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【発明の名称】 電磁波ノイズ抑制体及び電磁波ノイズ制御電子機器
【発明者】 【氏名】川口 利行
【住所又は居所】東京都中央区日本橋本町4丁目3番5号 信越ポリマー株式会社内

【氏名】権田 貴司
【住所又は居所】東京都中央区日本橋本町4丁目3番5号 信越ポリマー株式会社内

【氏名】田原 和時
【住所又は居所】東京都中央区日本橋本町4丁目3番5号 信越ポリマー株式会社内

【要約】 【課題】パワーロス値が大きく電磁波ノイズ抑制効果に優れ、小型、軽量で、可撓性があり、堅牢な電磁波ノイズ抑制体および、電磁波ノイズを抑制した電子機器を提供する

【解決手段】有機高分子基体の表層に強磁性体が物理的に蒸着されてなり、蒸着された強磁性体の原子が表層近傍の有機高分子基体内部に部分的に潜り込んで三次元的に分散してなる電磁波ノイズ抑制層が形成され、1GHzにおけるパワーロス値が0.3〜0.65であることを特徴とする電磁波ノイズ抑制体、及び該電磁波ノイズ抑制体が電子部品あるいは電子部品群の少なくとも一部を覆ってなる電磁波ノイズ制御電子機器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子基体の表層に強磁性体が物理的に蒸着されてなり、蒸着された強磁性体の原子が表層近傍の有機高分子基体内部に部分的に潜り込んで三次元的に分散してなる電磁波ノイズ抑制層が形成され、1GHzにおけるパワーロス値が0.3〜0.65であることを特徴とする電磁波ノイズ抑制体。
【請求項2】
電磁波ノイズ抑制層の厚みが0.03〜20μmであることを特徴とする請求項1記載の電磁波ノイズ抑制体。
【請求項3】
蒸着された強磁性体の質量が、強磁性体単品の膜厚換算値で0.5〜200nmであることを特徴とする請求項1または2記載の電磁波ノイズ抑制体。
【請求項4】
真空下または不活性ガス雰囲気下における前記有機高分子基体を構成する有機高分子の分解温度および蒸発温度のいずれよりも低い温度において、前記有機高分子の剪断弾性率が1×10〜1×10Paである請求項1〜3のいずれか1項記載の電磁波ノイズ抑制体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電磁波ノイズ抑制体からなるシートの少なくとも一方の面に、熱伝導性充填剤を含有する熱伝導シートを積層してなることを特徴とする熱伝導シート付き電磁波ノイズ抑制体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁波ノイズ抑制体が電子部品あるいは電子部品群の少なくとも一部を覆ってなる電磁波ノイズ制御電子機器。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁波ノイズ抑制体が、印刷回路板を有する電子機器の少なくとも一つの印刷回路板の少なくとも一方の面の一部又は全面に設けられてなることを特徴とする電磁波ノイズ制御電子機器。
【請求項8】
印刷回路板がフレキシブル印刷回路板であることを特徴とする請求項7記載の電磁波ノイズ制御電子機器。
【請求項9】
少なくとも印刷回路板と印刷回路に信号を伝達する電気コネクタとを有し、該請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁波ノイズ抑制体が、該電気コネクタの少なくとも一部に積層されていることを特徴とする電磁波ノイズ制御電子機器。
【請求項10】
電気コネクタがフレキシブルコネクタである請求項9記載の電磁波ノイズ制御電子機器。
【請求項11】
下面に請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁波ノイズ抑制体が積層された押釦スイッチ用キートップ部材を用いてなることを特徴とする電磁波ノイズ制御電子機器。
【請求項12】
クリック部材を配列したクリックシートと、クリックシート上に設けられたキートップとを有し、クリックシートの一方の面に請求項1〜5のいずれか1項の電磁波ノイズ抑制体が積層されてなる押釦スイッチ用キートップ部材を有することを特徴とする電磁波ノイズ制御電子機器。
【請求項13】
少なくとも一方の面に請求項1〜5のいずれか1項に記載の電磁波ノイズ抑制体が積層されたプレフォーム用インサートシートを用いてなる電磁波ノイズ制御電子機器。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、強磁性体を用いた電磁波ノイズ抑制体及び電磁波ノイズ制御電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット利用をはじめとして、パソコン、自動車のエレクトロニックコントロールユニット、光モジュールや携帯電話あるいは携帯情報端末、高度道路情報システム、ブルートゥ−ス、無線LANなどGHz帯の高いクロック周波数を持つCPUや高周波バスを利用した電子機器や電波を利用した情報通信機器が普及してきており、ユビキタス社会が訪れてきている。しかし、これら情報機器の普及に伴って、これら情報機器から放射される電磁波がもたらす、他の電子機器への誤作動や、人体への影響が問題とされてきている。そのため、他の電子機器や人体に影響を与えないように、電磁波をできるだけ放出しないこと、外部から電磁波を受けても誤作動しないことが求められ、電子機器に対し、電磁波を反射あるいは吸収する電磁波遮蔽を施す電子機器間の遮蔽(inter-system EMC)が行われている。また、電子機器内の電子部品や回路が互いに影響を及ぼして、誤作動を起こすのを抑制したり、処理スピードの遅れや信号波形の乱れを抑制したりするため、電子部品や回路を電磁波ノイズ抑制体で覆う対策(intra-system EMC)が行われている。
【0003】
電子機器、特に携帯可能な電子機器は、多機能、高性能化、小型化、軽量化が求められ、電磁波吸収においても同様で、堅牢で吸収効率がよく、小スペースで軽量であるものが求められている。
【0004】
電磁波ノイズ抑制体としては、従来から行われている強磁性体の扁平粉をポリマー中に高充填した電磁波体のほか、準マイクロ波帯(0.3〜10GHz)で、薄型の抑制体として効果のあるフェライトメッキ技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
このフェライトメッキ技術による抑制体は、鉄、ニッケル、亜鉛の塩化物の反応液と硝酸ナトリウムと酢酸アンモニウムからなる酸化液を、回転基板上に載せたポリイミドシート上に3μm厚のフェライト化合物をスピンスプレー法でメッキして形成したものであり、従来の金属フレーク微粒子をポリマー中に分散した50μm厚のシート型電磁ノイズ抑制体と比較し、厚みが薄いにもかかわらず、同じ吸収特性を示し、小型電子機器への応用上有利とされている。
