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【発明の名称】 薄板製物品の誘導加熱方法及びその装置
【発明者】 【氏名】宿輪 新吾
【住所又は居所】神奈川県川崎市川崎区殿町2丁目17番8号 第一高周波工業株式会社内
【氏名】森下 芳行
【住所又は居所】神奈川県川崎市川崎区殿町2丁目17番8号 第一高周波工業株式会社内
【氏名】星野 毘沙夫
【住所又は居所】東京都羽村市神明台四丁目8番地41 菊池プレス工業株式会社内
【氏名】緩詰 達司
【住所又は居所】東京都羽村市神明台四丁目8番地41 菊池プレス工業株式会社内
【氏名】清水 智
【住所又は居所】東京都羽村市神明台四丁目8番地41 菊池プレス工業株式会社内
【課題】加熱作業終了時の昇温むらの低減を、特別の設備が不要で、しかも一括加熱の利点である作業時間の短縮を確保して達成できるようになる薄板製物品の誘導加熱方法及びその装置を提供すること。

【解決手段】電源装置で高周波電流が通電される誘導子の誘導作用部により、薄板からなる物品の被加熱領域を誘導加熱してこの領域の全域を目標温度以上とする場合において、昇温途中において、誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減する時期を設けることより、被加熱領域における温度差を縮小させ、この温度差縮小ステップによって、加熱作業終了時の昇温むらを低減させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板製物品に画定された被加熱領域の全域を同時に誘導加熱する誘導作用部を備えた誘導子に高周波電流を通電することにより、前記被加熱領域を磁気変態点よりも高温の目標温度以上に誘導加熱する薄板製物品の誘導加熱方法であって、前記誘導子による誘導加熱で前記被加熱領域を昇温させるための昇温ステップと、この昇温ステップの後、前記誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減することにより、前記被加熱領域における温度差を縮小させるための少なくとも1回の温度差縮小ステップと、この温度差縮小ステップの後、前記被加熱領域を前記誘導子への高周波電流の通電の再開によって再昇温させ、この被加熱領域の全域の温度を前記目標温度以上とするための再昇温ステップと、を含んでいることを特徴とする薄板製物品の誘導加熱方法。
【請求項2】
薄板製物品に画定された被加熱領域の全域と対応する誘導作用部を有する誘導子と、この誘導子に高周波電流を通電し、前記被加熱領域を誘導加熱によって磁気変態点よりも高温の目標温度以上とする電源装置と、を有する薄板製物品の誘導加熱装置において、前記電源装置は、前記被加熱領域が前記目標温度に達する前に、前記誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減させるための電流制御手段を備えていることを特徴とする薄板製物品の誘導加熱装置。
【請求項3】
請求項2に記載の薄板製物品の誘導加熱装置において、前記電流制御手段は、タイマーを備えたタイマー式制御手段であり、前記タイマーで計測された時間が前記誘導子への高周波電流の通電開始から予め定められた所定時間になったときに、前記誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減させることを特徴とする薄板製物品の誘導加熱装置。
【請求項4】
請求項2に記載の薄板製物品の誘導加熱装置において、前記電流制御手段は、前記被加熱領域の温度を測定する温度測定手段を備えた温度実測式制御手段であり、前記温度測定手段で測定された前記被加熱領域の温度が予め定められた所定温度になったときに、前記誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減させることを特徴とする薄板製物品の誘導加熱装置。
【請求項5】
請求項2に記載の薄板製物品の誘導加熱装置において、前記電流制御手段は、前記被加熱領域のインピーダンスと対応している前記誘導子の高周波電流の周波数を追尾するための周波数追尾手段を備えたインピーダンス知得式制御手段であり、前記周波数追尾手段で追尾された前記高周波電流の共振周波数が予め定められた周波数になったとき、前記誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減させることを特徴とする薄板製物品の誘導加熱装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれかに記載の薄板製物品の誘導加熱装置において、前記誘導子は、その誘導作用部が前記被加熱領域の延設方向に沿うように延びている良導体の複数本を、前記被加熱領域がカバーされるように前記延設方向と直交する方向に並設し、かつこれらの良導体を並列接続することにより構成されていることを特徴とする薄板製物品の誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄板からなる物品を高周波電流で誘導加熱するための方法及びその装置に係り、例えば、車両の車体を構成する薄板製物品を焼入れするために加熱する際に利用できるものである。
【0002】
【背景技術】
車両の車体やその他の機器、装置の部材を構成する材料として金属の薄板を用い、この薄板で生産される物品に画定された所定領域に必要な強度を付与するため、この所定領域の全域を目標温度以上に加熱して焼入れすることが行われる。この加熱を高周波電流による誘導加熱法で行う装置として、下記の特許文献1及び2が知られている。
