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【発明の名称】 9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物とその製造方法、及び有機電界発光素子
【発明者】 【氏名】市村 真理
【住所又は居所】東京都品川区北品川6丁目7番35号 ソニー株式会社内

【氏名】高田 一範
【住所又は居所】東京都品川区北品川6丁目7番35号 ソニー株式会社内

【氏名】氏家 康晴
【住所又は居所】東京都品川区北品川6丁目7番35号 ソニー株式会社内

【氏名】田村 眞一郎
【住所又は居所】東京都品川区北品川6丁目7番35号 ソニー株式会社内

【要約】 【課題】発光色の色純度や蛍光量子収率に優れ、安定なアモルファス膜を形成することができ、且つ短い反応経路で収率よく容易に合成でき、コストの低い青色発光材料とその製造方法、及びこれを用いた高輝度な有機電界発光素子を提供する。

【解決手段】一般式[I]で表わされる9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物と、これを発光材料として用いた有機電界発光素子。この化合物は、5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフトール化合物からアリールボロン酸又はそのエステルを合成し、これと9,10−ジハロアントラセン化合物とを反応させて製造する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[I]で示される9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物。
【化1】
一般式[I]:


[但し、前記一般式[I]において、R、R、R 及びR は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、或いは下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)で表わされる、置換若しくは未置換のアリ−ル基又はアリ−ルオキシ基であり、またシクロヘキセン部に置換基が導入されていてもよい。
【化2】
一般式(1):


【化3】
一般式(2):


【化4】
一般式(3):


【化5】
一般式(4):


【化6】
一般式(5):


【化7】
一般式(6):


(但し、前記一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)において、R 〜R42 は、同一又は異種の基であって、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、飽和又は不飽和の炭化水素基、飽和又は不飽和の炭化水素オキシ基、或いは、飽和又は不飽和の炭化水素アミノ基である。)]
【請求項2】
下記一般式[II]で示される、請求項1に記載した9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物。
【化8】
一般式[II]:


(但し、前記一般式[II]において、R 及びR は前記したものと同じものである。)
【請求項3】
下記一般式[III]で表わされる5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフトール化合物から下記一般式[IV]で表わされるアリールボロン酸又はそのエステルを合成し、これと下記一般式[V]で表わされる9,10−ジハロアントラセン化合物とを反応させ、一般式[I]で表わされる9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物を得る、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物の製造方法。
【化9】
一般式[III]:


【化10】
一般式[IV]:


【化11】
一般式[V]:


【化12】
一般式[I]:


[但し、前記一般式[I]、[III]、[IV]及び[V]において、R、R、R及びR は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、或いは下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)で表わされる、置換若しくは未置換のアリ−ル基又はアリ−ルオキシ基であり、またシクロヘキセン部に置換基が導入されていてもよい。
【化13】
一般式(1):


【化14】
一般式(2):


【化15】
一般式(3):


【化16】
一般式(4):


【化17】
一般式(5):


【化18】
一般式(6):


