トップ :: C 化学 冶金 :: C12 生化学;ビ−ル;酒精;ぶどう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異または遺伝子工学

【発明の名称】 CES1遺伝子領域における変異を検出する方法、およびその利用
【発明者】 【氏名】紀 貴金

【氏名】村松 正明

【氏名】片桐 敬

【氏名】下司 映一

【要約】 【課題】CES1遺伝子、およびもしくは該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出することを特徴とする、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性検査方法の提供を課題とする。

【解決手段】CES1遺伝子のプロモーター領域に存在する一塩基多型(SNPs)について、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性との関連を調べた。その結果、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型変異の有無を指標とすることにより、被検者において、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査を行うことが可能であることを見出した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者について、カルボキシルエステラーゼ1(CES1)の遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出することを特徴とする、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法。
【請求項2】
CES1遺伝子の近傍DNA領域が、プロモーター領域である請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
変異が一塩基多型変異である、請求項1または2に記載の検査方法。
【請求項4】
被検者について、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法。
【請求項5】
CES1遺伝子の近傍DNA領域が、プロモーター領域である請求項4に記載の検査方法。
【請求項6】
多型部位が、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における145位、398位、1185位、10002位、10088位、10143位、10325位、10337位、10604位、10693位、10714位、10951位、11224位、13597位、13822位、15718位、17923位、17931位、18241位、18242位、18666位、18986位、18987位、20004位、20091位、20360位、20366位、20588位、22739位、22817位、22922位、23212位、23376位、23377位、23839位、23881位、24023位、26374位、26633位、27529位、27561位、27574位、27580位、27727位、27767位、27770位、27853位、28286位、28466位、28563位、28676位、28689位、28775位、28967位、30032位、30711位、30767位、31152位、31214位、31228位、31229位、31230位、31231位、31232位、31233位、31252位、31256位、31743位、32402位、33272位、33358位、35439位、35767位、35917位、36024位、36074位、36081位、36103位、36148位、36195位、36213位、36270位、36273位、36327位、36330位、36348位、36361位、36368位、36372位、36373位、36385位、36387位、36393位、38971位、39053位、39099位、39126位、39178位、39194位、39274位、40128位、40211位、40367位、40368位、40372位、40375位、40376位、40381位、40382位、40397位、40762位、41009位、41151位、42113位、42192位、42271位、42320位、42698位、44244位、44270位、44341位、44429位、44608位、44669位、45643位、45741位、45760位、45832位、46736位、46874位、または51127位のいずれかの多型部位である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
多型部位が、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における41151位の部位である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
配列番号:1に記載の塩基配列における41151位の塩基種がGである場合に、CES1が代謝に関与する薬剤に対し、有効性を有すると判定される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
以下の工程(a)および(b)を含む、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法。
(a) 被検者のCES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位について、塩基種を決定する工程
(b) 工程(a)により決定された塩基種を、配列番号:1に記載の塩基配列における10002位、35439位、および41151位の多型部位の塩基種が、それぞれA、T、およびGであるハプロタイプを示す遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位の塩基種と比較する工程
【請求項10】
請求項9(a)に記載のCES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位が、配列番号:1に記載の塩基配列における145位、398位、1185位、10002位、10088位、10143位、10325位、10337位、10604位、10693位、10714位、10951位、11224位、13597位、13822位、15718位、17923位、17931位、18241位、18242位、18666位、18986位、18987位、20004位、20091位、20360位、20366位、20588位、22739位、22817位、22922位、23212位、23376位、23377位、23839位、23881位、24023位、26374位、26633位、27529位、27561位、27574位、27580位、27727位、27767位、27770位、27853位、28286位、28466位、28563位、28676位、28689位、28775位、28967位、30032位、30711位、30767位、31152位、31214位、31228位、31229位、31230位、31231位、31232位、31233位、31252位、31256位、31743位、32402位、33272位、33358位、35439位、35767位、35917位、36024位、36074位、36081位、36103位、36148位、36195位、36213位、36270位、36273位、36327位、36330位、36348位、36361位、36368位、36372位、36373位、36385位、36387位、36393位、38971位、39053位、39099位、39126位、39178位、39194位、39274位、40128位、40211位、40367位、40368位、40372位、40375位、40376位、40381位、40382位、40397位、40762位、41009位、41151位、42113位、42192位、42271位、42320位、42698位、44244位、44270位、44341位、44429位、44608位、44669位、45643位、45741位、45760位、45832位、46736位、46874位、または51127位のいずれかの多型部位である、請求項9に記載の検査方法。
【請求項11】
請求項9(a)に記載のCES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位が、配列番号:1に記載の塩基配列における10002位、35439位、および41151位の多型部位である、請求項9に記載の検査方法。
【請求項12】
CES1が代謝に関与する薬剤が、アンジオテンシン変換酵素阻害剤である、請求項1〜11のいずれかに記載の検査方法。
【請求項13】
アンジオテンシン変換酵素阻害剤が、イミダプリル、エナラプリル、トランドラプリル、ペリンドプリル、ベナゼプリル、シラザプリル、キナプリル、テモカプリル、デラプリル、フォシノプリル、ラミプリル、またはモエキシプリルのいずれかの薬剤である、請求項12に記載の検査方法。
【請求項14】
被検者が高血圧患者、糖尿病性腎症患者、心不全患者、または誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)患者である、請求項1〜13のいずれかに記載の検査方法。
【請求項15】
請求項6に記載の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性を検査するための試薬。
【請求項16】
請求項6に記載の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性を検査するための試薬。
【請求項17】
請求項6に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチドを含む、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性を検査するための試薬。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、カルボキシルエステラーゼ1(CES1)遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出することを特徴とする、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性を検査する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤は高血圧、うっ血性心不全および心筋梗塞の治療に広く用いられており、ACE阻害剤がうっ血性心不全患者の死亡率および罹病率を低下させることは複数の大規模臨床試験によって確かめられている(非特許文献1参照)。その他の効果として、心保護作用、腎保護作用、インスリン感受性改善、耐糖能改善、尿酸排泄改善、脳保護作用などが挙げられる(非特許文献2参照)。アンジオテンシンIIの産生を低下させてキニン活性を上昇させるACE阻害剤の能力は極めて重要と考えられている。アンジオテンシンIIの形成の減少が、ACE阻害剤の降圧作用に主な役割を果たしていると思われる。
【0003】
しかし、高血圧症が多くの環境因子、遺伝因子により発症する生活習慣病であることに加え、高血圧患者それぞれが有する薬物代謝酵素や、薬物吸収に関わる種々の個人差に起因する多様性のため、ACE阻害薬は必ずしも全ての高血圧に有効ではない。これは、本態性高血圧の発症に関わる遺伝的要因にレニン・アンジオテンシン系以外の要因が主たる役割を果たしている高血圧症の存在を示唆する他、ACE阻害薬のターゲット分子であるアンジオテンシン変換酵素ならびにその作用経路の上流・下流に位置する高血圧関連物質についても個人差が存在する事が類推される。
【0004】
塩酸イミダプリル((−)−(4S)−3−[(2S)−2−[[(1S)−1−エトキシカルボニル−3−フェニルプロピル]アミノ]プロピオニル]−1−メチル−2−オキソイミダゾリジン−4−カルボン酸塩酸塩、イミダプリル、TA−6366、CAS 89396−94−1)はプロドラッグ型のACE阻害剤であり、インビボで変換され、活性代謝産物のイミダプリラート(M1)となる。このイミダプリラートがアンジオテンシン変換酵素活性を阻害し、アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を阻害する。エステラーゼ阻害剤を用いた実験により、この反応(塩酸イミダプリルからM1への変換反応)は主としてカルボキシルエステラーゼ(B−エステラーゼ)によることが示されており、この酵素は肝臓に最も多く存在し、次いで腎臓および肺の順に存在する。一方、イミダプリルは、腎臓および小腸に主に存在するアセチルエステラーゼ(C−エステラーゼ)により、M2、M3(またはM4)へと代謝される(図1)。
【0005】
ヒトのカルボキシルエステラーゼ遺伝子であるCES1はクローニングされており、肝臓で最も大量に発現されることが同定されている(非特許文献3参照)。ヒトCES1遺伝子は約30kbの範囲にわたり、14個の短いエクソンがあることがわかっている(非特許文献4参照)。CES1のプロモーター構造についても報告がなされている(非特許文献13参照)。
【0006】
CES1はα/β水酸化酵素のジーンファミリーの一員であり(非特許文献5および6参照)、これらの遺伝子産物はエステル結合やアミド結合を持つ多くの薬物の加水分解反応を触媒しており、広く異物代謝や脂質代謝、薬剤代謝、特にプロドラッグの代謝活性化に重要な役割を果たしている。ヒトではCES1、CES2、CES3の3種類が同定されており(OMIM114835、605278、605279)、それぞれサブファミリーを形成している。CES1サブファミリーとしては主として脳で発現しているCEShBr1、CEShBr2、CEShBr3、主として肝で発現しているCEShu1a、CEShu1bが知られ、CES2サブファミリーとしては主として小腸で発現しているCEShu3が知られている(非特許文献7参照)。CES1はプロドラッグとしてのアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤のエステル結合を加水分解により切断し活性体にする作用をもち(非特許文献8および9参照)、ベナゼプリル(Benazepril)、シラザプリル(Cilazapril)、キナプリル(Quinapril)、テモカプリル(Temocapril)、デラプリル(Delapril)、エナラプリル(Enalapril)、トランドラプリル(Trandolapril)、ペリンドプリル(Perindopril)、イミダプリル(Imidapril)、フォシノプリル(fosinopril)、ラミプリル(ramipril)、モエキシプリル(moexipril)などのACE阻害薬の代謝、また、メシル酸カモスタット(Camostat mesilate)、ジラゼブ(Dilazep)、イリノテカン(Irinotecan)、ONO−5046、メペリジン(Meperidine)などの代謝に関与する(非特許文献8参照)。また、アミド結合を持つ薬剤であるアニラセタム(Aniracetam)の代謝にCES1は関与する(非特許文献8参照)。ロバスタチン(Lovastatin)、リドカイン(Lidocaine)の代謝に関与しているという報告もあり(非特許文献10および11参照)、コカイン、ヘロインなどを加水分解し無毒化する作用を持つ(非特許文献12参照)。以上のようにCES1は広い作用スペクトルを持っており、多くの薬剤や生体内・外因性物質の代謝に関与している。
【0007】
