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【発明の名称】 オンチップバイオアッセイ方法及びキット
【発明者】 【氏名】谷 博文

【氏名】上舘 民夫

【氏名】前花 浩志

【要約】 【課題】培養などの前操作を軽減した、汎用性が高く、ハイスループットな分析が可能なオンチップバイオアッセイシステムを提供すること。

【解決手段】格子状に配列した複数の微細孔が貫通された基板からなる微細孔チップの下面に、細胞導入用微小流体チップを固着して、微細孔チップと細胞導入用微小流体チップ間に複数の微細な流路を形成し、該流路を介して懸濁した細胞を微細孔に流し込み、次いで、微細孔チップの上面に、被検物質導入用微小流体チップを、その複数の微細な被検物質導入用流路が前記細胞導入用流路と直交するように固着して、微細孔チップと被検物質導入用微小流体チップ間に複数の微細な流路を形成し、該流路を介して被検物質を流し込み、微細孔チップの微細孔内の細胞と接触させ、所定時間後あるいは所定の時間間隔で、被検物質が細胞に及ぼす影響の程度をインサイチューに検出する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子状に配列した複数の微細孔が貫通された基板からなる微細孔チップの下面に、細胞導入用微小流体チップを固着して、微細孔チップと細胞導入用微小流体チップ間に複数の微細な細胞導入用流路を形成し、該流路を介して懸濁した細胞を微細孔チップの微細孔に流し込み、次いで、微細孔チップの上面に、被検物質導入用微小流体チップを、その複数の微細な被検物質導入用流路が前記複数の微細な細胞導入用流路と交叉するように固着して、微細孔チップと被検物質導入用微小流体チップ間に複数の微細な被検物質導入用流路を形成し、該流路を介して被検物質を流し込み、微細孔チップの微細孔内の細胞と接触させ、所定時間後あるいは所定の時間間隔で、被検物質が細胞に及ぼす影響の程度をインサイチューに検出することを特徴とするオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項2】
懸濁した細胞を微細孔チップの微細孔に流し込むに先だって、微細孔チップの上面に通気防水性の封孔メンブランを貼着して、微細孔からの細胞の流出を防止することを特徴とする請求項1記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項3】
基板が、シリコン基板であることを特徴とする請求項1又は2記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項4】
微小流体チップが、ポリジメチルシロキサン製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項5】
ゲルに懸濁した細胞を微細孔チップの微細孔に流し込み、微細孔内で細胞を固定化することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項6】
ゲルに懸濁した細胞として、低融点のアガロースゲルに懸濁した細胞を使用することを特徴とする請求項5記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項7】
細胞導入用微小流体チップと被検物質導入用微小流体チップとが同一の微小流体チップであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項8】
微細孔チップの微細孔の細胞列毎及び/又は細胞列に直交する被検物質列毎に温度制御することを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項9】
使用後のマイクロチップから細胞を除去し、チップを再利用することを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項10】
細胞として、微生物細胞、動物細胞、植物細胞からなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項11】
細胞として、形質転換細胞を用いることを特徴とする請求項1〜10のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項12】
2種以上の被検物質を用いることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項13】
被検物質が細胞に及ぼす影響の程度をインサイチューに検出する手段が、細胞から生じるシグナルを検出する、空間分解能を有するCCDカメラ、フォトダイオードアレイ又は写真乾板であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法。
