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【発明の名称】 作業機の傾斜制御装置
【発明者】 【氏名】石見 憲一
【住所又は居所】大阪府堺市石津北町64番地 株式会社クボタ堺製造所内

【氏名】吉川 浩司
【住所又は居所】大阪府堺市石津北町64番地 株式会社クボタ堺製造所内

【氏名】林 繁樹
【住所又は居所】大阪府堺市石津北町64番地 株式会社クボタ堺製造所内

【要約】 【課題】角度センサからの検出信号と角速度センサからの検出信号に基づい姿勢制御用の駆動機構を作動制御して、作業装置を所定の傾斜姿勢に安定維持させるよう構成した作業機の傾斜制御装置において、エンジン始動直後における角速度センサの零点値設定を好適に行うことができるようにする。

【解決手段】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角度センサからの検出信号と角速度センサからの検出信号に基づい姿勢制御用の駆動機構を作動制御して、作業装置を所定の傾斜姿勢に安定維持させるよう構成した作業機の傾斜制御装置において、
走行機体に搭載されたエンジンの起動時に、前記角速度センサからの検出信号を所定複数回に亘って取得し、取得した検出信号の全ての値が設定範囲内にあればこれら複数回の検出信号を平均処理して角速度センサの零点値に設定し、取得する複数回の検出信号に前記設定範囲から外れた値のものが含まれていると、予め記憶されている暫定零点値を角速度センサの零点値に設定する零点設定手段を備えてあることを特徴とする作業機の傾斜制御装置。
【請求項2】
前記零点設定手段によって零点値が設定された後、角速度センサからの検出信号を平均処理して零点値を取得し、零点値の書き替えが逐次実行されるよう構成してある請求項1記載の作業機の傾斜制御装置。
【請求項3】
記憶されている前記暫定零点値は、エンジンを停止操作した時点に設定されている零点値である請求項1または2記載の作業機の傾斜制御装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機、農用トラクタ、コンバインなどの作業機において左右方向の傾斜制御(ローリング制御)や前後方向の傾斜制御(ピッチング制御)などを行う場合に利用する傾斜制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記傾斜制御における傾斜角度の検出には重力式の角度センサや各種の角速度センサが利用される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
角速度センサは、急激な傾斜変化にも敏感に対応して検知作動するので、応答性の優れた傾斜制御を行うための角度検知手段として有用となるものであるが、温度の影響を受けて出力が変化する、いわゆる温度ドリフトがあるので、零点値を適時書き替え補正してゆく必要があり、その補正手段として、検出信号から低周波成分を抽出するとともに、抽出した低周波成分の微分係数を演算し、その微分係数が設定範囲内にある低周波成分を平均処理して零点値として書き替えてゆく手段が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−321135号公報
【特許文献2】特開2001−116586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記零点補正手段によると、作業中における零点値を精度よく逐次書き替え補正してゆくことができるものであるが、キーオンしてエンジンを始動した直後は角速度センサからの出力が安定しないので、キーオンしてから一定時間の経過後に検出信号の測定を許可することが望ましいとされている。
【0005】
しかし、作業機によってはエンジン始動後に設定時間が経過しても角速度センサからの出力が安定しないことがあり、作業開始時おける零点値の設定が適正でなくなるおそれがある。例えば、走行機体に作業装置を昇降およびローリング自在に連結した田植機や農用トラクタにおいて作業装置をローリング制御する場合、作業装置を地上に浮上させてエンジンをかけるので、エンジン始動に伴って発生した振動で作業装置がふらつくことがあり、作業装置に装着した角速度センサが不当に振動し続け、適正な零点値設定が行われなくなる。特に、苗植付け装置(作業装置)を適度に自由ローリング可能に連結した田植機では、苗植付け装置をローリングロックの利かない高さにしてエンジンを始動すると苗植付け装置が不規則に振動しやすくなり、零点値設定が一層難しくなる。
