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【発明の名称】 電磁波吸収体
【発明者】 【氏名】川崎 卓
【住所又は居所】東京都町田市旭町三丁目5番1号 電気化学工業株式会社中央研究所内

【氏名】岡田 拓也
【住所又は居所】東京都町田市旭町三丁目5番1号 電気化学工業株式会社中央研究所内

【氏名】斉藤 光明
【住所又は居所】東京都町田市旭町三丁目5番1号 電気化学工業株式会社中央研究所内

【要約】 【課題】専用狭域通信(DSRC)等に適用可能な電磁波吸収体を提供する。

【解決手段】ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下である炭化ホウ素粉末が5〜70体積%に充填されてなることを特徴とする電磁波吸収体、及び/又は、マトリックス材料中に、ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下である炭化ホウ素粉末を5〜70体積%配合してなることを特徴とする電磁波吸収体であり、好ましくは、マトリックス材料が熱可塑性樹脂である前記の電磁波吸収体であり、特に好ましくは、自由空間法で測定した周波数5〜110GHzにおける複素比誘電率の実数部が8以上、虚数部が1以上及び誘電正接が0.1以上0.5以下である前記の電磁波吸収体。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下であることを特徴とする電磁波吸収体用の炭化ホウ素粉末。
【請求項2】
ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下である炭化ホウ素粉末が5〜70体積%に充填されてなることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項3】
マトリックス材料中に、ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下である炭化ホウ素粉末を5〜70体積%配合してなることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項4】
マトリックス材料が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項3記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
自由空間法で測定した周波数5〜110GHzにおける複素比誘電率の実数部が8以上、虚数部が1以上及び誘電正接が0.1以上0.5以下である請求項2、請求項3又は請求項4記載の電磁波吸収体。
【請求項6】
請求項2〜4の何れか1項に記載の電磁波吸収体を含んでなることを特徴とする専用狭域通信(DSRC)用の電磁波吸収体。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収体に関する。さらに詳細には、特定量のホウ素を含有し、効率よく電磁波を吸収し得る炭化ホウ素粉末と、それを用いてなる電磁波吸収体を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体或いはエレクトロニクスの分野において、通信機器等に使用される電磁波の高周波化が顕著に進展し、1秒間に10億回以上振動するギガヘルツ(GHz)帯域の電磁波も頻繁に使用されるようになってきた。また、高度道路交通システム(ITS)の分野では、専用狭域通信(DSRC)と呼ばれる通信方式を用い、路側機(路側に設置された無線装置)と車載器(車両に搭載された無線装置)との間で無線通信を行うことも進展している。
【0003】
DSRCは、現在、高速道路における自動料金収受システム(ETC)で実用化されているが、今後さらにガソリンスタンド、カーフェリー或いはサービスエリアにおける電子決済や、運行管理、物流管理、各種の情報提供等に応用が期待されている。これらの用途で用いられる電磁波は、高周波であるために、高出力、高密度の信号搬送を可能にする反面、ノイズとして他の機器に取り込まれると、情報漏洩、誤動作その他各種の電波障害を引き起こす懸念がある。