(但し、前記一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)において、R 〜R42 は、同一又は異種の基であって、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、飽和又は不飽和の炭化水素基、飽和又は不飽和の炭化水素オキシ基、或いは、飽和又は不飽和の炭化水素アミノ基である。)]
【請求項4】
請求項2に記載した9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物を製造する、請求項3に記載した9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物の製造方法。
【請求項5】
発光領域を有する有機物層が陽極と陰極との間に設けられている有機電界発光素子であって、請求項1又は2に記載した9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物の少なくとも1種が、前記有機物層に含有されている、有機電界発光素子。
【請求項6】
前記有機物層が、正孔輸送層と電子輸送層とが積層された構造を有し、前記正孔輸送層の形成材料として前記9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物が用いられている、請求項5に記載した有機電界発光素子。
【請求項7】
前記有機物層が、正孔輸送層と電子輸送層とが順次積層された構造を有し、前記正孔輸送層の形成材料として前記9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物が用いられている、請求項5に記載した有機電界発光素子。
【請求項8】
前記有機物層が、正孔輸送層と発光層と電子輸送層とが積層された構造を有し、前記発光層の形成材料として前記9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物が用いられている、請求項5に記載した有機電界発光素子。
【請求項9】
蛍光性のドーパントが、前記9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物と共に前記有機物層に含まれる、請求項5に記載した有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機電界発光素子の構成材料等として好適なビス(テトラヒドロナフチル)アントラセン化合物とその製造方法、及びこれを含有する有機電界発光素子に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、自発光であって、応答速度が高速であり、視野角依存性のないフラットパネルディスプレイの候補として、有機電界発光素子(エレクトロルミネッセンス(EL)素子)等が注目されており、その構成材料として有機蛍光材料への関心が高まっている。有機蛍光材料の第1の利点は、分子設計によって材料の蛍光特性をある程度コントロールできるところにあり、これによって、それぞれ、赤、緑及び青の3原色光を発光する各材料をそろえて、フルカラー表示の有機電界発光素子を作製することが可能である。
【0003】
有機電界発光素子の開発において、発光材料の選択は、素子の信頼性を確保する上で最重要の課題である。有機電界発光素子における発光材料は、発光色が色純度に優れていると共に、蛍光量子収率が高く、且つ安定なアモルファス薄膜を形成しうるものでなければならず、これら全ての条件をみたす材料は少ない。特に安定な青色発光層を形成しうる有機蛍光材料は少なく、青色発光層の形成に好適な材料を見いだすことは、フルカラー表示の有機電界発光素子を実現する上で不可欠の課題となっている。
【0004】
例えば、9,10−ジフェニルアントラセンは、青色領域に発光を呈する蛍光材料として古くから知られ、色素レーザ等に好適な蛍光材料として用いられていて、発光色の色純度や蛍光量子収率の上で最も好ましい青色発光材料の1つである。また、特開2000−07604号公報では、9,10−ジフェニルアントラセンが、電子輸送性の基と正孔輸送性の基とを同一分子内に有する化合物によって電子輸送を行い得る材料として有望であることが記され、特開2000−182776号公報では、9,10−ジフェニルアントラセンをアリールアミン系化合物に代わる正孔輸送材料として用いることが提案されている。
【0005】
しかしながら、9,10−ジフェニルアントラセンは、結晶性が高く、このため、アモルファス薄膜を形成する性質が極めて低く、真空蒸着法で9,10−ジフェニルアントラセンの安定な薄膜を形成することはできない。即ち、9,10−ジフェニルアントラセンの薄膜は、電圧が印加されると電気的短絡を起こす多結晶体を作りやすく、この点から有機電界発光素子の構成材料として好適な材料ではない。
【0006】
そこで、9,10−ジフェニルアントラセンの誘導体を合成し、誘導体化によって熱特性などの改善を目指す例が多数提案されている。
【0007】
例えば、初期の報告の特開平8−12600号公報では、フェニルアントラセンの2量体又は3量体の化合物を用いた有機電界発光素子が開示されている。この場合、アントラセン間を共役基で連結したため青色発光の色純度が低下し、不純物が多いという問題があった。同様の試みは、特開平11−339963号公報、特開平11−329732号公報及び特開2000−344691号公報でも続けられ、特開2000−344691号公報では、9,10−ジフェニルアントラセン骨格の2量体化によりガラス転移温度として166℃が得られたことが報告されている。
【0008】
また、特開2000−191560号公報では、9,10−ジフェニルアントラセン骨格とスチリル基とが結合した化合物を用いることにより、また特開2000−53677号公報では、更に硫黄を含有する複素環を導入した化合物を用いることにより、素子の低電圧駆動が可能になるとしている。
【0009】
また、特開平10−294179号公報では、9,10−ジフェニルアントラセンのアントラセン部を更にアリール基で置換した化合物を用いることにより、有機物発光層の安定化に効果があるとされ、特開2002−75651号公報及び特開2000−273056号公報では、9,10−ジフェニルアントラセンのアントラセン部をアリール基で置換した化合物を用いることにより、発光効率が向上することが示された。また、特開2002−260861号公報では、比較的単純な9,10−ジフェニルアントラセン誘導体と発光材料の混合により、発光効率の高い有機電界発光素子を実現できることが示されている。
【0010】
後述の特許文献1では、9,10−ジフェニルアントラセンのフェニル基にある2つのメタ位を更にフェニル基で置換した化合物群を用いることにより、熱安定性が高く、発光効率の高い有機電界発光素子を実現できることが示されている。後述の特許文献2でも、9,10−ジフェニルアントラセンのフェニル基を更にアリール基で終端する置換基で置換した化合物を用いることにより、発光効率が向上することが示されている。
【0011】
【特許文献1】
特開平11−312588号公報(第3及び4頁、構造式(1))
【特許文献2】
特開2001−335516号公報(第5頁、一般式〔A〕)
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、特許文献1及び2では、9,10−ジフェニルアントラセンのフェニル基にアリール基を導入した誘導体によって、安定なアモルファス膜が形成され、発光効率の高い、青色発光素子が実現されている。しかし、これらの誘導体を合成するには、カップリング反応を少なくとも2回繰り返してアリール基同士を連結することが必要であり、合成の経路が長く、その結果、収率が低くなり、コスト高になる。
【0013】
本発明の目的は、上記のような事情に鑑み、発光色の色純度や蛍光量子収率に優れ、安定なアモルファス膜を形成することができ、且つ短い反応経路で収率よく容易に合成でき、コストの低い青色発光材料とその製造方法、及びこれを用いた高輝度な有機電界発光素子を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、フェニル基に縮合したシクロヘキセン環を立体障害部として導入した新規化合物によって上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0015】
即ち、本発明は、まず、下記一般式[I]で示される9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物(以下、本発明の化合物と称する。)に係わるものである。
【化19】
一般式[I]:


[但し、前記一般式[I]において、R、R、R 及びR は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、置換若しくは未置換のアルキル基、置換若しくは未置換のアルコキシ基、或いは下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)で表わされる、置換若しくは未置換のアリ−ル基又はアリ−ルオキシ基であり、またシクロヘキセン部に置換基が導入されていてもよい。
【化20】
一般式(1):


【化21】
一般式(2):


【化22】
一般式(3):


【化23】
一般式(4):


【化24】
一般式(5):


【化25】
一般式(6):