オーダーメイド医療時代の高血圧症治療における薬剤選択において、薬剤反応性と遺伝子変異との関連を明らかにすることは重要な課題であるが、実際に高血圧症の患者において、CES1の多型を利用してACE阻害剤の有効性を予測した報告はない。また、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域に存在する多型と、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性との関連については、これまでのところほとんど報告されていない。
【0008】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】
Committee on Evaluation and Management of Heart Failure : Guidelines for the evaluation and management of heart failure. J Am Coll Cardiol 26 : 1376−1398, 1995
【非特許文献2】
日和田邦男、荻原俊男、猿田享男 編
ACE 阻害薬のすべて 第3版 先端医学社、1999年発行、p250−258
【非特許文献3】
Riddles, P. W.、Richards, L. J.、Bowles, M. R.、Pond, S. M.著、「ヒト肝臓カルボキシルエステラーゼをコードするcDNAのクローニングおよび分析(Cloning and analysis of a cDNA encoding a human liver carboxylesterase)」、Gene、1991年、Vol.108、p.289−292
【非特許文献4】
Shibata, F.、Takagi, Y.、Kitajima, M.、Kuroda, T.、Omura, T.著、「ヒトカルボキシルエステラーゼ遺伝子の分子クローニングおよび特徴分析(Molecular cloning and characterization of a human carboxylesterase gene)」、Genomics、1993年、Vol.17、p.76−82
【非特許文献5】
Ollis D. ら著、「The α/β hydrolase rold.」、Protein Eng.、1992年、Vol.5、p.197−2111
【非特許文献6】
Satoh T ら著、「The mammalian carboxylesterases : From nucleotides to functions.」、Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol.、1998年、Vol.38、p.257−288
【非特許文献7】
第25回日本分子生物学会年会、W2pG−4、p.371
【非特許文献8】
Satomi T. ら著、「Hydrolytic Profile for Ester− or Amide−linkage by Carboxylesterases pI 5.3 and pI 4.5 from Human liver.」、Biol. Pharm. Bull.、1992年、Vol.20、No.8、p.869−873
【非特許文献9】
Yamada Y. ら著、「Metabolic Fate of the New Angiotensin−Converting Enzyme Inhibitor Imidapris in Animals.」、Arzmeim−Forsch./Drug Res.、1992年、Vol.42(1)、Nr.4
【非特許文献10】
Tang BK. ら著、「Variable activation of lovastatin by hydrolytic enzymes in human plasma and liver.」、Eur. J. Clin. Pharmacol.、1995年、Vol.47、p.449−451
【非特許文献11】
Alexon SE. ら著、「Involvement of liver caeboxylesterases in the in vivo metabolism of lidocaine.」、Drug Metab. Dispos.、2002年、Vol.30、p.643−647
【非特許文献12】
Bencharit S.ら著、「Structural basis of heroin and cocaine metabolism by a promiscuous human drug−processing enzyme.」、Nat Struct Biol.、2003年、May、Vol.10、No.5、p.349−56.
【非特許文献13】
Thomas Langmann ら著、「Structural organization and characterization of the promotor region of a human carboxylesterase gene.」、 Biochimica et Biophysica Acta、1997年、Vol.1350、p.65−74
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的はCES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍領域における多型もしくはハプロタイプを指標とした、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った。まず本発明者らは、塩酸イミダプリル(本明細書内ではイミダプリルと記載する場合あり)の有効例ならびに無効例の遺伝的多型性を塩酸イミダプリルのターゲット分子、ならびにその作用経路の上流・下流の関連する遺伝子、さらに薬物代謝酵素を中心に解析し、有効例判別のための診断的価値を有する多型性の有無を解析した。解析の結果、イミダプリルが有効であった群と無効であった群において特に有意な差を示したSNPを同定した。具体的には、カルボキシルエステラーゼ1(CES1)遺伝子のプロモーター領域におけるSNP(−814アデノシン(A)/シトシン(C)多型)であり、さらにこの多型部位を含むハプロタイプを見出した。
【0011】
本態性高血圧患者にイミダプリルを投与し、最長16週間追跡して反応例(n=49)と非反応例(N=26)を選別した。候補遺伝子上のSNPsについて関連解析を行なった結果、CES1の−814A/CのCC遺伝子型およびCアレルの頻度は、イミダプリル反応例の方がイミダプリル非反応例よりも有意に高かった(Fisher直接確率検定検定、p=0.019)。従って、CES1遺伝子のプロモーターにおけるSNPがイミダプリルに対する反応性(有効性)と相関することが示された。この傾向は男性被検者に由来し、女性には認められなかった(Fisher直接確率検定、p=0.016)。
【0012】
上記所見は、イミダプリルによる降圧がCES1遺伝子型によって影響されることを示している。結果として、薬物代謝酵素の1つであるCES1の多型と塩酸イミダプリルの有効・無効に強い相関関係が見出され、CES1の遺伝子多型を検出することにより、ACE阻害薬の有効・無効を予測することができ、薬剤選択や投与量の決定に役立つことがわかった。
【0013】
本発明のCES1遺伝子の多型を指標とすることにより、ACE阻害剤の有効性について検査を行うことが可能である。また、本発明者らによってACE阻害剤の代謝に関連する遺伝子多型が同定されたことにより、ACE阻害剤の適正な使用に役立つことが大いに期待される。
【0014】
上記の如く本発明者らは、CES1遺伝子上のSNPsもしくはハプロタイプを指標とするCES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法を完成させた。即ち本発明は、CES1遺伝子もしくは該遺伝子上の近傍DNA領域における多型部位を指標とする、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法に関し、より具体的には、
【0015】
〔1〕 被検者について、カルボキシルエステラーゼ1(CES1)の遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出することを特徴とする、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法、
〔2〕 CES1遺伝子の近傍DNA領域が、プロモーター領域である〔1〕に記載の検査方法、
〔3〕 変異が一塩基多型変異である、〔1〕または〔2〕に記載の検査方法、
〔4〕 被検者について、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法、
〔5〕 CES1遺伝子の近傍DNA領域が、プロモーター領域である〔4〕に記載の検査方法、
〔6〕 多型部位が、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における145位、398位、1185位、10002位、10088位、10143位、10325位、10337位、10604位、10693位、10714位、10951位、11224位、13597位、13822位、15718位、17923位、17931位、18241位、18242位、18666位、18986位、18987位、20004位、20091位、20360位、20366位、20588位、22739位、22817位、22922位、23212位、23376位、23377位、23839位、23881位、24023位、26374位、26633位、27529位、27561位、27574位、27580位、27727位、27767位、27770位、27853位、28286位、28466位、28563位、28676位、28689位、28775位、28967位、30032位、30711位、30767位、31152位、31214位、31228位、31229位、31230位、31231位、31232位、31233位、31252位、31256位、31743位、32402位、33272位、33358位、35439位、35767位、35917位、36024位、36074位、36081位、36103位、36148位、36195位、36213位、36270位、36273位、36327位、36330位、36348位、36361位、36368位、36372位、36373位、36385位、36387位、36393位、38971位、39053位、39099位、39126位、39178位、39194位、39274位、40128位、40211位、40367位、40368位、40372位、40375位、40376位、40381位、40382位、40397位、40762位、41009位、41151位、42113位、42192位、42271位、42320位、42698位、44244位、44270位、44341位、44429位、44608位、44669位、45643位、45741位、45760位、45832位、46736位、46874位、または51127位のいずれかの多型部位である、〔4〕に記載の方法、
〔7〕 多型部位が、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における41151位の部位である、〔4〕に記載の方法、
〔8〕 配列番号:1に記載の塩基配列における41151位の塩基種がGである場合に、CES1が代謝に関与する薬剤に対し、有効性を有すると判定される〔7〕に記載の方法、
〔9〕 以下の工程(a)および(b)を含む、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法、
(a) 被検者のCES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位について、塩基種を決定する工程
(b) 工程(a)により決定された塩基種を、配列番号:1に記載の塩基配列における10002位、35439位、および41151位の多型部位の塩基種が、それぞれA、T、およびGであるハプロタイプを示す遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位の塩基種と比較する工程
〔10〕 〔9〕(a)に記載のCES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位が、配列番号:1に記載の塩基配列における145位、398位、1185位、10002位、10088位、10143位、10325位、10337位、10604位、10693位、10714位、10951位、11224位、13597位、13822位、15718位、17923位、17931位、18241位、18242位、18666位、18986位、18987位、20004位、20091位、20360位、20366位、20588位、22739位、22817位、22922位、23212位、23376位、23377位、23839位、23881位、24023位、26374位、26633位、27529位、27561位、27574位、27580位、27727位、27767位、27770位、27853位、28286位、28466位、28563位、28676位、28689位、28775位、28967位、30032位、30711位、30767位、31152位、31214位、31228位、31229位、31230位、31231位、31232位、31233位、31252位、31256位、31743位、32402位、33272位、33358位、35439位、35767位、35917位、36024位、36074位、36081位、36103位、36148位、36195位、36213位、36270位、36273位、36327位、36330位、36348位、36361位、36368位、36372位、36373位、36385位、36387位、36393位、38971位、39053位、39099位、39126位、39178位、39194位、39274位、40128位、40211位、40367位、40368位、40372位、40375位、40376位、40381位、40382位、40397位、40762位、41009位、41151位、42113位、42192位、42271位、42320位、42698位、44244位、44270位、44341位、44429位、44608位、44669位、45643位、45741位、45760位、45832位、46736位、46874位、または51127位のいずれかの多型部位である、〔9〕に記載の検査方法、
〔11〕 〔9〕(a)に記載のCES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位が、配列番号:1に記載の塩基配列における10002位、35439位、および41151位の多型部位である、〔9〕に記載の検査方法、
〔12〕 CES1が代謝に関与する薬剤が、アンジオテンシン変換酵素阻害剤である、〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の検査方法、
〔13〕 アンジオテンシン変換酵素阻害剤が、イミダプリル、エナラプリル、トランドラプリル、ペリンドプリル、ベナゼプリル、シラザプリル、キナプリル、テモカプリル、デラプリル、フォシノプリル、ラミプリル、またはモエキシプリルのいずれかの薬剤である、〔12〕に記載の検査方法、
〔14〕 被検者が高血圧患者、糖尿病性腎症患者、心不全患者、または誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)患者である、〔1〕〜〔13〕のいずれかに記載の検査方法、
〔15〕 〔6〕に記載の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性を検査するための試薬、
