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【発明の名称】 含フッ素カルボン酸誘導体、硬化性樹脂組成物およびその用途
【発明者】 【氏名】藤村 俊伸

【要約】 【課題】

【解決手段】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される含フッ素カルボン酸誘導体。
【化1】


(式中のR、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜18の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜18の炭化水素基であり、Yは酸素原子またはイオウ原子であり、p1およびq1は独立に1、2または3であり、r1は1〜6のいずれかの整数であり、s1は1〜18のいずれかの整数である。)
【請求項2】
下記式(2)で表される請求項1に記載の含フッ素カルボン酸誘導体。
【化2】


(式中のRは炭素数1〜18の炭化水素基であり、p2およびq2は独立に1または2であり、s2は1〜18のいずれかの整数である。)
【請求項3】
フッ素原子およびヒドロキシル基を有する含フッ素アルコール化合物と芳香族酸無水物とを反応させることにより得られる含フッ素芳香族カルボン酸化合物と、さらにビニルエーテル化合物またはビニルチオエーテル化合物とを反応させることにより得られる請求項1に記載の含フッ素カルボン酸誘導体。
【請求項4】
分子中にカルボキシル基と反応する反応性基を少なくとも2つ有する樹脂と請求項1〜3のいずれか1項に記載の含フッ素カルボン酸誘導体を含む硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
反応性基がエポキシ基である請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
反応性基がイソシアネート基である請求項4に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂成形物。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂成形物がフィルム形状である離型用フィルム。
【請求項9】
請求項7に記載の樹脂成形物がフィルム形状である防汚用フィルム。
【請求項10】
請求項7に記載の樹脂成形物がフィルム形状であるガスバリア用フィルム。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化剤や改質剤などとして利用される新規な含フッ素カルボン酸誘導体、該含フッ素カルボン酸誘導体を用いた硬化性樹脂組成物、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂に撥水、撥油性を付与するに際し、一般に有機含フッ素化合物を添加する手法がとられる。例えば、特許文献1では、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物等のノニオン系界面活性剤が、また、特許文献2では、パーフルオロアルキルアクリレート等の単量体を重合したフッ素化オレフィン系重合体が、撥水、撥油性機能を発現する有機含フッ素化合物として用いられ、これに加えて硬化性樹脂、無機充填剤等を配合した硬化性樹脂組成物とし、これを硬化させ樹脂成形物とする技術が開示されている。
しかしながら、これらの技術では、用いられている有機含フッ素化合物が、硬化性樹脂との相溶性に非常に乏しいことから、両者を均質に混合させることが困難であり、また、成形後においても有機含フッ素化合物や低分子含フッ素化合物が表面に遊離し易い状態にある。そのため、表面の有機含フッ素化合物や低分子含フッ素化合物が容易に脱落してしまうため、目的とする撥水性を持続させることが困難であった。
【0003】
さらに、有機含フッ素化合物として含フッ素系ランダム共重合体を用いた場合、フッ素量が多いと樹脂との相溶性が減少するため、前記したと同じような現象となり、撥水性を持続させることは困難である。また、樹脂との相溶性を上げるためにフッ素含量を少なくすると、含フッ素系ランダム共重合体の表面への配向性が乏しくなり、目的とする撥水性を確保することが困難となる。さらには、エポキシ基含有化合物等の硬化樹脂系においては、フッ素系の改質剤を添加することで硬化阻害を生じる例も多く報告されている。
一方で、ビニル(チオ)エーテル化合物によって潜在化された化合物を用いたフッ素系の硬化性樹脂組成物が開発され、樹脂組成物の安定性や硬化物の防汚性等の性能の向上が図られている。例えば、特許文献3、4においては、含フッ素カルボン酸を潜在化して用いる技術が、また特許文献5においてはさらに、この潜在化含フッ素カルボン酸を非潜在化不含フッ素カルボン酸と特定の比率で混合して用いる技術が開示されている。
これらの技術はいずれも、有機含フッ素化合物が硬化機能を有する硬化剤であり、含フッ素系α,β−不飽和単量体によってフッ素セグメントを硬化剤成分に導入することを特徴とする技術であり、このような分子設計による硬化剤では、エポキシ樹脂等の主剤をはじめとする硬化性樹脂組成物中の諸成分との相溶性が必ずしも完全ではなかった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−168198号公報
【特許文献2】特開平11−343350号公報
【特許文献3】特開平5−86298号公報
【特許文献4】特開2000−26545号公報
【特許文献5】特開2002−38037号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。
本発明の第1の目的は、有機溶剤に対する溶解性や各種樹脂との相溶性に優れ、配合した場合の製品の安定性がよく、エポキシ樹脂等のための硬化剤や改質剤として機能し、優れた特性を発揮することができる含フッ素カルボン酸誘導体を提供することにある。本発明の第2の目的は、該含フッ素カルボン酸誘導体を用いた硬化性樹脂組成物を提供することにある。本発明の第3の目的は、前記の硬化性樹脂組成物を硬化してなる成形物を提供することにある。本発明の第4の目的は、前記の成形物の用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ベンゼン環上に少なくとも1個の環状酸無水物基を有する化合物とフッ素アルコールを反応させると、容易に含フッ素カルボン酸が得られ、これをビニル(チオ)エーテルと反応させると新規な含フッ素カルボン酸誘導体が得られ、該含フッ素カルボン酸誘導体が、前記の課題に対する優れた物性を有することの知見を得て、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、次の〔1〕〜〔10〕である。
〔1〕下記式(1)で表される含フッ素カルボン酸誘導体。
【0007】
【化3】


