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【発明の名称】 被覆膜密着強度測定方法
【発明者】 【氏名】門 哲男

【要約】 【課題】被覆膜の基体に対する密着力を物理量として測定するための密着力測定方法を提供する。

【解決手段】基体表面に形成された被覆膜と基体との間の密着強度を測定する方法において、該被覆膜上に単位面積面を有する方体片の単位面積を被覆膜との間で剥離を生じない密着力で接着したのち、該方体片の接着面から一定の距離にある力点に対し、被覆膜の接着面と平行な方向に剪断力を加え、被覆膜が基体表面から剥離したときの単位面積当りの剪断荷重を求めることにより測定する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体表面に形成された被覆膜と基体との間の密着強度を測定する方法において、該被覆膜上に単位面積面を有する方体片の単位面積を被覆膜との間で剥離を生じない密着力で接着したのち、該方体片の接着面から一定の距離にある力点に対し、被覆膜の接着面と平行な方向に剪断力を加え、被覆膜が基体表面から剥離したときの単位面積当りの剪断荷重を求めることを特徴とする被覆膜密着強度測定方法。
【請求項2】
基体が金属、合金又はセラミックスからなる請求項1記載の被覆膜密着強度測定方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、工業材料、工具、金型、機械部品などの金属、合金又はセラミックス成形体の表面上にハードコーティング、耐食コーティングを目的として形成された被覆膜の密着強度を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードコーティングにおいて、皮膜の基材への密着性を高めることは、皮膜の機能を保つことと同等以上に重要と考えられており、皮膜の基材への密着性を高めることと相まって、基材への皮膜密着力の評価方法も種々提案されている。
【0003】
例えば、弱い密着強度の膜については、粘着テープを用いて引き剥がす方法、中程度の密着強度の膜については、はんだやエポキシ系接着剤を用いて棒を膜面に垂直に立設し、棒に力を加え、膜を基板からはぎ取る方法がある。また、膜に垂直方向に棒を引っ張ったり、横に引き倒したり、トルクをかけて捻るなどして、それに印加した力を測定する方法、いわゆる直接引き剥がし法、引倒し法及び捻り法と呼ばれている方法がある(非特許文献1参照)。
【0004】
そのほか、ダイヤモンドなどで被覆した超硬合金の被覆部材の付着強度評価において、くぼみの縁におけるせん断応力値(dyn/cm2)をその強度値とする試験方法(特許文献1参照)、工具チップ上に成膜されたTiN層などのセラミック被覆層の破壊ないし剥離が生じ始めるスクラッチ臨界荷重(N)をその密着強度値とする試験方法(特許文献2参照)、またダイヤモンド被覆超硬合金のダイヤモンドの密着力評価において、その膜剥離が発生した時の負荷荷重(N)を密着強度値とする試験方法(特許文献3参照)などが知られている。
【0005】
さらに、球状あるいはピラミッド上の圧子を膜表面に押し付けて膜面に傷が発生する荷重値(N)を密着強度値の目安とする方法や、押し込みの際の荷重を一定にして多数のサンプルについて押し込み試験を行い、その被膜が剥離した個数の割合を目安とする試験方法(特許文献4参照)、めっき層や溶射層などの被覆層の基体への密着性を評価するために被覆膜表面上で所定径の球体などを所定荷重で転動させて剥離の有無を調べ、予めせん断強度が明らかな被覆膜の検量線に照らして被覆膜の密着強度を評価する方法(特許文献5参照)なども提案されている。
【0006】
しかしながら、これらの方法は、単に相対的な評価による密着力の大小を定める方法として利用されているだけであり、単位面積当りの物理量としての絶対評価を得るものではない。単純に考えれば、一定の面積の棒を膜面に垂直に立てておき、棒に力を加え、膜を基板から剥ぎ取る方法で、垂直に引っ張り試験を行い、剥離の際の臨界法線応力を測定すれば、物理量としての密着強度の測定は可能であるが、この際の棒の引き上げ方法が難しく、実用化はされていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平7−305170号公報(実施例及び表1)
【特許文献2】特開平10−94905号公報(0025及び表1〜表3)
【特許文献3】特開平11−172361号公報(0016及び表1と表2)
【特許文献4】特開2001−342565号公報(0031〜0032及び表1〜表4)
【特許文献5】特開平7−120378号公報(特許請求の範囲その他)
【非特許文献1】馬場茂、「熱処理」、1989年、第29巻、第4号、p.223