【0006】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、エンジン始動直後における角速度センサの零点値設定を好適に行うことができる作業機の傾斜制御装置を提供することを的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、角度センサからの検出信号と角速度センサからの検出信号に基づい姿勢制御用の駆動機構を作動制御して、作業装置を所定の傾斜姿勢に安定維持させるよう構成した作業機の傾斜制御装置において、
走行機体に搭載されたエンジンの起動時に、前記角速度センサからの検出信号を所定複数回に亘って取得し、取得した検出信号の全ての値が設定範囲内にあればこれら複数回の検出信号を平均処理して角速度センサの零点値に設定し、取得する複数回の検出信号に前記設定範囲から外れた値のものが含まれていると、予め記憶されている暫定零点値を角速度センサの零点値に設定する零点設定手段を備えてあることを特徴とする。
【0008】
上記構成によると、エンジン始動直後に角速度センサに不当な振動が加わることなく姿勢が安定している時には、所定複数回の検出信号の平均値が当初の零点値に設定され、角速度センサの姿勢が不安定な時には予め記憶されている暫定零点値が零点値に設定されることになり、不当に大きく外れた零点値が設定されてしまうことはない。
【0009】
従って、第1の発明によると、エンジン始動直後から良好な角度検出に基づく傾斜制御を行うことが可能となる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、
前記零点設定手段によって零点値が設定された後、角速度センサからの検出信号を平均処理して零点値を取得し、零点値の書き替えが逐次実行されるよう構成してあるものである。
【0011】
上記構成によると、エンジン始動時に暫定零点値が設定されても、作業の進行に伴って平均処理によって取得された零点値が逐次書き替えられることになり、温度ドリフトを補正した適正な零点値設定のもとでの角度検出が行われ、制御精度の維持が図られる。
【0012】
第3の発明は、上記第1または2の発明において、
記憶されている前記暫定零点値は、エンジンを停止操作した時点に設定されている零点値である。
【0013】
上記構成によると、作業が中断されて再開されたような場合、キーオフした時点とキーオンした時点での温度条件が特に大きく変わらない限り、作業再開当初の零点値は適正値に近いものであり、支障なく傾斜制御が再開される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に、本発明に係る作業機の一例として施肥装置付きの乗用型田植機が示されている。この乗用型田植機は、機体前部にエンジン8が搭載されるとともに4輪駆動で走行可能に構成された走行機体1の後部に、平行四連リンク構造のリンク機構2を介して8条植え仕様の苗植付け装置(作業装置)3が昇降自在に連結され、機体後部に施肥装置4が装備されるとともに機体前部の左右に予備苗のせ台5を備えた構造となっており、前記リンク機構2を油圧シリンダ6で上下に駆動揺動することで苗植付け装置3を昇降制御することができるようになっている。また、苗植付け装置3は、リンク機構2の後端下部に前後方向支点P周りにローリング自在に連結されるとともに、リンク機構2の後端上部に備えた駆動機構7によって苗植付け装置3をローリング制御するようになっている。
【0015】
図1、2に示すように、前記苗植付け装置3は、横向き角筒状の植付けフレーム11、走行機体1から取り出された作業用動力を受けるフィードケース12、一定ストロークで左右に往復横移動する苗のせ台13、回転式の植付け機構14、および、後部左右に2条分づつの植付け機構14を備えて植付けフレーム11に並列連結された4個の植付けケース15、田面の植付け箇所を均平整地する5個の整地フロート16、等を備えている。なお、詳細な構造は省略するが、並列配備された整地フロート16群のうちの中央のものは、苗植付け装置3の田面に対する高さを検知する接地センサSFとして利用されており、この接地センサSFの上下揺動変位が電気的に検知され、その検知情報に基づいて前記油圧シリンダ6の制御弁を作動制御することで、苗植付け装置3の対地高さを一定に維持して植付け深さを安定維持する自動植付け深さ制御が実行されるようになっている。
【0016】
