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【発明の名称】 電磁波吸収体
【発明者】 【氏名】川崎 卓
【住所又は居所】東京都町田市旭町三丁目5番1号 電気化学工業株式会社中央研究所内

【氏名】岡田 拓也
【住所又は居所】東京都町田市旭町三丁目5番1号 電気化学工業株式会社中央研究所内

【氏名】檜山 茂雄
【住所又は居所】東京都町田市旭町三丁目5番1号 電気化学工業株式会社中央研究所内

【要約】 【課題】優れた電磁波吸収特性を有する電磁波吸収体を提供する。

【解決手段】電気伝導度が5×10−6(S/cm)以上の炭化ホウ素粉末と、DBP(フタル酸ジブチル)吸収量が50〜300(cm/100g)でありかつ電気伝導度が5(S/cm)以上のカーボン粉末とからなることを特徴とする電磁波吸収体であり、好ましくは、前記炭化ホウ素粉末と前記カーボン粉末との合計量が10〜70体積%含有し残部がマトリックス材料からなる電磁波吸収体であって、前記炭化ホウ素粉末が5〜60体積%であり、前記カーボン粉末が1〜20体積%含まれることを特徴とする前記の電磁波吸収体で、自動料金収受システム(ETC)、車載レーダー装置、情報家電用の電磁波吸収体として好適である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気伝導度が5×10−6(S/cm)以上の炭化ホウ素粉末と、DBP(フタル酸ジブチル)吸収量が50〜300(cm/100g)でありかつ電気伝導度が5(S/cm)以上のカーボン粉末とからなることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
相対密度が10〜70%であることを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記炭化ホウ素粉末と前記カーボン粉末との合計量が10〜70体積%含有し残部がマトリックス材料からなる電磁波吸収体であって、前記炭化ホウ素粉末が5〜60体積%であり、前記カーボン粉末が1〜20体積%含まれることを特徴とする請求項1記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記マトリックス材料が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項3記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
周波数1〜110GHzの電磁波を入射角度0°〜55°の範囲で入射した場合において、自由空間法で測定した反射減衰率の最大値が15デシベル以上であり、しかも反射減衰率が最大となる周波数(整合周波数)の入射角度に対する変動が平均値に対して±5%以内であることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
周波数1〜110GHzの直線偏波からなる電磁波を、電界の方向が電磁波吸収体に含まれる炭化ホウ素粉末粒子の列理方向に一致するように入射した場合と、直交するように入射した場合において、自由空間法で測定した反射減衰率の最大値(デシベル値)の差が平均値に対して±10%以下であり、かつ反射減衰率が最大となる周波数(整合周波数)の差が平均値に対して±5%以下であることを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3又は請求項4記載の電磁波吸収体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項に記載の電磁波吸収体を含んでなることを特徴とする自動料金収受システム(ETC)用の電磁波吸収体。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載の電磁波吸収体を含んでなることを特徴とする車載レーダー装置用の電磁波吸収体。