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【発明の名称】 細胞のグルコースの取り込み調節作用を評価する方法
【発明者】 【氏名】佐藤 拓哉

【氏名】廣▲瀬▼ 義隆

【氏名】山本 憲朗

【氏名】室山 幸太郎

【氏名】室▲崎▼ 伸二

【氏名】山本 佳弘

【要約】 【課題】

【解決手段】細胞中の2−デオキシグルコース−6−リン酸を、(イ)グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、(ロ)酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、(ハ)ジアホラーゼ及び(ニ)レサズリンを含有する反応液と反応させ、生成するレゾルフィンの蛍光強度を測定することを特徴とする2−デオキシグルコース−6−リン酸の定量方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース又は2−デオキシグルコースを、(イ)アデノシン三リン酸、(ロ)ヘキソキナーゼ、(ハ)グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、(ニ)酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、(ホ)ジアホラーゼ及び(ヘ)レサズリンを含有する反応液と反応させて、生成したレゾルフィンの蛍光強度を測定することを特徴とするグルコース又は2−デオキシグルコースの定量方法。
【請求項2】
グルコース−6−リン酸又は2−デオキシグルコース−6−リン酸を、(ハ)グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、(ニ)酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、(ホ)ジアホラーゼ及び(ヘ)レサズリンを含有する反応液と反応させて、生成したレゾルフィンの蛍光強度を測定することを特徴とするグルコース−6−リン酸又は2−デオキシグルコース−6−リン酸の定量方法。
【請求項3】
細胞に2−デオキシグルコースを与えて、請求項1に記載の方法及び請求項2に記載の方法を実施することにより、細胞に取り込まれた2−デオキシグルコース及び細胞に取り込まれた2−デオキシグルコースが細胞内でリン酸化されて生成した2−デオキシグルコース−6−リン酸を定量することを特徴とする細胞の2−デオキシグルコース取り込み量を定量し、その定量値でもって細胞のグルコース取り込みを評価する方法。
【請求項4】
被検物質の存在下の細胞又は被検物質で前処理した細胞を用いて請求項3記載の細胞のグルコース取り込みを評価する方法を実施することを特徴とする細胞のグルコースの取り込み調節作用物質をスクリーニングする方法。
【請求項5】
被検物質が各種薬剤や素材抽出物であることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
(イ)アデノシン三リン酸、(ロ)ヘキソキナーゼ、(ハ)グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、(ニ)酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、(ホ)ジアホラーゼ及び(ヘ)レサズリンを備えていることを特徴とする細胞内2−デオキシグルコース及び2−デオキシグルコース−6−リン酸の定量測定用キット。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、グルコース、2−デオキシグルコース、グルコース−6−リン酸又は2−デオキシグルコース−6−リン酸の定量方法、細胞のグルコース取り込みを評価する方法、細胞のグルコースの取り込み調節作用物質をスクリーニングする方法及び細胞内2−デオキシグルコース及び2−デオキシグルコース−6−リン酸の定量測定用キットに関する。
【0002】
【従来の技術】
細胞のグルコース取り込み量の評価は、糖尿病予防治療薬の創製におけるスクリーニング、既存の糖尿病薬の再評価、疾病診断又は臨床検査に利用されている。
【0003】
経口摂取された食事由来の糖類は、唾液や膵臓、刷子縁膜に存在する消化酵素により単糖にまで分解され、糖輸送担体を介して腸管頂端部から細胞内に取込まれ、腸管基底部の糖輸送担体を介して血中に移行する。
健常者では血糖値の上昇に対応して、速やかに膵β細胞からインスリンが分泌され、インスリン感受性である脂肪細胞や筋肉細胞によって血中グルコースは取り込まれるため、あまり血糖値は上昇することなく低下する。しかし、糖尿病患者ではインスリン分泌不全及びインスリン作用不足により、血中に移行した食事由来の糖類を速やかに細胞へ取り込むことができないため、食後の血糖値が急激に上昇する食後過血糖状態になっている。また、食後高血糖の維持は遅延過剰型のインスリン分泌動態を来たし、食後高インスリン血症となる。