【0008】
(式中のR、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜18の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜18の炭化水素基であり、Yは酸素原子またはイオウ原子であり、p1およびq1は独立に1、2または3であり、r1は1〜6のいずれかの整数であり、s1は1〜18のいずれかの整数である。)
〔2〕下記式(2)で表される前記〔1〕に記載の含フッ素カルボン酸誘導体。
【0009】
【化4】


【0010】
(式中のRは炭素数1〜18の炭化水素基であり、p2およびq2は独立に1または2であり、s2は1〜18のいずれかの整数である。)
【0011】
〔3〕フッ素原子およびヒドロキシル基を有する含フッ素アルコール化合物と芳香族酸無水物とを反応させることにより得られる含フッ素芳香族カルボン酸化合物と、ビニルエーテル化合物またはビニルチオエーテル化合物とを反応させることにより得られる前記〔1〕に記載の含フッ素カルボン酸誘導体。
【0012】
〔4〕分子中にカルボキシル基と反応する反応性基を少なくとも2つ有する樹脂と前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の含フッ素カルボン酸誘導体を含む硬化性樹脂組成物。
〔5〕反応性基がエポキシ基である前記〔4〕に記載の硬化性樹脂組成物。
〔6〕反応性基がイソシアネート基である前記〔4〕に記載の硬化性樹脂組成物。
〔7〕前記〔4〕〜〔6〕のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる樹脂成形物。
〔8〕前記〔7〕に記載の樹脂成形物がフィルム形状である離型用フィルム。
〔9〕前記〔7〕に記載の樹脂成形物がフィルム形状である防汚用フィルム。
〔10〕前記〔7〕に記載の樹脂成形物がフィルム形状であるガスバリア用フィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の含フッ素カルボン酸誘導体は、ベンゼン環に結合したエステル結合部位とヘミアセタールエステル結合部位を有しているため、含フッ素化合物でありながら、有機溶剤、特に非極性有機溶剤に対する溶解性に優れ、各種樹脂との相溶性に優れる。
また、含フッ素カルボン酸誘導体を用いた本発明の硬化性樹脂組成物は、含フッ素カルボン酸誘導体が、常温ではカルボキシル基と反応する基を有する樹脂と混合しても、カルボキシル基に基づく硬化反応が進行しないため、保存安定性に優れる。
さらに、本発明の硬化性樹脂組成物は、他の配合成分に対して、硬化反応時においても良好な相溶性や混和性を維持するので、硬化させることによってフッ素原子の特性による撥水性や撥油性を十分に発揮することの出来る成形物が得られ、離型用フィルム、防汚用フィルム、ガスバリア用フィルム等の産業上の用途に幅広く用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の新規な含フッ素カルボン酸誘導体は、下記式(1)で表されるものである。
【0015】
【化5】


【0016】
(式中のR、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜18の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜18の炭化水素基であり、Yは酸素原子またはイオウ原子であり、p1およびq1は独立に1、2または3であり、r1は1〜6のいずれかの整数であり、s1は1〜18のいずれかの整数である。)
【0017】
本発明の含フッ素カルボン酸誘導体の例としては、式(2)で表される構造のものが挙げられる。
【0018】
【化6】


【0019】
(式中のRは炭素数1〜18の炭化水素基であり、p2およびq2は独立に1または2であり、s2は1〜18のいずれかの整数である。)
【0020】
すなわち、本発明の含フッ素カルボン酸誘導体は、ベンゼン環上のカルボキシル基が少なくとも1個の含フッ素アルコール残基とエステル結合を形成し、かつ、少なくとも1個のビニルエーテル化合物またはビニルチオエーテル化合物に由来する残基とヘミアセタールエステル結合を形成する構造を有することを特徴とする。この構造によって、極性の高い含フッ素セグメントを有しながら、有機溶剤、特に非極性有機溶剤に対する溶解性に優れ、各種樹脂との相溶性に優れる。
【0021】
本発明の含フッ素カルボン酸誘導体は、
1)エステル化反応によりフッ素原子およびカルボキシル基を有する含フッ素カルボン酸化合物を得る反応段階と、
2)この含フッ素カルボン酸化合物と、ビニルエーテル化合物またはビニルチオエーテルとを付加反応させることにより目的の含フッ素カルボン酸誘導体を得る反応段階
の2つの反応段階を経ることにより得られる。
第1の反応段階であるエステル化反応の方法には、特に制限は無く、公知のエステル化反応の方法が適用できるが、酸無水物の開環ハーフエステル化反応による方法が、反応の選択性が高く、性能の低下を招く不純物が少なくなるので、好ましく挙げられる。
【0022】
より具体的には、含フッ素アルコールを芳香族酸無水物に付加する反応であり、2−(パーフルオロブチル)エタノールと無水トリメリット酸との反応を例とすると、下記式(3)の反応式で表される。
【0023】
【化7】