図3に示すように、ローリング用の前記駆動機構7は、リンク機構2の後端上部に連結したブラケット8に前後向き支点Q周りに左右揺動可能な駆動アーム21と、これをギヤ減速機構9介して揺動駆動する電動モータ(電動アクチュエータ)22とから構成されており、図2に示すように、苗のせ台13を横移動可能に苗のせ面背部から支持するよう前記植付けフレーム11から立設された苗のせ台支持枠23の上部左右箇所と前記駆動アーム21の遊端とがバネ24を介して連結されている。つまり、苗植付け装置3は駆動アーム21に対して弾性融通をもって所定小範囲で自由ローリング可能に支持されており、苗植付け装置3が整地フロート16を介して接地している状態では、走行機体1が多少左右傾斜しても苗植付け装置3は田面に接地追従するようになっている。
【0017】
そして、前記駆動機構7の電動モータ22は、苗植付け装置3に装備された後述する傾斜角検出手段からの検出情報に基づいて作動制御され、走行機体1が耕盤の凹凸等によって左右に傾斜して苗植付け装置3が傾斜しかかっても、その傾斜を復元させる方向に苗植付け装置3がローリング制御されて、常に設定傾斜角(一般に水平)に安定維持され、もって、左右の各植付け部位での植付け深さに差異の少ない植付けが行われるようになっている。
【0018】
また、リンク機構2の後端上部に連結した前記ブラケット8と苗のせ台13の背面における左右箇所とに亘ってローリング復帰用バネ25が張設されており、苗のせ台13の往復横移動によって移動方向側のローリング復帰用バネ25が伸ばされることで、苗のせ台13の横移動に伴うローリング支点P周りの重量バランスの崩れを是正する方向の回動力がローリング復帰用バネ25によってもたらされるようになっている。
【0019】
前記傾斜角検出手段には、苗植付け装置3の左右方向の傾斜角度を検知する重力式の角度センサ27と、苗植付け装置3における左右方向の角速度を検知する振動ジャイロ型の角速度センサ28とが備えられており、両センサ27,28からの検出信号に基づいて苗植付け装置3をローリング制御するための検出傾斜角度θが以下のようにして算出されるものであり、その演算およびローリング制御を行うブロック図が図4に示されている。
【0020】
つまり、前記傾斜センサ27からの検出信号(θg)は、ローパスフィルタ29に通されてその低周波成分だけが取得され、また、角速度センサ28からの検出信号(dθj/dt)は、ローカットフィルタ30を通されたのち積分処理されて傾斜角が算出され、この演算値が更にローカットフィルタ31に通されてその高周波成分だけが取得され、次に、角度センサ27からの検出信号(θg)に基づいて取得された低周波成分の傾斜角度(θ1)と、角速度センサ28からの検出信号に基づいて取得された高周波成分の傾斜角度(θ2)とが加算されて、この値が検出傾斜角度(θ)とされる。
【0021】
なお、傾斜センサ27からの検出信号(θg)はセンサ自体に備えられた平滑特性によって傾斜角信号の高周波成分の一部が外乱とともに除去されているので、この除去された高周波成分を補うために傾斜センサ27の特性に対応した特性のローカットフィルタ30が導入されている。また、ローパスフィルタ29で除去された高周波成分を補うようにローカットフィルタ31の特性が設定される。
【0022】
つまり、苗植付け装置3が急速に傾斜すると、角度センサ27からの検出信号(θg)には振動等による外乱が含まれるとともに、慣性の影響で逆方向の信号が出力されることがあるので、これらを含む高周波成分を除去した値が基本的な傾斜角度(θ1)として取得される。そして、傾斜角変動の除去された高周波成分を補うために、角速度センサ28からの検出信号(dθj/dt)に基づいて演算取得された高周波成分の傾斜角度(θ2)が加算され、全体として優れた応答性および高い精度で検出傾斜角度(θ)が算出されるのである。
【0023】
上記のようにして算出された検出傾斜角度(θ)は、傾斜角度設定器32によって設定された目標傾斜角度(θ0)と比較演算され、両者の偏差(|θ0-θ|)が予め入力設定されている不感帯(ε)より大きいと、その偏差が不感帯内に収まる方向に電動モータ22が通電制御されることで、苗植付け装置3が目標傾斜角度(θ0)に安定維持されるのである。
【0024】
なお、乗用型田植機においては、ほとんどの植付け田面が水平であるので、前記目標傾斜角度(θ0)を水平に設定することで、苗植付け装置3を田面と平行な水平姿勢に維持して全条での植付け深さを均一にすることができるが、畦際において田面が左右に傾斜しているような水田における畦際での植付け作業においては、傾斜角度設定器32を調節して目標傾斜角度(θ0)を田面の傾斜に合わせて調整することで、傾斜した田面と平行な植付けを行って植付け深さを均一化を図ることができるものとなる。