〔16〕 〔6〕に記載の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性を検査するための試薬、
〔17〕 〔6〕に記載の多型部位を含むDNAを増幅するためのプライマーオリゴヌクレオチドを含む、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性を検査するための試薬、を提供するものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明者らによって、カルボキシルエステラーゼ1(CES1)遺伝子もしくは該遺伝子の近傍領域に存在する変異と、CES1が代謝に関与する薬剤との関係が明らかにされた。この知見に基づき、本発明は、被検者について、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における変異を検出することを特徴とする、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法を提供する。
【0017】
本発明のCES1遺伝子の染色体上の位置は16q13−q22.1であり、該遺伝子のGenBankのアクセッション番号はAC007602.4である。
【0018】
このCES1遺伝子の塩基配列、および該遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に関する情報は、上記したGenBankのアクセッション番号から、容易に取得することが可能である。また当業者においては、公共の遺伝子データベースあるいは文献データベース等から遺伝子の塩基配列、および該遺伝子によってコードされるタンパク質のアミノ酸配列に関する情報を容易に入手することが可能である。
【0019】
CES1(CES1遺伝子産物)は、ヒトのカルボキシルエステラーゼ1を指し、α/β水酸化酵素のジーンファミリーの一員である。カルボキシルエステラーゼ(carboxylesterase)とは、カルボン酸エステルをアルコールとカルボン酸に加水分解する酵素で、広く動物組織中に存在している。基質特異性はかなり広く、活性中心はセリン残基であり、アシル中間体を経由し、加水分解もしくは求核的な受容体にアシル基を転移するものと考えられている。
【0020】
本発明におけるCES1としては、主として脳で発現しているCEShBr1、CEShBr2、CEShBr3、主として肝で発現しているCEShu1が挙げられるが、好ましくはCEShu1である。
【0021】
本発明において「CES1が代謝に関与する薬剤」とは、CES1遺伝子産物により活性代謝物もしくは不活性代謝物へと変換される薬剤を指す。CES1が代謝に関与する薬剤としては、例えば、ベナゼプリル(Benazepril)、シラザプリル(Cilazapril)、キナプリル(Quinapril)、テモカプリル(Temocapril)、デラプリル(Delapril)、エナラプリル(Enalapril)、トランドラプリル(Trandolapril)、ペリンドプリル(Perindopril)、イミダプリル(Imidapril)、フォシノプリル(fosinopril)、ラミプリル(ramipril)、モエキシプリル(moexipril)などのACE阻害剤、またメシル酸カモスタット(Camostat mesilate)、ジラゼブ(Dilazep)、イリノテカン(Irinotecan)、ONO−5046、アニラセタム(Aniracetam)、ロバスタチン(Lovastatin)、リドカイン(Lidocaine)、メペリジン(Meperidine)さらにコカイン、ヘロインを挙げることができる。本発明において好ましくはイミダプリルと同様に体内で活性化されるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤である。これら薬剤の適用可能な疾患として、例えば、高血圧、糖尿病性腎症、心不全、誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)を挙げることができる。またこれら薬剤は、例えば脳梗塞または心筋梗塞の予防に利用することができる。
【0022】
ACE阻害剤は、血圧を調節するレニン−アンジオテンシン系と呼ばれる体内の昇圧機構を遮断し、またキニン−カリクレイン系と呼ばれる降圧機構を促進することにより、降圧作用を有する。レニン−アンジオテンシン系とは、アンジオテンシノーゲンにレニンが作用しアンジオテンシンIが産生され、このアンジオテンシンIが、ACEによりアンジオテンシンIIに変換されるという一連の過程を指す。このアンジオテンシンIIは非常に強力な昇圧物質であるため、アンジオテンシンIからアンジオテンシンIIへの変換を阻害することによって、血圧を下げることができる。キニン−カリクレイン系とは、カリクレインという酵素によって、腎臓、血漿、血管壁等にあるキニノーゲンがブラジキニンに変換される過程を指す。このブラジキニンが血圧を下げ、水分やナトリウムの排泄を促し、体液量を減少させ血圧を下げる。ACE阻害剤は、ブラジキニンが不活性物質になる過程を阻害(降圧因子を活性化)することによって、血圧低下を促進することができる。
【0023】
本発明における、ACE阻害剤としては、例えば塩酸イミダプリルが挙げられる。またイミダプリルと同様に体内で活性体に変換されるACE阻害剤としては、エナラプリル(Enalapril)、トランドラプリル(Trandolapril)、ペリンドプリル(Perindopril)、ベナゼプリル(Benazepril)、シラザプリル(Cilazapril)、キナプリル(Quinapril)、テモカプリル(Temocapril)、デラプリル(Delapril)フォシノプリル(fosinopril)、ラミプリル(ramipril)、モエキシプリル(moexipril)を挙げることができる。また、その他のCES1が代謝活性化に関与する薬剤として、CES1遺伝子産物によって、エステル結合が加水分解作用を受ける、メシル酸カモスタット(Camostat mesilate)、ジラゼブ(Dilazep)、イリノテカン(Irinotecan)、ONO−5046、メペリジン(Meperidine)またCES1遺伝子産物によってアミド結合が加水分解作用を受けるアニラセタム(Aniracetam)等の化合物を挙げることができる。さらに、CES1遺伝子産物が分解に関与する物質としてコカイン、ヘロインが挙げられる。
【0024】
本発明における「薬剤の有効性の検査」とは、上記薬剤が被検者に対して有効であるか否かを判定するための検査が含まれる。本発明の方法においては、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域において変異を検出することで、上記薬剤の有効性を判定できる。具体的には、被検者において変異が検出される場合、上記薬剤は被検者に対し有効性を有する、あるいは有効性を有さない(無効)と判定される。
【0025】
本発明の検査における被検者は、例えば高血圧患者、糖尿病性腎症患者、心不全患者、誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)患者、脳梗塞または心筋梗塞を予防する必要があると判断される患者が挙げられるがこれらに限定されない。高血圧患者としては、好ましくは本態性高血圧患者である。
【0026】
例えば高血圧患者に対する塩酸イミダプリルの有効もしくは無効の判定は、以下の規準に従って行なうことができる。まず被検者に対し該薬剤を単独で1日量5mg投与し、8週間投与で効果が認められない場合には該薬剤を増量し、10mgをさらに8週間投与する。次いで該薬剤の有効・無効の判定を行なう。具体的には、有効の場合は、被検者の収縮期圧が、下降(−20mmHg以上)あるいは下降傾向(−19〜−10mmHg)にあり、拡張期圧が下降(−10mmHg以上)あるいは下降傾向(−9〜−5mmHg)にあり、平均血圧が下降(−13mmHg以上)あるいは下降傾向(−12〜−7mmHg)にあるものとする。無効の場合は、収縮期圧が不変(−9〜+9mmHg)あるいは上昇(10mmHg以上)し、拡張期圧が不変(−4〜+4mmHg)あるいは上昇(5mmHg以上)し、平均血圧が不変(−6〜+6mmHg)あるいは上昇(7mmHg以上)にあるものとする。上記の判定基準は、「新薬臨床評価ガイド2001」の「降圧薬の評価方法に関するガイドライン」(新薬臨床評価ガイドライン2001 日本公定書協会 編、薬事日報社、2001年4月25日発行)の記載に従う。
【0027】
また上記薬剤を既に投与中の被検者であっても、該薬剤の有効性を判定することができ、治療方針の決定や薬剤投与量の決定等に利用することができる。
本発明のCES1遺伝子および該遺伝子の近傍DNA配列としては、例えば配列番号:1が挙げられる。配列番号:1に記載の配列は、ヒトゲノム国際プロジェクトbuild30の結果に基づいて作製した配列である。本発明における「遺伝子の近傍DNA領域」とは、通常、該遺伝子の近傍の染色体上にある領域を指す。近傍とは、特に制限されるものではないが、通常、本発明の多型部位を含むDNA領域であり、好ましくはプロモーター領域である。
【0028】
上記検査方法における「変異」の位置は、通常、上記遺伝子のORF中、あるいは上記遺伝子の発現を制御する領域(例えば、プロモーター領域、エンハンサー領域等)中に存在するがこれらに限定されるものではない。また、この「変異」とは、上記遺伝子の発現量を変化させる、mRNAの安定性等の性質を変化させる、あるいは上記遺伝子によってコードされるタンパク質の有する活性を変化させるような変異であることが多いが、特に制限されない。本発明の変異としては、例えば、塩基の付加、欠失、置換、挿入変異等を挙げることができる。
【0029】
本発明の好ましい態様においては、上記CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型変異を検出することを特徴とする、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法である。
【0030】
多型とは、遺伝学的には、人口中1%以上の頻度で存在している1遺伝子におけるある塩基の変化と一般的に定義されるが、本発明における「多型」は、この定義に制限されない。本発明における多型の種類としては、例えば、一塩基多型、一から数十塩基(時には数千塩基)が欠失あるいは挿入している多型等が挙げられるが、これらに特に限定されない。さらに、多型部位の数も、1個に限定されず、複数個の多型を有していてもよい。
【0031】
また本発明は、被検者について、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位の塩基種を決定することを特徴とする、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法を提供する。
【0032】
本発明の上記方法における「多型部位」は、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域に存在する多型であれば、特に制限されない。具体的には、本発明の検査方法に利用可能な多型部位として、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域に存在する、配列番号:1に記載の塩基配列における、145位、398位、1185位、10002位、10088位、10143位、10325位、10337位、10604位、10693位、10714位、10951位、11224位、13597位、13822位、15718位、17923位、17931位、18241位、18242位、18666位、18986位、18987位、20004位、20091位、20360位、20366位、20588位、22739位、22817位、22922位、23212位、23376位、23377位、23839位、23881位、24023位、26374位、26633位、27529位、27561位、27574位、27580位、27727位、27767位、27770位、27853位、28286位、28466位、28563位、28676位、28689位、28775位、28967位、30032位、30711位、30767位、31152位、31214位、31228位、31229位、31230位、31231位、31232位、31233位、31252位、31256位、31743位、32402位、33272位、33358位、35439位、35767位、35917位、36024位、36074位、36081位、36103位、36148位、36195位、36213位、36270位、36273位、36327位、36330位、36348位、36361位、36368位、36372位、36373位、36385位、36387位、36393位、38971位、39053位、39099位、39126位、39178位、39194位、39274位、40128位、40211位、40367位、40368位、40372位、40375位、40376位、40381位、40382位、40397位、40762位、41009位、41151位、42113位、42192位、42271位、42320位、42698位、44244位、44270位、44341位、44429位、44608位、44669位、45643位、45741位、45760位、45832位、46736位、46874位、または51127位のいずれかの多型部位を挙げることができる。(なお、本明細書においては、これらの多型部位を単に『本発明の多型部位』と記載する場合がある。)より詳細には、以下の表1〜表28に示す。
【0033】
なお、当業者においては、通常、本明細書において開示された多型に付与された登録ID番号、例えばdbSNPデータベースにおけるrs番号、JSNPデータベースにおけるIMS−JST番号、ssj番号によって、本発明の多型部位の実際のゲノム上の位置および前後の配列等を容易に知ることができる。これによって、知ることができない場合であっても、当業者においては、配列番号:1で示される塩基配列および多型部位等に関する情報から、適宜、該多型部位に相当する実際のゲノム上の位置を知ることは容易である。例えば、公開されているゲノムデータベース等と照会することにより、本発明の多型部位のゲノム上の位置を知ることができる。即ち、配列表に記載の塩基配列とゲノム上の実際の塩基配列との間に若干の塩基配列の相違がみられた場合であっても、配列表に記載の塩基配列を基にゲノム配列と相同性検索等を行うことにより、本発明の多型部位について、実際のゲノム上の位置を正確に知ることが可能である。また、ゲノム上の位置が特定できない場合でも、本明細書に記載の配列表および多型部位の情報から本発明に記載する検査を行うことは容易である。
【0034】
なお、ゲノムDNAは、通常、互いに相補的な二本鎖DNA構造を有している。従って、本明細書においては、便宜的に一方の鎖におけるDNA配列を示した場合であっても、当然の如く、当該配列(塩基)に相補的な配列も開示したものと解釈される。当業者にとって、一方のDNA配列(塩基)が判れば、該配列(塩基)に相補的な配列(塩基)は自明である。後述する実施例においては、配列番号:1に記載の配列に対する相補鎖を用いて試験を行なっている。実施例中のSNP1、SNP2、SNP3とは、それぞれ配列番号:1に記載の塩基配列における、41151位、35439位、10002位を指す。SNP1、SNP2、SNP3は、以下の表1〜表28において、最も左のカラムにカッコ書きで記載する。
〔CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位〕
【0035】
【表1】