【0003】
特許文献1の装置では、高周波電流が通電される誘導子の誘導作用部を薄板製物品に対して移動自在とし、この誘導作用部を薄板製物品に対して移動させることにより、誘導作用部が移動した薄板製物品の領域を誘導渦電流によって加熱している。これによると、移動速度の設定によって加熱温度を調整できる反面、それぞれの物品の加熱作業ごとに誘導作用部を移動させる工程が必要となり、このため、1個の物品を処理するのに時間がかかり、多数の物品を短時間で効率的に処理することはできない。
【0004】
これに対して特許文献2の装置における誘導子の誘導作用部は、薄板製物品の被加熱領域の全域と対応するものとなっている。このため、特許文献2の装置によると、誘導子に高周波電流を通電するだけで被加熱領域の全域を同時に加熱できるという一括加熱が可能となり、したがって、特許文献1の装置よりもそれぞれの物品を短時間で処理でき、作業効率の向上を図ることができる。
【0005】
【特許文献1】
特開平10−17933号(段落番号0042、図4)
特開2000−256733号(段落番号0045、図1)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このように、誘導子の誘導作用部が物品の被加熱領域の全体を同時に誘導加熱できるものになっていると、一括加熱が可能となるという利点を得られるが、その物品が薄板からなるものである場合には、充分な厚さを有している材料の場合と異なり、誘導渦電流の渦は厚さ方向にはできず、渦は薄板の被加熱領域に平面状にしかできないことになる。このため、渦が厚さ方向にできる場合には可能となる、誘導渦電流の強さを被加熱領域の平面における各部位ごとに調整することが難しく、したがって、この被加熱領域に昇温むらが生じた場合に、これに対処することは困難である。
【0007】
また、薄板であるが故に厚さ方向に迂回した伝熱経路は生じにくく、このため、昇温むらが厚板に比べて時間経過によっても緩和されにくい。
【0008】
そして、以上のことから、所定領域が加熱処理される物品が薄板を材料として生産されている場合には、結果的に昇温むらが生じやすい。このため、予め定めた領域だけを昇温むらの量を小さくして、言い換えると、温度差を小さくして目標温度以上に加熱することは困難であり、すなわち、加熱する領域を所望どおりに設定しかつこの領域内の温度差を小さくして加熱することは難しい。
【0009】
このような問題を解決する方策として、過昇温となった部位を放熱強化手段や強制冷却手段によって降温させることが考えられるが、これによると、複雑な設備が必要となることや設備コストが増大する問題が生ずる。また、複数系統に分けて配置した誘導子を系統別に制御することにより被加熱領域の各部位への入熱を調整することも考えられるが、これによっても設備コストが増大する問題が生ずる。
【0010】
一方、入熱量を増大させることによって昇温むらを生じさせながら被加熱領域の全域を含む範囲を目標温度以上に加熱し、この後、時間経過によって温度差を縮小させるという方策を採用することもできる。しかし、これによると、上記方策と異なり、特別の設備が不要になるという利点を得られるが、時間とエネルギのロスが生じてしまう。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑みなされたものである。本発明の目的は、加熱作業終了時の昇温むらの低減を、特別の設備が不要で、しかも一括加熱の利点である作業時間の短縮を確保して達成できるようになる薄板製物品の誘導加熱方法及びその装置を提供するところにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、薄板製物品を誘導加熱法で加熱することに関して、本発明者達が以下の知見を得ることによってなされたものである。
【0013】
薄板製物品の被加熱領域を誘導加熱で昇温させている途中において、誘導子への高周波電流への通電を停止したり、通電電流を低減したりする時期を設け、これによって被加熱領域への入熱を停止又は抑制すると、被加熱領域に生じている温度差は縮小する。そして、そのあと、誘導子への高周波電流の通電を再開して被加熱領域を再昇温させることにより、この領域の全域を目標温度以上とすると、昇温途中で温度差を縮小させる中間ステップを設けない場合と比べ、昇温終了時に被加熱領域に生じている温度差は小さく、昇温むらを低減できる。
【0014】
図10〜13は、昇温途中で温度差を縮小させる中間ステップを設けない加熱作業と、この中間ステップを設けた加熱作業とについて、理論上考えられる昇温挙動を説明したものである。図10は、上記中間ステップを設けない場合の昇温グラフであり、図13は、上記中間ステップを設けた場合の昇温グラフである。また、図11は、薄板製物品の被加熱領域に温度分布がある場合に、その被加熱領域で想定できる等価回路を示し、図12の(1)〜(5)は、温度上昇に伴うその等価回路の変化を示したものである。図11の等価回路では、被加熱領域の各部位A〜Dに、誘導渦電流iに基づくジュール熱を発生させる電気抵抗Rと、ジュール熱を発生させないインダクタンスLとが表示されている。
【0015】
