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【発明の名称】 ダイマー酸の製造方法
【発明者】 【氏名】矢野 省一
【住所又は居所】兵庫県加古川市野口町水足671番地の4 ハリマ化成株式会社内

【氏名】太田 康夫
【住所又は居所】兵庫県加古川市野口町水足671番地の4 ハリマ化成株式会社内

【氏名】小西 進夫
【住所又は居所】兵庫県加古川市野口町水足671番地の4 ハリマ化成株式会社内

【要約】 【課題】リノール酸を多く含み、ヨウ素価が高い植物由来脂肪酸類を出発原料とした二量化反応であっても、非環状ダイマー酸を効率良く製造する。

【解決手段】ヨウ素価120〜145の植物由来脂肪酸類を段階的に二量化する方法であり、当該植物由来脂肪酸類を粘土触媒とリチウム塩と水の存在下で、反応温度200〜245℃、反応時間1時間以内で二量化させた後、蒸留によりオレイン酸等のオクタデセン酸を主成分とするモノマー酸を分離する第1工程と、第1工程で得られたモノマー酸を粘土触媒とリチウム塩と水の存在下で、反応温度230〜245℃で二量化させる第2工程とからなり、この第1〜2工程により、リノール酸を構成成分とする非環状ダイマー酸と、オレイン酸を構成成分とする非環状ダイマー酸を選択的に作り分けるダイマー酸の製造方法である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素価120〜145の植物由来脂肪酸類を段階的に二量化する方法であって、
当該植物由来脂肪酸類を粘土触媒とリチウム塩と水の存在下で、反応温度200〜245℃、反応時間1時間以内で二量化させた後、蒸留によりオレイン酸等のオクタデセン酸を主成分とするモノマー酸を分離する第1工程と、
上記第1工程で得られたモノマー酸を粘土触媒とリチウム塩と水の存在下で、反応温度230〜245℃で二量化させる第2工程とからなり、
上記第1〜2工程により、リノール酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸と、オレイン酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸を選択的に作り分けることを特徴とするダイマー酸の製造方法。
【請求項2】
植物由来脂肪酸類が、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、綿実油脂肪酸及び米糠油脂肪酸の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のダイマー酸の製造方法。
【請求項3】
第1工程及び/又は第2工程において、第1工程では植物由来脂肪酸類に対して、また、第2工程ではモノマー酸に対して、粘土触媒3〜10重量%、リチウム塩0.1〜1重量%、水1〜3重量%の存在下で二量化させることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイマー酸の製造方法。
【請求項4】
第1工程及び/又は第2工程で得られたダイマー酸をさらに蒸留してトリマー酸を除去し、ダイマー酸分としてGPC面積%で95%以上に精製することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のダイマー酸の製造方法。
【請求項5】
請求項4の第1工程の精製ダイマー酸の粘度が3500〜5000mPa・s/25℃であり、請求項4の第2工程の精製ダイマー酸の粘度が4000〜5500mPa・s/25℃であることを特徴とするダイマー酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素価の高い植物由来脂肪酸類を二量化させてダイマー酸を製造する方法に関し、反応条件を差異化した段階的な二量化反応により、リノール酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸とオレイン酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸を選択的に作り分けて、低粘度、粘度安定性並びに色調安定性に優れ、広範な用途に展開可能なダイマー酸を製造できるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ダイマー酸を製造する場合、牛脂、或はパーム油脂肪酸などのようにモノ不飽和脂肪酸の含有量が多い(ヨウ素価が比較的低い)出発原料を用いると、非環状ダイマー酸が比較的生成し易く、逆に、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸などのようにポリ不飽和脂肪酸の含有量が多い(ヨウ素価が高い)ものでは、環状ダイマー酸が生成し易いことが知られている。
例えば、Journal of The American Oil Chemists′ Society 51,522−527(D.H.McMahon,E.P.Crowell;1974)(以下、参考論文という)には、異なる種類の出発原料を用いて、水酸化リチウム1当量を含むクレイ触媒4%の存在下、250℃、5.6kg/cm2の水蒸気圧下で4時間の条件にて重合した場合に得られるダイマー酸生成物の組成が報告され、それによると、