(但し、前記一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)において、R 〜R42 は、同一又は異種の基であって、水素原子、フッ素原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、飽和又は不飽和の炭化水素基、飽和又は不飽和の炭化水素オキシ基、或いは、飽和又は不飽和の炭化水素アミノ基である。)なお、本明細書では、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンを母体とし、上記のような置換基R、R、R 及びR の導入によって生み出される一群の化合物群を、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物と呼ぶ。以下、他の化合物についても同様である。]
【0016】
また、本発明の化合物の製造方法は、下記一般式[III]で表わされる5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフトール化合物から下記一般式[IV]で表わされるアリールボロン酸又はそのエステルを合成し、これと下記一般式[V]で表わされる9,10−ジハロアントラセン化合物とを反応させ、前記一般式[I]で表わされる9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物を得る、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物の製造方法に係わるものである。
【化26】
一般式[III]:


【化27】
一般式[IV]:


【化28】
一般式[V]:


[但し、前記一般式[III]、[IV]及び[V]において、R、R、R及びR は、前記したものと同じものである。]
【0017】
更に、本発明の有機電界発光素子は、発光領域を有する有機物層が陽極と陰極との間に設けられている有機電界発光素子であって、前記一般式[I]で示される9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物の少なくとも1種が、前記有機物層に含有されている、有機電界発光素子に係わるものである。
【0018】
本発明の化合物は、青色発光を示す有機発光材料として、9,10−ジフェニルアントラセンと同様、発光色の色純度や蛍光量子収率に優れた化合物である。一方、熱特性等は9,10−ジフェニルアントラセンと異なり、高い融点を有している上に、フェニル基に縮合したシクロヘキセン環が立体障害を形成するため結晶性が低下し、絶縁性に優れたアモルファス膜を蒸着等によって形成することができる。しかも、1段階のカップリング反応で、収率よく低コストで合成できる。
【0019】
また、本発明の化合物は、分子内に電子輸送性能を担う部分と正孔輸送性能を担う部分との両方を併せ持つため、他の蛍光材料に対して有効なホスト材料でもある。
【0020】
本発明の化合物の製造方法では、下記の反応スキームのように、入手の容易な5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフトール化合物[III]を原料の1つとし、これから例えばトリフルオロメタンスルホン酸のエステル[VI]を経てアリールボロン酸エステル[IV]を合成し、これと、入手容易な9,10−ジハロアントラセン化合物[V]とのクロスカップリング反応により、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物[I]を合成する。
【0021】
【化29】






【0022】
本発明の化合物の製造方法によれば、用いられる反応はいずれも高収率の反応であるので、市販のフェノール類から短い反応経路により収率よく低コストで、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物を合成することができる。
【0023】
そして、前記クロスカップリング反応はホモカップリング体などの副生が少ないことや、前記ボロン酸は多くの化学反応に不活性なので前記アリールボロン酸に置換基を導入するのも比較的容易であること等の利点がある。
【0024】
更に、本発明の有機電界発光素子によれば、前記9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物の少なくとも1種が、前記有機物層に含有されているので、高輝度の青色発光が効率よく得られると共に、熱的にも電気的にも安定な有機電界発光素子が低コストで提供できる。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明において、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物は、下記一般式[II]で示される化合物であるのがよい。アントラセン環に置換基を導入することによって、熱特性を改善することができる。
【化30】
一般式[II]:


(但し、前記一般式[II]において、R 及びR は前記したものと同じものである。)
【0026】
具体的には、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物として、下記構造式(7)−1〜(7)−9、又は(8)−1〜(8)−28で示される化合物を挙げることができる。これらの化合物は、後述する本発明の好ましい実施の形態に基づく製造方法によって製造するのがよい。
【0027】
【化31】










【化32】










【0028】
以下、本発明の化合物の製造方法を、工程順に詳しく説明する。
【0029】
クロスカップリング反応の一方の反応物質であるアリールボロン酸エステルは、下記の反応によって、市販のフェノール類から合成するのがよい。
【0030】
即ち、まず、下記の式のように、フェノール類と無水トリフルオロメチルスルホン酸との反応で芳香族トリフラート(トリフルオロメチルスルホン酸のエステル)を合成する。この反応の収率は、ほぼ100%である。但し、Yは置換基を表すものとする。
【化33】


【0031】
次に、下記の式のように、上記の芳香族トリフラートと(アルコキシ)ジボロンとの反応により、アリールボロン酸エステルを合成する。
【化34】


ここで、触媒としてジクロロ(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム(II)PdCl(dppf)を用いると、100%近い収率が達成される。反応は直接的であり、官能基に対する制約も少ないことから、置換ボロン酸誘導体の合成に簡便である。
【0032】
上記の芳香族トリフラートに対応するハロゲン化アリ−ルが容易に入手できる場合には、下記の式のように、このハロゲン化アリ−ルと(アルコキシ)ジボロンとの反応により、アリールボロン酸エステルを合成してもよい。ここでも、触媒としてジクロロ(1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン)パラジウム(II)PdCl(dppf)を用い、ハロゲン化アリールとして臭化物やヨウ化物を用いるのがよい。


【0033】
クロスカップリング反応の反応物質として、エステルではなくアリールボロン酸を用いる場合には、アリールリチウム又はグリニヤール試薬とホウ酸エステルとを反応させた後、加水分解してアリールボロン酸を生成させるのがよい。
ArLi 又は ArMgX → ArB(OH) (但し、Arはアリール基を表す。)
【0034】
次に、下記の式のように、クロスカップリング反応によってビアリールを合成する。他方の反応物質であるハロゲン化アリールとしては、臭化物やヨウ化物が好適であるが、塩化物を用いたり、ハロゲン化アリールに代えて芳香族のトリフラートやメシラート(メタンスルホン酸エステル)等も用いることができる。但し、Zは置換基を表すものとする。
【化35】