【0005】
また、アルミナセラミック相と鉄、コバルト強磁性超微結晶相とを含んでなる超微結晶磁性膜からなる電磁波吸収体の提案もある(例えば、非特許文献2参照。)。
この提案は、強磁性元素とセラミック元素を高周波マグネトロンスパッタリングで基板上に製膜し、低温でアニールすることにより高抵抗のセラミック層中に強磁性体からなる超微結晶を析出させ、さらに膜抵抗が上昇するようにスリット(スリット幅は、0.5mmと2.5mmの2種が示されている。)を形成し、分割してなる1μm厚の電磁波ノイズ抑制体に関するものであり、優れたノイズ抑制効果があるとされている。
【非特許文献1】阿部正紀ら、「第131回研究会資料」 日本応用磁気学会、2003年7月4日、P25〜31
【非特許文献2】大沼繁弘ら、「第131回研究会資料」 日本応用磁気学会、2003年7月4日、P17〜24
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1記載の電磁波ノイズ抑制体は強磁性体の厚みが3〜11μmであり、Fig.8に見られるように、この抑制体の1GHzにおけるパワーロス値は、厚いものでも0.2程度であり、準マイクロ波の低周波部分での抑制効果が高いと言うものではない。
また、強磁性体の厚みが厚くなると、ポリイミド上に形成したフェライトは硬く、有機結合剤が含まれていないので堅牢性、可撓性も充分とはいえない。さらに、湿式で加工するものであるから、不純物の洗浄や乾燥を必要とし、手間を要するため産業上満足のいくものではなかった。
【0007】
また、非特許文献2の電磁波ノイズ抑制体においては、50μm厚の複合磁性材体を基本とする電磁波ノイズ抑制シートと同様の吸収特性を示し、1GHzにおけるパワーロス値は0.2程度であり、実効的な周波数帯域で抑制効果があるとは言えない。またセラミック相中に強磁性超微結晶を生成させるためには熱処理が必要とされ、磁性薄膜の抵抗を大きくするため、フォトリソグラフィー法やダイシングソーでマイクロスリットを形成しなければならず、手間を要するものである。また薄膜セラミックスであるためクラックが生じやすく、可撓性や堅牢性が高いというものではない。
【0008】
このような状況から、電子機器や電子部品などに、組み込み応用が容易で、電磁波吸収特性が良く、小型、軽量で、可撓性があり、堅牢な電磁波ノイズ抑制体は、未だ満足のいくものがなく、電子機器の使用する周波数は高周波化しており、準マイクロ波帯、特には1GHz近辺に抑制効果のあるものが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記状況に鑑み、本発明者らは、量子効果があるとされる、強磁性体の原子状態からなる超微粒子分散を検討し、電磁波ノイズ抑制効果に優れ、小型、軽量で可撓性があり、堅牢な電磁波ノイズ抑制体に到達した。
すなわち、本発明の電磁波ノイズ抑制体は、有機高分子基体の表層に強磁性体が物理的に蒸着されてなり、蒸着された強磁性体の原子が表層近傍の有機高分子基体内部に部分的に潜り込んで三次元的に分散してなる抑制層が形成され、1GHzにおけるパワーロス値が0.3〜0.65であることを特徴とする。
又、本発明の熱伝導シート付き電磁波ノイズ抑制体は、前記電磁波ノイズ抑制体からなるシートの少なくとも一方の面に、熱伝導性充填剤を含有する熱伝導シートを積層してなることを特徴とする。
【0010】
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は前記電磁波ノイズ抑制体が電子部品あるいは電子部品群の少なくとも一部を覆ってなることを特徴とする。
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は前記電磁波ノイズ抑制体が、印刷回路板を有する電子機器の少なくとも一つの印刷回路板の少なくとも一方の面の一部又は全面に設けられてなることを特徴とする。
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は前記電磁波ノイズ抑制体が、印刷回路板を有する電子機器の印刷回路に信号を伝達する電気コネクタに積層されていることを特徴とする。
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は下面に前記電磁波ノイズ抑制体が積層された押釦スイッチ用キートップ部材を用いてなることを特徴とする。
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器はクリック部材を配列したクリックシートと、クリックシート上に設けられたキートップとを有し、クリックシートの一方の面に前記電磁波ノイズ抑制体が積層されてなる押釦スイッチ用キートップ部材を有することを特徴とする。
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は少なくとも一方の面に前記電磁波ノイズ抑制体が積層されたプレフォーム用インサートシートを用いてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パワーロス値が大きく電磁波ノイズ抑制特性に優れ、小型、軽量で、可撓性があり、堅牢な電磁波ノイズ抑制体および、電磁波ノイズを制御した電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の電磁波ノイズ抑制体は、電磁波を吸収する電磁波吸収体の中で、例えば、パーソナルコンピュータ、携帯電話等の電子機器内の高密度実装された電子機器要素から機器内に放射された電磁波による電磁波干渉を抑制するなど、電磁波のノイズを抑制する抑制体に関する。
本発明の電磁波ノイズ抑制体に用いられる強磁性体としては、金属系軟磁性体および/または、酸化物系軟磁性体および/または、窒化物系軟磁性体が主に用いられるが、これらは1種単独で用いてもよいし、これらの2種以上を混合して用いてもよい。
金属系軟磁性体としては、鉄および鉄合金が一般的に用いられ、鉄合金として具体的にはFe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al及びFe−Al−Si、Fe−Pt合金を用いることができる。これらの金属系軟磁性体は1種単独で用いてもよいし、2種以上の組合せを用いてもよい。鉄および鉄合金のほかにコバルトやニッケルの金属あるいはそれらの合金を用いてもよい。ニッケルは単独で用いた場合は酸化に対して抵抗力があるので好ましい。
【0013】
酸化物系軟磁性体としてはフェライトが好ましい。具体的にはMnFe、CoFe、NiFe、CuFe、ZnFe、MgFe、Fe、Cu−Zn−フェライト、Ni−Zn−フェライト、Mn−Zn−フェライト、BaCoFe1222、BaNiFe1222、BaZnFe1222、BaMnFe1222、BaMgFe1222、BaCuFe1222、BaCoFe2441を用いることができる。これらのフェライトは1種単独で用いても良いし、2種以上を組合せて用いてもよい。