【0025】
また、前記角速度センサ28は、時間経過とともに誤差が累積するとともに、温度の影響を受けて出力が変化する温度ドリフトがあるので、精度の高い検出を行うためには零点値を適時書き替えてゆく必要がある。苗植付け装置3の左右傾斜は長い距離を走行する間には水平に戻されるので、この間に角速度センサ28から取得した検出信号を平均した値が水平時の基準出力値、つまり、零点値とみなすことができ、例えば、往復植え作業において畦際で走行機体1を方向転換するたびに、一行程の植付け走行の間に平均処理して得られた零点値に逐次書き替えを行うことで、累積誤差や温度ドリフトの影響を抑制した角速度を精度良く検知することができるのである。
【0026】
また、エンジン8を始動した際における最初の零点値の設定は以下のようにして行われる。つまり、図5のフロー図に示すように、エンジン8が始動されると、角速度センサ28からの検知信号が予め設定されている零点値を含む所定の範囲内にあるか否かが判断され(♯01〜♯02)、所定の範囲内の検出信号が複数回続けてあったことが判断されると(♯03)、この複数回の検出信号が平均処理され(♯04)、この値が当初の零点値として設定される(♯06)。
【0027】
また、エンジン8の始動時に、空中に持ち上がられている苗植付け装置3がふらついたりすると、上記平均処理が行われるまでに所定の範囲から外れた検出信号が発生することになり、このような場合には、予め記憶された暫定零点値を当初の零点値として設定することになる(♯02,♯05,♯06)。
【0028】
そして、このようにして当初の零点値が設定された状態でローリング制御が行われると、その間の角速度検知を平均処理して上記した零点値の書き替えが逐次実行される(♯06)。
【0029】
そして、キーオフしてエンジン8が停止されると(♯07)、その時点に設定されている零点値が前記暫定零点値として不揮発性メモリに書込み記憶される(♯08)。
【0030】
〔他の実施例〕
【0031】
(1)上記実施例では、角度センサ27および角速度センサ28をローリング制御対象である苗植付け装置3に装備して、両センサ27,28からの検出情報に基づいて算出された傾斜角(θ)が目標傾斜角(θ0)に復帰するようにフィードバック制御する場合を例示しているが、角度センサ27および角速度センサ28を走行機体1に装備して、両センサ27,28からの検出情報に基づいて走行機体1の左右傾斜角を算出するとともに、前記駆動アーム21の作動位置をポテンショメータなどで検出可能にし、算出された走行機体1の傾斜角に基づいて苗植付け装置3を水平姿勢に復帰させるに要する駆動アーム21の目標作動位置を演算し、この目標作動位置に近づくように駆動アーム21を作動制御するフィードフォワード制御を行うこともできる。
【0032】
(2)上記実施例では、走行機体1にローリング自在に連結された作業装置(苗植付け装置)3のローリング制御に本発明を利用する場合を例示したが、作業装置3を前後方向に傾斜姿勢変更可能に構成した作業機では、作業装置3の前後方向傾斜姿勢を安定維持するピッチング制御に利用することもできる。また、コンバインのように搭載脱穀装置の左右傾斜姿勢および前後傾斜姿勢を水平に維持することが望ましい作業機においては、本発明方法を走行機体1自体のローリング制御やピッチング制御に応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】乗用型田植機の全体側面図
【図2】苗植付け装置の背面図
【図3】ローリング用駆動機構の縦断側面図
【図4】ローリング制御系のブロック図
【図5】零点設定制御のフロー図
【符号の説明】
【0034】
1 走行機体
3 作業装置
7 駆動機構
27 角度センサ
28 角速度センサ
【出願人】 【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
【住所又は居所】大阪府大阪市浪速区敷津東一丁目2番47号
【出願日】 平成17年3月24日(2005.3.24)
【代理人】 【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎

【公開番号】 特開2006−262802(P2006−262802A)
【公開日】 平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願番号】 特願2005−86656(P2005−86656)