【0035】
上記の反応は、反応物質をベンゼン又は1,2−ジメトキシエタン等に溶解し、炭酸ナトリウム水溶液とテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)Pd(PPh 触媒を加えて80℃で行うのが一般的であり、70%程度の反応収率を容易に達成できる。
【0036】
上記のように、本発明の好ましい実施の形態に基づき、市販のフェノール類から短い反応経路で収率よく低コストで9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物を合成することができる。
【0037】
本発明の有機電界発光素子においては、前記有機物層が、正孔輸送層と電子輸送層とが積層された構造、例えば正孔輸送層と電子輸送層とが順次積層された構造を有し、前記正孔輸送層の形成材料として前記9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物が用いられているのがよい。
【0038】
また、前記有機物層が、正孔輸送層と発光層と電子輸送層とが積層された構造を有し、前記発光層の形成材料として前記9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物が用いられているのがよい。
【0039】
また、蛍光性のドーパントが、前記9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物と共に前記有機物層に含まれるのがよい。
【0040】
次に、本発明の好ましい実施の形態に基づく有機電界発光素子(EL素子)を図面参照下に具体的に説明する。
【0041】
図3〜図6は、本発明の化合物を有機発光材料として用いる有機電界発光素子の例を示すものである。
【0042】
図3は、発生した光20が陽極2を透過する透過型有機電界発光素子Aであって、発光20は保護層4の側からも観測できる。図4は陽極2での反射光も発光20として得る反射型有機電界発光素子Bを示す。
【0043】
図中、1は有機電界発光素子を形成するための基板であり、ガラス、プラスチック及び他の適宜の材料を用いることができる。また、有機電界発光素子を他の表示素子と組み合わせて用いる場合には、基板を共有することもでき、例えばアクティブマトリックス駆動する場合には、TFT(Thin Film Transistor:薄膜トランジスタ)を共通の基板上に形成することも可能である。
【0044】
図3の透過型有機電界発光素子Aでは、陽極2は透明電極であり、構成材料として、例えば、ITO(Indium tin oxide)、IZO(Indium zinc oxide)、SnO等を用いる。一方、図4の反射型有機電界発光素子Bでは、陽極2BはCr、Fe、Co、Ni、Cu、Ta、W、Pt、Mo、Au又はこれらの合金等を用いて形成され、光反射層として機能する。
【0045】
また、図3及び図4の5は有機物発光層であり、本発明の化合物を発光材料として含有している。この発光層5について、有機電界発光20を得る層構成としては、従来公知の種々の構成を用いることができる。後述するように、例えば、正孔輸送層と電子輸送層のいずれかを構成する材料が発光性を有する場合、これらの薄膜を積層した構造を使用できる。更に本発明の目的を満たす範囲で電荷輸送性能を上げるために、正孔輸送層と電子輸送層のいずれか若しくは両方が、複数種の材料の薄膜を積層した構造、または、複数種の材料を混合した組成からなる薄膜を使用するのを妨げない。また、発光性能を上げるために、少なくとも1種以上の蛍光性の材料を用いて、この薄膜を正孔輸送層と電子輸送層の間に挟持した構造、更に少なくとも1種以上の蛍光性の材料を正孔輸送層若しくは電子輸送層、またはこれらの両方に含ませた構造を使用してもよい。これらの場合には、発光効率を改善するために、正孔または電子の輸送を制御するための薄膜をその層構成に含ませることも可能である。
【0046】
本発明の化合物は、電子輸送性能と正孔輸送性能の両方を持つため、素子構成中、電子輸送性材料との混合発光層としても、或いは正孔輸送性材料との混合発光層としても用いることが可能である。また該化合物を含む混合層を電子輸送層と正孔輸送層に挟み込んだ構成で発光材料として用いることも可能である。
【0047】
また、図3及び図4の3は陰極であり、電極材料としては、Li、Mg、Ca等の活性な金属とAg、Al、In等の金属との合金、LiF、LiO、或いはこれらを積層した構造を使用できる。反射型の有機電界発光素子Bにおいては、陰極3の厚さを調節することにより、用途に合った光透過率を得ることができる。例えば、陰極3の厚さを薄くして高い透過率を保持し、なおかつ陽極2Bを光反射率の高い材料で構成することによって、有機電界発光20を陰極3の側に効率よく取り出すことができる。
【0048】
また、図中の4は封止・保護層であり、有機電界発光素子全体を覆う構造とすることにより、その効果が上がる。気密性が保たれれば、適宜の材料を使用することができる。また、8は電流注入用の駆動電源である。
【0049】
本発明に基づく有機電界発光素子において、有機物層が、正孔輸送層と電子輸送層とが積層された有機積層構造(シングルへテロ構造)を有しており、正孔輸送層又は電子輸送層の形成材料として本発明の化合物が用いられてよい。或いは、有機物層が、正孔輸送層と発光層と電子輸送層とが順次積層された有機物積層構造(ダブルへテロ構造)を有しており、発光層の形成材料として本発明の化合物が用いられてよい。
【0050】
このような有機物積層構造を有する有機電界発光素子の例を示すと、図5は、透光性の基板1の上に、透光性の陽極2と、正孔輸送層6と電子輸送層7とからなる有機物層5Cと、陰極3とが順次積層された積層構造を有し、この積層構造が保護層4によって封止されてなる、シングルへテロ構造の有機電界発光素子Cである。
【0051】
このような発光層を省略した層構成の場合には、正孔輸送層6と電子輸送層7の界面から所定波長の発光20が発生する。これらの発光は基板1の側から観測される。
【0052】
また、図6は、透光性の基板1の上に、透光性の陽極2と、正孔輸送層10と発光層11と電子輸送層12とからなる有機物層5Dと、陰極3とが順次積層された積層構造を有し、この積層構造が保護層4によって封止されてなる、ダブルへテロ構造の有機電界発光素子Dである。