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか1項に記載の電磁波吸収体を含んでなることを特徴とする情報家電用の電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収特性に優れる、特に1〜110GHzの高周波の吸収特性に優れる電磁波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体、エレクトロニクスの分野において、コンピューターや民生用電子機器、さらには携帯電話等のいわゆる情報家電に使用される電磁波の高周波化が顕著に進展し、1秒間に10億回以上振動するギガヘルツ(GHz)帯域の電磁波も頻繁に使用されるようになってきた。
【0003】
また、道路交通の利便性や安全性を増進するために、高度道路交通システム(ITS)と総称される、GHz帯域の電磁波を用いた高速道路における自動料金収受システム(ETC)や車載レーダー装置を用いた安全運転支援システムが開発されている。
【0004】
これらの用途で用いられる高周波は、高出力・高密度の信号搬送を可能にする反面、ノイズとして他の機器に取り込まれると、情報漏洩、誤動作その他各種の電波障害を引き起こす懸念がある。
【0005】
この対策として、電子機器や通信機器が外部から侵入する電磁波に干渉されないように、或いはこれらの機器が発生する電磁波が過剰に外部に漏洩しないように、電磁波シールド材や、電磁波吸収体が用いられる。とりわけ電磁波吸収体は、入射してきた電磁波を熱エネルギーに変換して、透過或いは反射する電磁波の強度を大幅に減衰させるものである。
【0006】
電磁波吸収体の材料として、従来は主にフェライトやカーボンが使用されている。これらの材料は、粉末状として樹脂、ゴム或いは塗料等のマトリックス材料中に分散、複合化した状態とし、電磁波を吸収したい部位に貼付または塗布する形態で用いられることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、フェライトは比重が大きいため、マトリックス材料中に分散する際に、マトリックス材料との比重差によって沈降が生じやすく、均一な複合材料の成形性に難があるし、できあがった複合材料が重いため、移動を伴うノート型パーソナルコンピュータや民生用電子機器、通信機器等や、自動車に多量に使用する場合、本体が重くなり機動性に問題が生じる。
【0008】
一方カーボンは、比重が比較的小さいので、フェライトに見られるような前記の問題は生じないが、粉末が嵩高いためにマトリックスへの充填量を増大させること困難であり、複合材料の電磁波吸収特性が不充分になってしまう。これを避けるためカーボンとしては充填性が比較的良好な結晶質のグラファイトが使用されることがあるが、グラファイト粒子は異方性が大きいうえにマトリックス内で配向しやすいため、やはり複合材料の電磁波吸収性能が損なわれてしまう。
【0009】
またフェライトやカーボンはMHz帯域や1〜数GHz帯域の電磁波を吸収するには適するが、特にETCや車載レーダーで適用が検討されている、5.8〜76GHz等の高周波帯域の電磁波は、充分吸収できないという問題を有する。
【0010】
上記以外の材料として炭化珪素や炭化ホウ素が電磁波吸収特性を有することが知られている。この性質を利用した炭化珪素や炭化ホウ素のマイクロ波発熱体が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−106980号公報。
【0011】
炭化珪素はフェライトと比較すると比重が小さく、粉末もさほど嵩高くないため充填性も良好であり、しかも異方性が小さいため、フェライトやカーボンに見られる前記の問題は有していない。しかし、炭化珪素は、囲繞する断熱体の構造や使用するマイクロ波の波長、出力等により、発熱量がコントロールできるマイクロ波発熱体として使用可能であったが、限られた空間内で電磁波を効率的に吸収することが要求される電磁波吸収体としては、性能が不充分であった。
【0012】
