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【発明の名称】 種子の処理方法
【発明者】 【氏名】西條 大紀
【住所又は居所】兵庫県姫路市土山6−5−12 アグリテクノ矢崎株式会社内

【要約】 【課題】農薬を用いず、取り扱いが容易で、薬剤残留の可能性や種子に対して悪影響がなく、かつ、効果的にカビの発生や腐敗を防止することができる種子の処理方法を提供する。

【解決手段】種子を中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウムを有する水溶液に接触させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
種子を、中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液に接触させることを特徴とする種子の処理方法。
【請求項2】
上記中性域がpH5〜7.5の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の種子の処理方法。
【請求項3】
上記種子がゲル被覆種子加工用種子であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の種子の処理方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、保管や被覆種子とした場合であってもカビの発生や腐敗を予防するための種子の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
花卉や野菜の植物種子は保管時等にカビが発生し、あるいは腐敗するなどの問題があった。このような問題を解決するためにベノミル・チウラム等の種子消毒用の農薬の利用が農薬取締法(非特許文献1)などによって知られていた。
【0003】
しかしながら、このような農薬を用いた場合、農薬自体に残留性があり、このような農薬を用いて消毒を行った場合、その種子のその後の発芽や成長などに悪影響を及ぼすことが多かった。
【0004】
さらに、農薬は人体への影響が懸念されるため、農薬の取り扱いや実際の消毒作業には細心の注意が必要であり、また、使用後に余った農薬の処理方法にも問題が生じやすかった。ここで、農薬自体は環境へ悪影響を有し、そのため使用の中止、あるいは、使用量を減らすなどの対策が求められるようになった。
【非特許文献1】農薬取締法(昭和23年7月1日法律第83号)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、農薬を用いず、取り扱いが容易で、薬剤残留の可能性や種子に対して悪影響がなく、かつ、効果的にカビの発生や腐敗を防止することができる種子の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の種子の処理方法は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、種子を、中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウムを有する水溶液に接触させることを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る種子の処理方法は、請求項1に記載の種子の処理方法において、上記中性域がpH5〜7.5の範囲であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に係る種子の処理方法は、請求項1または請求項2に記載の種子の処理方法において、上記種子がゲル被覆種子加工用種子であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の種子の処理方法によれば、ベノミル・チウラムなどの有機系の農薬を用いず、取り扱いや実施が容易で、薬剤残留の可能性や植物種子に対して悪影響がなく、かつ、効果的にカビの発生や腐敗を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の種子の処理方法は、植物種子に応用し、その後、必要に応じて乾燥させ、保管する場合に用いるが、種子の周囲に水性ゲルからなる被覆ゲル層を形成するゲル被覆種子技術にも応用することができる。ゲル被覆種子技術へ応用する場合、被覆ゲル層内部への細菌や真菌類などの持ち込みを防止することができるので、種子自体のカビの発生や腐敗を防止することができるのみならず、被覆ゲル層の腐敗やカビなどの障害の発生を防止することができるので、被覆ゲル種子の病気の発生が防止できるのは勿論、これら障害による被覆ゲル層の形状不良によって生じていた、機械播種ができなくなるなどの問題も同時に解決することができる。
【0011】
