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【発明の名称】 低栄養条件下での果菜類作物の新規栽培方法
【発明者】 【氏名】浅尾 俊樹

【氏名】竹内 誠

【氏名】宮沢 由紀

【氏名】三輪 哲也

【要約】 【課題】環境に優しく、しかも簡便で安価な、収穫量減少を伴わない果菜類作物の減肥料栽培方法の提供。

【解決手段】慣行施肥量よりも施肥量を減らした条件下での果菜類作物の栽培方法であって、L−プロリンを併用することを特徴とする収穫量低下を抑制することのできる果菜類作物の新規栽培方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
慣行施肥量よりも施肥量を減らした条件下での果菜類作物の栽培方法であって、L−プロリンを併用することを特徴とする収穫量低下を抑制する果菜類作物の新規栽培方法。
【請求項2】
該果菜類作物がキュウリであることを特徴とする請求項1記載の果菜類作物の新規栽培方法。
【請求項3】
該L−プロリンの施用方法が葉面散布であることを特徴とする請求項1または2記載の果菜類作物の新規栽培方法。
【請求項4】
慣行施肥量よりも施肥量を減らした条件が慣行施肥量の9/10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の果菜類作物の新規栽培方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の栄養条件と比較して、普通であれば収穫量が低下してしまう様な低栄養条件下で栽培した場合でも、収穫量の低下を抑制することのできる果菜類作物の新規栽培方法に関する。より具体的には、果菜類作物を慣行施肥量(通常施肥量)よりも施肥量を減らした条件で栽培しても、その収穫量の減少を最小限に抑えることが可能な、果菜類作物の新規栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アミノ酸、特にL−プロリン(以下、プロリンと略す)を植物に施用した例はいくつか知られている。
【0003】
例えば、下掲特許文献1は、ウラシルおよびシトシンの少なくとも一種とプロリンとを含有する花芽形成促進剤を開示している。内容は、花芽形成に関するものであり、上記2種類の成分が必要であるとしている。なお、プロリンに関しては若干の花芽形成促進作用が知られているとして記載している。
【0004】
また、下掲特許文献2は、ヌクレオシド類又はヌクレオチド類の少なくとも1種とプロリンとを含有してなる着果並びに果実肥大促進剤を開示している。同文献にはプロリンの単独施用では無くこれをヌクレオシド類又はヌクレオチド類の少なくとも1種との併用が必要であると記載されている。
【0005】
さらにまた、下掲特許文献3は、アミノ酸発酵液からなることを特徴とする植物生育促進剤を開示している。果実重量増加に関し、若干のプロリン施用の効果を記載している。
【0006】
またさらに、下掲特許文献4は、純度が50%以上のプロリンの、プロリン換算濃度が15〜1,500ppmの水溶液であることを特徴とするプロリンを有効成分とする花芽形成促進剤、およびこのようなプロリン水溶液を使用することを特徴とする花芽形成促進方法を開示している。
【0007】
しかしながら、上に引用した従来技術も含め、これまでのプロリン施用に関する先行知見は、花芽形成促進又はその結果生じる子実や果実数の増加であったり、1個当たりの果実重量の増加、又は果実品質の改良に関する内容である。そして、これらの先行知見においては、施肥量についての言及がないところから、何れも慣行施肥量を前提に検討されていると考えられる。
【0008】
換言すれば、いずれの場合も、栽培時における異なる栄養条件下におけるプロリンの施用効果という観点からは検討されていない。即ち、本発明の趣旨とは全く異なるものである。
【特許文献1】特開昭46−042566号公報
【特許文献2】特開昭48−067051号公報
【特許文献3】特開平1−172310号公報
【特許文献4】特開2003−048803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
化学肥料、有機質肥料を問わず、肥料を農地に多量に施用する近年の栽培方法は、単一面積からの農業生産物の収穫量を劇的に増大させ、世界の食糧不足問題に大きな貢献をしてきた。
【0010】
しかし、その一方で、農地への過剰施肥による環境汚染問題を引起していることは、よく知られているところである。すなわち、農地に施用された肥料のうち、実際に農作物に吸収、利用されている肥料の割合は、通常10〜30%程度と言われている。農作物に吸収、利用されなかった肥料の一部は、いったんは土壌に留まるが、その後、地下水や河川に流れ込み地下水や河水、湖沼の汚染を引き起し、また一部はガス化し、NOxを始めとする大気汚染物質として土壌から大気中に放出されている。
【0011】
この様な農業生産に伴う環境汚染問題は、近年徐々に社会問題化し、農地への施肥量を減らした、環境負担の少ない減肥料栽培への転換の必要性が叫ばれている。しかしながら、単純に施肥量を減らしただけの栽培方法では、農作物の収穫量が低下してしまうため、減肥料栽培への転換がなかなか進まないのが実態である。
【0012】
