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【発明の名称】 周波数選択装置
【発明者】 【氏名】岩井 通

【氏名】畠山 賢一

【要約】 【課題】周波数選択性を容易に調整でき、選択性能に優れた周波数選択装置を提供する。

【解決手段】周波数選択装置は、金属導体10が規則的に配列されるx−y平面を1層として、複数の層がz軸方向に所定の間隔を保って配列される。周波数選択装置は、金属導体10の形状および配列間隔によって決まる共振周波数以上の周波数帯域において、等価誘電率が負となり、電磁波を全反射する特性を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属導体が平面上に規則的に配列された層を1層として、前記1層が一定の間隔を保って平行に積層されてなる複数の前記層を備え、
前記金属導体の共振周波数を含む遮断周波数帯域において、前記複数の層に入射される電磁波を遮断し、前記遮断周波数帯域以下の通過周波数帯域において、前記複数の層に入射される電磁波を透過する、周波数選択装置。
【請求項2】
前記複数の層を巨視的に均質な誘電体と見たときの等価比誘電率は、前記共振周波数以下の周波数帯域において1以上の値を示し、前記共振周波数以上の前記遮断周波数帯域において負の値を示す、請求項1に記載の周波数選択装置。
【請求項3】
前記複数の層の厚さが、前記等価比誘電率を持つ誘電体を伝搬する電磁波の波長の2分の1の整数倍となる周波数を含む電磁波を透過する、請求項2に記載の周波数選択装置。
【請求項4】
前記複数の層の厚さが、前記等価比誘電率を持つ誘電体を伝搬する電磁波の波長の5分の1倍以下となる周波数を含む電磁波を透過する、請求項2または3に記載の周波数選択装置。
【請求項5】
前記複数の層は、
前記複数の金属導体の前後に単独または併せて接合される複数の第1および第2の誘電体の平行板をさらに含み、
前記複数の層の厚さは、前記複数の第1および第2の誘電体の平行板の厚さの総和となる、請求項2から4のいずれかに記載の周波数選択装置。
【請求項6】
前記複数の層に対して、所定の間隔を隔てて接合される周波数選択性表面をさらに備え、
前記通過周波数帯域において、一部の周波数の電磁波を遮断する、請求項2に記載の周波数選択装置。
【請求項7】
前記複数の層に対して、所定の間隔を隔てて接合される誘電体の平行板または周波数選択性表面をさらに備え、
前記通過周波数帯域において、特定の周波数の電磁波の反射を相殺する、請求項2に記載の周波数選択装置。
【請求項8】
前記誘電体の平行板は、誘電体板および第2の前記複数の層のうちのいずれかとする、請求項7に記載の周波数選択装置。
【請求項9】
前記複数の層に対して、所定の間隔を隔てて接合される周波数選択性表面または第2の前記複数の層をさらに備え、
前記周波数選択性表面または前記第2の複数の層は、前記遮断周波数帯域の上限周波数の1.1倍以下または下限周波数の0.9倍以上の周波数の電磁波を遮断する特性を有する、請求項2に記載の周波数選択装置。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
この発明は、周波数選択装置に関し、より特定的には、所望の周波数の電磁波のみを選択的に透過または反射させるための構造に関する。
【背景技術】
【0002】
周波数選択性表面(FSS:Frequency Selective Surface)においては、特定周波数の電磁波を選択的に遮断または吸収する特性を利用して、オフィス内などでの電波環境の整備部材として普及している。
【0003】
図22は、周波数選択性表面の原理を説明するための構成図である。図22に示す構成は、例えば非特許文献1に記載されるように、周波数選択性表面の一例として周知のものである。
【0004】
図22を参照して、周波数選択性表面は、高分子やガラスなどの誘電体板110に金属導体100を混合して形成される。金属導体100の形状は、図22のような正方形環状のもの以外に、ストリップ状、十字型などがあり、x−z平面に互いに等しい間隔をもって配列される。図22は、単層のときの構成であるが、多層で構成するときには、このx−z平面の配列を1層として、複数の層が、y軸方向に対して所定の間隔をもって平行に配列される。
【0005】
この構造において、周波数選択性表面は、個々の金属導体100の形状と金属導体100が配列される間隔とに依存する共振周波数を有する。この共振周波数付近では、図22に示すように、周波数選択性表面全体の透過係数τが0を示す一方、反射係数Γが1を示す。これによって、入射される電磁波のうち共振周波数に該当する電磁波のみが選択的に反射されることになり、周波数選択性表面は、特定周波数の電磁波のみを反射する帯域阻止フィルタとして機能する。
【0006】
図23は、多層構造からなる周波数選択性表面の等価回路図である。
【0007】
図23を参照して、周波数選択性表面は、図22に示す単層の周波数選択性表面が3層積層された構造を有する。各層の等価回路は、直列結合されたインダクタンスL、キャパシタンスCおよび抵抗素子Rで表わされる。さらに、一方層と他方層とは、間隔dをもって伝送線路上に並列に結合される。なお、この間隔dは、実際には、層間に挿入されるスペーサの厚さに相当する。
【0008】
ここで、ある1層に着目すると、インダクタンスL、キャパシタンスCおよび抵抗素子Rは直列共振回路を構成し、共振周波数において当該層のインピーダンスは最小となり、個々の金属導体に流れる電流は最大となる。共振回路の各素子パラメータは、金属導体の形状と配列間隔とによって変化することから、これらの素子パラメータで一義的に求まる共振周波数も、金属導体の形状と配列間隔とによって変動すると言える。
【0009】
さらに、多層構造では、単層ごとに所定の共振周波数を持つ帯域阻止フィルタを間隔dごとに伝送線路上に並べたものとみなすことができる。したがって、周波数選択性表面全体でのフィルタ特性は、各層の共振周波数と層間の間隔とによって決定されることとなる。言い換えれば、各層の共振周波数と層間の間隔とを調整することによって、所望の周波数選択性を持つ周波数選択性表面を構成することができる。
【非特許文献1】Ben A. Munk, “Frequency Selective Surfaces,” John Willey & Sons, Inc., pp.1-6, 2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、従来の周波数選択性表面において、周波数選択性は、構成する1層ごとの共振周波数と層間の間隔とによって決まる。さらに、1層ごとの共振周波数は、個々の金属導体の形状と配列間隔とによって決定される。したがって、金属導体の形状と配列間隔および層間の間隔を調整すれば、所望の周波数選択性を得ることができる。