【0036】
【表2】


【0037】
【表3】


【0038】
【表4】


【0039】
【表5】


【0040】
【表6】


【0041】
【表7】


【0042】
【表8】


【0043】
【表9】


【0044】
【表10】


【0045】
【表11】


【0046】
【表12】


【0047】
【表13】


【0048】
【表14】


【0049】
【表15】


【0050】
【表16】


【0051】
【表17】


【0052】
【表18】


【0053】
【表19】


【0054】
【表20】


【0055】
【表21】


【0056】
【表22】


【0057】
【表23】


【0058】
【表24】


【0059】
【表25】


【0060】
【表26】


【0061】
【表27】


【0062】
【表28】


【0063】
なお、上記表中「アレル1」、「アレル2」、および「アレル3」のカラムにて記載した塩基種は、当該部位の相補鎖側を記載しているものもあるが、当業者においては掲載されたdbSNPデータベースのrs番号を基に、当該部位についての塩基種の情報を適宜取得することができる。「アレル3」カラムがあるのは、rs3729504のみ3通りの多型が存在するためである。
【0064】
また、上記表中、SNP ID欄の記載内容は、先頭にrsが付くものはdbSNPデータベースの登録IDである。また、dbSNPデータベースはウェブサイト(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/index.html)に公開されており、SNP ID欄に記載された登録ID番号を用いてウェブサイト上で検索することにより、塩基配列におけるSNPsの詳細な情報(例えば、染色体上の位置、多型部位の塩基の種類、前後の配列等)が入手できる。これらの情報を用いた場合、当業者においては、本発明に記載する検査を容易に行うことができる。上記表中に示した多型部位の塩基種は配列表に示した配列に対して相補鎖側にある塩基種を示している場合があるが、dbSNPおよびJSNPデータベースにて公開される前後配列を用いれば異同を確認する事は当業者にとって容易であり、検査を行うにあたってはプラス鎖とマイナス鎖のどちらを調べても必然的にもう一方の結果を決定する事ができる。上記表中の「strand」にて、+は配列がプラス鎖であることを示し、−は配列がマイナス鎖であることを示す。なお、現在ヒトゲノム配列については、ほぼ最終版といわれているヒトゲノム国際プロジェクトbuild33が発表されているが、本明細書に記した配列等はヒトゲノム国際プロジェクトbuild30の結果に基づいている。
【0065】
本発明の検査方法においては、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における41151位の部位について塩基種の決定を行うことが好ましい。
【0066】
また本発明の好ましい態様においては、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における41151位の塩基種がG(実施例ではSNP1における塩基種がC。配列番号:1に記載のDNAは+鎖側、実施例はCES1遺伝子がのっている−鎖側として記載されていることによる相違である。)である場合に、CES1が代謝活性化に関与する薬剤の有効性を有すると判定される。また、該薬剤を未投与の被検者であっても、該薬剤が有効である、あるいは該薬剤に反応し易いものと判定される。
【0067】
本発明においては、上記多型部位以外であっても、該多型部位とその周辺のDNA領域は強く連鎖しているものと考えられることから、上記多型部位の近傍の多型部位について塩基種を決定することによっても、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査が可能である。即ち、多型部位の塩基種が上記した塩基種であるような、CES1が代謝に関与する薬剤が有効である人を含むヒトの小集団について、この「近傍の多型部位」(例えば、表1〜表28に記載の多型部位)における塩基種を予め決定する。
【0068】
次いで、この「近傍の多型部位」について被検者における塩基種を決定し、予め決定された前記塩基種と比較することにより、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査を行うことができる。予め決定された塩基種と同一の塩基種である場合に、被検者に対するCES1が代謝に関与する薬剤の有効性が判定される。該薬剤を既に投与中の被検者であっても、該薬剤の有効性を判定することができ、治療方針の決定や薬剤投与量の決定等に利用することができる。
【0069】
例えば、以下の例が挙げられるがこれに限定されるものではない。CES1遺伝子上の配列番号:1に記載の塩基配列における41151位の多型部位の塩基種がCである(実施例ではSNP1における塩基種がGである)CES1が代謝に関与する薬剤が有効である人を含むヒトの小集団について、近傍の多型部位、例えば40211位の多型部位の塩基種を決定する。この部位の塩基種が上記薬剤が有効である人においてGである頻度が上記薬剤が無効である人に比べ高かった場合、被検者について40211位の多型部位の塩基種を調べ、この部位の塩基種が同様にGであった場合には、被検者は薬剤に対し有効性ありと判定される。
【0070】
以上のように、本発明により、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性に関連する遺伝子上の領域が明らかになった後には、当業者に過度の負担を強いる事なく、上記薬剤の有効性に関する検査を行うことができる。
【0071】
また、ヒトゲノムの解析が進み全塩基配列やSNP、マイクロサテライト、VNTR、RFLPsなどの多型情報も充実してきた。ゲノムの塩基配列について詳細が明らかになりつつある現在、最大の関心事は遺伝子あるいは特定の配列と機能(疾患・薬剤応答性などの表現型)との関連を解析する事である。特に高血圧、糖尿病等の生活習慣病では、複数の疾患感受性遺伝子と環境因子により発症するため解析は非常に困難である。これを解決するための有力な手法の一つが連鎖不平衡(連鎖不均衡)を用いた遺伝統計学的解析である。
【0072】
ヒトの染色体は2本1組で存在し、それぞれ父親と母親から由来している。ハプロタイプとは、その一方に関する個体の遺伝子型の組み合わせをいい、それぞれ父母由来の1本の染色体上に遺伝子座がどのように並んでいるかを示すものである。染色体を父母から1本づつ受け継ぐので、配偶子形成の際に組み換えが起きないとすれば1本の染色体上にのっている遺伝子は必ず一緒に子に伝えられる、すなわち連鎖する事になる。しかし、実際は減数分裂の際に組み換えが起きるため、1本の染色体上にのっている遺伝子であっても必ずしも連鎖しているわけではない。しかし逆に、遺伝的組み換えが起きた場合であっても同一染色体上の距離が近い遺伝子座は強く連鎖する。
【0073】
このような現象を集団において観察し、アリルの非独立が認められる事を連鎖不平衡という。例えば、3つの遺伝子座を観察した場合、これらの間に連鎖不平衡がないとすると、存在するハプロタイプは2通りと予測され、それぞれの頻度は各遺伝子座の頻度から予測される値となるが、連鎖不平衡がある場合には2通りより少ないハプロタイプしか存在せず、その頻度も予測と異なる値を示す結果となる。
【0074】
近年、ハプロタイプが連鎖不平衡解析に有用である事が示されており(Genetic Epidemiology 23:221−233)研究が行われているが、ゲノム上には組換えが起きやすい部位と起きにくい部位があり、1つの領域として先祖から子孫へと伝えられる部分(ハプロタイプ)は人種を越えて共通性がある事が明らかになっている(Science 226, 5576:2225−2229)。
【0075】
つまり、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性と関連するハプロタイプが見出されれば、該ハプロタイプを検出することにより、上記薬剤の有効性の検査が可能となる。本発明者らは、鋭意研究により、上記薬剤の有効性と関連するハプロタイプを見出すことに成功した。
【0076】
従って、本発明は、CES1遺伝子および/または該遺伝子の近傍DNA領域に存在する、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性と関連するハプロタイプを検出することを特徴とする、上記薬剤の有効性の検査方法を提供する。
【0077】
本方法においては、被検者について、「CES1が代謝に関与する薬剤の有効性と関連するハプロタイプ」を検出することで該薬剤の有効性を判定できる。
【0078】
上記「CES1が代謝に関与する薬剤の有効性と関連するハプロタイプ」とは、具体的には、CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における10002位、35439位、および41151位の多型部位の塩基種が、それぞれA、T、およびGであるハプロタイプを示すことができる。
【0079】
上記方法の好ましい態様においては、以下の工程(a)および(b)を含む、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法である。
(a) 被検者におけるCES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位について、塩基種を決定する工程、
(b) 工程(a)により決定された塩基種を、上記のハプロタイプを示すCES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型部位の塩基種と、比較する工程
【0080】
上記工程(a)における多型部位としては、好ましくはCES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における145位、398位、1185位、10002位、10088位、10143位、10325位、10337位、10604位、10693位、10714位、10951位、11224位、13597位、13822位、15718位、17923位、17931位、18241位、18242位、18666位、18986位、18987位、20004位、20091位、20360位、20366位、20588位、22739位、22817位、22922位、23212位、23376位、23377位、23839位、23881位、24023位、26374位、26633位、27529位、27561位、27574位、27580位、27727位、27767位、27770位、27853位、28286位、28466位、28563位、28676位、28689位、28775位、28967位、30032位、30711位、30767位、31152位、31214位、31228位、31229位、31230位、31231位、31232位、31233位、31252位、31256位、31743位、32402位、33272位、33358位、35439位、35767位、35917位、36024位、36074位、36081位、36103位、36148位、36195位、36213位、36270位、36273位、36327位、36330位、36348位、36361位、36368位、36372位、36373位、36385位、36387位、36393位、38971位、39053位、39099位、39126位、39178位、39194位、39274位、40128位、40211位、40367位、40368位、40372位、40375位、40376位、40381位、40382位、40397位、40762位、41009位、41151位、42113位、42192位、42271位、42320位、42698位、44244位、44270位、44341位、44429位、44608位、44669位、45643位、45741位、45760位、45832位、46736位、46874位、または51127位のいずれかの多型部位を示すことができる。
【0081】
さらに好ましくは、上記工程(a)の多型部位として、CES1遺伝子上の多型部位であって、配列番号:1に記載の塩基配列における10002位、35439位、および41151位の多型部位を示すことができる。
【0082】
本発明の多型部位における塩基種の決定は、当業者においては種々の方法によって行うことができる。一例を示せば、本発明の多型部位を含むDNAの塩基配列を直接決定することによって行うことができる。この方法においては、まず、被検者からDNA試料を調製する。本発明においてDNA試料は、例えば被検者の血液、皮膚、口腔粘膜、手術により採取あるいは切除した組織または細胞、検査等の目的で採取された体液等から抽出した染色体DNA、あるいはRNAを基に調製することができる。
【0083】
本方法においては、次いで、本発明の多型部位を含むDNAを単離する。該DNAの単離は、本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、染色体DNA、あるいはRNAを鋳型としたPCR等によって行うことも可能である。
【0084】
本方法においては、次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。単離したDNAの塩基配列の決定は、当業者においては、DNAシークエンサー等を用いて容易に実施することができる。
【0085】
本発明の多型部位は、通常、その部位の塩基種のバリエーションが既に明らかになっている。本発明における「塩基種の決定」とは、必ずしもその多型部位についてA、G、T、Cのいずれかの塩基種であるかを判別することを意味するものではない。例えば、ある多型部位について塩基種のバリエーションがAまたはGであることが判明している場合には、その部位の塩基種が「Aでない」もしくは「Gでない」ことが判明すれば充分である。
【0086】
予め塩基のバリエーションが明らかにされている多型部位について、その塩基種を決定するための様々な方法が公知である。本発明の塩基種の決定のための方法は、特に限定されない。例えば、PCR法を応用した解析方法として、TaqMan PCR法、AcycroPrimer法、およびMALDI−TOF/MS法等が実用化されている。またPCRに依存しない塩基種の決定法としてInvader法やRCA法が知られている。更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる。以下にこれらの方法について簡単に述べる。ここに述べた方法は、いずれも本発明における多型部位の塩基種の決定に応用できる。
【0087】
[TaqMan PCR法]
TaqMan PCR法の原理は次のとおりである。TaqMan PCR法は、アレルを含む領域を増幅することができるプライマーセットと、TaqManプローブを利用した解析方法である。TaqManプローブは、このプライマーセットによって増幅されるアレルを含む領域にハイブリダイズするように設計される。
【0088】
TaqManプローブのTmに近い条件で標的塩基配列にハイブリダイズさせれば、1塩基の相違によってTaqManプローブのハイブリダイズ効率は著しく低下する。TaqManプローブの存在下でPCR法を行うと、プライマーからの伸長反応は、いずれハイブリダイズしたTaqManプローブに到達する。このときDNAポリメラーゼの5’−3’エキソヌクレアーゼ活性によって、TaqManプローブはその5’末端から分解される。TaqManプローブをレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、TaqManプローブの分解を、蛍光シグナルの変化として追跡することができる。つまり、TaqManプローブの分解が起きれば、レポーター色素が遊離してクエンチャーとの距離が離れることによって蛍光シグナルが生成する。1塩基の相違のためにTaqManプローブのハイブリダイズが低下すればTaqManプローブの分解が進まず蛍光シグナルは生成されない。
【0089】
多型に対応するTaqManプローブをデザインし、更に各プローブの分解によって異なるシグナルが生成されるようにすれば、同時に塩基種の判定を行うこともできる。例えば、レポーター色素として、あるアレルのアレルAのTaqManプローブに6−carboxy−fluorescein(FAM)を、アレルBのプローブにVICを用いる。プローブが分解されない状態では、クエンチャーによってレポーター色素の蛍光シグナル生成は抑制されている。各プローブが対応するアレルにハイブリダイズすれば、ハイブリダイズに応じた蛍光シグナルが観察される。すなわち、FAMまたはVICのいずれかのシグナルが他方よりも強い場合には、アレルAまたはアレルBのホモであることが判明する。他方、アレルをヘテロで有する場合には、両者のシグナルがほぼ同じレベルで検出されることになる。TaqMan PCR法の利用によって、ゲル上での分離のような時間のかかる工程無しで、ゲノムを解析対象としてPCRと塩基種の決定を同時に行うことができる。そのため、TaqMan PCR法は、多くの被検者についての塩基種を決定できる方法として有用である。