炭化ホウ素は、炭化珪素よりも更に比重が小さく、充填性も良好であり、しかも異方性が小さいので、電磁波吸収体として一層好ましい材料ではある。しかし、特に高度道路交通システム(ITS)のように、電磁波の発信又は受信が自動車等の移動体でなされる場合においては、電磁波吸収体に入射する不要電磁波の入射角度が一定ではないために、種々の入射角度の電磁波を網羅的に吸収する性能、すなわち良好な斜入射特性が要求されるし、また、ITS等においては特定の周波数の電磁波が用いられることが多いので、この特定周波数の電磁波を、入射角度に関わらず良好に吸収する性能も要求されるのであるが、これらの性能を充分満足できるものではない。
【0013】
本発明は、従来の電磁波吸収体が有する前記の諸問題を解決し、優れた電磁波吸収特性を有する新規な電磁波吸収体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明は、電気伝導度が5×10−6(S/cm)以上の炭化ホウ素粉末と、DBP(フタル酸ジブチル)吸収量が50〜300(cm/100g)でありかつ電気伝導度が5(S/cm)以上のカーボン粉末とからなることを特徴とする電磁波吸収体である。
【0015】
本発明は、相対密度が10〜70%であることを特徴とする前記の電磁波吸収体であり、好ましくは、前記炭化ホウ素粉末と前記カーボン粉末との合計量が10〜70体積%含有し残部がマトリックス材料からなる電磁波吸収体であって、前記炭化ホウ素粉末が5〜60体積%であり、前記カーボン粉末が1〜20体積%含まれることを特徴とする前記の電磁波吸収体であり、更に好ましくは、前記マトリックス材料が熱可塑性樹脂であることを特徴とする前記の電磁波吸収体である。
【0016】
また、本発明は、周波数1〜110GHzの電磁波を入射角度0°〜55°の範囲で入射した場合において、自由空間法で測定した反射減衰率の最大値が15デシベル以上であり、しかも反射減衰率が最大となる周波数(整合周波数)の入射角度に対する変動が平均値に対して±5%以内であることを特徴とする前記の電磁波吸収体であり、また、周波数1〜110GHzの直線偏波からなる電磁波を、電界の方向が電磁波吸収体に含まれる炭化ホウ素粉末粒子の列理方向に一致するように入射した場合と、直交するように入射した場合において、自由空間法で測定した反射減衰率の最大値(デシベル値)の差が平均値に対して±10%以下であり、かつ反射減衰率が最大となる周波数(整合周波数)の差が平均値に対して±5%以下であることを特徴とする前記の電磁波吸収体である。
【0017】
更に、本発明は、前記の電磁波吸収体を含んでなることを特徴とする自動料金収受システム(ETC)用の電磁波吸収体であり、車載レーダー装置用の電磁波吸収体であり、情報家電用の電磁波吸収体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電磁波吸収体は、特定の電気伝導度を有する炭化ホウ素粉末と、特定のDBP吸収量と電気伝導度とを有するカーボン粉末とを含むことで、電磁波吸収特性、特に1〜100GHzの周波数帯域の電磁波吸収特性に優れる特徴がある。
【0019】
本発明の電磁波吸収体は、前記電磁波吸収体を空間的に特定な充填率となるように特定しているので、表面に対して垂直に入射した電磁波だけでなく斜めに入射した電磁波も安定して吸収することが可能であり、しかも電磁波の種類が直線偏波、円偏波の別を問わず吸収できるし、更に、炭化ホウ素粉末粒子の長軸方向が特定方向に配列する列理現象が生じてもカーボン粉末の効果によって、その影響が電磁波吸収特性に及ばないので、安定した性能が得られるという特徴がある。
【0020】
本発明の電磁波吸収体は、前記特性の電磁波吸収体を、マトリックス材料との複合化することで達成しているので、安定して前記電磁波特性を達成出来るし、用途に応じた形態として提供出来る特徴がある。特に、マトリックス材料として、熱可塑性樹脂を選択するとき、熱可塑性樹脂に利用されている成形、加工方法をそのまま適用することができるので、品質の安定した電磁波吸収体を大量に、従って安価に産業規模で提供出来る特徴がある。
【0021】
本発明の電磁波吸収体は、その好ましい実施態様に於いて、周波数1〜110GHzの電磁波を入射角度0°〜55°の範囲で入射した場合において、自由空間法で測定した反射減衰率の最大値が15デシベル以上であり、しかも反射減衰率が最大となる周波数(整合周波数)の入射角度に対する変動が平均値に対して±5%以内であるという特性を有する。