【0004】
この対策として、電子機器や通信機器が外部から侵入する電磁波に干渉されないように、或いはこれらの機器が発生する電磁波が過剰に外部に漏洩しないように、電磁波シールド材や、電磁波吸収体が用いられる。とりわけ電磁波吸収体は、入射してきた電磁波を熱エネルギーに変換して、透過或いは反射する電磁波の強度を大幅に減衰するものである。
【0005】
電磁波吸収体の材料として、従来は、主にフェライトやカーボンが使用されている。これらは、その粉末を樹脂、ゴム或いは塗料等のマトリックス中に分散、複合化したものを、電磁波を吸収したい部位に貼付または塗布する形で用いられることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フェライトは比重が大きいため、マトリックス中に分散する際に、マトリックスとの比重差によって沈降が生じやすく、均一な複合材料の成形性に難がある上に、できあがった複合材料が重いため、移動を伴う通信機器や、自動車に多量に使用する場合には、本体が重くなり、当該通信機器や自動車の機動性に問題が生じる。
【0007】
一方、カーボンについては、比重が比較的小さいためフェライトに見られるような前記の問題は生じないが、粉末が嵩高いために、マトリックスへの充填量を増大させることが困難であるし、得られる複合材料の電磁波吸収特性が不充分になってしまう欠点がある。これを避けるために、カーボンとしては、充填性が比較的良好な結晶質のグラファイトが使用されることがあるものの、グラファイト粒子は異方性が大きい上にマトリックス内で配向しやすいため、やはり複合材料の電磁波吸収性能が損なわれてしまう。
【0008】
更に、フェライトやカーボンを含む電磁波吸収体は、MHz帯域や1〜数GHz帯域の電磁波を吸収するには適するが、DSRCの中でも例えばETCや車載レーダーで適用が検討されている5.8〜76GHz等の高周波帯域、更に高周波帯域の電磁波については、充分吸収できないという問題を有している。
【0009】
また、前記以外の材料として炭化珪素(SiC)や炭化ホウ素(BC)が電磁波吸収特性を有することが知られているし、この性質を利用したSiCやBCのマイクロ波発熱体も提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−106980公報
【0010】
SiCやBCは、フェライトと比較すると比重が小さく、粉末もカーボンほど嵩高くないために、充填性も良好であり、しかも異方性が小さいので、フェライトやカーボンに見られる前記の問題は有しない。しかし、DSRCのように周波数が種々異なる電磁波を利用する場合についてみると、車載器等の移動体通信機用電磁波吸収体は種々の周波数の不要電磁波を網羅的に吸収する特性を満足する必要があり、このような電磁波吸収体はSiCやBCを用いても未だに作製できていないのが現状である。
【0011】
本発明の目的は、従来の電磁波吸収体が有する前記の諸問題を解決し、優れた電磁波吸収特性を有する新規な電磁波吸収体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記従来技術の現状に鑑みて、いろいろな炭化ホウ素粉末とそれを用いた電磁波吸収体について検討し、特定の組成の炭化ホウ素粉末が電磁波吸収性能に優れ、これを用いて電磁波吸収体を得るときに、前記本発明の目的を達成することができるという知見を得て、本発明に至ったものである。
【0013】
即ち、本発明は、ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下であることを特徴とする電磁波吸収体用の炭化ホウ素粉末である。
【0014】
また、本発明は、ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下である炭化ホウ素粉末が5〜70体積%に充填されてなることを特徴とする電磁波吸収体であり、マトリックス材料中に、ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下である炭化ホウ素粉末を5〜70体積%配合してなることを特徴とする電磁波吸収体であり、好ましくは、マトリックス材料が熱可塑性樹脂であることを特徴とする前記の電磁波吸収体である。