【請求項14】
アガロースなどのゲルに懸濁した細胞を流し込み固化するための格子状に配列した複数の微細孔が貫通された基板からなる微細孔チップと、該微細孔チップのそれぞれの片面に固着して複数の微細な流路群を形成する2つの微小流体チップとを備えたことを特徴とするオンチップバイオアッセイキット。
【請求項15】
さらに微細孔チップの片面に固着して微細孔からの細胞の流出を防止する通気防水性の封孔メンブランを備えたことを特徴とする請求項14記載のオンチップバイオアッセイキット。
【請求項16】
基板の微細孔の列毎及び/又は行毎に温度制御機構が設けられていることを特徴とする請求項14又は15記載のオンチップバイオアッセイキット。
【請求項17】
基板が、シリコン基板であることを特徴とする請求項14〜16のいずれか記載のオンチップバイオアッセイキット。
【請求項18】
微小流体チップが、ポリジメチルシロキサン製であることを特徴とする請求項14〜17のいずれか記載のオンチップバイオアッセイキット。
【請求項19】
微細孔が、300〜900μm×300〜900μm角の貫通孔であることを特徴とする請求項14〜18のいずれか記載のオンチップバイオアッセイキット。
【請求項20】
微小流体チップの流路の幅が、微細孔の辺の長さと等しいことを特徴とする請求項14〜19のいずれか記載のバイオアッセイキット。
【請求項21】
複数の微小流体チップの流路の間隔が、その端部において拡がっていることを特徴とする請求項14〜20のいずれか記載のオンチップバイオアッセイキット。

【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、オンチップバイオアッセイ方法及びそれに用いられるオンチップバイオアッセイキットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体産業における微細加工技術の発展に伴い、シリコンやガラスなどの基板上に微小な流路や反応器、検出のための電極など化学分析に必要な要素を集積化したマイクロチップを用いる分析機器が用いられるようになってきた。DNAやタンパク質のためのマイクロチップベースの電気泳動装置は既に開発・市販されている。このような微小流体チップをベースとする分析デバイス(マイクロ分析システム、μ-Total Analysis System、μ-TAS)は、化学分析実験の集積化、ハイスループット、省資源、省スペース、ローエミッションを可能にするものであり、現在、生化学分析を中心に前述の電気泳動やクロマトグラフィーを行う分離用チップ、イムノアッセイや酵素分析を行うアッセイ用チップ、ポリメラーゼチェーンリアクション(PCR)を行う合成反応用チップなどの開発が世界的規模で活発に行なわれている。これらは、持ち運びが容易であることから、環境分析をサンプリングしたその場で行ったり、高精度な臨床試験をベッドサイドで行うことも可能になると期待されている。
【0003】
また、マイクロチップをベースとした分析デバイスとしてマイクロアレイも挙げることができる。これは、DNAやタンパク質などをプローブ分子として固体基板上に高密度に配列、固定化したもので、試料中のDNAやRNA、タンパク質、基質分子などとの結合をモニターすることで、mRNAやタンパク質の発現、生体分子間相互作用の解析を行うことができる。これらのアレイタイプのマイクロチップでは、一つの基板に多数のプローブが固定化されているが、基板上のそれらと反応させることのできる試料は、単一の検体であり、多数の検体との組合せを同時にモニターすることを目的としていない。
【0004】
従来のマイクロチップをベースとした分析システムでは、プローブ分子と標的分子の相互作用や、それに引き続く反応をモニターすることで、標的分子の定量や相互作用の評価を行っている。しかし、環境汚染物質や新規化学物質の特性を評価する際には、濃度や生体分子との相互作用に関する情報だけではなく、それによって引き起こされる生物学的な応答をモニターする必要がある。そのためには、生体や臓器、特定の細胞やその機能を遺伝子組換えによって形質転換した細胞を用いる生物学的定量(バイオアッセイ)を行う必要がある。
【0005】
他方、多種の薬物・毒物等の化学物質を簡便にアッセイするために必要な培養基板、細胞アレイ 、化学物質の自動注入装置、アッセイ系を提供するために、細胞付着性高分子に被覆された領域が不連続に微細に規則正しく並べられ、そのまわりを細胞非付着性の親水性高分子に被覆された領域が囲み、さらにそのまわりを細胞非付着性の強疎水性材料に被覆された領域が連続的に囲んでいる表面を持つ高密度細胞アレイ用基板(特許文献1参照)や、細胞ベースの比較解析を行ううえで特に有用であり、シグナル伝達経路のモジュレーター候補の高スループットスクリーニングを可能にする、(a) それぞれ1以上の内腔を備え、該内腔内に細胞群を収めた一連の管からなる管アレイを準備する工程;(b) 該管アレイを横断的に切断して、複数個の管横断薄片を得る工程;及び (c) 該複数個の管薄片を固相支持体上に固定する工程を含む細胞アレイの調製法(特許文献2参照)など細胞アレイや細胞チップに関する技術(例えば、特許文献3〜5参照)が提案されている。