【0022】
また、他の好ましい実施態様に於いては、周波数1〜110GHzの直線偏波からなる電磁波を、電界の方向が電磁波吸収体に含まれる炭化ホウ素粉末粒子の列理方向に一致するように入射した場合と、直交するように入射した場合において、自由空間法で測定した反射減衰率の最大値(デシベル値)の差が平均値に対して±10%以下であり、かつ反射減衰率が最大となる周波数(整合周波数)の差が平均値に対して±5%以下であるという特性を有する。
【0023】
本発明の電磁波吸収体は、優れた電磁波吸収特性を有しているので、自動料金収受システム(ETC)用の電磁波吸収体として、車載レーダー装置用の電磁波吸収体として、又は情報家電の電磁波吸収体(或いは電磁波抑制体とも言う)として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明者は、前記した通りに、公知技術の問題を解決するべくいろいろ検討した結果、特定の炭化ホウ素粉末と、特定のカーボン粉末とを適宜組み合わせることにより、周波数1〜110GHzのような高周波帯域で優れた電磁波吸収体が得られるという知見を得て、本発明に至ったものである。
【0025】
まず、本発明は、電気伝導度が5×10−6(S/cm)以上の炭化ホウ素粉末と、DBP吸収量が50〜300(cm/100g)であり、電気伝導度が5(S/cm)以上のカーボン粉末とを含んでなる電磁波吸収体である。本発明品が優れた電磁波吸収特性を発揮できることの原因については、明らかではないが、本発明者は以下のように推定している。
【0026】
電磁波吸収特性には、材料の有する電気伝導性、誘電的性質或いは磁気的性質が関与するとされているが、電気伝導度が5×10−6(S/cm)以上の炭化ホウ素粉末とDBP吸収量が50〜300(cm/100g)であり、電気伝導度が5(S/cm)以上のカーボン粉末とが複合された場合、前記の特定範囲の電気伝導度と、これらの材料同士が混合された際に生じる誘電的性質とが相俟って、電磁波吸収に好適な性質が発現すると考えられる。
【0027】
また、炭化ホウ素粉末を単独で用いて、これを成形した際には、炭化ホウ素粉末粒子の長軸方向が成形物の特定方向に揃う、いわゆる列理現象が生じてしまい、これが成形体の電磁波吸収特性に及ぼすという現象があるが、炭化ホウ素粉末にカーボン粉末を混合することによって、炭化ホウ素粉末粒子同士の間に特定のカーボン粒子が介在することにより、前記現象の発生するのを防止でき、その結果、斜入射特性の変動等も少なくて安定な電磁波吸収特性が得られる。
【0028】
本発明に用いる炭化ホウ素粉末は、電気伝導度が5×10−6(S/cm)以上である。電気伝導度が5×10−6(S/cm)未満の炭化ホウ素粉末粉末を用いた場合には、電磁波吸収特性が不充分で、斜入射特性が変動しやすくなるので、本発明の目的を達成出来ないからである。
【0029】
また、本発明に用いる炭化ホウ素粉末は、炭化ホウ素塊を合成した後これを粉砕、篩い分けすることによって製造することができる。炭化ホウ素塊を合成する具体的な方法としては、例えばホウ酸等のホウ素分と石油コークス等の炭素分とを混合した原料を、アーク炉、抵抗加熱炉、高周波加熱炉等を用いて2200℃程度の高温まで加熱して、下記の反応を生じさせる方法が代表的である。
4HBO+7C → BC+6CO+6H
【0030】
更に、前記以外の方法として、三塩化ホウ素(BCl)を炭素の存在下、水素(H)で還元する方法や、BClとメタン(CH)等の炭化水素をH存在下で反応させるなどの方法が公知であるが、本発明に於いてはいずれの製法によるものであっても構わない。
【0031】
また、炭化ホウ素粉末に関して、ホウ素の炭素に対するモル比については、4、6.5、8、10又は25が公知である、本発明に於いては、前記特定の電気伝導性を有する限り、いずれモル比のものであっても構わない。
【0032】
加えて、炭化ホウ素粉末を構成する粒子の粒度については、0.1μm以上250μm以下、好ましくは0.1μm以上45μm以下である。