被加熱領域が誘導加熱で加熱され始め、各部位A〜Dの温度が図10で示す磁気変態点Tに達していないときには、各部位A〜Dの比透磁率μは大きいため、ωを高周波電流の角周波数としたとき、それぞれの部位A〜DにおけるインピーダンスωLはRよりも極めて大きい。このため、図11で示すiは誘導渦電流iと略等しく、ωLを無視できる状況にある。温度差のある各部位A〜Dが示されている図12の(1)において、高温になるほどRが大きくなるという特性に基づき、部位A〜Dのうち、最も高温の部位AのRは最も大きく、最も低温の部位DのRは最も小さいため、ジュール熱の発生に関与するこれらのRの相違により、各部位A〜DのRに誘導渦電流iと略等しい電流が共通して流れることにより、部位Aと部位Dとの温度差は次第に拡大する。この現象は、図10において、部位A〜Dの昇温曲線であるa’〜d’で示されている。
【0016】
各部位A〜Dの昇温が進行し、図10の時間t’において、部位Aの温度が磁気変態点Tに達すると、部位Aの比透磁率μが急減する。このため、この部位AでのωLはRよりも小さくなり、iよりもiが大きくなること、すなわち、ωLは無視できなくなることにより、部位Aでのジュール熱の発生は少なくなり、この結果、部位Aの昇温は停滞する。図12の(2)は、このときの等価回路を示している。
【0017】
この後、温度が高い順序にしたがい、部位B〜Dの温度が順番に図10の時間t’,t’,t’で磁気変態点Tに達し、これらのときの等価回路は、図12の(3)〜(5)で示されている。これらのときにおいても、部位B〜Dの比透磁率μが急減することに基づき部位B〜Dにおけるジュール熱の発生は少なくなるが、このジュール熱の発生の変化は一部の部位に集中した変化ではなくなってくるため、部位B〜Dでの昇温の停滞状態は、部位Aでの昇温の停滞状態よりも段階的に緩和されていく。
【0018】
この後、各部位A〜DでのRに基づくジュール熱によってこれらの部位A〜Dは昇温するが、これらの温度差拡大率は、各部位A〜DにおけるRの関与が各部位A〜DにおけるωLのために少なくなることや、磁気変態点Tを超えるとRの対温度増加率が低下することのため、磁気変態点Tに達する前と比べて小さくなる。
【0019】
そして、全部の部位A〜Dの温度が図10で示す目標温度Tを超え、誘導加熱を終了させたときには、部位A〜Dにおいて、温度差ΔT’が生じている。
【0020】
以上は、昇温途中に、各部位A〜Dの温度差を縮小させるための意図的な中間ステップを設けない場合であったが、図13は、この中間ステップを設けた場合であり、図13のa〜dは部位A〜Dの昇温曲線である。
【0021】
被加熱領域を時間tまで誘導加熱すると、この時間tまで各部位A〜Dの温度差は前述したように次第に拡大するが、誘導加熱を時間tから時間tまで停止させると、この間において、伝熱効果による自然均熱化により各部位A〜Dの温度差は縮小する。この後、誘導加熱を再開すると、各部位A〜Dの温度差は次第に拡大するが、時間tでの温度差は時間tでの温度差よりも小さくなっているため、各部位A〜Dが時間t〜tで磁気変態点Tを超えた後、全部の部位A〜Dが目標温度Tを超えた温度に達し、そして誘導加熱を終了させたときには、部位A〜Dにおける温度差はΔTとなっている。この温度差ΔTは、図10の温度差ΔT’よりも小さく、したがって、図13の加熱作業終了時の昇温むらは、図10の場合よりも低減されている。
【0022】
言い換えると、図10の場合には、誘導加熱の終了時における被加熱領域の全域における温度差は大きく、この全域の温度が、例えば、焼入れに必要な目標温度以上になるようにするためには、被加熱領域の平均温度を上昇させなければならないため、高温の部位に必要以上の熱履歴が加わることになる。これに対して図13の場合には、誘導加熱の終了時における被加熱領域の全域における温度差は小さく、不必要な熱履歴を避けた状況でこの全域の温度を目標温度以上にすることができる。したがって、図13の場合には、被処理材の品質に好ましくない影響をもたらす過昇温につながる不必要な昇温を避けることができる。
【0023】
また、図13の場合には、昇温途中で誘導子への高周波電流の通電を短時間だけ停止又は低減する中間ステップを設けるだけでよく、この中間ステップの時間は秒単位のもので足り、したがって、物品の加熱作業を短時間で終了できて作業効率を向上させることができるという前述した一括加熱による利点をほぼそのまま確保できることになる。また、図13の加熱作業は、冷却手段等の特別の設備を用いることなく実施できるため、設備コストが増大することもない。
【0024】
さらに、図10の場合には、被加熱領域における最高温度は図13の場合よりも高温となるため、被加熱領域を有する物品の材料である薄板が、例えば、亜鉛メッキ等の表面被覆材を有する板材である場合にこの表面被覆材が加熱によって消失してしまうおそれがあるが、図13の場合にはこのような問題を解消できる。
【0025】
また、図13の場合には、加熱終了時の温度差を小さく抑えることができ、被加熱領域全体の温度の平準化を図ることができるため、予想外の材料組織変化の発生をなくしたり、焼入れにおける急冷前の温度差を好ましい範囲に抑えることができる。この結果、急冷に伴う歪の発生や焼入れ後の残留応力を抑制できことになる。
【0026】
本発明に係る誘導加熱方法及びその装置は、以上説明した図13の加熱作業原理に基づき発明されたものである。
【0027】