窒化物系軟磁性体としては、FeN、FeN、FeN、Fe16などが知られている。これらの窒化物系軟磁性体は透磁率が高く、耐食性が高いので好ましい。
【0014】
有機高分子基体として用いられる有機高分子は、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリシロキサン系樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂や、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムなどのジエン系ゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなどの非ジエン系ゴムなどが挙げられる。これらは熱可塑性であってもよく、熱硬化性であってもよく、その未硬化物であってもよい。また、該有機高分子は上述の樹脂、ゴムなどの変性物、混合物、共重合物であってもよい。
【0015】
本発明の電磁波ノイズ抑制体においては、有機高分子基体の表層に強磁性体が物理的に蒸着されてなる。
物理蒸着法(PVD)での各種成膜方法は、真空にした容器の中で薄膜形成物質を何らかの方法で気化させ、近傍に置いた基板上に堆積させて薄膜を形成する方法である。
物理蒸着法を薄膜物質の気化方法で分類すると、蒸発系とスパッタ系に分けられ、蒸発系にはEB蒸着、イオンプレーティング、スパッタ系には高周波スパッタリング、マグネトロンスパッタリング、対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングなどが挙げられる。
【0016】
EB蒸着は、蒸発粒子のエネルギーが1eVと小さいので、基板のダメージが少なく、膜がポーラスになりやすく、膜強度が不足する傾向があるが、強磁性体膜の固有抵抗は高くなるという特徴がある。
イオンプレーティングはアルゴンガスや蒸発粒子のイオンは加速されて基板に衝突するため、EBよりエネルギーは大きく、付着力の強い膜を得ることができる。ドロップレットと呼んでいるミクロンサイズの粒子が多数付着してしまうと放電が停止してしまう。また、酸化物系強磁性体を成膜するには、酸素などの反応性ガスを導入しなければならず、膜質コントロールが難しい反面、バイアス電圧を上げることにより1KeVまで原子状超微粒子を加速させることができる。
【0017】
マグネトロンスパッタリングは、磁界の影響で強いプラズマが発生するため成長速度が速い特徴があるが、ターゲットの利用効率が低い。バイアスを掛けた場合は数百eVまでエネルギーをあげることができる。
高周波スパッタリングでは絶縁性のターゲットを使用することができ、バイアスを掛けることにより同様に数百eVのエネルギーを持つことができる。
マグネトロンスパッタリングのうち対向ターゲット型マグネトロンスパッタリングは、対向するターゲット間でプラズマを発生させ、対向するターゲットの外に基板を置き、プラズマダメージを受けることなく所望の薄膜を生成する方法である。そのため、基板上の薄膜を再スパッタすることなく、成長速度がさらに速く、スパッタされた原子が衝突緩和することがなく、緻密なターゲット組成物と同じ組成のものを生成することができ、通常8eV以上の高いエネルギーを持っている。
【0018】
図1に、有機高分子表層に強磁性体が物理的に蒸着された状態の電磁波ノイズ抑制体の模式図を示す。
本発明の電磁波ノイズ抑制体は、有機高分子基体(1)上に強磁性体(3)が物理的に蒸着されているが、基体である有機高分子基体(1)の表層近傍の有機高分子基体内部に強磁性体(3)の原子が部分的に潜り込んで三次元的に分散し、均質膜を形成していない電磁波ノイズ抑制層(2)を形成している。
【0019】
すなわち、一般的には強磁性体(3)が硬質な有機高分子基体(1)の表面のみに蒸着されると、蒸着量が増えるにつれて強磁性体の連続層が形成されて、電磁波を反射しやすくなる。
これに対して図1に示す電磁波ノイズ抑制体では、軟質の有機高分子基体(1)の表層から0.03〜20μmの範囲にわたって強磁性体(3)の原子が部分的に潜り込んで三次元的に分散し、均質膜を形成していない電磁波ノイズ抑制層(2)が形成されている。このように電磁波ノイズ抑制層(2)が形成されていると、有機高分子内に分散した強磁性体(3)は連続層を形成し難くなり、電磁波の反射を生じせしめず、また電磁波を透過させなくなる。
【0020】
この構造は以下の理由により形成されると推測される。
代表的な有機化合物の共有結合エネルギーは約4eVであり、具体的には例えばC−C、C−H、Si−O、Si−Cの結合エネルギーはそれぞれ3.6、4.3、4.6、3.3eVである。これに対して、バイアスイオンプレーティング、バイアスマグネトロンスパッタや対向ターゲット型マグネトロンスパッタでは、上述のように高いエネルギーを持っているので、有機高分子基体(1)を構成する有機高分子の一部の化学結合を切断し、衝突する。従って、スパッタ後の基体表面には図1に示すように、例えば5μm以上の凹凸が形成され、強磁性体(3)の原子が、有機高分子基体(1)の表面から内部に部分的に進入し、電磁波ノイズ抑制層(2)を形成することができる。これは、高エネルギーの強磁性体原子の基体表面への衝突等により強磁性体原子と有機高分子の局部的なミキシング作用が生じたためと推測される。
このように、粒子エネルギーが5eV以上である強磁性体微粒子を有機高分子基体上に物理的に蒸着すると、一度に大量の強磁性体を分散させることができるので好ましい。すなわち、一度の蒸着で、強磁性体の質量を稼ぐことができることから、電磁波ノイズ抑制効果に優れた電磁波ノイズ抑制体を容易に得ることができるため、好ましい。
【0021】
電磁波ノイズ抑制層(2)の厚みは高分子基体の表層に強磁性体が浸入した深さであり、0.03〜20μmであることが好ましい。この電磁波ノイズ抑制層(2)の厚みは強磁性体の質量と高分子基体材質、物理的蒸着条件などに依存するが、これを0.03μm以上とすることにより、充分な電磁波ノイズ抑制効果を示すことができる。またこの厚みを20μmを超える厚みとしてもそれ以上の電磁波ノイズ抑制効果の向上はなく、強磁性体の質量をむやみに増やすことになり蒸着時間が長くなり、また物理蒸着における粒子エネルギーを高める高度な装置が必要となり、物理蒸着コストがそれだけ高くなるので好ましくない。
【0022】