(1)出発原料がオレイン酸(78%純度品)では、生成物の組成は非環状ダイマー酸40%、単環状ダイマー酸50%、芳香環ダイマー酸及び多環状ダイマー酸が各5%の割合となり、
(2)リノール酸では、非環状ダイマー酸5%、単環状ダイマー酸30%、芳香環ダイマー酸25%、多環状ダイマー酸40%が生成し、
(3)オレイン酸52%とリノール酸45%を含むトール油脂肪酸では、非環状ダイマー酸15%、単環状ダイマー酸50%、芳香環ダイマー酸20%、多環状ダイマー酸15%が生成することから、
上述の一般的な傾向に示す通り、ポリ不飽和脂肪酸の含有量が多い(ヨウ素価が高い)出発原料では、非環状ダイマー酸は生成し難く、環状ダイマー酸が多く生成することが裏付けられる。
【0003】
このように、トール油脂肪酸を初めとして、大豆油脂肪酸、綿実油脂肪酸、或は米糠油脂肪酸などの植物由来脂肪酸類は、オレイン酸の外にリノール酸を多く含み、ほぼ130以上の高いヨウ素価を有するため、ベントナイトなどの粘土触媒の存在下、200〜280℃の加熱加圧下で二量化する標準的な従来法をそのまま適用すると、下記に示す単環状ダイマー酸(A)、芳香環状ダイマー酸(B)、或は二環状ダイマー酸(C)などの環状ダイマー酸が多く生成してしまう。
【化1】


【化2】


【化3】


【0004】
上記環状ダイマーを多く含むダイマー酸は、一般に高粘度であるために用途が制限され、特に、芳香環状ダイマーを含むダイマー酸においては、用途開発が容易でない。
また、環状ダイマー酸は立体構造上、水素添加が困難であり、強いて水添しようとすれば多量の貴金属触媒と、過酷な反応条件が必要になる。
【0005】
前述の標準的なダイマー酸の製造方法に対して、特許文献1には、綿実油、大豆油、獣脂、トール油などから誘導された脂肪酸供給原料(段落18)を、ベントナイトなどの重合触媒の存在下で(段落21)、175℃以上の温度、例えば175〜250℃、好ましくは200〜225℃の高温で、2時間未満から5時間までの反応温度で重合し(段落12)、この重合脂肪酸生成物から未重合脂肪酸を分離する方法が記載されている(請求項1、5、8)。
モノ不飽和脂肪酸の外に、通常いくつかのポリ不飽和脂肪酸が含まれる上記脂肪酸供給原料を二量化すると、ポリ不飽和脂肪酸が反応の初めに重合し、重合脂肪酸の部分として除去されるが(段落20)、この重合脂肪酸生成物を反応混合物から分離すると、多くのモノマー種が残るため、所望により、これらをさらに重合させても良いことが記載されている(段落17)。
具体的には、実施例2〜3に、第一に、オレイン酸(C18:1)を67.2%の割合で含む(第I表)動物由来の混合脂肪酸をモンモリロナイトクレーの存在下で、230℃、2分間二量化反応させて重合生成物を得た後、第二に、この生成物の蒸留物(オレイン酸(C18:1)を66.5%含む;第I表)をモンモリロナイト触媒の存在下で、245℃、3時間二量化反応させて、8.0%の芳香族種の二量体と70.5%のリニア状及び環状の二量体を含む生成物(第II表)を得る2段階の重合方法が記載されている(段落34〜39)。
【0006】
一方、特許文献2には、
(1)トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸(請求項3〜4)などの重合可能な脂肪酸の混合物を、ベントナイト、モンモリロナイトなどの粘土触媒の存在下で、180〜270℃の温度で、40〜60重量%が重合されるまで加熱した後、
(2)重合混合物からモノマー酸留分を分離し、このものを上記と同じ反応条件で重合させる2段階の重合法が記載されている(請求項1、第2頁左下欄)。
上記工程(1)における好ましい反応条件は255〜265℃、80〜100psig、2時間であり、この使用温度では、リノール酸成分はオレイン酸成分よりはるかに反応性に富むため、リノール酸含量は急速に消費されること(第3頁左下欄、第4頁左上欄)、また、上記工程(2)の重合温度は、好ましくは第1工程と同じであることが記載されている(第4頁左下欄)。
【0007】
【特許文献1】特開平8−113549号公報
【特許文献2】特開昭61−221150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、リノール酸を多く含むことから、ヨウ素価の高い植物由来脂肪酸類を出発原料としてダイマー酸を製造しようとすると、従来の標準的な製法では、反応生成物の選択性が無いため、概ね環状ダイマーを多く含むダイマー酸しか得られず、高粘度で色調安定性に劣るとともに、新しい用途への展開も困難となる。
また、上記特許文献1の実施例2〜3に示される2段階重合法を適用しようとしても、この方法はオレイン酸を多く含む動物由来の混合脂肪酸、例えば、牛脂などのようなヨウ素価の低い脂肪酸類を出発原料に用いることを前提にするため、前述の一般的な傾向に示すように、環状ダイマーが少ないダイマー酸生成物を得ることは比較的容易であるが、出発原料をトール油脂肪酸、大豆油脂肪酸のようなヨウ素価の高い植物由来脂肪酸類に変更した場合には、同様の結果は期待できず、むしろ、上記傾向からすれば、環状ダイマー酸が多く生成し、本発明が目的とする粘度の低いダイマー酸を得ることは容易でないと推定される。
また、特許文献2では、第1の重合工程と、分離した未重合のモノマー酸留分をさらに重合する第2工程とを同じ反応条件で行っているため、やはりダイマー酸生成物の粘度は高いままであるという問題がある。