本発明に係る薄板製物品の誘導加熱方法は、薄板製物品に画定された被加熱領域の全域を同時に誘導加熱する誘導作用部を備えた誘導子に高周波電流を通電することにより、前記被加熱領域を磁気変態点よりも高温の目標温度以上に誘導加熱する薄板製物品の誘導加熱方法であって、前記誘導子による誘導加熱で前記被加熱領域を昇温させるための昇温ステップと、この昇温ステップの後、前記誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減することにより、前記被加熱領域における温度差を縮小させるための少なくとも1回の温度差縮小ステップと、この温度差縮小ステップの後、前記被加熱領域を前記誘導子への高周波電流の通電の再開によって再昇温させ、この被加熱領域の全域の温度を前記目標温度以上とするための再昇温ステップと、を含んでいることを特徴とするものである。
【0028】
この誘導加熱方法において、温度差縮小ステップは1回でもよく、複数回でもよい。複数回とする場合には、前回のステップが終了した後に被加熱領域の全域を昇温させ、この昇温後に次回のステップを開始することになる。
【0029】
また、温度差縮小ステップを設ける時期は、被加熱領域の温度が磁気変態点に達する前でもよく、磁気変態点に達した後でもよく、磁気変態点に跨る時期でもよい。
【0030】
本発明に係る薄板製物品の誘導加熱装置は、薄板製物品に画定された被加熱領域の全域と対応する誘導作用部を有する誘導子と、この誘導子に高周波電流を通電し、前記被加熱領域を誘導加熱によって磁気変態点よりも高温の目標温度以上とする電源装置と、を有する薄板製物品の誘導加熱装置において、前記電源装置は、前記被加熱領域が前記目標温度に達する前に、前記誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減させるための電流制御手段を備えていることを特徴とするものである。
【0031】
この装置において、誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減させるための電流制御手段は、コンピュータプログラムやリレー回路等を用いた自動式のものでもよく、手動で操作されるスイッチ等を備えた手動式のものでもよい。
【0032】
また、誘導子の誘導作用部は、被加熱領域の長手方向に直線的で延びるものでよく、被加熱領域の幅寸法が大きい場合には、この被加熱領域の幅方向にジクザクに曲がりながら被加熱領域の長手方向に延びるものでよい。
【0033】
また、前記電流制御手段を自動式とする場合には、この電流制御手段を任意な形態のものとすることができる。
【0034】
例えば、その第1番目の例は、電流制御手段を、タイマーを備えたタイマー式制御手段とし、タイマーで計測された時間が誘導子への高周波電流の通電開始から予め定められた所定時間になったときに、誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減させるようにすることである。
【0035】
第2番目の例は、電流制御手段を、被加熱領域の温度を測定する温度測定手段を備えた温度実測式制御手段とし、温度測定手段で測定された被加熱領域の温度が予め定められた所定温度になったときに、誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減させるようにすることである。
【0036】
第3番目の例は、電流制御手段を、被加熱領域のインピーダンスと対応している誘導子の高周波電流の周波数を追尾するための周波数追尾手段を備えたインピーダンス知得式制御手段とし、周波数追尾手段で追尾された高周波電流の共振周波数が予め定められた周波数になったとき、誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減させるようにすることである。
【0037】
これらの電流制御手段は、前記電源装置が誘導子へ高周波電流を給電するためのインバータ装置と、このインバータ装置を制御するための制御装置とを含んで構成され、これらのインバータ装置と制御装置がそれぞれ別の装置となって用意されている場合に適用できるとともに、これらのインバータ装置と制御装置とがそれぞれ別の装置となっておらず、一体のものとなっている場合にも適用できる。
【0038】
さらに、誘導子の構成も任意なものとすることができる。その一例は、誘導子を、その誘導作用部が前記被加熱領域の延設方向に沿うように延びている良導体の複数本を、前記被加熱領域がカバーされるように前記延設方向と直交する方向に並設し、かつこれらの良導体を並列接続することにより構成することである。
【0039】
これによると、被加熱領域に電気抵抗の違いによる温度差が生じた場合、高温となっている部位、すなわち電気抵抗が大きくなっている部位と対応配置されている良導体は高インピーダンスとなるため、この良導体に流れる電流は少なくなり、低温となっている部位、すなわち、電気抵抗が小さくなっている部位と対応配置されている良導体は低インピーダンスとなるため、この良導体に流れる電流は多くなる。このため、高温の部位での誘導渦電流は減少するとともに、低温の部位での誘導渦電流は増加する。これにより、被加熱領域の温度差は平準化されるように修正され、昇温むらを、前述した温度差縮小ステップによる効果と併せ、一層低減できることになる。
【0040】
以上説明した本発明は、金属の薄板から生産された物品の予め画定された被加熱領域を加熱するために適用できるが、その被加熱領域は、その物品の一部でもよく、全体でもよい。
【0041】
また、薄板とは、誘導渦電流が厚さ方向に生じにくい厚さを有する板材のことであり、この厚さは3.2mm以下、より狭く言えば2.3mm以下である。材質で言えば、炭素含有量が異なる各種鋼板(高張力鋼板を含む)やフェライト系ステンレス板、マルテンサイト系ステンレス板など、比透磁率μが急減する磁気変態の起こる金属板である。また、金属板は亜鉛メッキなどの表面処理が施されたものでもよい。
