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【発明の名称】 5〜6GHz帯域の高周波を吸収する電磁波吸収体とその製造方法
【発明者】 【氏名】齋藤 章彦
【住所又は居所】愛知県名古屋市南区大同町二丁目30番地 大同特殊鋼株式会社技術開発研究所内

【氏名】田中 伸明
【住所又は居所】愛知県名古屋市南区大同町二丁目30番地 大同特殊鋼株式会社技術開発研究所内

【要約】 【課題】

【解決手段】その電磁波吸収体は、
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス;および
前記マトリックスに充填され、少なくとも表層部が電気伝導性を有し、かつ、D50値で表される粒径が3〜20μmである粉末から成る電磁波吸収体であって、
前記マトリックスに充填される前記粉末の充填体積割合は、前記電磁波吸収体が吸収すべき帯域の周波数における複素比透磁率(μ”)を前記充填体積割合(V)で除算した値として表される規格値が、用いられる粉末のD50値が前記粒径範囲内にある限り一定となるように設定されることを特徴とする、5〜6GHz帯域の高周波を吸収する電磁波吸収体。
【請求項2】
前記規格値は、用いる粉末の種類に関わらず、電磁波吸収体の厚みとマトリックスに充填される粉末の充填体積割合とに対応して、3〜20の範囲内の一定値に設定される、請求項1の電磁波吸収体。
【請求項3】
前記粉末は、軟磁性粉末からなる、請求項1の電磁波吸収体。
【請求項4】
前記軟磁性粉末が、Fe−Cr−Si系、Fe−Cr系、Fe−Cr−Al系、またはFe−Si−Al系のいずれか1種又は2種以上である、請求項2の電磁波吸収体。
【請求項5】
前記粉末の電気抵抗率が10000μΩ・cm以下である、請求項1〜4のいずれかの電磁波吸収体。
【請求項6】
電磁波吸収体の厚み、マトリックスに充填される粉末の充填体積割合および規格値(該規格値は、電磁波吸収体が吸収すべき5〜6GHz帯域の周波数における複素比透磁率(μ”)を充填体積割合(V)で除算した値として表される)の相関関係マップを予め準備し、
前記相関関係マップから、目標とする規格値と、決定した電磁波吸収体の厚みに対応する充填体積割合(V)を決定し、
マトリックスと前記決定した充填体積割合(V)の粉末とを混練し、
得られた混練物を成形することを特徴とする、5〜6GHz帯域の高周波を吸収する電磁波吸収体の製造方法。
【請求項7】
前記規格値は、用いる粉末の種類に関わらず、電磁波吸収体の厚みとマトリックスに充填される粉末の充填体積割合(V)とに対応して、3〜20の範囲内の一定値に設定される、請求項6の電磁波吸収体の製造方法。
【請求項8】
前記粉末は、軟磁性粉末からなる、請求項6の電磁波吸収体の製造方法。
【請求項9】
前記軟磁性粉末が、Fe−Cr−Si系、Fe−Cr系、Fe−Cr−Al系、またはFe−Si−Al系のいずれか1種又は2種以上である請求項8の電磁波吸収体の製造方法。
【請求項10】
前記粉末の電気抵抗率が10000μΩ・cm以下である、請求項6〜9のいずれかの電磁波吸収体の製造方法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は電磁波吸収体とその製造方法に関する。更に詳しくは、5〜6GHzという選択された高周波帯域において安定した電磁波吸収特性を発揮するように設計されている電磁波吸収体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばゴムや各種の樹脂のようなマトリックスと軟磁性粉末との混練物を、例えばロール圧延してシート形状に成型した材料は、電磁波吸収体として実使用されている。この電磁波吸収体は、各種の電気・電子機器に組み込まれて、これら機器から発生したり、また他の機器などから伝播してくる電磁波ノイズを吸収し、機器が誤動作することなどを防止している。
【0003】
最近の動向として、電気・電子機器とそのシステムの駆動に関しては、使用する信号の高周波化が進められている。例えば、室内無線LANの構築には、5GHz帯域の利用が検討されており、またETCシステムやDSRC(狭域通信)の分野では5.8GHz帯域が現に利用されている。
このようなことから、これらシステムに組み込まれている電磁波吸収体に関しても、高周波帯域で高い電磁波吸収特性を発揮することが要求されている。
【0004】
このようなことに対処すべく、例えば、高周波帯域で使用可能な電磁波吸収体として、例えば平均粒径3μm以下の軟磁性粉末を、マトリックスであるポリプロピレンに25〜40体積%充填した電磁波吸収シートが開示されている(特許文献1を参照)。