【0090】
[Acyclo Prime法]
PCR法を利用した塩基種を決定する方法として、Acyclo Prime法も実用化されている。Acyclo Prime法では、ゲノム増幅用のプライマー1組と、多型検出用の1つのプライマーを用いる。まず、ゲノムの多型部位を含む領域をPCRで増幅する。この工程は、通常のゲノムPCRと同じである。次に、得られたPCR産物に対して、ゲノム検出用のプライマーをアニールさせ、伸長反応を行う。ゲノム検出用のプライマーは、検出対象となっている多型部位に隣接する領域にアニールするようにデザインされている。
【0091】
このとき、伸長反応のためのヌクレオチド基質として、蛍光偏光色素でラベルし、かつ3’−OHをブロックしたヌクレオチド誘導体(ターミネータ)を用いる。その結果、多型部位に相当する位置の塩基に相補的な塩基が1塩基だけ取りこまれて伸長反応が停止する。ヌクレオチド誘導体のプライマーへの取りこみは、分子量の増大による蛍光偏光(Fluorescence polarization;FP)の増加によって検出することができる。蛍光偏光色素に波長の異なる2種類のラベルを用いれば、特定のSNPsが2種類の塩基のうちのいずれであるのかを特定することができる。蛍光偏光のレベルは定量することができるので、1度の解析でアレルがホモかヘテロかを判定することもできる。
【0092】
[MALDI−TOF/MS法]
PCR産物をMALDI−TOF/MSで解析することによって塩基種の決定を行うこともできる。MALDI−TOF/MSは、分子量をきわめて正確に知ることができるため、タンパク質のアミノ酸配列や、DNAの塩基配列のわずかな相違を明瞭に識別することができる解析手法として様々な分野で利用されている。MALDI−TOF/MSによる塩基種の決定のためには、まず解析対象であるアレルを含む領域をPCRで増幅する。次いで増幅産物を単離してMALDI−TOF/MSによってその分子量を測定する。アレルの塩基配列は予めわかっているので、分子量に基づいて増幅産物の塩基配列は一義的に決定される。
【0093】
MALDI−TOF/MSを利用した塩基種の決定には、PCR産物の分離工程などが必要となる。しかし標識プライマーや標識プローブを使わないで、正確な塩基種の決定が期待できる。また複数の場所の多型の同時検出にも応用することができる。
【0094】
[IIs型制限酵素を利用したSNPs特異的な標識方法]
PCR法を利用した更に高速な塩基種の決定が可能な方法も報告されている。例えば、IIs型制限酵素を利用して多型部位の塩基種の決定が行われている。この方法においては、PCRにあたり、IIs型制限酵素の認識配列を有するプライマーが用いられる。遺伝子組み換えに利用される一般的な制限酵素(II型)は、特定の塩基配列を認識して、その塩基配列中の特定部位を切断する。これに対してIIs型の制限酵素は、特定の塩基配列を認識して、認識塩基配列から離れた部位を切断する。酵素によって、認識配列と切断個所の間の塩基数は決まっている。従って、この塩基数の分だけ離れた位置にIIs型制限酵素の認識配列を含むプライマーがアニールするようにすれば、IIs型制限酵素によってちょうど多型部位で増幅産物を切断することができる。
【0095】
IIs型制限酵素で切断された増幅産物の末端には、SNPsの塩基を含む付着末端(conhesive end)が形成される。ここで、増幅産物の付着末端に対応する塩基配列からなるアダプターをライゲーションする。アダプターは、多型変異に対応する塩基を含む異なる塩基配列からなり、それぞれ異なる蛍光色素で標識しておくことができる。最終的に、増幅産物は多型部位の塩基に対応する蛍光色素で標識される。
【0096】
前記IIs型制限酵素認識配列を含むプライマーに、捕捉プライマー(capture primer)を組み合せてPCR法を行えば、増幅産物は蛍光標識されるとともに、捕捉プライマーを利用して固相化することができる。例えばビオチン標識プライマーを捕捉プライマーとして用いれば、増幅産物はアビジン結合ビーズに捕捉することができる。こうして捕捉された増幅産物の蛍光色素を追跡することにより、塩基種を決定することができる。
【0097】
[磁気蛍光ビーズを使った多型部位における塩基種の決定]
複数のアレルを単一の反応系で並行して解析することができる技術も公知である。複数のアレルを並行して解析することは、多重化と呼ばれている。一般に蛍光シグナルを利用したタイピング方法では、多重化のために異なる蛍光波長を有する蛍光成分が必要である。しかし実際の解析に利用することができる蛍光成分は、それほど多くない。これに対して、樹脂等に複数種の蛍光成分を混合した場合には、限られた種類の蛍光成分であっても、相互に識別可能な多様な蛍光シグナルを得ることができる。更に、樹脂中に磁気で吸着される成分を加えれば蛍光を発するとともに、磁気によって分離可能なビーズとすることができる。このような磁気蛍光ビーズを利用した、多重化多型タイピングが考え出された(バイオサイエンスとバイオインダストリー, Vol.60 No.12, 821−824)。
【0098】
磁気蛍光ビーズを利用した多重化多型タイピングにおいては、各アレルの多型部位に相補的な塩基を末端に有するプローブが磁気蛍光ビーズに固定化される。各アレルにそれぞれ固有の蛍光シグナルを有する磁気蛍光ビーズが対応するように、両者は組み合せられる。一方、磁気蛍光ビーズに固定されたプローブが相補配列にハイブリダイズしたときに、当該アレル上で隣接する領域に相補的な塩基配列を有する蛍光標識オリゴDNAを調製する。
【0099】
アレルを含む領域を非対称PCRによって増幅し、上記の磁気蛍光ビーズ固定化プローブと蛍光標識オリゴDNAをハイブリダイズさせ、更に両者をライゲーションする。磁気蛍光ビーズ固定化プローブの末端が、多型部位の塩基に相補的な塩基配列であった場合には効率的にライゲーションされる。逆にもしも多型のために末端の塩基が異なれば、両者のライゲーション効率は低下する。その結果、各磁気蛍光ビーズには、試料が当該磁気蛍光ビーズに相補的な塩基種であった場合に限り、蛍光標識オリゴDNAが結合する。
【0100】
磁気によって磁気蛍光ビーズを回収し、更に各磁気蛍光ビーズ上の蛍光標識オリゴDNAの存在を検出することにより、塩基種が決定される。磁気蛍光ビーズは、フローサイトメーターでビーズ毎に蛍光シグナルを解析できるので、多種類の磁気蛍光ビーズが混合されていてもシグナルの分離は容易である。つまり、多種類の多型部位について、単一の反応容器で並行して解析する「多重化」が達成される。
【0101】
[Invader法]
PCR法に依存しないジェノタイピングのための方法も実用化されている。例えば、Invader法では、アレルプローブ、インベーダープローブ、およびFRETプローブの3種類のオリゴヌクレオチドと、cleavaseと呼ばれる特殊なヌクレアーゼのみで、塩基種の決定を実現している。これらのプローブのうち標識が必要なのはFRETプローブのみである。
【0102】
アレルプローブは、検出すべきアレルに隣接する領域にハイブリダイズするようにデザインされる。アレルプローブの5’側には、ハイブリダイズに無関係な塩基配列からなるフラップが連結されている。アレルプローブは多型部位の3’側にハイブリダイズし、多型部位の上でフラップに連結する構造を有する。
【0103】
一方インベーダープローブは、多型部位の5’側にハイブリダイズする塩基配列からなっている。インベーダープローブの塩基配列は、ハイブリダイズによって3’末端が多型部位に相当するようにデザインされている。インベーダープローブにおける多型部位に相当する位置の塩基は任意で良い。つまり、多型部位を挟んでインベーダープローブとアレルプローブとが隣接してハイブリダイズするように両者の塩基配列はデザインされている。
【0104】
多型部位がアレルプローブの塩基配列に相補的な塩基であった場合には、インベーダープローブとアレルプローブの両者がアレルにハイブリダイズすると、アレルプローブの多型部位に相当する塩基にインベーダープローブが侵入(invasion)した構造が形成される。cleavaseは、このようにして形成された侵入構造を形成したオリゴヌクレオチドのうち、侵入された側の鎖を切断する。切断は侵入構造の上で起きるので、結果としてアレルプローブのフラップが切り離されることになる。一方、もしも多型部位の塩基がアレルプローブの塩基に相補的でなかった場合には、多型部位におけるインベーダープローブとアレルプローブの競合は無く、侵入構造は形成されない。したがってcleavaseによるフラップの切断が起こらない。
【0105】
FRETプローブは、こうして切り離されたフラップを検出するためのプローブである。FRETプローブは5’末端側に自己相補配列を有し、3’末端側に1本鎖部分が配置されたヘアピンループを構成している。FRETプローブの3’末端側に配置された1本鎖部分は、フラップに相補的な塩基配列からなっていて、ここにフラップがハイブリダイズすることができる。フラップがFRETプローブにハイブリダイズすると、FRETプローブの自己相補配列の5’末端部分にフラップの3’末端が侵入した構造が形成されるように両者の塩基配列がデザインされている。cleavaseは侵入構造を認識して切断する。FRETプローブのcleavaseによって切断される部分を挟んで、TaqMan PCRと同様のレポーター色素とクエンチャーで標識しておけば、FRETプローブの切断を蛍光シグナルの変化として検知することができる。
【0106】
なお、理論的には、フラップは切断されない状態でもFRETプローブにハイブリダイズするはずである。しかし実際には、切断されたフラップとアレルプローブの状態で存在しているフラップとでは、FRETに対する結合効率に大きな差が有る。そのため、FRETプローブを利用して、切断されたフラップを特異的に検出することは可能である。
【0107】
Invader法に基づいて塩基種を決定するためには、アレルAとアレルBのそれぞれに相補的な塩基配列を含む、2種類のアレルプローブを用意すれば良い。このとき両者のフラップの塩基配列は異なる塩基配列とする。フラップを検出するためのFRETプローブも2種類を用意し、それぞれのレポーター色素を識別可能なものとしておけば、TacMan PCR法と同様の考え方によって、塩基種を決定することができる。
【0108】
Invader法の利点は、標識の必要なオリゴヌクレオチドがFRETプローブのみであることである。FRETプローブは検出対象の塩基配列とは無関係に、同一のオリゴヌクレオチドを利用することができる。従って、大量生産が可能である。一方アレルプローブとインベーダープローブは標識する必要が無いので、結局、ジェノタイピングのための試薬を安価に製造することができる。
【0109】
[RCA法]
PCR法に依存しない塩基種の決定方法として、RCA法を挙げることができる。鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが、環状の1本鎖DNAを鋳型として、長い相補鎖を合成する反応に基づくDNAの増幅方法が、Rolling Circle Amplification(RCA)法である(Lizardri PM et al.,Nature Genetics 19, 225, 1998)。RCA法においては、環状DNAにアニールして相補鎖合成を開始するプライマーと、このプライマーによって生成する長い相補鎖にアニールする第2のプライマーを利用して、増幅反応を構成している。
【0110】
RCA法には、鎖置換作用を有するDNAポリメラーゼが利用されている。そのため、相補鎖合成によって2本鎖となった部分は、より5’側にアニールした別のプライマーから開始した相補鎖合成反応によって置換される。例えば、環状DNAを鋳型とする相補鎖合成反応は、1周分では終了しない。先に合成した相補鎖を置換しながら相補鎖合成は継続し、長い1本鎖DNAが生成される。一方、環状DNAを鋳型として生成した長い1本鎖DNAには、第2のプライマーがアニールして相補鎖合成が開始する。RCA法において生成される1本鎖DNAは、環状のDNAを鋳型としていることから、その塩基配列は同じ塩基配列の繰り返しである。従って、長い1本鎖の連続的な生成は、第2のプライマーの連続的なアニールをもたらす。その結果、変性工程を経ることなく、プライマーがアニールすることができる1本鎖部分が連続的に生成される。こうして、DNAの増幅が達成される。
【0111】
RCA法に必要な環状1本鎖DNAが多型部位の塩基種に応じて生成されれば、RCA法を利用して塩基種の決定をすることができる。そのために、直鎖状で1本鎖のパドロックプローブが利用される。パドロックプローブは、5’末端と3’末端に検出すべき多型部位の両側に相補的な塩基配列を有している。これらの塩基配列は、バックボーンと呼ばれる特殊な塩基配列からなる部分で連結されている。多型部位がパドロックプローブの末端に相補的な塩基配列であれば、アレルにハイブリダイズしたパドロックプローブの末端をDNAリガーゼによってライゲーションすることができる。その結果、直鎖状のパドロックプローブが環状化され、RCA法の反応がトリガーされる。DNAリガーゼの反応は、ライゲーションすべき末端部分が完全に相補的でない場合には反応効率が著しく低下する。従って、ライゲーションの有無をRCA法で確認することによって、多型部位の塩基種の決定が可能である。
【0112】
RCA法は、DNAを増幅することはできるが、そのままではシグナルを生成しない。また増幅の有無のみを指標とするのでは、アレル毎に反応を行わなければ、通常、塩基種を決定することができない。これらの点を塩基種の決定のために改良した方法が公知である。例えば、モレキュラービーコンを利用して、RCA法に基づいて1チューブで延期種の決定を行うことができる。モレキュラービーコンは、TaqMan法と同様に、蛍光色素とクエンチャーを利用したシグナル生成用プローブである。モレキュラービーコンの5’末端と3’末端は相補的な塩基配列で構成されており、単独ではヘアピン構造を形成する。両端付近を蛍光色素とクエンチャーで標識しておけば、ヘアピン構造を形成している状態では蛍光シグナルが検出できない。モレキュラービーコンの一部を、RCA法の増幅産物に相補的な塩基配列としておけば、モレキュラービーコンはRCA法の増幅産物にハイブリダイズする。ハイブリダイズによってヘアピン構造が解消されるため、蛍光シグナルが生成される。
【0113】
モレキュラービーコンの利点は、パドロックプローブのバックボーン部分の塩基配列を利用することによって、検出対象とは無関係にモレキュラービーコンの塩基配列を共通にできる点である。アレル毎にバックボーンの塩基配列を変え、蛍光波長が異なる2種類のモレキュラービーコンを組み合せれば、1チューブで塩基種の決定が可能である。蛍光標識プローブの合成コストは高いので、測定対象に関わらず共通のプローブを利用できることは、経済的なメリットである。
【0114】
これらの方法はいずれも多量のサンプルを高速にジェノタイピングするために開発された方法である。MALDI−TOF/MSを除けば、通常、いずれの方法にも何らかの形で標識プローブなどを用意する必要がある。これに対して、標識プローブなどに頼らない塩基種決定法も古くから行われている。このような方法の一つとして、例えば、制限酵素断片長多型(Restriction Fragment Length Polymorphism/RFLP)を利用した方法やPCR−RFLP法等が挙げられる。
【0115】
RFLPは、制限酵素の認識部位の変異、あるいは制限酵素処理によって生じるDNA断片内における塩基の挿入または欠失が、制限酵素処理後に生じる断片の大きさの変化として検出できることを利用している。検出対象となる多型を含む塩基配列を認識する制限酵素が存在すれば、RFLPの原理によって多型部位の塩基を知ることができる。
【0116】
標識プローブを必要としない方法として、DNAの二次構造の変化を指標として塩基の違いを検出する方法も公知である。PCR−SSCPでは、1本鎖DNAの二次構造がその塩基配列の相違を反映することを利用している(Cloning and polymerase chain reaction−single−strand conformation polymorphism analysis of anonymous Alu repeats on chromosome 11. Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139−146.、Detection of p53 gene mutations in human brain tumors by single−strand conformation polymorphism analysis of polymerase chain reaction products. Oncogene. 1991 Aug 1; 6(8): 1313−1318.、Multiple fluorescence−based PCR−SSCP analysis with postlabeling.、PCR Methods Appl. 1995 Apr 1; 4(5): 275−282.)。PCR−SSCP法は、PCR産物を1本鎖DNAに解離させ、非変性ゲル上で分離する工程により実施される。ゲル上の移動度は、1本鎖DNAの二次構造によって変動するので、もしも多型部位における塩基の相違があれば、移動度の違いとして検出することができる。