【0006】
その他、多数の化学種の広範な生物又は生化学活性を同時にアッセイすることが可能な、a)場合により1種以上のアッセイ成分を含む多孔質アッセイマトリックス内又はマトリックス上に複数の試料を導入する段階と、b)多孔質アッセイマトリックスでもよいし、そうでなくてもよい少なくとも1種のマトリックスを使用して1種以上のアッセイ成分をアッセイに導入する段階と、c)i)アッセイで使用したマトリックスを洗浄し、過剰量の試料、アッセイ成分又はその組み合わせを除去するか、又はii)アッセイで使用したマトリックスをバルク溶液中で又は液体として付加試薬と接触させる付加段階を実施する段階を含む試料の生物又は生化学活性のアッセイ方法(特許文献6参照)が提案されている。
【特許文献1】特開2003−33177号公報
【特許文献2】特表2003−516747号公報
【特許文献3】特開2002−297922号公報
【特許文献4】特表2002−543429号公報
【特許文献5】特表2002−523781号公報
【特許文献6】特表2001−526390号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞や細菌を利用した様々な分析や検査を行う場合、通常は試験管やマイクロタイタープレートなどで、細胞培養から試料の添加、検出などの一連の作業を行う必要がある。これら細胞を扱う作業には、無菌操作が可能な特別な施設やスキルが必要となるため、汎用性が低いという問題があった。また、通常試験の直前に行う細胞の培養には長時間を要するため、多数の試料を扱う場合や、多くの情報を引き出すために複数種の細胞を用いる場合には特に問題となっていた。
【0008】
こうした問題を解決するためには、細胞を扱っていることを意識することなく、かつ培養などの前操作を軽減した、汎用性の高い検査システムが要求される。現在の化学分析や生化学分析ではこうした要求に応える各種試験紙や検査キット、センサーなどが開発・市販されているが、バイオアッセイでは、こうした簡易試験法は実用化されていない。また、ハイスループットな分析を行うためには、多数の試料と多数のプローブ(バイオアッセイでは細胞など)同士の掛け合わせが同時に達成できるようなシステムも必要となる。最近では、マイクロチップを用いて化学物質や生理活性物質が細胞に及ぼす影響をモニターする試みがなされているが、汎用性のある細胞固定化技術やシグナル検出法が十分確立されておらず、実用化には至っていないのが現状である。
【0009】
本発明の課題は、細胞を扱っていることを意識することなく、かつ培養などの前操作を軽減した、汎用性が高く、ハイスループットな分析が可能なバイオアッセイシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究し、複数種の細胞を基板上の複数の微細孔に固定化したマイクロチップを考案した。試験に使用可能な状態に培養済みの細胞を固定化することで、使用者は前操作なしですぐに試験に供することが可能となり、特別な設備も必要としない。また、複数の微小流路を有するチップを用いて微細孔の列ごとに異なる細胞を固定化し、これと直交するように複数の微小流路を有する別のチップを用いて異なる試料を導入することで、各微細孔ごとに細胞と試料の組合せが異なる試験を行うことが可能となり、微細孔の数に相当する試験結果を同時に得ることができる。本発明は以上の知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち本発明は、格子状に配列した複数の微細孔が貫通された基板からなる微細孔チップの下面に、細胞導入用微小流体チップを固着して、微細孔チップと細胞導入用微小流体チップ間に複数の微細な細胞導入用流路を形成し、該流路を介して懸濁した細胞を微細孔チップの微細孔に流し込み、次いで、微細孔チップの上面に、被検物質導入用微小流体チップを、その複数の微細な被検物質導入用流路が前記複数の微細な細胞導入用流路と交叉するように固着して、微細孔チップと被検物質導入用微小流体チップ間に複数の微細な被検物質導入用流路を形成し、該流路を介して被検物質を流し込み、微細孔チップの微細孔内の細胞と接触させ、所定時間後あるいは所定の時間間隔で、被検物質が細胞に及ぼす影響の程度をインサイチューに検出することを特徴とするオンチップバイオアッセイ方法(請求項1)や、懸濁した細胞を微細孔チップの微細孔に流し込むに先だって、微細孔チップの上面に通気防水性の封孔メンブランを貼着して、微細孔からの細胞