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【発明の名称】 糸状菌の菌体量測定法
【発明者】 【氏名】鈴木 聡

【要約】 【課題】麹菌などの糸状菌、特に増殖中の糸状菌の菌体量を簡便、かつ迅速に定量する方法を開発すること

【解決手段】糸状菌生細胞の染色が可能である蛍光色素を添加した培地に糸状菌を培養し、蛍光測定装置を用いて培養物の蛍光強度を測定し、得られた測定値を、標準溶液の測定値から作成した検量線と対比して糸状菌の菌体量を求めることを特徴とする糸状菌の菌体量測定法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状菌生細胞の染色が可能である蛍光色素を添加した培地に糸状菌を培養し、蛍光測定装置を用いて培養物の蛍光強度を測定し、得られた測定値を、標準溶液の測定値から作成した検量線と対比して糸状菌の菌体量を求めることを特徴とする糸状菌の菌体量測定法。
【請求項2】
蛍光色素が糸状菌に対し細胞毒性がなく、かつ代謝されない性質を有するものである請求項1記載の糸状菌の菌体量測定法。
【請求項3】
糸状菌が麹菌である請求項1記載の糸状菌の菌体量測定法。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌の菌体量測定法に関し、詳しくは蛍光色素を用いた糸状菌の菌体量測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
麹菌などの糸状菌は、菌糸を形成する微生物であるため、その菌体量を測定する場合、通常の微生物に用いられるところの濁度、あるいは血球計算板を使用して菌数を直接測定することはできない。
そのため、乾燥重量を測定する方法、もしくは細胞壁成分を抽出して酵素化学的に定量する方法が行われており、後者の方法は、細胞壁キチンの分解物であるグルコサミンを酵素化学的に定量する方法として知られている。この方法の改良型として、特許文献1の方法がある。これらの方法は、麹菌細胞壁成分を酸分解、あるいは細胞壁溶解酵素による分解により、N‐アセチル‐D‐グルコサミンを遊離させ、これを定量して菌体量を算出する方法である。
【0003】
また、蛍光色素を用いて糸状菌の菌体量を測定する方法(非特許文献1)も知られているが、この方法は、染色液を遠心分離、あるいは濾過により菌体から分離し、さらに菌体に結合しなかった色素を除くために、洗浄を必要とするなど、測定に多くの手順を必要とする。
【特許文献1】特開平08−070890号公報
【非特許文献1】J.Clin.Microbiol.Sept.,2003-2007,1989
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、これらの方法は、菌体量を測定するのに長時間を要したり、特別の測定用機器を必要とするなどの問題点があった。例えば、特許文献1の方法は、麹菌の細胞壁溶解酵素による分解処理、遊離N‐アセチル‐D‐グルコサミンとN‐アシル‐D‐ヘキソサミンオキシダーゼによる反応、該反応で遊離した過酸化水素を発色剤と反応させ、これを吸光度の変化として定量するという、多くの段階を必要とする。
そこで本発明は、糸状菌、特に増殖中の糸状菌の菌体量を簡便、かつ迅速に定量する方法を開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の本発明は、糸状菌生細胞の染色が可能である蛍光色素を添加した培地に糸状菌を培養し、蛍光測定装置を用いて培養物の蛍光強度を測定し、得られた測定値を、標準溶液の測定値から作成した検量線と対比して糸状菌の菌体量を求めることを特徴とする糸状菌の菌体量測定法である。
【0006】
請求項2に記載の本発明は、蛍光色素が糸状菌に対し細胞毒性がなく、かつ代謝されない性質を有するものである請求項1記載の糸状菌の菌体量測定法である。
【0007】
請求項3に記載の本発明は、糸状菌が麹菌である請求項1記載の糸状菌の菌体量測定法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、麹菌などの糸状菌の僅かな菌体量の測定を、細胞非破壊的に簡便、かつ迅速に行うことができる。とりわけ、使用する蛍光色素が直接、糸状菌の生細胞を染色するため、一切の酵素反応及びそれに伴う反応溶液等の交換が不要であり、培養液中の蛍光強度を蛍光測定装置で測定するだけの非常に簡単な方法である。しかも、本発明の方法では、多数の検体を一度に簡便な操作で測定することができる。
【0009】
さらに、本発明によれば、生育中の微量の糸状菌菌体量を測定できるため、本発明の方法は、醸造業、酵素製造業、製薬業等の分野で麹菌などの糸状菌の生理活性を評価する場合に、有用な役割を果たすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の対象微生物は、すべての糸状菌であり、例えばアスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)、ペニシリウム ロクフォルティ(Penicillium roqueforti)などが挙げられ、これらの中では特にアスペルギルス オリゼ、すなわち麹菌が好適である。なお、本発明に使用する蛍光色素の性質から推測すると、糸状菌の他に、酵母や細菌などにも応用が可能である。