また、強磁性体(3)が従来行われているようなミクロンレベルの大きさである場合、優れた電磁波吸収特性を得るために、大量かつ高密度に強磁性体を使用し、厚く重い電磁波ノイズ抑制体を用いる必要があるが、強磁性体(3)を例えばナノグラニュラー構造のようにナノメーターレベル(1〜50nm)まで超微粒子化すると、ミクロンレベルの粒子の場合とは特性が異なり、透磁率が大きくなり、吸収帯域が広がることが知られている。従って、優れた電磁波吸収特性を得るために、従来のように大量かつ高密度に強磁性体を使用し、厚く重い電磁波吸収シートを用いる必要がなくなる。
【0023】
理論的には明らかではないが、少ない質量の軟磁性体を蒸着することによって、ナノグラニュラーのような量子効果や材料固有の磁気異方性、形状磁気異方性、あるいは外部磁界による異方性などが関係するため、電磁波ノイズ抑制効果の指標であるパワーロス値を大きな値とすることができる。
ここでパワーロス値は、次式で求められ、0〜1の値をとり、伝送特性のS11とS21の変化を図9のようにして調べ求めることができる。
パワーロス値(Ploss/Pin)=1−(│Γ│+│Τ│
S11=20log│Γ│
S21=20log│Τ│
【0024】
即ち、本発明の電磁波ノイズ抑制体の1GHzにおけるパワーロス値が0.3〜0.65であることを特徴とし、0.4〜0.65であることが好ましい。
パワーロス値は、電磁波ノイズ抑制機能の反射・透過特性の総合的な指標であって、反射減衰量、透過減衰量が実使用上で実効的な値である必要がある。電磁波ノイズ抑制体であることから反射減衰量が少なくとも透過減衰量よりも大きく、反射減衰量が6dBより大きく、透過減衰量が3dBより大きいこと、即ちパワーロス値では0.3以上が必要である。これより小さいと充分な電磁波ノイズ抑制特性を有しているということはできない。更には反射減衰量が10dBより大きく、透過減衰量が3dBより大きいこと、即ち、パワーロス値では0.4以上が好ましい。反射減衰量と透過減衰量の双方が10dB以上であれば、充分な電磁波ノイズ抑制効果がある。一方、パワーロス値を0.65を超える値にすることは、特性向上の点から期待されるものではあるが、電磁波ノイズ抑制体中の強磁性体の選択や樹脂と蒸着条件の選択を如何に検討しても、現状の技術では1GHzにおいて0.65を超えるパワーロス値のものを得ることは達成できていない。
この電磁波ノイズ抑制体のパワーロス値を0.3〜0.65にするためには、
i)電磁波ノイズ抑制体の作製にあたって、高エネルギーでの物理蒸着を行うことにより、ナノメーターレベルに微粒子化した強磁性体粒子を蒸着すること、
ii)物理蒸着にあたって、強磁性体超微粒子が有機高分子基体の表面から有機高分子基体内部に部分的に潜り込んで三次元的に分散して電磁波ノイズ抑制層を形成すること、
の2点を基本とし、物理蒸着条件、強磁性体蒸着量等を適宜選択することにより達成できる。
図8、図9、図10に見られるように従来の電磁波ノイズ抑制体のパワーロス特性カーブは、1GHz近傍では周波数の上昇につれてのパワーロス値の上昇率が比較的小さく、1GHzを超えたある周波数から周波数の上昇につれてのパワーロス値の上昇率が高くなって、1GHzより高周波側で線の傾きが変化する変曲点を有する、下に凸のカーブとなっている。これに対して本発明の電磁波ノイズ抑制体のパワーロス特性カーブは、1GHzよりも低い周波数から急激に立ち上がり、その後、1.5GHz付近あるいは2GHzを超えてから上昇率が鈍化する、上に凸のカーブとなっている。このため、本発明の電磁波ノイズ抑制体は実効的であるとされる1GHz付近でのパワーロス値が大きくなり、有効である。
【0025】
電磁波ノイズ抑制体が大きなパワーロス値を有するためには、物理蒸着にあたって、強磁性体超微粒子が有機高分子基体の表面から有機高分子基体内部に潜り込む必要があり、そのためには、該有機高分子の剪断弾性率が低いことが好ましい。有機高分子の剪断弾性率が低いと、有機高分子基体への強磁性体の物理的蒸着時に、強磁性体原子が有機高分子基体内に侵入あるいは有機高分子との衝突により、有機高分子が変形し、流動や運動が起こることにより、有機高分子基体表層の0.03〜20μmの層にわたり分散しやすくなる。
【0026】
図2aは強磁性体を蒸着した有機高分子基体の表面状態を示すレーザー顕微鏡画像であり、表面には凹凸が見られる。図2bではその断面形状を計測しており、突起の高さは約6μmである。一方、図3aは蒸着前の表面状態を示すレーザー顕微鏡画像であるが、蒸着前の表面は平坦である。図3bではその断面形状を計測しており、平均表面粗さは0.05μmである。図2、図3から、蒸着により、有機高分子が変形や流動を起こしていることが伺われる。
以上の観点から、物理的蒸着時には、有機高分子の剪断弾性率が、1×10〜1×10(Pa)であることが好ましく、1×10〜1×10(Pa)であることがより好ましく、1×10〜1×10(Pa)であることがさらに好ましい。
【0027】
物理的蒸着時には、所望の剪断弾性率にするために必要ならば有機高分子を例えば100〜300℃に加熱することもできるが、分解や蒸発が起きない温度に加熱することが必要である。常温で物理的蒸着を行う時には、特に加熱を必要とするものではないが、この常温で物理蒸着する対象となる有機高分子としては、おおよそゴム硬度50〜60°(JIS−A)以下の弾性体が挙げられる。
【0028】
また、プラズマ化あるいはイオン化された強磁性体原子が入り込みやすい分子間空隙の広さを示す指標として、ガス透過率を用いることができる。本来は、前記した強磁性体元素の大きさに等しいアルゴンガス、クリプトンガスが透過率を確認することに都合がよいが、ガス透過率の測定には一般的でないため、例えば炭酸ガスの透過率データで代用することができる。常温での炭酸ガス透過率の大きな有機高分子として、1×10−9[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)]以上のポリフェニレンオキサイド、ポリメチルペンテン、ナイロン11、ハイインパクトポリスチレンなどのゴム成分との混合物や共重合物、1×10−8[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)]以上のポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、シリコーンゴムなどが挙げられる。剪断弾性率の点からもシリコーンゴムなどのゴム類は特に好ましい。
【0029】
また、強磁性体超微粒子の酸化を防止する観点からは、酸素透過性の低いものが良く、1×10−10[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)]以下のポリエチレン、ポリトリフルオロクロロエチレン、ポリメチルメタクリレートなどやさらには1×10−12[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)]以下のポリエチレンテレフタレート、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。さらに、プラズマ化あるいはイオン化された強磁性体原子が、有機高分子と一部反応し、安定化するように、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ノニオン系界面活性剤、極性樹脂オリゴマーなどを配合することは、酸化防止のほか、原子の凝集によるところの均質膜の形成を防止し、反射特性を改善することができる。