【0033】
尚、炭化ホウ素粉末の電気伝導度については、以下の方法で測定したものである。即ち、直径16mm、厚さ3mmのステンレス製円板を、内径16mm、外径24mmの樹脂(ポリアセタール)製円筒にはめ込み、その上に炭化ホウ素粉末1.0〜1.5gと、もう1枚の直径16mm、厚さ3mmのステンレス製円板を載せる。上下のステンレス円板の外側に銅箔を敷いた後、油圧プレスを用いて14.7MPaの圧力を加えて炭化ホウ素粉末を圧縮する。加圧したままデジタルマルチメーターで上下の銅箔間の抵抗値を計測し、加圧開始1分後の抵抗値と、加圧時の炭化ホウ素粉末の充填高さ及び樹脂円筒内径寸法から、炭化ホウ素粉末の比抵抗(Ω・cm)を算出し、逆数を電気伝導度(S/cm)とする。
【0034】
次に、本発明に用いるカーボン粉末は、電気伝導度が5(S/cm)以上である。本発明者の検討結果に拠れば、電気伝導度が5(S/cm)未満のカーボン粉末を用いた場合には、電磁波吸収特性が不充分で、斜入射特性が変動しやすくなり、本発明の目的を達成出来ないからである。
【0035】
本発明に用いるカーボン粉末は、市販のカーボンブラック等の中で本発明所定の電気伝導度とDBP吸収量を満足するものを用いても良いし、文献に開示された方法で製造して用いても良い(特許文献2参照)。
【特許文献2】特開2000−281933公報。
【0036】
本発明に用いるカーボン粉末の電気伝導度については、JIS K 1469:2003の、電気抵抗率測定方法に基づく。即ち、絶縁性の円筒容器に所定量のカーボン粉末を充填し、ばね式フォースゲージにて所定の荷重を充填層に加えた際の、充填層の断面積、充填高さ及び抵抗値から、電気抵抗率(Ω・cm)を算出し、逆数を電気伝導度(S/cm)とする。
【0037】
また、本発明に用いるカーボン粉末は、DBP(フタル酸ジブチル)吸収量が50〜300(cm/100g)である。DBP吸収量が50未満又は300を超える場合は、何れも電磁波吸収特性が不充分で、斜入射特性が変動しやすくなり、本発明の目的を達成出来なくなる。
【0038】
ここで、カーボン粉末のDBP吸収量とは、所定条件において一定量(100g)のカーボン粉末が、有機溶媒であるフタル酸ジブチル(DBP)を吸収する量を体積(cm)で表した数値であり、カーボン粉末のストラクチャーに対応した特性値である。
【0039】
ストラクチャーとは、カーボンの基本粒子同士が融着し、連鎖状ないしは不規則な鎖状に枝分かれした一次凝集形態のことを示す。ストラクチャー発達程度の大小が、カーボンを他材料に配合した際の、導電性、補強性、成形性、粘度或いは分散性等に大きな影響を与える。DBP吸収量はストラクチャー発達程度と正の相関を有し、DBP吸収量が多い程、ストラクチャーの発達程度が高い。DBP吸収量は、JISK 6217−4:2001の方法によって測定される。
【0040】
本発明の電磁波吸収体は、前記炭化ホウ素粉末に前記カーボン粉末を混合することで得られる混合粉末のままに実用に供することもできるが、実使用への便宜を考慮して、圧粉体もしくは仮焼体等の単独の成形物、又は樹脂、ゴム或いは塗料等のマトリックス材料中に分散、複合化した複合材料として用いることができる。
【0041】
この場合、前記混合粉末、圧粉体もしくは仮焼体等の単独の成形物においては相対密度が10〜70%、樹脂、ゴム或いは塗料等のマトリックス材料中に分散、複合化した複合材料においては10〜70体積%とすることが好ましい。10体積%未満では、電磁波吸収特性が不十分となって実用面で制限されることが多いからであり、70体積%を越える場合には成形体、複合材料を容易に、多量に、安定して得ることが容易でなくなるからである。尚、前記相対密度とは、混合粉末、圧粉体もしくは仮焼体等のかさ密度を、混合粉末を用いて気孔を有しない緻密成形体を形成した場合の密度(すなわち理論密度)によって除した値である。
【0042】