【0011】
本発明に用いる蛍光色素は、糸状菌生細胞の染色が可能なものである。さらに、糸状菌に対し細胞毒性がなく、かつ代謝されない性質を有するものが望ましい。具体的には、以下の条件を満足するものが好ましい。
【0012】
1)少なくとも15時間の培養の間、麹菌などの糸状菌に対して生育阻害を起こす等の細胞毒性が観察されないこと
2)少なくとも15時間の培養の間、代謝、排出されないこと
3)水溶性で、培養液によく溶けること
4)培養液中で蛍光を発しないか、微弱な蛍光を有すること
5)細胞内では、強い蛍光を発し、その蛍光強度は培地中の蛍光強度と有意に識別可能であること
【0013】
このような条件を満足する蛍光色素の例としては、1,1'-ジオクタデシル-6,6'-ジ(4-スルホフェニル)-3,3,3',3'-テトラメチルインドカルボシアニン(商品名:SP-DiI、Molecular Probes, Inc.製)、商品名:NanoOrange(Molecular Probes, Inc.製)等が挙げられる。
【0014】
本発明の方法では、糸状菌用の培養液に蛍光色素を添加したものを、例えば96穴タイタープレートに入れ、これに麹菌などの糸状菌を接種して培養し、蛍光染色された、該糸状菌の生細胞を試料として、その蛍光強度を測定することにより、生育中の微量の糸状菌菌体量を測定する。なお、糸状菌の培養は、当該糸状菌の生育に適した条件で行えばよく、通常は25−37℃で12−24時間程度が適当である。
糸状菌用の培養液としては、通常微生物培養用に用いられるものが利用可能であるが、特に無蛍光の完全合成培地が望ましい。当該培地の組成は、特に限定されず、供試微生物に通常用いられるものが使用可能である。一般的には、無機塩と糖類からなり、ビタミンを含まない、あるいは最低限含む組成の培地であれば、供試微生物に合わせて適宜選択すればよい。ビタミン類、酵母エキス、ポリペプトン等通常用いられる培地成分は、蛍光を有するので使用しないことが望ましいが、使用しても測定可能である。例えば、麹菌の場合、その標準合成培地として良く用いられるツァペックドクス培地が好適である。
【0015】
培養物の蛍光強度の測定は、蛍光測定装置を用いて行う。蛍光強度の測定は、汎用の測定装置を用いて常法により実施すればよいが、好ましくはスキャナー型蛍光画像測定装置(アマシャムバイオサイエンス製、タイフーン9400)を用いて測定し、装置の付属画像処理ソフトにて蛍光強度(580nmあるいは520nm)を定量する。
まず、標準溶液として完全合成培地をタイタープレートに分注し、麹菌胞子を2倍希釈にて順次ウエル間を希釈しつつ分注することにより、希釈系列を作成したものを用い、当該標準溶液を4〜12時間、好ましくは6〜10時間培養し、上記の方法により、蛍光強度を測定した後、様々な菌体量となった各ウエルから菌体及び培養液を含む内容物すべてを回収し、フィルターメンブレン上で培養液を洗い流し、次いで菌体を110℃にて15時間乾燥させ、乾燥菌体試料とする。この試料を精密天秤にて重量を計測し、蛍光強度との相関をグラフにプロットして検量線とする。図1は、このようにして作成した検量線の例である。なお、検量線の作成のために行う蛍光強度測定後の菌体量の定量は、上記の乾燥菌体重量を求める代わりに、特開平08−070890号に記載されているN-アセチル-D-グルコサミンを定量する方法を採用することもできる。
次に、被検試料についても同様にして蛍光強度を測定した後、標準溶液の測定値から作成した検量線と対比して糸状菌の菌体量を求める。
【実施例1】
【0016】
以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらにより限定されない。
【0017】
1μMの蛍光色素(SP-DiI、Molecular Probes, Inc.製)を含む糸状菌用標準合成培地ツァペックドクス液体培地を満たした96穴タイタープレートに、麹菌野生株アスペルギルス オリゼRIB40株(独立行政法人酒類総合研究所より分譲)、及び試料として、緑色蛍光タンパク質をそれぞれ異なるプロモーターで発現する2株(A株:FERM P−19487、B株: FERM P−19488)をそれぞれ適当量(約1mg)接種し、15時間培養した。ここで、A株及びB株は、それぞれ上記RIB40株に対し、緑色蛍光タンパク質をレポーター遺伝子とする組込み型プラスミドベクターを導入したものであり、A株は麹菌尿素運搬体遺伝子プロモーターにより構成的に緑色蛍光タンパク質を弱発現する株、B株は麹菌TEF1遺伝子プロモーターにより構成的に緑色蛍光タンパク質を強発現する株である。これらは、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託されており、受託番号は、それぞれFERM P−19487及びFERM P−19488である。
その後、スキャナー型蛍光画像測定装置(アマシャムバイオサイエンス製、タイフーン9400)を用いて、520nm(緑色蛍光タンパク質)及び580nm(SP-DiI)の蛍光強度を同時に測定し、機器付属の画像処理装置にて蛍光強度を定量した。その結果、各菌株の蛍光強度は第1表に示した通りであった。なお、表中の単位ピクセルボリュームは、アマシャム社製の画像解析ソフト、イメージクワントを用いた解析により与えられる蛍光強度を表す値である。
【0018】
【表1】