【0009】
本発明は、非環状ダイマー酸の生成し易い牛脂などのヨウ素価の比較的低い脂肪酸混合物を出発原料とする二量化反応とは異なり、リノール酸を比較的多く含み、ヨウ素価が高い植物由来脂肪酸類を出発原料とした二量化反応を前提とし、このような特定の脂肪酸類を用いても低粘度の非環状ダイマー酸を選択的に製造することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、リノール酸などのポリ不飽和脂肪酸と、オレイン酸、エライジン酸などのモノ不飽和脂肪酸を比較した場合、ポリ不飽和脂肪酸の方が二量化反応速度が大きいことに着目し、鋭意検討を重ねた結果、リノール酸及びオレイン酸などのモノ及びポリ不飽和脂肪酸が混在し、ヨウ素価が高い植物由来脂肪酸類を出発原料とする場合、上記反応性の差を逆に利用することで、反応条件に差異性を持たせて段階的な二量化反応を施すことを着想した。
即ち、反応条件の制御により、最初の工程でモノ不飽和脂肪酸を二量化に関与させないで、反応性の高いポリ不飽和脂肪酸を優先的に二量化させ、次工程でこの粗反応生成物から分離した未重合のモノマー酸を二量化するように操作すると、環状ダイマー酸を生成させることなく、リノール酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸と、オレイン酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸を選択的に作り分けできることを見出して、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明1は、ヨウ素価120〜145の植物由来脂肪酸類を段階的に二量化する方法であって、
当該植物由来脂肪酸類を粘土触媒とリチウム塩と水の存在下で、反応温度200〜245℃、反応時間1時間以内で二量化させた後、蒸留によりオレイン酸等のオクタデセン酸を主成分とするモノマー酸を分離する第1工程と、
上記第1工程で得られたモノマー酸を粘土触媒とリチウム塩と水の存在下で、反応温度230〜245℃で二量化させる第2工程とからなり、
上記第1〜2工程により、リノール酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸と、オレイン酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸を選択的に作り分けることを特徴とするダイマー酸の製造方法である。
【0012】
本発明2は、上記本発明1において、植物由来脂肪酸類が、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、綿実油脂肪酸及び米糠油脂肪酸の少なくとも一種であることを特徴とするダイマー酸の製造方法である。
【0013】
本発明3は、上記本発明1又は2において、第1工程及び/又は第2工程において、第1工程では植物由来脂肪酸類に対して、また、第2工程ではモノマー酸に対して、粘土触媒3〜10重量%、リチウム塩0.1〜1重量%、水1〜3重量%の存在下で二量化させることを特徴とするダイマー酸の製造方法である。
【0014】
本発明4は、上記本発明1〜3のいずれかにおいて、第1工程及び/又は第2工程で得られたダイマー酸をさらに蒸留してトリマー酸を除去し、ダイマー酸分としてGPC面積%で95%以上に精製することを特徴とするダイマー酸の製造方法である。
【0015】
本発明5は、上記本発明4の第1工程の精製ダイマー酸の粘度が3500〜5000mPa・s/25℃であり、上記本発明4の第2工程の精製ダイマー酸の粘度が4000〜5500mPa・s/25℃であることを特徴とするダイマー酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、従来の標準法では環状ダイマー酸が生成し易いトール油脂肪酸、大豆油脂肪酸などのようなヨウ素価が比較的高い植物由来脂肪酸類を出発原料に使用しながらも、差異性を持たせた特定の反応条件で段階的に二量化することで、リノール酸を構成成分とする非環状ダイマー酸とオレイン酸を構成成分とする非環状ダイマー酸を効率良く作り分けることができる。得られたダイマー酸生成物が非環状ダイマー酸を主成分とするため、低粘度、粘度安定性及び色調安定性に優れる。
尚、冒述の特許文献1の実施例2〜3には、反応条件を異ならせた2段階の重合法により、芳香環状ダイマー酸などの少ないダイマー酸生成物を製造することが記載されているが(段落34〜39)、この方法はオレイン酸を多く含む動物由来の混合脂肪酸、例えば、牛脂などのようなヨウ素価の低い脂肪酸類を出発原料として前提しているため、冒述の参考論文にも記載したように、環状ダイマーが比較的少ないダイマー酸生成物を得ることはそれほど困難ではない。従って、従来の標準法では環状ダイマー酸が多く生成するために適用が難しいヨウ素価の高い植物由来脂肪酸類を用いる本発明と、オレイン酸を多く含む動物由来の混合脂肪酸を用いる上記特許文献1の方法とは、前提となる出発原料が根本的に異なり、両者を共通視することはできない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、ヨウ素価120〜145の植物由来脂肪酸類を出発原料として、これを段階的に二量化する方法であって、当該植物由来脂肪酸類を特定温度域と特定時間内に二量化させてモノマー酸を分離する第1工程と、第1工程より下限を高めた特定の温度域でこのモノマー酸を二量化させる第2工程とからなり、ポリ不飽和脂肪酸(リノール酸)の非環状ダイマー酸と、モノ不飽和脂肪酸(オレイン酸)の非環状ダイマー酸を選択的に作り分けるダイマー酸の製造方法である。
