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【発明の名称】 肺癌の発症リスクを予測するためのデータの収集方法
【発明者】 【氏名】山谷 睦雄

【氏名】久保 裕司

【氏名】鈴木 聡

【氏名】佐々木 英忠

【要約】 【課題】本発明は、肺癌の発症リスクを予測するためのデータを収集する方法を提供する。

【解決手段】本発明は、被験者が肺癌を発症するリスクを予測するためのデータを収集する方法であって、(a)ヘムオキシゲナーゼ−1遺伝子の上流に位置するGT反復配列を含有する試料からDNAを調製する工程と、(b)前記試料中の前記GT反復配列の反復回数を決定する工程とを具備する方法を提供する。また、上記方法を使用して、被験者が肺癌を発症するリスクを予測するためのデータを収集するためのキットを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者が肺癌を発症するリスクを予測するためのデータを収集する方法であって、
(a)ヘムオキシゲナーゼ−1遺伝子の上流に位置するGT反復配列を含有する試料からDNAを調製する工程と、
(b)前記試料中の前記GT反復配列の反復回数を決定する工程と、
を具備する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記試料が、前記被験者から採取された血液である方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法であって、
前記工程(b)におけるGT反復配列の反復回数の決定が、PCR増幅した前記GT反復配列を電気泳動にかけることによって行われることを特徴とする方法。
【請求項4】
被験者が肺癌を発症するリスクを予測するためのデータを収集するためのキットであって、配列番号1に記載の配列を増幅することが可能なプライマーを含むことを特徴とするキット。
【請求項5】
被験者が肺癌を発症するリスクを予測するためのデータを収集するためのキットであって、CAの繰り返し単位を有するプローブを含むことを特徴とするキット。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、肺癌の発症リスクを予測する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
肺癌は、我が国のみならず世界的にも罹患率/死亡率が増加しており、その予防法、発症因子を含めた癌化機序の解明、診断法、および治療法の開発は、緊急を要している。喫煙は、肺癌の主要な危険因子である。喫煙中には、種々の活性酸素および芳香族炭化水素およびニトロサミンなどの発癌物質を含有する。これらの成分は、気道上皮細胞のDNA損傷と癌化に関連するといわれている。他方、喫煙者の中の一部分にしかこれらの疾患が発症しないため、内因性の発症要因の関与が指摘されている。
【0003】
従来明らかにされているp53などの癌抑制遺伝子のほとんどは、癌化した細胞の増殖を抑制する。さらに、癌化した細胞を死滅させる働きをもつ。この癌抑制遺伝子が欠損している場合に、肺癌になると理解されている。これに対して、生体には、喫煙中の活性酸素および発ガン物質を不活性化する酵素として、グルタチオンS−トランスフェラーゼなどの抗酸化酵素の存在が知られている。抗酸化作用をもつ酵素には多型性があり、酵素活性と喫煙関連疾患である慢性肺気腫との関係が明らかにされ始めている。
【0004】
たとえば、本発明者は、ヘムを分解してビリベルジンと一酸化炭素と鉄を合成するヘムオキシゲナーゼ−1がオキシダントによる肺細胞傷害を抑制する報告をしてきた。さらに、GT反復配列の長い遺伝子多型性がヘムオキシゲナーゼ−1を発現しにくく、喫煙者に発症する慢性肺気腫発症に関係することを明らかにした(特許文献1、非特許文献1)。
【0005】
一方、喫煙は、気管支および肺胞上皮細胞のDNAを損傷し、癌化に関与すると考えられている。喫煙によるDNA損傷を抑制する抗酸化酵素については、酵素活性の低下と肺癌との関係が検討されている。喫煙によるDNA損傷を抑制する抗酸化酵素についても、酵素活性の低下と肺癌との関係が検討されているが、これまで抗酸化酵素の活性と肺癌発症との関係を証明した研究は存在しない。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−149087号公報
【0007】
【非特許文献1】
Hirai H et al.、The association between microsatellite polymorphism of heme oxygenase−1 gene promoter and sensitivity to oxidative injury in lymphoblastoid cell line.、“Eur Respir J”、(UK)、2000年、16巻、p.526s
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、肺癌の発症リスクを予測するためのデータを収集する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、抗酸化作用をもつヘムオキシゲナーゼ−1の発現を抑制するGT反復配列遺伝子多型性と肺癌との関連を明らかにしたことにより、完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、被験者が肺癌を発症するリスクを予測するためのデータを収集する方法であって、
(a)ヘムオキシゲナーゼ−1遺伝子の上流に位置するGT反復配列を含有する試料からDNAを調製する工程と、
(b)試料中の前記GT反復配列の反復回数を決定する工程と、
を具備する方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記方法であって、試料が前記被験者から採取された血液である方法を提供する。
【0012】
さらに、本発明は、上記方法であって、上記工程(b)におけるGT反復配列の反復回数の決定がPCR増幅した前記GT反復配列を電気泳動にかけることによって行われることを特徴とする方法を提供する。
【0013】
さらに、本発明は、被験者が肺癌を発症するリスクを予測するためのデータを収集するためのキットであって、配列番号1に記載の配列を増幅することが可能なプライマーを含むことを特徴とするキットを提供する。
【0014】