このような問題を有する従来技術の背景下に、本発明は、環境に優しく、しかも簡便で安価な、収穫量減少を伴わない農作物、特に果菜類作物の減肥料栽培方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、前項記載の目的を達成すべく鋭意研究の結果、果菜類作物の栽培時にL−プロリンを少量併用することにより、肥料を慣行施肥量よりも減らした条件下で栽培しても、収穫量の低下を抑制することができることを見出し、このような知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、慣行施肥量よりも施肥量料を減らした条件下での果菜類作物の栽培方法であって、アミノ酸を併用することを特徴とする収穫量低下を抑制することのできる果菜類作物の新規栽培方法に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の対象とする果菜類作物には、キュウリ、メロン、マクワウリなどのウリ科植物、トマト、ナス、ピーマンなどのナス科植物等が含まれる。
【0017】
さて、作物別の慣行施肥量(通常施肥量)は、当業者(農家、水耕栽培業者など)であれば容易に知ることができる。例えば、日本国内では都道府県別に策定されている「作物別肥料施用基準」などを参照すれば良い。各都道府県の農家は、通常、当該都道府県の地域に適する施肥量としてこの基準に従って農作物を栽培している。
【0018】
本発明の果菜類作物の栽培方法における低栄養条件、換言すれば、減肥料栽培の条件としては、通常の慣行栽培条件の施肥量に比べ、10%以上、好ましくは20%以上施肥量を減らした場合、よりその効果が顕著であるといえる。この程度に減少した施肥量であっても、L−プロリンを併用することにより、慣行施肥量の場合に比べて農作物の収穫量は同等か若干劣るに過ぎないからである。
【0019】
本発明の栽培方法において、慣行肥料(通常肥料)に併用されるアミノ酸であるL−プロリンは必ずしも純度の高い精製品である必要は無い。例えば、L−プロリンを含むアミノ酸発酵液やその副生液、さらにはタンパク質の加水分解物や抽出物であっても良い。
また必要に応じて、微量元素や他の肥料成分、展着剤、農薬等と混合して用いても良い。
【0020】
本発明の栽培方法における果菜類作物へのL−プロリン施用方法は、当該果菜類作物の地上部でも地下部でも良いが、最も簡便な方法としては、L−プロリンを溶解している水溶液を地上部に葉面散布する方法である。L−プロリンの施用濃度、施用頻度等の条件は、対象果菜類作物の種類、栽培条件等により、当業者であれば容易に実施できる事前の予備試験により、適宜最適条件を設定することが可能である。
【0021】
具体的には、L−プロリンを施用する濃度は、例えば、0.1ppm以上2,000ppm以下、望ましくは5ppmから400ppm程度の範囲に調整することができる。
【0022】
L−プロリンの施用頻度は、植物の生育期間中に、例えば、週1、2回程度から月1回程度までが好ましい。L−プロリンの施用量は、葉面散布であれば上記濃度のL−プロリン水溶液で植物体の地上部が充分濡れ滴る程度で良い。
【実施例1】
【0023】
以下に、キュウリの水耕栽培試験結果を記載する。なお、実施例1の記載において、プロリンはL−プロリンを意味する。
【0024】
試験品種として「南極1号」を用意し、ガラス温室内で、ある年の8月15日にバーミキュライト単用の51穴セルトレイに播種した。本葉出葉期の8月22日に水耕栽培用の培養液として島根大学生産資源科学部で園芸試験場標準にもとづき、これを多少変更して作成した「園芸試験用均衡培養液」(以下、「園試処方」と略す)を1/2濃度に希釈した園試処方50%濃度液を50リットル入れた水耕栽培用コンテナに12株ずつ移植した。因みに、この園試処方の組成は、次の通りである。多量要素として、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2・4H2O) 950g、硝酸カリウム(KNO3) 810g、硫酸マグネシウム (MgSO4・7H2O) 500g、そして第一リン酸アンモニウム(NH4H2PO4) 155g、ならびに微量要素として、ホウ酸(H3BO3) 3g、硫酸亜鉛(ZnSO4・7H2O) 0.22g、硫酸マンガン(MnSO4・5H2O) 2g、硫酸銅(CuSO4・5H2O) 0.05g、モリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4・2H2O) 0.02g、そしてキレート鉄(NaFe-EDTA) 25gを秤取して合し、これに水を加えて全容1,000Lとしたものである。
【0025】
9月2日に上記培養液を50リットル入れたコンテナに3株ずつ定植し、各試験区ごとに3コンテナ、合計9株/試験区の規模で試験用キュウリを準備した。
【0026】
9月10日から、後掲表1に示す試験区を設定し、葉面散布を開始した。
【0027】
なお、通常のキュウリ水耕栽培で用いられる培養液濃度(慣行施肥量)は、園試処方75%濃度以上の液であり、本試験区で設定した園試処方50%濃度液は、その2/3以下の濃度である。即ち、通常栽培に用いられる慣行施肥量より1/3以上施肥量を削減した低栄養栽培条件である。
【0028】
また、葉面散布した尿素とプロリンの濃度は、散布溶液中の窒素濃度が同一となるように濃度調整した。葉面散布剤の散布頻度および散布量は、どの試験区も、それぞれ、週2回、各50ml/株とした。散布期間は、9月10日から試験終了時(11月11日)まで継続的に行なった。
【0029】
【表1】