マトリックス材料として使用可能な材料は、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリピラゾール、ポリキノキサリン、ポリキナゾリンジオン、ポリベンズオキサジノン、ポリインドロン、ポリキナゾロン、ポリインドキシル、シリコン樹脂、シリコン−エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ポリアミノビスマレイミド、ジアリルフタレート樹脂、フッ素樹脂、TPX樹脂(メチルペンテンポリマー「三井石油化学社製商品名」)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、66−ナイロンおよびMXD−ナイロン、アモルファスナイロン等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル−エチレン・プロピレン・ジエンゴム−スチレン)樹脂等の樹脂類、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ポリエステルエラストマー、ポリブタジエン、クロロプレン、天然ゴム、ポリイソプレン等のエラストマー類及びこれらに必要に応じ、硬化剤、硬化促進剤、触媒、加硫剤、滑剤・離型剤、安定剤、光安定剤、着色剤、難燃剤、カップリング剤等を添加したものであるが、これら以外にソーダガラス、Eガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等のガラス類や、蛙目粘土、木節粘土等の粘土類、セメント、アルミナセメント、モルタル、石膏等の無機材料も使用可能である。
【0043】
前記マトリックス材料のうち、取り扱いが簡便であること、ドクターブレード等に成膜方法、ロール成形、押出成形、射出成形、プレス成形など従来公知の成形方法や加工方法を、必要なら複数の方法を組み合わせて、適用できることからアクリル樹脂等の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0044】
マトリックス材料に対して本発明の炭化ホウ素粉末を添加、混合し、用途に応じ膜、板等の成形品や、液状のままで塗料、充填材等の多用な形態の複合材料として使用される。
【0045】
前記液状の複合材料を作製する場合、混合は少量の場合手混合も可能であるが、プラネタリーミキサー、ハイブリッドミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ボールミル、ミキシングロール等の一般的な混合機が用いられる。
【0046】
マトリックス材料と複合化する際、炭化ホウ素粉末の含有量は、5〜60体積%、カーボン粉末の含有量は1〜20体積%であることが好ましい。前記配合割合以外では、充分な電磁波吸収特性が得られなくなることがあるからである。
【0047】
また、本発明の電磁波吸収体は、先に示した通りに、その好ましい実施態様に於いて、周波数1〜110GHzの電磁波を入射角度0°〜55°の範囲で入射した場合において、自由空間法で測定した反射減衰率の最大値が15デシベル以上であり、しかも反射減衰率が最大となる周波数(整合周波数)の入射角度に対する変動が平均値に対して±5%以内であるという特性を有するし、他の好ましい実施態様に於いては、周波数1〜110GHzの直線偏波からなる電磁波を、電界の方向が電磁波吸収体に含まれる炭化ホウ素粉末粒子の列理方向に一致するように入射した場合と、直交するように入射した場合において、自由空間法で測定した反射減衰率の最大値(デシベル値)の差が平均値に対して±10%以下であり、かつ反射減衰率が最大となる周波数(整合周波数)の差が平均値に対して±5%以下であるという特性を有する。
【0048】
本発明の電磁波吸収体は、前記の通りに優れた電磁波吸収特性を有するので、自動料金収受システム(ETC)用の電磁波吸収体として、車載レーダー装置用の電磁波吸収体として、又は情報家電の電磁波吸収体(或いは電磁波抑制体とも言う)として好適に使用出来る。
【実施例1】
【0049】
(実施例1)ホウ酸粉末と石油コークス粉末を混合した後、抵抗加熱炉を用い2200℃で5時間加熱して炭化ホウ素塊を合成した。これを鉄製ボールのボールミルで粉砕し、篩網を用いて粒径45μm以下に篩分け、更に硝酸水溶液で洗浄して鉄分を除去後、濾過・乾燥して炭化ホウ素粉末を作製した。