さらに、本発明は、被験者が肺癌を発症するリスクを予測するためのデータを収集するためのキットであって、CAの繰り返し単位を有するプローブを含むことを特徴とするキットを提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は、ヘム代謝の初発反応を触媒するヘムオキシゲナーゼ−1(以下HO−1と略記する)の遺伝子の上流に位置するGT反復配列の多型が、肺癌の発症に関与していることを明らかにした本発明者らの疫学的研究に基づいてなされたものである。
【0016】
より具体的には、本発明の方法は、HO−1遺伝子の上流に位置するGT反復配列の反復回数を測定することにより、被験者が肺癌を発症するリスクを予測する。
【0017】
ここで、「GT反復配列」とは、グアニン(G)とチミン(T)からなる反復単位が繰り返し存在する反復配列をいい、「反復回数」とは、GT反復配列中に存在する反復単位GTの個数をいう。
【0018】
本発明の方法は、HO−1遺伝子の上流域に位置するGT反復配列を含む試料を使用する。このような試料は、本発明の方法を適用すべき被験者から採取された任意の生体成分、例えば血液である。
【0019】
なお、本発明に使用する「試料」としては、医師等によってあらかじめ採取または調製された試料をすればよい。
【0020】
本発明の方法を適用すべき「被験者」は、ヒトを含む哺乳動物であることが好ましいが、GT配列の多型は哺乳類以外の多くの種について知られているので、HO−1を備えている動物種は全て「被験者」に含まれる。
【0021】
本発明の方法は、まず、上記試料から核酸試料を調製する。生体成分から核酸を抽出する方法は、当業者に周知であり、いずれの方法を使用してもよいが、たとえばフェノール抽出、エタノール沈殿等によって行うことができる。
【0022】
核酸試料を準備した後には、HO−1遺伝子の上流に位置するGT反復配列の反復回数を決定するする工程を実施する。HO−1遺伝子の上流の配列(配列番号1)及び任意の反復配列の反復回数を測定する方法は周知であるから、当業者であれば、GT反復配列の反復回数は容易に測定できる。
【0023】
たとえば、反復配列の反復回数を測定する方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(以下PCRと称する)を利用することができる。PCRを用いてGT反復配列の反復回数を測定するには、GT反復配列の上流及び下流に存在するユニークな配列からなるプライマー対を用いてGT反復配列を増幅した後、PCR生成物を電気泳動にかけて移動度を測定すればよい。
【0024】
あるいは、測定する試料の数が多い場合には、DNAチップによってGT反復配列の反復回数を決定してもよい。DNAチップを用いる場合には、たとえばCAの繰り返し単位を有するプローブが固相化されたチップにGT反復配列を含有する試料を注入した後、反復回数の差に応じた解離条件(解離温度等)の差を測定して、GT反復配列の反復回数を決定することができる。たとえば、33回以上の繰り返しを有するDNAはハイブリダイズするが、33回以下の繰り返しを有するDNAはハイブリダイズしない条件下で、DNA試料がプローブにハイブリダイズするか否かを測定して反復回数を決定することができる。
【0025】
さらに、必要であれば、GT反復配列の塩基配列を決定することにより、反復回数を決定してもよい。
【0026】
下記の実施例において詳述されているように、HO−1遺伝子上流のGT反復配列の反復回数が33回以上である対立遺伝子を有する被験者は、肺癌に罹患するリスクが高い。従って、GT反復配列の反復回数を測定することによって、被験者の肺癌の発症リスクを予測することが可能になる。より詳細には、反復回数33回以上の対立遺伝子の存在と喫煙被験者における肺癌の発症との関連を調べた疫学調査では、オッズ比は2.2であった(反復回数33回以上の対立遺伝子を有する喫煙者が肺癌に罹患するリスクは、そうでない喫煙者の約2.2倍である)。
【0027】
本発明の方法はデータを収集する方法であるから、該方法を実施する者は、医療機関に限定されない。
【0028】
加えて、本発明は、上記方法を使用して、被験者が肺癌を発症するリスクを予測するためのデータを収集するためのキットを提供する。該キットには、配列番号1に記載の配列を増幅することが可能なプライマーを含むことを特徴とする。たとえば、キットに含まれるプライマーは、5’−agagcctgcagcttctcaga−3’(配列番号2)および5’−acaaagtctggccataggac−3’(配列番号3)のプライマーであってもよい。また、該キットは、プライマーの他にPCR反応を行うために必要な酵素、バッファーなどを含んでいてもよく、試料からDNAを調製するための試薬などを含んでいてもよい。この場合、該プライマーを使用してPCR反応を行うことにより、反復回数を決定することができる。また、該プライマーを使用してGT反復配列の塩基配列を決定することにより、反復回数を決定することもできる。
【0029】
さらに、本発明のキットは、プライマーではなく、CAの繰り返し単位を有するプローブが含まれていてもよい。特に、該プローブは、該プローブがチップに固相化された状態のDNAチップを含む。また、該キットは、プローブの他にハイブリダイゼーション反応のためのバッファー等を含んでいてもよい。本発明のキットに含まれるプローブを使用して上記方法を実施することにより、反復回数を決定することができる。
【0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0031】
【実施例】
肺癌患者151名、同様の喫煙歴・非喫煙者割合をもつ非癌対象者153名から、末梢血を採取してDNAを抽出する。これを鋳型としてPCRを行った。
【0032】
HO−1遺伝子の上流に位置するGT反復配列(配列番号1の285〜344)を増幅するためのプライマーとして、プライマーp1−s(配列番号1の249〜268)(配列番号2)とp1−as(配列番号1の356〜375の相補配列)(配列番号3)を作成した(図1)。
【0033】
次いで、常法に従って抽出したゲノムDNAをテンプレートとし、PCRによる増幅を行った。プライマーとして蛍光ラベルしたp1−sとラベルしていないp1−asを使用し、増幅産物のサイズをレーザーベース自動化DNAシーケンサー(pharmacia,Uppsala, Sweden)で解析して、GT反復配列中の反復回数を決定した。
【0034】
GT反復配列の反復数は、23、30、33の3箇所にピークを有していた。測定した患者および対照者を、GT反復配列数にしたがって、<27、27≦および<33、33≦の3群(S、M、L)に分類した。さらに、遺伝子群を2群(群I(L/L、L/M、L/S)および群II(M/M、M/S、S/S)に分類すると、L群のGT配列数およびI群の遺伝子多型の割合が肺腺癌患者において顕著に上昇していた(表1)。
【0035】
【表1】