【0024】
この反応は、通常、80〜180℃の温度で行う。
前記の第1の反応段階で用いる含フッ素アルコールは下記式(4)で表されるものである。
【化8】


【0025】
式中のr3は1〜6の整数であり、s3は1〜18の整数である。
式中のr3は、入手性の点から、好ましくは1〜3の整数であり、s3は好ましくは2〜10の整数である。
式(4)で表される含フッ素アルコールとしては、具体的には、1H,1H−トリフルオロエタノール、1H,1H−ペンタフルオロプロパノール、6−(パーフルオロエチル)ヘキサノール、1H,1H−ヘプタフルオロブタノール、2−(パーフルオロブチル)エタノール、3−(パーフルオロブチル)プロパノール、6−(パーフルオロブチル)ヘキサノール、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール、3−(パーフルオロヘキシル)プロパノール、6−(パーフルオロヘキシル)ヘキサノール、2−(パーフルオロオクチル)エタノール、3−(パーフルオロオクチル)プロパノール、6−(パーフルオロオクチル)ヘキサノール、2−(パーフルオロデシル)エタノール、6−(パーフルオロ−1−メチルエチル)ヘキサノール、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エタノール、2−(パーフルオロ−5−メチルヘキシル)エタノール、2−(パーフルオロ−7−メチルオクチル)エタノール等が挙げられる。これらの中で生成物の溶解性の観点から、好ましくは、2−(パーフルオロブチル)エタノール、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール、2−(パーフルオロオクチル)エタノール等が挙げられる。
また、酸無水物としては、例えば、メリット酸の一、二、または三無水物;ピロメリット酸、メロファン酸の一または二無水物、トリメリット酸、プレーニト酸、フタル酸の無水物等を挙げることができる。これらの中で生成物の溶解性の観点から、好ましくは、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸二無水物が挙げられる。
【0026】
さらに、含フッ素アルコールと酸無水物との反応において、反応系を均一にし反応を容易にする目的で有機溶媒も使用してもよい。そのような有機溶媒としては、例えば、トルエン等の芳香族炭化水素;テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸メトキシブチル等のエステルおよびエーテルエステル類;メチルエチルケトン等のケトン類;トリエチルホスフェート等のリン酸エステル類;N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。これらの中で、より好ましくは、酢酸メトキシプロピル、酢酸メトキシブチル等が挙げられる。
【0027】
第2の反応段階であるブロック化反応において、第1の反応段階で得られた含フッ素カルボン酸化合物のカルボキシル基と、ビニルエーテル化合物またはビニルチオエーテルのビニル基とを反応させることによって、ヘミアセタールエステル基を有すると同時にフッ素原子を有する含フッ素カルボン酸誘導体が得られる。この反応は容易であり、含フッ素カルボン酸誘導体が収率良く得られる。この反応の例として、トリメリット酸無水物の2−(パーフルオロブチル)エタノールハーフエステル化物と、n−プロピルビニルエーテルとの反応式を次に示す。
【0028】
【化9】


【0029】
この反応は平衡反応であるため、含フッ素カルボン酸化合物に対してビニルエーテル化合物またはビニルチオエーテル化合物を多く使用すると反応が促進され、収率を向上させることができる。具体的には、含フッ素カルボン酸化合物のカルボキシル基に対するビニルエーテル化合物またはビニルチオエーテル化合物のビニル基のモル当量比[(ビニル基/カルボキシル基)のモル当量比]は、1/1〜2/1であることが望ましい。
【0030】
本発明で用いるビニルエーテル化合物およびビニルチオエーテル化合物は、下記式(6)で表される。
【0031】
【化10】


【0032】
(式中のR、RおよびRはそれぞれ水素原子または炭素数1〜18の炭化水素基であり、Rは炭素数1〜18の炭化水素基であって、Yは酸素原子またはイオウ原子である。)
【0033】
前記式(6)で表されるビニルエーテル化合物またはビニルチオエーテル化合物の具体例としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルモノビニルエーテルなどの脂肪族ビニルエーテル化合物、および前記の脂肪族ビニルエーテル化合物に対応する脂肪族ビニルチオエーテル化合物が挙げられる。
【0034】
本発明の含フッ素カルボン酸誘導体は、含フッ素カルボン酸化合物と前記ビニルエーテル化合物またはビニルチオエーテル化合物とを室温ないし150℃の範囲の温度で反応させることにより得ることができる。この際、反応を促進させる目的で酸触媒を使用することもできる。そのような触媒としては例えば、下記式(7)で表される酸性リン酸エステル化合物が挙げられる。
【0035】
【化11】