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、被覆膜の基体に対する密着力を物理量として測定するための密着力測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、単位面積面を有する方体片を被覆膜面に垂直に立設し、その側面に被覆膜面と平行方向に剪断力を加え、被覆膜を基板からはぎ取ることにより、密着力を測定できることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、基体表面に形成された被覆膜と基体との間の密着強度を測定する方法において、該被覆膜上に単位面積面を有する方体片の単位面積を被覆膜との間で剥離を生じない密着力で接着したのち、該方体片の接着面から一定の距離にある力点に対し、被覆膜の接着面と平行な方向に剪断力を加え、被覆膜が基体表面から剥離したときの単位面積当りの剪断荷重を求めることを特徴とする被覆膜密着強度測定方法を提供するものである。
【0011】
本発明方法における密着性評価の対象としては、工業材料、工具、金型、機械部品などの金属、合金又はセラミックス成形体の表面上にハードコーティング、耐食コーティングを目的として形成された被覆膜のほかに、めっき膜や塗膜など、種々の基体上に形成された皮膜を挙げることができる。
【0012】
本発明方法においては、単位面積面を有する方体片を用いるが、これは剪断力を印加したときに折れたり、曲ったりすることのない高強度、高剛性、硬質の材料であることが必要である。このような材料としては、例えば、鋼、超硬合金や、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニア、アルミナのような高強度、高剛性、硬質のセラミックスを挙げることができる。そのほか、低い密着強度のものに対してはガラスを用いることもできる。
【0013】
これは、方体状の細片として形成されるが、この方体は立方体でもよいし直方体でもよい。そして、この方体片は、単位面積面、例えば1mm平方面又は1cm平方面を有することが必要である。これよりも小さい単位面積面例えば1μm平方面では剪断力を加えたときに破壊されてしまうし、またこれよりも大きい単位面積面例えば1m平方面では、剪断力を大きくしなければ、被覆膜を剥離することができないので、取り扱いにくくなる。好ましいのは1mm平方面である。この単位面積面については、正確に1mm平方面とすることは必ずしも必要ではなく、少々の誤差を生じても、その面積を測定し、単位面積に換算した剪断力を算出することにより、密着強度を求めることができる。
【0014】
この方体片は、その単位面積面で被覆膜上に接着されるが、これは基体と被覆膜との間の接着力よりも方体片の単位面積面と被覆膜との間の接着力が大きくなるように接着されていることが必要である。これは、接着剤としてエポキシ系の強力接着剤を用いることによって実現される。特に(有)ブレニー技研から製造販売されている商品名「GM−8300」は、常温での最大接着強度が2.5×107Pa以上であるので好適である。
【0015】
方体片は基体に被覆処理された皮膜の上にエポキシ系接着剤で接着されるが、通常は、測定個数を多くするために、1mm厚のセラミック板などをエポキシ系接着剤で張り付け、それを刃の厚さが1mm以下のダイヤモンド回転切断機で1mm四方に数多く切り出すのが有利である。この際、カットの深さは被覆膜まで十分到達することが必要である。
【0016】
次に、添付図面に従って、本発明方法を詳細に説明する。
図1は、本発明方法を説明するための斜視図であり、基体1の表面に被覆膜2が設けられている。この被覆膜2の上には、硬質セラミックス例えば炭化ケイ素からなる方体片3が強固に接着され、それは接着面が単位面積例えば1mm平方になるようにカットされている。
【0017】
次に、鋼棒(以下ピンと称する)4を方体片3の側面に当て、これを介して被覆膜2と平行の方向に剪断力を加え、方体片3が剥離するときの剪断力(以下臨界剪断力という)を求める。この際の剪断力を加える方体片3の力点は、常に接着面から一定の距離になるようにすることが必要である。この距離が変動すると、力のモーメントが異なることになり、印加された剪断力を測定して、正確に接着強度を求めることができなくなる。この剪断力は、ピン4を介して印加され、剪断力により被覆膜2が基体1から剥離するときの臨界剪断力を測定する。
【0018】
この測定には、変動荷重が1mm平方面に印加され、かつピン4に印加される荷重が出力される密着性評価装置が用いられる。一定の荷重印加速度で変動荷重がかけられるようになっていれば、X−Tレコーダーに接続して、剪断応力を測定することができる。荷重は矢印で示すようにピン4の上部より印加され、ピン4を通して方体片3の1mm平方面に負荷されるようになっている。ピン4は効率よく荷重が印加できるよう先端を細く加工したものを用いる。