の流出を防止することを特徴とする請求項1記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項2)や、基板が、シリコン基板であることを特徴とする請求項1又は2記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項3)や、微小流体チップが、ポリジメチルシロキサン製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項4)や、ゲルに懸濁した細胞を微細孔チップの微細孔に流し込み、微細孔内で細胞を固定化することを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項5)や、ゲルに懸濁した細胞として、低融点のアガロースゲルに懸濁した細胞を使用することを特徴とする請求項5記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項6)に関する。
【0012】
また本発明は、細胞導入用微小流体チップと被検物質導入用微小流体チップとが同一の微小流体チップであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項7)や、微細孔チップの微細孔の細胞列毎及び/又は細胞列に直交する被検物質列毎に温度制御することを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項8)や、使用後のマイクロチップから細胞を除去し、チップを再利用することを特徴とする請求項1〜8のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項9)や、細胞として、微生物細胞、動物細胞、植物細胞からなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いることを特徴とする請求項1〜9のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項10)や、細胞として、形質転換細胞を用いることを特徴とする請求項1〜10のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項11)や、2種以上の被検物質を用いることを特徴とする請求項1〜11のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項12)や、被検物質が細胞に及ぼす影響の程度をインサイチューに検出する手段が、細胞から生じるシグナルを検出する、空間分解能を有するCCDカメラ、フォトダイオードアレイ又は写真乾板であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか記載のオンチップバイオアッセイ方法(請求項13)に関する。
【0013】
さらに本発明は、アガロースなどのゲルに懸濁した細胞を流し込み固化するための格子状に配列した複数の微細孔が貫通された基板からなる微細孔チップと、該微細孔チップのそれぞれの片面に固着して複数の微細な流路群を形成する2つの微小流体チップとを備えたことを特徴とするオンチップバイオアッセイキット(請求項14)や、さらに微細孔チップの片面に固着して微細孔からの細胞の流出を防止する通気防水性の封孔メンブランを備えたことを特徴とする請求項14記載のオンチップバイオアッセイキット(請求項15)や、基板の微細孔の列毎及び/又は行毎に温度制御機構が設けられていることを特徴とする請求項14又は15記載のオンチップバイオアッセイキット(請求項16)や、基板が、シリコン基板であることを特徴とする請求項14〜16のいずれか記載のオンチップバイオアッセイキット(請求項17)や、微小流体チップが、ポリジメチルシロキサン製であることを特徴とする請求項14〜17のいずれか記載のオンチップバイオアッセイキット(請求項18)や、微細孔が、300〜900μm×300〜900μm角の貫通孔であることを特徴とする請求項14〜18のいずれか記載のオンチップバイオアッセイキット(請求項19)や、微小流体チップの流路の幅が、微細孔の辺の長さと等しいことを特徴とする請求項14〜19のいずれか記載のバイオアッセイキット(請求項20)や、複数の微小流体チップの流路の間隔が、その端部において拡がっていることを特徴とする請求項14〜20のいずれか記載のオンチップバイオアッセイキット(請求項21)に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のマイクロバイオアッセイチップとオンチップバイオアッセイ方法を、様々な細胞やタイプの異なるバイオアッセイに応用することで、簡便な試験をハイスループットに行うことが可能となる。