食後過血糖による高血糖維持は、活性酸素の産生を亢進し、血管内皮細胞への酸化ストレスを増大させる。また、過剰な活性酸素は酸化LDLを増やし、マクロファージによる貧食から不安定なプラーク形成を促すため、食後高血糖が繰り返されることによる血管不全の発生から心血管イベントの発症が懸念される。食後高インスリン血症は内臓脂肪を蓄積させ、そこからインスリン抵抗性や動脈硬化に関連するアディポサイトカインや遊離脂肪酸が分泌されて、脂質代謝異常や尿酸代謝異常に対してさらに悪影響が及ぶことが懸念される。よって、各種薬剤や素材抽出物の腸管における糖の取込調節に及ぼす影響を評価することにより、上記した疾患の予防及び治療に有効な薬剤及び素材を探索することが可能である。
【0004】
筋肉細胞は筋収縮のエネルギー源であるATPの生産やATP及びクレアチンリン酸生産に利用されるグリコーゲンの生産を目的としてグルコースを血中から取り込む。骨格筋はインスリン感受性の臓器であり、血糖値の上昇に伴って分泌されたインスリンにより糖類の取込が促進されることによって、吸収された糖類の85%が筋肉細胞に取り込まれることが報告されている。しかし、糖尿病患者では、脂肪細胞から分泌された遊離脂肪酸により、骨格筋におけるインスリン感受性が低下し、糖の取込が低下することが報告されている。筋肉細胞における糖の取込低下は高血糖状態を持続させることになり、細小血管合併症や大血管障害のリスクを上昇させる。よって、各種薬剤や素材抽出物の筋肉細胞における糖の取込調節に及ぼす影響を評価することにより、上記した疾患の予防及び治療に有効な薬剤及び素材の探索が可能である。
【0005】
肝臓は、非インスリン依存的な糖類の取り込みを行い、血液から肝臓に糖類が移行してそれが中性脂肪を作る材料となる。これで大量に作られた中性脂肪は超低比重リポタンパク(VLDL)となり血中に放出されるが、糖尿病患者のように高血糖状態が維持されている場合、血中の中性脂肪及びVLDL濃度が上昇し、高中性脂肪血症、高VLDL血症が見られる。また、糖尿病患者ではインスリン作用に依存して生成されるリポプロテインリパーゼ(LPL)の活性が減少して中性脂肪の分解が遅延し高中性脂肪血症を亢進させる。また、大量のVLDLの産生及び分解の減少の結果、中間型リポタンパク(IDL)の産生が亢進し、動脈硬化を引き起こしやすいIDLの血中濃度が上昇し、高IDL血症になる。また、LPL活性の減少はカイロミクロンやVLDLからの高密度リポタンパク(HDL)の生成を低下させ、低HDL血症につながる。よって、各種薬剤や素材抽出物の肝臓における糖の取込調節に及ぼす影響を評価することにより、上記した疾患の予防及び治療に有効な薬剤及び素材の探索が可能である。
【0006】
脂肪細胞は食事由来の過剰な糖類などのエネルギー源を中性脂肪として蓄積するため、言わば体内エネルギーの貯蔵庫としての働きを持つ。また、近年の分子生物学的アプローチにより、脂肪細胞が単なるエネルギーの備蓄細胞ではなく、TNF−αやレジスチン、アディポネクチン、PAI−1、レプチンなどのアディポサイトカインと呼ばれる生理活性物質の分泌細胞であることが明らかにされている。しかし、脂肪の過剰蓄積状態、すなわち肥満ではアディポサイトカインの過剰分泌、または分泌不全、遊離脂肪酸の放出が起こり、インスリン抵抗性を基盤とした糖尿病、高脂血症、高血圧といった生活習慣病の発症へとつながる。よって、各種薬剤や素材抽出物の脂肪細胞における糖の取込調節に及ぼす影響を評価することにより、上記した疾患の予防及び治療に有効な薬剤及び素材の探索が可能である。
【0007】
従来、細胞のグルコース取り込み量の評価方法は、細胞にグルコースが取り込まれるとグルコースが速やかに代謝され、細胞内において、グルコースの構造が維持されないために、細胞に取り込まれたグルコースを直接グルコースとして測定することができず、その実施が困難であった。そのため、近年において、細胞のグルコース取り込み量の評価方法にはさまざまな工夫がなされてきた。例えば、(1)細胞に与えたグルコースの減少量を測定する方法(非特許文献1)、(2)ラジオアイソトープで標識したグルコースまたはグルコース類似化合物(例えば2−デオキシグルコース)を使用して細胞内ラジオアイソトープ量を測定する方法(非特許文献2)、(3)蛍光標識したグルコースあるいは蛍光標識したグルコース類似化合物を使用して蛍光検出する方法(非特許文献3)、又は(4)グルコース類似化合物を使用して各種酵素、補酵素を用いて間接的にグルコース類似化合物の取り込みを測定する方法(非特許文献4)などが挙げられる。
【0008】
上記(1)の方法については、例えばグルコースを含有する培地あるいは生理緩衝液で培養細胞を一定時間インキュベートして、培地あるいは生理緩衝液中のグルコースの減少量を測定することになるが、長時間(例えば10時間等)にわたりインキュベートしなくてはならず、短時間であるとグルコース減少量の差異を求めることができず、現実的ではない。
【0009】
上記(2)の方法については、ラジオアイソトープを使用するため、短時間でグルコースの取り込み量を評価でき、学術研究等において広く使用されている。しかしながら、この方法によれば、ラジオアイソトープを使用するために特別な施設が必要であり、さらにその施設内で試験を行わなくてはならず、ラジオアイソトープの使用条件を満たさない試験機関等では実施することができない。また、試験実施者あるいは周辺環境への放射能暴露の危険性が拭い去れない。