【0011】
しかしながら、実際には、周波数選択性表面は、プリント基板または樹脂フィルム上にエッチング等で金属導体を形成し、これを発泡材または樹脂等の誘電材料で所定の間隔を保って保持することによって金属導体を空間上に配列する。このため、製造後において、金属導体の形状や配列間隔を変更することは、現実的に不可能であった。
【0012】
また、製造プロセスのばらつきに起因して出来上がりの形状と設計値との間に誤差が生じ、所望の周波数選択性が得られなかった場合においても、チューニングによって合わせ込むことは時間的にもコスト的にも困難とされてきた。
【0013】
それゆえ、この発明は、このような周波数選択性表面の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、周波数選択性を容易に調整することが可能な周波数選択装置を提供することである。
【0014】
この発明の他の目的は、周波数選択性能に優れた周波数選択装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明のある局面によれば、複数の金属導体が平面上に規則的に配列された層を1層として、1層が一定の間隔を保って平行に積層されてなる複数の層を備え、金属導体の共振周波数を含む遮断周波数帯域において、複数の層に入射される電磁波を遮断し、遮断周波数帯域以下の通過周波数帯域において、複数の層に入射される電磁波を透過する。
【0016】
好ましくは、複数の層を巨視的に均質な誘電体と見たときの等価比誘電率は、共振周波数以下の周波数帯域において1以上の値を示し、共振周波数以上の遮断周波数帯域において負の値を示す。
【0017】
好ましくは、複数の層の厚さが、等価比誘電率を持つ誘電体を伝搬する電磁波の波長の2分の1の整数倍となる周波数を含む電磁波を透過する。
【0018】
好ましくは、複数の層の厚さが、等価比誘電率を持つ誘電体を伝搬する電磁波の波長の5分の1倍以下となる周波数を含む電磁波を透過する。
【0019】
より好ましくは、複数の層は、複数の金属導体の前後に単独または併せて接合される複数の第1および第2の誘電体の平行板をさらに含む。複数の層の厚さは、複数の第1および第2の誘電体の平行板の厚さの総和となる。
【0020】
この発明の別の局面によれば、複数の層に対して、所定の間隔を隔てて接合される周波数選択性表面をさらに備え、通過周波数帯域において、一部の周波数の電磁波を遮断する。
【0021】
この発明の別の局面によれば、複数の層に対して、所定の間隔を隔てて接合される誘電体の平行板または周波数選択性表面をさらに備え、通過周波数帯域において、特定の周波数の電磁波の反射を相殺する。
【0022】
好ましくは、誘電体の平行板は、誘電体板および第2の複数の層のうちのいずれかとする。
【0023】
この発明の別の局面によれば、複数の層に対して、所定の間隔を隔てて接合される周波数選択性表面または第2の複数の層をさらに備え、周波数選択性表面または第2の複数の層は、遮断周波数帯域の上限周波数の1.1倍以下または下限周波数の0.9倍以上の周波数の電磁波を遮断する特性を有する。
【発明の効果】
【0024】
この発明のある局面によれば、周波数選択装置に従来の人工誘電体の技術を適用し、共振周波数以上の周波数範囲にまで拡大することにより、共振周波数を含む遮断周波数帯域の電磁波を選択的に遮断するとともに、遮断周波数帯域よりも低い透過周波数帯域の電磁波を低損失で透過させるという周波数選択性を簡易かつ高精度に実現することができる。
【0025】
さらに、透過周波数において金属導体に誘導される電流が小さいことから、従来の周波数選択性表面よりも損失を抑えることができる。
【0026】
この発明の別の局面によれば、周波数選択装置に所定の間隔を持って従来型の周波数選択性表面を接合し、周波数選択性表面の共振周波数と当該間隔とを調整することによって、周波数選択装置の透過周波数の一部を遮断するという周波数選択性を容易に実現することができる。
【0027】
この発明の別の局面によれば、1枚の周波数選択装置に所定の間隔を隔てて周波数選択装置を対向して配置し、その間隔を調整することにより、所望の周波数の反射を小さくすることができる。
【0028】
この発明の別の局面によれば、周波数選択装置に従来型の周波数選択性表面または周波数選択装置を接合し、これらの遮断周波数帯域を周波数選択装置の遮断周波数帯域の近傍となるように調整することにより、周波数選択装置の持つ遮断周波数帯域を広げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一または相当部分を示す。
【0030】
[実施の形態1]
最初に、この発明の実施の形態1に係る周波数選択装置の基本原理について説明する。本発明は、要約すれば、既存の人工誘電体の技術を拡張して適用することによって、これまでの周波数選択性表面の周波数選択性の調整を容易とし、かつ選択性能を向上させるものである。
【0031】
図1は、既存の人工誘電体の構造を概略的に示す図である。なお、本構造は、人工誘電体の一例として、クラウス著、「空中線」、近代科学社、pp.454−458に記載されているように、周知のものである。
【0032】
図1を参照して、人工誘電体200は、通常の非金属の誘電体が、微視的大きさの分子の粒子から構成されるのに対して、巨視的大きさの別々の金属導体10からできている。金属導体10には、球体以外に、ストリップ状や円柱などが含まれる。この金属導体10は、図1に示すように、3次元の格子構造に配列されて、凸レンズを形成する。このような配列は、通常の誘電体物質の結晶格子と類似しており、ただ寸法がはるかに大きいだけである。
【0033】
金属導体10はそれぞれ、波源からの電磁波を受けると、静電誘導によって分極現象を起こし、電界Eの方向に正と負との電荷が誘導される。これらの電荷の効果は、距離lだけ離れた+qおよび−qとの点電荷によって代表することができる。こうして、各金属導体10は、ダイポール能率qlの電気双極子を構成することになる。すなわち、図1に示す金属導体10の配列は、巨視的にみれば、波長より短い間隔をもって連続的に分布することから、電界Eによって分極する誘電体とみなすことができる。
【0034】
ここで、個々の金属導体10については、電界Eに平行方向の大きさlが電磁波の波長の2分の1に等しいときには、金属導体10が共振状態となって大電流が誘起されることが知られている。さらに、金属導体10中の正および負の電荷の移動が電磁波の速度に追いつかないために、位相に遅れが生じる。これらの結果、人工誘電体全体としての等価的な誘電率は、金属導体の大きさlが波長の2分の1近傍では、電磁波の周波数によって大きく変動してしまうこととなる。