【0042】
さらに、前述した温度差縮小ステップのために誘導子への高周波電流の通電を一時停止又は一時低減することを開始する時期やその時間長さは、薄板の材質や厚さ、目標温度、高周波電流の電圧、電流、周波数等の各種要因に応じて決めることができる。また、高周波電流の通電を一時停止するか、あるいは一時低減するかについても、これらの要因に応じて決めることができる。
【0043】
また、本発明は、一般的に、薄板をプレス成形等して所定形状に形成された物品を加熱するときに適用できるが、薄板のままの平面形状となっている物品を加熱する場合にも適用できる。さらに、薄板のままの平面形状となっている物品を加熱した後に、プレス成形等してもよく、薄板のままの平面形状となっている物品を加熱した後に急冷することによって焼入れした後に、プレス成形等してもよい。
【0044】
さらに、本発明が適用される薄板製物品は、任意な機械、装置、機器の部材として用いられるものでよく、その一例は、四輪車両の車体を構成するセンターピラーのための補強部材や、ドアのインパクトビーム、さらには、車体のフロアフレーム、フロントサイドフレームである。
【0045】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。これから説明する実施形態の薄板製物品1は、四輪車両の車体を構成するセンターピラーの内部に配置され、センターピラーを側面衝突に対して充分な強度を備えたものとするための補強部材である。この物品1は、薄鋼板をプレス成形することにより生産されている。
【0046】
図1は、物品1を高周波電流で誘導加熱するときを示す概略図であり、図2は、図1のS2−S2線断面図である。物品1は、左右の幅方向両端部のフランジ部1A,1Bと、これらのフランジ部1Aと1Bの間から突出している突部1Cと、この突部1Cとフランジ部1A,1Bとを繋ぐ左右のウェブ部1D,1Eとからなり、これらのフランジ部1A,1Bと突部1Cとウェブ部1D,1Eは、長手方向へ連続して延びている。このため、物品1は、断面ハット形状が長手方向に連続したものとなっている。
【0047】
図2で示されているように、突部1Cとウェブ部1D,1Eとの接続箇所が誘導加熱される被加熱領域2であり、これらの被加熱領域2は物品1の長手方向へ延びている。
【0048】
加熱作業がなされるときの物品1は、図1で示すとおり、作業テーブル3の上にセットされ、フランジ部1A,1Bは図示しないクランプ装置で作業テーブル3にクランプされる。また、誘導加熱装置の誘導子4が備えている2個の誘導作用部4Aが、図2で示すように、それぞれの被加熱領域2と適正な隙間を開けてこれらの被加熱領域2に対して対向配置される。誘導子4は図1で示した給電ケーブル5を介して電源装置6に接続されている。物品1と作業テーブル3との間の空間には、被加熱領域2の全域が目標温度以上まで加熱された後に被加熱領域2に裏側から冷却液を噴射するための冷却管7が挿通されている。
【0049】
図1で示された連続部4Bで接続されている2個の誘導作用部4Aは、図2で示されているように、中空構造となっている。そして、その中空部には、図1で示す入口8から流入して出口9から流出する冷却液が流通する。これにより、被加熱領域2の誘導加熱時における誘導作用部4Aの発熱が抑制されるようになっている。
【0050】
また、誘導作用部4Aは被加熱領域2の全域と対応する大きさを有するものである。このため、本実施形態に係る誘導加熱装置は、被加熱領域2の全域を同時に加熱できる一括加熱のための装置となっている。
【0051】
電源装置6のスイッチをオン操作すると、電源装置6により誘導子4への高周波電流の通電が開始され、これにより、誘導作用部4Aの電磁誘導作用によって被加熱領域2に誘導渦電流が生じ、これにより発生するジュール熱で被加熱領域2は昇温する。
【0052】
本実施形態では、この昇温ステップの後、電源装置6のスイッチをオフ操作し、これにより、誘導子4への高周波電流の通電を一時停止させることで、昇温途中において、被加熱領域2の各部位における温度差を縮小させるためのステップを設ける。
【0053】
そして、この温度差縮小ステップを終了させるために、電源装置6のスイッチを再度オン操作して誘導子4への高周波電流の通電を再開することにより、被加熱領域2を再度誘導加熱し、これによって再昇温ステップを開始する。この再昇温ステップは、被加熱領域2の全域が目標温度以上まで昇温した後に、すなわち、被加熱領域2の全域が、この全域を所定強度を備えた硬度まで焼入れするために必要とされる温度以上まで昇温した後に、電源装置6のスイッチのオフ操作で終了する。
【0054】
この再昇温ステップの終了と同時に前記冷却管7から冷却液が噴出し、被加熱領域2は急冷されることにより焼入れされる。この後、物品1は、前記クランプ装置のクランプ解除により塗装工程等の後工程に送られる。
【0055】
図3と図4は、実験結果から得られた被加熱領域の昇温曲線を示すグラフである。図3は、昇温途中で1回の上記温度縮小ステップを設けた場合で、図4は、温度差縮小ステップを設けなかった場合である。
【0056】
この実験で用いた物品は、炭素含有量が0.16%で厚さが1.4mmの鋼板をプレス成形し、図1で説明したように断面ハット形状としたものであって、四輪車両のセンターピラーの内部に配置される補強部材であった。また、その物品は、幅寸法が180mm、高さ寸法が70mm、長さ寸法が600mmのものであった。誘導子に通電した高周波電流の電力は50kW〜80kW、電圧は約240V、電流は230A〜340Aで、周波数は23kHz〜24.5kHzである。被加熱領域の温度の測定は合計30箇所の部位について行った。