【0036】
次に、GT反復配列回数にしたがって、喫煙者・非喫煙者双方を含む被験者全体をクラスL(33回以上)、クラスM(27回以上、33回未満)、クラスs(27回未満)に分類すると、GT反復配列回数の多いクラスLの人数は、肺腺癌患者(lung adenocarcinoma patient)において明らかに増加していた。また、遺伝子型により被験者をグループI(L/L、L/M、L/S)とグループII(M/M、M/S、S/S)に分類すると、GT反復配列回数の多いクラスLを有するグループIの人数は、肺腺癌で明らかに増加していた(表1)。
【0037】
GT反復配列回数にしたがって、喫煙被験者をクラスL(33回以上)、クラスM(27回以上、33回未満)、クラスs(27回未満)に分類すると、GT反復配列回数の多いクラスLの人数は、肺腺癌患者(lung adenocarcinoma patient)において明らかに増加していた。また、遺伝子型により被験者をグループI(L/L、L/M、L/S)とグループII(M/M、M/S、S/S)に分類するとGT反復配列回数の多いクラスLを有するグループIの人数は、肺腺癌で明らかに増加していた(表2)。
【0038】
【表2】


【0039】
GT反復配列回数にしたがって、非喫煙被験者をクラスL(33回以上)、クラスM(27回以上、33回未満)、クラスs(27回未満)に分類すると、GT反復配列回数の多いクラスLの人数は、肺腺癌患者(lung adenocarcinoma patient)と対照者(control subject)の間に違いはなかった。また、遺伝子型により被験者をグループI(L/L、L/M、L/S)とグループII(M/M、M/S、S/S)に分類するとGT反復配列回数の多いクラスLを有するグループIの人数は、肺腺癌と対照者の間で違いはなかった(表3)。
【0040】
【表3】


【0041】
上記結果から、ヘムオキシゲナーゼ−1遺伝子におけるGT反復配列数の長い遺伝子多型性が喫煙者における肺腺癌発症と関係していた(表2)。また、非喫煙者において、肺腺癌患者と非肺腺癌対照者では、L群/I群の割合に違いは認められなかった(表3)。この結果から、ヘムオキシゲナーゼ−1遺伝子のGT反復配列数の長い遺伝子多型性が喫煙者における肺腺癌発症と関係することが明らかになった。
【0042】
【発明の効果】
本発明の方法を使用することにより、被験者が肺癌を発症するリスクを予測するためのデータを得ることができる。したがって、この解析結果は、肺癌予防のための禁煙の判断根拠として利用することができる。
【0043】
【配列表】





【図面の簡単な説明】
【図1】DNA解析に使用したプライマーおよび増幅される配列を示す図。
【出願人】 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【出願日】 平成15年6月12日(2003.6.12)
【代理人】
【公開番号】 特開2005−93(P2005−93A)
【公開日】 平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願番号】 特願2003−168012(P2003−168012)