【0010】
上記(3)の方法については、グルコースあるいはグルコース類似物に蛍光を有する官能基を導入した誘導体を使用して、その誘導体の細胞内取り込み量を蛍光分析にて定量する手段が用いられているが、それらの誘導体の化学構造がグルコースの化学構造からかけ離れているために、グルコースとして認識されて細胞に取り込まれたかどうかが明確でなく、例えばグルコース以外の他の物質と認識されて細胞内に取り込まれたこと等が考えられ、細胞内へのグルコースの取り込み量を正確に評価できていない恐れがある。
【0011】
上記(4)の方法ついては、グルコース類似物、例えば細胞内にて6位リン酸化された後は代謝されない2−デオキシグルコースなどを細胞に取込ませて、これをヘキソキナーゼ、アデノシン三リン酸、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドからなる反応液にて反応させ、2−デオキシグルコース−6−リン酸の測定においては、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ及び酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドからなる反応液に反応させることで、この反応により酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが還元されて生成する還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに由来する蛍光強度を測光することにより細胞内の2−デオキシグルコースおよび2−デオキシグルコース−6−リン酸を測定する方法であるが、細胞内マトリックスには還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドに由来する蛍光波長に近値の蛍光波長を有する物質が存在するため、定量の正確性に問題がある。
【0012】
【非特許文献1】
British Journal of Phamacology (1998),125,429−436
【非特許文献2】
Biochimica et Biophysica Acta (1982),687,265−280
【非特許文献3】
The Journal of Biological Chemistry (2000),275,29,22278−22283
【非特許文献4】
Biol Signals Recept (2000),9,267−274
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、短時間に実施でき、ラジオアイソトープを使用するための特別な施設を必要とせず、放射能暴露の危険性がない、細胞内へのグルコース類(例えばグルコース、2−デオキシグルコース等)の取り込み量を正確に且つ簡便に定量できる方法を提供することを目的とする。
また、本発明は細胞内の2−デオキシグルコース及び2−デオキシグルコース−6−リン酸の定量方法を用いて、被検物質による細胞へのグルコース取り込み調節作用を評価する方法を提供することを目的とする。従って、本発明は、細胞へのグルコース取り込み調節作用(取り込み促進作用及び阻害作用)を有する化学物質のスクリーニング方法をも提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、細胞中の2−デオキシグルコース−6−リン酸を、(イ)グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、(ロ)酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、(ハ)ジアホラーゼ及び(ニ)レサズリンを含有する反応液と反応させ、生成するレゾルフィンの蛍光強度を測定することを特徴とする2−デオキシグルコース−6−リン酸の定量方法を創製し、それが、上記問題点を一挙に解決することを知見した。
【0015】
本発明者らは、上記方法で生成するレゾルフィンの蛍光波長が上記公知方法(4)とは全く異なり高波長領域であるため、多くの生体内物質あるいは被検素材、培養プレートによる測定の妨害をほとんど受けないことから上記公知方法(4)よりも測定精度が向上することを知見した。また、レゾルフィンは同濃度の還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド又は還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸よりも蛍光値が高いため、上記公知方法(4)よりも測定感度が向上することを知見した。
さらに、本発明者らは、本発明方法は上記公知方法(4)に比べて、定量性が優れるため、測定に必要な細胞数が少なく、培養面積の狭いウェルのプレートで実施可能であることから、1枚のプレートで多検体を同時に評価できることを知見した。さらに、本発明者らは、測定時のプレート選択性の自由度が大きいことから、細胞回収及び別プレートへの移行作業を必要としないため、作業効率の大幅な改善及び使用資材の減少が可能であること等種々知見した。本発明者らは、その定量方法によって細胞内のグルコース取り込み評価、上記したスクリーニング方法等をより正確かつ効率よく行うことが可能となることを見出した。すなわち、本発明は、公知方法(4)の改良方法である。