【0057】
図3において、Xは、最高温度の部位についての昇温曲線、Yは、最低温度の部位についての昇温曲線、Zは、これらの最高と最低の温度の差についての変化曲線である。また、図4において、X’は、最高温度の部位についての昇温曲線、Y’は、最低温度の部位についての昇温曲線、Z’は、これらの最高と最低の温度の差についての変化曲線である。
【0058】
初めに、図4の実験の場合を説明すると、この実験の場合には、電源装置6のスイッチのオン操作による加熱開始から誘導子4に高周波電流を8.5秒間連続して通電し、この後、スイッチをオフ操作した。このオフ操作時における最高温部の温度は、被加熱領域を所定強度を備えた硬度まで焼入れするために必要な目標温度Tを超えていたが、最低温部の温度は、目標温度Tに達しておらず、しかも、両温部の間の温度差は約270℃という大きなものであった。
【0059】
図3の実験の場合には、電源装置6のスイッチをオン操作による加熱開始から3.9秒後にスイッチをオフ操作することにより、温度差縮小ステップを設けた。また、加熱開始から6.0秒後にスイッチを再度オン操作することにより、再昇温ステップを設け、この再昇温ステップは、加熱開始から11.8秒後にスイッチをオフ操作するまで連続させた。この再昇温ステップの終了時において、最高温部と最低温部とのそれぞれの温度は共に目標温度Tに達しており、しかも、これらの温度差は約50℃という小さなものであった。
【0060】
図3の実験の場合、温度差縮小ステップの開始時における温度差は約200℃であったが、このステップ終了時における温度差は約100℃となっており、このため、この間に温度差が約100℃改善されていることになる。また、被加熱領域の温度が磁気変態点Tに達した以降も温度差は改善されている。このような温度差の改善が、加熱作業が終了するまでの間になされることにより、加熱作業が終了した最後のときの温度差が、約50℃という小さな値になった。
【0061】
以上の説明から分かるように、本実施形態によると、昇温途中で誘導子4への高周波電流の通電を一時停止させ、これによって被加熱領域2の温度差を縮小するステップを設けることにより、被加熱領域2の全域を目標温度以上に昇温させる加熱作業が終了したときにおける被加熱領域2の温度差を小さくでき、言い換えると、加熱作業終了時における被加熱領域2の昇温むらを低減できる。
【0062】
しかも、昇温むらを低減できるというこの効果は、被加熱領域の一部を冷却等するための特別の手段を誘導加熱装置に設けることなく実現でき、したがって設備コストやエネルギー効率の点で有効であるとともに、昇温途中に、誘導子4に高周波電流を通電しない秒単位の短い時間を設けることだけで実現できるため、誘導子4の誘導作用部4Aで被加熱領域2の全域を同時に加熱する一括加熱の利点である作業時間の短縮をほぼそのまま確保できることになる。
【0063】
また、被加熱領域2の全域が目標温度に達したときにおける被加熱領域2の温度差は小さいため、最高温度は目標温度を大きく超えた温度にならない。このため、物品1の材料である薄板が、例えば、亜鉛メッキ等の表面被覆材を有する板材であっても、この表面被覆材が加熱によって消失してしまうおそれがない。
【0064】
さらに、加熱終了時における被加熱領域2全体の温度の平準化を達成できるため、一部の温度が高温になることにより生ずる予想外の材料組織変化の発生や、焼入れのための急冷に伴う歪の発生、焼入れ後の残留応力の発生を抑制できる。
【0065】
以上説明した図1の実施形態の電源装置6は、手動でなされるスイッチの操作によって誘導子4への高周波電流の通電の一時停止がなされたため、図1の実施形態では、このスイッチが、誘導子4への高周波電流の通電を一時停止させるための電流制御手段となっていたが、図5〜7は、この電流制御手段が図1のものと異なる別実施形態に係る電源装置を示す。
【0066】
図5は、上記電流制御手段がタイマー式制御手段25となっている実施形態を示す。この図5の電源装置16は、電源17と、インバータ装置18と、整合トランス装置19と、制御装置20とで構成されている。インバータ装置18には、電源17からの三相等の交流電流を直流又は脈流に変換する順変換器21と、この順変換器21からの電流を高周波電流に変換する逆変換器22と、インバータ制御器23とが設けられている。逆変換器22で変換された高周波電流は整合トランス19に送られ、この整合トランス19に給電ケーブル5を介して誘導子4が接続されている。
【0067】
インバータ装置18を制御するための制御装置20には、タイマー24が設けられ、このタイマー24は、誘導子4への高周波電流の通電で開始される物品1の被加熱領域2についての加熱作業の時間を計測するものである。物品1の加熱作業が開始されてからの時間が、タイマー24に記憶されている予め定められた時間になると、タイマー24からの伝令に基づき、制御装置20は、逆変換器22から整合トランス装置19への給電の停止を指令するための制御信号をインバータ装置18に送信し、これにより、誘導子4への高周波電流の通電を一時停止させるための前述した温度差縮小ステップが始まる。また、物品1の加熱作業が開始されてからの時間が、タイマー24に記憶されている予め定められた別の時間になると、タイマー24からの伝令に基づき、制御装置20は、逆変換器22から整合トランス装置19への給電の再開を指令するための制御信号をインバータ装置18に送信し、温度差縮小ステップが終了する。
