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【発明の名称】 インバーの溶接方法
【発明者】 【氏名】江沼 数志
【住所又は居所】東京都港区海岸一丁目5番20号 東京瓦斯株式会社内

【氏名】荒井 伸悟
【住所又は居所】東京都港区海岸一丁目5番20号 東京瓦斯株式会社内

【氏名】瀬尾 伸隆
【住所又は居所】神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央二丁目12番1号 千代田化工建設株式会社内

【氏名】坂田 健太郎
【住所又は居所】神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央二丁目12番1号 千代田化工建設株式会社内

【氏名】荒川 武和
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号 JFEスチール株式会社内

【氏名】村上 善明
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号 JFEスチール株式会社内

【要約】 【課題】溶接部における再熱割れを防止しつつ、十分な低温靱性を確保することができるようなインバーの溶接方法を提供する。

【解決手段】インバーからなる部材同士を、TIG溶接法によって少なくとも3層以上の多層盛り溶接を行なって接合するインバーの溶接方法において、初層または初層および第2層を、前記インバーからなる部材よりCおよびNbを多く含む第1の共金系溶接材料を用いて溶接を行い、残層を、インバーからなる部材よりCおよびTaを多く含む第2の共金系溶接材料を用いて溶接を行なう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバーからなる部材同士を、TIG溶接法によって少なくとも3層以上の多層盛り溶接を行なって接合するインバーの溶接方法において、
初層または初層および第2層を、前記インバーからなる部材よりCおよびNbを多く含む第1の共金系溶接材料を用いて溶接を行い、
残層を、前記インバーからなる部材よりCおよびTaを多く含む第2の共金系溶接材料を用いて溶接を行なうことを特徴とするインバーの溶接方法。
【請求項2】
前記インバーからなる部材は、低温流体用の容器または配管であることを特徴とする請求項1に記載のインバーの溶接方法。
【発明の詳細な説明】【技術分野】
【0001】
本発明は、低膨張率合金であるインバーの溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、液化天然ガス(以下、LNGと略す。)の受入れ基地において、LNGを受入れるためのローディングアームや、LNGを一旦貯留しておく貯槽、さらには貯槽からLNGポンプによって送り出されたLNGを気化させて都市ガス用、火力発電設備の燃料用あるいは工業用として送出するための気化器といった各種の設備が配置されており、これら諸設備はLNGの移送配管によって互いに接続されている。このような移送配管は、常温から約−160℃という極低温の間の温度変化を受けるため、配管途中の50〜60mおきにエキスパンションループという曲管部を設けることにより、上記温度差に起因する配管の熱伸縮を吸収するようにしている。
【0003】
この結果、施工時における必要資材や工事量が多くなって工期の長期化と建設費の高騰、さらには保守管理における煩雑さを招くという問題点があった。また、多数の曲管部によって圧力損失が大きくなるために、これを考慮して全体の管径も必要以上に大きく設定しなければならず、かかる観点からも経済性に劣るという問題点があった。そこで、近年、これらの配管材料として、従来のオーステナイト系ステンレス鋼に替えて、低膨張率合金であるインバー(Fe−36%Ni)が採用されている。インバーは、線膨張係数が鉄やニッケルの約1/10と小さく(室温付近で約1.2×10−6/K)、これを採用することにより、上記の曲管部の配置数を概ね1/10に減らすことができる。
【0004】
しかしながら、インバーの溶接については、いくつかの問題が有る。通常、合金を溶接する場合には、母材と近似する組成の素材(共金系溶接材料)を用いて溶接し、溶接部の残留応力を低減させるとともに、溶接部における母材と同等の性能の確保を図っている。しかしながら、インバー自体が再熱割れ(高温割れ)感受性が高い素材であり、これを溶接材料として用いて多層盛り溶接を行なうと、溶接層中に後続の溶接層からの熱影響によるとされる微細な割れ(再熱割れ)が発生する。このような再熱割れは、初層や2層目に発生しやすく、これらの溶接部の性能を劣化させる。このような再熱割れに対しては、溶接材料にCとNbとを複合添加して、溶接部の組織を微細化することが有効とされているが、上記のようなLNGの移送配管に用いる場合には、これらの添加によって溶接部の低温靱性が劣化するという問題が有った。
【0005】
そこで、特許文献1においては、初層および第2層をCが多くNbが添加された溶接材料をもって溶接し、残層には、Cが少なくNbが添加されていない溶接材料で溶接することで、初層および第2層の再熱割れの低減と、残層の低温靱性の確保とを図る技術が記載されている。また、特許文献2には、CおよびTaを含有させた溶接材料が、溶接に際して耐再熱割れ性に優れ、かつ十分なビード形成が可能で低温靭性も確保できることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−239734号公報
【特許文献2】特開2003−19593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の溶接方法では、残層の溶接材料として、Nbを添加していない溶接材料を用いているので、この部分の耐再熱割れ性が不充分となるという問題が残ってしまう。また、特許文献2の溶接材料では、特に初層における耐再熱割れ性がNb添加の溶接材料より劣るという問題があった。