【0117】
その他、標識プローブを必要としない方法として、例えば、変性剤濃度勾配ゲル(denaturant gradient gel electrophoresis: DGGE法)等を例示することができる。DGGE法は、変性剤の濃度勾配のあるポリアクリルアミドゲル中で、DNA断片の混合物を泳動し、それぞれの不安定性の違いによってDNA断片を分離する方法である。ミスマッチのある不安定なDNA断片が、ゲル中のある変性剤濃度の部分まで移動すると、ミスマッチ周辺のDNA配列はその不安定さのために、部分的に1本鎖へと解離する。部分的に解離したDNA断片の移動度は、非常に遅くなり、解離部分のない完全な二本鎖DNAの移動度と差がつくことから、両者を分離することができる。
【0118】
具体的には、まずPCR法等によって多型部位を含む領域を増幅する。増幅産物に、塩基配列がわかっているプローブDNAをハイブリダイズさせて2本鎖とする。これを尿素などの変性剤の濃度が移動するに従って徐々に高くなっているポリアクリルアミドゲル中で電気泳動し、対照と比較する。プローブDNAとのハイブリダイズによってミスマッチを生じたDNA断片では、より低い変性剤濃度位置でDNA断片が一本鎖になり、極端に移動速度が遅くなる。こうして生じた移動度の差を検出することによりミスマッチの有無を検出することができる。
【0119】
更にDNAアレイを使って塩基種を決定することもできる(細胞工学別冊「DNAマイクロアレイと最新PCR法」,秀潤社,2000.4/20発行,pp97−103「オリゴDNAチップによるSNPの解析」,梶江慎一)。DNAアレイは、同一平面上に配置した多数のプローブに対してサンプルDNA(あるいはRNA)をハイブリダイズさせ、当該平面をスキャンすることによって、各プローブに対するハイブリダイズが検出される。多くのプローブに対する反応を同時に観察することができることから、例えば、多数の多型部位について同時に解析するには、DNAアレイは有用である。
【0120】
一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non− porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することもできる。
【0121】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インビトロ(in vitro)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)、および化学物質を固定させるためのインクジェット(Rosetta Inpharmatics社)技術等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、いずれの技術も本発明の基板の作製に利用することができる。
【0122】
オリゴヌクレオチドは、検出すべきSNPsを含む領域に相補的な塩基配列で構成される。基板に結合させるヌクレオチドプローブの長さは、オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常10〜100ベースであり、好ましくは10〜50ベースであり、さらに好ましくは15〜25ベースである。更に、一般にDNAアレイ法においては、クロスハイブリダイゼーション(非特異的ハイブリダイゼーション)による誤差を避けるために、ミスマッチ(MM)プローブが用いられる。ミスマッチプローブは、標的塩基配列と完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとのペアを構成している。ミスマッチプローブに対して、完全に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドはパーフェクトマッチ(PM)プローブと呼ばれる。データ解析の過程で、ミスマッチプローブで観察されたシグナルを消去することによって、クロスハイブリダイゼーションの影響を小さくすることができる。
【0123】
DNAアレイ法によるジェノタイピングのための試料は、被検者から採取された生物学的試料をもとに当業者に周知の方法で調製することができる。生物学的試料は特に限定されない。例えば被検者の末梢血白血球、皮膚、口腔粘膜等の組織または細胞、涙、唾液、尿、糞便または毛髪から抽出した染色体DNAから、DNA試料を調製することができる。判定すべき多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーを用いて、染色体DNAの特定の領域が増幅される。このとき、マルチプレックスPCR法によって複数の領域を同時に増幅することができる。マルチプレックスPCR法とは、複数組のプライマーセットを、同じ反応液中で用いるPCR法である。複数の多型部位を解析するときには、マルチプレックスPCR法が有用である。
【0124】
一般にDNAアレイ法においては、PCR法によってDNA試料を増幅するとともに、増幅産物が標識される。増幅産物の標識には、標識を付したプライマーが利用される。例えば、まず多型部位を含む領域に特異的なプライマーセットによるPCR法でゲノムDNAを増幅する。次に、ビオチンラベルしたプライマーを使ったラベリングPCR法によって、ビオチンラベルされたDNAを合成する。こうして合成されたビオチンラベルDNAを、チップ上のオリゴヌクレオチドプローブにハイブリダイズさせる。ハイブリダイゼーションの反応液および反応条件は、基板に固定するヌクレオチドプローブの長さや反応温度等の条件に応じて、適宜調整することができる。当業者は、適切なハイブリダイゼーションの条件をデザインすることができる。ハイブリダイズしたDNAを検出するために、蛍光色素で標識したアビジンが添加される。アレイをスキャナで解析し、蛍光を指標としてハイブリダイズの有無を確認する。
【0125】
上記方法をより具体的に示せば、被検者から調製した本発明の多型部位を含むDNA、およびヌクレオチドプローブが固定された固相、を取得した後、次いで、該DNAと該固相を接触させる。さらに、固相に固定されたヌクレオチドプローブにハイブリダイズしたDNAを検出することにより、本発明の多型部位の塩基種を決定する。
【0126】
本発明において「固相」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な材料を意味する。本発明の固相は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、具体的には、マイクロプレートウェル、プラスチックビーズ、磁性粒子、基板などを含む固相等を例示することができる。本発明の「固相」としては、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。また、本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。
【0127】
上記の方法以外にも、特定部位の塩基を検出するために、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法が利用できる。アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、検出すべき多型部位が存在する領域にハイブリダイズする塩基配列で構成される。ASOを試料DNAにハイブリダイズさせるとき、多型によって多型部位にミスマッチが生じるとハイブリッド形成の効率が低下する。ミスマッチは、サザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等によって検出することができる。また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって、ミスマッチを検出することもできる。
【0128】
本発明はまた、本発明の多型部位を含むDNAにハイブリダイズし、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するオリゴヌクレオチドを含む、CES1が代謝活性化に関与する薬剤の有効性を検査するための試薬を提供する。これは遺伝子発現を指標とする検査、または遺伝子多型を指標とする検査に使用される。
【0129】
該オリゴヌクレオチドは、本発明の多型部位を含むDNAに特異的にハイブリダイズするものである。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、他のタンパク質をコードするDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、該オリゴヌクレオチドは、検出する遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域におけるCES1の塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。
【0130】
該オリゴヌクレオチドは、上記本発明の検査方法におけるプローブやプライマーとして用いることができる。該オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる場合、その長さは、通常15bp〜100bpであり、好ましくは17bp〜30bpである。プライマーは、本発明の多型部位を含むDNAの少なくとも一部を増幅しうるものであれば、特に制限されない。
【0131】
本発明は、本発明の多型部位を含む領域を増幅するためのプライマー、および多型部位を含むDNA領域にハイブリダイズするプローブを提供する。本発明において、多型部位を含む領域を増幅するためのプライマーには、多型部位を含むDNAを鋳型として、多型部位に向かって相補鎖合成を開始することができるプライマーも含まれる。該プライマーは、多型部位を含むDNAにおける、多型部位の3’側に複製開始点を与えるためのプライマーと表現することもできる。プライマーがハイブリダイズする領域と多型部位との間隔は、任意である。両者の間隔は、多型部位の塩基の解析手法に応じて、好適な塩基数を選択することができる。たとえば、DNAチップによる解析のためのプライマーであれば、多型部位を含む領域として、20〜500、通常50〜200塩基の長さの増幅産物が得られるようにプライマーをデザインすることができる。当業者においては、多型部位を含む周辺DNA領域についての塩基配列情報を基に、解析手法に応じたプライマーをデザインすることができる。本発明のプライマーを構成する塩基配列は、ゲノムの塩基配列に対して完全に相補的な塩基配列のみならず、適宜改変することができる。
【0132】
本発明のプライマーには、ゲノムの塩基配列に相補的な塩基配列に加え、任意の塩基配列を付加することができる。例えば、IIs型の制限酵素を利用した多型の解析方法のためのプライマーにおいては、IIs型制限酵素の認識配列を付加したプライマーが利用される。このような、塩基配列を修飾したプライマーは、本発明のプライマーに含まれる。更に、本発明のプライマーは、修飾することができる。例えば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識したプライマーが各種のジェノタイピング方法において利用される。これらの修飾を有するプライマーも本発明に含まれる。
【0133】
一方本発明において、多型部位を含む領域にハイブリダイズするプローブとは、多型部位を含む領域の塩基配列を有するポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるプローブを言う。より具体的には、プローブの塩基配列中に多型部位を含むプローブは本発明のプローブとして好ましい。あるいは、多型部位における塩基の解析方法によっては、プローブの末端が多型部位に隣接する塩基に対応するように、デザインされる場合もある。従って、プローブ自身の塩基配列には多型部位が含まれないが、多型部位に隣接する領域に相補的な塩基配列を含むプローブも、本発明における望ましいプローブとして示すことができる。
【0134】
言いかえれば、ゲノムDNA上の本発明の多型部位、または多型部位に隣接する部位にハイブリダイズすることができるプローブは、本発明のプローブとして好ましい。本発明のプローブには、プライマーと同様に、塩基配列の改変、塩基配列の付加、あるいは修飾が許される。例えば、Invader法に用いるプローブは、フラップを構成するゲノムとは無関係な塩基配列が付加される。このようなプローブも、多型部位を含む領域にハイブリダイズする限り、本発明のプローブに含まれる。本発明のプローブを構成する塩基配列は、ゲノムにおける本発明の多型部位の周辺DNA領域の塩基配列をもとに、解析方法に応じてデザインすることができる。
【0135】
本発明のプライマー、またはプローブは、それを構成する塩基配列をもとに、任意の方法によって合成することができる。本発明のプライマーまたはプローブの、ゲノムDNAに相補的な塩基配列の長さは、通常15〜100、一般に15〜50、通常15〜30である。与えられた塩基配列に基づいて、当該塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する手法は公知である。更に、オリゴヌクレオチドの合成において、蛍光色素やビオチンなどで修飾されたヌクレオチド誘導体を利用して、オリゴヌクレオチドに任意の修飾を導入することもできる。あるいは、合成されたオリゴヌクレオチドに、蛍光色素などを結合する方法も公知である。
【0136】
本発明はまた、本発明の検査方法に使用するための試薬を提供する。本発明の試薬は、前記本発明のプライマーおよび/またはプローブを含む。本発明の試薬には、塩基種の決定方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合せることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、上記の塩基種決定方法として例示した各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、例えば、相補鎖合成用の基質等が用いられる。
【0137】
更に本発明の試薬には、多型部位における塩基が明らかな対照を添付することができる。対照は、予め多型部位の塩基種が明らかなゲノム、あるいはゲノムの断片を用いることができる。ゲノムは、細胞から抽出されたものでもよいし、細胞あるいは細胞の分画を用いることもできる。細胞を対照として用いれば、対照の結果によってゲノムDNAの抽出操作が正しく行われたことを証明することができる。あるいは、多型部位を含む塩基配列からなるDNAを対照として用いることもできる。具体的には、本発明の多型部位における塩基種が明らかにされたゲノム由来のDNAを含むYACベクターやBACベクターは、対照として有用である。あるいは多型部位に相当する数百ベースのみを切り出して挿入したベクターを対照として用いることもできる。
【0138】
さらに、本発明における検査薬の別の態様は、本発明の多型部位を含むDNAとハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された固相からなる、CES1が代謝活性化に関与する薬剤への反応性を検査するための薬剤である。これらは本発明の多型部位を指標とする検査に使用される。これらの調製方法に関しては、上述の通りである。
【0139】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] ヒトCES1遺伝子のプロモーター多型の検出
本発明者らは、CES1遺伝子の多型を評価することにより、高血圧患者におけるACE阻害剤に対する遺伝的反応性を検討した。被検者は昭和大学病院(東京、日本)の外来を新規に受診した日本人とした。被検者は以下の基準に従って選択した:(1)収縮期血圧>160mmHgまたは拡張期血圧血圧<95mmHgで、降圧治療を少なくとも8週間受けておらず、軽症ないし中等症の高血圧と診断されていること。降圧療法を初回診断時から少なくとも8週間控えていること。(2)二次性高血圧の臨床的または生物学的な徴候のないこと。(3)冠動脈疾患、高脂血症、糖尿病といった治療を要する疾患がないこと。
【0140】
計76例の患者を登録し、高血圧の治療のためにイミダプリル5mg〜10mgを最長16週間処方した。副作用による脱落例はなかった。
【0141】
投与方法は塩酸イミダプリルを単独で1日量5mg投与し、8週間投与で効果が認められない場合には塩酸イミダプリルを増量し、10mgをさらに8週間投与した上で有効・無効の判断を行う。有効・無効の判断は「新薬臨床評価ガイドライン2001」の「降圧薬の臨床評価方法に関するガイドライン」の記載に従った。(新薬臨床評価ガイドライン2001 日本公定書協会 編、薬事日報社、2001年4月25日発行)具体的には下表29に示す降圧度判定基準の通りである。
【0142】
【表29】