【0016】
すなわち、本発明は、
(1) グルコース又は2−デオキシグルコースを、(イ)アデノシン三リン酸、(ロ)ヘキソキナーゼ、(ハ)グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、(ニ)酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、(ホ)ジアホラーゼ及び(ヘ)レサズリンを含有する反応液と反応させて、生成したレゾルフィンの蛍光強度を測定することを特徴とするグルコース又は2−デオキシグルコースの定量方法、
(2) グルコース−6−リン酸又は2−デオキシグルコース−6−リン酸を、(ハ)グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、(ニ)酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、(ホ)ジアホラーゼ及び(ヘ)レサズリンを含有する反応液と反応させて、生成したレゾルフィンの蛍光強度を測定することを特徴とするグルコース−6−リン酸又は2−デオキシグルコース−6−リン酸の定量方法、
(3) 細胞に2−デオキシグルコースを与えて、(1)に記載の方法及び(2)に記載の方法を実施することにより、細胞に取り込まれた2−デオキシグルコース及び細胞に取り込まれた2−デオキシグルコースが細胞内でリン酸化されて生成した2−デオキシグルコース−6−リン酸を定量することを特徴とする細胞の2−デオキシグルコース取り込み量を定量し、その定量値でもって細胞のグルコース取り込みを評価する方法、
【0017】
(4) 被検物質の存在下の細胞又は被検物質で前処理した細胞を用いて(3)記載の細胞のグルコース取り込みを評価する方法を実施することを特徴とする細胞のグルコースの取り込み調節作用物質をスクリーニングする方法、
(5) 被検物質が各種薬剤や素材抽出物であることを特徴とする(4)記載の方法、
(6) (イ)アデノシン三リン酸、(ロ)ヘキソキナーゼ、(ハ)グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、(ニ)酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドまたは酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、(ホ)ジアホラーゼ及び(ヘ)レサズリンを備えていることを特徴とする細胞内2−デオキシグルコース及び2−デオキシグルコース−6−リン酸の定量測定用キット、に関する。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下の説明において、便宜上下記する省略記号を用いる。
ADP:アデノシン二リン酸
ATP:アデノシン三リン酸
Glc:グルコース
G6P:グルコース−6−リン酸
G6PDH:グルコース−6−リン酸脱水素酵素又はグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ
NAD:酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド
NADH:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド
NADP:酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸
NADPH:還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸
2DG:2−デオキシグルコース
2DG−6P:2−デオキシグルコース−6−リン酸
【0019】
上記(2)の本発明の定量方法は、反応機構的には、2DG−6P又はG6PをG6PDHの存在下にNADP又はNADと反応させてNADPH又はNADHを生成させ、生成したNADPH又はNADHをジアホラーゼの存在下にレサズリンと反応させて蛍光物質であるレゾルフィンを生成させ、生成したレゾルフィンの蛍光強度を測定し、2DG−6P又はG6Pを定量することにより行われる。
【0020】
そもそも2DG又はGlcを細胞に接触させると、2DG又はGlcは細胞内に取り込まれる。細胞内に取り込まれた2DGの一部又は全部は細胞による作用によってリン酸化されて、2DG−6P又はG6Pが細胞内で生成する。細胞の種類によっては、取り込まれた2DG又はGlcの全部がリン酸化される場合もあるし、その一部がリン酸化される場合もあるし、全くリン酸化されない場合もある。リン酸化されない2DG又はGlcは、これをATP及びヘキソキナーゼと反応させることによって2DG−6P又はG6Pに変換される。
【0021】
本発明方法は、下記図式で要約することができる。
【化1】