本発明では中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いることが必要である。ここで、有効塩素は細菌や真菌類に対して効果が高く、かつ、迅速である。さらに、次亜塩素酸ナトリウムは自然分解するため、長期残留のおそれがなく、また有機物と接触した場合には容易に分解するものとして用いられてきた。
【0012】
中でも中性次亜塩素カルシウムは農業用資材・農業用水浄化剤として市販されていたが、この中性次亜塩素カルシウムを種子の消毒に応用して用いられてきた。しかしながら、この中性次亜塩素カルシウムを用いた場合、その効果が充分でなく、特に種子周囲に水性ゲルからなる被覆ゲル層を配するゲル被覆種子の場合にはカビの発生率が高かったが、入手や取り扱い(直径2mm程度の錠剤)が容易であるために用いられてきた。
【0013】
本発明では中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使うことにより、その後の種子の成長に悪影響を及ぼすことなく、極めて短時間で、高い処理効果が得られる。
【0014】
中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、例えば、市販の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(通常は有効塩素濃度が5%)を、最終的な有効塩素濃度を想定して、必要な倍率に希釈し、その後、酸等を添加し中性域に調整して得ることができる。この際、通常は塩酸などの無機酸を用いるが、酢酸や木酢液等の酸性液を単独でまたは併用しても良い。
【0015】
ここで中性域、特にpHが5〜7.5の範囲となるようにして行うことが望ましい。pHが7.5より高いと有効塩素濃度を充分に高くすることができなくなったり、あるいは、有効塩素濃度にもよるが、短時間の浸漬処理では充分な効果が得られない場合がある。一方、pHが5より低いと有効塩素成分が分解して、使用できなくなったりする。
【0016】
有効塩素成分は上述のように放置すれば分解してしまうため、中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、特に有効塩素濃度が低いものの場合には通常、使用直前に作製する。しかし、有効塩素濃度が200ppm程度の中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液の場合は通常、3箇月程度は大きな濃度低下を来すことなく保管できる。
【0017】
なお、有効塩素濃度は、DPD法(ジエチル−p−フェニレンジアミン法)、o−トルイジン法(この方法は、人体・環境への問題があり、一般には使われなくなった)、電流法、もしくは、吸光光度法など一般的な方法を用いて測定することができ、簡便には、市販の測定キットを用いても測定できる。
【0018】
本発明で用いる中性域とした次亜塩素酸ナトリウム水溶液における有効塩素濃度としては7ppm以上14000ppm以下とすることが好ましい。7ppm未満であると処理の効果が得られない場合があり、14000ppm超であると、処理後の種子の発芽率や発育に影響を及ぼすおそれがある。さらに好ましい範囲としては100ppm以上3000ppmである。
【0019】
このように適当な濃度の、中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液に種子を接触させる。この際、中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液に浸漬させることが、本発明の効果を確実に得るために好ましいが、種子に対してこの水溶液を噴霧するなどの他の手段によって行っても良い。
【0020】
浸漬時間としては通常10秒以上30分以下である。長すぎても効果の向上は見られず、また、処理後の種子の発芽率や発育に影響を及ぼすおそれがある。また処理は通常、室温(15〜30℃)で行う。
【0021】
中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液に対する種子の処理量は、種子すべてが、中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液にむらなく接触できる範囲であれば特に制限はない。なお、処理の際、この水溶液中の有効塩素濃度は急激に低下するので、使用後の水溶液の排水処理はきわめて容易であり、適当に希釈したり、あるいは、COD成分を有する排水等に混合するなどの処理により完全無害化でき、あるいはそのままの状態でも無害であるので排水処理が事実上不要である。
【0022】
中性域とした次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いた処理の後の種子は必要に応じて乾燥させる。風乾でもよいし、また、種子に適した温度で加熱乾燥、あるいは、熱風乾燥などの方法が採用できる。
【0023】
このように処理を行った種子はそのまま播種しても、あるいは、適当な条件下で保存しても、あるいは、ペレット種子やゲル被覆種子に加工したのち播種あるいは冷蔵等の適当な条件で保存した後に播種することができる。