【0143】
被検者の血液、尿、胸部X線、ECCなどの検査は全て正常であった。血圧は各被検者とも15分の安静後に座位で測定した。血液検体は少なくとも12時間絶食させた後に採取した。試験は昭和大学病院倫理委員会による承認を得ており、各被検者から試験への参加に関して書面によるインフォームド・コンセントを得た。
【0144】
被検者全例を対象に候補遺伝子領域のSNPをタイピングし、有効群と無効群の比較をFischerのエグザクト検定により行なった。その結果、CES1遺伝子のプロモーター領域に存在するSNP(SNP1)とミダプリルの有効・無効との間に強い相関を認めた。CES1遺伝子の構造とSNP1〜3の位置を図2および図3に示した。なお、本実施例においては配列番号:1に記載の配列に対する相補鎖を基準として表記した。CES1遺伝子が配列番号:1の相補鎖側に存在するためである。そのため、SNP1、SNP2、SNP3は、それぞれ配列番号:1上では、41151位、35439位、10002位に該当する。
【0145】
QIAampキット(QiaGen)を用いて、被検者のゲノムDNAを白血球から抽出した。蛍光ポリメラーゼ連鎖反応に用いたプライマーおよびプローブは、プライマー中に位置するF(5−CCTTAATTTGGTGATTTCACATTGC−3/配列番号:2)ならびにプライマー中に位置するR(5−CAAGACATGGTTCAGCTTCTCAAG−3/配列番号:3)、A−アレル(5−CATCACACCTACTGCT−3/配列番号:4)およびC−アレル(5−CATCACCCCTACTGC−3/配列番号:5)とした。プライマーはNCBIデータベース中のCES1遺伝子から設計した。総反応容積は5μLとし、この混合液は5ngのゲノムDNA、50ngの各プライマー、200μmolの各dNTP、1.5mmol/L MgClおよび0−5UのTaq DNAポリメラーゼを含むものとした。PCRサイクルの条件は、まず94℃5分間、続いて94℃1分間、58℃30秒間および72℃30秒間を35サイクル、最後に72℃5分間の伸長期間とした。
イミダプリルに対する反応例および非反応例の背景を表30に示した。
【0146】
【表30】