【0035】
したがって、この共振の影響を避けるためには、金属導体10の大きさlは、使用周波数における波長の2分の1に比べて小さくなければならない。特に、金属導体10の大きさlが波長の4分の1以下であれば、周波数に依らず、誘電率が安定することが既に見出されている。このため、従来の人工誘電体においては、一般的に金属導体の大きさは、波長の4分の1程度以下となるように設計されている。
【0036】
また、電磁波の伝搬方向に対して隣り合う金属導体10の間隔sについては、回折の影響を避けるために、1波長よりも短いこととされている。
【0037】
このように、従来の人工誘電体は、個々の金属導体で生じうる共振を回避した形状および周波数で使用することによって、全体での等価誘電率を安定的に保とうとするものであった。今回は、これまで避けられていた人工誘電体が共振したときの等価誘電率の変動に着目し、これを周波数選択装置に応用することにより、周波数選択性能を向上させることができた。以下において、周波数選択装置の等価的な比誘電率を求め、これから導き出される周波数選択性について詳細に説明する。
【0038】
本発明に従う周波数選択装置を巨視的に誘電体とみたときの等価的な比誘電率の計算には、図2に示す有限長の金属導体を配列したモデルを用いた。図2に示すように、個々の金属導体は、ストリップ形状とし、長さl=15mm、幅w=0.75mmおよび厚さtを無限小とする。金属導体は、x軸方向およびy軸方向にそれぞれ、Δx=2.25mm,Δy=3mmの間隔で規則的に配列される。さらに、x−y平面上の金属導体を1層として、z軸方向に対して5層配列する。このときの各層の間隔Δzは3mmとする。
【0039】
以上の構造からなる周波数選択装置に入射される入射波は、z軸の負方向に進行する平面波であり、y軸方向のみの電界成分をもち、電界強度Eを1V/mとする。
【0040】
等価比誘電率の算定には、図2に示すモデルに平面波を入射したときに各金属導体に誘導される電流の放射から周波数選択装置の反射波をまず求め、これらから等価比誘電率を計算する手法を用いた。
【0041】
最初に、金属導体に誘導される電流については、図2に示すように、金属導体の長さlをm個(mは2以上の自然数)の要素に分割し、各要素内においてx軸方向およびy軸方向に流れる2つの面電流をモーメント法により導出する。なお、今回の誘導電流の算出については、畠山、林著、「有限長金属円柱の規則的配列による電磁波の反射・透過の数値解法」、電気情報通信学会論文誌B−II、vol.J81−B−II,No.10,pp.983−989,1998年10月に記載される方法を応用している。当該解法では、金属導体を平面上に配列した単層のモデルを用いるが、今回の計算においては、さらにこのモデルを1層とする複数の層(例えば、5層とする)からなるモデルに拡張して実行した点でのみ異なる。よって、算定方法についての詳細な説明については省略する。
【0042】
図3〜図7は、上記の方法によって算出された誘導電流の周波数特性を、周波数選択装置の各層ごとに示したものである。図3〜図7に示す誘導電流は、第1層〜第5層に配列される金属導体の中央を流れる電流にそれぞれ対応する。
【0043】
図3〜図7から明らかなように、各層の誘導電流は絶対値が互いに異なるものの、いずれの層にも共通して9GHz付近にて最大となる結果を得た。ここで、図2に示す金属導体の長さl=15mmは、周波数9GHzにおける電磁波の波長の約2分の1の長さに相当する。よって、個々の金属導体には、共振によって大電流が誘導されるものと判断できる。
【0044】
図8は、上記の誘導電流から求められた5GHzにおける電界分布のz軸に沿う変化である。ここで、実線は金属導体からの散乱波電界を示し、破線は散乱波電界と入射波とを合成した全電界を示す。
【0045】
図8を参照して、z>0の領域(入射側)では、実線は反射波のみを表わし、破線は反射波と入射波との合成によって生じる定在波を表わす。5GHzでは、反射波のレベルが小さいことが分かる。
【0046】
一方、z<0の領域(透過側)では、破線が透過波となる。5GHzでは、透過波の電界強度は1.0V/mとなり、ほぼ透過していることが分かる。
【0047】
図9は、9.5GHzにおける電界分布のz軸に沿う変化である。図8の同様に、実線は散乱波電界を示し、破線は全電界を示す。
【0048】
図9を参照して、z>0の領域では、反射波の電界強度が1V/mと高く、ほぼ全反射されているとみなすことができる。これに対して、z<0の領域では、破線で示される透過波がほぼ0V/mであり、入射波が透過されないという結果を得た。
【0049】
なお、図8および図9に見られる、透過波および反射波の場所による周期的な変動については、電界の計算法によって生じる現象であり、以下に示す反射係数においては、この影響を取り除いて計算を行なった。
【0050】
次に、得られた電界分布から、周波数選択装置の等価比誘電率を求める。等価比誘電率を求めるにあたっては、周波数選択装置を空間に置かれた誘電体の平行板と仮定したときの複素反射係数Γを伝送線路モデルを用いて計算し、得られた複素反射係数Γに基づいて等価比誘電率εを算出することとする。
【0051】
図10に示す伝送線路モデルにおいて、複素反射係数Γは、入射波と反射波との複素振幅の比で表わされる。図8および9に示す散乱波電界のうち入射側に存在する電界は、この構造による反射波となることから、反射波の振幅と位相とが求められる。入射波は、先の電磁界解析において既知であるため、これらから複素反射係数Γを求めることができる。
【0052】
図11は、以上の計算から導出された図2の周波数選択装置における複素反射係数Γの絶対値の周波数特性である。
【0053】
図11を参照して、複素反射係数Γの絶対値は、9GHzを境として、9GHz以下の周波数帯域において、1以下の値を示す。一方、9GHz以上の周波数帯域においてほぼ1を保持する。なお、1以上の値となるのは、計算上の誤差のためである。さらに、9GHz以下の周波数帯域に着目すると、4.5GHz,7.5GHzおよび8.5GHz付近において、複素反射係数Γの絶対値は離散的に0近くまで減少する。これに対して、9GHz以上の周波数帯域では、複素反射係数Γの絶対値は1に固定され、全反射を示している。
【0054】
さらに、得られた複素反射係数Γの周波数特性を用いて、図2に示す周波数選択装置の等価比誘電率を求める。
【0055】
再び図10の伝送線路モデルを参照して、誘電体板の表面から見た正規化入力インピーダンスZinは、誘電体板の比誘電率をε、厚さをdとし、入射波の自由空間での波長をλとすると、式(1)となる。
【0056】
【数1】