【化2】


、又は、
【0022】
【化3】


【化4】


【0023】
上記細胞のグルコース取り込み量の評価方法において、細胞にGlcを与え、Glcが細胞内に取り込まれると、Glcが細胞によって代謝され易いので、細胞内のGlc及びG6Pを定量するよりも、細胞によって代謝されにくい2DGを細胞に与え、細胞内に取り込まれた2DG及び細胞内でリン酸化された2DG−6Pを定量し、その定量値によって、細胞によるグルコースの取り込み量を評価するのがより好ましい。より詳しくは、細胞に与えた2DGの量と細胞内に取り込まれた2DGと2DG−6Pの総量と対比することによって細胞によるグルコースの取り込み率を得ることができる。
本発明によって使用される細胞は、グルコースの取り込みを評価する対象となり得る細胞であればどのようなものでもよく、例えば、筋肉細胞、小腸粘膜細胞などが挙げられるが、骨格筋細胞が好ましく、より具体的には、L6骨格筋細胞が好ましい。本発明によって使用される細胞は、上記細胞以外の細胞であってもよく、例えば微生物細胞又は上記以外の動植物細胞であってもよい。
【0024】
本発明で使用されるG6PDHとしては、2DG−6Pを基質、NAD又はNADPを補酵素として、2−デオキシ−6−ホスホグルコン酸を生成する酵素ならどのようなものでもよい。上記G6PDHは市販品が入手可能であり、例えばLeuconostoc属やそのリコンビナント、Baker’s yeast、又はtorula’s yeast由来品等が挙げられる。しかし、Baker’s yeast由来のG6PDHは、Mg2+により活性が低下すること(非特許文献5)から、Mg2+を含有するアッセイカクテルには、Leuconostoc属やそのリコンビナント由来品を使用することが好ましい。また、2DG−6Pに対する反応性を考慮しても、Leuconostoc属やそのリコンビナント由来品を使用することが好ましい。これは本発明者らによって得られた新知見である。
【0025】
本発明で使用されるレサズリンは、式
【化5】