ところで、電磁波は、周波数的にみると非常に広い領域にまで及んで利用されている。そのため、電磁波吸収体も、それが使用される分野の利用周波数に対応して優れた吸収特性を発揮することが必要になってくる。すなわち、全ての周波数帯域で優れた吸収特性を発揮することは電磁波吸収体にとって必ずしも必要ではなく、選択されたある特定の周波数帯域における吸収特性に優れていることにより、その周波数帯域を利用するシステムにとってその電磁波吸収体は有用であるということになる。
【特許文献1】特開2003−60383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、5〜6GHz帯域の高周波に対して優れた吸収特性を発揮するように設計された電磁波吸収体とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、本発明においては、
マトリックス;および
前記マトリックスに充填され、少なくとも表層部が電気伝導性を有し、かつ、D50値で表される粒径が3〜20μmである粉末から成る電磁波吸収体であって、
前記マトリックスに充填される粉末の充填体積割合は、前記電磁波吸収体が吸収すべき帯域の周波数における複素比透磁率(μ”)を前記充填体積割合(V)で除算した値として表される規格値が、用いる粉末のD50値が前記粒径範囲内にある限り一定となるように設定されることを特徴とする、5〜6GHz帯域の高周波を吸収する電磁波吸収体が提供される。
【0007】
また、本発明においては、電磁波吸収体の厚み、マトリックスに充填される粉末の充填体積割合および規格値(該規格値は、電磁波吸収体が吸収すべき5〜6GHz帯域の周波数における複素比透磁率(μ”)を充填体積割合(V)で除算した値として表される)の相関関係マップを予め準備し、
前記相関関係マップから、目標とする規格値と、決定した電磁波吸収体の厚みに対応する充填体積割合(V)を決定し、
マトリックスと前記決定した充填体積割合(V)の粉末とを混練し、
得られた混練物を成形することを特徴とする、5〜6GHz帯域の高周波を吸収する電磁波吸収体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電磁波吸収体は、用いている粉末が少なくとも表層部が電気伝導性を有し、かつD50値が3〜20μmであり、またマトリックスへの充填体積割合(V)は、μ”/Vが3〜20となるように決められているので、5〜6GHz帯域への高周波を吸収する電磁波吸収体として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明者らは、マトリックスと軟磁性粉末との混練物を成形して得られた電磁波吸収体における吸収特性の周波数依存性は、主として、マトリックスに分散して充填されている軟磁性粉末の粒径、その充填体積の割合、更には電磁波吸収体の厚みなどの因子の影響を受けるという経験的事実に着目した。
そして、これら因子が吸収特性に与える影響について調べた。その結果、次のような事が明らかとなった。
【0010】
まず、軟磁性粉末のマトリックスへの充填体積割合が同じで、かつ製造した電磁波吸収体の厚みも同じである場合には、粒径が小さい軟磁性粉末を用いるほど、粉末に起因する損失特性のピークは高周波帯域側にシフトすることが判明した。
また、用いる粉末の粒径が同じであれば、粉末の充填体積割合が大きい電磁波吸収体は、傾向的に、高周波帯域における粉末に起因する損失特性が低下する。
【0011】
更に、電磁波吸収体の厚みを薄くすると、その吸収特性のピークは高周波帯域側にシフトする傾向が認められた。
そして、成形される電磁波吸収体の厚みは、粉末の充填体積割合によっても左右されることが明らかとなった。
なお、ここでいう充填体積割合は次のような値として定義される。すなわち、製造された電磁波吸収体の体積を1とした場合、この電磁波吸収体に占める軟磁性粉末の体積のことをいう。
【0012】
今、これをVで表示すれば、V値は1より小さい値になり、用いたマトリックスの体積とこのV値との和は、事実上、1になるという関係にある。
ここで「事実上」といったのは、成形した電磁波吸収体には、マトリックスと粉末の混練時に混入する大気などによって気泡も存在しているが、実際問題として、これら気泡の占有体積は無視できるほど微小であるからである。
【0013】
上記した知見によれば、軟磁性粉末としてある一定粒径の粉末を用いて電磁波吸収体を製造した場合、その吸収特性は、粉末の充填体積割合で大きく規定されることになる。