【0057】
一方、複素反射係数Γと誘電体板の比誘電率εとの間には、正規化入力インピーダンスZinを用いて、次の関係式が成立する。
【0058】
【数2】


【0059】
したがって、複素反射係数Γから正規化入力インピーダンスZinを求めれば、式(1)からニュートン法によって数値的に比誘電率εを導出することができる。
【0060】
図12は、以上の計算によって得られた、図2の周波数選択装置の等価比誘電率ε(実部)の周波数特性である。
【0061】
図12を参照して、等価比誘電率εは、低い周波数帯域では、1以上の一定値を保つ。このような等価比誘電率εの挙動から、本発明に係る周波数選択装置は、低い周波数帯域において、従来の人工誘電体として捉えることができる。すなわち、周波数選択装置は、薄い誘電体の平行板と考えることができる。ここで、平行板の反射を考えると、第1の界面で反射した波と、一度この板に侵入して板の内部で多重反射するときに、第1の界面を通して出てくる波との合成がこの板の反射波となる。平行板の厚さが波長に対して十分に薄い場合は、森田他著、「マイクロ波アンテナ」、オーム社、pp.127−128に記載されているように、2つの反射波が互いに逆位相となって相殺することにより、反射が小さくなる。したがって、今回の周波数選択装置では、低い周波数帯域における複素反射係数Γが低く抑えられている。
【0062】
さらに、低い周波数帯域から9GHzに至ると、等価比誘電率εは、正側に急激に増加する。これは、図2に示す個々の金属導体の共振によって、誘導電流が急増したことによる。
【0063】
また、等価比誘電率εは、10GHz前後において不連続であり、10GHz以上の周波数帯域においては、負の無限大から増大する。この等価比誘電率εが不連続となる周波数を、この周波数選択装置の共振周波数とする。
【0064】
このような周波数選択装置の等価比誘電率εが負となるときの現象は、地球の大気上層部に位置する電離層に例えることができる。電離層では、比誘電率εが常に1より小さいことから、屈折率が大気の屈折率1よりも低くなるため、大気と電離層との間の波動伝搬においては、斜入射で全反射現象が生じることになる。さらに、プラズマ周波数を臨界周波数として、周波数が臨界周波数以下となれば、比誘電率εは負となる。この結果、伝搬する平面波の波数k=ω(εεμ1/2が純虚数となり、直入射であってもまったく伝搬できず、電磁波はことごとく全反射される。
【0065】
この現象を本周波数選択装置に当てはめると、等価比誘電率εが負となる10GHz以上の周波数範囲では、入射された電磁波は伝搬されずに全反射されると判断できる。
【0066】
また、共振周波数よりも高い周波数帯域において等価比誘電率εが負となる理由については、以下のように説明できる。共振周波数よりも高い周波数帯域では、金属導体に流れる電流の位相に遅れが生じ、電流、つまり電荷の移動によって生じるダイポールモーメントが入射電界と逆位相になる。このため、巨視的に見たときの誘電体の分極が入射電界と逆方向を向くようになり、等価比誘電率εが負の値をとることになる。
【0067】
また、9GHzから10GHzまでの周波数帯域においては、等価比誘電率εが非常に大きくなるために境界面での反射が大きくなり、ほとんど全反射となってしまう。
【0068】
次に、共振周波数以下の低い周波数帯域に着目すると、本周波数選択装置は、前述のように、従来の人工誘電体と同様の挙動を示すとともに、図11の複素反射係数Γの絶対値から明らかなように、4.5GHz,7.5GHzおよび8.5GHzといった特定の周波数において、反射係数が離散的に0近傍に減少する特性を有する。
【0069】
ここで、このような特定の周波数において離散的に0近傍となる反射係数の特性について考察する。
【0070】
先述の文献(森田他著、「マイクロ波アンテナ」)によれば、誘電体の平行板の反射係数Γは、
【0071】
【数3】