【0030】
培養液の管理は、週1回全量交換し、それ以外にも必要に応じて、培養液のEC値(Electric Conductivity値)がほぼ一定となるよう適宜調整した。
【0031】
栽培は、主枝17節、1次側枝2節、2次側枝1節で摘心した。葉数は70枚/株とした。第1〜3節までの側枝及び本葉は順次取り除いた。
【0032】
なお、試験期間中(9月2日〜11月11日)の培養液のpHは、試験区による差は無く、また培養液のEC値は園試処方50%培養液で1.1〜1.5dS/m、園試処方75%培養液の場合で1.6〜2.3dS/mで推移した。
【0033】
調査項目としては、キュウリの栄養生長状態、すなわち、試験終了時の生育状態(主枝長、側枝長、地上部乾物重量、一葉重および根部乾物重量)、およびキュウリの生殖成長への影響、すなわち、開花雌花数、収穫果実数、平均1果実重、ならびに合計収穫果実重量とした。ここに、乾物重量は、当該植物体の部分を乾燥機を用いて60℃で一昼夜乾燥した後の重量である。
【0034】
先ず始めに、表2に栄養生長への影響、すなわち、生育状態の結果を示す。
【0035】
【表2】


【0036】
各試験区とも、摘心しているため、主枝長および側枝長には大きな差は無かった。
【0037】
しかし、乾物重(地上部+根)は、低栄養条件にした試験区2〜4のいずれもが試験区1と比較し低下した。特に、試験区2と試験区4では、施肥量が2/3となった影響で、低栄養状態となり、乾物重(地上部+根)は試験区1に比較し3割程度低下していた。
【0038】
尿素の葉面散布は、従来より植物の栄養生長を促進することが知られている。本試験でも、試験区3の乾物重量が試験区2および4に比較して相対的に高い値を示しているのは、その影響と思われる。興味深いのは、尿素と同じ窒素量のプロリンを葉面散布した試験区4(本発明)が、展着剤のみ散布の試験区2と変わらないか、むしろ多少低い値を示したことである。このことは、尿素とプロリンの葉面散布効果が異なることを示唆している。
【0039】
次に、表3に生殖生長への影響を示す。
【0040】
【表3】


【0041】
合計収穫果実重量を比較すると、低栄養栽培条件にした影響で、試験区2および3は試験区1に比較し、11〜12%減少している。一方で、低栄養栽培条件でありながらプロリンを散布した試験区4は、その約半分の6%の減少に留まっている。すなわち、僅か200ppmのプロリン溶液を週2回、50mlずつ葉面散布することで、施肥量を3割以上減らしても、プロリンを散布しなかった場合に比べ、収穫量の低下を約半分に抑えることが可能となった。このプロリンの効果が、単なる葉面からの窒素補給の効果で無いことは、同一窒素量を散布し続けた尿素散布試験区3の収穫量が試験区2同様に減少していることから明らかである。
【0042】
プロリン散布効果の収穫量への影響を詳細に解析すると、まず開花雌花数は、いずれの試験区とも大きな差は無かった。尿素を散布した試験区3では若干開花雌花数が増加する傾向があったが、プロリンを散布した試験区4では、開花雌花数はむしろ試験区2よりも少なかった。すなわち、本試験条件下では、プロリンの花芽形成促進効果は観察されておらず、従来知られている花芽形成促進によるプロリンの収穫量増加とは明らかに異なる。
【0043】
また、1果実重を比較するとプロリンを散布した試験区4(本発明)が試験区2と比較し、多少良い傾向があるものの、試験区間に大きな差は無く、プロリン散布による収穫量の増加が、1果実重量の増加だけによるものでない事は明らかである。この点も従来知られている知見とは異なる。
【0044】
最後に、収穫果実数をみると試験区2および3に比べプロリン散布試験区4(本発明)の値が良い事がわかる。開花雌花数の比較では、むしろ少ない値であったプロリン散布試験区4は、開花後の果実生長過程において、着果が良く良好な生育を示したものと考えられる。
【0045】
ちなみに、同時に試験した園試処方75%濃度、プロリン葉面散布の試験区5では、果実収穫数は、試験区1と比較した場合の比率が95%であり着果数が多くはなっていない。このことから、プロリン施用の効果は、単純に着果率を上げるのではなく、低施肥栽培条件になっても着果率の低下を抑え、且つその後の果実の生長を良好に保つことで収穫量の減少を抑える働きがあることを示している。
【0046】
このようなプロリン施用の効果は従来全く知られていない知見である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、環境に優しい、優れた果菜類作物の低肥量栽培方法が提供されるところとなった。

【出願人】 【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
【出願日】 平成17年1月13日(2005.1.13)
【代理人】 【識別番号】100064687
【弁理士】
【氏名又は名称】霜越 正夫

【識別番号】100102668
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 憲生

【公開番号】 特開2006−191848(P2006−191848A)
【公開日】 平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願番号】 特願2005−6251(P2005−6251)