【0015】
更に、本発明は、自由空間法で測定した周波数5〜110GHzにおける複素比誘電率の実数部が8以上、虚数部が1以上及び誘電正接が0.1以上0.5以下である前記の電磁波吸収体である。
【0016】
加えて、本発明は、前記の電磁波吸収体を含んでなることを特徴とする専用狭域通信(DSRC)用の電磁波吸収体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の炭化ホウ素粉末は、ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下という特定範囲の組成を有し、周波数5〜110GHzにおける電磁波吸収特性に優れることから、これを用いて、後述する電磁波吸収特性に優れる本発明の電磁波吸収体を容易に提供し得る。
【0018】
本発明の電磁波吸収体は、前記の特定な組成範囲の炭化ホウ素粉末を用い、しかも特定の空間充填性を有しているので、5〜110GHzの周波数帯域における複素比誘電率の実数部が8以上、虚数部が1以上及び誘電正接が0.1以上0.5以下という電磁波吸収特性を達成し得るので、例えば、専用狭域通信(DSRC)用の電磁波吸収体として好適な電磁波吸収体である。
【0019】
更に、本発明の電磁波吸収体は、前記特徴有る炭化ホウ素粉末をマトリックス材料中に配合しているので、前記マトリックス材料を適宜選定することでいろいろな用途に応じた、前記電磁波吸収特性を有する電磁波吸収体を容易に提供できる。特に、前記マトリックス材料として、熱可塑性樹脂を選定するとき、熱可塑性樹脂に適用できる従来公知の成形方法、加工方法を適用することができ、いろいろな用途に適用可能な形状を容易に付す事ができる。
【0020】
加えて、本発明の電磁波吸収体は、例えば、前述した通りに、5〜110GHzの周波数帯域における複素比誘電率の実数部が8以上、虚数部が1以上及び誘電正接が0.1以上0.5以下という電磁波吸収特性を有しているので、専用狭域通信(DSRC)用の電磁波吸収体として実用的に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の炭化ホウ素粉末は、ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下という特定範囲の組成を有し、周波数5〜110GHzにおける電磁波吸収特性に優れている。前記した通りに、本発明者が炭化ホウ素を用いた電磁波吸収体について、いろいろ検討したときに、当該組成の炭化ホウ素粉末が周波数5〜110GHzにおける電磁波吸収特性に優れていることを見いだしたものである。この原因については明らかではないが、以下のように推定される。
【0022】
電磁波吸収特性には、材料の有する電気伝導性、誘電的性質並びに磁気的性質が関与するとされているが、ホウ素(B)を80質量%以上含む炭化ホウ素粉末は、ホウ素を多く含むことによって、電気伝導性や誘電的性質が、炭化ホウ素として一般的であるBCとは異なったものとなり、両方の特性の変化の結果として、電磁波吸収に好適な性質が発現すると考えられる。
【0023】
炭化ホウ素として一般的であるBCは、ホウ素(B)を78.3質量%含んでいる。結晶構造は菱面体であり、12個のB原子が頂点に位置する8個の正20面体が、単位格子の頂点に配置し、格子中央の長軸上に3個の炭素(C)原子が配置した構造を有する。そして、前記BC単位格子中の3個のC原子について中央の1個がB原子に置換しB13が得られる等、いろいろな組成の炭化ホウ素が存在することが明らかにされている。
【0024】
本発明の炭化ホウ素粉末は、ホウ素(B)含有量が80質量%以上96質量%以下、即ち、一部のC原子が適当量B原子に置換すれば足りるものである。更に、前記組成範囲の下限値に関しては、B4.5CよりもBが多い組成すなわちB/C(モル比)≧4.5であることが好ましい。
【0025】
一方、組成範囲の上限値に関しては、炭化ホウ素にはBC、B10C或いはB25Cが知られているが、これらのいずれもが本発明にて用いることができることから、B25Cに相当するホウ素(B)含有量96質量%以下であることが好ましい。