【0050】
次に内径16mm、外径24mmの樹脂(ポリアセタール)製円筒にはめ込んだ直径16mm、厚さ3mmのステンレス製円板上この炭化ホウ素粉末1.1gを載せ、さらにもう1枚同寸法のステンレス製円板を載せて上下のステンレス円板の外側に銅箔を敷いた後、油圧プレスを用いて14.7MPaの圧力を加えて圧縮し、加圧したままデジタルマルチメーターで上下の銅箔間の抵抗値を計測し、加圧開始1分後の抵抗値と、加圧時の炭化ホウ素粉末の充填高さ及び樹脂円筒内径寸法から、比抵抗(Ω・cm)を算出し、その逆数から求めた炭化ホウ素粉末の電気伝導度は、8×10−6(S/cm)であった。
【0051】
特開2000−281933公報に開示された方法によって、1質量%の固溶ホウ素(B)を含むカーボン粉末を製造し、電気伝導度をJISK 1469:2003の方法で測定したところ、12.5(S/cm)であった。またDBP吸収量をJIS K6217−4:2001の方法で測定したところ、170(cm/100g)であった。
【0052】
前記の炭化ホウ素粉末及びカーボン粉末を、樹脂分に対してそれぞれ35体積%及び5体積%になるように、アクリルエマルジョン(高圧ガス工業製FX−851、樹脂分55%)100質量部、分散剤(サンノプコ製SNディスパーサント2060)2質量部及び消泡剤(サンノプコ製SNデフォーマー314)0.2質量部からなる液状マトリックスに添加した後、ハイブリッドミキサー(キーエンス製HM−500)を用いて混合し、スラリーを作製した。次いでこのスラリーを1mm厚さのシート形状に成形した後、70℃で3時間加熱して固化させて、炭化ホウ素粉末、カーボン粉末及びアクリル樹脂の複合材料を得た。この場合、炭化ホウ素粉末、カーボン粉末及びアクリル樹脂の真比重はそれぞれ2.51、2.24及び1.1なので、それぞれの体積%をVB、VC及びVAとすると、質量%はそれぞれ、2.51*VB*100/W、2.24*VC*100/W及び1.1*VA*100/W(ここでW=2.51*VB+2.24*VC+1.1*VAである。)になる。従って、本実施例では、炭化ホウ素粉末53質量%、カーボン粉末7質量%及びアクリル樹脂40質量%である。
【0053】
前記の複合材料を用いて、1〜110GHzの直線偏波(TE波)入射時における電磁波吸収特性を、ネットワークアナライザーを用い自由空間法で測定した結果、反射減衰率が最大となる整合周波数は16.2GHzであり、この時の反射減衰率は25.3デシベルであった。
【0054】
(実施例2〜5)炭化ホウ素粉末とカーボン粉末の種類、更に前記粉末のアクリル樹脂への配合割合を変化させたこと以外は実施例1と同じ操作で複合材料を作製して1〜110GHzにおける電磁波吸収特性を、ネットワークアナライザーを用い自由空間法で測定し、結果を表1にまとめて示した。尚、カーボン粉末として、市販のカーボンブラック(三菱化学製#30、電気伝導度6(S/cm)、DBP吸収量115(cm/100g))を用いた。
【表1】


【0055】
(比較例1〜6)実施例1の炭化ホウ素粉末及びカーボン粉末を、充填量を変化させて用いたこと、或いは実施例1の炭化ホウ素粉末及びカーボン粉末とは別に、市販の炭化ホウ素粉末(Starck製グレード名HS、電気伝導度4×10−6S/cm)、市販のカーボンブラック(旭カーボン製サーマル、DBP吸収量30(cm/100g)で電気伝導度9(S/cm)、三菱化学製MA−100、DBP吸収量90(cm/100g)で電気伝導度2(S/cm)、又はライオン製ケッチェン600JD、DBP吸収量390(cm/100g)で電気伝導度6(S/cm))を用いたこと、それ以外は実施例1と同じ操作で炭化ホウ素粉末と、カーボン粉末とアクリル樹脂とからなる複合材料を作製して、1〜110GHzにおける電磁波吸収特性を、ネットワークアナライザーを用い自由空間法で測定し、結果を表1にまとめて示した。
【0056】
(実施例6〜10、比較例7〜10)実施例1〜5、比較例1〜3の複合材料を用い、電磁波の入射角度を0°(垂直入射)から55°まで変化させた場合における、1〜110GHzのTE波及び円偏波の吸収特性(斜入射特性)を、自由空間法で測定した結果を、表2にまとめて示した。