【0068】
電源装置16における上記電流制御手段が、タイマー24等で構成されたタイマー式制御手段25となっているこの実施形態によると、温度差縮小ステップの開始及び終了をタイマー24によって自動化できることになる。
【0069】
図6は、前記電流制御手段が温度実測式制御手段29となっている実施形態を示す。この図6の電源装置26は、物品1の被加熱領域2における所定部位の温度を測定するためのセンサー27を備えており、制御装置20には、センサー27からの測定データを検定するための温度比較器28が設けられている。この比較器28には、物品1の加熱作業開始後、被加熱領域2の加熱を一時停止させるべき温度と、被加熱領域2の加熱を再開させるべき温度とが予め記憶されている。
【0070】
物品1の加熱作業開始後、センサー27で測定された被加熱領域2の温度が、被加熱領域2の加熱を一時停止させるべき温度になると、比較器28からの伝令に基づき、制御装置20は、逆変換器22から整合トランス装置19への給電の停止を指令するための制御信号をインバータ装置18に送信し、これにより、誘導子4への高周波電流の通電を一時停止させる温度差縮小ステップが始まる。また、センサー27で測定された温度が、被加熱領域2の加熱を再開させるべき温度まで低下すると、比較器28からの伝令に基づき、制御装置20は、逆変換器22から整合トランス装置19への給電の再開を指令するための制御信号をインバータ装置18に送信し、温度差縮小ステップが終了する。
【0071】
電源装置26における前記電流制御手段がセンサー27と温度比較器28等で構成された温度実測式制御手段29となっているこの実施形態によると、温度差縮小ステップの開始及び終了を被加熱領域2の実際の温度に基づいて正確に行える。
【0072】
以上説明した各実施形態における温度差縮小ステップは、誘導子4への高周波電流の通電を一時停止することであったが、誘導子4へ通電する高周波電流を一時低減しても、被加熱領域の温度差を縮小できるため、温度差縮小ステップは、誘導子への高周波電流の通電を一時低減することでもよい。10%程度の電流レベルの低減であっても、被加熱領域2の昇温を実質的にゼロとすることができる。
【0073】
図7は、前記電流制御手段が、被加熱領域2のインピーダンスと対応している誘導子4の高周波電流の周波数を追尾するための周波数追尾手段40を備えたインピーダンス知得式制御手段41となっている実施形態を示す。また、この実施形態における温度差縮小ステップは、誘導子4への高周波電流の通電を一時低減することである。
【0074】
図7の電源装置36のインバータ装置18には、逆変換器22から整合トランス19装置を介して誘導子4へ給電される高周波電流の挙動を検出するための電流検出器37が設けられ、この電流検出器37で得られた誘導子4の高周波電流についての周波数や、電圧との位相差に関するデータは、共振周波数検知器38に伝令される。これらの電流検出器37と共振周波数検知器38は、インバータ装置18のインバータ制御器23と共に、周波数追尾手段40を構成している。この周波数追尾手段40は、検出器37で検出される誘導子4の高周波電流についての上記電圧との位相差をゼロにしようとする回路動作をもって、逆変換器22から整合トランス装置19に給電される電流の周波数を誘導子4の高周波電流の共振周波数と時々刻々一致させようとする周波数追尾動作を行うものになっている。
【0075】
この周波数追尾動作によってもたらされた誘導子4の高周波電流の共振周波数を、共振周波数検知器38は、上記位相差がゼロとなる基準をもって検知し、この検知された共振周波数は、制御装置20の周波数比較器39に送信される。この周波数比較器39には、予め定められた2つの周波数が記憶されている。第1の周波数は、誘導子4への高周波電流の通電を一時低減させるべきときの周波数であり、第2の周波数は、誘導子4への通電を高周波電流の元の電流レベルで再開させるべきときの周波数、言い換えると、上記一時低減がなされる前のもとの通電状態に戻すときの周波数である。共振周波数検知器38から周波数比較器39に送信される誘導子4の高周波電流の共振周波数は、これらの第1及び第2の周波数と対比される。
【0076】
誘導子4の高周波電流の共振周波数は、被加熱領域2のインピーダンスと対応しており、また、このインピーダンスは被加熱領域2の温度と対応している。
【0077】
共振周波数検知器38から誘導子4の高周波電流の共振周波数が周波数比較器39に送信されると、この共振周波数を介して間接的に周波数比較器39は被加熱領域2のインピーダンスを知得することになる。このため、前記周波数追尾手段40と周波数比較器39等により、インピーダンス知得式制御手段41が構成されている。
【0078】
物品1の加熱作業開始後、共振周波数検知手段38から周波数比較器39に送信された誘導子4の高周波電流の共振周波数が、比較器39に記憶されている上記第1の周波数と一致すると、この比較器39からの伝令に基づき、制御装置20は、逆変換器22から整合トランス装置19への給電の低減を指令するための制御信号をインバータ装置18に送信し、これにより、誘導子4への高周波電流の通電を一時低減させるための温度差縮小ステップが始まる。この後、共振周波数検知手段38から周波数比較器39に送信された誘導子4の高周波電流の共振周波数が、比較器39に記憶されている上記第2の周波数と一致すると、周波数比較器28からの伝令に基づき、制御装置20は、逆変換器22から整合トランス装置19への給電を元の電流レベルで再開指令するための制御信号をインバータ装置18に送信し、これにより、温度差縮小ステップが終了する。