このようなチップフォーマットのバイオアッセイシステムにより、現在のDNAアレイのようにメーカーが試験項目に応じた複数種の細胞を固定化したチップを提供し、ユーザーは培養などの前操作をなしで、各種試験や検査を行うことができる。高感度な検出法と組み合わせれば細胞を高密度に集積化・固定化したチップの開発や超小型化も可能であり、医薬・生化学・環境など様々な分野での利用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のオンチップバイオアッセイ方法としては、格子状に配列した複数の微細孔が貫通された基板からなる微細孔チップの下面に、細胞導入用微小流体チップを固着して、微細孔チップと細胞導入用微小流体チップ間に複数の微細な細胞導入用流路を形成し、該流路を介して懸濁した細胞を微細孔チップの微細孔に流し込み、次いで、微細孔チップの上面に、被検物質導入用微小流体チップを、その複数の微細な被検物質導入用流路が前記複数の微細な細胞導入用流路と交叉(好ましくは略直交)するように固着して、微細孔チップと被検物質導入用微小流体チップ間に複数の微細な被検物質導入用流路を形成し、該流路を介して被検物質を流し込み、微細孔チップの微細孔内の細胞と接触させ、所定時間後あるいは所定の時間間隔で、被検物質が細胞に及ぼす影響の程度をインサイチューに検出する方法であれば特に制限されるものではなく、ここで「インサイチューに検出する」とは、少なくとも微細孔チップと細胞導入用微小流体チップと被検物質導入用微小流体チップから形成されているマイクロバイオアッセイチップをそのまま使用して検出することを意味する。
【0016】
上記微細孔チップとしては、縦方向m列×横方向n行(mとnは同一又は相異なっていてもよく、m×nは2以上)の格子状に配列した複数の微細孔が貫通されたシリコン、ガラス、プラスチックなどの基板からなるものであればどのようなものでもよく、かかる基板の大きさは特に制限されないが、300〜1000μmの厚さのものが通常用いられる。また、微細孔は微細孔の形状としては、正方形、長方形、円形、楕円形、3角形など特に制限されないが、中でも正方形や円形、特に正方形が微小流体チップに設けられた流路の幅方向と孔開口部とが一致させうる点で好ましい。また、微細孔の大きさは一辺又は直径の長さが1000μm以下のものが好ましく、例えば、300〜900μm×300〜900μm角の開口を有する微細孔を具体的に例示することができるが、その下限は特に限定されるものでない。微細孔や微小流路の寸法が小さい場合でも,毛管現象で微小流路と微細孔に菌体の懸濁液や被験物質溶液をいきわたらすことが可能であり、毛管現象だけでいきわたらすことが困難な場合には、高圧ポンプで圧送したり、真空ポンプで吸引することも可能である。
【0017】
また、基板に穿孔して微細孔を貫通させる方法も特に制限されないが、例えば、シリコン基板に穿孔する場合を以下説明する。シリコン基板表面の有機物等を除去した基板を熱酸化炉内に設置し、窒素通気下で1000℃以上に加熱し、炉内に水蒸気を導入してシリコン基板を酸化し、その表面にSiO2膜を形成する。次に、その表面にSiO2膜を形成したシリコン基板の両表面をHMDS等により親油性とした後、フォトレジストをスピンコートし、プリベークする。プリベーク後のシリコン基板と、OHPフィルムにレーザープリンタを用いてパターン出力したフォトマスクとを密着させ、紫外線照射によりフォトリソグラフィーを実施する。続いて、フッ化水素によるSiO2膜のエッチングならびにKOHによるシリコン基板の異方性エッチングを基板の両面から行い、シリコン基板に穿孔して微細貫通孔を形成することができる。
【0018】
かかる微細孔チップを構成する基板には、微細孔の列毎及び/又は行毎に温度制御機構を設けることが好ましい。細胞の列毎又は行毎に温度制御機構を設けることにより、至適生育温度が異なる複数種の微生物等の細胞を同時に使用することができ、被検物質の列毎又は行毎に温度制御機構を設けることにより、被検物質の各種温度における影響を同時に検出することができる。かかる温度制御機構としては、プリント配線基板を用いて、これをヒーターとし、バイオアッセイ用のチップに貼り合わせることで、チップ上の任意の場所を所定の温度に設定する制御機構を例示することができ、他方、冷却についても、ペルチェ素子を同様に貼り合わせることで、チップ上の任意の場所を所定の温度に設定する制御機構を例示することができる。
【0019】
本発明のオンチップバイオアッセイに使用しうる細胞としては、微生物細胞、動物細胞、植物細胞を例示することができ、より具体的には、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス等の細菌原核細胞や、酵母、アスペルギルス等の真核細胞や、ドロソフィラS2、スポドプテラSf9等の昆虫細胞や、L細胞、CHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、C127細胞、BALB/c3T3細胞(ジヒドロ葉酸レダクターゼやチミジンキナーゼなどを欠損した変異株を含む)、BHK21細胞、HEK293細胞、Bowesメラノーマ細胞、卵母細胞、T細胞等の動物細胞や植物細胞などを挙げることができる。