で表される化合物又はその例えばナトリウム又はカリウム等の金属塩であってもよい。
【0026】
2DGを接触させ、2DGを取り込んだ細胞は、破壊又は粉砕した後、上記(1)の2DG−6Pの定量に付される。上記(1)の反応における反応温度は、好ましくは約20℃〜45℃であり、より好ましくは約25℃〜40℃である。通常室温で問題ないが、G6PDHの至適温度や熱安定性を考慮すると、37℃で実施することが好ましい。
本発明によれば、上記反応におけるpHが、好ましくは中性域〜弱アルカリ性域であり、より好ましくは約5.0〜10.0であり、最も好ましくは約6.0〜9.0である。具体的にはpH8近辺が好ましい。上記反応において、pHを調整するのに、緩衝液等を用いてよい。上記緩衝液としては、例えば、酸性又は弱アルカリ性に調整することのできる緩衝液などが挙げられ、より具体的には、イミダゾール緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液又はグッド緩衝液などが挙げられる。
【0027】
また、本発明においては、上記G6PDHとしてLeuconostoc属やそのリコンビナント由来品を用いる場合は、反応系に、マグネシウムイオンが存在していてもよい。上記マグネシウムイオンとしては、例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム又は硫酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0028】
2DG−6PとG6PDH、NAD(又はNADP)、ジアホラーゼ及びレサズリンとの反応は、一挙に行なってもよいし、上記図式に従って逐次的に反応生成させてもよい。
【0029】
本発明によれば、上記で生成したレゾルフィンの蛍光強度を測定し、上記グルコース−6−リン酸類を定量する。
【0030】
上記レゾルフィンの蛍光強度を測定する手段としては、例えば蛍光分光光度計等を用いる公知の手段などが挙げられる。上記蛍光分光光度計は、通常、試料励起光の波長を変えて一波長における蛍光を測定するものか、試料励起光の波長を一定とし蛍光の波長分布を測定するものか、或いは試料励起光波長及び測定波長の両方を一定として測定を行うものであるが、本発明において、特に限定されない。
【0031】
上記測定された蛍光強度からの2DG−6Pの定量は、検量線等を使用する自体公知の手段に従って行われる。2DGの細胞への移行は、グルコースの細胞への移行と平行している。従って、本発明においては、2−DGを用いる反応によって生成するレゾルフィンの蛍光強度からグルコースの取り込みを定めることができる。その結果、上記したように細胞のグルコース取り込みを評価することができるし、細胞の取り込み調節作用物質をスクリーニングすることができる。スクリーニング方法は、被検物質の存在下、細胞を用いる本発明の定量方法を実施して、細胞によるグルコース取り込み量を算定し、この値と、被検物質の非存在下、細胞を用いる本発明の定量方法を実施して、算定された細胞によるグルコース取り込み量の値とを比較することにより行なわれる。上記被検物質の存在下、細胞を用いる定量方法を実施するに際して、細胞そのものの代わりに被検物質で前処理された細胞を用いてよい。このようにして細胞へのグルコース取り込み量を増加させる物質又は細胞へのグルコース取り込み量を抑制若しくは阻害する化学物質を見出すことができる。
【0032】
細胞の取り込み調節作用物質をスクリーニングするために用いる被検物質は、いかなる化学物質であってもよい。合成物質であってもよいし、天然物質由来のものであってもよい。各種薬剤であってもよいし、素材抽出物であってもよい。本発明の方法は、糖尿病薬創製に極めて有用である。
【0033】
上記したように本発明は、2−デオキシグルコース―6−リン酸定量測定用キット又は2−デオキシグルコース定量測定用キットをも提供する。前者のキットは、(ハ)G6PDH、(ニ)NADまたはNADP、(ホ)ジアホラーゼ及び(ヘ)レサズリンを備え、後者のキットは、(イ)G6PDH、(ロ)NADまたはNADP、(ハ)ジアホラーゼ、(ニ)レサズリン、(ホ)ATP及び(ヘ)ヘキソキナーゼを備えている。この場合に、これらのキットは所望によりさらに定量に用いられる培養細胞をさらに備えていてもよい。さらに、本発明は、2−デオキシグルコース―6−リン酸及び2−デオキシグルコース定量測定用キットをも提供し、このキットは(イ)G6PDH、(ロ)NADまたはNADP、(ハ)ジアホラーゼ、(ニ)レサズリン、(ホ)ATP及び(ヘ)ヘキソキナーゼを備えている。もちろん所望により、培養細胞をさらに備えていてもよい。すなわち、この第3のキットにおいては、(ハ)ジアホラーゼ、(ニ)レサズリン、(ホ)ATP及び(ヘ)ヘキソキナーゼを用いて2−デオキシグルコース−6−リン酸が定量でき、(イ)G6PDH、(ロ)NADまたはNADP、(ハ)ジアホラーゼ、(ニ)レサズリン、(ホ)ATP及び(ヘ)ヘキソキナーゼを用いて2−デオキシグルコースを定量できる。従って、細胞内の2−デオキシグルコースと2−デオキシグルコース−6−リン酸を併せて定量する場合は、第3のキットが好ましい。