【0026】
炭化ホウ素粉末を合成する一般的な方法は、ホウ酸等のホウ素分と石油コークス等の炭素分とを混合した原料を、アーク炉、抵抗加熱炉、高周波加熱炉等を用いて2200℃程度の高温まで加熱して、下記の反応を生じさせる方法である。
【0027】
4HBO+7C → BC+6CO+6H
【0028】
ところが、この方法で生成する炭化ホウ素の大部分がBCであるため、一般的な炭化ホウ素はBCということになる。
【0029】
上記の方法に対して、例えば金属ホウ素を直接炭化する方法(直接炭化法)や、金属マグネシウム等の強還元性物質によって、酸化ホウ素を急激に還元、炭化する方法(テルミット反応法)で製造する方法は、B含有量を80質量%以上96質量%以下に制御し易いことから、好ましい製造方法である。これらの方法では、原料に含まれるB原子とC原子の比率を、Bが80質量%以上96質量%以下になるように予め調製しておけば足りる。これに対し、前述のホウ酸と炭素を反応させる一般的な方法は、炭素が還元剤も兼ねるため、また、反応自体が高い温度条件下で行われる必要から、炭素やホウ素の成分が揮発され、炭化ホウ素の組成をコントロールすることが困難である欠点がある。
【0030】
尚、直接炭化法やテルミット反応法で得た炭化ホウ素粉末は、必要に応じ、(酸処理)、粉砕、篩い分けすることによって製造することができる。
【0031】
本発明の炭化ホウ素粉末は、プラスチックや無機質の容器中に当該炭化ホウ素粉末を単に充填して用いたり、複数の樹脂性シートの間隙に充填して用いたり、或いは、後で詳述する通りに他の材料と複合化して用いて電磁波吸収体とすることができる。これらの用途に於いて、当該炭化ホウ素粉末の空間での充填率が5〜70体積%とすることが5〜110GHzの周波数帯域での電磁波特性が優れることから、好ましく選択される。含有量が5体積%よりも少ないと、充分な電磁波吸収性能が得られないことがあるし、70体積%を超えると成形、或いは保形が困難になる。前記炭化ホウ素粉末の空間に於ける充填率について、さらに好ましくは20〜60体積%である。
【0032】
本発明の電磁波吸収体の実施態様として、例えば樹脂、ゴム或いは塗料等のマトリックス材料中に、前記特徴のある炭化ホウ素粉末を5〜70体積%配合した複合材料が挙げられる。当該複合材料に於いて、前記炭化ホウ素粉末の配合割合は、前記と同じ理由で、20〜60体積%が好ましい。
【0033】
マトリックスとして使用可能な材料は、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリピラゾール、ポリキノキサリン、ポリキナゾリンジオン、ポリベンズオキサジノン、ポリインドロン、ポリキナゾロン、ポリインドキシル、シリコン樹脂、シリコン−エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ポリアミノビスマレイミド、ジアリルフタレート樹脂、フッ素樹脂、TPX樹脂(メチルペンテンポリマー「三井石油化学社製商品名」)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、66−ナイロンおよびMXD−ナイロン、アモルファスナイロン等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル−エチレン・プロピレン・ジエンゴム−スチレン)樹脂等の樹脂類、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ポリエステルエラストマー、ポリブタジエン、クロロプレン、天然ゴム、ポリイソプレン等のエラストマー類及びこれらに必要に応じ、硬化剤、硬化促進剤、触媒、加硫剤、滑剤・離型剤、安定剤、光安定剤、着色剤、難燃剤、カップリング剤等を添加したものであるが、これら以外にソーダガラス、Eガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等のガラス類や、蛙目粘土、木節粘土等の粘土類、セメント、アルミナセメント、モルタル、石膏等の無機材料も使用可能である。