ところで、電磁波吸収体の場合、入射した電磁波により、充填されている軟磁性粉末の表面に渦電流が流れる。そして当該粉末は抵抗発熱する。すなわち、入射電磁波のエネルギーの一部は、渦電流損として粉末に吸収されて熱エネルギーに変換して消費される。見方を変えれば、入射電磁波のエネルギーは、渦電流が流れる粉末が存在することにより損失したことになる。
【0014】
したがって、この損失が大きい電磁波吸収体であればあるほど、その入射電磁波に対する吸収特性は優れていることを意味する。そして、一般に、吸収特性の優劣は、電磁波吸収体の複素比透磁率の虚部(μr”)の大小で判定されている。
そこで、本発明者らは、電磁波吸収体の上記した損失の効果を現す指標につき検討を加えた。そして、当該電磁波吸収体の複素比透磁率の虚部(μr”)を、充填されている軟磁性粉末の充填体積割合(V)で除算したパラメータを設定して、電磁波吸収体の複素比透磁率の虚部(μr”)を充填体積割合(V)で規格化した。
【0015】
そして、この規格値を制御することにより、使用目的の高周波帯域内に吸収特性のピークを位置づけることが可能であるのではないかとの着想を抱いた。
そして、粉末粒径の検討も含めて更なる検討を加えた。
すなわち、粒径が異なる軟磁性粉末とマトリックスとをある体積割合で混練したのち成形してある厚みの電磁波吸収体を製造し、それぞれの電磁波吸収体につき、5〜6GHz帯域における前記した規格値(μr”/V)を求めた。
【0016】
その結果、それぞれの電磁波吸収体の厚みと充填体積割合が同じである場合には、粉末の粒径がD50値で3〜20μmの範囲内にありさえすれば、その範囲内で粒径が変化しても、5〜6GHz帯域における上記した規格値は一定の値になり、しかもその値は3〜20の範囲内で一定になるとの事実を見出した。
なお、ここでいうD50値とは、粉末の粒度分布曲線における相対累積頻度が50%に到達したときの粒子径であり、単位はμmである。
【0017】
また、上記した規格値(μr”/V)は、ある電磁波吸収体に電磁波を入射したときの当該電磁波吸収体の吸収特性の優劣(電磁波吸収能力の優劣)に関して、その吸収体に充填されている粉末の単位体積当りの寄与度を表す指標であり、いわば損失の大小に対する充填粉末の効果を意味しているので、以後、この規格値を損失効果ともいう。
一方、上記した研究過程では、材質が異なる各種の粉末を用いたが、粒径がD50値で3〜20μmの粉末であれば、軟磁性材料に限らず非磁性の導電性材料であっても、前記した規格値を満たすならば、それを用いて製造した電磁波吸収体の吸収特性のピークは5〜6GHzの帯域内に位置するとの新たな知見を得た。
【0018】
本発明の電磁波吸収体は、上記した知見に基づいて開発されたものであって、それに用いられる粉末は少なくとも表層部が電気伝導性を有し、かつD50値が3〜20μmである粉末である。その粉末をマトリックスに充填して製造した電磁波吸収体は、その複素比透磁率の虚部(μr”)を前記粉末の充填体積割合(V)で除算した値が3〜20になる。
本発明の電磁波吸収体で用いる粉末は、その粒径がD50値で3〜20μmである。そして、少なくともその表層部は電気伝導性を備えている。
【0019】
50値が20μmより大きい粉末の場合は、それを用いて製造した電磁波吸収体の吸収特性におけるピーク値が5GHzより低周波域側に現れ、また3μmよりも小さい粉末の場合は、吸収特性のピーク値は6GHzよりも高周波域側に現れるようになり、いずれにしても、使用目的の周波数帯域である5〜6GHz帯域での吸収特性は低下する。
粉末は、少なくとも表層部が導電性を備えていることを必要とする。少なくとも表層部が導電性を備えていないと、高周波を入射したときに粉末表面には渦電流が流れず、そのため電磁波を吸収できないからである。その場合の導電性の程度は、電気抵抗率として、10000μΩ・cm以下であれば充分である。
【0020】
このような粉末の材料としては、従来から使用されている各種の軟磁性材料をあげることができる。しかし、このような軟磁性材料に限定されることなく、少なくとも表層部が導電性を備えていれば何であってもよく、例えばAl粉末、Cu粉末、カーボン粉末のような非磁性材料の粉末であってもよい。
そして、この粉末は中実であってもよいが、バルーン状の中空であってもよい。また、芯体は例えばセラミックスや絶縁材料であるが、その表面に例えば導電性材料をめっきして表面に導電性を付与した粉末であってもよい。
【0021】