【0079】
図7で示されたこの実施形態によると、被加熱領域2のインピーダンスの変化は、被加熱領域2の全域の温度変化と対応したものであるため、1個のセンサー27で被加熱領域2における1つの部位の温度を測定している図6の実施形態よりも、被加熱領域2の温度変化に応じて温度縮小ステップを正確に設けることができる。
【0080】
なお、以上説明した図7の実施形態における温度差縮小ステップは、誘導子4への高周波電流の通電を一時低減する形で設けたが、通電の再開のためのタイマーを別途設けた上で、あるいは、通電を再開すべき温度まで被加熱領域2の温度が低下したときの共振周波数を検知するための共振周波数検知手段を別途設けた上で、図7の実施形態における温度差縮小ステップを、誘導子4への高周波電流の通電を一時停止する形で設けてもよい。
【0081】
図8は、誘導子の誘導作用部についての別実施形態を示し、図9は、図8のS9−S9線断面図である。電源装置6によって高周波電流が通電される誘導子44は、物品1における2箇所の被加熱領域2のそれぞれについて、複数本、図示の実施形態では4本の良導体44Aを備えている。これらの良導体44Aは、被加熱領域2に誘導渦電流を生じさせる誘導作用部を形成するものである。誘導作用部が被加熱領域2の延設方向に延びているそれぞれの良導体44Aは、被加熱領域2の延設方向と直交する物品1の幅方向に並設され、これにより、それぞれの被加熱領域2は良導体44Aでカバーされている。また、2箇所の被加熱領域2のそれぞれに4個設けられている良導体44Aは、その4個が相互に並列接続されている。
【0082】
この実施形態によると、物品1の幅方向に寸法がある被加熱領域2に昇温むらが発生した場合、電気抵抗が大きめである高温部と対応して配置されている良導体44Aに流れる電流は少なめとなり、電気抵抗が小さめである低温部と対応して配置されている良導体44Aに流れる電流は多めなる。これにより、高温部への入熱は抑制され、低温部への入熱は増強される。このため、被加熱領域2の温度差は平準化されるように修正されることになり、加熱作業終了時における昇温むらは、前述した温度差縮小ステップによる効果と併せ、一層低減されることになる。
【0083】
なお、この図8及び図9の実施形態における電源装置を、図5〜7で示した電源装置16,26,36としてもよく、また、スイッチ操作を手動で行う図1の電源装置6としてもよい。
【0084】
【発明の効果】
本発明によると、加熱作業終了時の昇温むらの低減を、特別の設備が不要で、しかも一括加熱の利点である作業時間の短縮を確保して達成できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係る誘導加熱装置によって薄板製物品の被加熱領域を誘導加熱する場合の作業を示す概略斜視図である。
【図2】図1のS2−S2線断面図である。
【図3】昇温途中において温度縮小ステップを設けて加熱作業を行ったときの実験結果を示すグラフである。
【図4】昇温途中において温度縮小ステップを設けないで加熱作業を行ったときの実験結果を示すグラフである。
【図5】電流制御手段がタイマー式となっている電源装置の実施形態を示す図である。
【図6】電流制御手段が温度実測式となっている電源装置の実施形態を示す図である。
【図7】電流制御手段がインピーダンス知得式となっている電源装置の実施形態を示す図である。
【図8】誘導子の誘導作用部についての別実施形態を示す図1と同様の図である。
【図9】図8のS9−S9線断面図である。
【図10】温度差縮小ステップを設けずに被加熱領域を誘導加熱した場合において、理論上考えられる被加熱領域の各部位の昇温曲線を示したグラフである。
【図11】温度分布が生じている被加熱領域における各部位の等価回路を示した図である。
【図12】被加熱領域の各部位の温度が磁気変態点に達することにより、(1)〜(5)の順序で等価回路が変化することを示した図である。
【図13】温度差縮小ステップを設けて被加熱領域を誘導加熱した場合において、理論上考えられる被加熱領域の各部位の昇温曲線を示したグラフである。
【符号の説明】
1 薄板製物品
2 被加熱領域
4,44 誘導子
4A 誘導作用部
6,16,26,36 電源装置
24 タイマー
25 タイマー式制御手段
27 温度センサー
29 温度実測式制御手段
40 周波数追尾手段
41 インピーダンス知得式制御手段
44A 良導体
【出願人】 【識別番号】591214527
【氏名又は名称】菊池プレス工業株式会社
【住所又は居所】東京都羽村市神明台四丁目8番地41
【識別番号】000208695
【氏名又は名称】第一高周波工業株式会社
【住所又は居所】東京都中央区日本橋馬喰町1丁目6番2号
【出願日】 平成15年6月30日(2003.6.30)
【代理人】 【識別番号】100095212
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 武

【公開番号】 特開2005−15906(P2005−15906A)
【公開日】 平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願番号】 特願2003−186325(P2003−186325)