【0024】
ここで、ゲル被覆種子の製造方法について述べる。ゲル被覆種子は、種子に比べ大きな水性ゲルからなる被覆ゲル層内に種子が、1粒あるいは複数粒封入されており、そのため、精密な機械播種が可能であり、かつ、確実に発芽、生長させることができると云う優れた特徴を有している。
【0025】
このようなゲル被覆種子の被覆ゲル層を形成する水性ゲルとしてはアルギン酸ナトリウム、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、カルボキシメチルセルロース、ペクチン、ゼラチン、カラギーナン、ポリアクリル酸ナトリウム、及び、寒天などから選ばれる天然・合成ゲル形成性高分子の少なくとも1種類と水とによって形成されるものが挙げられる。なお、これらのうち、ゲル化のために金属イオンが併存することが必要なものがあり、それら金属イオンを供給する塩、アルカリなどを適宜添加する。さらに第三成分として各種防腐剤、肥料成分、成長促進剤等も適宜追加することができる。
【0026】
ゲル被覆層は例えば、細管先端に水性ゲル形成性高分子を有する水溶液の液滴を形成し、この液滴中に細管を用いて上記のように処理を行った種子1粒或いは複数粒を添加し、その後この液滴を凝固させる作用を有する金属イオンを含む溶液(凝固液)に滴下させることにより作製することができる。この際必要に応じ、液滴内に空気、酸素などの気体を封入することができる。
【0027】
このような、金属イオンと共に水性ゲルを形成する水溶液としては、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等の水溶液が挙げられる。また、これらを水性ゲルとして硬化させる金属イオンとしてはカルシウム、バリウム等の2価金属やアルミニウムが用いられていて、これらは植物物体への悪影響を防止するため通常、塩化物水溶液として用いられる。
【0028】
また、水性ゲル形成性水溶液としてカルボキシメチルセルロース水溶液、凝固液として硫酸カリウムアルミニウム(カリウムみょうばん)水溶液を用いることもできる。
【0029】
ここで、水性ゲルカプセルの水分率は90%以上となるようにすることが望ましい。水分率が90%未満であると、ゲルカプセルが固くなり植物の突出(芽や根がゲルカプセルの外に出てくること)を妨げることがある。
【0030】
このようなゲル被覆種子では水分が種子周囲にあるため、保存に際してはその種子が通常発芽しない、あるいは、発芽しにくい温度や光などの環境条件下で行う。しかし、発芽後であっても、被覆ゲル層から根や芽が出てくる(突出する)までは内容する種子の植物に悪影響を及ぼすことなく保存することができる。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の種子の処理方法の実施例について説明する。種子としてはデルフィニウム(2種類、それぞれ”デルフィニウム1”と”デルフィニウム2”と云う)、トルコギキョウ、シンテッポウユリの種子を用い、最終的に有効塩素濃度が所定の濃度となるように試薬1級の5%次亜塩素酸ナトリウム溶液を希釈し、希塩酸でpHを7±0.3の範囲となるように調整した中性域とした有効塩素を有する水溶液(有効塩素濃度はDPD法による測定値である。なお、測定不可能な高濃度領域に関しては蒸留水を用いて測定可能範囲に希釈して測定し、測定値と希釈倍率から換算した。以下同じ)を用いた。
【0032】
<本発明に係る処理:裸種子での検討>
上記のように作製した有効塩素が200ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液(室温)に表1に示す種子を5分間浸漬した(以下”A200処理”と略す)。
【0033】
その後、各種子を一旦通風乾燥した後、濡れたろ紙を敷いた直径12cmのシャーレに20粒ずつ、それぞれ間隔をあけて置き、計100粒ずつを発芽に適した条件(温度、光)下で発芽数が増加しなくなるまで放置した。(実施例1)。
【0034】
なお、比較のために、上記同様に、ただし、次亜塩素酸ナトリウム水溶液ではなく、ケミクロンG(日本曹達社製中性次亜塩素酸カルシウム(有効塩素70%)を溶解させて200倍(重量比)に調整した水溶液(有効塩素濃度3000ppm(実測値)pH10.8)としたものに10分間浸漬した種子(比較例1:”G処理”と略す)、及び、浸漬処理及び乾燥処理を行わない、即ち、浸漬処理前の種子(比較例2”無処理”)について、上記同様にして発芽させた。
【0035】
その後、カビ発生率と発芽率について調べた。ここで、カビ発生率は、発芽率が増加しなくなった時点で、種子及びその周囲のろ紙に糸状菌が発生していないかを目視で観察して数え、それを「カビ発生率」として判定した。発芽率は正常に発芽していたものの百分率である。なお、種子においてカビが生えたものは発芽しない、あるいは、正常な発芽ができないなどの障害が発生しているものが多かった。これら結果を表1に示す。
【0036】
【表1】