【0072】
【数4】


【0073】
となる。ここで、γは比誘電率εの物質との界面へ平面波が垂直入射するときの反射係数、dは平行板の厚さを表わす。
【0074】
式(3)にて反射係数Γが0となるのはsinφ=0のときであり、このときのφは0,π,2π・・・となる。さらに、式(4)によれば、φ=0,π,2π・・・のときの平行板の厚さdは、平行板中の波長λ(=λ/ε1/2)の0.5,1.0,1.5・・・倍に相当する。すなわち、平行板の厚さdが半波長λ/2の整数倍となるときに、誘電体板の反射係数Γが0となり、入射波はすべて透過することになる。なお、波長λは、比誘電率εの誘電体中での波長短縮効果における波長に相当する。
【0075】
本発明に係る周波数選択装置を巨視的に均質な誘電体板とみたとき、実際の誘電体板と同様に、誘電体板の厚さdが半波長λ/2の整数倍に相当する周波数の電磁波は反射が小さくなり、低損失で透過することが予想される。
【0076】
ここで、従来の人工誘電体では、比誘電率εは次式で表わされ、その変化分は、単位体積中の金属導体の数に比例することが分かる。
【0077】
【数5】


【0078】
ここで、εは金属導体を取り囲む物質の比誘電率、nは金属導体個数の密度、αは係数を表わす。周波数選択装置が一定の層数であれば、金属導体個数の密度は、誘電体板の厚さdに反比例することから、比誘電率εは、式(6)に変換される。
【0079】
【数6】


【0080】
一方、比誘電率εによる波長短縮効果は、比誘電率εの平方根に反比例するため、周波数選択装置内部の電磁波の速度vは、
【0081】
【数7】


【0082】
となり、速度vは、誘電体板の厚さdの関数となる。ここで、cは真空中の光速を表わす。一方、前述のように、厚さdが波長のn/2倍のとき、透過波の増大が起こることから、透過周波数と誘電体板の厚さdとの間には以下の関係が成り立つ。
【0083】
【数8】