単位はピクセルボリュームである
【0019】
得られた580nmの測定値(SP-DiI染色による蛍光強度)を標準溶液から作成した検量線(図1)と対比して、それぞれの菌株の蛍光測定時における菌体量(乾燥重量)を求めたところ、第2表に示した通りであった。
【0020】
【表2】


単位はμg
【0021】
以上より、菌体1μg(乾燥重量)あたりの緑色蛍光の強度は、第3表の通りである。
【0022】
【表3】


【0023】
麹菌野生株RIB40株は、緑色蛍光タンパク質を発現しておらず、本菌株の緑色蛍光は自家蛍光による微弱なバックグラウンドとみなされるので、A株及びB株の正味の緑色蛍光タンパク質に由来する緑色蛍光強度は、測定値−バックグラウンドで求められるので、A株の場合は、6226.894、B株の場合は、29399.45(単位は、いずれもピクセルボリューム)である。
【0024】
上記の結果より、A株及びB株では、1μgあたりの緑色蛍光タンパク質による蛍光強度に4.7倍の差があることが分かった。この蛍光強度の差は、それぞれの菌株における緑色蛍光タンパク質発現プロモーターの活性の差であると予想される。
【実施例2】
【0025】
アスペルギルス オリゼRIB40株の代わりに、トリコデルマ ビリデIFO 31137株を使用したこと以外は、実施例1と同様にして検量線を作成した。結果を図2に示す。
供試菌株について得られた580nmの測定値(SP-DiI染色による蛍光強度)を検量線(図2)と対比して、当該菌株の蛍光測定時における菌体量(乾燥重量)を求めることができる。
【実施例3】
【0026】
蛍光色素SP-DiI(Molecular Probes, Inc.製)の代わりに、NanoOrange(Molecular Probes, Inc.製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にして検量線を作成した。結果を図3に示す。
供試菌株について得られた520nmの測定値(NanoOrange染色による蛍光強度)を検量線(図3)と対比して、当該菌株の蛍光測定時における菌体量(乾燥重量)を求めることができる。
【実施例4】
【0027】
アスペルギルス オリゼRIB40株の代わりに、ペニシリウム ロクフォルティIFO 5754株を使用したこと以外は、実施例1と同様にして検量線を作成した。結果を図4に示す。
供試菌株について得られた580nmの測定値(SP-DiI染色による蛍光強度)を検量線(図4)と対比して、当該菌株の蛍光測定時における菌体量(乾燥重量)を求めることができる。
【実施例5】
【0028】
蛍光色素SP-DiI(Molecular Probes, Inc.製)の代わりに、NanoOrange(Molecular Probes, Inc.製)を用いたこと以外は、実施例4と同様にして検量線を作成した。結果を図5に示す。
供試菌株について得られた520nmの測定値(NanoOrange染色による蛍光強度)を検量線(図5)と対比して、当該菌株の蛍光測定時における菌体量(乾燥重量)を求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、タイタープレートの各ウエル内の微量菌体量を非破壊で生きたままの状態で測定できる。したがって、この方法により、麹菌などの糸状菌の菌体量を簡便な方法で、かつ迅速に測定しておき、その後に、96穴タイタープレートを利用して各ウエル毎の酵素活性、例えばセルラーゼ活性を既知の方法で定量することが可能である。
さらに、本発明の方法で測定した菌体量にて、各ウエルにおける酵素活性を標準化すれば、各供試菌株の菌体あたりの酵素活性を簡便に測定できる。
本発明は、醸造業、酵素製造業、製薬業等の分野で糸状菌の生理活性を効果的に評価する場合に、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】アスペルギルス オリゼRIB40株の菌体量(乾燥重量)と蛍光強度(SP-DiI染色による蛍光強度)の相関を示す。
【図2】トリコデルマ ビリデIFO 31137株の菌体量(乾燥重量)と蛍光強度(SP-DiI染色による蛍光強度)の相関を示す。
【図3】トリコデルマ ビリデIFO 31137株の菌体量(乾燥重量)と蛍光強度(NanoOrange染色による蛍光強度)の相関を示す。
【図4】ペニシリウム ロクフォルティIFO 5754株の菌体量(乾燥重量)と蛍光強度(SP-DiI染色による蛍光強度)の相関を示す。
【図5】ペニシリウム ロクフォルティIFO 5754株の菌体量(乾燥重量)と蛍光強度NanoOrange染色による蛍光強度)の相関を示す。
【出願人】 【識別番号】501145295
【氏名又は名称】独立行政法人食品総合研究所
【出願日】 平成15年8月13日(2003.8.13)
【代理人】 【識別番号】100074077
【弁理士】
【氏名又は名称】久保田 藤郎

【識別番号】100086221
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 裕也

【公開番号】 特開2005−58098(P2005−58098A)
【公開日】 平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願番号】 特願2003−292703(P2003−292703)