このほか、補強性フィラーや難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤、着色剤、チクソトロピー性向上剤、可塑剤、滑剤、耐熱向上剤などを適宜添加して構わないが、硬質なものを配合すると、強磁性体原子がこれに衝突し、十分な分散が行われないことがあるので、注意が必要である。
【0030】
該有機高分子の膜厚は薄い方がよく、1〜200μm程度とされる。有機高分子の膜が単独では薄くて、あるいは使用温度域での剪断弾性率が小さくて、ハンドリングが困難な場合は、別に該有機高分子を担持する支持層を設けることができる。支持層は前記した高分子基体と同等のものであっても良いが、金属箔や可撓性のあるセラミックス箔などで、有機高分子基体の有機高分子より剛性が高く、剪断弾性率の高いものがよい。その支持層の厚さは薄いものがよく、50μm以下が好ましく、25μm以下がさらに好ましい。さらには厚い剥離性のある支持体を付着せしめ、ハンドリング終了時にはこれを剥離してしまうことも可能である。
【0031】
図4に強磁性体が物理的に蒸着された有機高分子の断面状態のSEM像を示す。これは、前記した表面の突起状部を除く、ベース部分の断面を観察したものであり、約45重量%の湿式シリカなどの無機フィラーを含む弾性体に30nm厚相当の強磁性体を蒸着して、表層のスキン層に40nm厚の電磁波ノイズ抑制層が形成されている。このように強磁性体が、電磁波ノイズ抑制層に分散されているため、ナノグラニュラー構造を形成するための再加熱等による強磁性体の再結晶をはかる後処理の必要がない。
【0032】
強磁性体として、特に鉄、ニッケル、コバルトなどやその合金などの金属系軟磁性体を用いた場合、金属系軟磁性体が凝集して均質膜を形成するように蒸着されていると、金属系軟磁性体の固有抵抗が小さいので、渦電流が発生して電磁波吸収効果がなくなり、むしろ反射機能がでてくるため、電子回路や電子部品からの電磁波を吸収できずに、反射してしまい、電子回路等に逆に影響を与えてしまう。したがって、金属系軟磁性体を有機高分子基体(1)上に物理的に蒸着する場合は、特に、均質な強磁性体膜を形成しないようにすることがよい。膜の表面抵抗(直流抵抗)はおおよそ1×10〜1×1010Ω/□であることが好ましい。
【0033】
前述の物理蒸着法により原子状態になった強磁性体元素は、おおよそ数Åのサイズである。
一方、有機高分子は、金属やセラミックスと異なり分子間に空隙を有しており、飛ばされた強磁性体原子は、この空隙に入り込み微小なクラスターや非常に薄い薄膜粒子を形成すると考えられるが、一平面に堆積して連続した薄膜を形成することがなく、三次元的に分散する。このため、蒸着量が少ない場合は、容易に超微粒子が独立して、良導通を示さない状態になり易い。
さらに、強磁性体の超微粒子が有機高分子基体の内部に深く入り込むことが可能となると、一度の蒸着で蒸着量が多くても容易に分散し、均質膜となることがないので、加工時間の手間を省き、大きなパワーロス値を得ることができる。
【0034】
強磁性体の蒸着質量は、強磁性体単品の膜厚換算値で0.5〜200nmが好ましく、200nmより厚いと高分子基体の包含能力に達し、分散できずに堆積し、均質な導通性を有する連続した膜が生成してしまう。それゆえ、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下がよい。一方、電磁波ノイズ抑制効果の点からは0.5nm以上であることが好ましい。この蒸着質量は、ガラス、シリコン等の硬質基板上に堆積した厚みを測定することによって求められる。
【0035】
蒸着された強磁性体は、電磁波ノイズ抑制層中に分散されており、該電磁波ノイズ抑制層の厚みは、強磁性体単品の膜厚換算値よりも厚くなる。その測定は前記したように、断面のSEM像から算出してもよく、薄層ずつプラズマエッチングをしながら放出された化合物を分析するESCA分析などにより解析することもできる。
蒸着質量が小さくなると、電磁波ノイズ抑制効果が低減するものであるから、電磁波ノイズ抑制層を複数層積層することにより、適宜、電磁波ノイズ抑制体に占める強磁性体の総質量を増やすことができる。この総質量は要求される抑制レベルにもよるが、おおよそ総合の膜厚換算値で10〜500nmがよい。電磁波ノイズ抑制層の厚みは積層された各層の和とすることができる。その積層数は特に限定されるものではないが、複数積層した有機高分子基体を含む全体の厚みは、おおよそ20〜200μm程度となるのが好ましい。
【0036】
また、積層電磁波ノイズ抑制体においては、電磁波ノイズ抑制層の厚みを変えたり、抑制層中の強磁性体の質量を変えたりしてもよい。例えば、電磁波ノイズ抑制効果があるといえども、ある程度の反射が起こり、電磁波を放射した電子回路や電子部品に影響を与えることがあるので、積層する各電磁波ノイズ抑制層の強磁性体の質量を、電子部品側の層から徐々に増して、傾斜的に配置するなど、極力反射を抑えることも可能である。また、機械的な応力や高分子表層へのオリゴマーの拡散膨潤による電磁波ノイズ抑制層中の強磁性体の分割により絶縁化を図ることも可能である。
【0037】
本発明の熱伝導シート付き電磁波ノイズ抑制体に用いられる熱伝導シートは熱伝導性充填剤を含有するシートであり、熱伝導性充填剤としては、銅やアルミニウム等の金属、アルミニウムやインジウムなどの低融点合金、アルミナ、シリカ、マグネシア、ベンガラ、ベリリア、チタニア等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の金属窒化物、或いは炭化ケイ素などを用いることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0038】
熱伝導性充填剤の平均粒子径は0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。
粒径が0.1μm未満の場合には、粒子の比表面積が大きくなりすぎて高充填化が困難となる。粒径が100μmを超える場合には、熱伝導シートの表面に微小な凹凸が現れ、熱的な接触抵抗が大きくなるおそれがある。
熱伝導性充填剤の含有量は充填剤の種類にもよるが、10〜85vol%とすることが好ましい。10vol%未満では、必要とする熱伝導性が得られない場合があり、85vol%を超えると、シートが非常に脆いものとなってしまうおそれがある。