【表2】


【0057】
(実施例11)実施例1と同様にして炭化ホウ素塊を合成、粉砕し、粒径45μm以下に篩分けを行い、洗浄、濾過及び乾燥は行わなかった炭化ホウ素粉末1.0gを用い、電気伝導度を実施例1と同じ方法で測定したところ2×10−4(S/cm)であった。
【0058】
前記炭化ホウ素粉末とともに、カーボン粉末として市販のカーボンブラック(三菱化学製、#30)を、シリコーンゴム(エラストマー)分に対して炭化ホウ素粉末及びカーボン粉末が、それぞれ25体積%及び5体積%になるように、トルエンに溶解させたシリコーンゴムに1質量%の難燃剤、0.5質量%のシランカップリング剤及び0.5質量%の加硫剤を添加して調製したマトリックスに分散させてスラリーを得た。
【0059】
前記のスラリーをドクターブレード成膜機を用いて厚さ0.25mmのシート状に成形した後、80℃で1時間加熱してトルエンを揮発させ、温度170℃、圧力9.8MPaで10分間プレス加硫を行い、さらに大気圧下200℃で5時間二次加硫を行い炭化ホウ素粉末、カーボン粉末及びシリコーンゴムの複合材料を得た。
【0060】
得られた複合材料の表面に、CFガスを用いたプラズマエッチングを行い、走査型電子顕微鏡観察を行った結果、ドクターブレード成膜機の塗工方向に炭化ホウ素粒子の長軸方向が揃う列理現象が認められた。
【0061】
そこで、塗工方向すなわち列理方向がTE波の電界方向に一致するように複合材料を配置した場合(「列理//電界」と表記する)、並びに直交するように配置した場合(「列理⊥電界」と表記する)のそれぞれにおいて、1〜110GHzにおける電磁波(TE波)吸収特性を、ネットワークアナライザーを用い自由空間法で測定し、結果を表3にまとめて示した。
【表3】


【0062】
(比較例11)シリコーンゴム(エラストマー)分に対して、カーボン粉末は用いず炭化ホウ素粉末だけ50体積%を分散させた他は、実施例11と同様にして炭化ホウ素粉末及びシリコーンゴムの複合材料を得た。この複合材料には実施例11と同様の列理現象が認められた。
【0063】
次いで、実施例11と同様に「列理//電界」及び「列理⊥電界」の二通りの配置における、1〜110GHzにおける電磁波(TE波)吸収特性を、ネットワークアナライザーを用い自由空間法で測定し、結果を表3にまとめて示した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、特定の電気伝導度を有する炭化ホウ素粉末と特定の電気伝導度とDBP吸収量を有するカーボン粉末を組み合わせるのみで、優れた電磁波吸収体が得られ、更に、相対密度を特定の範囲とするとともに、その実施態様として、熱可塑性樹脂を始めとするいろいろなマトリックス材料と複合化することで、軽量で、電磁波吸収特性に優れた電磁吸収体が提供される。
【0065】
本発明の電磁波吸収体は、直線偏波及び円偏波の何れの吸収においても斜入射特性が安定しており、また含まれる炭化ホウ素粉末の列理方向と入射電磁波の電界方向が一致するか否かに関わらず、安定した吸収特性を有する特徴を有しているので、自動車料金収受システム、車載レーダー或いは情報家電だけでなく、無線LAN、超高帯域無線(UWB)、携帯電話基地局或いはテレビ受信時におけるゴースト発生防止用等の不要電磁波の吸収材料として、家屋の外装材、壁材或いはカーテン等への広範な産業上の利用可能性を有している。
【出願人】 【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
【住所又は居所】東京都中央区日本橋室町二丁目1番1号 日本橋三井タワー
【出願日】 平成16年4月30日(2004.4.30)
【代理人】
【公開番号】 特開2005−317825(P2005−317825A)
【公開日】 平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願番号】 特願2004−135216(P2004−135216)