【0008】
この発明は、上記背景技術に鑑み、溶接部における再熱割れを防止しつつ、十分な低温靱性を確保することができるようなインバーの溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、上記CとNbを含有する溶接材料とCとTaを含有する溶接材料を効果的に組み合わせることで、溶接部全体の耐再熱割れ性と低温靭性が大きく改善することを見出し、本発明をするに至った。すなわち、請求項1に記載のインバーの溶接方法は、インバーからなる部材同士を、TIG溶接法によって少なくとも3層以上の多層盛り溶接を行なって接合するインバーの溶接方法において、初層または初層および第2層を、前記インバーからなる部材よりCおよびNbを多く含む第1の共金系溶接材料を用いて溶接を行い、残層を、前記インバーからなる部材よりCおよびTaを多く含む第2の共金系溶接材料を用いて溶接を行なうことを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明においては、初層または初層と第2層をCとNbをインバーより多く含む溶接材料を用いて形成しているので、耐再熱割れ性に非常に優れており、それに続く多層盛り溶接の際に大きな熱影響を受けても再熱割れを起こしにくい。また、残層は、インバーよりCおよびTaを多く含む第2の共金系溶接材料を用いているので、耐再熱割れ性と低温靱性に優れており、再熱割れを起こしにくく、かつ溶接部全体としての低温靱性を高いレベルに維持している。
【0011】
低温靱性を考慮すれば、初期溶接部の割合は小さい方が好ましい。しかしながら、初期溶接部と母材の境界領域においては、溶接時に母材の一部が溶融して溶接金属を希釈するため、溶接部に含まれるCおよびNbの量が低下する可能性が有り、そのような希釈部の耐再熱割れ性は小さくなる。したがって、各溶接層において、このようなCおよびNb成分の希釈と、後続する多層盛り溶接による熱影響の大きさを考慮しつつ、第1の共金系溶接材料を用いて溶接を行なう範囲を決定する。特に、初層は、希釈による耐再熱割れ性の低下に加えて、溶接部の体積が小さい状態で後続する溶接による熱影響を受けるので、最も条件が厳しくなる。また、板厚によっては、より安全側で施工するケースが考えられるので、第2層目までの施工が必要となる場合がある。したがって、通常は、初層および第2層について第1の共金系溶接材料を用いればよい。
【0012】
請求項2に記載のインバーの溶接方法は、請求項1に記載の発明において、前記インバーからなる部材は、低温流体用の容器または配管であることを特徴とする。
【0013】
請求項2に記載の発明においては、低温流体用の容器または配管の素材のインバーは常温から極低温までの温度差にさらされるが、インバーが低線膨張係数を有する材料であるので、熱伸縮は小さい。したがって、エキスパンションループという曲管部を設ける頻度が小さくてよい。
【0014】
インバーからなる部材の組成は、インバーの標準組成として、Niが約36質量%、Mn:0.1〜1質量%、残部がFeであるものを用いるが、用途がLNG配管のような低温靱性が必要な場合では、Cを例えば、0.04質量%以下に低下させ、またS等の不純物はできるだけ低減させる。同様にNbも不純物として低減させる。
【0015】
第1の共金系溶接材料としては、インバーをベースとし、Cを0.1〜0.3質量%、Nbを0.8〜1.5質量%、それぞれ含有することが好ましい。それぞれの含有量が規定値未満の場合には、Nb炭化物の量が不足し、溶接部の組織を微細化させる効果が十分でなく、耐再熱割れ性を向上させる効果が期待できない。また、ぞれぞれの含有量を超えた場合には、逆にNb炭化物の量が過大となり、溶接金属部の低温靭性が低下してしまう。
【0016】
また、第2の共金系溶接材料としては、インバーをベースとし、Cを0.08〜0.3質量%、Taを0.1〜1.5質量%、それぞれ含有することが好ましい。
Cの含有量が0.08質量%未満では、Taの炭化物を形成して溶接金属の割れを防止し、また強度を確保する効果が充分でなく、Cの含有量が0.3質量%を超えると、ワイヤ製造時の熱間鍛造・圧延性が劣化して、実用的な溶加材が得られない。
【0017】
TaはCと結合して溶接金属の結晶粒を微細化する作用を有し、かつ高温割れを防止する作用がある。Ta含有量が0.2質量%未満では、高温割れ防止に効果がなく、1.2質量%を超えると、ワイヤ製造時の熱間鍛造性及び圧延性を劣化させる。このため、Taを0.2〜1.2質量%含有する。なお、Taの最適範囲は0.4〜0.8質量%である。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、耐再熱割れ性に非常に優れたNb系の共金系溶接材料を用いて初層または初層および第2層の溶接を行い、さらに、耐再熱割れ性と低温靱性に優れたTa系の第2の共金系溶接材料を用いて残層の溶接を行っているので、全体として耐再熱割れ性が良好でかつ低温靱性に優れる溶接部を形成することができる。したがって、インバーの溶接に際し、溶接部における再熱割れを防止しつつ、十分な低温靱性を確保することができ、例えば、LNG受入れ基地における各種設備の製造にインバーの利用を図ることができる。
【実施例】
【0019】
図1(a)ないし図1(c)は、この発明のインバーの溶接方法を示す図である。図1(a)は、初期状態(開先を形成した状態)を示す平面図、図1(b)は、初層ビードの溶接が終わった状態の溶接部の断面図、図1(c)は溶接が終わった状態を示す溶接部の断面図である。
【0020】
図1(a)に示すように、板厚10mmの一対の母材1,1の突き合わせ端面に開先角度70度のV開先2を形成するように配置し、拘束板3で拘束した。母材1,1の素材は、組成を表1に示すように、Ni含有量が約36質量%のインバーである。
【0021】
【表1】