【0036】
(式中のRは炭素数3〜10のアルキル基、シクロアルキル基またはアリール基、kは1または2である。)
【0037】
式(7)で表される酸性リン酸エステル化合物としては、具体的に、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール等の第一級アルコール、およびイソプロパノール、2−ブタノール、2−ヘキサノール、2−オクタノール、シクロヘキサノールなどの第二級アルコールのリン酸モノエステルあるいはリン酸ジエステルが挙げられる。
【0038】
また、反応系を均一にして、反応を容易にする目的で有機溶媒も使用してもよい。そのような有機溶媒としては、第1の反応段階での使用において前記した有機溶媒が、同様に用いることができる。有機溶媒の配合量は、通常含フッ素カルボン酸化合物100重量部に対して0〜200重量部を使用する。
【0039】
本発明の含フッ素カルボン酸誘導体は、加熱または紫外線や電子線のような活性線の照射によりビニルエーテル化合物の脱離が生じ、元のカルボキシル基を再生することができる(脱ブロック化)。このカルボキシル基の再生反応は、酸触媒により促進される。そのような酸触媒としては、例えば、プロトン酸、ルイス酸、光酸触媒等が挙げられる。
【0040】
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記の含フッ素カルボン酸誘導体と、分子中にカルボキシル基と反応する反応性官能基を少なくとも2つ有する樹脂とを含有することを特徴とする。本発明の硬化性樹脂組成物は、前記の含フッ素カルボン酸誘導体を0.1〜75重量%、好ましくは0.5〜50重量%含有し、前記の反応性官能基を有する樹脂を25〜95重量%、好ましくは35〜90重量%含有する。
【0041】
本発明の硬化性樹脂組成物は、種々の反応性基を有する樹脂の硬化剤または改質剤として利用される。そのような反応性基としては、エポキシ基、シラノール基、アルコキシシラン基、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、シクロカーボネート基、ビニルエーテル基、ビニルチオエーテル基、アミノメチロール基、アルキル化アミノメチロール基、アセタール基、ケタール基などが挙げられる。また、そのような反応性基を有する樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレートなどの単独重合体または共重合体、ポリカルボン酸あるいはポリオールとエピクロルヒドリンとの反応により得られるポリグリシジル化合物などのエポキシ基含有化合物;式(8)
【0042】
(R10Si(OR114−n ・・・(8)
(式中のR10およびR11は、それぞれ炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基であり、nは0、1または2である。)
で表される化合物の縮合体、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリ−n−ブトキシシランなどのα,β−不飽和シラン化合物の単独重合体または共重合体、およびこれらの化合物の加水分解生成物などのシラノール基やアルコキシシラン基含有化合物;脂肪族ポリオール類、フェノール類、ポリアルキレンオキシグリコール類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのα,β−不飽和化合物の単独重合体または共重合体、およびこれらのポリオール類のε−カプロラクトン付加物などのヒドロキシル基含有化合物;脂肪族、芳香族のジアミノ化合物やポリアミノ化合物および前記ポリオールのシアノエチル化反応生成物を還元して得られるポリアミノ化合物などのアミノ基含有化合物;脂肪族、芳香族ポリイミノ化合物などのイミノ基含有化合物;p−フェニレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネート、メチレンビス(フェニルイソシアネート)、リジンメチルエステルジイソシアネート、ビス(イソシアネートエチル)フマレート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2−イソシアネートエチル−2,6−ジイソシアネートヘキサノエートおよびこれらのビュレット体やイソシアヌレート体、さらにはこれらのイソシアネート類と前記ポリオールとのアダクト化合物などのイソシアネート基含有化合物;前記イソシアネート基含有化合物のフェノール類、ラクタム類、活性メチレン類、アルコール類、酸アミド類、イミド類、アミン類、イミダゾール類、尿素類、イミン類、オキシム類によるブロック体などのブロック化イソシアネート基含有化合物;3−(メタ)アクリロイルオキシプロピレンカーボネートの単独重合体または共重合体、前記エポキシ基含有化合物と二酸化炭素との反応により得られる多価シクロカーボネート基含有化合物などのシクロカーボネート基含有化合物;前記多価ヒドロキシル基含有化合物とハロゲン化アルキルビニルエーテル類との反応によって得られる多価ビニルエーテル化合物、ヒドロキシアルキルビニルエーテル類と多価カルボキシル基含有化合物や前記ポリイソシアネート化合物との反応により得られるポリビニルエーテル化合物、ビニルオキシアルキル(メタ)アクリレート類とα,β−不飽和化合物との共重合体などのビニルエーテル化合物、およびこれらに対応するビニルチオエーテル化合物などのビニルエーテル基やビニルチオエーテル基含有化合物;メラミンホルムアルデヒド樹脂、グリコリルホルムアルデヒド樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂、アミノメチロール基やアルキル化アミノメチロール基含有α,β−不飽和化合物の単独重合体または共重合体などのアミノメチロール基やアルキル化アミノメチロール基含有化合物;多価ケトン、多価アルデヒド化合物、前記多価ビニルエーテル化合物などとアルコール類やオルソ酸エステル類との反応によって得られる多価アセタール化合物、およびこれらとポリオール化合物との縮合体、さらには前記ビニルオキシアルキル(メタ)アクリレートとアルコール類やオルソ酸エステルとの付加物の単独重合体または共重合体などのアセタール基やケタール基含有化合物などが挙げられる。
これらの中で好ましくは、エポキシ基、オキセタン基、イソシアネート基を有する樹脂化合物が挙げられる。さらに好ましくは、エポキシ基、イソシアネート基を有する樹脂化合物が挙げられる。
【0043】
本発明の硬化性樹脂組成物において、前記の分子中にカルボキシル基と反応する反応性基を少なくとも2つ有する樹脂と、本発明の含フッ素カルボン酸誘導体との配合量は、前記の反応性基がエポキシ基である場合、脱ブロック後に生じるカルボキシル基(−COOH基)とエポキシ基(EP基)とのモル当量比(−COOH基/EP基)が0.5/1〜1/1になるよう配合することが好ましく、より好ましい個数比は0.6/1〜0.9/1である。カルボキシル基とエポキシ基とのモル当量比が0.5/1以下であると、硬化後にエポキシ基が残存するので良くない。また、カルボキシル基とエポキシ基とのモル当量比が1/1以上であると、カルボキシル基が残存するので良くない。