熱伝導シートを構成するシートの材質は特に限定されるものではないが、耐熱性、耐候性等の点からシリコーンゴム、ウレタンゴム等が好ましく用いられる。
この熱伝導シート付き電磁波ノイズ抑制体は、パワートランジスタやサイリスタのような発熱性半導体の放熱用途に特に効果がある。
【0039】
本発明の電磁波ノイズ抑制体は種々の電子機器の電子部品から発生する電磁波によるノイズを抑制することができる。即ち電子機器が有する電子部品の中、他からの電磁波により誤作動を起こすおそれのある電子部品や電磁波を発生して他の電子部品に誤作動を起こすおそれのある電子部品を本発明の電磁波ノイズ抑制体で覆って、電子部品から発生する、あるいは電子部品に影響を与えようとする電磁波ノイズを制御することができる。このような電子機器としては、信号を発信、受信あるいは受発信する機器であればどのような電子機器も対象となる。即ち、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は、該電子機器の有する電子部品あるいは電子部品群の少なくとも一部を上記電磁波ノイズ抑制体が覆ってなることを特徴とする。
【0040】
本発明の電磁波ノイズ制御電子機器は、上記電磁波ノイズ抑制体が、印刷回路板を有する電子機器の少なくとも一つの印刷回路板の少なくとも一方の面の一部又は全面に設けられてなることを特徴とする。
即ち、印刷回路板の両面全体、あるいは片面全体を覆っていてもよく、両面あるいは片面の一部を覆っていてもよい。印刷回路板上に設けられている電子部品から発生する電磁波が同じ印刷回路板上の他の電子部品に悪影響を与えるものでなければ、全体を電磁波ノイズ抑制体で覆って、外部からの電磁波を吸収してもよい。
又、印刷回路板上の電子部品から発生する電磁波が同じ印刷回路板上の他の電子部品に悪影響を与えるものであれば、その悪影響を与える電磁波を発生する電子部品以外を例えばシールドボックスあるいは電磁波ノイズ抑制体で覆って、かつ、その悪影響を与える電磁波を発生する電子部品を個別に電磁波ノイズ抑制体で覆ってもよい。
本発明の電磁波ノイズ抑制体は可撓性を有するため、上記印刷回路板がフレキシブル印刷回路板である場合に、印刷回路板が応力により変形しても印刷回路板の変形に容易に追従してしっかりと電子部品を覆うことができるので特に適している。
【0041】
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器が少なくとも印刷回路板と印刷回路に信号を伝達する電気コネクタとを有するものであって、前記電磁波ノイズ抑制体が、該電気コネクタの少なくとも一部に積層されていると、電気コネクタに及ぼす外部からの電磁波による誤作動を惹き起こす信号の侵入を防止できる。この場合も本発明の電磁波ノイズ抑制体は可撓性を有するため、電気コネクタがフレキシブルコネクタであると、外部応力によりフレキシブルコネクタが変形してもその変形に容易に追従してしっかりとフレキシブルコネクタを覆うことができるので特に適している。
上記のような電子機器の例として携帯電話機、カメラ付き携帯電話機等を例示できる。
【0042】
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器としては、下面に前記電磁波ノイズ抑制体が積層された押釦スイッチ用キートップ部材を用いた電磁波ノイズ抑制電子機器を挙げることができ、このような押釦スイッチ用キートップ部材の具体例としては、押圧部を設けた加飾シートの下面に前記電磁波ノイズ抑制体が積層されてなる押釦スイッチ用キートップ部材を挙げることができる。
前記加飾シートの材料としては、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、アクリル、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレンなど熱可塑性の樹脂が選択されるが、印刷性や成形加工性等を考慮するとポリエステル、ポリカーボネート、アクリル及びそれらのアロイ、共重合物が好ましい。
この加飾シートは必要に応じてシートの所定の位置に文字、記号、絵柄等の必要な印刷を施しておくことができる。この印刷は従来ある印刷方法を用いればよく、特に限定されるものではない。さらには塗装、メッキ、蒸着、ホットスタンプ、レーザーマーキング等の手法を用いて装飾を行っておいてもよい。
【0043】
前記押圧部は加飾シートに絞り加工などにより凹部を設け、その凹部に樹脂、エラストマ等を充填してもよく、平板状の加飾シートの一方の面に樹脂、エラストマ等からなる押釦スイッチ状の成型体を接着してもよい。
加飾シートの凹部に充填されるあるいは加飾シート上に設けられる樹脂またはエラストマとしては、特に限定されるものではない。
電磁波ノイズ抑制体は押圧部を設けた加飾シートの下面に積層される。加飾シートに設けられた凹部に樹脂、エラストマ等を充填したものの場合は、凹部に充填された樹脂エラストマ等の底面と、加飾シートの凹部を有する側の面を共に覆う様に電磁波ノイズ抑制体が積層される。
加飾シート上に押釦スイッチ状の成型体が設けられたものの場合は加飾シートが設けられた面とは反対側の面に電磁波ノイズ抑制体が積層される。
【0044】
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器としては、クリック部材を配列したクリックシートと、クリックシート上に設けられたキートップとを有し、クリックシートの一方の面に前記電磁波ノイズ抑制体が積層されてなる押釦スイッチ用キートップ部材を有する電子機器を挙げることができる。
このような押釦スイッチ用キートップ部材の具体例としては、クリック部材が上に凸のドーム状で、ドーム状クリック部材内面(クリックシート下面)の少なくとも上部に導電性の被膜からなる可動接点が設けられ、キートップを押圧したときにクリック部材が変形して、例えばその下に配置された印刷配線基板上の固定接点に接触可能となっているものを挙げることができる。
電磁波ノイズ抑制体はクリックシートのキートップ側の面に積層されていてもよく、キートップ側と反対側の面に積層されていてもよい。キートップ側と反対側の面に積層されている場合は、電磁波ノイズ抑制体は前記可動接点と電気的に絶縁状態にある様に設けられる。即ち、可動接点のある部分を除いたクリックシート表面に電磁波ノイズ抑制体が積層されていてもよく、クリックシート下面の全面に電磁波ノイズ抑制体が積層され、電磁波ノイズ抑制体の表面のうち、ドーム状クリック部材内面の少なくとも上部に絶縁被膜を介して可動接点を設けてもよい。電磁波ノイズ抑制体が可動接点と電気的に絶縁されていると、キースキャンの際に他のキーとの干渉を抑制することができる。電磁波ノイズ抑制体がドーム状クリック部材の一方の面全面にわたって設けられているとミリ波帯域での電磁波の漏れを防止することができる。