【0053】
このような有機電界発光素子Dにおいては、陽極2と陰極3の間に直流電圧を印加することにより、陽極2から注入された正孔が正孔輸送層10を経て、また陰極3から注入された電子が電子輸送層12を経て、それぞれ発光層11に到達する。この結果、発光層11においては電子/正孔の再結合が生じて一重項励起子が生成し、この一重項励起子から所定波長の発光が発生する。
【0054】
上述した各有機電界発光素子C及びDにおいて、基板1は、例えば、ガラス、プラスチック等の光透過性の材料を適宜用いることができる。また、他の表示素子と組み合わせて用いる場合や、図5及び図6に示した積層構造をマトリックス状に配置する場合等は、各素子間で基板を共用してもよい。また、素子C及びDはいずれも、透過型及び反射型のいずれの構造もとり得る。
【0055】
また、陽極2は、透明電極であり、ITO(indium tin oxide)やSnO等が使用できる。この陽極2と正孔輸送層6(又は正孔輸送層10)との間には、電荷の注入効率を改善する目的で、有機物若しくは有機金属化合物からなる薄膜を設けてもよい。なお、保護層4が金属等の導電性材料で形成されている場合は、陽極2の側面に図示を省略した絶縁層が設けられていてもよい。
【0056】
また、有機電界発光素子Cにおける有機物層5Cは、正孔輸送層6と電子輸送層7とが積層された有機物層であり、これらのいずれか又は双方に本発明の化合物を含有させ、発光性の正孔輸送層6又は電子輸送層7とするのがよい。有機電界発光素子Dにおける有機物層5Dは、正孔輸送層10と本発明の化合物を含有する発光層11と電子輸送層12とが積層された有機物層であるが、その他、種々の積層構造を取ることができる。例えば、正孔輸送層と電子輸送層のいずれか若しくは両方が発光性を有していてもよい。
【0057】
また、特に、正孔輸送層6又は電子輸送層7や発光層11が本発明の化合物からなる層であることが望ましいが、これらの層を本発明の化合物のみで形成してもよく、或いは、本発明の化合物と他の正孔又は電子輸送材料(例えば、芳香族アミン類やピラゾリン類等)又は発光材料との共蒸着によって形成してもよい。さらに、正孔輸送層において、正孔輸送性能を向上させるために、複数種の正孔輸送材料を積層した正孔輸送層を形成してもよい。
【0058】
また、有機電界発光素子Cにおいて、発光層は電子輸送性発光層7であってよいが、電源8から印加される電圧によっては、正孔輸送層6やその界面で発光される場合がある。同様に、有機電界発光素子Dにおいて、発光層は層11以外に、電子輸送層12であってもよく、正孔輸送層10であってもよい。発光性能を向上させるために、少なくとも1種の蛍光性材料を用いた発光層11を正孔輸送層と電子輸送層との間に挟持させた構造であるのがよい。または、この蛍光性材料を正孔輸送層又は電子輸送層、或いはこれら両層に含有させた構造を構成してよい。このような場合、発光効率を改善するために、正孔又は電子の輸送を制御するための薄膜(ホールブロッキング層やエキシトン生成層など)をその層構成に含ませることも可能である。
【0059】
また、陰極3に用いる材料としては、Li、Mg、Ca等の活性な金属とAg、Al、In等の金属との合金を使用でき、これらの金属層が積層した構造であってもよい。なお、陰極の厚みや材質を適宜選択することによって、用途に見合った有機電界発光素子を作製できる。
【0060】
また、保護層4は、封止膜として機能するものであり、有機電界発光素子全体を覆う構造とすることで、電荷注入効率や発光効率を向上できる。なお、その気密性が保たれれば、アルミニウム、金、クロム等の単金属又は合金など、適宜その材料を選択できる。
【0061】
上記した各有機電界発光素子に印加する電流は通常、直流であるが、パルス電流や交流を用いてもよい。電流値、電圧値は、素子を破壊しない範囲内であれば特に制限はないが、有機電界発光素子の消費電力や寿命を考慮すると、なるべく小さい電気エネルギーで効率良く発光させることが望ましい。
【0062】
次に、図7は、本発明の有機電界発光素子を用いた平面ディスプレイの構成例である。図示の如く、例えばフルカラーディスプレイの場合は、赤(R)、緑(G)及び青(B)の各3原色光をそれぞれ発光可能な3種類の有機物層5a、5b及び5cが、陽極2と陰極3との間に配されている。陽極2及び陰極3は、互いに交差するストライプ状に設けることができ、輝度信号回路14及びシフトレジスタ内蔵の制御回路15により選択されて、それぞれに信号電圧が印加され、これによって、選択された陽極2及び陰極3が交差する位置(画素)の有機物層が発光するように構成される。この駆動方法としては、単純マトリックス方式又はアクティブマトリックス方式等を用いることができる。
【0063】
図7は、1例として8×3RGB単純マトリックスの構造を例示するものである。正孔輸送層と、発光層及び電子輸送層のいずれか少なくとも一方とからなる積層体5、5C又は5Dを陰極3と陽極2の間に配置したものである(図5又は図6参照)。陰極と陽極は、ともにストライプ状にパターニングするとともに、互いにマトリックス状に直交させ、シフトレジスタ内蔵の制御回路15及び14により時系列的に信号電圧を印加し、その交叉位置で発光するように構成されたものである。かかる構成のEL素子は、文字・信号等のディスプレイとしては勿論、画像再生装置としても使用できる。また陰極3と陽極2のストライプ状パターンを赤(R)、緑(G)、青(B)の各色毎に配し、マルチカラーあるいはフルカラーの全固体型フラットパネルディスプレイを構成することが可能となる。
【0064】
【実施例】
以下に本発明の好ましい実施例について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
実施例1
5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフトール(A)からトリフルオロメチルスルホン酸とのエステル(B)を経てアリールボロン酸エステル(C)を合成し、これと9,10−ジブロモアントラセン(D)とを反応させ、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン(E)を合成した。
【0066】
<トリフルオロメチルスルホン酸エステル(B)の合成>
【化36】