本発明の硬化性樹脂組成物において、前記の分子中にカルボキシル基と反応する反応性基を少なくとも2つ有する樹脂と、本発明の含フッ素カルボン酸誘導体との配合量は、前記の反応性基がイソシアネート基(−NCO基)である場合、脱ブロック後に生じるカルボキシル基とイソシアネート基との個数比(−COOH基/−NCO基)が0.2/1〜2/1になるよう配合することが好ましく、より好ましい個数比は0.5/1〜1.5/1である。カルボキシル基とイソシアネート基との個数比が0.2/1以下であると、硬化後にイソシアネート基が残存するので良くない。また、カルボキシル基とイソシアネート基との個数比が2/1以上であると、カルボキシル基が残存するので良くない。イソシアネート基は加熱によりイソシアネート基同士が反応する上に、イソシアネート基1つに対し、カルボキシル基2つ反応することが可能であるために、エポキシ基に比べ適切な配合比の幅が広くなるからである。
本発明の硬化性樹脂組成物において、前記の分子中にカルボキシル基と反応する反応性基を少なくとも2つ有する樹脂と、本発明の含フッ素カルボン酸誘導体との配合量は、前記の反応性基がイソシアネート基以外である場合、脱ブロック後に生じるカルボキシル基と反応性基とのモル当量比は、反応性基がエポキシ基である前記の場合と同様にすればよい。
ただし、本発明の硬化性樹脂組成物において、本発明の含フッ素カルボン酸誘導体より生じるカルボキシル基以外に、該反応性基と反応する官能基が樹脂中に存在する場合は、該官能基によって該反応性基が消費されるので、該官能基のモル当量を加味して配合する必要がある。
【0044】
本発明の硬化性樹脂組成物は、分子中にカルボキシル基と反応する反応性基を少なくとも2つ有する化合物と、前記の含フッ素カルボン酸誘導体とを必須成分として含むものである。反応性基としては、硬化剤としての説明で述べた樹脂の有する反応性基が挙げられる。カルボキシル基と反応する反応性基を少なくとも2つ有する化合物としては、例えばエポキシ基含有化合物やイソシアネート基含有化合物等が挙げられる。この化合物のうち少なくとも2つの反応性基を有する樹脂は、含フッ素カルボン酸誘導体が脱ブロック化した際に生じる含フッ素カルボン酸化合物により架橋構造を形成する。
【0045】
本発明の硬化性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じてさらに他の硬化剤や充填材、顔料、着色剤、可塑剤、触媒、溶剤、添加剤等を配合してもよい。加えて使用する他の硬化剤としては、酸無水物、ポリアミン系化合物、フェノール系化合物等、慣用されている硬化剤を用いることができる。
また、本発明の硬化性樹脂組成物は、その粘度を調整したり、浸透性を増したりするために、溶剤に希釈して使用してもよい。
【0046】
本発明の硬化性樹脂組成物は、前記のように、本発明の含フッ素カルボン酸誘導体を含み、このカルボン酸は、ビニル(チオ)エーテルでブロックされているので、加熱等でこのブロックが解離し、生じたカルボン酸と、カルボキシル基と反応する基との反応により硬化(成形)させることができる。この際の温度としては、通常、室温〜250℃である。
樹脂成形物の形態は、繊維、不織布、フィルム、シート、ブロック等いずれでもよい。また、樹脂組成物を繊維、不織布または織布の形態の無機または有機強化材料に含浸させた後に硬化成形して樹脂成形物を得るようにしてもよく、また、各種基材の表面に塗布した後に硬化させてもよい。より好ましくは、フィルム形状が挙げられる。
【0047】
本発明の樹脂成形物は、フッ素原子が硬化反応により化学結合で樹脂に導入されているため、撥水性や撥油性等の性能を有するだけでなく、摩擦等の機械的応力に耐性があり、これらの性能を長期に渡って維持することができる。したがって、機械的耐久性の要求されるフィルム形態での用途、すなわち、離型用フィルム、防汚用フィルム、ガスバリア用フィルム等の用途に好適である。これらの用途に関しては、硬化性樹脂組成物を各種基材に塗布した後硬化させ、樹脂成形物とする使用方法も可能である。
【0048】
本発明の含フッ素カルボン酸誘導体と、分子中にカルボキシル基と反応する反応性基を有する樹脂とを主成分として配合してなる硬化性樹脂組成物が得られ、その硬化性樹脂組成物は含フッ素カルボン酸誘導体が有する特性を発揮することができる。また、その硬化性樹脂組成物を硬化させた樹脂成形物は、該フッ素基に由来する物性や配合する樹脂が有する特性を発揮することができる。
さらには、本発明の含フッ素カルボン酸誘導体と、分子中にカルボキシル基と反応する反応性基を有する樹脂とを含む硬化性樹脂組成物を硬化させることによって、反応性基を有する樹脂が本来有する特性を損なうことなく、高い撥水性や撥油性をも有する樹脂成形物を得ることができる。特に樹脂成形物の形状をフィルム形状とすることにより、離型用フィルム、防汚用フィルム、ガスバリア用フィルムの好適な材料となる。
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化して、本発明の樹脂成形物とする場合、用途に応じて、樹脂成形物中のフッ素含量を目安にして、硬化性樹脂組成物中に配合する含フッ素カルボン酸誘導体の配合量を最適量配合することが望ましい。すなわち、樹脂成形物中のフッ素含量が、離型用では、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは0.5〜20重量%、防汚用では、好ましくは1〜40重量%、より好ましくは5〜30重量%、ガスバリア用では、好ましくは5〜30重量%、より好ましくは10〜20重量%になるように配合するとよい。
【実施例】
【0049】
次に、実施例によって前記実施形態をさらに具体的に説明する。
以下に本文および表中で用いた略号の意味を示す。
(CHOH: 2−(パーフルオロブチル)エタノール
17(CHOH: 2−(パーフルオロオクチル)エタノール
TMAn: トリメリット酸無水物(1,3,4−ベンゼントリカルボン酸−3,4−無水物)
PMAn: ピロメリット酸二無水物(1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物)
PMAc: 酢酸メトキシプロピル
MEK: メチルエチルケトン
AcN: アセトニトリル
Ep828: ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828」;商品名)
YDPN638: フェノールノボラック型エポキシ樹脂(東都化成(株)製「エポトートYDPN638」;商品名)
YDCN701: クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(東都化成(株)製「エポトートYDCN701」;商品名)