【0022】
次に、図1(b)に示すように、初層ビード4を、TIG溶接により、インバーの母材よりCおよびNbを多く含む第1の共金系溶接材料を用いて形成した。第1の共金系溶接材料の組成と、TIG溶接の条件を、それぞれ表2および表3に示す。この実施例では、第1の共金系溶接材料により初層のみを形成したが、必要な場合には、さらに、同じ第1の共金系溶接材料によりTIG溶接を行いて第2層を溶接する。この場合、溶接層は、同じレベルである限りは複数の溶接パスによるビードを1つの層として計算する。
【0023】
【表2】


【0024】
【表3】


【0025】
次に、母材よりCおよびTaを多く含む第2の共金系溶接材料を用いて第2層5-1、第3層5-2、第4層(最終層)5-3を溶接した。第2の共金系溶接材料の組成と、TIG溶接の条件を、それぞれ表4および表5に示す。
【0026】
【表4】


【0027】
【表5】


【0028】
次に、上述した多層盛りの初期溶接部および主溶接部を形成したインバーについて以下の試験を行った。
(1)型曲げ試験
JIS規格Z3122に従い、溶接ビードに直交する面内において試験片を規定の曲げ半径に従って型曲げ試験を行った。曲げは、表面側(開先が広がる側)から裏面側(開先が狭まる側)に曲げる試験と、裏面側から表面側に曲げる2つの試験を行った。いずれの場合も欠陥は認められなかった。
【0029】
(2)シャルピー衝撃試験
溶接継手部より、シャルピー衝撃試験片用試験片を、多層盛りの各層を含むように採取し、Vノッチを形成し、−196℃にてシャルピー衝撃試験を行った。比較例として、表2に示すC,Nbを含有させた第1の共金系溶接材料と、表4に示すTaを含有させた第2の共金系溶接材料とをそれぞれ全層の溶接材料として用いた場合について同様の試験を行った。試験結果を表6に示す。
【0030】
【表6】


【0031】
これによれば、Ta含有材を単独で用いる場合が最も低温靱性が良好であり、Nb含有材はその約半分程度である。本発明の溶接方法による溶接継手では、両者のほぼ中間の値であり、ガス事業法の基準である22.5(J/cm2)を充分満足している値が得られた。
【0032】
(2)クロスビード試験
溶接材料の耐再熱割れ性を比較するために、図2に示すような、厚さが1mmまたは1.5mmの長方形平板状の試験片6を用いてクロスビード試験を行った。先ず、試験片6上に幅方向に第1の溶接ビード7を形成し、次に、試験片6の長手方向に引張力をかけた状態で、長手方向に溶接を行い、第1のビード7と交差する第2のビード8を形成する。そして、第1のビード7について、第2のビード8との交差部近傍の割れを検査する。これは、それぞれの溶接材料を対象とした試験であり、表1に示す母材相当の溶接材料、表2に示すNbを含有させた第1の共金系溶接材料、表4に示すTaを含有させた第2の共金系溶接材料の3つを第1のビード7の形成に供し、第2ビード8は溶加材を加えずに施工を行った。第2ビード8の試験条件を表7に、試験結果を図3に示す。
【0033】
【表7】


【0034】
この結果によれば、母材相当の溶接材料においては低い拘束応力(150N/mm程度)で割れが発生しているのに対し、第2の共金系溶接材料においては170N/mmでは割れていないが、200N/mmを超えると割れが見られた。一方、第1の共金系溶接材料においては、拘束応力が220N/mmでも割れが見られなかった。これにより、再熱割れを起こしやすい初層または初層および第2層に、Ta材ではなくNb材を用いることが妥当であることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施例の溶接方法を示す図である。
【図2】この発明の実施例の溶接継手の試験方法を説明する図である。
【図3】この発明の実施例の溶接継手の試験結果を示すグラフである。
【出願人】 【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
【住所又は居所】東京都港区海岸1丁目5番20号
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
【住所又は居所】神奈川県横浜市鶴見区鶴見中央2丁目12番1号
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
【住所又は居所】東京都千代田区内幸町二丁目2番3号
【出願日】 平成15年9月12日(2003.9.12)
【代理人】 【識別番号】100104547
【弁理士】
【氏名又は名称】栗林 三男

【公開番号】 特開2005−88024(P2005−88024A)
【公開日】 平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願番号】 特願2003−321838(P2003−321838)