【0084】
これにより、周波数選択装置の透過損失の小さい周波数は、本構造の厚さdによって変化することが分かる。言い換えれば、本構造の厚さdを変えることによって、透過周波数の調整をすることができる。このことは、従来の周波数選択性表面において、各層に配列される個々の金属導体の形状および配列間隔と層間の間隔とを変化させて透過周波数を調整していたのに対して、より簡便であり、かつ高精度であることは明らかである。
【0085】
また、今回の電磁界解析による計算では、金属導体の導電率を無限大としているが、実際には有限であるため、この導電率による電気抵抗のために熱が発生し、電磁界エネルギーが熱エネルギーに変換される。これは電磁波から見ると損失に相当する。従来の周波数選択性表面では、金属導体の共振周波数を透過周波数に整合させるものであるため、図3〜7に示したように共振時には金属導体に大電流が誘導されることから、必然的に損失が大きくなってしまう。これに対して、今回の周波数選択装置では、透過周波数に共振周波数を選んでいないため、金属導体に誘導される電流が小さく、透過時の損失を抑えることができる。
【0086】
なお、今回の周波数選択装置では、非常に低い周波数帯域、詳細には、本構造の厚さdが、等価比誘電率による波長短縮効果における波長の5分の1以下に相当する周波数において透過する特性が得られた。これは、本構造の厚さdが電磁波の波長に比べて薄くなるため、電磁波がほとんど透過してしまうことによる。
【0087】
図13は、以上の基本原理を実現する周波数選択装置の一例を示す構成図である。
【0088】
図13を参照して、周波数選択装置は、複数の層が積上げられて形成された多層構造であり、各層は、プリント基板20と、該プリント基板上に配列された金属導体10と、スペーサとしての発泡材30とを備える。
【0089】
金属導体10は、プリント基板20にエッチング等によって形成される。金属導体10の形状には、図13に示すストリップ状の他に、矩形または円形の環状のもの、十字型のものなどが含まれる。また、スペーサには、発泡材30の他に、ハニカム材などが含まれる。一方層と他方層との接合には、接着剤が用いられる。
【0090】
以上の多層構造からなる周波数選択装置において、共振周波数は、前述のように、各層の金属導体10の形状と配列間隔とによって決まる。この共振周波数を含む遮断周波数帯域では、電磁波が全反射されるという選択遮断性をもつ。一方、遮断周波数帯域以下の通過周波数帯域においては、本構造全体の厚さが半波長の整数倍に相当する周波数に対して反射を小さくすることができる。本構造全体の厚さは、スペーサである発泡材30の厚さによって調整可能であり、これによって所望の周波数を低損失で透過させることができる。
【0091】
以上のように、この発明の実施の形態1に従えば、周波数選択装置に従来の人工誘電体の技術を適用し、共振周波数以上の周波数範囲にまで拡大することにより、共振周波数を含む遮断周波数帯域の電磁波を選択的に遮断するとともに、遮断周波数帯域よりも低い周波数帯域において、低損失で透過するという周波数選択性を簡易かつ高精度に実現することができる。
【0092】
さらに、透過周波数において金属導体に誘導される電流が小さいことから、従来の周波数選択性表面よりも損失を抑えることができる。
【0093】
[実施の形態2]
実施の形態1では、周波数選択装置の厚さによって透過周波数を調整する構成について提案した。その透過周波数は、周波数選択装置の厚さが半波長の整数倍(=n・λ/2)となる周波数に該当する。
【0094】
ここで、周波数選択装置を使用する用途によっては、さらに、これらの通過周波数帯域のうちのある周波数については遮断することが求められる場合がある。
【0095】
そこで、本実施の形態では、通過周波数帯域のうちの特定の周波数について遮断するという周波数選択性を有する周波数選択装置について提案する。以下に、具体例として、図11に示す透過周波数のうち、7.5GHzについてのみ遮断となる設計を行なった場合について説明する。
【0096】
図14は、この発明の実施の形態2に従う周波数選択装置の模式的な構成図である。
【0097】
図14を参照して、周波数選択装置は、多層構造からなる周波数選択装置40と、スペーサ50を挟んで接合された従来型の周波数選択性表面60とを備える。
【0098】
周波数選択装置40は、実施の形態1で説明したものと同一であり、図13に示すように、プリント基板20上に配列された金属導体10と誘電体板30とを1層として、複数の層が接合されて、厚さdの誘電体板を構成する。
【0099】
従来型の周波数選択性表面60は、単層構造であり、プリント基板60上に正方形環状の金属導体が所定の間隔で配列される。
【0100】
スペーサ50は、発泡材またはハニカム材等や空気層を含み、厚さtとする。
【0101】
図15は、図14に示す周波数選択装置の等価回路図である。
【0102】
図15を参照して、周波数選択装置40は、比誘電率ε=7.26、厚さd=15mmである。周波数選択装置40と厚さl=5mmのスペーサ50を隔てて、従来型の周波数選択性表面60が結合される。従来型の周波数選択性表面60において、7.5GHzを共振周波数となる設計を行なう。設計には、文献(R.J.Langley and E.A.Parker, “Equivalent circuit model for arrays of square Loop,” Electorn. Lett. Vol.18, No.7 pp.294-296, 1982)に記載される等価回路モデル(LC直列回路)を用いた。以下の計算でパラメータはすべて特性インピーダンスが1Ωとなるように正規化した。本文献に従えば、従来型の周波数選択性表面における金属導体の形状および配列間隔(p=14.178mm,s=0.9906mm,d=12.4714mm,g=2.0066mm)のとき、等価回路モデルの回路定数は、L=0.01065nH,C=0.04261nFが計算される。これらの回路定数から、等価回路モデルのアドミタンスは、Y=−4.9802×10jSとなる(j:虚数単位)。したがって、従来型の周波数選択性表面60のみの縦続行列は、
【0103】
【数9】


【0104】
となる。また、長さlのスペーサ50の縦続行列は、
【0105】
【数10】


【0106】
で表わされる。さらに、周波数選択装置40は、比誘電率ε(=7.26)で厚さd(=15mm)の誘電体板とみなすことができるため、その縦続行列は、
【0107】
【数11】


【0108】
となる。縦続行列の各々のパラメータに数値を代入してこれらの積を求めると、
【0109】
【数12】


【0110】
が得られる。透過係数τは、
【0111】
【数13】


【0112】
で与えられることから、式(12)を用いて透過係数τの絶対値は、4.352×10となる。以上の計算結果から、図15に示す周波数選択装置は、周波数7.5GHzにおいて遮断となる周波数選択性を持つことが確認された。
【0113】
以上のように、この発明の実施の形態2によれば、周波数選択装置に所定の間隔を持って従来型の周波数選択性表面を接合し、周波数選択性表面の共振周波数と当該間隔とを調整することによって、周波数選択装置の透過周波数の一部を遮断するという周波数選択性を容易に実現することができる。
【0114】
[実施の形態3]
本実施の形態では、周波数選択性能を向上させる第2の設計例として、図11に示す実施の形態1の周波数選択装置の周波数選択性に、6GHzにおける反射が小さくなるという特性を付加する設計を行なう。
【0115】
図16は、この発明の実施の形態3に従う周波数選択装置の模式的な構造図である。
【0116】
図16を参照して、周波数選択装置は、所定の間隔を隔てて対面する2個の周波数選択装置40を備える。
【0117】
2つの周波数選択装置40の各々は、実施の形態1の図13に示したものと同一である。すなわち、金属導体10が配列されたプリント基板20と該基板上の誘電体板30とを1層として、複数の層が積上げられた構造を有する。以下においては、周波数選択装置40の厚さをそれぞれd1,d2とする。なお、本周波数選択装置単独での6GHzにおける反射係数は、0.634である。
【0118】
2つの周波数選択装置の間には、スペーサ50として、厚さsの発泡材またはハニカム材などが配される。スペーサ50の比誘電率はε=1.0とする。
【0119】
図17は、図16に示す周波数選択装置の等価回路図である。6GHzの反射が小さくなるように2個の周波数選択装置40の間隔sを調整した。その結果、間隔s=21mmにおいて、反射係数が0.0883(=−21dB)となり、十分反射が小さいことが示された。詳細な計算について以下に示す。
【0120】
周波数選択装置の縦続行列は、
【0121】
【数14】