【0020】
細胞が大腸菌等の微生物細胞の場合、微細孔チップと細胞導入用微小流体チップ間に形成された複数の微細な細胞導入用流路を介して細胞懸濁液を微細孔チップの微細孔に流し込むこともできるが、温度の上昇又は下降により固化するゲルに懸濁した細胞を微細孔チップの微細孔に流し込むことにより、固定化微生物とすることができる。かかるゲルとしては、寒天ゲル、アガロースゲル、コラーゲンゲル、アルギン酸カルシウムゲル、架橋デキストランゲル、合成高分子ゲル等を挙げることができる。合成高分子ゲルを用いる場合は、アクリルアミド、ポリビニールアルコール等の合成高分子ゲルのモノマ−に架橋剤や重合促進剤や重合開始剤を併用することにより重合が促進し、ゲル化が生じることになる。また、細胞が動物細胞の場合、コラーゲンゲルや支持体(担体)に付着させた動物細胞の懸濁液を用いることができる。
【0021】
また、被検物質が細胞に及ぼす影響の程度をインサイチューに検出することを容易ならしめるため、細胞として形質転換細胞を用いることができる。かかる形質転換細胞として、例えば、被験物資との接触により発現する候補遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子が連結された形質転換体を挙げることができ、これら形質転換体は常法により作製することができる。レポーター遺伝子としては、GFP(グリーン蛍光タンパク質)等の蛍光発光タンパク質をコードするDNAや、ホタルルシフェラーゼ、バクテリアルシフェラーゼ等のルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ等の酵素遺伝子などを具体的に挙げることができるが、これらの中でもGFP遺伝子等の蛍光性タンパク質をコードするDNAが検出・確認の容易さからして好ましい。かかるGFPには、EGFP(Enhanced GFP)、EYFP(Enhanced Yellow Fluorescent Protein)、ECFP(enhanced CYAN fluorescent protein)(青色)、DsRed(赤色)等の蛍光波長の異なる誘導体が存在し、多重ラベルを行うこともできる。GFPの利点は生細胞のままで簡単に解析できることであり、そのため経時的な観察が容易となる。
【0022】
上記の懸濁した細胞を微細孔チップの微細孔に流し込むに先だって、微細孔チップの上面に通気防水性(通気性かつ遮水性)の封孔メンブランを貼着することにより、微細孔からの細胞の流出を防止することができる。かかる通気防水性の封孔メンブランを用いると、微細孔チップと細胞導入用微小流体チップ間に形成された複数の微細な細胞導入用流路を介して細胞懸濁液を微細孔チップの微細孔に流し込んだ際、通気性により背圧がかからず、防水性により細胞懸濁液が微細孔から漏出することもない。この通気防水性の封孔メンブランは、微細孔チップと被検物質導入用微小流体チップ間に形成される複数の微細な被検物質導入用流路を介して被検物質を流し込む前には剥離されることになるが、低融点のアガロースゲルに懸濁した細胞を使用する場合など、微細孔中の細胞が固化される場合、特に有用である。
【0023】
細胞導入用微小流体チップは、微細孔チップと協働して、微細孔チップと細胞導入用微小流体チップ間に複数の微細な細胞導入用流路を形成し、該流路を介して懸濁した細胞を微細孔チップの微細孔に流し込むために用いられる。細胞導入用微小流体チップを微細孔チップの下面に固着することにより形成される細胞導入用流路の幅は微細孔の辺の長さと等しくすることが好ましく、その長さは1列又は1行の複数の微細孔のすべてに細胞懸濁液をいきわたすことができる長さが好ましい。各流路に異なる種類の細胞懸濁液を流入することで、配列した微細孔の各列毎又は各行毎に異なる細胞を導入することが可能となる。同一列又は同一行にある微細孔内の細胞懸濁液や細胞封入ゲルは、微細孔チップと細胞導入用微小流体チップを固着した際に形成される微小流路を介して繋がっているが、細胞導入用微小流体チップを剥離したり、ゲル等を分断する必要はなく、細胞導入用微小流体チップと微細孔チップを固着したままで分析を行うことができる。また、使用後のマイクロチップから細胞を除去し、微細孔チップと共に細胞導入用微小流体チップを再利用することも可能である。
【0024】