【0067】
氷冷した200mLのピリジン中に化合物(1)20.0g(135mmol)(ランカスター社製)を溶解した後、攪拌しながら無水トリフルオロメチルスルホン酸 46.4g(164mmol)を添加し、窒素雰囲気下で3時間攪拌した。反応の終了を確認後、ピリジンを留去し、反応生成物を酢酸エチルで抽出し、水、続いて飽和食塩水にて洗い、残渣をフロリジール(和光純薬製、エチルベンゼン)にて精製して無色オイル状物質37.3gを得た。H NMR測定及びMS測定(EI(電子衝撃イオン化)法)により、目的物と同定した。収率は99%であった。
【0068】
H NMR(400 MHz, CDCl)δ(ppm):1.78−1.79(m, 4H), 2.76−2.75(m, 4H), 6.95−6.97 (m, 2H), 7.10 (d, 2H)
【0069】
<ホウ酸エステル(C)の合成>
【化37】


【0070】
300mLのジメチルスルホキシド中にトリフルオロスルホン酸エステル(B)15.0g(53.5mmol)、ビス(カテコラト)ジボロン(シグマアルドリッチ社製)15.0g(59.1mmol)を溶解した後、PdCl(dppf)・CHCl 2.19g(2.68mmol)、dppf 1.49g(2.68mmol)(dppfは、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセンの略。)、酢酸カリウム 15.0g(153mmol)を懸濁させ、窒素雰囲気下で3時間100℃にて加熱攪拌した。反応混合液を室温まで放冷し、不溶物をろ別して、ろ液をエーテルにて抽出し、飽和食塩水で2度洗浄し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(担体:Wako C−300、展開溶媒:エチルベンゼンとシクロヘキサンとを9:1の体積比で混合した混合溶媒)にて精製し、白色ロウ状物質14.1gを得た。H NMR測定及びMS測定(EI法)により、目的物と同定した。収率は96%であった。
【0071】
H NMR(400MHz, CDCl)δ(ppm):1.33(s, 12H), 1.79(m, 4H),
2.78(m, 4H), 7.07(d, 1H), 7.51−7.53(m, 2H)
【0072】
<9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン(E)の合成>
【化38】