【0034】
これらのマトリックス材料の中でも、取扱いが簡便であること、ドクターブレード等の成膜方法、ロール成形、押出成形、射出成形、プレス成形など従来公知の成形方法や加工方法を、必要なら複数の方法を組み合わせて、適用できることから好ましく選択される。更に、熱可塑性樹脂としては、加工性が良好なことから、アクリル樹脂、××樹脂が一層好適に用いられる。
【0035】
前記マトリックス材料に対して、本発明の炭化ホウ素粉末を所定量配合し、混合し、用途に応じて、膜や板等の成形品、或いは液状のままで塗料、充填材等の多用な形態の複合材料として使用される。
【0036】
前記液状の複合材料を作製する場合、混合は少量の場合には手混合も可能であるが、プラネタリーミキサー、ハイブリッドミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ボールミル、ミキシングロール等の一般的な混合機を用いることができる。
【0037】
本発明の電磁波吸収体は、その好ましい実施態様に於いて、自由空間法で測定した周波数5〜110GHzにおける複素比誘電率の実数部が8以上、虚数部が1以上及び誘電正接が0.1以上0.5以下の電磁波吸収特性を有している。
【0038】
本発明のように、絶縁性の空間またはマトリックス材料に、炭化ホウ素のような電気伝導性を有する粉末が分散した形態をとる材料は、誘電性電磁波吸収体と呼ばれ、材料全体の誘電的性質が電磁波吸収特性に関与する。
【0039】
誘電的性質は、具体的には複素比誘電率(εr=εr’−jεr”[jは虚数単位])の実部(εr’)、虚部(εr”)及び実部と虚部の比からなる誘電正接(tanδ=εr”/εr’)である。
【0040】
εr’は、電磁波吸収体の波長圧縮効果に対応する。εr’が大きいほど、通過する電磁波の波長圧縮効果が大きくなる。波長圧縮効果が大きければ、電磁波吸収効果が最大(すなわち反射減衰率が最大)になる周波数(整合周波数)における電磁波吸収体の厚さを小さくすることができる。
【0041】
εr”は、誘電損失に対応する。εr”が大きいほど、誘電分極にともなう損失が大きくなる。損失は電磁波の吸収に対応するため、εr”が大きいほど電磁波を良く吸収することができる。
【0042】
以上より、εr’及びεr”が大きければ大きいほど、良好な電磁波吸収体が得られるかに見えるが、実際に電磁波が吸収されるためには、電磁波が吸収体の内部に入らなければならない。電磁波が吸収体内部に入るためには、複素比誘電率(εr)、電磁波の波長(λ)及び電磁波吸収体の厚さ(d)が、無反射条件と呼ばれる一定の条件に近づかなければならない。従って、εrの要素であるεr’及びεr”も、一定の関係を満たさねばならない。
【0043】
無反射条件は、例えば垂直入射の場合は下式で表される。
1=(εr)−1/2*tanh(j*(2πd/λ)*(εr)1/2
【0044】
εr’及びεr”が無反射条件に近づくために満たす一定の関係は、誘電正接(tanδ=εr”/εr’)で表すことができる。本発明の炭化ホウ素粉末を含んでなる電磁波吸収体は、εr’は波長圧縮効果が得られる値(8以上)であり、かつεr”は充分な誘電損失(=電磁波吸収)が生じる値(1以上)であり、しかもtanδ=εr”/εr’無反射条件に近い値(0.1以上0.5以下)であることに特徴がある。
【0045】
本発明の電磁波吸収体は、5〜110GHzの広い周波数領域において、これら三つの要件を同時に満たすものであり、従来見出されていなかったものである。
【0046】
尚、材料の有している誘電的性質を利用する電磁波吸収体に於いては、電磁波吸収体の形状や炭化ホウ素粉末の充填量を変えることにより、電磁波吸収量(すなわち電磁波の反射減衰量)が最大値を示す周波数(整合周波数)を変化させることができる。
【0047】
即ち、電磁波吸収体を設ける位置に置いて、例えば当該電磁波吸収体の炭化ホウ素粉末配合量を異なるものや、厚み(特に電波の進む方向に関する奥行き)の異なる電磁波吸収体を重ねて使用するといった工夫をすることで、周波数5〜110GHzの帯域において、複数の整合周波数を有し、多種類の不要電磁波の吸収、除去に適した電磁波吸収体或いは電磁波吸収体の複合体を作製することが可能になる。