【0037】
<本発明に係る処理:ゲル被覆種子での検討>
上記同様にA200処理あるいはG処理を行った2種類のデルフィニウム種子、トルコギキョウ種子およびシンテッポウユリ、及び、無処理の種子を用いて、ゲル被覆種子(それぞれ、実施例1、比較例3及び比較例4)を作製した。
【0038】
それぞれ種子1粒をガラス管下端に形成された1.5重量%アルギン酸ナトリウム水溶液の液滴内にガラス管の管部を利用して導入し、その後その液滴を10重量%の塩化カルシウム水溶液に滴下し、水性ゲルカプセル内に上記種子が封入されたゲル被覆種子を形成した。このときゲルカプセルの大きさは直径5mmで、被覆ゲル層の水分率は98.5重量%であった。
【0039】
その後、各ゲル被覆種子を、直径12cmのシャーレに20粒ずつそれぞれ間隔をあけて置き、計100粒ずつをそれぞれの種子の発芽に適した条件(温度、光)下で発芽率が増加しなくなるまで放置し、そのときのカビの発生率及び発芽率について調べた。結果を表2に示す。
【0040】
【表2】


【0041】
表2より、裸種子に対して本発明に係るA200処理を行ったゲル被覆種子では、高い防カビ効果が得られ、発芽率も高い。かつ、A200処理の効果は、より有効塩素濃度が高い条件でのケミクロンGによるG処理よりも高いことが判る。なお、ゲル被覆種子においてカビが発生する箇所としては、ゲル被覆層と種子表面との間が多く、次いでゲル層表面であり、いずれの場合もカビの繁殖が進行すると被覆ゲル層の形状保持ができなくなり、ゲル被覆種子の特徴の一つである機械播種が困難となる。
【0042】
<本発明に係る処理:有効塩素濃度の影響>
中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液を調整する際、次亜塩素酸ナトリウムの添加量を変えて、有効塩素濃度が7〜140000ppmで9種類の中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて上記A200処理同様に、上記と同じトルコギキョウ種子に対して処理を行い、実施例1同様にそれら(裸種子)の発芽率およびカビ発生率を調べた。また、7〜3500ppmの範囲の処理液で処理した種子に対しては上記実施例2同様ゲル被覆種子を作製して、それらの発芽率及びカビ発生率も調べた。表3にそれら結果を示す。
【0043】
【表3】


【0044】
表3より使用処理液の有効塩素濃度が7ppm以上140000ppm以下の範囲で発芽率の低下は事実上見られず、またこの範囲でカビ発生率は(表2のG処理での3%と比較しても)極めて低く抑えることができることが判る。
【0045】
<本発明に係る処理:pHの影響>
種子を中性域に調整した次亜塩素酸ナトリウム水溶液としてpHを5とした、有効塩素濃度が200ppmの水溶液を用いて、実施例1同様にして発芽率、カビ発生率を調べたが、これら値は実施例1の場合と同じレベルであり、有意差は認められなかった。
【0046】
<従来の農薬による消毒との比較>
野菜や花卉の種子消毒で一般に用いられている有機系の農薬である市販のベノミル・チウラム(北興化学工業社製)を用い、水による20倍希釈液に種子を浸漬するB20処理、水による200倍希釈液に種子を浸漬するB200処理、及び、水による1000倍希釈液に浸漬するB1000処理、上記で使用したケミクロンGによるG処理、本発明に係るA200処理、及び、薬剤を含まない水に浸漬するブランク処理をそれぞれプリムラ種子に対して行った。その後の発芽率及びカビ発生率を上記同様に評価した。それら結果を表4に示す。
【0047】
【表4】


【0048】
表4より、本発明に係るA200処理に比べるとB20処理ではまったく発芽せず、B200処理では発芽率が低いにかかわらずカビ発生率が高く、B1000処理では発芽率はそれほど低くはないが、カビ発生率が非常に高いと云うことが判り、これら結果及びG処理、ブランク処理とを総合的に判断すると、本発明に係るA200処理が発芽率が高く、かつ、カビ発生率が低い、極めて優れた処理方法であることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の種子の処理方法によれば、農薬を用いず、取り扱いが容易で、薬剤残留の可能性や種子に対して悪影響がなく、かつ、効果的にカビの発生や腐敗を防止することができるので、種子の播種前の処理方法として好適に用いることができる。
【出願人】 【識別番号】597041747
【氏名又は名称】アグリテクノ矢崎株式会社
【住所又は居所】兵庫県姫路市土山6丁目5番12号
【出願日】 平成17年3月25日(2005.3.25)
【代理人】 【識別番号】100060690
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 秀雄

【識別番号】100097858
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 浩史

【識別番号】100108017
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 貞男

【識別番号】100075421
【弁理士】
【氏名又は名称】垣内 勇

【公開番号】 特開2006−262845(P2006−262845A)
【公開日】 平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願番号】 特願2005−88846(P2005−88846)