GT401: エポキシ化ブタンテトラカルボン酸テトラキス−(3−シクロヘキセニルメチル)修飾ε−カプロラクトン(ダイセル化学工業(株)製脂環式エポキシ樹脂「エポリードGT401」;商品名)
E1361: 末端トリレンジイソシアネート型プレポリマー(住化バイエルウレタン(株)製「デスモジュールE1361」;商品名、NCO含有量6.7%)
【0050】
〈各種の含フッ素改質剤〉
FC1: アクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂−フッ素系樹脂ブロックコポリマー(日本油脂(株)製「モディパーF600」;商品名)
FC2: アクリル系樹脂およびメタクリル系樹脂−フッ素系樹脂ブロックコポリマー(日本油脂(株)製「モディパーF500」;商品名)
FC3: パーフルオロアルキル基含有オリゴマー(大日本インキ化学工業(株)製フッ素系樹脂内添型表面改質剤「ディフェンサMCF−350SF」;商品名)
FC4: パーフルオロアルキル基含有オリゴマー(大日本インキ化学工業(株)製フッ素系界面活性ポリマー「メガファックR−8」;商品名)
FC5: ポリオキシエチレンパーフルオロアルキルエチルエーテル(大日本インキ化学工業(株)製フッ素系界面活性剤「メガファックF443」;商品名)
FC6: 含フッ素ブロック化ポリマー:カルボキシル基を有するフッ素樹脂(クロロトリフルオロエチレン/エチルビニルエーテル/シクロヘキシルビニルエーテル/クロトン酸=50/15/20/15(モル%)の共重合体)のカルボキシル基と同量のイソブチルビニルエーテルで化学的にブロックした樹脂のキシレン溶液(固形分60%、樹脂成分のブロック化カルボキシル基当量630g/mol、数平均分子量2800)
nPr−VE: n−プロピルビニルエーテル
P−TA: トリメリット酸のn‐プロピルビニルエーテルによるブロック化物
LC−1 :ルイス酸系酸触媒(日本油脂(株)製「ノフキュアーLC−1」;商品名)
【0051】
以下に本実施例で用いた測定方法、評価方法および判定基準を示す。
1.〈酸当量の測定〉
JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法の方法」の加水分解酸価測定により測定した。
2.〈純度の算出〉
液体クロマトグラフィー(以下LCと略す)により定量した。
LCの測定条件;
機種; SC−8010(東ソー(株)製)
カラム; イナートシルODS−3(ジーエルサイエンス(株)製)
溶離液; メタノール。
3.〈酸価測定〉
JIS K 0070:1992「化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法の方法」の方法に準じて、テトラヒドロフラン(THF)溶液に樹脂を溶解させて測定を行った。
4.〈IR測定〉
機種; FT/IR−600(日本分光(株)製)
セル; シリコーン・ウエハー上に展開した
分解; 4cm−1
積算回数; 16回
含フッ素カルボン酸化合物は、合成例1〜4でPMAc溶液として得られたものを室温冷却で晶析し、PMAcで洗浄精製を行った後、測定した。
5.〈H−NMRの測定〉
機種; 400MHz−Advance400(日本ブルカー(株)製)
条件; 積算回数16回、溶媒重水素メタノール
【0052】
6.〈溶解性試験〉
バイヤル瓶に試料1重量部と各種溶媒または樹脂4重量部を加え、ローターを用いて室温で1時間攪拌した。攪拌後、目視にて溶解性を確認した。
○: 不溶物が確認されない
×: 溶液が白濁している、あるいは明らかな不溶物が確認できる
7.〈保存安定性試験〉
バイヤル瓶にそれぞれの試料1重量部とエポキシ基含有化合物(YDPN638;フェノールノボラック型エポキシ樹脂:東都化成(株)製、商品名)1重量部を加え、ローターを用いて室温で1時間攪拌した。攪拌直後と30日間室温静置で保存後、粘度計により動粘度を測定し、粘度の増加により保存安定性を評価した。
機種; CBCマテリアルズ(株)製振動式粘度計ビスコメイトVM−1G(商品名)
測定温度; 25℃
○: 保存後の粘度値が初期粘度値の2倍未満
×: 保存後の粘度値が初期粘度値の2倍以上
8.〈製膜性評価〉
ブリキ板(JIS G3303(SPTE):日本テストパネル大阪(株)製)にバーコーターで試料溶液を塗布し、熱風オーブンで加熱して製膜した後、加熱硬化させた。なお、硬化剤としてトリメリット酸をビニルエーテルでブロック化したトリメリット酸誘導体を用いた。製膜性の評価を行うとともに、得られた硬化膜を試験片として各種性能の評価に供した。
○: 硬化膜が透明
×: 硬化膜が不透明
9.〈アセトンワイプ試験〉
アセトンに浸したキムワイプで試験片を30往復ワイピングし、傷が生じるかどうかを目視にて観察した。
○: 変化が無い
×: 白化
10.〈静的接触角測定〉
試験片に対する水の接触角を測定した。
機種; KYOWA CONTACT ANGLE METER(協和界面科学(株)製)
11.〈粘着テープ剥離強度測定〉
JIS K 6854−1:1999「接着剤 ― はく離接着強さ試験方法―第1部:90度はく離」により、測定を行った。ただし、解析方法は凸値の平均剥離強度を採用した。
機種; オートグラフAG−1/トランペジウム((株)島津製作所製、商品名)
粘着テープ; CT405A−12(ニチバン(株)製、セロテープ(登録商標))
12.〈防汚性試験〉
ホワイトボードマーカーArtline(;商品名、シャチハタ(株)製)で試験片に文字を書き一日放置した後にキムワイプで拭き取りインクの残り方を目視にて確認した。
○: 目視にてインクの残りが観測されない
×: 明らかなインクの残りが観測される
13.〈ガス透過試験〉
試験片を、121℃、100RH%雰囲気下に100時間放置し、水蒸気の透過によるブリキ板の劣化を目視にて観測した。
○: 目視にてブリキ板表面に異常が観測されない
×: 明らかな異常が観測される
14.〈耐久性の評価〉
得られた硬化膜をヘキサンに浸したキムワイプで100往復ワイピングした後、各性能試験を行い、性能の持続を評価した。
【0053】
合成例1〈含フッ素芳香族カルボン酸化合物の合成例〉
温度計、撹拌装置、乾留管、窒素ガス吹き込み管を付したフラスコに溶剤として酢酸メトキシプロピル(PMAc)を36.7重量部、原料酸無水物として、トリメリット酸無水物を18.4重量部仕込み、さらにフッ素アルコールとして、2−(パーフルオロオクチル)エタノールを25.2重量部を加えて(酸/フッ素アルコールのモル比=1/1)、温度120℃で6時間反応して含フッ素芳香族カルボン酸化合物(FA1)のPMAc溶液を得た(純分として42.3重量部(収率97%)。仕込み組成、反応条件、結果を表1に示す。
【0054】
合成例2〜4〈含フッ素芳香族カルボン酸化合物の合成〉
合成例1で用いた原料含フッ素アルコールとしての2−(パーフルオロオクチル)エタノール、原料酸無水物としてのトリメリット酸無水物とさらに反応条件を表1に示したように変更した以外は、合成例1と同様にして反応させて含フッ素芳香族カルボン酸化合物(FA2〜4)のPMAc溶液を得た。この反応の反応率を同じく表1に示す。
【0055】
【表1】