【0048】
また、本発明の電磁波吸収体は、前記の通りに優れた電磁波吸収特性を有しているので、当該特性を必要とする専用狭域通信(DSRC)用の電磁波吸収体として好適である。
【実施例1】
【0049】
(実施例1)ホウ素粉末(Starck社製、グレードI)と炭素粉末(ライオン製ケッチェンEC)を、モル比で13:2になるように混合した後、抵抗加熱炉を用いアルゴン雰囲気中1400℃で2時間加熱した。得られた塊状物を乳鉢で解砕後、目開き160μmの篩網を通して粉末を得た。この粉末はB13であることを粉末X線回折法で確認した。また元素分析の結果、85質量%のホウ素(B)を含んでいた。
【0050】
前記炭化ホウ素粉末を、樹脂分に対して40体積%になるように、アクリルエマルジョン(高圧ガス工業製FX−851、樹脂分55%)100質量部、分散剤(サンノプコ製SNディスパーサント2060)2質量部及び消泡剤(サンノプコ製SNデフォーマー314)0.2質量部からなる液状マトリックスに添加した後、ハイブリッドミキサー(キーエンス製HM−500)を用いて混合し、スラリーを作製した。次いでこのスラリーを1mm厚さのシート形状に成形した後、70℃で3時間加熱して固化させて、炭化ホウ素粉末とアクリル樹脂の複合体を得た。
【0051】
複合体の複素比誘電率(εr’−jεr’’)を、ネットワークアナライザーを用いて自由空間法で測定した結果、5〜110GHz帯域における複素比誘電率は、εr’=9〜25、εr’’=2〜5、誘電正接(tanδ)は0.1〜0.5であった。
【0052】
(実施例2)酸化マグネシウム(MgO)粉末及びホウ酸(HBO)粉末を、モル比3:2の割合で混合した後、大気中850℃で2時間加熱した。得られた塊状物を乳鉢で粉砕後、目開き160μmの篩網を通して粉末を得た。この粉末はホウ酸マグネシウム(3MgO・B)であることを粉末X線回折法で確認した。この粉末と、金属マグネシウム(Mg)粉末及び実施例1と同じ炭素(C)粉末を、モル比で3MgO・B:Mg:C=2:6:1になるように混合し、アルゴン雰囲気中1400℃で2時間加熱した。得られた塊状物を乳鉢で粉砕後、目開き160μmの篩網を通して粉末を得た。この粉末は酸化マグネシウム(MgO)、ホウ酸マグネシウム(3MgO・B)及び炭化ホウ素(BC又はB13)の混合物であることを粉末X線回折法で確認した。
【0053】
更に、前記粉末を塩酸(HCl)で処理し、MgO及び3MgO・Bを除去した後、再度粉末X線回折測定を行った結果、生成物の格子定数は0.5612nmであり、BC(格子定数0.5600nm)とB13(格子定数0.5633nm)の中間的な結晶格子からなる炭化ホウ素粉末であることを確認した。更にこれを元素分析した結果、81質量%のホウ素を含んでいた。
【0054】
この粉末をゴム(エラストマー)分に対して50体積%になるように、トルエンに溶解させたシリコーンゴムに1質量%の難燃剤、0.5質量%のシランカップリング剤及び0.5質量%の加硫剤を添加して調製したマトリックスに分散させてスラリーを得た。
【0055】
前記スラリーをドクターブレード成膜機を用いて厚さ1mmのシート状に成形した後、80℃で1時間加熱してトルエンを揮発させ、温度170℃、圧力9.8MPaで10分間プレス加硫を行い、さらに大気圧下200℃で5時間二次加硫を行い、炭化ホウ素粉末とシリコーンゴムの複合体を得た。複合体の5〜110GHzにおける誘電特性を、実施例1と同様にして測定したところ、複素比誘電率は、εr’=12〜30、εr’’=3〜8、誘電正接(tanδ)は0.2〜0.5であった。
【0056】
(実施例3)(1)実施例1の炭化ホウ素粉末とアクリル樹脂の複合体、(2)厚さを0.5mmとした他は実施例1と同様にして得た複合体、及び(3)炭化ホウ素粉末の充填量を30体積%とした他は実施例1と同様にして得た複合体を、表側から(2)、(3)、(1)の順に、層間に実施例1のアクリルエマルジョンを塗布後積層し、全面に10g/cmの荷重を印加しながら再び70℃で3時間加熱して層間を接着・一体化させて複合体を得た。複合体の5〜110GHzにおける誘電特性を、実施例1と同様にして測定したところ、複素比誘電率は、εr’=10〜28、εr’’=3〜6、誘電正接(tanδ)は0.2〜0.4であった。
