつ断片が得られた。この断片の両端を常法によりT4 DNA LigaseによってpGEM-3Zf(-)(Promega, USA)にクローニングし、新規のプラスミドpAtBI-1とした。制限酵素HindIII 、Spe I 処理によりOsg6B プロモーター断片 ( T. Tsuchiya et al., Plant Molecular Biology 26:1737-1746, 1994 )を切り出し、pAtBI-1のHindIII - Spe I 部位に挿入した。このOsg6Bプロモーター配列とAtBI-1配列を含む断片を制限酵素Hind III 、Sac Iで切り出し、遺伝子導入用のベクターとして用いた標準的バイナリーベクターpBI101のHind III−Sac I部位に挿入して、新規のプラスミドOsg6Bpro::AtBI-1とした。この組換えプラスミド ( Osg6Bpro::AtBI-1;図1) を持つAgrobacterium tumefaciens C58 を用いてシロイヌナズナ ( 生態型 Columbia-0 ) の形質転換を行った。形質転換の方法はClough らの方法 (S. Clough et al., Plant J. 16:735-743, 1998)に従った。選抜マーカーとしてNPT II遺伝子 (neomycin phosphotransferase をコードする)を含んでいるので、遺伝子が導入された植物を選抜するためにカナマイシン ( 濃度20 mg / l )を含む培地で選抜した。
【0017】
対照実験として、上記pAtBI-1プラスミドのHind III- Xba IサイトにLTP 12 プロモーター断片(T. Ariizumi et al., Plant Cell Rep. 21, 90-96, 2002 )を挿入し、そのプラスミドのHind III-Sac I 断片をpBI101 のHind III-Sac I 断片と入れ替えてものをLTP12pro::AtBI-1とした。LTP12プロモーターは1細胞期から2細胞期のタペート組織で特異的に発現誘導する。
【0018】
【表1】


【0019】
タペート細胞特異的に発現誘導する2種類のプロモーターにAtBI-1を連結したバイナリーベクターをシロイヌナズナに遺伝子導入し、カナマイシン耐性を示した形質転換植物を選抜した。Osg6Bプロモーターは四分子期から2細胞期に発現誘導する。LTP12プロモーターは1細胞期から2細胞に発現誘導し、Osg6Bプロモーターよりも発現誘導時期が遅い。AtBI-1をOsg6Bプロモーターに連結して四分子期から発現誘導させた植物(Osg6B::AtBI-1)では、すべての個体が雄性不稔を示した。一方、AtBI-1をLTP12プロモーターに連結して一細胞期から発現誘導させた植物(LTP12::AtBI-1)では、雄性不稔を示さなかった。
【0020】
葯の切片を作製し、タペート細胞の細胞死と花粉の発育の様子を観察した。その結果、野生型のシロイヌナズナ(図2左)において、成熟期の葯ではタペート細胞が細胞死により消失しており、花粉が形成されている。一方、AtBI-1をOsg6Bプロモーターで発現誘導させた植物(Osg6B::AtBI-1, 図2右)では、肥大化したタペート細胞(T)が観察され、タペート細胞の細胞死が抑制されていることがわかる。花粉(Msp)は空胞化して不稔花粉となることが示された。
【0021】
Osg6B::AtBI-1を導入することによって得られた雄性不稔植物の葯の外観(図3右)を観察すると、葯の収縮・退化は起こらず、野生型のもの(図3左)と変わらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明に係る雄性不稔植物の製造により、花の外観が原品種(野生型)の植物と変わらない雄性不稔植物を作出することが可能となる。
【0023】
花を観賞する園芸植物に応用すれば、切り花として観賞価値を下げない雄性不稔植物を作出することに利用できる。花粉の飛散を防ぐことが可能になり、遺伝子組換え植物の花粉飛散防止は、花粉を介した組換えDNAの拡散を防ぐために利用できる。
【0024】
雄性不稔作物を作出し、効率の良い一代雑種品種(F1ハイブリッド)の育種に利用することができる。
【0025】
植物由来の遺伝子を用いているので、微生物や動物由来の遺伝子を用いて作出した雄性不稔植物よりパブリックアクセプタンスが得られやすいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】形質転換ベクター Osg6Bpro::AtBI-1の構造を模式的に示す図である。
【図2】葯の断面図 左;野生型 右;Osg6Bpro::AtBI-1を導入した形質転換体。
【図3】葯の外観図 左;野生型 右;Osg6Bpro::AtBI-1を導入した形質転換体。
【出願人】 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【出願日】 平成17年6月14日(2005.6.14)
【代理人】 【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男

【識別番号】100116757
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 英雄

【識別番号】100123216
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 祐一

【識別番号】100089336
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 佳直

【公開番号】 特開2006−345742(P2006−345742A)
【公開日】 平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願番号】 特願2005−174312(P2005−174312)