被検物質導入用微小流体チップは、微細孔チップと協働して、微細孔チップと被検物質導入用微小流体チップ間に複数の微細な被検物質導入用流路を形成し、該流路を介して被検物質を微細孔チップの微細孔内の細胞と接触させるために用いられる。被検物質導入用微小流体チップを微細孔チップの上面に前記複数の微細な細胞導入用流路と略直交するように固着することにより形成される被検物質導入用流路の幅は微細孔の辺の長さと等しくすることが好ましく、その長さは1列又は1行の複数の微細孔のすべてに被検物質をいきわたすことができる長さが好ましい。各流路に異なる種類の被検物質を流入することで、配列した微細孔の各列毎又は各行毎に異なる被検物質を導入することが可能となる。同一列又は同一行にある微細孔内の細胞と接触する被検物質は、微細孔チップと被検物質導入用微小流体チップを固着した際に形成される微小流路を介して繋がっているが、被検物質導入用微小流体チップを剥離する必要はなく、被検物質導入用微小流体チップと微細孔チップを固着したままで分析を行うことができる。また、使用後のマイクロチップから被検物質を除去し、微細孔チップと共に被検物質導入用微小流体チップを再利用することも可能である。また、被検物質としては、各種の変異原性物質、環境ホルモン、医薬候補物質、重金属イオン、神経伝達物質、サイトカイン、インターロイキンなどの化学物質の溶液や血清等の体液を例示することができる。なお、被検物質と共に、酵素基質等検出のための反応物質を同時に流し込むこともできる。
【0025】
これら細胞導入用微小流体チップと被検物質導入用微小流体チップは、同一形状、同一材料から作製された同一物を用いることが好ましく、その材質としては微細孔チップを構成する基板に固定手段等により固着しうるものであれば特に制限されないが、微細孔チップを構成する基板に着脱自在に貼着しうるものが好ましい。例えば、シリコン基板の場合、シリコンとの密着性が高いポリジメチルシロキサン(PDMS)を特に好適に例示することができる。PDMSを用いる場合、前記の微細孔チップを構成する基板作製と同様な方法により片面のみ処理したPDMS流路用鋳型を作製し、未重合のPDMSと重合開始剤をPDMS流路用鋳型に流し込むことにより、細胞導入用微小流体チップや被検物質導入用微小流体チップを作製することができる。PDMSは、シリコンの他、ガラス、アクリルなどポリマー、PDMS自身との密着性に優れていることから微小流体チップ素材として有利に用いることができる。
【0026】
本発明のオンチップバイオアッセイ方法は、微細孔チップと細胞導入用微小流体チップと被検物質導入用微小流体チップを有し、以上のようにして組み立てたマイクロバイオアッセイチップに、微細孔チップと細胞導入用微小流体チップ間に形成された複数の微細な細胞導入用流路を介して1又は2種以上の細胞の懸濁液を流入し、次いで、微細孔チップと被検物質導入用微小流体チップ間に形成された複数の微細な被検物質導入用流路を介して1又は2種以上の被検物質を流入して被検物質を細胞と接触させ、所定時間後あるいは所定の時間間隔で、被検物質が細胞に及ぼす影響の程度をインサイチューに検出する。例えば、それぞれの微細孔の細胞から生じるシグナルを、空間分解能を有するCCDカメラ、フォトダイオードアレイ等のフォトダイオード類、各種スキャナー、写真乾板などで検出することができる。試料導入用微小流体チップを細胞導入用微小流体チップと直交するように配置すると、各微細孔ごとに細胞と試料の組合せが異なる試験を同時に行うことが可能となり、微細孔の数に相当する試験結果を同時得ることができる。また、細胞導入用微小流体チップや試料導入用微小流体チップの流路デザインを目的に応じて変更することもできるが、複数の微小流体チップの流路同士の間隔を、その端部において拡がるように構成すると、送液用のチューブ類が接続しやすく、細胞懸濁液や被検物質の注入が容易になる。
【0027】
次に、本発明のオンチップバイオアッセイキットとしては、懸濁した細胞を流し込むための格子状に配列した複数の微細孔が貫通された基板からなる微細孔チップと、該微細孔チップのそれぞれの片面に固着して複数の微細な流路群を形成する2つの微小流体チップとを備えたものであれば特に制限されず、微細孔チップや微小流体チップは、上述のものを有利に使用することができる。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
本発明の具体的な実施例として、変異原性試験用大腸菌を固定化し、マイクロモザイク型のオンチップバイオアッセイを行った。変異原性試験用大腸菌は、変異原物質によって発現誘導されるSOS遺伝子の代わりに生物発光を生じるホタルルシフェラーゼの遺伝子をプラスミド上に組み込んだ大腸菌を用いた。また、マイクロモザイク型のアッセイとは図1に示すように、微小流体チップを用いて微細孔の縦のm列に試験菌を、横のn行に試料を導入することで、m×nの組み合わせの試験を同時に行うことを可能とするアッセイとなる。ここでは、縦5列×横5行で試験を行った。細胞固定化用の微細孔チップにはシリコン基板を、大腸菌ならびに試料導入用の微小流体チップにはシリコンやガラスと密着性の高いPDMSを用いた。