【0057】
この複合体の5〜110GHzにおける電磁波吸収特性(反射減衰率)を自由空間法で測定したところ、15デシベル以上の顕著な反射減衰率を示す整合周波数が、18GHz、40GHz及び65GHzの3個所において確認された。
【0058】
(実施例4)専用狭域通信(DSRC)の一種である高速道路における自動料金収受システム(ETC)を模して、舗装路面上4メートルの位置に、マイクロ波発信用パラボラアンテナを設置し、このアンテナに接続したネットワークアナライザーから5.8GHzの右旋回円偏波からなるマイクロ波を発信して45°の角度で舗装路面に入射させ、反射波を舗装路面上1メートルの位置に設置したパラボラアンテナにて受信した。
【0059】
次いで、厚さを2.5mmとした以外は実施例1と同様にして作製したシート形状複合体を、一辺が0.5mの正方形に裁断して上記舗装路面のマイクロ波入射位置に配置し、上記同様にマイクロ波の発信及び受信を行った。舗装路面からの反射波の強度をP、複合体からの反射波の強度をPとして、強度比を、−20log10(P/P)で求めた結果25デシベルであり、この複合体が、ETCにおける不用電波の多重反射防止用電磁波吸収体として、適用可能な性能を有することが解った。
【0060】
(比較例1)ホウ酸粉末と石油コークス粉末を混合した後、高周波式抵抗加熱炉を用い2200℃で5時間加熱した。得られた塊状物を鉄製ボールのボールミルで粉砕し、篩網を用いて粒径45μm以下に篩分け、更に硝酸水溶液で洗浄して鉄分を除去後、濾過、乾燥して粉末を得た。この粉末はBCであることを粉末X線回折法で確認した。また元素分析の結果、78質量%のホウ素を含んでいた。
【0061】
次いで前記BC粉末を、実施例1と同様にして40体積%になるようにアクリルエマルジョン等と混合し、スラリーを作製し、さらに1mm厚さのシート形状に成形、固化させて、BC粉末とアクリル樹脂の複合体を得た。
【0062】
複合体の複素比誘電率(εr’−jεr’’)を、ネットワークアナライザーを用いて自由空間法で測定した結果、5〜110GHz帯域における複素比誘電率は、εr’=8〜30、εr’’=2〜9、誘電正接(tanδ)は0.01〜0.8であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の炭化ホウ素粉末は、特定範囲のホウ素(B)含有量を有するが故に電磁波吸収特性に優れることから、これを用いていろいろな形態の電磁波吸収体を容易に得ることができるので、産業上非常に有用である。
【0064】
本発明の電磁波吸収体は、前記の特徴のある炭化ホウ素粉末を空間的に特定範囲に充填していることから、電磁波吸収特性に優れたいろいろな形態の部材を含むものであり、特に好ましい実施形態に於いては、周波数5〜110GHzにおける複素比誘電率の実数部が8以上、虚数部が1以上及び誘電正接が0.1以上0.5以下という極めて優れた電磁波吸収特性を示すので、例えば、自動車料金収受システム(ETC)、車載レーダー等の専用狭域通信(DSRC)用の不要電磁波吸収体として用いることができるし、情報家電、無線LAN、超高帯域無線(UWB)、携帯電話基地局或いはテレビ受信時におけるゴースト発生防止用等の不要電磁波の吸収材等としても用いることができる特徴がある。特に、熱可塑性樹脂を始めとするいろいろなマトリックス材料中に前記特定な炭化ホウ素粉末を特定量配合してなる電磁波吸収体は、家屋の外装材、壁材或いはカーテン等への広範な産業上の利用可能性を有している。
【出願人】 【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区有楽町1丁目4番1号
【出願日】 平成16年4月22日(2004.4.22)
【代理人】
【公開番号】 特開2005−311088(P2005−311088A)
【公開日】 平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願番号】 特願2004−126243(P2004−126243)