【0034】
【実施例】
(実施例1:2DGの定量)
2−DGを任意の濃度、例えば1〜20μg/mLの2−DG水溶液を96穴組織培養プレートに1穴当りそれぞれ50μL添加し、アッセイカクテル150μL(ATP 1μmol、ヘキソキナーゼ 0.54units、NADP60nmol、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ 2units、レサズリンナトリウム 3.8nmol、ジアホラーゼ 0.15units[50mM トリエタノールアミンバッファー(pH8.1)、50mM KCl、0.5mM MgCl、及び0.02% BSA])を2−DG水溶液に添加し、マイクロプレートミキサーにて攪拌後、37℃の5%炭酸ガス培養器で90分間インキュベートし、マイクロプレートリーダーにて蛍光値(励起波長:530nm、測定波長:590nm)を測定することにより2−DGの定量を行った。この際、あらかじめ作製した上記蛍光値とサンプル中の2−DGの濃度との関係を示す式
【数1】
y=15.417x+0.6
{xはサンプル中の2−DGの濃度(μg/ml)、yは蛍光値(励起波長:530nm、測定波長:590nm)を示す}
を用いた。結果を図1に示す。
【0035】
(実施例2:L6骨格筋細胞の作製)
L6筋芽細胞を2.5×10/mLの濃度になるようにα−MEM培地(10%v/v 牛胎児血清含有)で調整し、コラーゲンタイプIをコートした96穴組織培養プレートに1穴当り200μLを播種し、37℃の5%炭酸ガス培養器で2日間培養、コンフルエントになった後、培地をα−MEM培地(2%v/v 牛胎児血清含有)に変更し、37℃の5%炭酸ガス培養器で5日間培養することによりL6骨格筋細胞を作製した。
【0036】
(実施例3:L6骨格筋細胞におけるインスリン濃度依存的な糖輸送促進作用の確認)
α−MEM培地(2%v/v 牛胎児血清含有)にウシ膵臓由来インスリンを溶解させて作製した0〜100000ng/mlインスリン含有α−MEM培地(2%v/v 牛胎児血清含有)を、上記実施例2の通りに作製したL6骨格筋細胞を培養したプレートに1穴当りそれぞれ100μL添加し、37℃の5%炭酸ガス培養器で4時間インキュベートした。その後、PBS(−)にて2回洗浄し、1mM 2−DG含有KRPHバッファー(pH7.4)を1穴当り100μL添加し、37℃の5%炭酸ガス培養器で30分間インキュベートし、PBS(−)にて2回洗浄した。その後、0.1N NaOHを1穴当り25μL添加し、冷凍庫にプレートを入れて凍結させた後、プレートを冷凍庫から出して室温に戻し、85℃、20分間湯浴中にて加熱処理し、室温になるまで放冷後、0.1N HClを1穴当り25μL添加し、続いて150mM トリエタノールアミンバッファー(pH8.1)を1穴当り25μL添加することにより2−DG測定用サンプルを作製し、上記実施例1に従い、それぞれのサンプル中の2−DGを定量した。さらに、定量した2−DGと培地中のインスリン濃度との関係を調べた。この結果を図2に示す。
【0037】
【発明の効果】
本発明によって、短時間に実施でき、ラジオアイソトープを使用するための特別な施設を必要とせず、放射能暴露の危険性がない、細胞内へのグルコース類の取り込み量を正確に評価できる定量性に優れた2−デオキシグルコース−6−リン酸の定量方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の定量結果を示す。
【図2】実施例3における2−DGと培地中のインスリン濃度との関係を示す。
【出願人】 【識別番号】000238511
【氏名又は名称】武田食品工業株式会社
【出願日】 平成15年6月30日(2003.6.30)
【代理人】 【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍

【公開番号】 特開2005−21025(P2005−21025A)
【公開日】 平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願番号】 特願2003−187614(P2003−187614)