【0073】
600mLのテトラヒドロフランおよび150mLの飽和炭酸水素ナトリウム溶液化合物中にアリールボロン酸エステル(C)16.8g(36.0mmol)と9,10−ジブロモアントラセン(D)17.54g(22.4mmol)を懸濁させ、窒素雰囲気下で攪拌しつつテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)Pd(PPh 触媒2.08g(1.80mmol)を添加して10時間環流した。続いて、反応混合液を室温まで放冷し、不溶物をろ別し、ろ液を濃縮することにより生じた沈殿をエチルベンゼンとエタノールから再結晶した後、昇華精製して白色粉末 6.67gを得た。H NMR測定及びMS測定(EI法)により、目的物と同定した。図2は、そのH NMRスペクトルである。収率は68%であった。
【0074】
H NMR(400MHz, CDCl)δ(ppm):1.93(m, 8H), 2.87(m, 4H), 2.95(m, 4H),
7.17−7.19(m,2H), 7.26−7.33(m, 5H), 7.75−7.78(m, 4H)
【0075】
実施例2
蛍光特性や熱特性等の測定から、合成された9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンの、有機電界発光素子の構成材料としての性能を検討した。
【0076】
9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンをジオキサンに溶解した溶液の可視吸収スペクトルの極大波長は399nm、蛍光スペクトルの極大波長は441nmであった。ジオキサン中での9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンの相対蛍光量子収率は0.99と非常に高かった。以上から、合成された9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンが、青色発光を示す有機発光材料として、9,10−ジフェニルアントラセンと同様、発光色の色純度や蛍光量子収率に優れた化合物であることが判明した。
【0077】
そこで、真空蒸着法によって10−4Pa以下の真空下で9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンをガラス基板上に蒸着し、100nmの厚さの薄膜を作製したところ、この薄膜は440nmに極大を有する蛍光スペクトルを与えた(図1)。この薄膜をアルゴン置換したグローブボックス中で放置したところ、1ヶ月間経過しても表面に白濁などの変化は見られなかった。
【0078】
また、DSC(示差走査熱量測定:differential scanning calorimetry)による熱分析の結果、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンでは、融点は389℃でガラス転移点が90℃に観測されるという結果を得た。
【0079】
比較例1
材料として9,10−ジフェニルアントラセンを用いた以外は実施例1と同様にして薄膜を作製したところ、グローブボックス中で1日経過したところで表面に白色粒状物質が生じた。これは、多結晶化が進行したためである。また、DSCによる熱分析の結果、9,10−ジフェニルアントラセンでは、融点は244℃でガラス転移点は観測されなかった。
【0080】
以上の比較例1との比較は、融点が低く、ガラス転移点の観測されない9,10−ジフェニルアントラセンに対して、フェニル基に縮合したシクロヘキセン環を導入することにより、熱特性が向上し、特にシクロヘキセン環による立体障害によって結晶性が低下し、ガラス転移点が観測できるような材料に材料特性が改善されたことを示している。この結果、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンでは、安定なアモルファス膜を蒸着によって形成することができた。
【0081】
実施例3
本実施例は、下記の構造式で示される4,4’−ビス[N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル]ビフェニルジアミン(α−NPD)を正孔輸送材料として用い、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンを発光材料として用い、下記の構造式で示されるトリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)を電子輸送材料として用いて、ダブルヘテロ構造透過型有機電界発光素子(図6に示した有機電界発光素子D参照。)を作製した例である。
【0082】
【化39】
α−NPD: Alq


【0083】
まず、真空蒸着装置中に、一方の表面に厚さ100nmのITO膜からなる陽極が形成された30mm×30mmのガラス基板を設置した。蒸着マスクとして複数の2.0mm×2.0mmの単位開口を有する金属マスクを基板に近接して配置し、真空蒸着法により10−4Pa以下の真空下でα−NPDを140nmの厚さに蒸着し、正孔輸送層を形成した。次に、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンを正孔輸送層に接してその上に40nmの厚さに蒸着し、発光層を形成した。更に、トリス(8−キノリノール)アルミニウム(Alq)を発光層に接してその上に50nmの厚さに蒸着し、電子輸送層を形成した。蒸着レートは各々0.2nm/秒であった。
【0084】
陰極材料としてはMgとAgの積層膜を採用し、蒸着により、蒸着レート1nm/秒として50nm(Mg膜)及び150nm(Ag膜)の厚さに形成し、図6に示した有機電界発光素子Dの如き有機電界発光素子を作製した。
【0085】
このように作製した有機電界発光素子に、窒素雰囲気下で順バイアス直流電圧を加えて発光特性を評価した。発光色は純青色であり、分光測定を行った結果、実施例2の図1と同様の発光スペクトルを得た。分光測定は、大塚電子社製のフォトダイオードアレイを検出器とした分光器を用いて行った。また、電圧−輝度測定を行ったところ、8Vで200cd/mの輝度の青色発光が得られた。
【0086】
この有機電界発光素子を作製後、窒素雰囲気下に1カ月間放置したが、素子劣化は観察されなかった。
【0087】
比較例2
発光材料として9,10−ジフェニルアントラセンを用いた以外は実施例3と同様にして、α−NPDを正孔輸送材料として用い、Alq3を電子輸送材料として用いるダブルヘテロ構造の透過型有機電界発光素子を作製した。
【0088】
まず、真空蒸着装置中に、一方の表面に厚さ100nmのITO膜からなる陽極が形成された30mm×30mmのガラス基板を設置した。蒸着マスクとして複数の2.0mm×2.0mmの単位開口を有する金属マスクを基板に近接して配置し、10−4Pa以下の真空下で、まずα−NPDを140nmの厚さに蒸着し、次に9,10−ジフェニルアントラセンを40nmの厚さに蒸着し、更にAlq3を50nmの厚さに蒸着した。蒸着レートは各々0.2nm/秒であった。
【0089】
陰極材料としてはMgとAgの積層膜を、蒸着レート1nm/秒で50nm(Mg膜)及び150nm(Ag膜)の厚さに形成し、有機電界発光素子を作製した。
【0090】
作製した有機電界発光素子に、窒素雰囲気下で順バイアス直流電圧を加えて発光特性を評価した。発光色は純青色であり、分光測定を行った結果、実施例3と比較して5nm短波長側にシフトした発光スペクトルを得た。しかしながら、電圧−輝度測定を行ったところ、8Vで青色発光を呈したが、絶縁破壊した。
【0091】
上記の違いは、安定なアモルファス膜を形成できない9,10−ジフェニルアントラセンに対して、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンでは、フェニル基に縮合したシクロヘキセン環を導入することにより、絶縁性に優れた、安定なアモルファス膜を形成できるように特性が改善された効果が現れたものである。
【0092】
実施例4
本実施例は、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンとクマリン6との共蒸着によって発光層を形成し、主な発光を生じる下記の構造式で示されるクマリン6のホストとして9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンを用いて有機電界発光素子を作製した例である。α−NPDを正孔輸送材料として用い、Alqを電子輸送材料として用いる点は、実施例3と同様である。
【0093】
【化40】
クマリン6:


【0094】
まず、真空蒸着装置中に、一方の表面に厚さ100nmのITO膜からなる陽極が形成された30mm×30mmのガラス基板を設置した。蒸着マスクとして複数の2.0mm×2.0mmの単位開口を有する金属マスクを基板に近接して配置し、10−4Pa以下の真空下で、まずα−NPDを140nmの厚さに蒸着し、正孔輸送層を形成した。次に、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンとクマリン6とを98:2の質量比で正孔輸送層に接してその上に40nmの厚さに共蒸着し、発光層を形成した。更に、Alq3を発光層に接してその上に50nmの厚さに蒸着し、電子輸送層を形成した。蒸着レートは各々0.2nm/秒であった。
【0095】
陰極材料としてはMgとAgの積層膜を、蒸着レート1nm/秒で50nm(Mg膜)及び150nm(Ag膜)の厚さに形成し、有機電界発光素子を作製した。
【0096】
このように作製した有機電界発光素子に、窒素雰囲気下で順バイアス直流電圧を加えて発光特性を評価した。発光色は緑色であり、分光測定を行った結果、480および510nmに極大を有する発光スペクトルを得た。分光測定は、大塚電子社製のフォトダイオードアレイを検出器とした分光器を用いた。また、電圧−輝度測定を行ったところ、8Vで13000cd/mの輝度の緑色発光が得られた。これは極めて高効率で高輝度な有機電界発光素子を作製できたことを示している。
【0097】
この有機電界発光素子を作製後、窒素雰囲気下に1カ月間放置したが、素子劣化は観察されなかった。
【0098】
このように、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンは、ゲスト色素に対する極めて有効なホスト材料でもあることが判明した。このような9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセンの作用は、この分子が分子内に電子輸送性能を担う部分と正孔輸送性能を担う部分との両方を併せ持つためと考えられる。
【0099】
以上に説明した本発明の実施の形態及び実施例は、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【0100】
【発明の作用効果】
本発明の9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物は、青色発光を示す有機発光材料として、9,10−ジフェニルアントラセンと同様、発光色の色純度や蛍光量子収率に優れた化合物である。一方、熱特性等は9,10−ジフェニルアントラセンと異なり、高い融点を有している上に、フェニル基に縮合したシクロヘキセン環が立体障害を形成するため結晶性が低下し、絶縁性に優れたアモルファス膜を蒸着等によって形成することができる。しかも、1段階のクロスカップリング反応で、収率よく低コストで合成できる化合物である。
【0101】
また、本発明の化合物は、分子内に電子輸送性能を担う部分と正孔輸送性能を担う部分との両方を併せ持つため、他の蛍光材料に対して有効なホスト材料でもある。
【0102】
本発明の化合物の製造方法によれば、用いられる反応はいずれも高収率の反応であるので、市販のフェノール類から短い反応経路により収率よく低コストで、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物を合成することができる。
【0103】
そして、前記クロスカップリング反応はホモカップリング体などの副生が少ないことや、前記ボロン酸は多くの化学反応に不活性なので前記アリールボロン酸に置換基を導入するのも比較的容易であること等の利点がある。
【0104】
更に、本発明の有機電界発光素子によれば、9,10−ビス(5,6,7,8−テトラヒドロ−2−ナフチル)アントラセン化合物の少なくとも1種が、有機物層に含有されているので、高輝度の青色発光が効率よく得られると共に、熱的にも電気的にも安定な有機電界発光素子が低コストで提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例2による化合物の蛍光スペクトルである。
【図2】本発明の実施例2による化合物のH NMRスペクトルである。
【図3】本発明の好ましい実施の形態に基づく有機電界発光素子の要部概略断面図である。
【図4】同、他の有機電界発光素子の要部概略断面図である。
【図5】同、他の有機電界発光素子の要部概略断面図である。
【図6】同、更に他の有機電界発光素子の要部概略断面図である。
【図7】同、有機電界発光素子を用いたフルカラーの平面ディスプレイの構成図である。
【符号の説明】
1…透明基板、1B…基板、2…透明電極(陽極)、2B…陽極、3…陰極、
4…保護膜、5、5C、5D…有機物層、5a…R(赤)用有機物層、
5b…G(緑)用有機物層、5c…B(青)用有機物層、6…正孔輸送層、
7…電子輸送層、8…電源、10…正孔輸送層、11…発光層、
12…電子輸送層、14…輝度信号回路、15…制御回路、
20…発光(発生した光)、A、B、C、D…有機電界発光素子
【出願人】 【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニー株式会社
【住所又は居所】東京都品川区北品川6丁目7番35号
【出願日】 平成15年6月23日(2003.6.23)
【代理人】 【識別番号】100076059
【弁理士】
【氏名又は名称】逢坂 宏

【公開番号】 特開2005−8600(P2005−8600A)
【公開日】 平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願番号】 特願2003−177423(P2003−177423)