クリックシートは押圧による変形性、押圧力解除時の反発による復元性、成型性等の点から例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂が好ましい。可動接点を構成する材料としては、導電性材料であれば特に限定されないが、銀、銅、カーボン等からなるものが好ましく用いられる。
【0045】
又、本発明の電磁波ノイズ制御電子機器としては、少なくとも一方の面に前記に記載の電磁波ノイズ抑制体が積層されたプレフォーム用インサートシートを用いてなるものを挙げることができる。
プレフォーム用インサートシートはAV機器のフロントパネル、自動車の計器パネル、押釦などに用いられる成形品の表面に形成されるものであり、透光性基材と、透光性印刷層を有するものである。即ち、透光性基材の一方の面に透光性印刷層を有していてもよく、透光性印刷層を間に挟んで2枚の透光性基材層が積層されていてもよい。本発明のプレフォーム用インサートシートは押釦スイッチに用いられる成形品の表面に形成されるものとして特に有効である。
透光性基材の一方の面に透光性印刷層を有するインサートシートの場合は、電磁波ノイズ抑制体は透光性印刷層と異なる面に積層されているのが好ましく、透光性印刷層を間に挟んで2枚の透光性基材層が積層されている場合はどちらの面に積層されていてもよい。
電磁波ノイズ抑制体の透光性基材と反対側の面に導電層を設けるのが好ましい。導電層としては、金属箔、金属蒸着膜、印刷された導電ペースト等を例示できる。この導電層を設けることにより、電磁波を反射させ、外に逃さない、反射波を再吸収することができる、共振のQを小さくすることでアンテナ効果を抑制することができる、金属光沢層の機能をも有することができるなどの効果を有する。
【実施例】
【0046】
以下に、実施例を用いて、本発明をさらに詳しく説明する。
(評価)
表面観察:キーエンス製レーザー顕微鏡VK−9500により、倍率4000倍で、表面を観察した。
表面抵抗:ダイアインスツルメンツ製MCP−T600により、測定電圧10Vで直流4端子法で測定した。測定点数5点の平均値で示した。
電磁波ノイズ抑制層の厚み測定:日本電子製走査電子顕微鏡(SEM)JEM−2100Fを用い、電磁波ノイズ抑制体からなるシートの断面電子顕微鏡写真(倍率50000倍)から測定した。
電磁波吸収特性:キーコム製近傍界用電波吸収材料測定装置を用い、Sパラメータ法によるS21(透過減衰量)とS11(反射減衰量)を測定した。ネットワークアナライザーは、アンリツ製ベクトルネットワークアナライザー37247Cを用い、50Ωのインピーダンスを持つマイクロストリップラインのテストフィクスチャーにはキーコム製のTF−3Aを用い、図11に示す測定システムで測定した。
また、1GHzにおけるS21とS11から1GHzにおけるパワーロス値を求めた。
【0047】
(実施例1)
支持体として12μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム上に、有機高分子として20μm厚のシリコーンゴム(常温の剪断弾性率1×10(Pa)、常温の炭酸ガス透過率2.2×10−7[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)]、湿式シリカ含有)を設け、この上に、膜厚換算で30nmのFe−Ni系軟磁性金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタ法により、基板温度を常温に保ち、8eVの粒子エネルギーを持つようわずかに負の電圧を印加し、スパッタを行った。電磁波ノイズ抑制体の表面抵抗を注意深く直流4端子法で測定し、所望の大きさに整え、総厚32μmの電磁波ノイズ抑制体を得た。スパッタ前後の表面観察を行い、次いで得られた試料の一部をミクロトームで薄片にし、断面にイオンビームポリシャーを施し、電磁波ノイズ抑制層の厚みを計測し、電磁波吸収特性の測定を行った。
結果のまとめを表1に、表面観察結果を図2a、図2b、図3a、図3bに、電磁波ノイズ抑制層の断面観察を図4に、0.05〜3GHzのパワーロス特性を図5に示す。
【0048】
(実施例2)
支持体として6μm厚のポリイミドフィルム上に、有機高分子として25μm厚のアクリル系粘着材(綜研化学製 商品名1604N)(常温の剪断弾性率6×10(Pa)、常温の炭酸ガス透過率2×10−8[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)])を設け、この上に、膜厚換算で30nmのFe−Ni系軟磁性金属を、バイアスマグネトロンスパッタ法により、基板温度を常温に保ち、10eVの粒子エネルギーを持つようバイアス電圧を調整しスパッタを行い、総厚72μmの電磁波ノイズ抑制体を得た。以下実施例1と同様に表面抵抗、電磁波ノイズ抑制層の厚みと電磁波吸収特性を測定した。
結果のまとめを表1に、0.05〜3GHzのパワーロス特性を図6に示す。
【0049】
(実施例3)
有機高分子基体として70μm厚のポリアクリロニトリルシート(常温の剪断弾性率1.7×10(Pa)、160℃の剪断弾性率1.5×10(Pa)、常温の炭酸ガス透過率5.3×10−8[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)]、常温の酸素ガス透過率2.8×10−15[cm(STP)cm/(cm×s×cmHg)])を設け、この上に、膜厚換算で50nmのNi金属を、対向ターゲット型マグネトロンスパッタ法により、基板温度を160℃とし、100eVの粒子エネルギーを持つようバイアス電圧を調整しスパッタを行い、総厚100μmの電磁波ノイズ抑制体を得た。以下実施例2と同様に表面抵抗、電磁波ノイズ抑制層の厚みと電磁波吸収特性を測定した。
結果のまとめを表1に示す。0.05〜3GHzのパワーロス特性を図7に示す。
【0050】
(比較例1)
表面を酸化させ不導体膜を有した扁平状のFe−Ni系軟磁性金属粉(平均粒径15μm、アスペクト比65)94質量部に、ポリウレタン樹脂5質量部、硬化剤としてイソシアネート化合物1質量部、溶剤(シクロヘキサノンとトルエンの1:1混合物)30質量部を加えたペーストを乾燥後の厚みが0.51mmとなるよう、バーコート法で塗布して膜を形成し、十分乾燥させた後、真空加熱プレスし、85℃で24時間キュアリングして膜厚0.5mmの電磁波ノイズ抑制体を得た。次いで、実施例2と同様に表面抵抗、電磁波ノイズ抑制層の厚みと電磁波吸収特性を測定した。
結果のまとめを表1に、0.05〜3GHzのパワーロス特性を図8に示す。
【0051】
(比較例2)
高周波マグネトロンスパッタ装置を用い、酸素流入下でCo−Fe−Alターゲットを用い、0.6mm厚のガラス板上に2.5μmのアモルファス膜を造膜した。次いで19894A/m(250Oe)の磁場を印加して300°に加熱し、金属結晶を析出させた。