【0056】
なお、反応率は、反応物と生成物の理論式量に基づき、前記の〈酸当量の測定〉による加水分解酸価と〈酸価測定〉による見かけの酸価との差異から算出した。
【0057】
〈含フッ素芳香族カルボン酸誘導体の合成例〉
実施例1
温度計、撹拌装置、窒素ガス吹き込み管を付した4つ口フラスコ中に、合成例1で得られた含フッ素芳香族カルボン酸化合物1のPMAc溶液 80.3重量部とn−プロピルビニルエーテル 19.7重量部とを仕込み、温度70℃で5時間反応させた。得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体(FB1)のPMAc溶液の結果を表2に示す。
実施例2〜4
実施例1で用いた原料合成例1の含フッ素芳香族カルボン酸化合物PMAc溶液の種類と、n−プロピルビニルエーテルとを表2に示す条件に変更した以外は実施例1と同様にして反応させた。得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体(FB2〜4)のPMAc溶液の結果を同じく表2に示す。
【0058】
原料の含フッ素アルコールのIRチャートを図1(2−(パーフルオロブチル)エタノール)、図2(2−(パーフルオロオクチル)エタノール)に、また、原料の酸無水物のIRチャートを図3(トリメリット酸無水物)、図4(ピロメリット酸二無水物)に、合成例1〜4で得られた含フッ素芳香族カルボン酸化合物のIRチャートを、図5、6、7、8に示す。またさらに実施例1〜4で得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体のIRチャートを、図9、10、11、12に示す。
図1、図2において、約3350cm−1に含フッ素アルコールの水酸基由来の吸収が認められ、また図3、4において、原料酸無水物の酸無水物由来の吸収が1780〜1870cm−1に認められる。合成例1〜4の反応操作後は、フッ素アルコールの水酸基由来の吸収と酸無水物由来の吸収の双方が消失し、約2500〜3000cm−1にブロードなカルボキシル基由来の吸収が新たに現れたことから、目的物の含フッ素芳香族カルボン酸化合物が得られていることがわかる。
また、実施例1〜4で得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体のIRチャートより、前記のカルボキシル基由来の吸収が消失し、エステル基由来の吸収となったことから、目的物の含フッ素芳香族カルボン酸誘導体が得られていることがわかる。
原料の含フッ素アルコールのH−NMRチャートより、2−(パーフルオロブチル)エタノールは2.38ppm、3.86ppmにピークが観測された。同じく2−(パーフルオロオクチル)エタノールは2.39ppm、3.86ppmに、また、原料のトリメリット酸無水物は7.84〜8.54ppmにピークが観測された。
合成例1、2で得られた含フッ素芳香族カルボン酸のPMAc溶液を室温に冷却後ろ過し、さらに残渣をPMAcで洗浄した含フッ素芳香族カルボン酸に関してもH−NMR測定を行った。合成例1で得られる含フッ素芳香族カルボン酸は、2.74ppm、4.62ppm、7.77〜8.46ppmに、合成例2で得られる含フッ素芳香族カルボン酸は2.71ppm、4.62ppm、7.83〜8.38ppmにピークが観測された。原料である含フッ素アルコールはPMAcに溶解するため、残渣に含フッ素アルコール由来のピークが観測されたことはトリメリット酸無水物と反応していることを意味する。さらには、含フッ素アルコール由来のピークが低磁場シフトしていることから、エステル結合を生じていることがわかり、H−NMR測定からも目的とする含フッ素芳香族カルボン酸の構造が確認された。
合成例1、2で得られた含フッ素芳香族カルボン酸化合物(それぞれ、FA1、FA2)のPMAc溶液を室温に冷却後ろ過し、さらに残渣をPMAcで洗浄した含フッ素芳香族カルボン酸とモル比1.5倍量のn-プロピルビニルエーテルとを反応させた後、n−プロピルビニルエーテルに関してもH−NMR測定を行った。その結果を図13、14に示す。実施例3で得られる含フッ素芳香族カルボン酸誘導体(FB3)は、0.91〜1.60ppm、2.63〜2.82ppm、3.37ppm、3.54ppm、4.60ppm、7.72〜8.48ppmに、実施例4で得られる含フッ素芳香族カルボン酸誘導体(FB4)は、0.88〜1.61ppm、2.61〜2.80ppm、3.35ppm、3.55ppm、4.64ppm、7.71〜8.48ppmにピークが観測された。これらのピークはそれぞれ図13、14中の構造式に示される水素原子に帰属される。なお、実施例1〜4においては、含フッ素アルコールと酸無水物の反応において、エステル化されうるカルボン酸の位置が異なるものが2種存在することから、2種の異性体がそれぞれ存在する混合物であり、H−NMR測定においては、両者のシフト値に差異が生じないため、シフトの帰属は片方の構造に代表させて記載した。
以上のIR測定とH−NMR測定の結果から、得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体FB1〜FB4がそれぞれ下記の構造を有することが確認された。
【0059】
【化12】