【0122】
で与えられ、間隔21mmの空間の縦続行列は、
【0123】
【数15】


【0124】
で与えられる。図16に示す周波数選択装置を表わす縦続行列は、これらの縦続行列の積から求めることができ、
【0125】
【数16】


【0126】
となる。反射係数Γは、
【0127】
【数17】


【0128】
で与えられることから、本構造における反射係数Γは、周波数6GHzにおいて、絶対値が0.083となり、反射が小さくなることが分かる。
【0129】
[変更例1]
前述の実施の形態は、2枚の周波数選択装置を所定の間隔を隔てて配置することにより、特定の周波数の反射を小さくするものであった。この特定の周波数は、2枚の周波数選択装置の間隔を変えることによって調整される。
【0130】
ここで、このような周波数選択性は、同じ周波数選択装置を2枚使う以外に、いずれか一枚を通常の誘電体板とすることによっても得られることが予想される。
【0131】
そこで、図16に示す周波数選択装置の第1の変更例として、その構成の一方を通常の誘電体板とし、上述と同様の周波数選択性(6GHzの反射を小さくする)を実現する設計を行なった。設計には、プリント基板に用いられるガラス繊維強化エポキシ樹脂板(比誘電率ε=4.5)を通常の誘電体板として採用した。計算結果から、厚さ18mmの通常の誘電体板を、間隔12mmを隔てて周波数選択装置に対向して配置したときに、6GHzにおける反射係数が0.056(=−25dB)となり、反射が小さくなることが確認された。
【0132】
詳細には、周波数選択装置の縦続行列は、前述と同様であり、
【0133】
【数18】