【0018】
本発明の出発原料は、オレイン酸などのモノ不飽和脂肪酸の外に、リノール酸などのポリ不飽和脂肪酸の含有量が多く、ヨウ素価が比較的高い植物由来脂肪酸類に限定される。具体的にはヨウ素価120〜145、好ましくは130〜140の植物由来脂肪酸類である。
この植物由来脂肪酸類としては、上記特定のヨウ素価を有する任意の脂肪酸類を単用又は併用できるが、本発明2に示すように、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、綿実油脂肪酸及び米糠油脂肪酸が好ましく、特に、オレイン酸含有量が比較的多いトール油脂肪酸、米糠油脂肪酸がより好ましい。
一方、ポリ不飽和脂肪酸の含有量が少なく、ヨウ素価が120より低い脂肪酸類は、冒述したように、これらを出発原料とする二量化反応では、本発明のような段階的な二量化を施さなくても、比較的容易に非環状ダイマー酸が生成するため、わざわざ本発明を適用する意味が薄く、従って本発明から排除される。具体的には、牛脂脂肪酸などの動物由来脂肪酸類や、植物由来脂肪酸類の中でも、パーム油脂肪酸などは排除される。
ちなみに、上記パーム油脂肪酸はオレイン酸を多く含むが、その反面、二量化反応に関与しない飽和脂肪酸であるパルミチン酸をほぼ50%含むことから、仮に本発明を適用したとしても、オレイン酸系の非環状ダイマー酸の収率は著しく低くなり、経済的ではないため、この面からも排除される。
他方、ポリ不飽和脂肪酸の含有量がきわめて多く、ヨウ素価が145を越える脂肪酸類を出発原料として二量化すると、反応性が良過ぎてトリマー酸やテトラマー酸などの重合度の高い脂肪酸が生成し易く、また、脂肪酸の環状化が促進されるため、粘度が過剰に増大し、作業が継続できない恐れもある。従って、植物由来脂肪酸類であっても、ヨウ素価がきわめて高いアマニ油脂肪酸や桐油脂肪酸などは本発明から排除される。
【0019】
前述のように、リノール酸などのポリ不飽和脂肪酸は、オレイン酸などのモノ不飽和脂肪酸より二量化反応速度が大きいことから、本発明の段階的な二量化反応の特徴は、ポリ不飽和脂肪酸とモノ不飽和脂肪酸の反応性の差を利用することにある。
即ち、本発明の第1工程では、原料として用いる植物由来脂肪酸類中に存在するリノール酸、リノレン酸などのポリ不飽和脂肪酸のみを選択的に二量化し、且つ、オレイン酸などのオクタデセン酸(モノ不飽和脂肪酸)が重合にほぼ関与しないように反応させることが必要である。
このため、植物由来脂肪酸類を粘土触媒とリチウム塩と水の存在下で、反応温度200〜245℃、反応時間1時間以内で二量化させ、蒸留により粗反応生成物からオレイン酸等のオクタデセン酸を主成分とするモノマー酸を分離する。
使用する上記粘土触媒はモンモリロナイト、ベントナイト、ヘクトライト、ハロイサイトなどが挙げられ、これらを単用又は併用できる。粘土触媒は植物由来脂肪酸類の重量に対して3〜10重量%、好ましくは4〜7重量%で添加される。粘土触媒の添加量が3重量%より少ないと、二量化触媒としての効果が充分でなく、逆に、10重量%を越えると、廃棄物が増えるだけでそれに見合う効果はない。
【0020】
ダイマー酸の収率向上、及び得られるダイマー酸の色調改善を目的として、粘土触媒の助触媒として上記リチウム塩が使用される。リチウム塩としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウムなどを単用又は併用できる。これらは植物由来脂肪酸類の重量に対して0.1〜1重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%で添加される。リチウム塩の添加量が0.1重量%未満では、ダイマー酸の収率の向上及び色調の向上が期待できない。また、1重量%を越えると、二量化反応の進行を抑制する方向に働くため好ましくない。 リチウム塩は、予め粘土触媒に含浸させて、リチウム変性粘土触媒として添加するか、或は粘土触媒とともに反応容器内に添加しても良い。
【0021】
第1工程の二量化反応においては、水蒸気過剰圧の存在下で二量化することが必要であり、通常、水蒸気圧を生じさせることのできるオートクレーブ中で行うことが好ましい。水の添加量は、植物由来脂肪酸類の重量に対して1〜3重量%、好ましくは1〜2重量%で添加される。
水の作用としては、脂肪酸の脱カルボキシル化を抑制するとともに、粘土触媒層間に存在する金属イオンに水和した水分子が解離することによって生成するプロトンによる固体酸性で、植物由来脂肪酸類中の不飽和脂肪酸を二量化させることなどが考えられる。
【0022】
上述のように、第1工程の二量化反応は200〜245℃の反応温度で、1時間以内で行うことが必要である。好ましい反応温度は230〜240℃の範囲で、反応時間は230℃では1時間、240℃では30分が最適である。
上記反応時間は反応温度に到達した時点から計測される。反応温度までの昇温時間は1〜1.5時間が好ましい。