この粉末は、材質が例えば軟磁性材料である場合は、アトマイズ法を適用して製造することができる。例えば水アトマイズ法で製造する場合には、噴霧ノズルの口径、溶湯の吐出流速、水渦流ジェットの圧力などを適切に選定して粉体とし、ついでそれを分級して得ることができる。また、水アトマイズ法で得られた粉末を、更に、例えばアトライタで粉砕したのち分級しても得ることができる。
【0022】
本発明の電磁波吸収体は次のようにして製造される。
工程1。電磁波吸収体の厚み(δ)と、用いる粉末のマトリックスへの充填体積割合(V)と、そのときの規格値(μr”/V)との相関関係マップを予め準備する。
具体的には、予め厚みδ1,δ2…δx,充填体積割合V1,V2,…Vyをそれぞれ組合せて電磁波吸収体を製造し、各電磁波吸収体につき、5〜6GHz帯域で複素比透磁率を測定し、規格値Pxyを求めて、図1で示した相関関係マップを作成する。
【0023】
工程2。製造する電磁波吸収体の厚みと、用いる粉末のD50値を決める。なお、D50値は3〜20の範囲内にある。
工程3。図1で示した相関関係マップに基づき、工程2で決めたδ値に対応する規格値(Pxy)を求め、そのPxy値に対応する体積充填割合(V)を決定する。
工程4。最後に、工程2で決めた粉末を工程3で決めた体積充填割合でマトリックスと混練したのち、その混練物を工程2で決めた厚みとなるように成形する。
【0024】
マトリックスとしては、例えばゴムや、塩素化ポリエチレン、エポキシ、ポリフェニレンスルフィド、ナイロンのような樹脂を用いることができる。
【実施例】
【0025】
水アトマイズ法でFe−Cr−Si系粉末を製造し、それを分級してD50値が1〜20μmの範囲内にある7種類の粉末を用意した。
マトリックスとして塩素化ポリエチレンを用意し、これに上記した各粉末を充填体積割合(V)が0.3となるように混練した。
得られた混練物をシート成形して電磁波吸収体を製造した。
【0026】
これらの電磁波吸収体につき、周波数5GHzと周波数6GHz時の複素比透磁率を測定してそれぞれの虚部(μr”)を算出し、損失効果(μr”/V)を求めた。
各周波数の電磁波を入射した場合につき、μr”/VとD50値との関係を図2に示した。
図2において、○印は周波数5GHzのときの結果、●印は周波数6GHzのときの結果を表す。
【0027】
図2から明らかなように、D50値が3〜17μmの範囲内にある粉末を用いた電磁波吸収体は、周波数が5GHz、6GHzのいずれの場合であっても、損失効果は4.4より大きい値になっている。
なお、Fe−Cr系、Fe−Cr−Al系、Fe−Si−Al系の粉末の場合も、同様の結果が得られた。
【0028】
このように、本発明の粉末は、5〜6GHz帯域で使用できる電磁波吸収体に用いて有効な粉末である。
これは、電磁波吸収体に用いている粉末が、少なくとも表層部が電気伝導性を有し、かつD50値が3〜20μmの粉末であって、そして電磁波吸収体は、上記粉末の充填体積割合(V)と複素比透磁率の虚部(μr”)との間で、μr”/Vが3〜20となるように設計されているからである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の電磁波吸収体は、5〜6GHzの高周波帯域で安定した電磁波吸収特性を発揮するように設計されているので、この高周波帯域を利用する各種のシステムに組込んで、電磁波ノイズを吸収してシステムの誤動作を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、電磁波吸収体の厚み(δ)と、粉末の充填体積割合(V)と、規格値(P)との相関関係を示すマップである。
【図2】図2は、粉末のD50値とその粉末を用いて製造した電磁波吸収体の周波数5GHz、6GHzにおける損失効果との関係を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
【住所又は居所】愛知県名古屋市中区錦一丁目11番18号
【出願日】 平成16年6月29日(2004.6.29)
【代理人】 【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二

【識別番号】100116447
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 純一

【公開番号】 特開2005−39258(P2005−39258A)
【公開日】 平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願番号】 特願2004−191651(P2004−191651)