【0147】
上記表30中の「位置」は、アクセッション番号のクローンの第1位の塩基から数えたポジションを表す。CES1遺伝子の3種のSNPに関して、反応例および非反応例におけるアレル頻度および遺伝子型の分布を表31に示した。遺伝子型およびアレル頻度の全てにハーディ・ワインベルグ平衡が成立していた。
【0148】
【表31】


【0149】
血縁関係のない高血圧でない日本人227人から採取した検体におけるAおよびCアレルの頻度はそれぞれ77.7%および22.3%であり、AA、ACおよびCCの遺伝子型分布はそれぞれ60.1%. 35.0%および4.9%であった。今回の高血圧被検者を総合すると、AおよびCアレルの頻度はそれぞれ77.6%および22.4%であり、AA、ACおよびCCの遺伝子型分布はそれぞれ66.2%、23.9%および9.9%であった。今回の高血圧被検者と正常集団との間にアレル頻度および遺伝子型頻度に関して有意差は認められなかった。
【0150】
−841 A/C SNPのアレル頻度は、反応例ではAアレルが70.7%、Cアレルが29.3%であり、非反応例ではそれぞれ92.0%および8.0%であった。非反応例においてAアレルが有意に多かった(χ=7.97、P=0.007)。すなわち、この高血圧集団では反応例よりも非反応例の方がAアレルの頻度が有意に高かった。
【0151】
−814 A/C SNPの分布はAA 54.3%、AC 32.6%、CC 13.0%であり、非反応例ではAA 88.0%、AC 8.0%、CC 4.0%であった。非反応性の高血圧被検者の方がAA遺伝子型の頻度は有意に高かった(Fisher直接確率検定、P=0.019)。性差の分析により、この傾向は男性に由来することが明らかになった。男性における−814 A/C SNPの分布は、反応例ではAA 50.0%、AC 32.1%、CC 17.9%であり、非反応例ではAA 93.8%、AC 6.3%でCCはゼロであった。女性における−814 A/C SNPの分布は、反応例ではAA 61.1%、AC 33.3%、CC 5.6%であり、非反応例ではAA 77.8%、AC 11.1%、CC 11.1%であった。
【0152】
男性のみに限ると、AA遺伝子型を有する被検者はイミダプリルに対する反応率が最も低く、CC遺伝子型を有する被検者は反応率が最も高かった。遺伝子型と薬剤反応性との間に相関があるとの証拠が得られた。
【0153】
また、CES1遺伝子領域に存在するSNP −814 A/C(SNP1とする)以外のSNP2、SNP3のタイピングを行なった結果、いずれも単独ではイミダプリルの有効性に関する有意差は認められなかった。それぞれのSNPの存在部位および前後配列を表3に示す。SNP1、SNP2、SNP3の間には連鎖不平衡が存在し、SNP1の存在部位からSNP3の存在部位にかけては連鎖不平衡の状態にあり、SNP1、SNP2、SNP3はハプロタイプを成していた(表32)。
【0154】
【表32】




【0155】
なお、連鎖不平衡にある領域はSNP1より上流側、SNP3より下流側にも及んでいるものと考えられ、具体的にはおよそ10kb程度と想定される。
【0156】
SNP1、SNP2、SNP3からなるハプロタイプは6種類が観察され、アリル頻度が高い順にhaplo1からhaplo6とした。イミダプリル反応例と非反応例との比較をカイ二乗検定により行ったところ、haplo3で有意差が認められ(p=0.004644)、haplo3(SNP1=C, SNP2=A, SNP3=T)をもつ個人に反応例が多かった(表33)。
【0157】
【表33】


【0158】
本発明によって得られた結果が別の被検者(標本数がさらに多いことが好ましい)においても再現されるかを検討し、再現される場合には、本発明のCES1遺伝子の遺伝子型判定を利用して、降圧薬を各個体にさらに効率良く処方することが可能である。また、カルボキシルトランスフェラーゼの遺伝子バリアントによって、男性におけるACE阻害剤のプロドラッグの効果を事前に予測できるようになる可能性がある。
【0159】
【発明の効果】
本発明によって、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性の検査方法、および検査試薬が提供された。CES1遺伝子もしくは該遺伝子の近傍DNA領域における多型を検出することで、CES1が代謝に関与する薬剤の有効性を予測することが可能となり、該薬剤の適用される症状の予防および治療のためのより経済的かつ効率的な戦略を立てることができるものと大いに期待される。
【0160】
【配列表】









































































































































































【図面の簡単な説明】
【図1】イミダプリルの代謝について表した図である。
【図2】CES1遺伝子のゲノム上の位置を表す図である。国際ヒトゲノムプロジェクトで+鎖と定められている配列に対して、CES1は−鎖側に位置する。出典:http://genome.ucsc.edu/index.html?org=Human(Build 30)
【図3】CES1遺伝子の構造とSNP1〜3の位置を表す図である。
【出願人】 【識別番号】501124337
【氏名又は名称】ヒュ―ビット ジェノミクス株式会社
【出願日】 平成15年6月19日(2003.6.19)
【代理人】 【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志

【識別番号】100108774
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 一憲

【公開番号】 特開2005−6572(P2005−6572A)
【公開日】 平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願番号】 特願2003−175498(P2003−175498)