反応温度が200℃未満では二量化反応の進行が著しく遅くなる。245℃を越えると、二量化反応の選択性が無くなり、環状ダイマー酸が生成してくること、オレイン酸などのオクタデセン酸も二量化反応に関与してくること、さらには、分岐脂肪酸、飽和脂肪酸等の副反応生成物が蓄積し、第2工程の二量化反応に使用できないことなどから、好ましくない。
【0023】
第1工程の二量化反応終了後、触媒由来の金属を除去するために、100〜150℃の範囲で、リン酸水溶液を加えて処理する。リン酸添加量は触媒由来の金属量によって決定される。粘土触媒及びリン酸処理によって生成したリン酸塩は加圧ろ過、減圧ろ過等により除去される。
上記ろ過処理した後、二量化反応生成物から回転薄膜式蒸留によってダイマー酸とモノマー酸に分離する。
本発明の第1工程で得られたダイマー酸は、下記の一般式(イ)で表されるリノール酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸が主成分である。
【化4】


【0024】
本発明の第2工程での二量化反応は第1工程で分離されたモノマー酸を原料として行い、第1工程で使用した同じ触媒の存在下で行う。但し、添加量については、上記モノマー酸に対して粘度触媒3〜10重量%、リチウム塩0.1〜1重量%、水1〜3重量%である。
この二量化反応は、加熱加圧下、好ましくは1〜10MPaの水蒸気過剰圧下で、230〜245℃の温度範囲で行う。
反応時間は、触媒量と反応温度によって左右されるが、1〜3時間の範囲で行われる。230℃未満では二量化反応の進行が著しく遅くなり、245℃を越えると選択性がなくなり、環状ダイマー酸が生成してしまい、収率低下を引き起こすため、好ましくない。
【0025】
第2工程の二量化反応終了後、触媒由来の金属を除去するために、上記第1工程と同様に、リン酸水溶液を加えて処理して、その後加圧下でろ過し、触媒及びリン酸塩を除去する。
上記ろ過処理した後、二量化反応生成物から回転薄膜式蒸留によってダイマー酸とモノマー酸に分離する。
本発明の第2工程で得られたダイマー酸は、下記の一般式(ロ)で表されるオレイン酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸が主成分である。
【化5】


また、上記蒸留処理で分離されたモノマー酸は、不飽和結合を有する脂肪酸類はほとんど含まれず、飽和脂肪酸や飽和の分岐脂肪酸などから構成されていて、不飽和結合を有する物質が少ないことから、その特長を活かした用途が期待できる。
【0026】
一方、第1〜2の各工程で得られたダイマー酸は、実際には、20〜30重量%のトリマー酸を含む混合物である。従って、通常、トリマー酸含有のままで各種用途に用いられるが、用途によってはトリマー酸を除去する方が好ましい場合がある。
トリマー酸を除去するには、真空度0.001〜0.005Torr、蒸留温度220〜240℃の条件で回転薄膜式蒸留装置によって、ダイマー酸分をGPC面積%で95%以上に濃縮・精製する。
本発明5に示すように、第1工程で得られる精製ダイマー酸の粘度は一般に3500〜5000mPa・s/25℃、好ましくは3900〜4400mPa・s/25℃であり、同じく、第2工程で得られる精製ダイマー酸の粘度は一般に4000〜5500mPa・s/25℃、好ましくは4500〜5000mPa・s/25℃である。
【0027】
このようにして得られた精製ダイマー酸は、さらに水素添加しても良い。本発明で得られたダイマー酸は従来の標準法で得られたものに比べ、立体障害が小さい構造を有するため、水素添加が容易であるという特徴がある。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の段階的な二量化によるダイマー酸の製造実施例、製造実施例の第1工程と第2工程で得られた各ダイマー酸の精製例、この精製ダイマー酸をさらに水素添加した例、未水添及び水添ダイマー酸のNMRによる解析例を順次説明する。
尚、本発明は、下記の実施例、精製例、水添例などに拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0029】
実施例1〜4は出発原料の植物由来脂肪酸類を変化させた例であり、実施例4の綿実油を使用した例では、実施例1〜3に比べて第1工程の反応温度を若干緩和している。実施例5は実施例1と同様にトール油脂肪酸を使用し、実施例1に比べて第2工程の反応温度を若干下げた例である。
また、比較例1〜5のうち、比較例1は冒述の特許文献2に準拠したもので、トール油脂肪酸を使用し、第1工程と第2工程の反応温度を本発明の温度域より高い250℃とし、第1工程の反応時間を2時間とした例である。比較例2は従来の標準法に基づいて、トール油脂肪酸を1段で二量化した例である。比較例3はヨウ素価が145を越える植物由来脂肪酸類であるアマニ油脂肪酸を使用して、本発明の反応条件に基づいて二量化した例である。比較例4は本発明の第1工程の反応条件を満たし、第2工程の反応温度が245℃を越える例であり、比較例5は本発明の第2工程の反応条件を満たし、第1工程の反応温度が245℃を越える例である。
また、参考例はヨウ素価が120より低い牛脂脂肪酸を出発原料として1段で二量化した例である。
【0030】
《ダイマー酸の製造実施例》
(1)実施例1
(a)第1工程