透過型電子顕微鏡観察から、金属結晶の径が数nmのグラニュールと絶縁性酸化物からなるナノグラニュラー構造を有すること確認した。実施例2と同様にして表面抵抗と電磁波ノイズ抑制層の厚みを測定し、膜を2.5mm間隔でダイシングソー(刃厚:0.15mm)により分割して絶縁化し、電磁波吸収特性を測定した。
結果のまとめを表1に、0.05〜3GHzのパワーロス特性を図9に示す。
【0052】
(比較例3)
塩化第一鉄(16.6mmol/l)と、塩化第一ニッケル(15.3mmol/l)と塩化亜鉛(0.18mmol/l)からなる水溶液と、硝酸ナトリウム(5mmol/l)と酢酸アンモニウム(65mmol/l)からなる酸化液とをそれぞれ50ml/分の流量で、厚さ50μmのポリイミドフィルム上にスピンスプレーコートし、ニッケル亜鉛フェライトメッキ膜厚が15μmになるまで、約15時間コートした後、水洗して試料を得た。この試料を用い、実施例2と同様に表面抵抗、電磁波ノイズ抑制層の厚みと電磁波吸収特性を測定した。
結果のまとめを表1に、0.05〜3GHzのパワーロス特性を図10に示す。
【0053】
【表1】


【0054】
表1において、PETはポリエチレンテレフタレート、PIはポリイミド、SRはシリコーンゴム、ACはアクリル系粘着剤、PANはポリアクリロニトリルシート、PUはポリウレタンを示す。
【0055】
表1から、1GHzにおけるパワーロス値が実施例1〜3では0.3以上であり、比較例1〜3では0.3未満、特に比較例1では0.1を下回っていた。つまり、実施例では、実効果が高いとされる1GHz周辺の準マイクロ波帯での電磁波ノイズ抑制効果が高いことがわかる。さらに、実施例では電磁波ノイズ抑制層の厚みが極めて薄く、電磁波ノイズ抑制層厚みに対するパワーロス値は比較例とは格段に差があり、比較例1等と比べた場合、実施例は4桁程度も大きいことがわかった。
実施例を示す図5〜7から、3GHzでのパワーロス値は、総じて同様で、0.8程度であったが、比較例を示す図8、図9はこれよりも小さく、0.5程度であった。
また、周波数が高くなるにつれてのパワーロス値の立ち上がり方は、実施例を示す図5では、0.5GHzでのパワーロス値が0.2程度、1GHzでは0.6程度という立ち上がり方を示し、図6では、0.5GHzでのパワーロス値が0.4程度、1GHzでは0.6程度という立ち上がり方を示し、図7では、0.5GHzでのパワーロス値が0.3程度、1GHzでは0.6程度という立ち上がり方を示している。つまり、実施例を示す図では、総じて1GHz前後までのパワーロス値の立ち上がりが急激に進む傾向を示している。これに対して比較例を示す図8では、0.5GHzでのパワーロス値が0.03程度、1GHzでも0.1程度という立ち上がり方であり、図9では0.5GHzでのパワーロス値が0.04程度、1GHzでは0.1程度という立ち上がり方であり、図10では0.5GHzでのパワーロス値が0.1程度、1GHzでは0.28程度という立ち上がり方である。つまり、比較例では総じて1GHz前後までにおいてパワーロス値がなだらかな上昇をとる傾向を示している。
なお、実施例では、支持体と同様の可撓性のある、薄く軽い電磁波ノイズ抑制体であったが、比較例は厚く、重く、脆い電磁波ノイズ抑制体であった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の電磁波ノイズ抑制体は、他からの電磁波により誤作動を起こすおそれのある電子機器や電磁波を発生して電子機器の有する他の電子部品や他の電子機器に誤作動を起こすおそれのある電子部品を有する電子機器に適用すると特に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】有機高分子基体上に強磁性体が物理的に蒸着された状態の模式図を示す図である。
【図2】(a)強磁性体が物理的に蒸着された有機高分子の表面状態のレーザー顕微鏡画像である。(鳥瞰図、一辺が73.5μm)(b)強磁性体が物理的に蒸着された有機高分子の断面形状を計測したレーザー顕微鏡画像である。
【図3】(a)強磁性体が物理的に蒸着される前の有機高分子の表面状態を示すレーザー顕微鏡画像である。(鳥瞰図、一辺が73.5μm)(b)強磁性体が物理的に蒸着される前の有機高分子の断面形状を計測したレーザー顕微鏡画像である。
【図4】強磁性体が物理的に蒸着された有機高分子の断面状態のSEM像である。
【図5】実施例1の周波数範囲0.05〜3GHzにおける電磁波ノイズ抑制体のパワーロス特性を示す。
【図6】実施例2の周波数範囲0.05〜3GHzにおける電磁波ノイズ抑制体のパワーロス特性を示す。
【図7】実施例3の周波数範囲0.05〜3GHzにおける電磁波ノイズ抑制体のパワーロス特性を示す。
【図8】比較例1の周波数範囲0.05〜3GHzにおける電磁波ノイズ抑制体のパワーロス特性を示す。
【図9】比較例2の周波数範囲0.05〜3GHzにおける電磁波ノイズ抑制体のパワーロス特性を示す。
【図10】比較例3の周波数範囲0.05〜3GHzにおける電磁波ノイズ抑制体のパワーロス特性を示す。
【図11】伝送特性の測定システムを示す。
【符号の説明】
【0058】
1:有機高分子、 2:電磁波ノイズ抑制層、 3:強磁性体
4:支持体、 5:マイクロストリップライン
6:ネットワークアナライザー

【出願人】 【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
【住所又は居所】東京都中央区日本橋本町4丁目3番5号
【出願日】 平成15年9月29日(2003.9.29)
【代理人】 【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武

【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男

【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆

【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和

【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義

【識別番号】100107836
【弁理士】
【氏名又は名称】西 和哉

【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦

【公開番号】 特開2005−101474(P2005−101474A)
【公開日】 平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願番号】 特願2003−338422(P2003−338422)