【0134】
で与えられる。また、間隔12mmの空間の縦続行列は、
【0135】
【数19】


【0136】
で与えられる。さらに、通常の誘電体板の縦続行列は、
【0137】
【数20】


【0138】
となる。これらを用いると周波数選択装置全体の縦続行列は、
【0139】
【数21】


【0140】
となる。反射係数Γは、
【0141】
【数22】


【0142】
で与えられることから、式(20)を代入すると、6GHzにおける反射係数Γ=0.056を得る。
【0143】
[変更例2]
さらに、図16に示す周波数選択装置の第2の変更例として、その構成の一方を従来型の周波数選択性表面とし、上述と同様の周波数選択性(6GHzの反射を小さくする)を実現する設計を行なった結果を示す。なお、従来型の周波数選択性表面についてのアドミタンスの計算には、先の実施の形態2で用いた等価回路モデルを使用した。
【0144】
まず、対向する一方の周波数選択装置の入力インピーダンスZin0は、Zin0=0.243975−0.182336jΩとなる。これを5.1mm離れた位置からみた入力インピーダンスZinおよび入力アドミタンスYinは、それぞれ、Zin=0.28699+0.45064jΩ,Yin=1.0054−1.5787jSとなる。
【0145】
従来型の周波数選択性表面は、図14に示す周波数選択性表面60と同様であり、6GHzにおける等価回路モデルのアドミタンスYは、Y=1.6009jSとなる(但し、p=23.144mm,s=0.9906mm,d=21.074mm,g=2.0066mmとする)。
【0146】
このため、従来型の周波数選択性表面から見た入力アドミタンスYは、Y=1.0054+0.0222jSとなる。このときの反射係数の絶対値は0.0114(=−38.9dB)であり、十分反射が相殺された状態であるといえる。
【0147】
以上のように、この発明の実施の形態3に従えば、1枚の周波数選択装置に所定の間隔を隔てて周波数選択装置を対向して配置し、その間隔を調整することにより、所望の周波数の反射を小さくすることができ、簡易に周波数選択性能を向上させることが可能になる。
【0148】
なお、対向させる一方を周波数選択装置に限らず、通常の誘電体板もしくは従来型の周波数選択性表面で構成することによっても、同様の効果を得ることができる。
【0149】
[実施の形態4]
先の実施の形態では、周波数選択装置は、その共振周波数よりも高い周波数において等価比誘電率が負を示し、電磁波を全反射する周波数選択性を持つことを示した。
【0150】
ところが、実験上では、共振周波数以上の周波数で高周波になるにつれ、共振の影響が小さくなることによって再び等価比誘電率が正となり、電磁波を透過し始めることが確認された。
【0151】
ここで、周波数選択装置の用途によっては、この透過し始める周波数をより高くすること、すなわち、遮断周波数の帯域を広げることが求められる場合がある。
【0152】
そこで、本実施の形態では、遮断周波数帯域を広げるための検討を実験的に行ない、新たな周波数選択性を持つ周波数選択装置について提案する。
【0153】
図18は、本実施の形態に用いる周波数選択装置を模式的に示す全体構成図である。図18(a)は、金属導体10の形状を示す図であり、図18(b)は、全体構成図である。
【0154】
図18(b)を参照して、周波数選択装置40は、1枚のプリント基板(ガラスエポキシ基板)20上に間隔cを持って配列された複数の金属導体10を1層として、合計4層が、誘電体板(発泡ポリプロピレン板)30を層間に挟んで積み重ねられた構造である。なお、プリント基板20の厚さは1.6mmであり、誘電体板30の厚さは3mmである。
【0155】
個々の金属導体10の形状は、図18(a)に示すように、正方形環状であり、一辺の長さa=4.741mm、幅b=0.289mmとする。また、金属導体10の配列間隔c=5.927mmとする。
【0156】
以上の構成からなる周波数選択装置40について、透過係数を実測した結果を図19に示す。
【0157】
図19を参照して、透過係数は、9GHz付近から急激に減少しており、共振周波数の影響を受けていることが分かる。さらに、透過周波数は、9GHz以上の周波数範囲で次第に減少していくものの、16GHz付近で再び急増し、9GHz以下の低周波帯域での特性に近づいていくという結果が得られた。すなわち、本周波数選択装置では、遮断周波数帯域は、9GHzから16GHzまでの周波数範囲であるといえる。
【0158】
ここで、図19の周波数特性において、さらに遮断周波数帯域を高周波側に広げることを考える。これには、図18の周波数選択装置に対して、さらに従来型の周波数選択性表面を接合させる検討を行なった。
【0159】
図20は、本実施の形態に従う周波数選択装置の模式的な全体構成図である。
【0160】
図20を参照して、周波数選択装置40の上部には、スペーサ50を介して、従来型の周波数選択性表面60が接合される。スペーサ50には、厚さ3mmの発泡ポリプロピレン板が使用されている。また、従来型の周波数選択性表面60は、図示は省略するが、プリント基板上に図18(a)と同様の正方形環状の金属導体(a=3.533mm,b=0.2275mm)が、配列間隔c=4.426mmを保って配列される。この従来型の周波数選択性表面の単独での透過特性は、透過係数が最小となる周波数が16.64GHzである。
【0161】
図21は、図20に示す周波数選択装置について、透過係数を実測した結果である。
【0162】
図21から明らかなように、本構造において遮断周波数帯域は、9GHzから18GHz付近までに及び、図19に見られた16GHzにおける透過係数の立上りがより高周波側に遷移したことが分かる。
【0163】
なお、本実施の形態では、遮断周波数帯域を高周波側に広げるための構造について説明したが、周波数選択装置40の遮断周波数帯域よりも低い周波数を阻止特性の中心周波数とする、従来型の周波数選択性表面60を接合させることによって、遮断周波数帯域を低周波側に広げることも可能である。また、従来型の周波数選択性表面ではなく、遮断周波数の異なる周波数選択装置でもよい。なお、これらの接合される周波数選択性表面または周波数選択装置の遮断周波数は、周波数選択装置40の遮断周波数帯域の上限周波数の1.1倍以下、または下限周波数の0.9倍以上の周波数を遮断する特性を持つことが望ましい。
【0164】
以上のように、実施の形態4によれば、周波数選択装置に従来型の周波数選択性表面または周波数選択装置を接合し、これらの遮断周波数帯域を周波数選択構造の遮断周波数帯域の近傍となるように調整することにより、周波数選択装置の持つ遮断周波数帯域を広げることができる。
【0165】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1】既存の人工誘電体の構造を概略的に示す図である。
【図2】周波数選択装置の電磁界解析に用いた有限長金属導体を配列したモデルである。
【図3】第1層に配列される金属導体に誘導される電流の周波数特性である。
【図4】第2層に配列される金属導体に誘導される電流の周波数特性である。
【図5】第3層に配列される金属導体に誘導される電流の周波数特性である。
【図6】第4層に配列される金属導体に誘導される電流の周波数特性である。
【図7】第5層に配列される金属導体に誘導される電流の周波数特性である。
【図8】誘導電流から求められた5GHzにおける電界分布のz軸に沿う変化である。
【図9】9.5GHzにおける電界分布のz軸に沿う変化である。
【図10】図2の周波数選択装置の伝送線路モデルである。
【図11】計算から導出された図2の周波数選択装置における複素反射係数Γの絶対値の周波数特性である。
【図12】計算によって得られた図2の周波数選択装置の等価比誘電率ε(実部)の周波数特性である。
【図13】本実施の形態の基本原理を実現する周波数選択装置の一例を示す全体構成図である。
【図14】この発明の実施の形態2に従う周波数選択装置の模式的な全体構成図である。
【図15】図14に示す周波数選択装置の等価回路図である。
【図16】この発明の実施の形態3に従う周波数選択装置の模式的な全体構造図である。
【図17】図16に示す周波数選択装置の等価回路図である。
【図18】本実施の形態に用いる周波数選択装置を模式的に示す全体構成図である。
【図19】図18に示す周波数選択装置40について、透過係数を実測した結果である。
【図20】本実施の形態に従う周波数選択装置の模式的な全体構成図である。
【図21】図20に示す周波数選択装置について、透過係数を実測した結果である。
【図22】周波数選択性表面の原理を説明するための構成図である。
【図23】多層構造からなる周波数選択性表面の等価回路図である。
【符号の説明】
【0167】
10,100 金属導体、20 プリント基板、30,110 誘電体板、40 周波数選択装置、50 スペーサ、60 周波数選択性表面。
【出願人】 【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
【識別番号】503005180
【氏名又は名称】畠山 賢一
【出願日】 平成16年1月26日(2004.1.26)
【代理人】 【識別番号】100064746
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 久郎

【識別番号】100085132
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 俊雄

【識別番号】100083703
【弁理士】
【氏名又は名称】仲村 義平

【識別番号】100096781
【弁理士】
【氏名又は名称】堀井 豊

【識別番号】100098316
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 久登

【識別番号】100109162
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 將行

【公開番号】 特開2005−210016(P2005−210016A)
【公開日】 平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願番号】 特願2004−17404(P2004−17404)