トール油脂肪酸(ハートールFA-1:ハリマ化成(株)製)1000g、ベントナイトクレー50g、炭酸リチウム2g並びに水20gをオートクレーブに投入した。
そして、内部の空気を窒素で充分置換した後、撹拌しながら、昇温時間(室温〜反応温度)1.5時間、反応温度240℃、反応圧力5kg/cm2、反応時間30分の条件で、二量化反応を行った。その後、100℃に冷却し、75%リン酸水溶液5gを加えて、同温度で1時間かけて、脱金属処理を行った。次いで、加圧ろ過により粘土触媒等の固形物を除去し、粗反応生成物を得た。これを回転薄膜式蒸留装置に導入し、真空度0.1Torr、蒸留温度200℃の条件でモノマー酸を分離した。
得られた重合脂肪酸とモノマー酸の収率、性状並びに組成を図1に示した。
【0031】
(b)第2工程
第1工程で得られたモノマー酸641g、ベントナイトクレー32g、炭酸リチウム1.3g及び水12.8gをオートクレーブに投入した。
そして、内部の空気を窒素で充分置換した後、撹拌しながら、昇温時間(室温〜反応温度)1.5時間、反応温度245℃、反応圧力5kg/cm2、反応時間3時間の条件で二量化反応を行った。その後、150℃に冷却し、75%リン酸水溶液7gを加えて、150℃、1.5kg/cm2、1時間の条件で脱金属処理を行った。次いで、加圧ろ過により粘土触媒等の固形物を除去し、粗反応生成物を得た。これを回転薄膜式蒸留装置に導入し、真空度0.1Torr、蒸留温度200℃の条件でモノマー酸を分離した。
得られた重合脂肪酸とモノマー酸の収率、性状並びに組成を図1に示した。
【0032】
(3)実施例2〜5、比較例1、比較例4〜5
上記実施例1を基本としながら、図1に示した処方、反応条件を用いた以外は、実施例1と同様の方法により重合反応を行った。その結果を図1に示した。
【0033】
(4)比較例2
トール油脂肪酸(ハートールFA-1:ハリマ化成(株)製)1000g、ベントナイトクレー50g、炭酸リチウム1.5g、及び水15gをオートクレーブに投入した。
そして、内部の空気を窒素で充分置換した後、撹拌しながら、昇温時間(室温〜反応温度)1.5時間、反応温度245℃、反応圧力5kg/cm2、反応時間3時間の条件で二量化反応を行った。その後、150℃に冷却し、75%リン酸水溶液10gを加えて、同温度で1時間かけて、脱金属処理を行った。次いで、加圧ろ過により粘土触媒等の固形物を除去し、粗反応生成物を得た。
これを回転薄膜式蒸留装置に導入し、真空度0.1Torr、蒸留温度200℃の条件にてモノマー酸を分離した。
得られたダイマー酸の収量は615g(61.5%)であり、その性状は次の通りであった。
色数(G):7
酸価 :193.0
ヨウ素価:110.2
粘度(mPa・s/25℃):8,500
【0034】
(5)比較例3
アマニ油脂肪酸(ヨウ素価198)1000g、ベントナイトクレー50g、炭酸リチウム1.5g、及び水15gをオートクレーブに投入し、実施例1の第1工程と同様の条件にて処理したが、重合途中で粘度が高くなり過ぎ、作業が継続できなかった。
【0035】
(6)参考例
牛脂オレイン酸(ヨウ素価89.0;オレイン酸71.0%、リノール酸8.2%)1000g、ベントナイトクレー50g、炭酸リチウム1.5g及び水15gをオートクレーブに投入した。
そして、内部の空気を窒素で充分置換した後、撹拌しながら、昇温時間(室温〜反応温度)1.5時間、反応温度245℃、反応圧力5kg/cm2、反応時間3時間の条件で二量化反応を行った。その後、150℃に冷却し、75%リン酸水溶液10gを加えて、同温度で1時間かけて、脱金属処理を行った。次いで、加圧ろ過により粘土触媒等の固形物を除去し、粗反応生成物を得た。これを回転薄膜式蒸留装置に導入し、真空度0.1Torr、蒸留温度200℃の条件にてモノマー酸を分離した。
得られたダイマー酸の収量は505g(50.5%)であり、その性状は次の通りであった。
色数(G):7
酸価 :194.7
ヨウ素価: 70.2
粘度(mPa・s/25℃):4,780
【0036】
図1は実施例1〜5及び比較例1、比較例4〜5の出発原料の種類及びヨウ素価、第1工程と第2工程の各反応条件、各工程で得られたダイマー酸の性状などをまとめたものである。
同図1によると、本発明と同様に段階的な二量化を施しながら、本発明の第1工程又は第2工程の反応条件を満たさない比較例5又は4では、相当する工程から得られたダイマー酸の粘度は非常に高く、また、両工程ともに反応条件を満たさない比較例1では、各工程から得られたダイマー酸の粘度が共に高かったのに対して、実施例1〜5では、各工程から得られたダイマー酸は、共に非常に低粘度で、且つ、色調(色数(G))にも優れていることが確認できた。
さらに、従来の標準法に基づいてトール油脂肪酸を1段で二量化した比較例2では、前述のように、ダイマー酸の粘度は非常に高く、色調も劣っていた。
従って、植物由来脂肪酸類を出発原料とした重合反応では、段階的に二量化を行い、且つ、本発明の第1工程と第2工程に示すように、特定の差異性を設けた反応条件で2段階反応させることが、低粘度で色調に優れたダイマー酸を得る点で重要なことが明らかになった。
【0037】
一方、ヨウ素価が145を越えるアマニ油脂肪酸を用いた比較例3では、第1工程の反応途中で増粘してしまい、作業継続が困難であったことから、特定の差異性を設けた段階的な二量化反応であっても、低粘度のダイマー酸を効率良く得るためには、本発明のように、120〜145の特定範囲のヨウ素価を有する植物由来脂肪酸類を出発原料にする必要があることが確認できた。