【0019】
ピン4の材質は通常、高速度鋼が用いられるが、硬い金属であればどのようなものでも差しつかえない。方体片3が剥離した際にこれによって支えられたピン4は落下し、ピン4は衝撃を受けるが、臨界剪断応力はこの衝撃によってピン4から発生するAE信号やピン4の加速度の変動によって破断と同時に方体片3にかかる剪断荷重を検出できる。
【0020】
通常のスクラッチ試験機ではスクラッチに際して針にかかる横方向の抵抗力が検出できるが、スクラッチ試験機の針をピンの代りに用いても、剥離の際の衝撃を横方向の抵抗力の変化として検出できる。このため、スクラッチ試験機で、針をピンに替え、試料位置を動かさず一定に保ち、方体片3に荷重をかけて抵抗出力信号を検出することにより臨界剪断応力を求めることも可能である。
【0021】
測定に際してはピン4が方体片3からはずれないようにするため、試料を装置の測定台に固定するのが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない
【実施例1】
【0023】
反応性スパッタリング法で異なる条件でアルミニウム合金板上に形成された3種類のモリブデンオキシカーバイド硬質膜について剪断剥離法による密着性評価を行った。1mm厚の炭化ケイ素板を市販のエポキシ系接着剤[(有)ブレニー技研製、商品名「GM−8300、」常温での最大接着強度2.5×107Pa]で被覆膜表面に貼り付けた。それを刃の厚さが0.5mmのダイヤモンド回転切断機で1mm四方に6個切り出した。基体は約0.3mmの深さまでカットされていて、剪断面となる方体片の被覆膜への接合面積は1mm平方であった。密着性評価試験装置としては市販のスクラッチテスター(新東科学製、商品名「HEIDON 18L」)を、測定に際して試料位置が変動しないように改良して使用した。
【0024】
図1に示すように被覆膜上に接着された方体片の側面に対して被覆膜面に平行かつ被覆膜面に接するようにピンを押し当てて力を加え、剪断応力により被覆膜を基板からはぎ取り、この際の臨界剪断応力を測定した。方体片には先端断面積3mm2のピンを通して1.47N/sの荷重印加速度で最大29.7N(3kg重)の変動荷重がかけられるようになっていて、X−Tレコーダーにピンにかかる抵抗を出力して、臨界剪断応力を測定した。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】


【0026】
この表中の試料A及び試料Bは、スパッタリングによる被覆膜形成に先立つ基板前処理を10Paの真空圧力でAr雰囲気及びArと窒素の混合雰囲気でそれぞれ行ったもので、密着性が高いため、スクラッチテストでは針荷重300gの範囲では共に被覆膜の破壊は観察されなかった。
本発明の試験法による結果では、被覆膜剥離に要する剪断応力はそれぞれ168kgf/cm2及び107kgf/cm2であり、被覆膜の剪断剥離法による密着性評価を行えることが分った。
【0027】
また、表中の試料Cはスパッタリングによる被覆膜に先立つ基板前処理を110Paの高い真空圧力でArと窒素の混合雰囲気で行ったもので、密着性が低いためスクラッチテストでは針荷重130gで被覆膜の破壊が観察された。
本発明の試験法による結果では、被覆膜剥離に要する剪断応力は70kgf/cm2であり、被覆膜の剪断剥離法による密着性評価を行えることが分った。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によると、基体とその上に設けられた被覆膜との間の密着強度の絶対評価を簡単に行うことができるので、工業材料、工具、金型、機械部品に施した被覆膜の密着性の評価に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明方法を説明するための斜視図。
【符号の説明】
【0030】
1 基体
2 被覆膜
3 方体片
4 ピン
【出願人】 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】独立行政法人産業技術総合研究所
【出願日】 平成16年3月12日(2004.3.12)
【代理人】 【識別番号】100071825
【弁理士】
【氏名又は名称】阿形 明

【公開番号】 特開2005−257514(P2005−257514A)
【公開日】 平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願番号】 特願2004−70350(P2004−70350)