【0030】
微細孔チップの作製:3.0×3.5cm、厚さ625μmのシリコン基板を熱酸化炉内に設置し、その表面に厚さ2μmのSiO2膜を作製した。次に、フォトリソグラフィー、フッ化水素によるSiO2膜のエッチングならびにKOHによるシリコン基板の異方性エッチングを基板の両面から行い、シリコン基板に700μm角の微細貫通孔を縦5列、横5行の計25箇所あけた。各貫通孔の間隔は1.5mmとした(図2A参照)。
【実施例2】
【0031】
微小流体チップの作製:シリコン基板を、上記と同様の操作で加工し、鋳型を作製した。これに重合開始剤を添加したPDMS(ダウコーニングSYLGARD184)を流し込み、混入している空気を除去するために、ガラスデシケータ内で減圧脱気したのち、4℃で一時間静置した。その後、60℃で4時間加熱重合し、鋳型からはがしとってこれを微小流体チップとした。微小流体チップは幅700μm、深さ200μmの流路を1.5mm間隔で5本設けた。また、このチップは細胞導入用と試料導入用の2枚用意した(図2B参照)。
【0032】
変異原検出用細菌の導入と固定化:100μg/mLアンピシリンを含むLB培地に一晩培養した変異原試験用大腸菌KT1008/pRSSLを体積比で1/50加え、37℃で波長600nmの吸光度がおよそ0.4になるまで振とう培養した。10,000rpmで5分間遠心分離し、沈殿した菌体をトリス緩衝生理食塩水に懸濁した。この懸濁液と3.0%(w/v)低融点アガロース(Sigma社製、タイプVII)を体積比1:1で混合した。微細孔チップの片面に微細孔と流路が重なるように微小流体チップを張り合わせ、ここにアガロースと混合した試験菌を流し込んだ。このとき、微細孔チップのもう一方の面には試験菌が流出しないようポリテトラフルオロエチレン製メンブランフィルター(アドバンテック社製)を張り合わせた。試験菌を導入したチップは4℃で10分間静置し、アガロースをゲル化させた。メンブランフィルターを剥離し、これを試験菌固定化チップとした(図3上段参照)。なおここでは、再現性等の検討を行うため、全ての流路に同じ試験菌を固定化した。
【0033】
オンチップバイオアッセイ:試験菌固定化チップの、微小流体チップを張り合わせていない面に、同様の微小流体チップを細胞導入時と直交するように張り合わせた(図3下段参照)。ここに、変異原性物質としてマイトマイシンCを流し込み、発現誘導を行った。発現誘導の最適条件は37℃、1時間であった。次に、発現されたホタルルシフェラーゼを生物発光による検出を行うために、ルシフェリンとアデノシン三リン酸の混合溶液を導入し、生じた発光をCCDカメラ(浜松ホトニクス製C−4800型)で撮影した(図1及び図3参照)。5本の流路に、それぞれ濃度の異なるマイトマイシンCを流し込んだ結果、試験菌を固定化した各微細孔からの発光を観察することができた。また、発光強度はマイトマイシンC濃度に依存し、試験管を用いて培養液中で行った場合と同様の濃度依存性が見られた。さらに、同じ濃度のマイトマイシンCを添加した同一行内にある各微細孔からの発光にばらつきがほとんど見られず、全ての微細孔に均一に試験菌が固定化されていることが確認できた(図4参照)。
【0034】
以上の結果から、微細孔チップと微小流体チップを用いて作製されたマイクロバイオアッセイチップを用いて変異原性物質のオンチップバイオアッセイを行うことができた。このマイクロバイオアッセイチップとオンチップバイオアッセイ方法を、様々な細胞やタイプの異なるバイオアッセイに応用することで、簡便な試験をハイスループットに行うことが可能となり、バイオアッセイを必要とする様々な分野において有用性が高いといえる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のマイクロモザイク型のアッセイを示す図である。
【図2】本発明の微細孔チップ(A)と微小流体チップ(B)を示す図である。
【図3】本発明の変異原検出試験におけるオンチップバイオアッセイを示す図である。
【図4】本発明のオンチップバイオアッセイによる変異原検出試験の結果を示す図である。
【出願人】 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】独立行政法人科学技術振興機構
【出願日】 平成15年7月31日(2003.7.31)
【代理人】 【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀

【公開番号】 特開2005−46121(P2005−46121A)
【公開日】 平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願番号】 特願2003−284208(P2003−284208)