ちなみに、ヨウ素価がきわめて低い牛脂脂肪酸(ヨウ素価89.0)を用いて、1段で二量化反応を行った参考例では、前述のように、低粘度のダイマー酸を効率良く製造することができたが、このことは、モノ不飽和脂肪酸の含有量が多い牛脂脂肪酸やパーム油脂肪酸などを重合すると、粘度の低い非環状ダイマー酸が生成し易いという冒述の一般傾向(前記参考論文にも同趣旨が記述されている)を裏づけるものであり、ヨウ素価が120よりかなり低い脂肪酸類を出発原料として、低粘度のダイマー酸を得ようとする場合には、本発明のような特定の反応条件で段階的に二量化する意味が乏しいことを示すものといえる。
【0038】
《ダイマー酸の精製例》
上記実施例1〜3、比較例1〜2、比較例4〜5及び参考例の各工程で得られたダイマー酸(従来製法の比較例2と牛脂脂肪酸を用いた参考例では、モノマー酸を分離したダイマー酸)を回転薄膜式蒸留装置に導入し、真空度0.001Torr、蒸留温度240℃の条件でトリマー酸分を除去し、ダイマー酸をGPC面積%で95%以上に濃縮・精製した。
得られた各精製ダイマー酸の性状を図2にまとめた。
【0039】
同図2によると、比較例1の各工程、或は比較例2から得られたダイマー酸は粘度が高く、環状ダイマー酸であることが推定できるが、実施例1〜3の各工程で得られたダイマー酸は粘度が低いうえ、第1工程のダイマー酸はヨウ素価が120以上と高いことから、リノール酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸であり、第2工程のダイマー酸はヨウ素価がほぼ75程度と低いため、オレイン酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸であることが推定できる。
また、比較例4では、本発明の反応条件から外れる第2工程のダイマー酸の粘度が高く、比較例5では、同様に、第1工程のダイマー酸の粘度が高く、共に、環状ダイマー酸が生成しているものと推定できる。
尚、参考例では、ヨウ素価の低い牛脂脂肪酸を出発原料にしたため、得られたダイマー酸は粘度及びヨウ素価が低く、オレイン酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸であることが推定される。
【0040】
《精製ダイマー酸の水素添加例》
上記実施例1〜3、比較例1〜2、比較例4〜5及び参考例の各精製ダイマー酸1000g、5%パラジウム−カーボン12gをオートクレーブに仕込み、水素圧100kg/cm2、反応温度190℃、反応時間2時間の条件で撹拌しながら、水素添加した。その後、加圧ろ過によって触媒を除去し、水添ダイマー酸を得た。
得られた水添ダイマー酸の性状を図3にまとめた。
【0041】
同図3のヨウ素価に着目すると、比較例1の各工程、或は比較例2の水添ダイマー酸は不飽和結合がなお多く残存し、本発明の反応条件から外れた比較例4の第2工程、或は比較例5の第1工程の水添ダイマー酸も同様であるが、実施例1〜3の各工程の水添ダイマー酸は不飽和結合がほとんどないことから、実施例1〜3から得られた精製ダイマー酸は非常に水添し易く、円滑に用途展開できることが確認できた。
【0042】
《ダイマー酸のNMRによる構造解析例》
上記精製ダイマー酸及び水添ダイマー酸を常法によりジメチルエステル体に変換し、1H−NMRスペクトル分析及び13C-NMRスペクトル分析を行い、水添前・後のスペクトル変化からダイマー酸の構造解析を行った。
【0043】
(1)1H−NMRスペクトルによる解析
上記実施例1〜3、比較例1の各工程、比較例2及び参考例から得られた未水添(精製)と水添ダイマー酸のジメチルエステルの1H-NMRスペクトルの積分強度に基づき、下式に示すプロトン比a:b:cを求め、その結果を図4にまとめた。
[CH3−(CH2)1424-X−COOCH32
↓ ↓ ↓
a b c
a:脂肪酸末端メチルプロトン(0.85ppm)
b:脂肪族プロトン(1〜2.4ppm)
c:エステルのメチルプロトン(3.65ppm)
尚、図5は実施例及び比較例の中から実施例1と比較例2を代表例として抽出し、実施例1の第1工程、第2工程及び比較例2で得られた各ダイマー酸ジメチルエステル水添物の1H−NMRスペクトルを示したものである。
【0044】
一方、非環状ダイマー酸、単環状ダイマー酸、或は二環状ダイマー酸のジメチルエステル水添物の各プロトン比a:b:cは、以下の関係にある。
(1)非環状ダイマー酸
3468(COOCH3)2=[CH3−C1631−(COOCH3)]2
上式から、a:b:c=3×2:31×2:3×2=6:62:6
(2)単環状ダイマー酸
3466(COOCH3)2=[CH3−C1630−(COOCH3)]2
上式から、a:b:c=3×2:30×2:3×2=6:60:6
(3)二環状ダイマー酸
3464(COOCH3)2=[CH3−C1629−(COOCH3)]2
上式から、a:b:c=3×2:29×2:3×2=6:58:6
そこで、上記図4に示す各ダイマー酸のジメチルエステル水添物を上式の非環状ダイマー酸、単環状又は二環状ダイマー酸と対比すると、実施例1〜3の各ダイマー酸のジメチルエステル水添物の脂肪族プロトン比率は62、或は63であり、炭素−炭素結合が直鎖結合している非環状ダイマー酸を示すことが確認できた。これに対して、比較例1の各工程及び比較例2で得られたダイマー酸ジメチルエステル水添物の脂肪族プロトン比率は60であることから、脂環式構造を有する単環状ダイマー酸であることが確認できた。