【0060】
【化13】


【0061】
【化14】


【0062】
【化15】


【0063】
実施例5〜8;相溶性試験、溶解性試験、保存安定性について
実施例1〜4で得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体の相溶性を確認した。結果を表3に示す。また、同様に各種のフッ素系改質剤についての溶解性試験結果も併せて表3に示す。
得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体の保存安定性を確認した。結果を表4に示す。
【0064】
【表2】


【0065】
*1:合成例1〜4で得られた含フッ素芳香族カルボン酸−PMAc(酢酸メトキシプロピル)溶液をそのまま配合し、表中にはそれぞれの量を純分として記載した。
【0066】
【表3】


【0067】
【表4】


【0068】
実施例9〜15、比較例7〜12
各材料を配合し硬化膜を作製し、アセトンワイプ試験、水に対する静的接触角測定、粘着テープ剥離強度測定、防汚性試験、ガス透過試験の各性能評価を行った。配合組成および硬化条件を、実施例9〜15については表5に、比較例7〜12については表6に示す。また、これら実施例および比較例の結果を合わせて表7に示す。
【0069】
【表5】


【0070】
【表6】


【0071】
【表7】


【0072】
表7に示した結果より、実施例9〜15で用いた本発明の含フッ素芳香族カルボン酸誘導体は、各種溶剤および樹脂との相溶性に優れ、樹脂と混合後の保存安定性も優れることがわかる。また、本発明の含フッ素芳香族カルボン酸誘導体を用いると、透明なフッ素含有硬化膜が得られる上に、ヘキサンに浸したキムワイプでワイピングした後も、硬化膜がフッ素原子由来の性能を損なっていないことがわかる。
一方、比較例7、8、9、12の結果からポリマータイプのフッ素化剤は各種樹脂との相溶性が悪く、硬化膜の外観を損なう上に、防汚性やガスバリア性等の性能を十分に付与できないことがわかる。また、比較例10、11の結果から、フッ素系界面活性剤は表面に偏析しやすく、初期の防汚性等の性能付与に優れるが、溶剤を含んだキムワイプでワイプすると性能が著しく低下する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、合成例1、3で用いた原料含フッ素アルコールのIRチャートである。
【図2】図2は、合成例2、4で用いた原料含フッ素アルコールのIRチャートである。
【図3】図3は、合成例1、2で用いた原料芳香族カルボン酸無水物(TMAn)のIRチャートである。
【図4】図4は、合成例3,4で用いた原料芳香族カルボン酸無水物(PMAn)のIRチャートである。
【図5】図5は、合成例1で得られた含フッ素芳香族カルボン酸化合物(FA1)のIRチャートである。
【図6】図6は、合成例2で得られた含フッ素芳香族カルボン酸化合物(FA2)のIRチャートである。
【図7】図7は、合成例3で得られた含フッ素芳香族カルボン酸化合物(FA3)のIRチャートである。
【図8】図8は、合成例4で得られた含フッ素芳香族カルボン酸化合物(FA4)のIRチャートである。
【図9】図9は、実施例1で得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体(FB1)のIRチャートである。
【図10】図10は、実施例2で得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体(FB2)のIRチャートである。
【図11】図11は、実施例3で得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体(FB3)のIRチャートである。
【図12】図12は、実施例4で得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体(FB4)のIRチャートである。
【図13】図13は、実施例3で得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体(FB3)のH−NMRチャートである。
【図14】図14は、実施例4で得られた含フッ素芳香族カルボン酸誘導体(FB4)のH−NMRチャートである。
【出願人】 【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日本油脂株式会社
【出願日】 平成16年5月19日(2004.5.19)
【代理人】
【公開番号】 特開2005−2105(P2005−2105A)
【公開日】 平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願番号】 特願2004−148943(P2004−148943)