以上のことから、ヨウ素価120〜145の植物由来脂肪酸類を出発原料として、本発明の反応条件で段階的な二量化を行うと、非環状ダイマー酸が効率良く製造できることが明らかになった。
尚、参考例で得られたダイマー酸ジメチルエステル水添物の脂肪族プロトン比率は62であることから、非環状ダイマー酸が生成しているものと思われる。
【0045】
(2)13C-NMRスペクトルによる解析
図7は実施例及び比較例の中から実施例1と比較例2を代表例として抽出し、実施例1の第1工程、第2工程及び比較例2で得られた各ダイマー酸ジメチルエステル水添物の13C-NMRスペクトルである。同スペクトルでは、約14ppmに観測されるピークは脂肪酸末端のメチル基に、また、約20ppmに観測されるピークは隣接する炭素に枝分かれのあるメチル基に夫々帰属される。
また、図6は上記実施例1〜3、比較例1の各工程、比較例2及び参考例から得られた各ダイマー酸ジメチルエステルの脂肪酸末端メチル基と側鎖メチル基のピーク強度比をまとめたものである。
【0046】
一般に、メカニズムは不明な部分も多いが、オレイン酸などのモノ不飽和脂肪酸を二量化すると側鎖メチル基が生成し、リノール酸などのポリ不飽和脂肪酸を二量化しても側鎖メチル基は生成しない傾向が強い。従って、同図6によると、実施例1〜3の第1工程で得られた非環状ダイマー酸は側鎖メチル基がほとんどなく、逆に、第2工程で得られた非環状ダイマー酸は側鎖メチル基の強度が大きく、分子内にメチル分岐構造を有することが明らかなことから、実施例1〜3では、第1工程のダイマー酸はリノール酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸であり、同じく第2工程はオレイン酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸であることが確認できた。
これに対して、比較例1の第1工程では、実施例1〜3に比べて末端/側鎖の強度比が小さいため、実施例1〜3よりオレイン酸ダイマーが多いことが推定される。比較例2も、同様に、実施例1〜3の第1工程に比べて側鎖メチル基の強度が大きいことから、オレイン酸ダイマーが多いことが推定される。
尚、上記参考例で得られるダイマー酸は、実施例1〜3の第2工程と同様に、側鎖メチル基の強度が大きいことから、オレイン酸を構成脂肪酸とする非環状ダイマー酸と思われる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のダイマー酸は非環状ダイマー酸を主成分とし、立体障害が少ないため、容易に水素添加でき、ダイマー酸の一般用途であったポリアミド樹脂以外に、これまであまり利用されなかった化粧品、繊維油剤、高性能潤滑剤などの新用途への展開が期待される。
また、本発明で得られる非環状ダイマー酸をさらに水素化、還元、エポキシ化、エステル化、アクリル化、アミド化、アミノ化、アルコキシル化、けん化するなど、各種反応を行うと、その対応する誘導体は化粧品用油剤、金属油剤、界面活性剤、可塑剤、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、反応性モノマー・オリゴマー、活性エネルギー線硬化性樹脂、及び石油製品添加剤等、広範な分野への応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1〜5及び比較例1、比較例4〜5の出発原料の種類及びヨウ素価、第1工程と第2工程の各反応条件、各工程で得られたダイマー酸の性状などをまとめた図表である。
【図2】実施例1〜3、比較例1〜2、比較例4〜5及び参考例の精製ダイマー酸の性状などをまとめた図表である。
【図3】実施例1〜3、比較例1〜2、比較例4〜5及び参考例の精製ダイマー酸水添物のヨウ素価、粘度などをまとめた図表である。
【図4】上記実施例1〜3、比較例1の各工程、比較例2及び参考例から得られた未水添(精製)と水添ダイマー酸のジメチルエステルの1H-NMRスペクトルの積分強度に基づくプロトン比a:b:cをまとめた図表である。
【図5】実施例1の第1工程、第2工程及び比較例2で得られた各ダイマー酸ジメチルエステル水添物の1H−NMRスペクトルである。
【図6】実施例1〜3、比較例1の各工程、比較例2及び参考例から得られた各ダイマー酸ジメチルエステル水添物の脂肪酸末端メチル基と側鎖メチル基のピーク強度比をまとめた図表である。
【図7】実施例1の第1工程、第2工程及び比較例2で得られた各ダイマー酸ジメチルエステル水添物の13C-NMRスペクトルである。
【出願人】 【識別番号】000233860
【氏名又は名称】ハリマ化成株式会社
【住所又は居所】兵庫県加古川市野口町水足671番地の4
【出願日】 平成15年8月1日(2003.8.1)
【代理人】 【識別番号】100092439
【弁理士】
【氏名又は名称】豊永 博隆

【公開番号】 特開2005−2085(P2005−2085A)
【公開日】 平成17年1月6日(2005.1.6)
【出願番号】 特願2003−284817(P2003−284817)